(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170209
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】木材積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27M 3/00 20060101AFI20231124BHJP
B32B 21/14 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
B27M3/00 C
B32B21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081775
(22)【出願日】2022-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸司
(72)【発明者】
【氏名】畠山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
(72)【発明者】
【氏名】小川 照彦
【テーマコード(参考)】
2B250
4F100
【Fターム(参考)】
2B250AA01
2B250AA13
2B250AA15
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2B250HA01
4F100AJ04A
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4F100JK08A
(57)【要約】
【課題】
三次元成形加工を行ったときに加工性に優れ、かつ使用時に破断が生じにくく安全性および意匠性に優れた木材積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
木製単板(A)層、および粘接着剤(B)層を有する木材積層体であって、木製単板(A)の繊維方向の破断伸びが1.5~5.0%である、ことを特徴とする木材積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製単板(A)層、および粘接着剤(B)層を有する木材積層体であって、木製単板(A)の繊維方向の破断伸びが1.5~5.0%である、ことを特徴とする木材積層体。
【請求項2】
木製単板(A)層の厚みが0.3~3.0mmである、請求項1記載の木材積層体。
【請求項3】
木製単板(A)が厚み方向に0.2mm以上のスリットを有さない木製単板(A)である、請求項1または2記載の木材積層体。
【請求項4】
木製単板(A)がセルロース系繊維状構造体である、請求項1または2記載の木材積層体。
【請求項5】
三次元成形用である、請求項1または2記載の木材積層体。
【請求項6】
請求項1または2記載の木材積層体の製造方法であって、木製単板(A)層および粘接着剤(B)層に圧力をかけて貼り合わせる工程を含む、木材積層体の製造方法。
【請求項7】
粘接着剤(B)層がシート状の粘接着剤(B)層であることを特徴とする、請求項6に記載の木材積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2記載の木材積層体から得られた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材積層体およびその製造方法に関する。特に、三次元成形加工を行ったときに加工性に優れ、かつ使用時に破断が生じにくく安全性および意匠性に優れた木材積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、木目などの木材特有の外観を備えており、例えば「温かい」、「やわらかい」、「高級感」などの印象を与える意匠性に優れた材料である。その中でも、木材の単板を積層してなる合板は、小物、家具、建築材料など小型から大型の木質部材として幅広く用いられている。
【0003】
合板の用途の一つに、三次元成形用合板がある。これは、熱と圧力で合板を曲げながら成形することで曲面を有する合板を製造するものであり、特に高意匠性が要求される、テーブルや椅子などの家具向けに広く用いられている。
