(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170498
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】細胞培養デバイス及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20231124BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20231124BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082309
(22)【出願日】2022-05-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】安田 隆
(72)【発明者】
【氏名】仲摩 綾香
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB04
4B029GB09
4B065AA91X
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】新規な細胞培養デバイス及び培養方法を提供する。
【解決手段】底部膜を有する細胞培養部14を具備する下基板10と、下基板10の上方に配設され、微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部24を具備する上基板12とを備え、下基板10上に上基板12を配設した際、下基板10の底部膜及び上基板12の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置される細胞培養デバイス1及び細胞培養デバイス1を用いた細胞培養方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部膜を有する細胞培養部を具備する下基板と、
前記下基板の上方に配設され、微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部を具備する上基板とを備え、
前記下基板上に前記上基板を配設した際、前記下基板の底部膜及び前記上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されることを特徴とする細胞培養デバイス。
【請求項2】
前記上基板の底部膜に、1つの微小孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載の細胞培養デバイス。
【請求項3】
前記下基板の底部膜に、複数の微小孔が形成されていることを特徴とする請求項2記載の細胞培養デバイス。
【請求項4】
前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、透明な材料から構成されていることを特徴とする請求項2記載の細胞培養デバイス。
【請求項5】
前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸窒化ケイ素(SiON)から選ばれる少なくとも1種の無機材料を含むことを特徴とする請求項4記載の細胞培養デバイス。
【請求項6】
前記下基板が凸部又は凹部を具備すると共に、前記上基板が凹部又は凸部を具備し、
前記下基板の凸部又は凹部と前記上基板の凹部又は凸部とが嵌合して、前記下基板の底部膜と前記上基板の底部膜との位置合わせが行われることを特徴とする請求項2記載の細胞培養デバイス。
【請求項7】
前記下基板が格子状に配置された複数の細胞培養部を具備すると共に、前記上基板が格子状に配置された複数の細胞収容部を具備していることを特徴とする請求項2記載の細胞培養デバイス。
【請求項8】
前記下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、前記下仕切り部材に対応する前記上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、前記下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されていることを特徴とする請求項7記載の細胞培養デバイス。
【請求項9】
前記下基板の細胞培養部の底部膜に複数の微小孔が形成されると共に、前記上基板の細胞収容部の底部膜に複数の微小孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載の細胞培養デバイス。
【請求項10】
前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、透明な材料から構成されていることを特徴とする請求項9記載の細胞培養デバイス。
【請求項11】
前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸窒化ケイ素(SiON)から選ばれる少なくとも1種の無機材料を含むことを特徴とする請求項10記載の細胞培養デバイス。
【請求項12】
前記下基板の細胞培養部の底部膜と前記上基板の細胞収容部の底部膜とが、上下に5~500μmの間隔をあけて配置されることを特徴とする請求項9記載の細胞培養デバイス。
【請求項13】
前記下基板が凸部又は凹部を具備すると共に、前記上基板が凹部又は凸部を具備し、
前記下基板の凸部又は凹部と、前記上基板の凹部又は凸部とを嵌合して、前記下基板の底部膜と前記上基板の底部膜との位置合わせが行われることを特徴とする請求項9記載の細胞培養デバイス。
【請求項14】
前記下基板が、格子状に配置された複数の細胞培養部を具備すると共に、前記上基板が、格子状に配置された複数の細胞収容部を具備していることを特徴とする請求項9記載の細胞培養デバイス。
【請求項15】
前記下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、前記下仕切り部材に対応する前記上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、前記下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されていることを特徴とする請求項14記載の細胞培養デバイス。
【請求項16】
前記下基板及び上基板が、半導体微細加工技術であるフォトリソグラフィーを用いて作製されたものであることを特徴とする請求項1、2又は9記載の細胞培養デバイス。
【請求項17】
請求項2記載の細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、
前記上基板の細胞収容部の底部膜上に細胞を播種し、該上基板の細胞収容部の底部膜に形成された1つの微小孔を通じて、前記下基板の細胞培養部の底部膜に細胞を落下させ、該細胞培養部にて細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項18】
請求項9記載の細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、
