(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170676
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20231124BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H01L21/66 L
H01L21/66 B
G01R27/02 R
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082586
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】篠原 政幸
(72)【発明者】
【氏名】船木 光義
(72)【発明者】
【氏名】今 信一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠弘
【テーマコード(参考)】
2G028
4M106
【Fターム(参考)】
2G028BB11
2G028BC01
2G028CG02
2G028HN06
2G028HN09
4M106AA01
4M106CA10
4M106DD03
4M106DD22
4M106DH09
(57)【要約】
【課題】水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法を提供すること。
【解決手段】半導体ウェーハの抵抗率測定装置であって、測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部と、前記水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段とを具備するものであることを特徴とする抵抗率測定装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの抵抗率測定装置であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部と、
前記水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段と
を具備するものであることを特徴とする抵抗率測定装置。
【請求項2】
前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスとして窒素ガスを流すように構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の抵抗率測定装置。
【請求項3】
前記不活性ガス供給手段が、3方向~6方向から前記不活性ガスを流すように構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の抵抗率測定装置。
【請求項4】
前記不活性ガス供給手段が、3方向~6方向から前記不活性ガスを流すように構成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の抵抗率測定装置。
【請求項5】
前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すように構成されたものであることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の抵抗率測定装置。
【請求項6】
前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.4~0.8L/分の流量で流すように構成されたものであることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の抵抗率測定装置。
【請求項7】
半導体ウェーハの抵抗率測定方法であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部に、少なくとも3方向から不活性ガスを流し、
前記水銀電極を用いて半導体ウェーハの抵抗率を測定することを特徴とする抵抗率測定方法。
【請求項8】
前記不活性ガスとして窒素ガスを流すことを特徴とする請求項7に記載の抵抗率測定方法。
【請求項9】
前記水銀電極部に、該水銀電極部の上方を覆うように前記半導体ウェーハを配置することを特徴とする請求項7に記載の抵抗率測定方法。
【請求項10】
前記水銀電極部に、該水銀電極部の上方を覆うように前記半導体ウェーハを配置することを特徴とする請求項8に記載の抵抗率測定方法。
【請求項11】
前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことを特徴とする請求項7に記載の抵抗率測定方法。
【請求項12】
前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことを特徴とする請求項8に記載の抵抗率測定方法。
【請求項13】
前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことを特徴とする請求項9に記載の抵抗率測定方法。
【請求項14】
前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことを特徴とする請求項10に記載の抵抗率測定方法。
【請求項15】