一方木材は、鉄などの金属材料と比較して、曲げ降伏後は容易に破断し、柔軟に変形させることが困難な材料でもある。そのため、合板の成形加工中の割れによって歩留まりが低下したり、また合板の使用中に、例えば体重などの荷重をかけることによる合板の変形を主因として割れや亀裂が生じ、安全性や意匠性が低下したりするなどの課題があった。
【0004】
これまでに、合板などへの負荷に対する変形性を向上させることで上記課題の解決を図る試みがなされてきている。例えば、特許文献1では、単板と柔軟性の高い粘着剤を組み合わせることで、合板の変形性を向上させる試みがなされており、特許文献2では、木材にパターン化された特定の切り込みを形成することで、木材に変形性を付与する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-36359号公報
【特許文献2】特開2011-93249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが種々検討したところ、特許文献1の手法では合板の変形性は向上するものの、特定の荷重を与えた後の破断については解決しておらず、三次元成形加工性および使用時の安全性や意匠性の観点では不十分であることがわかった。
また、特許文献2の手法では、木材に視認できる切れ込みが形成されるため意匠性の観点で問題があるほか、単板の厚みが薄くできない、特定の荷重を与えた後の破断については原理上解決されないなど、種々の問題がある。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、三次元成形加工を行ったときに加工性に優れ、かつ使用時に破断が生じにくく安全性および意匠性に優れた木材積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、意外にも、特定の木製単板層を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
木製単板(A)層、および粘接着剤(B)層を有する木材積層体であって、木製単板(A)の繊維方向の破断伸びが1.5~5.0%である、ことを特徴とする木材積層体。
[2]
木製単板(A)層の厚みが0.3~3.0mmである、[1]記載の木材積層体。
[3]
木製単板(A)が厚み方向に0.2mm以上のスリットを有さない木製単板(A)である、[1]または[2]記載の木材積層体。
[4]
木製単板(A)がセルロース系繊維状構造体である、[1]~[3]のいずれかに記載の木材積層体。
[5]
三次元成形用である、[1]~[4]のいずれかに記載の木材積層体。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の木材積層体の製造方法であって、木製単板(A)層および粘接着剤(B)層に圧力をかけて貼り合わせる工程を含む、木材積層体の製造方法。
[7]
粘接着剤(B)層がシート状の粘接着剤(B)層であることを特徴とする、[6]記載の木材積層体の製造方法。
[8]
[1]~[5]のいずれかに記載の木材積層体から得られた成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、三次元成形加工を行ったときに加工性に優れ、かつ使用時に破断が生じにくく、安全性および意匠性に優れた木材積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1の試験用サンプルの水平せん断試験後における外観図(写真)である。
【
図2】本発明の実施例2の試験用サンプルの水平せん断試験後における外観図(写真)である。
【
図3】本発明の比較例1の試験用サンプルの水平せん断試験後における外観図(写真)である。
【
図4】本発明の比較例2の試験用サンプルの水平せん断試験後における外観図(写真)である。
【
図5】本発明の実施例および比較例の破断伸び試験で用いた試験用サンプルの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。なお、本明細書において、「~」はその前後に記載された数字を含む数字の範囲を表す。
【0013】
本発明の木材積層体は、木製単板(A)層、および粘接着剤(B)層を有する木材積層体であって、木製単板(A)の繊維方向の破断伸びが1.5~5.0%であることを特徴とするものである。
まず、木製単板(A)層、および粘接着剤(B)層について説明する。
【0014】
