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特開2023-170511シリコン単結晶の育成方法、シリコンウェーハの製造方法、および単結晶引き上げ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170511
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の育成方法、シリコンウェーハの製造方法、および単結晶引き上げ装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20231124BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082329
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英城
(72)【発明者】
【氏名】藤瀬 淳
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EG15
4G077EG19
4G077EG20
4G077EG24
4G077EJ02
4G077PA04
(57)【要約】
【課題】確実に対流モードの固定を行ってシリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制するとともに、酸素濃度を制御する。
【解決手段】チャンバと、シリコン融液を貯留する坩堝と、シリコン融液を加熱する加熱部と、リコン融液から引き上げられたシリコン単結晶を取り囲むように坩堝の上方に配置された熱遮蔽体と、前記シリコン単結晶と前記熱遮蔽体との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、を備えた単結晶引き上げ装置を用い、シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の育成方法であって、熱遮蔽体を、熱遮蔽体の開口部の中心位置を通る垂直な中心軸が坩堝の垂直な回転中心軸に対して水平磁場の磁場中心の印加方向に沿う方向とは異なる方向にずれるように配置するシリコン単結晶の育成方法を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、シリコン融液を貯留する坩堝と、前記シリコン融液を加熱する加熱部と、前記シリコン融液から引き上げられたシリコン単結晶を取り囲むように前記坩堝の上方に配置された熱遮蔽体と、前記シリコン単結晶と前記熱遮蔽体との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、を備えた単結晶引き上げ装置を用い、前記シリコン融液に水平磁場を印加しながら前記シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の育成方法であって、
前記熱遮蔽体を、前記熱遮蔽体の開口部の中心位置を通る垂直な中心軸が前記坩堝の垂直な回転中心軸に対して前記水平磁場の磁場中心の印加方向に沿う方向とは異なる方向にずれるように配置するシリコン単結晶の育成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶の育成方法において、
前記熱遮蔽体を、前記熱遮蔽体の中心軸が前記坩堝の回転中心軸に対して前記印加方向と直交する水平方向にずれるように配置するシリコン単結晶の育成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の育成方法において、
上方から前記熱遮蔽体の開口部を介して見える前記シリコン融液の表面を、前記開口部の中心位置を通り前記印加方向に平行な線で前記印加方向と直交する水平方向の一方側と他方側とに分けた場合に、小さい方の表面積をA、大きい方の表面積をBとし、A/Bが0.3以上0.96以下となるように前記熱遮蔽体を配置するシリコン単結晶の育成方法。
【請求項4】
請求項3に記載のシリコン単結晶の育成方法を含み、
育成された前記シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
チャンバと、
シリコン融液を貯溜する坩堝と、
前記シリコン融液を加熱する加熱部と、
前記シリコン融液から引き上げられたシリコン単結晶を取り囲むように前記坩堝の上方に配置された熱遮蔽体と、
前記シリコン単結晶と前記熱遮蔽体との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記坩堝内の前記シリコン融液に水平磁場を印加する磁場印加部と、を備え、