前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すことを特徴とする請求項7~14の何れか1項に記載の抵抗率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法に関する。より具体的には、本発明は、水銀を使用するCV法を用いた半導体(化合物半導体含む)全般の抵抗率測定に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの特性の1つとして、抵抗率が挙げられる。抵抗率は、例えば、CV(容量-電圧:Capacitance-Voltage)法を用いたドーパント濃度の測定により、評価することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、Hg-CV法を用いた、SOIウェーハのSi活性層にHgプローブを接触させ、埋め込み酸化膜の絶縁特性を評価する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、Hg-CV法を用いた抵抗率測定装置及び測定方法であって、測定プローブが垂直方向に自在に移動が可能なHg-CV法抵抗率測定装置及び測定方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、Hg-CV法を用いた抵抗率測定装置において、順バイアスと逆バイアス電圧を印加して容量を求め、逆バイアス電圧と容量の関係から抵抗率を求める方法が記載されている。
【0006】
図9に、従来の半導体ウェーハの抵抗率測定装置の一例を示す。
【0007】
図9に示す抵抗率測定装置10’は、水銀電極部1を含む。水銀電極部1は、例えば、Hgショットキー電極11と、Hgオーミック電極12とを備える。Hgショットキー電極11及びHgオーミック電極12は、測定プローブとしての水銀電極である。抵抗率測定装置10’は、ウェーハチャック2を更に含む。ウェーハチャック2は、測定対象であるウェーハ100を保持するように構成されている。Hgショットキー電極11及びHgオーミック電極12は、図示しない電圧印加装置及び演算装置に接続されている。
【0008】
抵抗率測定装置10’での測定に際しては、
図9に示すように、ウェーハ100の抵抗率測定面101にHgショットキー電極11の水銀を接触させる。Hgオーミック電極は、
図9に示すように、抵抗率測定面101と同一面上に水銀を接触させることで形成しても良いし、測定面101の裏面側のウェーハチャック2を使用しても良い。このようにHgショットキー電極11とHgオーミック電極12とを形成してCV測定を実施する。その際、水銀電極部1周辺を含め装置10’内は大気雰囲気となっている。
【0009】
このような装置10’では、測定時に電極として使用される水銀が大気(特に酸素)と触れる事で徐々に酸化されていく。この影響で日々の測定値も徐々に変化し増加傾向が見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-235463号公報
【特許文献2】特開2010-153611号公報
【特許文献3】特開2018-098271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
酸化対策としては装置内を窒素置換する等で酸素濃度を下げる必要がある。その方法として考えられることは、1)測定ステージにウェーハを設置した後に、装置の筐体内の大気排気と窒素給気による循環パージを実施する、2)測定ステージにウェーハを設置した後に、窒素を掛け流し酸素濃度が規定以下になるまで待機する等が考えられる。しかし、これらの方法は、設備コストの増加や測定時間が延びたりして測定効率が悪化する等のデメリットが大きく、現実的では無い。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、半導体ウェーハの抵抗率測定装置であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部と、
前記水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段と
を具備するものであることを特徴とする抵抗率測定装置を提供する。
【0014】
このような本発明の抵抗率測定装置であれば、水銀電極を備えた水銀電極部の酸素濃度を局所的に低下させることができる。それにより、水銀電極の劣化を抑えることができ、長期間安定してウェーハの抵抗率を測定できる。
【0015】
また、この装置を用いれば、装置内全体を窒素置換しなくても、水銀の酸化の原因となる水銀電極部付近の酸素濃度を低下させることができるので、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制することができる。
【0016】
すなわち、本発明の抵抗率測定装置によれば、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【0017】
例えば、前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスとして窒素ガスを流すように構成されたものであってもよい。
【0018】
不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、汎用性があり、比較的安価な窒素ガスを用いることができる。
【0019】
前記不活性ガス供給手段が、3方向~6方向から前記不活性ガスを流すように構成されたものであることが好ましい。
【0020】
3方向以上の方向から不活性ガスを流すものであれば水銀の酸化を抑制することができるが、構造の単純化の観点からは3方向~6方向から不活性ガスを流すように構成されたものであることが好ましい。
【0021】
前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すように構成されたものであることが好ましい。
【0022】
不活性ガスの流量をこの範囲内にすることができる不活性ガス供給手段を備えるものであれば、水銀の酸化をより確実に抑制することができる。