<木製単板(A)層>
木製単板(A)層は木製単板(A)で構成される層であり、木製単板(A)は、セルロースを主成分とし、特定の方向に繊維状構造を有するセルロース系繊維状構造体で構成される。
【0015】
セルロース系繊維状構造体としては、木材系または非木材系のセルロース系繊維状構造体が挙げられる。
木材系のセルロース系繊維状構造体としては、例えば、スギ、ヒノキ、シトカスプルースなどの針葉樹系のセルロース系繊維状構造体、ブナ、ウォールナットなどの広葉樹系のセルロース系繊維状構造体が挙げられる。
非木材系のセルロース系繊維状構造体としては、例えば、竹、ケナフ、月桃、バナナなどの草本系のセルロース系繊維状構造体が挙げられる。
【0016】
これらのなかでも、繊維方向の破断伸び(%)を本発明に規定する特定の範囲に制御しやすい観点から、木材系のセルロース系繊維状構造体が好ましく、針葉樹系のセルロース系繊維状構造体、広葉樹系のセルロース系繊維状構造体がより好ましく、スギ、ヒノキ、シトカスプルース、ブナ、ウォールナットが特に好ましい。
【0017】
なお、上記「主成分」とは、木製単板(A)を構成するセルロース系繊維状構造体の全体に対するセルロースの含有割合が45重量%以上であることを意味するものであり、好ましくは50~90重量%、特に好ましくは55~70重量%である。
また、上記セルロースの含有量は公知の測定法により求めることができ、例えば「木材学会誌、1983年、29号、702頁」に記載の測定法により求めることができる。
【0018】
木製単板(A)の繊維方向の破断伸び(%)は1.5~5.0%の特定範囲内であることが必要であり、好ましくは1.6~4.8%であり、特に好ましくは1.7~4.7%である。これらの範囲を下回ると、木材積層体に対して特定の荷重を与えたときに大きな破断を起こしやすい傾向がある。一方、これらの範囲を上回ると、木材積層体の強度が低下する傾向がある。
【0019】
木製単板(A)の繊維方向の破断伸び(%)を1.5~5.0%の範囲に制御する手法としては、例えば、予変形加工時の加工曲率の適正化や変形量の上限設定などが挙げられるが、被加工材の破断ひずみを超えない変形量に相当する予変形加工の加工曲率を設定する手法が好ましい。
【0020】
なお、木製単板(A)の垂直方向(繊維方向と直交する方向)の破断伸び(%)は、特に制限されないが、例えば、1.0~6.0%である。
【0021】
木製単板(A)の繊維方向の破断伸び(%)および垂直方向の破断伸び(%)は、JIS K7164の引張試験に倣い測定されるものであり、例えば、後記の実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
なお、上記「繊維方向」とは、樹幹の成長方向に沿った年輪や道管、木繊維の走向方向であり、樹木が生長する方向を意味する。
【0023】
木製単板(A)層の厚みは、木材積層体の種類によって種々選択されるが、通常0.1~3.0mmであり、0.3~3.0mmが好ましく、0.4~2.5mmがより好ましく、0.5~1.5mmが特に好ましい。これらの範囲を下回ると木材積層体の強度が低下する傾向がある。一方、これらの範囲を上回ると木材積層体の成形性が劣化する傾向がある。
【0024】
本発明の木製単板(A)は、表面に特定の深さ以上のスリットを有さないことが好ましい。ここでスリットとは、木製単板の表面を切削加工することにより形成される溝を意味する。具体的には、スリットとは、木製単板(A)の厚み方向に延びる特定の深さ、木製単板(A)の長さ方向に延びる特定の長さ、および、木製単板(A)の幅方向に延びる特定の幅を有する凹状に形成されるもの意味するが、貫通穴も含むものである。また、スリットの平面視形状は、矩形状に限るものではなく、例えば、円形、楕円形、三角形、多角形状などであってもよい。
本発明の木製単板(A)は、深さ0.2mm以上のスリットを有さないことが好ましく、深さ0.1mm以上のスリットを有さないことが特に好ましく、深さ0.05mm以上のスリットを有さないことがさらに好ましく、深さ0.02mm以上のスリットを有さないことがより好ましい。
また、当該スリットの長さは2cm以上を有さないことが好ましく、1cm以上を有さないことが特に好ましく、0.5cm以上を有さないことがさらに好ましく、0.2cm以上を有さないことがより好ましい。また、当該スリットの幅は2mm以上を有さないことが好ましく、1mm以上を有さないことが特に好ましく、0.5mm以上を有さないことがさらに好ましく、0.2mm以上を有さないことがより好ましい。