前記下基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養すると共に、前記上基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養デバイス及びかかる細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療や創薬分野において、生体内の各種細胞、組織、器官の構造及び機能を解析するために、細胞を細胞培養デバイス内で培養し、解析することが行われている。このような細胞培養デバイスを用いた解析方法としては、例えば、半導体加工技術を応用した微細加工技術により多数の微小な細胞培養部をアレイ化して形成し、各細胞培養部内に単一の細胞を培養することで、単一細胞レベルの機能をハイスループットで解析する方法や、微細加工技術により形成した微小な細胞培養部内で複数種類の細胞を共培養することで細胞間コミュニケーションを解析したり、さらには微小な細胞培養部内に再構築した組織や臓器を用いて薬物動態等を解析する方法が知られている。
【0003】
このような解析方法に用いられる細胞培養デバイスとしては、例えば、半導体加工技術によりマイクロウェルアレイの各ウェル底面をSiN製の自立膜で構成し、そのSiN膜に直径約3μmの多数の微小貫通孔を形成した細胞培養デバイスが提案されている(非特許文献1参照)。このSiN膜の裏面には多数のアストロサイトを、各ウェル内のSiN膜の表面には単一のニューロンを培養することで、微小貫通孔を通じた細胞間コミュニケーションを可能とし、単一ニューロンの生理活性を長期に渡り維持することに成功している。
【0004】
しかしながら、マイクロピペットを用いてマイクロウェルアレイに直接細胞を播種する際に、1個のウェルに1個の細胞を導入できる確率は低く、非常に困難であった。ウェルの寸法を細胞サイズ近くまで小さくできる場合には、物理的に1個のウェルに2個以上の細胞が入り難いので成功率は比較的高くなるが、ニューロンのように広い培養面積が必要な接着細胞を培養する場合は必然的にウェルの寸法が大きくなるため、1個のウェルに1個の細胞を導入するのは困難であり、成功率は数%程度であった。
【0005】
また、半導体加工技術により製作されたポーラス膜で隔てた2層式のマイクロ流路デバイスが提案されている(特許文献1参照)。第1のマイクロ流路内には、網膜色素上皮細胞を培養することで網膜層を形成し、第2のマイクロ流路内には、血管内皮細胞と繊維芽細胞を培養することで血管層を形成し、これにより2層からなる血液網膜関門のモデルが構築されている。
【0006】
しかしながら、このようなポーラス膜で隔てた2層式のマイクロ流路デバイスを応用して、3層以上の組織を形成するには、2枚以上のポーラス膜をマイクロ流路内に設置する必要があった。また、このようなデバイスは、半導体加工技術で製作される上下のマイクロ流路と、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチック材料から成るポーラス膜を貼り合わせることで製作されるものであり、層が増えれば貼り合わせ時の位置合わせ精度が悪くなるものであった。また、層間の距離を制御し難く、例えば、第1層と第2層の細胞はポーラス膜を隔てて近くに配置できたとしても、第2層と第3層の細胞を適切な距離まで近付けることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】善明祐介,森迫勇,安田隆,SiN多孔膜を有するマイクロウェルを用いた単一ニューロンの長期培養,電気学会論文誌E,Vol.138,No.7,pp.327-328(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規な細胞培養デバイス、及びかかる細胞培養デバイスを用いた培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、単一細胞レベルの機能の解析や、細胞間コミュニケーションの解析等に有用な新規な細胞培養デバイス、及びその細胞培養デバイスを用いた培養方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]底部膜を有する細胞培養部を具備する下基板と、
前記下基板の上方に配設され、微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部を具備する上基板とを備え、
前記下基板上に前記上基板を配設した際、前記下基板の底部膜及び前記上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されることを特徴とする細胞培養デバイス。
【0012】
[2]前記上基板の底部膜に、1つの微小孔が形成されていることを特徴とする上記[1]記載の細胞培養デバイス。
[3]前記下基板の底部膜に、複数の微小孔が形成されていることを特徴とする上記[2]記載の細胞培養デバイス。
[4]前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、透明な材料から構成されていることを特徴とする上記[2]又は[3]記載の細胞培養デバイス。
[5]前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸窒化ケイ素(SiON)から選ばれる少なくとも1種の無機材料を含むことを特徴とする上記[4]記載の細胞培養デバイス。
[6]前記下基板が凸部又は凹部を具備すると共に、前記上基板が凹部又は凸部を具備し、
前記下基板の凸部又は凹部と前記上基板の凹部又は凸部とが嵌合して、前記下基板の底部膜と前記上基板の底部膜との位置合わせが行われることを特徴とする上記[2]~[5]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
[7]前記下基板が格子状に配置された複数の細胞培養部を具備すると共に、前記上基板が格子状に配置された複数の細胞収容部を具備していることを特徴とする上記[2]~[6]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
[8]前記下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、前記下仕切り部材に対応する前記上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、前記下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されていることを特徴とする上記[7]記載の細胞培養デバイス。
【0013】
[9]前記下基板の細胞培養部の底部膜に複数の微小孔が形成されると共に、前記上基板の細胞収容部の底部膜に複数の微小孔が形成されていることを特徴とする上記[1]記載の細胞培養デバイス。
[10]前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、透明な材料から構成されていることを特徴とする上記[9]記載の細胞培養デバイス。
[11]前記上基板及び/又は下基板の底部膜が、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、及び酸窒化ケイ素(SiON)から選ばれる少なくとも1種の無機材料を含むことを特徴とする上記[10]記載の細胞培養デバイス。
[12]前記下基板の細胞培養部の底部膜と前記上基板の細胞収容部の底部膜とが、上下に5~500μmの間隔をあけて配置されることを特徴とする上記[9]~[11]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