【0023】
前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.4~0.8L/分の流量で流すように構成されたものであることが更に好ましい。
【0024】
不活性ガスの流量をこの範囲内にすることができる不活性ガス供給手段を備えるものであれば、水銀の酸化を更に確実に抑制することができる。
【0025】
また、本発明では、半導体ウェーハの抵抗率測定方法であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部に、少なくとも3方向から不活性ガスを流し、
前記水銀電極を用いて半導体ウェーハの抵抗率を測定することを特徴とする抵抗率測定方法を提供する。
【0026】
このような本発明の抵抗率測定方法であれば、水銀電極を備えた水銀電極部の酸素濃度を局所的に低下させることができる。それにより、水銀電極の劣化を抑えることができ、長期間安定してウェーハの抵抗率を測定できる。
【0027】
また、この方法であれば、装置内を窒素置換しなくても、水銀の酸化の原因となる水銀電極部付近の酸素濃度を低下させることができるので、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制することができる。
【0028】
すなわち、本発明の抵抗率測定方法によれば、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【0029】
例えば、前記不活性ガスとして窒素ガスを流すことができる。
【0030】
不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、汎用性があり、比較的安価な窒素ガスを用いることができる。
【0031】
前記水銀電極部に、該水銀電極部の上方を覆うように前記半導体ウェーハを配置することが好ましい。
【0032】
このように水銀電極部に水銀電極部の上方を覆うように半導体ウェーハを配置して測定を行うことにより、上方から水銀電極部への大気の混入を遮断することができ、水銀電極部付近の酸素濃度が低減された状態を維持することができ、それにより水銀電極の酸化による劣化をより確実に抑制することができる。
【0033】
前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことが好ましい。
【0034】
3方向以上の方向から不活性ガスを流すものであれば水銀の酸化を抑制することができるが、構造の単純化の観点からは3方向~6方向から不活性ガスを流すことが好ましい。
【0035】
前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すことが好ましい。
【0036】
不活性ガスの流量をこの範囲内にすることで、水銀の酸化をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明の抵抗率測定装置であれば、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【0038】
また、本発明の抵抗率測定方法であれば、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の抵抗率測定装置の一例を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の抵抗率測定装置の一例における、水銀電極部と不活性ガス供給手段との配置図である。
【
図3】本発明の抵抗率測定装置の他の例における、水銀電極部と不活性ガス供給手段との配置図である。
【
図4】実施例1及び比較例1における水銀電極部に流したN
2ガスの流量と水銀電極部付近のO
2濃度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図4に示すグラフの一部を拡大したグラフである。
【
図6】比較例1の抵抗率測定装置での抵抗率の測定値の経時変化を示すグラフである。
【
図7】実施例1の抵抗率測定装置での抵抗率の測定値の経時変化を示すグラフである。
【
図8】実施例1及び比較例1~3における水銀電極部に供給したN
2の流量と水銀電極部付近のO
2濃度との関係を示すグラフである。
【
図9】従来の抵抗率測定装置の一例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
上述のように、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法の開発が求められていた。
【0041】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すことで、従来技術に基づいて考えられる筐体内全体を窒素置換する方法と比べ、簡易な構成で局所的に酸素濃度を下げることができ、それにより水銀電極の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0042】
即ち、本発明は、半導体ウェーハの抵抗率測定装置であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部と、
前記水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段と
を具備するものであることを特徴とする抵抗率測定装置である。
【0043】
また、本発明は、半導体ウェーハの抵抗率測定方法であって、
測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部に、少なくとも3方向から不活性ガスを流し、
