(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170465
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】電池管理装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/04 20060101AFI20231124BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231124BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H02J7/04 L
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/42 P
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082251
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 諒
(72)【発明者】
【氏名】河野 亨
(72)【発明者】
【氏名】角田 隼
(72)【発明者】
【氏名】植田 穣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博也
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 絵里
(72)【発明者】
【氏名】井出 一正
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503BB01
5G503CA01
5G503CB11
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB03
5H030BB21
5H030FF22
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】蓄電池を複数の運転モードで動作させる際に、運転モードごとに蓄電池の温度変化を適切に抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る電池管理装置は、上限Cレート以下で充放電する第1モードと、電池の温度変化を抑制する第2モードとを実施し、前記第2モードにおいては、SOCまたは電池出力電圧に応じてCレートを変更する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の状態を管理する電池管理装置であって、
前記電池の出力電圧または前記電池の充電状態のうち少なくともいずれかを取得する取得部、
前記電池の充放電動作を制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記電池が実施する充放電動作を第1モードと第2モードとの間で切り替えることができるように構成されており、
前記制御部は、前記第1モードを実施する場合は、前記電池が上限Cレート以下で動作するように、前記電池に対する動作指令を出力し、
前記制御部は、前記第2モードを実施する場合は、前記電池が充電動作または放電動作を実施している間における前記電池の温度の変化が所定温度変化量以内に収まるように、前記電池の動作電流を指示し、
前記制御部は、前記充電状態または前記出力電圧が所定範囲内となるように前記電池に対して指示することにより、前記温度の変化が前記所定温度変化量以内に収まるように前記動作電流を指示し、
前記制御部は、前記第2モードを実施する場合において、前記充電状態または前記出力電圧が前記所定範囲内であれば、前記電池が第1動作電流で動作するように指示し、
前記制御部は、前記第2モードを実施する場合において、前記充電状態または前記出力電圧が前記所定範囲外であれば、前記温度の時間変化が前記第1動作電流による動作時以下となる第2動作電流で前記電池が動作するように指示する
ことを特徴とする電池管理装置。
【請求項2】
前記電池は、充電動作を実施している間は、前記所定範囲以下の範囲における前記温度の上昇量が、前記所定範囲における前記温度の上昇量以下である特性を有し、
前記電池は、放電動作を実施している間は、前記所定範囲以上の範囲における前記温度の上昇量が、前記所定範囲における前記温度の上昇量以下である特性を有し、
前記制御部は、充電動作中に前記第2モードを実施する場合は、前記充電状態または前記出力電圧が前記所定範囲以下であれば前記第1動作電流以上の前記第2動作電流で前記電池が動作するように指示し、