[13]前記下基板が凸部又は凹部を具備すると共に、前記上基板が凹部又は凸部を具備し、
前記下基板の凸部又は凹部と、前記上基板の凹部又は凸部とを嵌合して、前記下基板の底部膜と前記上基板の底部膜との位置合わせが行われることを特徴とする上記[9]~[12]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
[14]前記下基板が、格子状に配置された複数の細胞培養部を具備すると共に、前記上基板が、格子状に配置された複数の細胞収容部を具備していることを特徴とする上記[9]~[13]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
[15]前記下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、前記下仕切り部材に対応する前記上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、前記下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されていることを特徴とする上記[14]記載の細胞培養デバイス。
[16]前記下基板及び上基板が、半導体微細加工技術であるフォトリソグラフィーを用いて作製されたものであることを特徴とする上記[1]~[15]のいずれか記載の細胞培養デバイス。
【0014】
[17]上記[2]~[8]、[16]のいずれか記載の細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、
前記上基板の細胞収容部の底部膜上に細胞を播種し、該上基板の細胞収容部の底部膜に形成された1つの微小孔を通じて、前記下基板の細胞培養部の底部膜に細胞を落下させ、該細胞培養部にて細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
[18]上記[9]~[16]のいずれか記載の細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、
前記下基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養すると共に、前記上基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、単一細胞レベルの機能の解析や、細胞間コミュニケーションの解析等に有用な新規な細胞培養デバイス、及び細胞培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの概略説明図である。
【
図2】
図1の細胞培養デバイスの下基板及び上基板の概略断面図である。
【
図3】
図1の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法についての説明図である。
【
図4】第2の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの概略説明図である。
【
図5】
図4の細胞培養デバイスの下基板及び上基板の概略断面図である。
【
図6】
図4の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法についての説明図である。
【
図7】実施例で作製した細胞培養デバイスの写真であり、(a)は上基板を示し、(b)は下基板を示す。
【
図8】実施例で作製した細胞培養デバイスを用いた細胞播種試験の結果であり、「1ウェルあたりの細胞数」に基づく「ウェル数」(例えば、1個の細胞が導入されたウェルの数)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の細胞培養デバイスは、底部膜を有する細胞培養部を具備する下基板と、下基板の上方に配設され、微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部を具備する上基板とを備え、下基板上に上基板を配設した際、下基板の底部膜及び上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されることを特徴とする。本発明の細胞培養デバイスは、基板が上下2層に配置されたものに限られず、3層以上積層配置されたものであってもよい。
【0018】
本発明の細胞培養デバイスは、単一細胞レベルの機能の解析や、細胞間コミュニケーションの解析等に有用である。
【0019】
本発明の細胞培養デバイスの培養対象の細胞としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、人体や動物から取り出された皮膚、網膜、心筋、血管、神経、臓器等の組織を形成する細胞や、それらを株化した細胞、間葉系幹細胞(MSC)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の幹細胞、幹細胞から分化誘導された神経、皮膚、心筋、肝臓等の組織を形成する細胞などを挙げることができる。
【0020】
<第1の発明に係る細胞培養デバイス>
以下、第1の発明に係る細胞培養デバイスについて説明する。
第1の発明に係る細胞培養デバイスは、底部膜を有する細胞培養部を具備する下基板と、下基板の上方に配設され、1つの微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部を具備する上基板とを備え、下基板上に上基板を配設した際、下基板の底部膜及び上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されることを特徴とする。
【0021】
第1の発明に係る細胞培養デバイスは、上基板の細胞収容部の底部膜に形成された1つの微小孔を通じて細胞を落下させることで、下基板の細胞培養部に高確率で単一の細胞を播種することができる。すなわち、従来のマイクロピペットを用いて直接細胞を播種していた場合よりも、1つの細胞培養部(ウェル)に1個の細胞のみを高確率で導入することができる。また、細胞培養部の面積が大きい場合にも、高確率で1個の細胞を導入することができ、ニューロンなどの広い培養面積が必要な接着細胞の培養にも好適に利用することができる。
【0022】
以下、第1の発明に係る細胞培養デバイスの各部材について説明する。
[下基板]
下基板は、細胞培養部を具備する基板であり、その材質としては、例えば、シリコンウエハ、ガラスウエハ、石英ウエハ等のセラミックス製ウエハを挙げることができる。厚さとしては、200μm以上であることが好ましく、200~500μmであることがより好ましく、250~350μmであることがさらに好ましい。
【0023】
(細胞培養部)
細胞培養部は、細胞を播種して培養する部位であり、例えば、下基板に形成されたウェル(くぼみ)である。細胞培養部の内部空間の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、円柱状、角柱状、逆円錐台状、逆角錐台状等の形状を挙げることができ、逆角錐台状が好ましく、逆四角錐台状(逆ピラミッド状)が特に好ましい。細胞培養部は、1又は複数設けることができ、通常、後述の上基板の細胞収容部に対応する数を有し、上基板の細胞収容部と対応する位置に配置される。細胞培養部は、格子状(アレイ状)に多数配置されていることが好ましい。
【0024】