前記熱遮蔽体は、前記熱遮蔽体の開口部の中心位置を通る垂直な中心軸が前記坩堝の垂直な回転中心軸に対して前記水平磁場の磁場中心の印加方向に沿う方向とは異なる方向にずれるように配置されている単結晶引き上げ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の単結晶引き上げ装置において、
前記熱遮蔽体は、前記熱遮蔽体の中心軸が前記坩堝の回転中心軸に対して前記印加方向と直交する水平方向にずれるように配置されている単結晶引き上げ装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の単結晶引き上げ装置において、
前記熱遮蔽体は、上方から前記熱遮蔽体の開口部を介して見える前記シリコン融液の表面を、前記開口部の中心位置を通り前記印加方向に平行な線で前記印加方向と直交する水平方向の一方側と他方側とに分けた場合に、小さい方の表面積をA、大きい方の表面積をBとし、A/Bが0.3以上0.96以下となるように配置されている単結晶引き上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の育成方法、シリコンウェーハの製造方法、および単結晶引き上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成方法として、チョクラルスキー法が知られている。近年、シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を育成する、いわゆるMCZ法が多用されるようになっている。MCZ法を用いてシリコン融液に水平磁場を印加した場合、図1(a)に示すように坩堝3内で右回りの対流C1が優勢となる場合(以下、右渦モードと呼ぶ。)と、図1(b)に示すように坩堝3内で左回りの対流C2が優勢となる場合(以下、左渦モードと呼ぶ。)のどちらかの対流モードが初期に形成される。図1において、符号MDは水平磁場の磁場中心の印加方向である。
【0003】
対流モードが右渦モードとなるか左渦モードとなるかはランダムであり、対流モードと炉内環境によって結晶に取り込まれる酸素濃度がばらついてしまう。安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶を得るためには、引き上げ中のシリコン融液の対流モードを制御することが重要となる。このため、坩堝内のシリコン融液の対流モードを制御する手法について様々な検討が行われている。
【0004】
特許文献1には、2つの対流モードのうち一方を安定的に選択することによって、対流モードに起因する酸素濃度のばらつきを排除する方法が開示されている。具体的には、熱遮蔽体の切り欠き形状を変化させて不活性ガスの風速を不均一とすることで対流モードを一方に固定し、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制している。
【0005】
また、特許文献2には、坩堝の回転中心軸の位置と引き上げ軸の位置とをずらしてシリコン融液の熱分布中心軸を育成されるシリコン単結晶の中心軸からずらすことで対流モードを一方に固定し、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制する方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、熱遮蔽体に局所的な切り欠きを形成したり、熱遮蔽体の開口部を楕円形状とするなどして、不活性ガスの流量を周方向で変化させることによって対流モードを一方に固定し、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-083717号公報
【特許文献2】特開平04-31387号公報
【特許文献3】特開2019-151503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、不活性ガスの風速変化が起こる箇所が局所的となり、対流モードの固定に至らない場合があるという課題がある。
また、特許文献2に記載の方法では、種結晶をシリコン融液に接触させる工程が難しくなり、単結晶を育成できる確率が低下して歩留まりが悪くなるという課題がある。
また、特許文献3に記載の方法では、周方向の遮熱効果が不均一となるため、結晶周方向で温度分布が大きくなり、結晶くねりが発生し、引き上げができなくなる可能性がある。
さらに、上記特許文献1から特許文献3に記載の方法では、育成されるシリコン単結晶の酸素濃度の制御性が乏しく、対流モードが固定できた場合においても、所望の酸素濃度を得るために引上げ条件を更に調整する必要がある。