前記水銀電極を用いて半導体ウェーハの抵抗率を測定することを特徴とする抵抗率測定方法である。
【0044】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
なお、本発明における抵抗率の測定対象とする半導体ウェーハは、半導体を含むウェーハであれば、特に限定されない。例えば、シリコンウェーハ、SOI基板のSi層、化合物半導体基板の化合物半導体層などを測定対象とすることができる。
【0046】
[抵抗率測定装置]
図1に、本発明の抵抗率測定装置の一例の側面を概略的に示す。
【0047】
図1に示す抵抗率測定装置10は、水銀電極部1を含む。水銀電極部1は、例えば、Hgショットキー電極11と、Hgオーミック電極12とを備える。Hgショットキー電極11及びHgオーミック電極12は、測定プローブとしての水銀電極である。
【0048】
抵抗率測定装置10は、配管3を更に含む。配管3のそれぞれは、図示しない不活性ガス貯蔵タンクに流体接続されている。また、配管3のそれぞれは、不活性ガス貯蔵タンクからの不活性ガスの流量を調節するように構成されたバルブ31を備えている。配管3、不活性ガス貯蔵タンク及びバルブ31は、水銀電極部1に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段を構成している。
【0049】
図2に、
図1に示す抵抗率測定装置10における、水銀電極部1と不活性ガス供給手段としての配管3との位置関係を示す。
図2に示す矢印は、配管3から供給される不活性ガスの流れの方向を示している。
【0050】
図2に示す例では、抵抗率測定装置10は、3本の配管3を備えている。それにより、
図1及び
図2に示す例の抵抗率測定装置10は、水銀電極部1に3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段を含んでいる。
【0051】
抵抗率測定装置10は、任意のウェーハチャック2を更に含む。ウェーハチャック2は、測定対象であるウェーハ100を保持するように構成されている。Hgショットキー電極11及びHgオーミック電極12は、電圧印加装置及び任意の演算装置(共に図示しない)に接続されている。
【0052】
図1では、ウェーハ100の抵抗率測定面101にHgショットキー電極11の水銀を接触させている。Hgオーミック電極は、
図1に示すように、抵抗率測定面101と同一面上に水銀を接触させる水銀電極12でも良いし、測定面101の裏面側のウェーハチャック2を使用しても良い。
【0053】
このような本発明の抵抗率測定装置10であれば、水銀電極11及び12を備えた水銀電極部1付近に不活性ガスをピンポイントで流すことができる。また、不活性ガスが少なくとも3方向から水銀電極部1に流されることにより、不活性ガスの流れのベクトルが水銀電極部1付近で打ち消し合い、不活性ガスが水銀電極部1付近で滞留できる。その結果、簡易な構成で水銀電極部1付近の酸素濃度を局所的に低下させることができる。それにより、水銀の酸化による水銀電極11及び12の劣化を抑えることができ、長期間安定してウェーハ100の抵抗率を測定できる。
【0054】
また、この装置10を用いれば、装置(例えば
図2に示す筐体4)内全体を窒素置換しなくても、水銀の酸化の原因となる水銀電極部1付近の酸素濃度を低下させることができるので、水銀の酸化による水銀電極11及び12の経時劣化を低コストで抑制することができる。
【0055】
すなわち、本発明の抵抗率測定装置10によれば、水銀の酸化による水銀電極11及び12の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【0056】
一方、不活性ガス供給手段が、水銀電極部1に1方向又は2方向から不活性ガスを流すように構成されたものである場合、流した不活性ガスを水銀電極部1付近上に滞留させることができず、水銀電極部1付近の酸素濃度を低下させることができない。
【0057】
3方向以上の方向から不活性ガスを流すものであれば水銀の酸化を抑制することができるが、6方向を超えて増やしても酸素濃度を低減させる効果に変化はなく、配管の設置本数が増えることによる複雑化のデメリットを考慮すると、不活性ガス供給手段3が3方向~6方向から不活性ガスを流すように構成されたものであることが好ましい。
【0058】
図3に、不活性ガス供給手段が、水銀電極部1に6方向から不活性ガスを流すように構成された例、すなわち6本の配管3が設置されている例を示す。
【0059】
図2及び
図3に示す例のように、隣り合う2本の配管が、水銀電極部1を中心として成す角度が略等しく(誤差15°以内)なるように配置されたものであれば、配管3が流される不活性ガスの流れのベクトルが水銀電極部1付近で打ち消し合い、供給された不活性ガスを水銀電極部1付近により確実に滞留させることができる。
【0060】
不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、汎用性があり、比較的安価な窒素ガスを用いることができる。
【0061】
不活性ガス供給手段は、不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すように構成されたものであることが好ましい。
【0062】
不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すように構成された不活性ガス供給手段を含むものであれば、不活性ガスの流れの乱れを抑えて周囲の大気を巻き込むのを抑えながら、水銀電極部1付近の大気、特に酸素を完全に排除することができる。
【0063】
不活性ガス供給手段は、不活性ガスを0.4~0.8L/分の流量で流すように構成されたものであることが更に好ましい。