細胞培養部が格子状に配置される場合、細胞培養部は、細胞培養部の側壁(周壁)をなす格子状に設けられた仕切り部材(下仕切り部材)により仕切られ、区画される。この下仕切り部材の上部の全部又は一部に、後述する上基板の細胞収容部の上仕切り部材の下部に形成された凹部を嵌合させて、下基板の細胞培養部及び上基板の細胞収容部の位置合わせを行うことが好ましい。
【0025】
細胞培養部の底部膜(細胞培養膜)の大きさ(直径(多角形の場合は対角線))としては、100~1000μmであることが好ましく、150~800μmであることがより好ましく、200~600μmであることがさらに好ましい。
【0026】
細胞培養膜には、微小孔が形成されていなくてもよいが、複数の微小孔が形成されていることが好ましい。これにより、例えば、細胞培養膜の一方の面に細胞を担持させる場合、他方の面から微小孔を通じて培地の栄養素を供給することができる。また、細胞培養膜の両面に細胞を担持させる場合、微小孔を通じて細胞間コミュニケーションを円滑に行うことができる。
【0027】
微小孔の形状としては、細胞の種類や培養目的等によって適宜設定することができ、例えば、円形状、多角形状等の形状を挙げることができる。微小孔の直径(多角形の場合は対角線)としては、細胞が通過できない程度の大きさが好ましく、20μm以下であることが好ましく、0.1~10μmであることがより好ましく、0.5~5μmであることがさらに好ましく、1~4μmが特に好ましい。細胞培養部の底部膜における微小孔の面積率としては、微小孔の直径にもよるが、例えば、10~70%であることが好ましく、10~50%であることがより好ましく、10~20%であることがさらに好ましい。この範囲であれば、微小孔を通じた栄養素の供給や、細胞間コミュニケーションを円滑に行うことができ、また、透明な材料の場合、高い透明性を保持することができる。
【0028】
細胞培養膜の膜厚としては、例えば、0.1~5μmであることが好ましく、0.5~1.5μmであることがより好ましい。この範囲であれば、細胞の足場としての機械的強度を保持することができ、また、透明な材料の場合、高い透明性を保持することができる。
【0029】
細胞培養膜の材質としては、細胞の足場となるものであれば特に制限されるものではないが、細胞観察が容易な点から、透明な材料から構成されていることが好ましい。透明な材料としては、有機材料であってもよいが無機材料が好ましい。無機材料としては、例えば、ケイ素、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウムの窒化物、酸化物、酸窒化物等のうち、透明なものを挙げることができる。具体的には、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸窒化ケイ素(SiON)、酸窒化チタン(TiON)、酸化インジウム(In2O3)、酸化インジウムスズ(ITO)等を挙げることができ、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素が好ましく、窒化ケイ素又は酸化ケイ素が特に好ましい。これらの透明な無機材料は、2種以上併用してもよい。また、2種類以上の積層膜を形成してもよい。例えば、無機材料の表面に透明な有機材料がコートされたものであってもよい。
なお、本明細書において、「透明」とは、波長500nm~600nmにおける光線透過率が70%以上であることをいい、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0030】
細胞培養部の底部膜(細胞培養膜)は、細胞接着や細胞増殖の促進のため、その表面が機能性分子で修飾されていることが好ましい。機能性分子としては、細胞培養に用いることができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン、エラスチン、ヒアルロン酸、テネイシン等の細胞外マトリクスや、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸、ロイシン-アスパラギン酸-バリン、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン等の細胞接着ペプチドや、ポリ-L-リジン、ポリ-L-オルニチン等の合成分子などを挙げることができる。
【0031】
(支持枠部)
下基板は、下基板を支持する支持枠部(ホルダー)を備えていることが好ましい。これにより、上基板を下基板上に配設する際、より安定して配置させることができる。また、把持部として用いることができるため、操作性を向上できる。支持枠部の材質としては、合成樹脂を挙げることができる。
【0032】
[上基板]
上基板は、上述の下基板の上方に配設され、1つの微小孔が形成された底部膜を有する細胞収容部を具備する基板である。基板の材質としては、下基板と同様のものを用いることができ、下基板と同一の材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。上基板の厚さとしては、200μm以上であることが好ましく、200~500μmであることがより好ましく、250~350μmであることがさらに好ましい。
【0033】
(細胞収容部)
細胞収容部は、細胞を収容できる部位であり、例えば、上基板に形成されたウェル(くぼみ)である。細胞収容部の内部空間の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、円柱状、角柱状、逆円錐台状、逆角錐台状等の形状を挙げることができ、逆角錐台状が好ましく、逆四角錐台状(逆ピラミッド状)がより好ましい。細胞収容部は、1又は複数設けることができ、通常、上述の下基板の細胞培養部に対応する数を有し、下基板の細胞培養部と対応する位置に配置される。細胞収容部は、格子状(アレイ状)に多数配置されていることが好ましい。2以上の細胞収容部を備えている場合、各細胞収容部は、均一に細胞が落下するよう、同一の構成であることが好ましい。
【0034】
細胞収容部が格子状に配置される場合、細胞収容部は、細胞収容部の側壁(周壁)をなす格子状に設けられた仕切り部材(上仕切り部材)により仕切られ、区画される。上記のように、この上仕切り部材の下部に凹部を形成し、上記下基板の細胞培養部の下仕切り部材の上部の凸部を嵌合させて、両者の位置合わせを行うことが好ましい。通常、下基板上に上基板を配設した際、上基板の細胞収容部の一部が下基板の細胞培養部内に導入された状態となる。したがって、上基板の細胞収容部の底部膜は、下基板の細胞培養部の底部膜よりも小さく、例えば、1/3~2/3程度が好ましい。
【0035】
細胞収容部の底部膜には、細胞が通過できる程度の大きさの1つの微小孔が形成されている。かかる1つの微小孔は、細胞収容部の底部膜の中央に形成されていることが好ましい。これにより、上基板を下基板の上方に配設した際、微小孔が、下基板の細胞培養部の底部膜の中央上方に位置し、下基板の細胞培養部に確実に落下させることができる。微小孔の形状としては、細胞の種類等によって適宜設定することができ、例えば、円形状、多角形状等の形状を挙げることができる。微小孔の直径(多角形の場合は対角線)としては、細胞の種類に応じて適宜設定することができ、1つの細胞の直径以上、2つの細胞の直径の合計未満が好ましい。例えば、直径3~50μmであることが好ましく、8~20μmであることがより好ましい。具体的に例えば、ニューロンの場合、その直径が8μm程度であることから、直径10~15μmの微小孔が好ましい。これにより、1つの細胞培養部に1つの細胞のみを高確率で播種することができる。