【0009】
本発明は、確実に対流モードの固定を行いながら、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制するとともに、酸素濃度を制御することができるシリコン単結晶の育成方法、シリコンウェーハの製造方法、および単結晶引き上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシリコン単結晶の育成方法は、チャンバと、シリコン融液を貯留する坩堝と、前記シリコン融液を加熱する加熱部と、前記シリコン融液から引き上げられたシリコン単結晶を取り囲むように前記坩堝の上方に配置された熱遮蔽体と、前記シリコン単結晶と前記熱遮蔽体との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、を備えた単結晶引き上げ装置を用い、前記シリコン融液に水平磁場を印加しながら前記シリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の育成方法であって、前記熱遮蔽体を、前記熱遮蔽体の開口部の中心位置を通る垂直な中心軸が前記坩堝の垂直な回転中心軸に対して前記水平磁場の磁場中心の印加方向に沿う方向とは異なる方向にずれるように配置することを特徴とする。
【0011】
上記シリコン単結晶の育成方法において、前記熱遮蔽体を、前記熱遮蔽体の中心軸が前記坩堝の回転中心軸に対して前記印加方向と直交する水平方向にずれるように配置することが好ましい。
【0012】
上記シリコン単結晶の育成方法において、上方から前記熱遮蔽体の開口部を介して見える前記シリコン融液の表面を、前記開口部の中心位置を通り前記印加方向に平行な線で前記印加方向と直交する水平方向の一方側と他方側とに分けた場合に、小さい方の表面積をA、大きい方の表面積をBとし、A/Bが0.3以上0.96以下となるように前記熱遮蔽体を配置することが好ましい。
【0013】
本発明のシリコンウェーハの製造方法は、上記シリコン単結晶の育成方法を含み、育成された前記シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すことを特徴とする。
【0014】
本発明の単結晶引き上げ装置は、チャンバと、シリコン融液を貯溜する坩堝と、前記シリコン融液を加熱する加熱部と、記シリコン融液から引き上げられたシリコン単結晶を取り囲むように前記坩堝の上方に配置された熱遮蔽体と、前記シリコン単結晶と前記熱遮蔽体との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記坩堝内の前記シリコン融液に水平磁場を印加する磁場印加部と、を備え、前記熱遮蔽体は、前記熱遮蔽体の開口部の中心位置を通る垂直な中心軸が前記坩堝の垂直な回転中心軸に対して前記水平磁場の磁場中心の印加方向に沿う方向とは異なる方向にずれるように配置されていることを特徴とする。
【0015】
上記単結晶引き上げ装置において、前記熱遮蔽体は、前記熱遮蔽体の中心軸が前記坩堝の回転中心軸に対して前記印加方向と直交する水平方向にずれるように配置されていることが好ましい。
【0016】
上記単結晶引き上げ装置において、前記熱遮蔽体は、上方から前記熱遮蔽体の開口部を介して見える前記シリコン融液の表面を、前記開口部の中心位置を通り前記印加方向に平行な線で前記印加方向と直交する水平方向の一方側と他方側とに分けた場合に、小さい方の表面積をA、大きい方の表面積をBとし、A/Bが0.3以上0.96以下となるように配置されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】対流モードを説明する模式図である。
図2】本発明の実施形態の単結晶引き上げ装置の模式断面図である。
図3】本発明の実施形態の熱遮蔽体の配置を説明する模式平面図である。
図4】隙間距離とシリコン融液表面上の不活性ガスの風速との関係を示すグラフである。
図5】坩堝周辺の不活性ガスの流れや酸素蒸発などを説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔単結晶引き上げ装置の構成〕
本発明の実施形態の単結晶引き上げ装置の構成について説明する。
