(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170446
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
C23C14/34 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082213
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 萌
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA45
4K029BC09
4K029CA05
4K029CA06
4K029DA04
4K029DA05
4K029DA06
4K029DC05
4K029DC09
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】透明導電性酸化物の焼結体をターゲット21とし、透明導電性酸化物膜を成膜する際に、成膜後の基板に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を可及的に少なくすることができる成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜完了に伴いターゲット21への電力投入を停止した後、真空チャンバ1内に同一または他のガス導入口61aから排出ガスを導入する工程を更に含み、ガス導入口から導入される排出ガスがターゲットと基板Sgとの間の空間1aを経て排気口4に移流する範囲に排出ガスの導入量を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電性酸化物の焼結体をターゲットとし、このターゲットを設けた真空チャンバ内に被成膜基板を対向配置し、前記真空チャンバに開設した排気口を通して真空ポンプにより真空排気された所定圧力の前記真空チャンバ内に、ガス導入口からスパッタガスを第1流量で導入し、ターゲットに所定電力を投入してプラズマ雰囲気を形成し、前記プラズマ雰囲気中のスパッタガスのイオンでターゲットをスパッタリングすることで前記被成膜基板の表面に透明導電性酸化物膜を成膜する成膜工程を含む成膜方法において、
前記ターゲットへの電力投入の停止に先立ってまたは停止後に、前記真空ポンプにより真空排気された前記真空チャンバ内に同一または他のガス導入口から排出ガスを導入する工程を更に含み、前記排出ガスの導入量が、当該ガス導入口から導入された前記排出ガスが前記ターゲットと前記被成膜基板との間の空間を通って排気口へと移流する範囲内に設定されることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記排出ガスとして前記スパッタガスを用い、前記ターゲットへの電力投入を停止した後、前記真空チャンバ内への前記スパッタガスの導入を継続し、当該スパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量に変化させること及び真空ポンプの実効排気速度を速くすることの少なくとも一方により前記排出ガスを移流させることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記排出ガスとして前記スパッタガスを用い、前記ターゲットへの電力投入の停止に先立って、当該スパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量に変化させること及び真空ポンプの実効排気速度を速くすることの少なくとも一方により前記排出ガスを移流させることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項4】
前記ガス導入口から前記排出ガスをライン状に吹き出すことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関し、より詳しくは、スパッタリング法により被成膜基板の表面に透明導電性酸化物膜を成膜するものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイ装置の製造工程には、被成膜基板としての大面積のガラス基板(以下、「基板」という)の表面に透明導電膜を成膜する工程がある。透明電極膜としては、酸化インジウム系酸化物膜(例えば、ITO膜)を含む透明導電性酸化物膜が用いられ、このような透明導電性酸化物膜の成膜には、生産性などを考慮して、マグネトロン方式のスパッタリング装置が一般に利用される。ITO膜を成膜する場合を例に説明すると、スパッタリング装置の真空チャンバ内に、基板とITOターゲットとを対向配置し、真空ポンプにより所定圧力に真空排気された真空チャンバ内にアルゴンガスなどのスパッタガスを導入し(必要に応じて、酸素ガスなどの反応ガスを導入する場合がある)、ITOターゲットに負の電位を持つ(パルス状の)直流電力や高周波電力を投入する。