【0036】
(支持枠部)
上基板は、上基板を支持する支持枠部(ホルダー)を備えていることが好ましい。これにより、上基板を下基板上に配設する際、より安定して配置させることができる。また、把持部として用いることができるため、操作性を向上できる。周壁部の材質としては、合成樹脂を挙げることができる。
【0037】
[下基板の細胞培養部及び上基板の細胞収容部の位置合わせ態様]
第1の発明に係る細胞培養デバイスは、下基板上に上基板を配設した際、下基板の底部膜及び上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されると共に、上基板の底部膜の1つの微小孔が、下基板の底部膜の上方に位置するように配置される。この際、それぞれの底部膜の中央部が一致するよう配置されることが好ましい。これにより、確実かつ正確に細胞を下基板の細胞培養部の底部膜へ落下させることができる。底部膜同士の間隔としては、5~500μmであることが好ましく、20~250μmであることがより好ましく、50~200μmであることがさらに好ましい。
【0038】
下基板及び上基板の位置合わせの態様としては、特に制限されるものではなく、例えば、下基板及び上基板にそれぞれ形成した凹凸を嵌合させる態様や、下基板及び上基板の外周にそれぞれ形成した大小の直径(多角形の場合は対角線)の周囲凸部同士を隣接嵌合させる態様や、下基板の周囲枠内に上基板を載置する態様や、下基板及び上基板にそれぞれ付した目印同士を合わせて固定具により固定する態様や、下基板及び上基板にそれぞれ形成した挿通孔に挿通棒を挿通して固定する態様等を挙げることができる。
【0039】
具体的に、下基板及び上基板にそれぞれ形成した凹凸を嵌合させる態様としては、例えば、下基板が凸部又は凹部を具備すると共に、上基板が凹部又は凸部を具備し、下基板の凸部又は凹部と上基板の凹部又は凸部とが嵌合して、下基板の細胞培養部と上基板の細胞収容部との位置合わせが行われる態様を挙げることができる。より具体的には、下基板を包囲する周囲凸部又は周囲凹部に、上基板を包囲する周囲凹部又は周囲凸部とを嵌合させる態様や、下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、下仕切り部材に対応する上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されて、下基板の格子状凸部と上基板の格子状凹部とを嵌合させる態様を挙げることができる。凸部又は凹部は、下基板及び上基板にそれぞれ1つ設けられているものであってもよいし、複数設けられているものであってもよい。
【0040】
下基板及び上基板にそれぞれ形成した周囲凸部同士を隣接嵌合させる態様としては、下基板の周囲を包囲する周囲凸部と、上基板を包囲する、下基板の凸部より一回り大きい又は小さい直径(多角形の場合は対角線)の周囲凸部を隣接嵌合させて配設する態様を挙げることができる。
【0041】
このような下基板及び上基板の位置合わせ態様の場合、特別な装置を用いることなく、下基板の細胞培養部及び上基板の細胞収容部の水平方向及び垂直方向(上基板の細胞培養膜と下基板の細胞培養膜との距離)の位置合わせを容易かつ正確に行うことができ、培養する際の操作性が向上する。
【0042】
<第1の発明に係る細胞培養デバイスの製造方法>
続いて、第1の発明に係る細胞培養デバイスの製造方法について説明する。
第1の発明に係る細胞培養デバイスにおける下基板及び上基板の作製方法としては、特に制限されるものではなく、種々の方法により作製することができるが、半導体微細加工技術であるフォトリソグラフィーを用いて作製することが好ましい。例えば、特開2014-147342号に記載の細胞培養シートと同様の方法を用いることができる。
【0043】
以下、本発明の第1の発明に係る細胞培養デバイスの製造方法の一例を説明する。
具体的には、本発明の細胞培養デバイスが、下基板が格子状に配置された複数の細胞培養部を具備すると共に、上基板が格子状に配置された複数の細胞収容部を具備し、下基板の格子状の複数の細胞培養部を仕切る下仕切り部材の上部が凸部を構成すると共に、下仕切り部材に対応する上基板の複数の細胞収容部を仕切る上仕切り部材の下部に、下仕切り部材の上部凸部に対応する凹部が形成されている場合について説明する。また、下基板及び上基板として、表面に(100)の結晶方位を有する片面が鏡面のシリコン基板を用いる場合について説明する。
【0044】
(下基板の作製)
下基板作製工程は、細胞培養部形成工程と、底部膜微小孔形成工程とを有している。
細胞培養部形成工程としては、例えば、プラズマCVD法等の化学気相成長法を用いて、シリコン基板の両面に透明な無機材料としての窒化ケイ素膜(無機材料膜)を形成する工程と、該シリコン基板の一方の面(非鏡面)の窒化ケイ素膜にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布してレジスト層を形成し、該レジスト層表面に、複数のエッチング窓用のパターンが描かれたフォトマスクを介して、紫外線を照射する工程と、シリコン基板を現像液に浸漬させ、レジスト層を現像し、エッチング窓をパターニングする工程と、残存したレジスト層をマスク(保護膜)として、プラズマ化した反応性ガスを用いて露出部分の窒化ケイ素膜をエッチングした後に、有機溶媒によりレジスト層を除去する工程と、シリコン基板をエッチング液に浸漬し、シリコンの結晶面に沿って四角錐台状(逆ピラミッド状)にシリコンをエッチングし、格子状の複数の細胞培養部を形成する工程とを有しているものを挙げることができる。なお、細胞培養部の形成と同時に、格子状の凸部(細胞培養部の周壁)が形成される。
【0045】
また、底部膜微小孔形成工程としては、シリコン基板の他方の面(鏡面)の窒化ケイ素膜にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布してレジスト層を形成し、1つの細胞培養部あたり複数の微小孔が描かれたガラスマスクを介して、紫外線を照射する工程と、シリコン基板を現像液に浸漬させ、レジスト層を現像し、微小孔をパターニングする工程と、残存したレジスト層をマスク(保護膜)として、プラズマ化した反応性ガスを用いて露出部分の窒化ケイ素膜をエッチングして微小孔を形成した後に、レジスト層を除去する工程とを有しているものを挙げることができる。
【0046】
また、最後に、シリコン基板をエッチング液に浸漬し、エッチング窓と微小孔からシリコンの結晶面に沿ってシリコン残部をエッチングする仕上げ工程を有することが好ましい。
【0047】
(上基板の作製)
上基板作製工程は、細胞収容部形成工程と、底部微小孔及び凹部形成工程とを有している。
【0048】
細胞収容部形成工程としては、例えば、プラズマCVD法等の化学気相成長法を用いて、シリコン基板の両面に透明な無機材料としての窒化ケイ素膜(無機材料膜)を形成する工程と、該シリコン基板の一方の面(非鏡面)の窒化ケイ素膜にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布してレジスト層を形成し、該レジスト層表面に、複数のエッチング窓用の矩形パターンが描かれたフォトマスクを介して、紫外線を照射する工程と、シリコン基板を現像液に浸漬させ、レジスト層を現像し、エッチング窓をパターニングする工程と、残存したレジスト層をマスク(保護膜)として、プラズマ化した反応性ガスを用いて露出部分の窒化ケイ素膜をエッチングした後に、有機溶媒によりレジスト層を除去する工程と、シリコン基板をエッチング液に浸漬し、エッチング窓からシリコンの結晶面に沿って四角錐台状(逆ピラミッド状)にシリコンをエッチングし、格子状に配置された複数の細胞収容部を形成する工程とを有している。なお、下基板同様、細胞収容部の形成と同時に、格子状の凸部(細胞収容部の周壁)が形成される。