図2に示すように、単結晶引き上げ装置1は、MCZ法によりシリコン融液Mに水平磁場を印加しながらシリコン単結晶SMを引き上げる装置である。単結晶引き上げ装置1は、チャンバ2と、チャンバ2内に配置されシリコン融液Mを貯留する坩堝3と、ヒーター4と、シリコン単結晶SMを引き上げる引き上げ部5と、シリコン単結晶SMを取り囲むように坩堝3の上方に配置された熱遮蔽体6と、断熱材7と、坩堝駆動部8と、シリコン融液Mに水平磁場を印加する磁場印加部9(図3参照)と、シリコン単結晶SMと熱遮蔽体6との間を通過する不活性ガスを供給する不活性ガス供給部18と、を備えている。
【0019】
坩堝3は、石英坩堝3Aと、石英坩堝3Aを収容する黒鉛坩堝3Bとから構成される二重構造である。
坩堝駆動部8は、坩堝3を下方から支持する支持軸11を備え、坩堝3を回転中心軸A1回りに所定の速度で回転および昇降させる。
【0020】
チャンバ2は、メインチャンバ12と、メインチャンバ12の上部に接続されたプルチャンバ13とを備えている。メインチャンバ12とプルチャンバ13とは、ゲートバルブ14を介して接続されている。
【0021】
メインチャンバ12は、坩堝3、ヒーター4、熱遮蔽体6などが配置される本体部12Aと、本体部12Aの上面を閉塞する蓋部12Bとを備えている。本体部12Aは円筒型をなしている。蓋部12Bには、アルゴンガスなどの不活性ガスをメインチャンバ12に導入するための開口部15が設けられている。本体部12Aと蓋部12Bとの間には、内側に延びる支持部17が設けられている。
【0022】
プルチャンバ13には、不活性ガス供給部18から供給された不活性ガスをメインチャンバ12内に導入するガス導入口20が設けられている。メインチャンバ12の本体部12Aの下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、メインチャンバ12内の気体を吸引して排出するガス排気口21が設けられている。
ガス導入口20からチャンバ2内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶SMと熱遮蔽体6との間を下降する。次いで、不活性ガスは熱遮蔽体6の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体6の外側、さらに坩堝3の外側に向けて流れる。その後、不活性ガスは坩堝3の外側を下降し、ガス排気口21から排出される。
【0023】
ヒーター4は抵抗加熱式による加熱部であり、シリコン融液Mを加熱する。ヒーター4は、坩堝3の周囲、かつ、断熱材7の内側に配置されている。ヒーター4は、その全体が円筒状となるように形成されている。
【0024】
引き上げ部5は、一端に種結晶SCが取り付けられる引き上げ軸24と、引き上げ軸24を昇降および回転させる引き上げ駆動部23とを備えている。
チャンバ2とヒーター4の中心軸は坩堝3の回転中心軸A1と一致し、また、坩堝3の回転中心軸A1は引き上げ軸24の中心と一致している。
【0025】
断熱材7は円筒型をなし、径方向に所定の厚みを有している。断熱材7は、ヒーター4の外側、かつ、チャンバ2の内側に配置されている。
【0026】
熱遮蔽体6は、育成中のシリコン単結晶SMに対して、坩堝3内のシリコン融液Mやヒーター4や坩堝3の側壁からの高温の輻射熱を遮断する。また、熱遮蔽体6は、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱の拡散を抑制し、シリコン単結晶SMの中心部および外周部の上下方向の温度勾配を制御する。
さらに、熱遮蔽体6は、シリコン融液Mからの蒸発物を炉上方から導入した不活性ガスにより、炉外に排気する整流筒として機能する。
【0027】
熱遮蔽体6は、上端がチャンバ2の支持部17に支持されている。熱遮蔽体6は、下端に向かうにしたがって直径が小さくなる円錐台筒状に形成されている。熱遮蔽体6が円錐台筒状に形成されていることで、熱遮蔽体6の下端には上端よりも小径の開口部6Aが設けられる。開口部6Aの中心位置は、熱遮蔽体6の中心軸A2と一致している。
なお、熱遮蔽体6の形状は上記したような形状に限ることはなく、例えば円筒状の本体部と、本体部の下端全周から内側に鍔状に突出する突出部とを備え、突出部を下方に向かうにしたがって直径が小さくなる円錐台筒状に形成してもよい。
【0028】
図3に示すように、熱遮蔽体6は、熱遮蔽体6の開口部6Aの中心位置を通る垂直な中心軸A2が坩堝3の垂直な回転中心軸A1に対して水平磁場の磁場中心の印加方向MDと直交する水平方向にずれるように配置されている。
すなわち、熱遮蔽体6の中心軸A2は坩堝3の回転中心軸A1とは一致しておらず、引き上げられるシリコン単結晶SMの外周面と熱遮蔽体6の開口部6Aとの間の隙間距離Gは、熱遮蔽体6の周方向で不均一となる。