前記制御部は、放電動作中に前記第2モードを実施する場合は、前記充電状態または前記出力電圧が前記所定範囲以上であれば前記第1動作電流以上の前記第2動作電流で前記電池が動作するように指示する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記温度が基準値以下のとき前記第2モードを実施する場合は、前記温度の時間変化が前記所定温度変化量以内であれば、前記上限Cレート以上の動作電流で前記電池が動作することを許容するように、前記電池に対して指示する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記電池を通常Cレート運転させる場合は、前記電池が前記上限Cレート以下の第1範囲で動作するように、前記電池に対して指示し、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記電池を前記通常Cレート運転よりもCレートが大きい急速Cレート運転させる場合は、前記電池が前記上限Cレート以下かつ前記第1範囲以上の第2範囲で動作するように、前記電池に対して指示する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項5】
前記所定範囲の上限と下限は、前記電池の充放電動作における前記温度の時間変化の極値が発生する動作点によって定まる
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項6】
前記制御部は、充電動作を実施する場合は、前記出力電圧の前記所定範囲の下限を前記電池の劣化にともなって大きくするとともに、上限を前記電池の劣化にともなって変更せず、
前記制御部は、放電動作を実施する場合は、前記出力電圧の前記所定範囲の上限を前記電池の劣化にともなって小さくするとともに、下限を前記電池の劣化にともなって変更しない
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項7】
前記制御部は、充電動作を実施する場合は、前記充電状態の前記所定範囲の上限を前記電池の劣化にともなって小さくするとともに、下限を前記電池の劣化にともなって変更せず、
前記制御部は、放電動作を実施する場合は、前記充電状態の前記所定範囲の下限を前記電池の劣化にともなって大きくするとともに、上限を前記電池の劣化にともなって変更しない
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記電池の劣化状態を取得し、
前記制御部は、前記劣化状態を、前記電池が寿命に達するまでの残り運転サイクル数へ変換し、
前記制御部は、前記電池のアイリングモデルに対して前記残り運転サイクル数を適用することにより、前記所定温度変化量を求める
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記電池の劣化状態と前記充電状態を取得し、
前記制御部は、前記劣化状態と前記充電状態に基づき、充電装置が所定時間内において前記電池を充電する回数を推定し、
前記制御部は、前記推定した前記回数が回数基準値未満でありかつ前記劣化状態が劣化状態基準値未満である場合は、前記第1モードにおいて前記通常Cレート運転を実施するように前記電池に対して指示し、
前記制御部は、前記推定した前記回数が前記回数基準値以上である場合は、前記第1モードにおいて前記急速Cレート運転を実施するように前記電池に対して指示する
ことを特徴とする請求項4記載の電池管理装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記所定範囲の上限と下限それぞれについて、充電動作と放電動作ごとにクラスタリングを実施してその結果を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項11】
前記電池は、DCAC変換器と変圧器とACDC変換器を介して、DCバスと接続されており、
前記制御部は、前記出力電圧に対する前記DCバスの電圧の比率と、前記動作電流と、前記変圧器が安定動作することができる前記比率および前記動作電流との間の関係に基づき、前記電池の直列接続数を算出してその結果を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記電池が放電動作を実施する場合における前記電池の直列接続数については、前記関係に依拠することなく前記電池の直列接続数を算出してその結果を出力する
ことを特徴とする請求項11記載の電池管理装置。
【請求項13】
前記電池は、太陽光発電システムに対して接続されており、
前記制御部は、前記太陽光発電システムの発電量予測と前記太陽光発電システムに対する需要予測と前記太陽光発電システムの発電量実績を取得し、