【0049】
また、底部膜微小孔及び凹部形成工程は、シリコン基板の他方の面(鏡面)の窒化ケイ素膜にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布してレジスト層を形成し、1つの細胞収容部あたりの1つの微小孔と凹部パターンが描かれたフォトマスクを介して、紫外線を照射する工程と、シリコン基板を現像液に浸漬させ、レジスト層を現像し、微小孔及び凹部をパターニングする工程と、残存したレジスト層をマスク(保護膜)として、プラズマ化した反応性ガスを用いて露出部分の窒化ケイ素膜をエッチングして微小孔及び凹部形成予定部を形成した後に、有機溶媒によりレジスト層を除去する工程と、シリコン基板を界面活性剤を添加したエッチング液に浸漬し、シリコンの結晶面に沿ってシリコンをエッチングし、凹部を形成する工程とを有している。
【0050】
なお、凹部を形成する処理と同時に、細胞収容部形成処理におけるシリコン残部をエッチングする仕上げ処理を行うことが好ましい。
【0051】
<第1の発明に係る細胞培養方法>
続いて、上記第1の発明に係る細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法について説明する。
第1の発明に係る細胞培養方法は、上記第1の発明に係る細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、上基板の細胞収容部の底部膜上に細胞を播種し、上基板の細胞収容部の底部膜に形成された1つの微小孔を通じて、下基板の細胞培養部の底部膜に細胞を落下させ、細胞培養部にて細胞を培養することを特徴とする。
【0052】
第1の発明に係る細胞培養方法によれば、上基板の細胞収容部の底部膜に形成された1つの微小孔を通して、下基板の細胞培養部に細胞を落下させ播種することから、従来のマイクロウェルアレイにマイクロピペットを用いて細胞を直接播種する方法よりも、1個のウェルに1個の細胞を高確率で導入することができる。また、ニューロンなどの接着細胞は広い培養面積が必要であるが、このような大きな細胞培養部に対しても、1個の細胞を高確率で導入することができる。
【0053】
以下、図面を用いて第1の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に制限されるものではない。
【0054】
ここで、
図1は、第1の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの概略説明図である。
図2は、
図1の細胞培養デバイスの下基板及び上基板の概略断面図である。
図3は、
図1の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法についての説明図である。
【0055】
図1に示すように、第1の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイス1は、正方形の下基板10と、下基板10の上方に配設された正方形の上基板12を備えている。
【0056】
図2及び
図3に示すように、下基板10は、4×4の格子状に配置され、16個の300μm角(X)の底部膜を有する細胞培養部14を具備している。細胞培養部14の底部膜は、200個程度の直径3μm程度の微小孔18を有する窒化ケイ素製の細胞培養膜である。下基板10の格子状の細胞培養部14を仕切る下仕切り部材16の上部が凸部20を構成している。下基板10は、下基板10を支持する支持枠部としてのPC(ポリカーボネート)ホルダー22を備えている。
【0057】
図2及び
図3に示すように、上基板12は、4×4の格子状に配置され、16個の150μm角(Y)の底部膜を有する細胞収容部24を具備している。細胞収容部24の底部膜は、直径12μm程度の1つの微小孔26がその中央に形成された窒化ケイ素膜である。上基板12の細胞収容部24を仕切る上仕切り部材28の下部に、下仕切り部材16の上部凸部20に対応する凹部30が形成されている。下基板10の細胞培養部14の底部と上基板12の細胞収容部24との間隔(Z)は、150μm程度であり、下基板10の上部凸部20と上基板12の凹部30の嵌合により、水平方向及び垂直方向の位置合わせが行われている。上基板12は、上基板12を支持する支持枠部としてのPDMS(ポリジメチルシロキサン)フレーム32を備えている。
【0058】
次に、上述した細胞培養デバイス1を用いた細胞培養方法の一例を説明する。
図3に示すように、まず、下基板10の細胞培養部14の上面に、機能性分子を修飾する一方、下基板10の細胞培養部14の下面に、機能性分子を修飾し、アストロサイトAを播種する(
図3(a))。
【0059】
続いて、下基板10の上に上基板12を重ね合わせる(
図3(b))。この際、下基板10の凸部20と上基板12の凹部30とを嵌合させ、下基板10の凸部20の頂面を上基板12の凹部30の底面に当接させることにより、水平方向及び垂直方向の位置合わせが行われる。
【0060】
続いて、上基板12の細胞収容部24内にニューロンの細胞懸濁液を導入して、ニューロンBを播種する(
図3(c))。これにより、細胞収容部24の底部膜の微小孔26を介して、下基板10の細胞培養部14内に1個のニューロンBを高確率で導入することができる。
【0061】
続いて、細胞培養デバイス1をインキュベータ内で静置し、上基板12の微小孔26を通過して下基板10に到達したニューロンBを下基板10の細胞培養部14表面に接着させる。
続いて、上基板12を取り外し、下基板10で培養を継続する(
図3(d))。
【0062】
上記のとおり、第1の発明の細胞培養デバイスを用いることにより、上基板の細胞収容部が有する1つの微小孔を通じて細胞を落下させることで、下基板の細胞培養部に高確率で単一の細胞を播種することができる。また、下基板10の細胞培養部14の底部膜(細胞培養膜)を挟むようにして単一ニューロンBとアストロサイトAとの共培養がなされ、微小孔18を通じた両細胞の細胞間コミュニケーションが実現する。これにより、単一ニューロンの長期培養が可能となり、単一ニューロンレベルの解析及び薬効評価が可能になる。
【0063】
<第2の発明に係る細胞培養デバイス>
次に、第2の発明に係る細胞培養デバイスについて説明する。
第2の発明に係る細胞培養デバイスは、複数の微小孔が形成された底部膜(細胞培養膜)を有する細胞培養部を具備する下基板と、下基板の上方に配設され、複数の微小孔が形成された底部膜(細胞培養膜)を有する細胞収容部を具備する上基板とを備え、下基板上に上基板を配設した際、下基板の底部膜及び上基板の底部膜が上下に所定間隔をあけて配置されることを特徴とする。
【0064】
第2の発明に係る細胞培養デバイスは、下基板の細胞培養膜及び上基板の細胞培養膜が上下に所定間隔をあけて配置されることから、上基板と下基板のそれぞれの細胞培養膜の片面または両面に細胞を予め培養しておき、これらの基板を重ねて設置することで、良好な細胞間コミュニケーションを実現し得る。また、容易に基板を3層以上に重ねて細胞培養することが可能になる。