すると、真空チャンバ内にプラズマ雰囲気が形成されて、プラズマ雰囲気中の希ガスのイオンによりITOターゲットがスパッタリングされ、ITOターゲットから所定の余弦則に従って飛散したスパッタ粒子が被処理基板に付着、堆積して基板表面にITO膜が成膜される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、真空チャンバ内に複数枚の基板を搬入、搬出し、ITOターゲットをスパッタリングして各基板に順次成膜する際には、真空チャンバ内に存する防着板などの部品にもスパッタ粒子が付着、堆積する。この付着、堆積したものが何らかの原因で微粒子(イエローパウダーなど)となって真空チャンバ内に飛散することが従来から知られている。このため、成膜後の基板表面には、パーティクルが付着している場合がある。ここで、近年のフラットパネルディスプレイの高精細化などに伴い、透明導電性酸化物膜の良否が成膜後に付着した所定サイズ(例えば2μm)以上のパーティクルの数で判断されることがあり、パーティクルの付着は製品歩留まりを低下させる要因となる。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、次のことを知見するのに至った。即ち、真空チャンバ内に飛散した微粒子の中には真空排気されずにそのまま真空チャンバ内で浮遊するものがある(ターゲットが透明導電性酸化物の焼結体であるような場合には、ターゲットへの電力投入の停止時にその表面からパーティクルが飛散して浮遊する場合も考えられる)。そして、ターゲットのスパッタリングによる成膜中には、ターゲットと基板との間の空間に浮遊するものがプラズマで正または負に帯電し、この帯電したものがクーロン力で凝集することで、プラズマの発生時間(成膜時間)に応じて所定サイズ以上に増大化する。そして、このサイズが増大化したものが、ターゲットへの電力投入の停止後に成膜直後の基板表面に付着すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見を基になされたものであり、透明導電性酸化物の焼結体をターゲットとし、ターゲットをスパッタリングすることで被成膜基板の表面に透明導電性酸化物膜を成膜する際に、成膜後の被成膜基板に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を可及的に少なくすることができる成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の成膜方法は、透明導電性酸化物の焼結体をターゲットとし、このターゲットを設けた真空チャンバ内に被成膜基板を対向配置し、前記真空チャンバに開設した排気口を通して真空ポンプにより真空排気された所定圧力の前記真空チャンバ内に、ガス導入口からスパッタガスを第1流量で導入し、ターゲットに所定電力を投入してプラズマ雰囲気を形成し、前記プラズマ雰囲気中のスパッタガスのイオンでターゲットをスパッタリングすることで前記成膜基板表面に透明導電性酸化物膜を成膜する成膜工程を含み、前記ターゲットへの電力投入の停止に先立ってまたは停止後に、前記真空チャンバ内に同一または他のガス導入口から排出ガスを導入する工程を更に含み、前記ガス導入口から導入される前記排出ガスが前記ターゲットと前記被成膜基板との間の空間を経て排気口に移流する範囲に前記排出ガスの導入量を設定することを特徴とする。
【0008】
以上によれば、成膜後の被成膜基板に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を可及的に少なくすることができることが確認された。これは、成膜中に、ターゲットと基板との間の空間に浮遊するものが凝集して所定サイズ以上に増大化し、この増大化したものがパーティクルとなって、ターゲットへの電力投入の停止により成膜直後の被成膜基板の表面に付着したとしても、成膜工程に引き続き実施される排出ガスの導入工程にて、上記空間に排出ガスを移流させたときに、当該空間に未だ浮遊するパーティクルだけでなく、成膜後の被成膜基板に付着したパーティクルが舞い上げられて排出ガスと共に排気口へと送られる、ことに起因すると考えられる。ここで、本発明における「移流」とは、ガス導入口から所定圧力の真空チャンバ内に一定の速度且つ流量で導入される排出ガスが、一定の実効排気速度で真空排気される真空チャンバ内で渦を発生させてその内部で拡散することなく、ガス導入口から上記空間を経て排気口へと一様に流れることをいう。例えば、所定容積の真空チャンバにてその圧力を0.1Pa~1Paの範囲とした場合、排出ガスのガス導入量が、10sccm~1000sccmの範囲に設定される。
【0009】