これらの範囲を上回ると、単板の意匠性や強度の観点から好ましくない。なお、下限値は特に制限されないが、スリットを有さないことが意匠性および木材積層体の強度を向上させる観点で最も好ましい。ここでいうスリットには、例えば木材積層体同士を組み合わせるための噛み合わせに用いる切れ込みなど、本発明の破断伸びに影響しないスリットは含まないものとする。
【0025】
本発明の木製単板(A)としては、繊維方向の破断伸び(%)が上記範囲内である限り、公知の方法で製造された木製単板をそのまま用いてもよく、さらに木製単板に加工を施したものを用いてもよい。
公知の方法で製造された木製単板としては、例えば、特定の原木や当該原木を所定の大きさに製材したフリッチから切削装置を用いて製造された単板が挙げられる。より具体的には、原木を桂剥きして得られるロータリー単板、原木を平角材などにしてスライサーで平削して得られるスライス単板などが挙げられる。
また、木製単板の加工方法としては、例えば、ポリエチレングリコールなどの樹脂成分などを木製単板に含侵させる含侵加工、木製単板に切れ込みや圧縮によりパターンを入れるパターン加工などが挙げられる。これら木製単板の加工方法のうち、使用時の環境への影響を低減する観点から、樹脂などを含侵させる含侵加工を行わないことが好ましい。すなわち、原木や当該原木を所定の大きさに製材したフリッチから切削装置を用いて製造された単板をそのまま木製単板として用いるのが好ましい。
【0026】
<粘接着剤(B)層>
粘接着剤(B)層は粘接着剤(B)で構成される層であり、粘接着剤(B)としては、木製単板(A)に対して良好な粘接着性を有するものであれば特に限定されず、粘着剤、接着剤およびこれらの混合物を用いることができる。
【0027】
粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。
接着剤としては、例えば、ポリオレフィン系接着剤、エチレン酢酸ビニル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤などの熱可塑性接着剤(ホットメルト接着剤)、アクリルウレタン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ユリア系接着剤、フェノール系接着剤、エポキシ系接着剤などの熱硬化性接着剤などが挙げられる。これらのなかでも、木材積層体自体に柔軟性や再加工性を付与する観点から、粘着剤、熱可塑性接着剤が好ましい。
【0028】
粘着剤のなかでも、木製単板(A)との密着性をより向上させる観点から、アクリル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤が好ましい。また、粘着剤のガラス転移温度(Tg)は0℃以下が好ましく、さらに好ましくは-15℃以下、特に好ましくは-30℃以下である。これらの範囲内であれば、木製単板(A)との密着性がさらに向上する傾向がある。
【0029】
なお、上記ガラス転移温度は、例えばFoxの式より算出されるものである。例えば、アクリル系粘着剤のガラス転移温度は、下記のとおり算出される。
【数1】
【0030】
すなわち、ガラス転移温度(Tg)は、粘着剤を構成するそれぞれの単量体をホモポリマーとした際のガラス転移温度および重量分率を上記Foxの式に当てはめて算出した値である。なお、粘着剤を構成する単量体のホモポリマーとした際のガラス転移温度は、通常、示差走査熱量計(DSC)により測定されるものであり、JIS K7121-1987や、JIS K 6240に準拠した方法で測定することができる。
【0031】
また、熱可塑性接着剤のなかでも、木製単板(A)との密着性をより向上させる観点から、エチレン酢酸ビニル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤が好ましく、ポリエステル系接着剤が特に好ましい。
【0032】
熱可塑性接着剤の流動開始温度は、80~140℃が好ましく、さらに好ましくは90~130℃、特に好ましくは100~120℃である。これらの範囲内であれば、接着時に木製単板(A)の劣化が少なく、かつ耐熱性に優れた木材積層体を得られる傾向がある。