【0064】
[抵抗率測定方法]
次に、
図1及び
図2を再度参照しながら、本発明の抵抗率測定方法の例を説明する。しかし、本発明の抵抗率測定方法は、
図1及び
図2に示す本発明の抵抗率測定装置10を用いるものに限定されない。
【0065】
この例では、
図1に示す抵抗率測定装置10を用いて、
図3に示すように測定プローブとしての水銀電極11及び12を備えた水銀電極部1に、少なくとも3方向から不活性ガスを流し、水銀電極11及び12を用いて半導体ウェーハ100の抵抗率を測定する。
【0066】
具体的な測定手順は特に限定されないが、例えば、Hgショットキー電極11及びHgオーミック電極12のそれぞれに接続されている図示しない電圧印加装置により、半導体ウェーハ100に逆バイアスを印加して容量を求め、逆バイアス電圧と容量の関係から図示しない演算装置により所望深さのドーパント濃度を測定する事が出来る。また所定の換算式を用いる事で測定されたドーパント濃度を抵抗率に換算出来る。
【0067】
このような本発明の抵抗率測定方法であれば、水銀電極11及び12を備えた水銀電極部1付近に不活性ガスをピンポイントで流すことができる。また、不活性ガスが少なくとも3方向から水銀電極部1に流されることにより、不活性ガスの流れのベクトルが水銀電極部1付近で打ち消し合い、不活性ガスが水銀電極部1付近で滞留できる。その結果、簡易な構成で水銀電極部1付近の酸素濃度を局所的に低下させることができる。それにより、水銀の酸化による水銀電極11及び12の経時劣化を抑えることができ、長期間安定してウェーハ100の抵抗率を測定できる。
【0068】
また、このような本発明の方法によれば、装置(例えば
図2に示す筐体4)内全体を窒素置換しなくても、水銀の酸化の原因となる水銀電極部1付近の酸素濃度を低下させることができるので、水銀の酸化による水銀電極11及び12の劣化を低コストで抑制することができる。
【0069】
すなわち、本発明の抵抗率測定方法によれば、水銀の酸化による水銀電極11及び12の劣化を低コストで抑制し、長期間安定して半導体ウェーハの抵抗率を測定できる。
【0070】
一方、水銀電極部1に1方向又は2方向から不活性ガスを流す場合、流した不活性ガスを水銀電極部1付近上に滞留させることができず、水銀電極部1付近の酸素濃度を低下させることができない。
【0071】
3方向以上の方向から不活性ガスを流せば水銀の酸化を抑制することができるが、6方向を超えて増やしても酸素濃度を低減させる効果に変化はなく、配管の設置本数が増えることによる複雑化のデメリットを考慮すると、配管3が3方向~6方向から不活性ガスを流すことが好ましい。
【0072】
また、
図1に示すように、水銀電極部1に水銀電極部1の上方を覆うように半導体ウェーハ100を配置して測定を行うことにより、上方から水銀電極部1への大気の混入を遮断することができ、水銀電極部1の酸素濃度が低い状態を確実に維持することができ、水銀電極11及び12の酸化による劣化をより確実に抑制することができる。
【0073】
不活性ガスは、特に限定されないが、例えば窒素ガスを用いることができる。
【0074】
不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すことが好ましい。
【0075】
不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すことで、不活性ガスの流れの乱れを抑えて周囲の大気を巻き込むのを抑えながら、水銀電極部1付近の大気、特に酸素を完全に排除することができる。
【0076】
不活性ガスを0.4~0.8L/分の流量で流すことが更に好ましい。
【0077】
不活性ガスを測定中に流すことで、測定中の水銀電極11及び12の劣化を抑制することができる。また、測定中に加え、測定していない間も不活性ガスを流すことにより、水銀電極11及び12の劣化をより確実に抑えることができる。
【実施例0078】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
実施例1では、
図1及び
図2に示した抵抗率測定装置10を用い、
図2に示すように水銀電極部1に対して3方向に配管3を設置し、水銀電極部1に3方向から窒素ガスを流して、半導体ウェーハ100のドーパント濃度の測定を行い、測定したドーパント濃度から換算式を用いて抵抗率を求めた。
【0080】
また、実施例1では、
図1に示すように、水銀電極1を覆うように半導体ウェーハ100としてのシリコンウェーハを配置した。
【0081】
実施例1では、窒素ガスの流量を0.075L/分から4.0L/分の間で変更して、半導体ウェーハ100の抵抗率を測定した。
【0082】
(比較例1)
比較例1では、
図9に示した抵抗率測定装置10’を用いたこと以外は実施例1と同様にして、半導体ウェーハ100の抵抗率の測定を行った。
【0083】
実施例1及び比較例1のそれぞれでの、抵抗率測定装置10又は10’の水銀電極部1付近の酸素濃度を酸素濃度計で測定した。以下の表1及び表2、並びに
図4及び
図5に、各例における窒素ガスの流量ごとの酸素濃度を示す。
図5は、
図4の一部の拡大図である。なお、表1、
図4及び
図5では、配管3を備えない比較例1を流量「0」として表記した。
【0084】
【0085】
【0086】
上記表1及び表2、並びに
図4及び
図5から明らかなように、水銀電極部1に窒素を3方向から流した実施例1では、水銀電極部1付近の酸素濃度を、窒素を流さなかった比較例1に比べて大幅に低減できたことが分かる。
【0087】
特に、窒素ガスを0.30L/分~0.90L/分の比較的小さい流量で流した場合、表2並びに
図4及び
図5に示すように、酸素濃度を0%(検出限界以下)にまで低減することができた。