隙間距離Gは、熱遮蔽体6の開口部6Aの中心位置(熱遮蔽体6の中心軸A2)と開口部6Aの周方向の任意の位置を通過する直線L2上におけるシリコン単結晶SMと熱遮蔽体6の開口部6Aとの距離である。なお、図3においては、熱遮蔽体6の配置を説明するために、熱遮蔽体6のずれ量を強調している。
【0029】
具体的には、熱遮蔽体6は、上方から開口部6Aを介して見えるシリコン融液Mの表面を、開口部6Aの中心位置を通り水平磁場の磁場中心の印加方向MDに平行な線L1で水平方向Dの一方側D1と他方側D2とに分けた場合に、小さい方の表面積をA、大きい方の表面積をBとし、A/B(面積Aと面積Bの比)が0.3以上0.96以下となるように配置されている。以下の説明においては、小さい方の面積Aの領域をA領域、大きい方の面積Bの領域をB領域と呼ぶ。
【0030】
磁場印加部9は、電磁コイルで構成された第1の磁性体9Aおよび第2の磁性体9Bを備えている。磁性体9A,9Bは、チャンバ2の外側において坩堝3を挟んで対向するように設けられている(図3では、チャンバ2を省略し、磁場印加部9を坩堝3近傍に図示している。)。このように磁場印加部9は、磁場中心の印加方向MDが、坩堝3の回転中心軸A1を通り水平方向となるように配置される。すなわち、磁場中心は坩堝3の回転中心軸A1を通る水平方向である。
【0031】
〔シリコン単結晶の育成方法〕
次に、上記した単結晶引き上げ装置1を用いたシリコン単結晶の育成方法を説明する。
まず、水平磁場を印加せずに、チャンバ2内に不活性ガスを導入し、減圧下の不活性ガス雰囲気に維持した状態で、坩堝3を回転させるとともに、坩堝3に貯留された多結晶シリコンなどの固形原料をヒーター4の加熱により溶融させ、シリコン融液Mを生成する。
次いで、不活性ガスの導入を続けながら、磁場印加部9を駆動して水平磁場を印加する。このとき、隙間距離Gは周方向に不均一となっている。
次いで、事前に設定されたプロセス条件に基づき、シリコン融液Mに種結晶SCを着液してから、シリコン単結晶SMを引き上げる。
【0032】
ここで、隙間距離Gと、シリコン融液表面上の不活性ガスの風速との関係について説明する。図4は、隙間距離Gとシリコン融液表面上の不活性ガスの風速との関係を示すグラフである。図4のグラフの横軸は図3の直線L2の角度θであり、縦軸はシリコン融液表面上の不活性ガスの風速、および隙間距離Gである。隙間距離Gは、直線L2の角度θが270°のときに最大となる。
発明者らの検証によれば、図4に示すように、隙間距離Gが大きいほど不活性ガスの風速が速くなる関係がある。よって、隙間距離Gが周方向に不均一となっているとシリコン融液表面上の不活性ガスの風速も周方向で不均一となる。
【0033】
次に、不活性ガスの風速の不均一性を利用したシリコン単結晶の酸素濃度制御について説明する。本発明のシリコン単結晶の育成方法では、対流モードの固定と、不活性ガスの風速と酸素蒸発の関係を利用してシリコン単結晶の酸素濃度を制御する。
【0034】
まず、対流モードの固定について説明する。図5は、坩堝周辺の不活性ガスの流れや酸素蒸発などを説明する模式断面図である。
不活性ガスの風速が周方向で不均一となると坩堝周囲の温度分布も不均一となる。具体的には、熱遮蔽体6を左側(図5のD1側)にずらして配置すると、図3における右側(図5のD2側)が面積が小さいA領域となり、左側が面積が大きいB領域となるため、右側を流れる不活性ガスの流量が小さくなる。これにより、坩堝3の右側における抜熱効果が小さくなるため、右側の坩堝温度が左側の坩堝温度と比較して相対的に高くなる。結果、右側のシリコン融液Mの上昇流が優勢となり、対流モードは左渦モード(符号C2)となる。
逆に、熱遮蔽体6の右側に配置することによって、対流モードを右渦モードとすることができる。このように、熱遮蔽体6の配置をずらす方向によって対流モードの固定が可能となる。
【0035】
次に、不活性ガスの風速と酸素蒸発の関係について説明する。
図3におけるB領域と比較してA領域では不活性ガスの風速が遅いため(図5の符号F1)、シリコン融液表面から蒸発する酸素量は少なくなる(符号E1)。一方、A領域と比較してB領域では不活性ガスの風速が速いため(図5の符号F2)、シリコン融液表面から蒸発する酸素量は多くなる(符号E2)。
これは、シリコン融液直上の不活性ガスの風速と、その場所の酸素の蒸発量に正の相関があるためである。蒸発する酸素量が少ないため、A領域におけるシリコン融液中の酸素量は、B領域と比較して相対的に多くなる。
このとき、シリコン融液Mの対流モードは左渦モードに固定されているため、シリコン単結晶SMに取り込まれる酸素濃度は、熱遮蔽体をずらすことなくチャンバ内の中央に配置して育成したシリコン単結晶の酸素濃度よりも高くなる。