本発明においては、前記排出ガスとして、前記プラズマ雰囲気の形成用に導入される前記スパッタガスを用い、前記ターゲットへの電力投入を停止した後、前記真空チャンバ内への前記スパッタガスの導入を継続し、当該スパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量に変化させること及び真空ポンプの実効排気速度を速くすることの少なくとも一方により前記排出ガスを移流させる構成を採用することができる。他方、前記排出ガスとして前記スパッタガスを用い、前記ターゲットへの電力投入の停止に先立って、当該スパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量に変化させること及び真空ポンプの実効排気速度を速くすることの少なくとも一方により前記排出ガスを移流させる構成を採用することもできる。これにより、例えば、スパッタガスと排出ガスとの導入経路を共通化できることで部品点数を削減してコストダウンを図ることができる。この場合、真空チャンバ内に複数枚の被成膜基板を搬入、搬出し、ターゲットをスパッタリングして各被成膜基板に順次成膜するような場合に、例えば、常時一定の導入量(第2流量)で排出ガスを導入すれば(言い換えると、一枚の被成膜基板に成膜した後、次の被成膜基板に成膜するまでの間も排出ガスの導入を継続する)、上記空間に浮遊するパーティクルを常時排気口へと導くことができ、成膜後の被成膜基板に付着するパーティクルの数をより一層少なくすることができる。また、ターゲットへの電力投入の停止に先立ってスパッタガスの流量を変化させる等の場合には、成膜に悪影響(プラズマ状態を含む)を与えない範囲で流量変化開始の時刻が適宜設定される。
【0010】
また、本発明においては、成膜後の被成膜基板に付着したパーティクルが効率よく舞い上げるため、前記ガス導入口から前記排出ガスをライン状に吹き出すことが好ましい。このように排出ガスをライン状に吹き出せば、成膜中にターゲットと基板との間の空間に浮遊するものを当該空間(即ち、プラズマ雰囲気が形成された空間)から排出され、凝集により所定サイズ以上に増大化するパーティクルの量を低減でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の成膜方法を実施することができるスパッタリング装置の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、被成膜基板をガラス基板(以下、「基板Sg」という)、透明導電性酸化物の焼結体ターゲットをITOターゲットとし、スパッタリング法により真空雰囲気中の真空チャンバ内にて基板Sgの一方の面にITO膜を成膜する場合を例に本発明の成膜方法の実施形態を説明する。以下において、上、下、左、右といった方向を示す用語は、スパッタリング装置の設置姿勢で示す
図1を基準にする。
【0013】
図1を参照して、本実施形態の成膜方法を実施できるスパッタリング装置SMは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の側壁には基板Sgを搬出入するための搬送用開口11が形成されている。また、特に図示して説明しないが、搬送用開口11が形成された真空チャンバ1の側壁には、真空雰囲気の真空チャンバ1に基板Sgを搬入、搬出するために、真空搬送ロボットが配置される搬送チャンバがゲートバルブを介して連設されている。真空チャンバ1の上部には、スパッタリングカソードユニット2が設けられている。カソードユニット2は、基板Sgに対応する輪郭を持つITOターゲット21を有する。ITOターゲット21は、バッキングプレート22に接合され、そのスパッタ面21aを下方に向けた姿勢で絶縁体23を介して真空チャンバ1の上部開口に取り付けられている。ITOターゲット2にはまた、スパッタ電源24からの出力が接続され、負の電位を持つ(パルス状の)直流電力や高周波電力を投入することができる。特に図示して説明しないが、ターゲット21の上方には磁石ユニットが配置され、ターゲット21と基板Sgとの間の真空チャンバ1内の空間1a(即ち、プラズマ雰囲気が形成される空間)に漏洩磁場を作用させるようにしている。そして、ターゲット21に対向させて真空チャンバ1内下部には、基板Sgが設置されるステージ3が絶縁材料31を介して設けられている。
【0014】
図2も参照して、真空チャンバ1の側壁(
図1中、左側)には、排気口4が形成され、排気口4には、排気管51を介して真空ポンプ5が接続されている。真空ポンプ5としては、ロータリーポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプといった各種の真空ポンプを組み合わせて利用され、真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、10