【0088】
図6に、比較例1における抵抗率の測定値の経時変化を示す。また、
図7に、実施例1において窒素ガスを0.5L/分の流量で流し続けた場合の、抵抗率の測定値の経時変化を示す。なお、半導体ウェーハ100としては、日常管理用のウェーハを用いて、同じサンプルについて繰り返し測定を行った。そして、
図6及び
図7では、測定初日(1日目)で測定したシリコンウェーハの抵抗率を1とした場合の抵抗率の測定値の相対値を示す。
【0089】
図6に示すように、比較例1では、測定日数が経過することにより、測定した抵抗率が上昇した。具体的には、この結果は、比較例1では、水銀電極11及び12の酸化による経時劣化を抑制することができなかったことを示唆するものである。
【0090】
一方、
図7に示すように、実施例1では、測定日数が経過しても測定した抵抗率の上昇を比較例1よりも顕著に抑えることができた。この結果は、実施例1では、水銀電極部1付近の酸素濃度を低減したことにより、水銀電極11及び12の酸化による経時劣化を抑制できたことを示唆するものである。
【0091】
(比較例2及び3)
比較例2及び3では、窒素ガスを流すための配管をそれぞれ1本及び2本としたこと以外は実施例1と同様にした。
【0092】
比較例2及び比較例3のそれぞれでの、抵抗率測定装置の水銀電極部1付近の酸素濃度を実施例1と同様にして測定した。
【0093】
図8に、実施例1、比較例2及び比較例3における窒素ガスの流量ごとの酸素濃度を示す。
【0094】
図8から明らかなように、配管3を1本とした比較例2では、窒素ガスを流しても、水銀電極部1付近の酸素濃度を十分低減させることはできなかった。
【0095】
また、配管3を2本とした比較例3では、比較例2よりは水銀電極部1付近の酸素濃度を低減させることはできたものの、実施例1と同程度までは低減させることはできなかった。
【0096】
これらの結果から、水銀電極部1に少なくとも3方向から不活性ガスを流すことが必須であることが分かる。
【0097】
(実施例2~4)
実施例2~4では、窒素ガスを流すための配管をそれぞれ4本、5本及び6本としたこと以外は実施例1と同様にした。
【0098】
その結果、実施例2~4では、実施例1と同様に、水銀電極部1付近の酸素濃度を0%まで低減出来た。
【0099】
また、以下の表3に、実施例2(配管4本)、実施例3(配管5本)、及び実施例4(配管6本)において、酸素濃度が0%となった配管一本当たりの最小流量及び最大流量を、実施例1(配管3本)の結果とともに示す。
【0100】
【0101】
表3に示す結果から明らかなように、配管の本数が増えるに従い、酸素濃度0%を維持出来る流量範囲は徐々に狭くなる傾向にあった。
【0102】
以上説明した実施例より、本発明の抵抗率測定装置及び抵抗率測定方法であれば、水銀電極の酸化を抑制でき、半導体ウェーハの抵抗率を測定するCV測定を長期間安定して行うことができることが分かる。また、本発明によれば、装置内を窒素置換しなくても、水銀の酸化の原因となる酸素濃度を低下させることができるので、水銀の酸化による水銀電極の劣化を低コストで抑制することができる。
【0103】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]半導体ウェーハの抵抗率測定装置であって、測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部と、前記水銀電極部に少なくとも3方向から不活性ガスを流すように構成された不活性ガス供給手段とを具備するものであることを特徴とする抵抗率測定装置。
[2]前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスとして窒素ガスを流すように構成されたものであることを特徴とする[1]に記載の抵抗率測定装置。
[3]前記不活性ガス供給手段が、3方向~6方向から前記不活性ガスを流すように構成されたものであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の抵抗率測定装置。
[4]前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すように構成されたものであることを特徴とする[1]~[3]の何れか1つに記載の抵抗率測定装置。
[5]前記不活性ガス供給手段が、前記不活性ガスを0.4~0.8L/分の流量で流すように構成されたものであることを特徴とする[1]~[3]の何れか1つに記載の抵抗率測定装置。
[6]半導体ウェーハの抵抗率測定方法であって、測定プローブとしての水銀電極を備えた水銀電極部に、少なくとも3方向から不活性ガスを流し、前記水銀電極を用いて半導体ウェーハの抵抗率を測定することを特徴とする抵抗率測定方法。
[7]前記不活性ガスとして窒素ガスを流すことを特徴とする[6]に記載の抵抗率測定方法。
[8]前記水銀電極部に、該水銀電極部の上方を覆うように前記半導体ウェーハを配置することを特徴とする[6]又は[7]に記載の抵抗率測定方法。
[9]前記不活性ガスを3方向~6方向から前記水銀電極部に流すことを特徴とする[6]~[8]に記載の抵抗率測定方法。
[10]前記不活性ガスを0.3~0.9L/分の流量で流すことを特徴とする[6]~[9]の何れか1つに記載の抵抗率測定方法。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1…水銀電極部、 2…ウェーハチャック、 3…配管、 4…筐体、 10及び10’…抵抗率測定装置、 11…Hgショットキー電極(水銀電極)、 12…Hgオーミック電極(水銀電極)、 31…バルブ、 100…半導体ウェーハ、 101…抵抗率測定面。