前記制御部は、前記発電量予測と前記需要予測と前記発電量実績にしたがって、前記第1モードと前記第2モードのうちいずれを実施するかを決定する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記電池を通常Cレート運転させる場合は、前記電池が前記上限Cレート以下の第1範囲で動作するように、前記電池に対して指示し、
前記制御部は、前記第1モードにおいて、前記電池を前記通常Cレート運転よりもCレートが大きい急速Cレート運転させる場合は、前記電池が前記上限Cレート以下かつ前記第1範囲以上の第2範囲で動作するように、前記電池に対して指示し、
前記制御部は、第1時点における前記発電量予測と前記第1時点よりも後の第2時点における前記発電量予測を比較し、前記第2時点における前記発電量予測が前記第1時点における前記発電量予測よりも所定量以上小さければ、前記急速Cレート運転を実施するように前記電池に対して指示し、
前記制御部は、前記第1時点よりも後における前記発電量実績が、前記第1時点における前記発電量予測よりも所定量以上小さければ、前記急速Cレート運転を実施するように前記電池に対して指示する
ことを特徴とする請求項13記載の電池管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の状態を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池(または2次電池)は、電池温度によってその特性が影響を受ける。電池温度が急激に変化すると、電池の劣化を早める可能性がある。そこで、電池温度を急激に変化させないように、電池の充放電動作を制御することが望ましい。
【0003】
下記特許文献1は、『二次電池の温度変化に基づいて、想定される異常内容に応じた充放電制御を行うことができる二次電池の充放電制御回路、電池パック、電池電源システムを提供する。』ことを課題として、『二次電池4の温度tの基準時間tLの間における変化量dTLに基づき第1変化率dTL/tLを算出する第1算出部501と、温度tの基準時間tLより短い時間である基準時間tSの間における変化量dTSに基づき第2変化率dTS/tSを算出する第2算出部502と、第1変化率dTL/tL及び第2変化率dTS/tSに応じて、二次電池4の充放電を制御する充放電制御部505とを備えた。』という技術を記載している(要約参照)。
【0004】
下記特許文献2は、『劣化の進んだ蓄電池は、劣化の進みが遅い蓄電池に対して、使用可能温度範囲を同じ、もしくは狭めるとともに、蓄電池温度に対する最大充放電電流を同じ、もしくは小さくする、あるいは蓄電池温度に対する蓄電池の使用可能電圧範囲を同じ、もしくは狭める』という技術を記載している(0006参照)。
【0005】
下記特許文献3には、『バッテリの電池残量に基づいて,前記バッテリステーションに格納された前記バッテリの交換可能性を定量的に評価し,当該バッテリの交換可能性の評価値に基づいて,当該バッテリステーションによる当該バッテリの充電速度を決定するバッテリ管理システム』が記載されている(請求項1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-034425号公報
【特許文献2】特許第5932190号
【特許文献3】特許第6564502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蓄電池は一般に、急激な温度変化が生じると劣化が促進すると考えられている。他方で電池の運転モードは様々であり、例えば急速な充放電を実施することもあれば、通常運転を実施することもある。さらに、電池の温度変化は、充電状態(State Of Charge:SOC)や電池の出力電圧との間においても関係を有する。このように、電池の温度変化については運転モードおよびこれに関連するパラメータが様々に存在するが、特許文献1のような従来技術においては、これらが必ずしも十分に考慮されていない。
【0008】