なお、酸素濃度の増加量は、A/Bの比率を制御することによって、引き上げ条件の調整を行うことなく簡便な方法で制御することが可能となる。また、坩堝の回転速度、結晶回転速度、不活性ガスの流量など、プロセス条件を変更することによって、さらなる酸素濃度の調整が可能となる。
【0036】
以上説明したように、熱遮蔽体6をずらして不活性ガスの風速を周方向で不均一とすることによって、シリコン単結晶の酸素濃度を制御することができた。
【0037】
〔シリコンウェーハの製造方法〕
上記したシリコン単結晶の育成方法で育成されたシリコン単結晶SMのインゴットから、図示しないワイヤソーを用いてシリコンウェーハを切り出し、面取り、研磨、洗浄などの一般的なウェーハ製造加工工程を経ることで、シリコンウェーハを製造することができる。
【0038】
上記実施形態によれば、熱遮蔽体6の開口部6Aの中心位置を坩堝3の回転中心軸A1から水平方向Dにずらして配置することによって、対流モードを一方に固定することができる。また、熱遮蔽体6をずらす量を調整することで、シリコン単結晶SMの酸素濃度の制御を行うことができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、熱遮蔽体6を水平磁場の磁場中心の印加方向MDと直交する水平方向Dにずらしたが、熱遮蔽体6をずらす方向は、水平磁場の磁場中心の印加方向MDに直交する水平方向Dに対して傾く斜め方向でもよい。すなわち、熱遮蔽体6を、熱遮蔽体6の中心軸A2が坩堝3の回転中心軸A1に対して水平磁場の磁場中心の印加方向MDに沿う方向とは異なる方向にずれるように配置してもよい。
熱遮蔽体6を斜め方向にずらすことによって、A/Bをより様々に変化させて、シリコン単結晶SMの酸素濃度を細かくチューニングできる。
【0040】
熱遮蔽体6の中心軸A2と直交する面における断面形状は円形状である。熱遮蔽体6の断面形状は真円である必要はないが、熱遮蔽体6を製造する際の寸法公差などを鑑み、離心率が0.22以下であれば円形状とみなすことができる。
【0041】
〔実施例〕
熱遮蔽体を設置する位置を、水平磁場の磁場中心の印加方向MDに直交する水平方向Dに動かし面積Aと面積Bの比A/Bの値を変化させながら、シリコン単結晶の育成を行い、シリコン単結晶の酸素濃度を比較した。
表1に示すように、変化させるA/Bは表1に示す7条件とした。
これら条件で、直径300mm、結晶長2000mmのシリコン単結晶を育成した。シリコン単結晶は、各条件で100本ずつ育成した。
【0042】
【表1】
【0043】
各条件における対流モードの固定率と、育成したシリコン単結晶の頂部から1000mm下方の位置の酸素濃度をフーリエ変換赤外線分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy/FTIR)で測定した結果を表1に示す。
右渦モード/左渦モードの判断は、温度計測部30(図2参照)を用いてシリコン融液表面の2ヶ所T1、T2(図5参照)を測定し、その温度の大小から判断した。温度計測部30は、一対の反射部30Aと、一対の放射温度計30Bとを備え、シリコン融液Mの表面の温度を計測する。
また、表1の酸素濃度は、比較例1(A/B=1)の酸素濃度の平均値を基準値として、各条件100本のシリコン単結晶の酸素濃度の最小値~最大値を基準値に対する比として示した。
【0044】
表1からわかるように、対流モードを固定するためには、A/Bを0.96以下とする必要がある。また、A/Bが0.3未満であると、シリコン単結晶が熱遮蔽体に接触し、シリコン単結晶の育成が続行できなくなる。A/Bが0.3以上、0.96以下の場合は、対流モードを一方に固定でき、シリコン単結晶の酸素濃度を比較例1よりも高くすることができる。
【0045】
すなわち、面積Aと面積Bの比A/Bの値が0.3以上0.96以下となるように熱遮蔽体6を配置することによって、より確実に対流モードを一方に固定することができることがわかった。
また、所望の酸素濃度のシリコン単結晶を育成するためには、坩堝の回転速度や、シリコン単結晶の回転速度を変更させればよい。
【符号の説明】
【0046】
1…単結晶引き上げ装置、2…チャンバ、3…坩堝、4…ヒーター(加熱部)、5…引き上げ部、6…熱遮蔽体、6A…開口部、7…断熱材、9…磁場印加部、18…不活性ガス供給部、23…引き上げ駆動部、24…引き上げ軸、A1…回転中心軸、A2…中心軸、D…水平磁場の磁場中心の印加方向と直交する水平方向、M…シリコン融液、MD…水平磁場の磁場中心の印加方向、SC…種結晶、SM…シリコン単結晶。
図1
図2
図3
図4
図5