-6Pa)まで真空排気することができる。排気管51には、真空ポンプ5の実行排気速度を調整できるようにコンダクタンスバルブ52が介設されている。排気口4の輪郭や開口面積は、特に限定されるものではないが、基板Sgが比較的大面積なものであるような場合、基板Sgの長さ方向(
図2中の上下方向))に長手な形状(平面視矩形)とすることができる。真空チャンバ1の底面からの排気口4の高さ位置は、その上縁が、ステージ3に載置される基板Sgの高さ位置と同等以下に設定される。
【0015】
排気口4に対向させて真空チャンバ1の他の側壁(
図1中、右側)には、スパッタリング法による基板Sgへの成膜時、真空チャンバ1にスパッタガスとしてのアルゴンガス(希ガス)と、必要に応じて導入される酸素ガスなどの反応ガスを導入するガス導入手段6が設けられている。ガス導入手段6は、真空チャンバ1の側壁内側に配置される吹付ノズル61を備える。吹付ノズル61は、基板Sgの長さより長い金属製の筒体で構成され、その外周面には、一方向に間隔を存して、ガス導入口としてのノズル孔61aが複数個列設され、各ノズル孔61aからライン状にスパッタガスを吹き出すことができる。真空チャンバ1の底面からの吹付ノズル61の高さ位置は、ステージ3に載置される基板Sgの高さ位置より上方(排気口4より上方)に位置するように設定されている。
【0016】
また、吹付ノズル61には、真空チャンバ1の側壁を貫通してその内部に突出するガス配管62が接続されている。特に図示して説明しないが、吹付ノズル61内に拡散板を配置し、ガス配管62を通じて供給されるスパッタガスを拡散して各ノズル孔61aから略均等に不活性ガスが吹き出すようにしてもよい。そして、ガス配管62が、マスフローコントローラといった流量制御弁63を介して図外のガス源(アルゴンガスや酸素ガス)に連通している。吹付ノズル61にはまた、その軸線(回転軸線)回りに回転させる駆動源としてのモータ64を備え、後述するように、成膜工程と排出ガスの導入工程とで吹付角を変更できるようにしてもよい。真空チャンバ1内には空間1aに囲繞するように防着板12が設けられている。この場合、防着板12には、排気口4及び吹付ノズル61を夫々臨む開口12aが形成されている。以下、上記スパッタリング装置SMによる成膜方法について具体的に説明する。
【0017】
図1に示すように一枚目の基板Sgがステージ3に設置されている状態で、真空ポンプ5により真空チャンバ1内が真空排気されて所定圧力に達すると、ガス導入手段6の流量制御弁63が制御されて真空チャンバ1内に、吹付ノズル61からアルゴンガスが所定の第1流量(例えば100sccm)で導入される。併せて、コンダクタンスバルブ52が制御されて真空ポンプ5の実効排気速度が低下することで、真空チャンバ1内が所定圧力(例えば、0.5Pa)に維持される。ITOターゲット21にスパッタ電源24により負の電位を持つ(パルス状の)直流電力が投入されると、ターゲット21と基板Sgとの間の真空チャンバ1内の空間1aにプラズマ雰囲気が形成され、プラズマ雰囲気中の希ガスのイオンによりITOターゲット21がスパッタリングされる。そして、予め設定されたスパッタ時間だけこれを継続することで、ITOターゲット21から所定の余弦則に従って飛散したスパッタ粒子が基板Sgの上面に付着、堆積してITO膜が所定膜厚で成膜される(成膜工程)。
【0018】
予め設定されたスパッタ時間に達すると、ITOターゲット21への電力投入が停止される一方で、吹付ノズル61を通したアルゴンガスの導入を継続し、言い換えると、導入するアルゴンガスを排出ガスとして利用し、その流量を第1流量のまま変化させない(排出ガスの導入工程)。このとき、モータ64を回転駆動してその軸線回りに回転させ、吹付ノズル61が斜め下方を向く姿勢に変更してもよい。併せて、コンダクタンスバルブ52が制御されて真空ポンプ5の実効排気速度が上昇することで、真空チャンバ1内が所定圧力(例えば、0.05Pa)に維持される。これにより、基板Sg表面の幅方向一端から他端に向けてアルゴンガスを吹き付けて一様に流すことができる。この状態で、成膜済みの基板Sgが図外の搬送チャンバ内の真空搬送ロボットによって搬送用開口11を介して搬出され、引き続き、二枚目の基板Sgが搬入されてステージ3に設置される。
【0019】
二枚目の基板Sgがステージ3に設置されると、アルゴンガスの導入(導入するアルゴンガスの流量を変化させない)を継続した状態で、再度、コンダクタンスバルブ52が制御されて真空ポンプ5の実効排気速度が低下することで、真空チャンバ1内が所定圧力(例えば、0.5Pa)に維持される。そして、上記同様に、ITOターゲット21に直流電力が投入されてプラズマ雰囲気が形成され、プラズマ雰囲気中の希ガスのイオンによりITOターゲット21がスパッタリングされることで、当該基板Sgの上面にもITO膜が所定膜厚で成膜される。上記を繰り返すことで、複数枚の基板SgにITO膜が夫々成膜される。
【0020】