また、電池の温度変化は、運転モードによっては、正常時におけるSOCの違いにおいても大きな変化が生じることがあるが、特許文献2では、劣化したものと正常なものにおいての温度使用範囲の制約に限定される。特許文献3においても、評価された残量と交換可能性に基づいての充電速度の決定のみであり、充電速度とSOCの組み合わせによって、劣化が促進されるということまで考慮されていない。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、蓄電池を複数の運転モードで動作させる際に、運転モードごとに蓄電池の温度変化を適切に抑制することができる技術によって、管理や制御の中で、蓄電池を可能な限り劣化させない、いたわり運転を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電池管理装置は、上限Cレート以下で充放電する第1モードと、電池の温度変化を抑制する第2モードとを実施し、前記第2モードにおいては、SOCまたは電池出力電圧に応じてCレートを変更する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電池管理装置によれば、運転モードごとに蓄電池の温度変化を適切に抑制することができる。本発明のその他の課題、構成、効果などについては、以下の実施形態の説明により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電池の充放電動作における電池温度の変化を示す。
【
図2】電池の充放電動作における電池温度の変化を示す。
【
図3】電池の充放電動作における電池温度の変化を示す。
【
図4】充電動作時における電池温度とSOCそれぞれの経時変化例を示す。
【
図5】放電動作時における電池温度とSOCそれぞれの経時変化例を示す。
【
図6】充電動作時における電池温度と電池出力電圧(電池電圧)それぞれの経時変化例を示す。
【
図7】放電動作時における電池温度と電池電圧それぞれの経時変化例を示す。
【
図8】電池の劣化にともなう電圧閾値の変化を示す。
【
図9】電池の劣化にともなうSOC閾値の変化を示す。
【
図10】実施形態1に係る電池管理装置が実施する第1モードを示す。
【
図11】実施形態1に係る電池管理装置が実施する第2モードを示す。
【
図12】電池周辺の温度が低い場合における第2モードの例を示す。
【
図13A】実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の構成例を示す。
【
図13B】実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の別構成例を示す。
【
図13C】実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の別構成例を示す。
【
図15】充電ステーション1500の構成例を示す。
【
図16A】充電ステーション1500の動作モードを制御する条件を説明する模式図である。
【
図16B】充電ステーション1500の動作モードを制御する別条件を説明する模式図である。
【
図17】電池管理装置100が電池をクラスタリングする例を示す模式図である。
【
図18】電池を直列接続する個数を電池管理装置100が決定する手順を説明する模式図である。
【
図19】サイト間において電力を融通する場合における電力システムの構成例を示す模式図である。
【
図20】電力システムの運用スケジュールの例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1:電池の温度特性についての検証>
図1~
図3は、電池の充放電動作における電池温度の変化を示す。各図において左図は放電動作を示し、右図は充電動作を示す。各図において、横軸はSOCを示し、縦軸は電池温度を示す。いずれもSOCを0%と100%との間で変化させた結果を示す。
図1から
図3へ向かうにしたがって、Cレート(1時間で満充電状態または完放電状態となる電池動作電流を1Cとする)が次第に大きくなっている。例えば
図1は通常運転時のCレート、
図2はやや大きいCレート、
図3はさらに大きいCレートを用いた場合における電池温度の変化を示す。
【0014】
図2における範囲21~23と範囲24~26においては、充放電が進むにしたがって電池温度が単調増加している。
図3においてはその傾向が顕著となり、範囲31~33と範囲34~36いずれにおいても、充放電が進むにしたがって電池温度が直線的に増加する。これに対して
図1の範囲11~13と範囲14~16においては、充放電動作の初期段階で電池温度がいったん下降し、その後に上昇へ転じる現象がみられる。これは、電荷が電池電極の一方へある程度蓄積されると電池温度が上がり始めることに起因すると考えられる。Cレートが高い動作モードにおいては、電荷蓄積が速やかに生じるので、充放電動作の初期段階から電池温度が上昇するが、Cレートが低い動作モードにおいてはある程度電荷が蓄積するまでは電池温度が下がると考えられる。
【0015】
図4は、充電動作時における電池温度とSOCそれぞれの経時変化例を示す。充電期間41において、電池温度は
図1右図に対応する経時変化を示す。
図4に示すように、電池の温度変化は経過時間に対して変曲点43と44を有する。これらに対応するSOCをそれぞれ