なお、上記の流動開始温度は、高化式フローテスター(荷重30kgf/cm2)によって測定される。
【0033】
熱可塑性接着剤の流動性(MFR)は、0.1~100g/10minが好ましく、さらに好ましくは0.1~95g/10min、特に好ましくは0.2~80g/10minである。これらの範囲を上回っても下回っても、プレス成形などの接着時に木製単板(A)との密着性を十分発揮できない傾向がある。
なお、上記流動性は、JIS K7210に準拠した125℃のMFR(荷重0.325kg)で測定される。
【0034】
粘接着剤(B)層は、木製単板(A)層との密着性を損なわない範囲において、粘接着剤(B)以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなどの非誘電フィラー;酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ケイ酸アルミニウムなどの誘電フィラー;ガラス繊維、ポリエステル繊維などの形状保持のための繊維体;酸化防止剤、加水分解防止剤、光安定化剤、難燃剤、可塑剤;などが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を用いてもよい。なお、本発明の木材積層体を簡便に製造できる観点からは、粘接着剤(B)層はこれらの添加剤を含まないことが好ましい。
【0035】
粘接着剤(B)層を構成する粘接着剤(B)は、ペレット状、粉末状、シート状などいずれでもよいが、作業性の点でシート状であることが好ましい。
また、粘接着剤(B)層の厚みは、木材積層体の種類および形状などに応じ種々選択されるが、通常10~400μmであり、20~300μmが好ましく、30~200μmが特に好ましい。これらの範囲を下回ると粘接着剤(B)層と木製単板(A)層との密着性が低下する傾向がある。一方、これらの範囲を上回ると木材積層体の強度が低下する傾向がある。
【0036】
<その他の層>
本発明の木材積層体は、その加工性や意匠性を損なわない範囲において、木製単板(A)層および粘接着剤(B)層以外に、その他の層を含んでいてもよい。その他の層としては、例えば、繊維方向の破断伸び(%)が1.5~5.0の範囲外のセルロース系繊維状構造体、すなわち、繊維方向の破断伸び(%)が1.5未満のセルロース系繊維状構造体や、繊維方向の破断伸び(%)が5.0超のセルロース系繊維状構造体が挙げられる。
また、その他の層としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ナイロン610(PA610)、ナイロン6T(PA6T)、ポリフェニレンスルフィド、エラストマー、ポリスチレンなどの樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミなどの金属;CFRPなどの繊維強化プラスチックなどを単独でもしくは2種以上併せてなる材料により構成された層とすることもできる。これらのなかでは、容易に本発明の木材積層体を提供できる観点から、繊維方向の破断伸び(%)が1.5~5.0の範囲外のセルロース系繊維状構造体が好ましいが、本発明の木材積層体の効果をより発揮する観点からは、その他の層を有さないことが好ましい。
【0037】
その他の層の厚みは、本発明の木材積層体の種類によって種々選択されるが、通常0.1~3.0mmであり、0.3~2.5mmが好ましく、0.5~1.5mmが特に好ましい。
【0038】
<木材積層体の製造方法>
本発明の木材積層体は、繊維方向の破断伸びが0.5~1.5%の木製単板(A)を製造する工程と、木製単板(A)と粘接着剤(B)を用いて積層体を製造する工程により製造される。
例えば、第1の木製単板(A)層、粘接着剤(B)層、および第2の木製単板(A)層を少なくとも含む木材積層体の場合は、第1の木製単板(A)と第2の木製単板(A)とを単板厚み方向に対向させ、両者の間に粘接着剤(B)を介在させて、第1の木製単板(A)と第2の木製単板(A)とを接着して製造される。
また、木製単板(A)層、粘接着剤(B)層、および繊維方向の破断伸び(%)が1.5~5.0の範囲外の木製単板(C)層を少なくとも含む木材積層体の場合は、木製単板(A)と木製単板(C)とを単板厚み方向に対向させ、両者の間に粘接着剤(B)を介在させて、木製単板(A)と木製単板(C)とを接着して製造される。