以上によれば、成膜後の基板Sg表面に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を可及的に少なくすることができる。これは、成膜中に、所定サイズのパーティクルがターゲット21への電力投入の停止により成膜直後の基板Sgの表面に付着したとしても、排出ガスの導入工程にて、空間1aに排出ガスを移流させたときに、当該空間1aに未だ浮遊するパーティクルだけでなく、成膜後の基板Sgに付着したパーティクルが舞い上げられて排出ガスと共に排気口4へと送られることに起因する、と考えられる。例えば、上記スパッタリング装置SMにてその圧力を0.1Pa~1Paの範囲とした場合、排出ガスのガス導入量が、10sccm~1000sccmの範囲に設定しておけば、吹付ノズル61から導入される排出ガスが、真空チャンバ1内で渦を発生させてその内部で拡散することなく、排気口4へと一様に流れることができる。
【0021】
また、上記のようにガス導入手段6を構成したことで、スパッタガスと排出ガスとの導入経路を共通化できることで部品点数を削減してコストダウンを図ることができる。しかも、真空チャンバ1内に基板Sgを搬入、搬出する間も常時一定の導入量(第2流量)で排出ガスを導入することで、空間1aに浮遊するパーティクルを常時排気口4へと導くことができ、成膜後の基板Sgに付着するパーティクルの数をより一層少なくすることができる。その上、吹付ノズル61から排出ガスをライン状に吹き出すことで、成膜中に空間1aに浮遊するものを当該空間1aから確実に排出でき、凝集により所定サイズ以上に増大化するパーティクルの量を低減できる。
【0022】
以上の本発明の効果を確認するため、上記スパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。成膜条件として、ターゲット21をITOターゲット21とし、スパッタ電源24からの投入電力を6kW(2.5W/□)、スパッタガス及び排出ガスをアルゴンガスとし、ガス導入量を100sccm、成膜時の真空チャンバ1内の圧力を0.3Pa、成膜時間を40secとした。そして、所定の積算電力に達するまで複数枚の基板Sgに成膜した。その後に、処理前の基板Sgを図外の搬送チャンバ内の真空搬送ロボットによって搬送用開口11を介して搬入し、ステージ3に一旦設置した。そして、真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気された後、ガス導入手段によるスパッタガスの導入をせずに(ターゲット21のスパッタリングもせずに)、基板Sgを真空搬送ロボットによって搬送用開口11を介して搬出し、図外のロードロック室に搬入した。この状態で公知のパーティクルカウンタを用いて基板Sg表面に付着している0.5μm以上のパーティクルの数を測定したところ、約400であった。
【0023】
次に、処理前の基板Sgを真空搬送ロボットによって搬送用開口11を介して更に搬入し、ステージ3に一旦設置した。そして、真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気された後、ガス導入手段によってスパッタガスを100sccmで導入した。このとき、排気管51のコンダクタンスバルブ52を制御して真空ポンプ5の実効排気速度を変化させ、真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、0.05Pa)に維持した。所定時間経過後、ターゲット21をスパッタリングせずに、基板Sgを真空搬送ロボットによって搬送用開口11を介して搬出し、図外のロードロック室に搬入した。この状態で上記同様に基板Sg表面に付着している0.5μm以上のパーティクルの数を測定したところ、約250であった。この場合、0.5μm以上で2μmより小さいパーティクルが主に少なくなっており、空間1aに浮遊するパーティクルの基板Sg表面への付着が抑制できることが確認された。
【0024】
次に、処理前の基板Sgを図外の搬送チャンバ内の真空搬送ロボットよって搬送用開口11を介して更に搬入し、ステージ3に設置した。そして、真空ポンプの実効排気速度を低下させ、上記成膜条件で基板Sgに対して成膜を行い、所定の成膜時間に達すると、ターゲット21への電力投入及びガス導入手段6によるスパッタガスの導入を停止した。そして、真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気された後、基板Sgを真空搬送ロボットよって搬送用開口11を介して搬出し、図外のロードロック室に搬入した。この状態で上記同様に基板Sg表面に付着している0.5μm以上のパーティクルの数を測定したところ、約520であった。この場合、1μm以上及び2μm以上のパーティクルが主に多くなっており、成膜中の凝集により所定サイズ以上のパーティクルが増大することが確認された。
【0025】