図1におけるSOC_ULおよびSOC_th2として用いる。充電期間42は充電期間41よりもCレートを下げた場合を示す。この場合も同様に、電池温度は変曲点45と46を有する。これらに対応するSOCも、SOC_ULおよびSOC_th2と一致している。
【0016】
図5は、放電動作時における電池温度とSOCそれぞれの経時変化例を示す。放電期間51において、電池温度は
図1左図に対応する経時変化を示す。放電動作においても充電動作と同様に電池温度は変曲点52と53を有する。これらに対応するSOCをそれぞれ
図1におけるSOC_LLおよびSOC_th1として用いる。
【0017】
図6は、充電動作時における電池温度と電池出力電圧(電池電圧)それぞれの経時変化例を示す。
図6は
図4と同じグラフを再掲したものである。
図1~
図5で説明したSOC_UL、SOC_th2、SOC_LL、SOC_th1は、SOCの値に代えて、これらに対応する電池電圧の値に置き換えることもできる。例えば変曲点43はSOC_th2に対応しているので、変曲点43に対応するV_th2はSOC_th2と等価である。同様に変曲点44はSOC_ULに対応しているので、変曲点44に対応するV_ULはSOC_ULと等価である。
【0018】
図7は、放電動作時における電池温度と電池電圧それぞれの経時変化例を示す。
図7は
図5と同じグラフを再掲したものである。変曲点52はSOC_th1およびV_th1と対応し、これらは等価である。変曲点53はSOC_LLおよびV_LLと対応し、これらは等価である。
【0019】
図8は、電池の劣化にともなう電圧閾値の変化を示す。
図8下段は、
図8上段に対して電池が劣化した時点における各閾値の変化を示す。ここでは
図6~
図7で説明した電圧閾値V_UL、V_LL、V_th1、V_th2を示した。
図8に示すように、電池劣化にともなって、V_ULとV_LLは変化しない。V_th1は、劣化にともなう内部抵抗増加による電圧降下分だけ小さい方向にシフトする。V_th2は、劣化にともなう内部抵抗増加による電圧上昇分だけ大きい方向にシフトする。なおV_th1とV_th2は 充放電電流によっても同様に上下にシフトすることを付言しておく。
【0020】
図9は、電池の劣化にともなうSOC閾値の変化を示す。
図9下段は、
図9上段に対して電池が劣化した時点における各閾値の変化を示す。ここでは
図4~
図5で説明したSOC閾値SOC_UL、SOC_LL、SOC_th1、SOC_th2を示した。
図9に示すように、電池劣化にともなって、SOC_th1とSOC_th2は変化しない。SOC_LLは、劣化にともなう内部抵抗増加による電圧降下分だけ大きい方向にシフトする。SOC_ULは、劣化にともなう内部抵抗増加による電圧上昇分だけ小さい方向にシフトする。
【0021】
<実施の形態1:動作モード>
図10は、実施形態1に係る電池管理装置が実施する第1モードを示す。便宜上、第1モードをMODE1_1とMODE1_2の2つに分けた。横軸は充電電流を示し、縦軸は1サイクルの充電動作中における電池温度の変化を示す。黒丸は、SOCがSOC_th2からSOC_ULまでのときにおける電池温度の変化を示す。白丸は、SOCがSOC_th2以下のときにおける電池温度の変化を示す。各モードにおける電池温度の経時変化は同じものを示している。
【0022】
MODE1_1は、電池の温度変化を抑制したいときに実施する動作モードである。この場合は、電池温度の経時変化が小さいかあるいはマイナス(温度が下がる)となる充電電流を用いることが望ましい。
図1右図におけるSOC_th2以下の範囲は電池温度が下がるので、この場合は
図1に対応する動作電流を用いることが望ましい。SOCがSOC_th2~SOC_ULである場合においても、充電電流が小さいほうが電池温度の上昇をより抑制できるので、同様に
図1に対応する動作電流を用いることが望ましい。そこでMODE1_1においては、
図1に対応する動作電流I1を用いることとした。
【0023】
MODE1_2は、電池を急速充電(または急速放電)したいときに実施する動作モードである。この場合は電池の温度変化よりも充電時間を短縮することを優先するので、MODE1_1よりも大きいCレートI2(>I1)を用いる。この場合は、MODE1_1よりも電池温度の上昇が大きいが、一時的な急速運転なので温度変化については許容することとした。
【0024】
図11は、実施形態1に係る電池管理装置が実施する第2モードを示す。縦軸、横軸、黒丸、白丸は