【0039】
本発明の木材積層体の製造方法としては、成形性に優れる観点から、木製単板(A)層および粘接着剤(B)層に圧力をかけて貼り合わせる工程を備えることが好ましい。圧力をかけて貼り合わせる工程における圧力は、通常0.01~10MPaであり、0.1~5MPaが好ましく、0.2~2MPaが特に好ましい。これらの範囲を上回っても下回っても、目的とする木材積層体の形状を十分に担保できない傾向がある。
【0040】
また、本発明の木材積層体の製造方法としては、粘接着剤(B)の種類や目的とする木材積層体の形状に応じて、加熱しながら貼り合わせる工程を備えていてもよい。かかる工程における加熱温度は、60~150℃が好ましく、80~140℃がさらに好ましく、90~130℃が特に好ましい。これらの範囲を下回ると粘接着剤(B)の木製単板(A)層への密着性が十分に担保できない傾向がある。一方、かかる範囲を上回ると木製単板(A)の熱劣化により木材積層体の意匠性が損なわれる傾向がある。
なお、加熱方法としては、例えば、プレス設備からの伝熱で加熱する方法、熱風で加熱する方法、電磁波で加熱する方法など、一般に合板を製造する際に加熱する公知の手法を用いることができる。
【0041】
本発明の木材積層体の製造方法において、木製単板(A)層(および、その他の層)間に粘接着剤(B)層を配置する方法としては、例えば、粘接着剤(B)を溶液化して木製単板(A)層(および、その他の層)に塗工した後に貼り合わせる方法;粒子状の粘接着剤(B)を木製単板(A)(および、その他の層)層の間に配置し加熱しながら溶融させる方法;シート状の粘接着剤(B)を木製単板(A)層(および、その他の層)間に配置させる方法などが挙げられる。これらのなかでも、より簡便に本発明の木材積層体を製造できる観点から、シート状の粘接着剤(B)を木製単板(A)層(および、その他の層)間に配置させる方法が好ましい。
【0042】
本発明の木材積層体に含まれる複数の木製単板(A)は、その一部または全部において、木製単板(A)同士の繊維方向を平行に配置して積層してもよい(平行積層)。例えば、第1の木製単板(A)層、粘接着剤(B)層、および第2の木製単板(A)層を少なくとも含む木材積層体において、第1の木製単板(A)と第2の木製単板(A)の繊維方向を揃えて配置して積層してもよい。
また、木材積層体に含まれる複数の木製単板(A)は、その一部または全部において、木製単板(A)同士の繊維方向を直交に配置して積層してもよい(直交積層)。例えば、第1の木製単板(A)層、粘接着剤(B)層、および第2の木製単板(A)層を少なくとも含む木材積層体では、第1の木製単板(A)と第2の木製単板(A)の繊維方向を互いに直交するように配置して積層してもよい。これらのうち、木材積層体に対して特定の荷重を与えたときに生じる破断を抑制する観点からは、木製単板(A)同士の繊維方向を平行に配置するのが好ましい。
本発明の木材積層体に含まれる複数の木製単板(A)は、その一部または全部において、木製単板(A)同士の繊維方向を斜交するように配置して積層してもよい(斜交積層)。例えば、第1の木製単板(A)層、粘接着剤(B)層、および第2の木製単板(A)層を少なくとも含む木材積層体において、第1の木製単板(A)と第2の木製単板(A)の繊維方向が斜交するように配置して積層してもよい。本発明の木材積層体の可撓性を向上させる観点からは、第1の木製単板(A)の繊維方向と第2の木製単板(A)の繊維方向を、単板の外形一辺に対して20°~80°、好ましくは30°~60°、より好ましくは40°~50°の角度で傾斜する方向とし、かかる第1の木製単板(A)の繊維方向と第2の木製単板(A)の繊維方向とが斜交するように配置して積層するのが好ましい。
【0043】
<木材積層体>
本発明の木材積層体は、木製単板(A)層、粘接着剤(B)層を必須単位とする多層構造であり、木製単板(A)層、粘接着剤(B)層以外に他の層(C)を任意で含むものである。
本発明の木材積層体の形状は、その用途によって種々選択される。木材積層体の厚みとしては、0.5~5.0cmが好ましく、0.7~4.0cmがさらに好ましく、0.8~3.0cmが特に好ましい。かかる範囲内であれば、十分な強度を有する傾向がある。
【0044】