次に、処理前の基板Sgを図外の搬送チャンバ内の真空搬送ロボットよって搬送用開口11を介して更に搬入し、ステージ3に設置した。そして、上記成膜条件で基板Sgに対して成膜を行い、所定の成膜時間に達すると、ターゲット21への電力投入のみを停止した。このとき、ガス導入手段6によるスパッタガスの導入量は変えない一方で、コンダクタンスバルブ52を制御して真空ポンプ5の実効排気速度を上昇させ、真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、0.05Pa)に維持した。真空チャンバ1内が所定圧力まで真空排気された後、基板Sgを真空搬送ロボットよって搬送用開口11を介して搬出し、図外のロードロック室に搬入した。この状態で上記同様に基板Sg表面に付着している0.5μm以上のパーティクルの数を測定したところ、約300まで低減していた。この場合、各サイズのパーティクルが同等の割合で少なくできることが確認された。また、処理前の基板Sgを図外の搬送チャンバ内の真空搬送ロボットよって搬送用開口11を介して更に搬入する間も、ガス導入手段6によるスパッタガスの導入量は変えずにその導入を継続すると、約300まで低減できることも確認できた。以上から、排出ガスの導入によって、成膜後の基板Sg表面に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を可及的に少なくすることができることが確認された。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、排出ガスの導入系統をスパッタガスの導入系統と同じものを利用する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、別個独立に導入するようにしてもよい。また、排出ガスとしてアルゴンガスを例に説明したが、真空チャンバ1内での成膜に悪影響を及ぼすものでない限り、これに限定されるものではなく、アルゴンガス以外の希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスを用いることができる。
【0027】
また、上記実施形態では、排出ガスの導入工程にて、排出ガスが空間1aを通って排気口4へと移流させるために、常時、スパッタガスの導入量を第1流量とし、真空ポンプ5の実効排気速度を変化させるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、真空ポンプ5の実効排気速度を変化させずにスパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量とし、または、スパッタガスの導入量及び実効排気速度を変化させるようにしてもよい。更に、上記実施形態では、ターゲット21への電力投入の停止後に、排出ガスの導入工程を実施するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、ターゲット21への電力投入の停止に先立って排出ガスの導入工程を実施、即ち、スパッタガスの導入量を第1流量より少ない第2流量に変化させること及び真空ポンプ5の実効排気速度を速くすることの少なくとも一方により排出ガスを移流させるようにしてもよい。この場合、成膜に悪影響(プラズマ状態を含む)を与えない範囲で流量変化開始の時刻が適宜設定される。
【0028】
上記実施形態では、スパッタガスの導入だけで、成膜後の基板Sg表面に付着する所定サイズ以上のパーティクルの数を少なくするものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、空間1aにマイクロ波を照射する装置を真空チャンバ1内に組み込み、除電効果で凝集を防止し、または、基板Sgへの帯電付着を防止するようにしてもよい。また、ターゲット21への電力投入を停止する際には、段階的に投入電力を低下させ、プラズマ消失に伴う基板Sgへの付着することを抑制するようにしてもよい。この場合、ターゲット21への電力投入を完全に停止した後だけでなく、段階的に投入電力を低下させていく途中や段階的に投入電力を低下させていくのに先立って、排出ガスの導入工程を実施してもよい。更に、上記実施形態では、所謂デポダウン式のスパッタリング装置SMを例に説明したが、これに限定されるものではなく、所謂サイドデポ式のものやデポアップ式のものにも本発明は適用することができる。また、上記実施形態では、ITO膜を成膜する場合を例に説明したが、金属(合金を含む)製のターゲットを用いてスパッタリング法により成膜されるIZO,ITIO膜等の他の透明導電性酸化物膜の成膜にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
SM…スパッタリング装置、Sg…基板(被成膜基板)、1…真空チャンバ、1a…空間、21…ITOターゲット(ターゲット)、4…排気口、5…真空ポンプ、6…ガス導入手段、61…吹付ノズル(ガス導入口を持つもの)。