【0065】
第2の発明に係る細胞培養デバイスの下基板は、第1の発明に係る細胞培養デバイスの下基板(細胞培養部の底部膜に複数の微小孔が形成された場合)と同様である。第2の発明に係る細胞培養デバイスの上基板は、第1の発明に係る細胞培養デバイスの上基板において、底部膜を、第1の発明に係る細胞培養デバイスの下基板の複数の微小孔が形成された底部膜にしたものと同様である。
また、第2の発明に係る細胞培養デバイスの製造は、第1の発明に係る細胞培養デバイスの製造方法とほぼ同様であり、上記デバイスの構成の変更に基づく製法の変更点は、第1の発明の製法を適宜応用して適用することができる。
【0066】
<第2の発明に係る細胞培養方法>
続いて、上記第2の発明の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法について説明する。
第2の発明に係る細胞培養方法は、上記第2の発明の細胞培養デバイスを用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、下基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養すると共に、上基板の細胞培養膜の片面又は両面に細胞を培養することを特徴とする。
【0067】
第2の発明に係る細胞培養方法によれば、上基板及び下基板のそれぞれの細胞培養膜の片面又は両面に細胞を予め培養し、下基板上に上基板を配設する細胞培養デバイスを用いることで、容易に3層又は4層の細胞培養が可能となる。
【0068】
以下、図面を用いて第2の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に制限されるものではない。
【0069】
ここで、
図4は、第2の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイスの概略説明図である。
図5は、
図4の細胞培養デバイスの下基板及び上基板の概略断面図である。
図6は、
図4の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法についての説明図である。
【0070】
図4に示すように、第2の発明の一実施形態に係る細胞培養デバイス2は、正方形の下基板34と、下基板34の上方に配設され、正方形の上基板36を備えている。
【0071】
図5及び
図6に示すように、下基板34は、4×4の格子状に配置され、16個の300μm角(X)の底部膜を有する細胞培養部38を具備している。細胞培養部38の底部膜は、200個程度の直径3μm程度の微小孔40を有する窒化ケイ素製の細胞培養膜である。下基板34の格子状の細胞培養部38を仕切る下仕切り部材42の上部が凸部44を構成している。下基板34は、下基板34を支持する支持枠部としてのPC(ポリカーボネート)ホルダー46を備えている。
【0072】
図5及び
図6に示すように、上基板36は、4×4の格子状に配置され、16個の150μm角(Y)の底部膜を有する細胞培養部(細胞収容部)48を具備している。細胞培養部48は、200個程度の直径3μm程度の微小孔50を有する窒化ケイ素製の細胞培養膜により構成されている。上基板36の16個の細胞培養部48を仕切る上仕切り部材52の下部に、下仕切り部材42の上部凸部44に対応する凹部54が形成されている。下基板34の細胞培養部38の底部膜と上基板36の細胞培養部48の底部膜との間隔(Z)は、150μm程度であり、下基板34の上部凸部44と上基板36の凹部54の嵌合により、水平方向及び垂直方向の位置合わせが行われている。上基板36は、上基板36を支持する支持枠部としてのPDMS(ポリジメチルシロキサン)フレーム56を備えている。
【0073】
次に、上述した細胞培養デバイス2を用いた細胞培養方法の一例を説明する。
まず、下基板34の細胞培養部38の底部膜の上面に、機能性分子を修飾し、その上にアストロサイトAを播種して接着させる。また、下基板34の細胞培養部38の底部膜の下面に、機能性分子を修飾し、ニューロンBを播種して接着させる。
【0074】
同様に、上基板36の細胞培養部38の底部膜の下面に、ペリサイトDを接着させ、上面に、血管内皮細胞Cを接着させる。
【0075】
続いて、
図6に示すように、下基板34の上に上基板36を重ね合わせる。この際、下基板34の凸部44と上基板36の凹部54とを嵌合させ、下基板34の凸部44の頂面を上基板36の凹部54の底面に当接させることにより水平方向及び垂直方向の位置合わせが行われる。
【0076】
上記のとおり、下基板34の細胞培養部38の底部膜の両面に、ニューロンBとアストロサイトAを共培養することにより、脳内の神経系組織の2層構造を再構築することができる。また、上基板36の細胞培養部48の底部膜の両面に、血管内皮細胞CとペリサイトDを共培養することにより、脳内の血管系を再構築することができる。さらに、下基板34及び上基板36の細胞培養膜を極めて近接させて配置することで、これらの細胞間のコミュニケーションを促進させる。このような血液脳関門のモデルを構築すれば、血液から脳組織への薬剤の移行などを解析することが可能になる。
【0077】
このように、第2の発明の細胞培養デバイスを用いることにより、上基板及び下基板のそれぞれの細胞培養膜の両面に細胞を予め培養し、下基板上に上基板を配設することで、容易に多層の細胞培養が可能となる。
【実施例0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0079】
[下基板の作製]
表面に(100)の結晶方位を有する片面が鏡面のシリコン基板(直径約50mm、厚さ約300μm)を用いて、以下の手順で下基板を作製した。
【0080】
(1)プラズマCVDにより、シリコン基板の両面に厚さ1.2μmの窒化ケイ素膜(SiN膜)を形成した。
(2)シリコン基板の非鏡面側に、ポジ型レジストOFPR-800LB 23cp(東京応化工業株式会社製)を塗布し、16個×16個のエッチング窓用の矩形パターン(一辺690μm)が描かれたガラスマスクを介して、紫外線をレジスト表面に照射した。
(3)現像液NMD-3(2.38%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液;東京応化工業株式会社製)にシリコン基板を浸漬させ、レジストを現像し、エッチング窓をパターニングした。
【0081】
(4)残存したレジスト層をマスクとして、CF4ガスのプラズマを用いて露出部分のSiN膜をエッチングした後に、アセトンを用いてレジストを除去した。
(5)約80℃に加熱した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にシリコン基板を浸漬し、シリコンの結晶面に沿って逆四角錐台状(逆ピラミッド状)にシリコンを深さ約200μmエッチングした。
(6)シリコン基板の鏡面側にポジ型レジストOFPR-800LB 23cpを塗布し、細胞培養部1個当たり208個の微小孔(直径2μm)が描かれたガラスマスクを介して、紫外線をレジスト表面に照射した。
(7)現像液NMD-3にシリコン基板を浸漬させ、レジストを現像し、微小孔をパターニングした。
【0082】