図10と同じである。第2モードは、通常運転時において実施するものであり、1サイクルの充電動作中における電池温度の変化をある範囲内に収めることを目的としている。例えばSOCがSOC_th2~SOC_ULである場合はCレートをI3とするが、SOCがSOC_th2以下であれば温度変化はより小さいので、より高いCレートI4(>I3)を用いることが許容される。このように、SOCの値によって電池温度の変化量が異なることに着目し、SOCの値ごとにCレートを変化させることにより、電池温度の変化を抑制するとともに運転効率を確保できる。
【0025】
図12は、電池周辺の温度が低い場合における第2モードの例を示す。周辺温度が十分低い場合、電池の温度上昇は、周辺温度が高い場合と比較して抑制される。したがってこの場合は、周辺温度が高い場合における上限Cレートを超えるCレートを用いることが許容される。例えば動作電流がSOC_th2~SOC_ULであるときにおける上限Cレートに達したとしても、現在のSOCがSOC_th2以下であれば、さらに高いCレートを用いたとしても、温度上昇は第2モードの制限範囲内に抑えることができる。
図11と
図12いずれを用いるかについては、電池周辺温度の閾値をあらかじめ定めておき、周辺温度がその閾値以上であれば
図11、閾値未満であれば
図12を用いる、などのように切り替えればよい。
図12においてどの程度のCレートまでを許容するかについても同様にあらかじめ電池の仕様にしたがって定めておけばよい。
【0026】
図10~
図12においては、充電動作時の動作モードについて説明した。放電動作時については、
図10~
図12における『SOC_th2~SOC_UL』を『SOC_th1以上』に置き換え、『SOC_th2以下』を『SOC_LL~SOC_th1』に置き換えれば、
図10~
図12における説明をそのまま適用することができる。
【0027】
<実施の形態2>
図13Aは、本発明の実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の構成例を示す。電池はバッテリ管理ユニット(BMU)を介して、DCDCコンバータと接続され、DCDCコンバータはさらにDCACコンバータと接続されている。DCACコンバータは変圧器とも接続されている。電池管理装置は、BMUまたはDCDCコンバータから、電池電圧またはSOC、電池電流、電池温度、などについての計測値を取得する。電池管理装置は上位コントローラから、充放電計画、電流上限値、電圧上下限値、ΔTの許容値(MODE2における縦軸の許容範囲)、電圧閾値またはSOC閾値(
図1~
図7で説明したV_UL、SOC_UL、V_th1、SOC_th1などの閾値)、などを受け取る。電池管理装置はこれらに基づき電池の運転モードと指令値を決定する。電池管理装置はその指令値をDCACコンバータに対して出力する。DCACコンバータはその指令値にしたがって電池動作を制御する。説明の便宜上、
図13AにおけるDCDCコンバータとDCACコンバータのセットを充放電装置aと呼ぶ。
【0028】
図13Bは、実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の別構成例を示す。
図13Aとは異なり、電池はBMUを介してDCACコンバータと接続されている。電池管理装置はBMUまたはDCACコンバータから計測値を受け取り、DCACコンバータに対して指令値を出力する。説明の便宜上、
図13BにおけるDCACコンバータを充放電装置a1と呼ぶ。
【0029】
図13Cは、実施形態2に係る電池管理装置の周辺機器の別構成例を示す。
図13Aとは異なり、電池はBMUを介してDCACコンバータと接続され、DCACコンバータは変圧器を介してACDCコンバータと接続されている。ACDCコンバータはさらにDCバスと接続されている。電池管理装置はBMUまたはDCACコンバータから計測値を受け取り、DCACコンバータおよびACDCコンバータに対して指令値を出力する。
図13AにおけるDCACコンバータと変圧器とACDCコンバータのセットを充放電装置bと呼ぶ。
【0030】
図14Aは、電池管理装置100の構成図である。電池管理装置100は、データ取得部110と制御部120を備える。この構成は他の実施形態においても用いることができる。データ取得部110は、BMUや上位コントローラから
図13A~
図13Cにおける各パラメータを取得する。制御部120は、これらのパラメータに基づき電池に対する指令値を決定する。電池の動作モードは、上位コントローラから指示してもよいし、上位コントローラは例えば運転モード、充放電計画、などについてのみを指示し、制御部120がこれらに基づき動作モードを決定することもできる。制御部120が動作モードを決定する場合は、(a)MODE1_1においては電池電圧の上下限を上位コントローラから取得し、(b)MODE1_2においてはCレート上限と電池電圧の上下限を上位コントローラから取得し、(c)MODE2においては電池電圧の上下限と温度変化ΔTの許容範囲と電圧閾値またはSOC閾値(V_UL、SOC_ULなど)を上位コントローラから取得すればよい。