本発明の木材積層体における木製単板(A)層の層数は、木材積層体の厚みおよび形状に応じ種々選択されるが、一例としては、2~10層、3~8層、4~6層などが挙げられる。木材積層体に含まれる複数の木製単板(A)層は、その種類および形状(厚みを含む)は、同じでも異なっていてもよい。
【0045】
本発明の木材積層体における粘接着剤(B)層の層数は、木材積層体の厚みおよび形状に応じ種々選択されるが、一例としては、2~10層、3~8層、4~6層などが挙げられる。一つの木材積層体に複数の粘接着剤(B)層は、その種類および形状(厚みを含む)は、同じでも異なっていてもよい。
【0046】
本発明の木材積層体の層構造は、木製単板(A)層を「A1、A2、A3・・・」、粘接着剤(B)層を「B1、B2、B3・・・」、その他の層を「C1、C2、C3・・・」と表記した場合、以下に制限されないが、例えば、「A1/B/A2」、「A1/B1/A2/B2/A3」、「A1/B1/A2/B2/A3/B3/A4/B4/A5」、「A1/B1/C1」、「A1/C1/B1/C2/A2」、「A1/B1/C1/B1/A2」など任意の層構造を採用し得る。
【0047】
<成形体>
本発明の木材積層体を用いて得られる成形体としては、特に限定されないが、文具、小物、玩具、家具、自動車部材などが挙げられる。
【実施例0048】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
まず、木製単板A1、木製単板A’、接着シートB1、接着シートB2を準備した。
【0050】
<木製単板層>
・木製単板A1
繊維方向の破断伸びが2.1%であるシトカスプルース製単板(縦20cm×横15cm×厚み0.8mm、気乾密度0.37g/cm3)を製造した。製造方法、並びに、破断伸びの測定方法は下記のとおりである。
(製造方法)
市販のシトカスプルース突板(縦20cm×横15cm×厚み0.8mm)に以下の加工工程(A)~(C)を施し、木製単板A1を製造した。
(A)直径50mm×長さ500mmの鋼棒に突板の表裏をそれぞれ鋼棒の直径方向と突板の繊維方向が同一となる方向にて巻き付けた。
(B)次いで工程(A)で用いた鋼棒に、工程(A)で処理した突板を表裏それぞれ鋼棒の直径方向と突板繊維方向が45°となるように巻き付けた。
(C)直径30mm×長さ500mmの鋼棒を用いて、工程(A),(B)に実施の工程をそれぞれ再度行った。
なお、上記製造方法により得られた木製単板A1には割れや切れ込みに由来するスリットは発生しなかった。
【0051】
(繊維方向の破断伸び)
JIS K7164の引張試験に倣い、繊維方向の破断伸びを測定した。まず、JIS K7164に記載の試験片1Bの形状に倣い、木製単板A1から試験用サンプルを作成した。試験用サンプルは、
図5に示す形状とし、全長I
3=100mm、平行部長さI
1=30mm、標線間距離L
0=12.8mm、厚みh=0.8mm、平行部幅b
1=15mm、つかみ幅部b
2=25mmとした。
そして、かかる試験用サンプルを、温度20±1℃、湿度60±10%、引張速度1mm/分の条件下にて、繊維方向に引張り、破断したときの伸び率(繊維方向の破断伸び)を求めた。その結果を表1に示す。
【0052】
(垂直方向の破断伸び)
JIS K7164の引張試験に倣い、垂直方向の破断伸びを測定した。まず、JIS K7164に記載の試験片1Bの形状に倣い、木製単板A1から試験用サンプルを作成した。試験用サンプルは、
図5に示す形状とし、全長I
3=100mm、平行部長さI
1=30mm、標線間距離L
0=12.8mm、厚みh=0.8mm、平行部幅b
1=15mm、つかみ幅部b
2=25mmとした。
そして、かかる試験用サンプルを、温度20±1℃、湿度60±10%、引張速度1mm/分の条件下にて、垂直方向に引張り、破断したときの伸び率(垂直方向の破断伸び)を求めた。その結果を表1に示す。
【0053】
・木製単板A’
繊維方向の破断伸びが0.95%であるシトカスプルース製単板(縦20cm×横15cm×厚み0.8mm、気乾密度0.38g/cm3)を準備した。繊維方向および垂直方向の破断伸びの測定方法は、木製単板A1と同様である。
【0054】
<粘接着剤層>
・接着シートB1