(8)残存したレジスト層をマスクとして、CF4ガスのプラズマを用いて露出部分のSiN膜をエッチングした後に、アセトンを用いてレジストを除去した。
(9)約80℃に加熱した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にシリコン基板を浸漬し、エッチング窓と微小孔からシリコンの結晶面に沿ってシリコンをエッチングし、SiN製の自立膜(底部膜)を形成するとともに、周壁(凸部)を備えた細胞培養部を形成した。なお、底部膜の最終的な厚さは約1μm、微小孔の最終的な直径は約3.5μm、細胞培養部1個当たりの底部膜の大きさは300μm角であった。
(10)シリコン基板から切り出し、別途製作したポリカーボネート製の矩形ホルダーを基板の外周にPDMSで接着した。
【0083】
[上基板の作製]
続いて、表面に(100)の結晶方位を有する片面が鏡面のシリコン基板(直径約50mm、厚さ約300μm)を用いて、以下の手順で上基板を作製した。
【0084】
(1)プラズマCVDにより、シリコン基板の両面に厚さ1.2μmのSiN膜を形成した。
(2)シリコン基板の非鏡面側に、ポジ型レジストOFPR-800LB 23cpを塗布し、16個×16個のエッチング窓用の矩形パターン(一辺570μm)が描かれたガラスマスクを介して、紫外線をレジスト表面に照射した。
(3)現像液NMD-3にシリコン基板を浸漬させ、レジストを現像し、エッチング窓をパターニングした。
【0085】
(4)残存したレジスト層をマスクとして、CF4ガスのプラズマを用いて露出部分のSiN膜をエッチングした後に、アセトンを用いてレジストを除去した。
(5)約80℃に加熱した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にシリコン基板を浸漬し、シリコンの結晶面に沿って逆四角錐台状(逆ピラミッド状)にシリコンを深さ約180μmエッチングした。
(6)シリコン基板の鏡面側にポジ型レジストOFPR-800LB 23cpを塗布し、1個の微小孔(直径11μm)と凹部のパターンが描かれたガラスマスクを介して、紫外線をレジスト表面に照射した。
(7)現像液NMD-3にシリコン基板を浸漬させ、レジストを現像し、微小孔と凹部をパターニングした。
【0086】
(8)残存したレジスト層をマスクとして、CF4ガスのプラズマを用いて露出部分のSiN膜をエッチングした後に、アセトンを用いてレジストを除去した。
(9)約80℃に加熱した25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にシリコン基板を浸漬し、シリコンの結晶面に沿って、凹部の深さが約150μmになるまでエッチングした。この際に、エッチング窓と微小孔からもシリコンのエッチングが進行することで、SiN製の自立膜が形成された。また、予め濃度0.01%の界面活性剤Triton X-100をエッチング溶液に添加することで、凹部を構成する角部のオーバーエッチングを抑制した。なお、底部膜の最終的な厚さは約1μm、微小孔の最終的な直径は約13μm、1つの細胞収容部の底部膜の大きさは150μm角であった。
(10)シリコン基板から切り出し、PDMS(polydimethylsiloxane)製の矩形フレームを上面外周部に接着した。接着は、上基板表面のSiN膜表面とPDMS表面に真空紫外光を照射することで、両表面にOH基を形成させ、その後に、両表面を接触させて脱水縮合反応により行った。
【0087】
作製した細胞培養デバイスの実際の写真を
図7に示す。作製した細胞培養デバイスは、下基板(
図7(b))の格子状凸部と、上基板(
図7(a))の格子状凹部とを嵌合することにより、下基板の細胞培養部と上基板の細胞収容部との位置合わせを容易に行えることが確認できた。なお、下基板の細胞培養部の底部膜と上基板の細胞収容部の底部膜との間隔は、約150μmであった。
【0088】
[細胞播種試験]
上記実施例で作製を行った細胞培養デバイスを用いて、上基板のSiN膜に形成した微小孔を通じて下基板の細胞培養部内へ播種される細胞数の確認を行った。
【0089】
(細胞培養デバイスと細胞懸濁液の準備)
滅菌水で濃度0.1mg/mlに調製したPDL(Poly-D-lysine)水溶液に下基板を常温で一晩浸漬することで、SiN膜表面にPDLを修飾した。PBS(phosphate buffer saline)で面密度が0.5μg/cm2となるように調製したiMatrix-511(株式会社マトリクソーム製)を下基板の表面に貯留し、37℃、CO2濃度5%のインキュベータ内で1時間静置することで、SiN膜表面のPDL上にラミニン-511を修飾した。35mmディッシュの底面にPDMS製の短冊状のスペーサー(厚さ約1mm)を設置し、その上に下基板を設置し、B-27 Plus Supplement(Life Technologies Corporation製)を濃度2%で含む培地Neurobasal Plus Medium(Life Technologies Corporation製)を下基板が完全に浸漬するまで導入した。下基板の上に上基板を重ね合わせた。この際に、下基板の格子状凸部と上基板の格子状凹部とを嵌合させ、下基板の凸部の頂面を上基板の凹部の底面に当接させることにより位置合わせを行った。上記手順を繰り返し、同様の細胞培養デバイスを3個準備した。
【0090】
マウスより採取した海馬ニューロンを培地で懸濁し、播種密度が1800cells/cm2、9000cells/cm2、18000cells/cm2となるように調製した3種類の濃度の細胞懸濁液を準備した。
【0091】
(細胞播種試験)
(1)3個のデバイスそれぞれの上基板のPDMSフレーム内に3種類の異なる細胞懸濁液を導入して、ニューロンを播種した。
(2)デバイスを37℃、CO2濃度5%のインキュベータ内で2時間静置し、上基板の微小孔を通過して下基板に到達したニューロンが下基板のSiN膜表面に接着するのを待った。
(3)上基板を除去し、下基板をPBSで洗浄した。
(4)下基板を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液に15分浸漬することで細胞固定処理を行った後に、PBSで洗浄した。
(5)下基板を0.1%Triton X-100/PBS溶液に15分間浸漬することで透過処理を行った後に、PBSで洗浄した。
(6)PBSで500倍に希釈したDAPI溶液に下基板を常温で30分間浸漬することで、下基板のSiN膜表面に接着したニューロンの細胞核を蛍光染色し、PBSで洗浄した。
(7)蛍光倒立顕微鏡を用いた観察により、DAPIで染色された細胞核をカウントすることで、各ウェル内(細胞培養部内)のニューロンの数を得た。
【0092】
細胞播種試験の結果を
図8に示す。
図8に示すように、単一ニューロンが接着したウェル数(細胞培養部数)は、全体の約20%であった。従来の方法では、数%程度であったことから、本発明の細胞培養デバイスを用いた効果が大きいことがわかる。また、単一ニューロンが得られたウェル数はニューロンの播種密度に依存しないことがわかった。通常、培養容器に細胞を播種する際には、容器外周部における溶液のメニスカスの影響を大きく受け、容器中央部と外周部では細胞の密度が異なってしまう。特に、培養容器が小さくなるとその影響が大きくなる。しかしながら、本発明の細胞培養デバイスを用いた細胞培養方法は、溶液のメニスカスの影響を受けずに細胞の播種が可能であることがわかった。