【0031】
図14Bは、電池管理装置100の別構成例を示す。データ取得部110は、BMUから電池の劣化状態(State Of Health:SOH)を取得する。制御部120はそのSOHを電池の残り運転サイクル数へ変換する。制御部120は、その残り運転サイクル数を電池のアイリングモデルに対して適用することにより、電池の温度変化の許容範囲(ΔTの許容範囲)を取得する。その他は
図14Aと同様である。アイリングモデルはあらかじめ作成しておいてそのモデルを記述したデータを電池管理装置100が備える記憶装置に格納しておけばよい。
【0032】
図15は、充電ステーション1500の構成例を示す。充電ステーション1500(充電装置)は、例えば電気自動車などのように蓄電池を搭載した電気機器に対して充電機能を提供する設備である。充電ステーション1500は、充放電装置aを介して電池を充電する機能と、充放電装置bを介して電池を充電する機能とを備える。電池管理装置100は、各充放電装置を制御することにより、充放電動作を制御する。充放電装置bは、DCバスを介して太陽電池(PV)制御装置およびPVと接続され、あるいはDC負荷と接続されている場合もある。ユーザは、充電したい電池を充電ステーション1500に対して接続することにより、充電することができる。
【0033】
図16Aは、充電ステーション1500の動作モードを制御する条件を説明する模式図である。ここでは4つの充電ステーション1500がある地理的範囲内に存在していると仮定する。第1充電ステーションにおいて電気自動車が充電を実施し、SOC(残量)80%、SOH80%の状態で発進したものとする。第1充電ステーションの近傍にその他の電気自動車は存在しないので、第1充電ステーションが所定時間内に充電動作を実施する予測件数は0である。第2および第3充電ステーションの近傍には、残量20%の電気自動車が1台存在するので、これらが所定時間内に充電動作を実施する予測件数は1である。第4充電ステーションの近傍には、それぞれ残量20%と10%の電気自動車が存在するので、所定時間内に充電動作を実施する予測件数は2である。
【0034】
上位コントローラ(または可能であれば電池管理装置100)は、各電気自動車から現在位置およびSOCとSOHを取得し、これらに基づき、各充電ステーションの動作モードを決定する。充電動作の予測件数は、電気自動車の位置に基づきその電気自動車近傍の充電ステーションを特定し、さらにSOCに基づき充電要否を判定することにより、その電気自動車が所定時間内において近傍ステーションで充電動作を実施すると予測することができる。この例においては、第2および第3充電ステーションは充電動作の予測件数が過大ではないので、MODE2(通常運転モード)を指示する。第4充電ステーションに到着すると予測される電気自動車が搭載している電池はSOHが低いので、劣化抑制を優先してMODE1_1を指示する。
【0035】
図16Bは、充電ステーション1500の動作モードを制御する別条件を説明する模式図である。充電ステーションの構成は
図16Aと同じであるが、第4充電ステーションの周辺にはSOCが小さい電気自動車が4台存在し、したがって所定時間内における充電動作の予測件数は4である。この場合、第4充電ステーションは急速充電を実施しないと充電リクエストを滞留させてしまう。そこで上位コントローラ(または可能であれば電池管理装置100)は、第4充電ステーションについてはMODE1_2を指示する。
【0036】
<実施の形態3>
図17は、電池管理装置100が電池をクラスタリングする例を示す模式図である。電池に対して実施形態1で説明した動作モードを指示する場合、電池の特性は、劣化にともなって変化する閾値にしたがって分類することができる。例えば電池が劣化するとV_th1とV_th2が変化するので(
図8参照)、制御部120はこれらの値が近接する電池個体を類似特性のものとして分類することができる。同様にSOC_ULとSOC_LLに基づく分類することもできる(
図9参照)。制御部120はその結果を適当なインターフェース経由で(例:画面表示、結果を記述したデータ、など)出力する。ユーザはその結果にしたがって、同じ分類に属する電池群を直列接続して運用する。これにより、電池を交換するタイミングを、電池群ごとに揃えることができる。
【0037】
<実施の形態4>
図18は、電池を直列接続する個数を電池管理装置100が決定する手順を説明する模式図である。ここでは実施形態2において説明した充放電装置b(
図13Cの構成)を想定する。