熱可塑性ポリエステル系接着剤〔三菱ケミカル社製:ポリエスター(商標登録)SP-180(樹脂の流動開始温度103℃、MFR0.35g/10min)〕を、50μm厚のシリコーン系離型PETフィルム(三井化学東セロ社製:SPPET03BU50)二枚の離型面の間に挟み、150℃の温度に加温した熱プレス機で厚みが100μmになるようにプレスして得たシート状の接着剤。
【0055】
・接着シートB2
粘着剤用アクリルポリマー〔三菱ケミカル社製:コーポニール(商標登録)D-505(上記FOXの式:1/Tg=W1/Tg+W2/Tgを用いて各重量分率におけるTgを計算により求めたTg=-56℃)〕100部に対してイソシアネート系架橋剤〔東ソー株式会社製:コロネート(商標登録)L〕2部を混合して得た接着剤をアプリケータを用いてシリコーン系離型PETフィルム〔三井化学東セロ社製:SPPET03BU50〕に塗工し、80℃、3分間乾燥後、40℃で7日間エージングをして得たシート状の接着剤(厚み100μm)。
【0056】
なお、上記流動開始温度は高化式フローテスター(30kgf/cm2)、MFRはJIS K7210(125℃、荷重0.325kg)に従って、それぞれ測定した。
【0057】
<実施例1>
木製単板A1を6層(平行積層)、および接着シートB1を5層交互に積層し(層構造:A1/B1/A1/B1/A1/B1/A1/B1/A1/B1/A1)、プレス圧力0.5MPa、加熱温度120℃、プレス時間15分間の条件にてプレス加工を行い、各層を接着した。各層を接着して得られた木材積層体を105℃にて12時間、さらに20℃にて1週間養生し、厚み8.7mmの木材積層体を得た。
【0058】
<水平せん断試験>
上記で得られた木材積層体から所定形状の木材積層体を切り出し、試験用サンプルを作成した(試験用サンプルは全長120mm、幅10mm、厚み10mmである)。
試験用サンプルについて、恒温槽付き万能試験機(オリエンテック社製、RTC-1325,25kN)を用いて、下記の条件にて、破断に至る最大変位(mm)およびせん断弾性係数(kN/mm2)を測定した。その結果を表1に示す。なお、試験用サンプルの作製時の厚みのブレが出た際は、その実際の厚みを用いてせん断弾性係数の計算を行った。
(測定条件)
支点間距離:60mm
荷重速度:10mm/min
試験温度:20℃および80℃(試験用サンプルは6時間以上同温度で静置したものを使用)
試験湿度:湿度60±10%
【0059】
<水平せん断試験後の外観評価試験>
水平せん断試験(20℃および80℃)後の外観評価は、最大変位到達後の試験用サンプルの引張側および圧縮側最外層を目視で確認し、最外層に破断が生じていない場合は「〇」、最外層に破断が生じているものを「×」とした。その結果を表1および
図1に示す。
【0060】
<実施例2>
接着シートB1を接着シートB2に変更した以外は、実施例1と同様にして木材積層体(厚み8.6mm)を得た。実施例1と同様の各試験を行った結果を表1および
図2に示す。
【0061】
<比較例1>
木製単板A1を木製単板A’に変更した以外は、実施例1と同様にして木材積層体(厚み8.7mm)を得た。実施例1と同様の各試験を行った結果を表1および
図3に示す。
【0062】
<比較例2>
木製単板A1を木製単板A’に変更し、接着シートB1を接着シートB2に変更した以外は、実施例1と同様にして木材積層体(厚み8.6mm)を得た。実施例1と同様の各試験を行った結果を表1および
図4に示す。
【0063】
【0064】
表1および各図に示す結果から、粘接着剤の種類に関わらず、また、それに由来する木材積層体の力学物性に関わらず、本発明の木製単板(A)を用いることで、木材積層体への荷重変形付与後の外観が向上していることが分かる。これは、繊維方向に対して特定の破断伸び(%)を有する木製単板(A)を用いることで、木材積層体全体としてしなやかさが向上したためであると考えられる。
【0065】
また、実施例1および比較例1、実施例2および比較例2の対比において、水平せん断試験における最大変位、せん断弾性係数は大きく変化していない。このことから、本発明の木製単板(A)の破断伸び(%)が適度であることで、従来の木材積層体の物性を大きく変化させずに荷重に対するしなやかさだけを向上させることができたといえる。
本発明の木材積層体は、小物、家具、建築材料向けのベニヤ合板、コンパネ、構造用合板、三次元成形用合板など、幅広い用途に用いることができる。特に、三次元成形用合板に好適に用いられる。