図18右図に示す領域1801は、DCACコンバータとACDCコンバータとの間に配置された変圧器の動作波形の歪が小さく、電力品質が高い動作領域である。充放電装置bを用いる場合、良好な電力品質を提供するためには、領域1801内において変圧器が動作するように、充電電流を制御することが望ましい。したがって電池管理装置100は、領域1801にしたがって電流指令値を出力することが望ましい。
【0038】
図11において説明したように、電池電圧がV_th2以下である場合においては充電電流としてI4を用い、電池電圧がV_th2~V_ULにおいては充電電流としてI33を用いる。したがって充電電流および電池電圧は
図18左図のように変化する。他方で領域1801は、充電電流がI4からI3へ下がると、電池電圧に対するDCバス電圧の比率が下がるようになっている。ここでいう電池電圧は、複数の電池を直列接続した場合においては、その直列接続した電池電圧の合計である。
【0039】
以上に鑑みると、領域1801内において電池を動作させる際に、電池の好適な直列接続数も変化することになる。そこで電池管理装置100は、領域1801にしたがってその直列接続数を計算し、その結果を出力してもよい。電池の直列接続数は、例えばBMUまたはその上位装置によって動的に変更することもできるし、ユーザが手作業によって入れ替えてもよい。
【0040】
電池が充電動作を実施する場合、電池劣化を抑制するためには、電池に対してかける負荷をなるべく小さくすることが望ましい。したがって領域1801による動作を実施することにより、変圧器における波形歪みが小さいほうが好適である。他方で電池が放電動作を実施する際には、DCバス側において電力波形が多少歪んでいても、DC負荷などの作用によってその歪みが吸収され、電池に対する負荷は小さい。したがって放電動作時においては、必ずしも領域1801内で電池を動作させる必要はない。
【0041】
<実施の形態5>
図19は、サイト間において電力を融通する場合における電力システムの構成例を示す模式図である。第1サイトにおいては、充放電装置a(またはa1)によって電池が制御され、さらに太陽電池発電も備えている。第1サイトにおける余剰電力は、電力系統を介して第2サイトに対して送電される。電力系統を安定運用するために、各サイトは統括システムに対して以下の報告をすることが必要である。第1サイトの上位コントローラは、太陽電池による発電量予測、需要予測、などを統括システム(例:電力広域的運営推進機関:OCTTO)へ報告する。第2サイトにおいても上位コントローラが需要予測を統括システムへ報告する。電池管理装置100は第1サイトに配置されている。
【0042】
図20は、電力システムの運用スケジュールの例である。第1サイトは、統括システムに対して、送電を実施する前日12:00までに、太陽電池の発電予測(PV発電予測1)と需要予測を報告する。第2サイトにおいても需要予測を同様に報告する。翌日の送電時刻前において、電池管理装置100は、太陽電池の発電実績を得ることができる。この送電直前の発電実績に基づき、上位コントローラは改めて太陽電池の発電予測を実施する(PV発電予測2)。
【0043】
上位コントローラは、以下の条件(a)(b)いずれかを満たす場合、電池をMODE1_2(急速運転モード)で動作させることを前提として、充放電計画を作成する:(a)PV発電予測2の予測値がPV発電予測1の予測値よりも所定値以上小さい;(b)PV発電実績(
図20における03:00~07:00の実績)がPV発電予測1の予測値よりも所定値以上小さい(例:積雪などによる)。太陽電池の発電量が予測よりも小さければ、その不足分を電池からの放電によって補う必要があるからである。
【0044】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0045】
以上の実施形態において、データ取得部110と制御部120は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0046】
実施形態2において、充電ステーション1500は、充電した電池を搭載した電気機器が充電ステーション1500から発進できればよく、そのための具体的手段は限定されるものではない。
【0047】
以上の実施形態において、上位コントローラが実施する動作は、制御部120によって実施することもできる。
【0048】
以上の実施形態において、電池温度の変化による電池の劣化を抑制することは、電池の生産量を抑制することを介して、電池生産のための資源を節約することにもつながることを付言しておく。
【符号の説明】
【0049】
100:電池管理装置
110:データ取得部
120:制御部