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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170912
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】磁性ビーズ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/24 20060101AFI20231124BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231124BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C12Q1/24
G01N33/543 541A
G01N33/569
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083010
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】椎木 弘
(72)【発明者】
【氏名】西井 成樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽二郎
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QS40
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】迅速かつ簡便に微生物を捕集することのできる磁性ビーズを提供する。
【解決手段】磁性を有する基材10と、前記基材表面に形成された金属めっき層20と、前記金属めっき層表面に形成された樹脂層30とを有し、
前記樹脂層30は、微生物の捕集部位31として、微生物の表面分子と相補的である自発結合性の三次元構造の鋳型を備える、微生物捕集用の磁性ビーズ1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を備える基材と、前記基材表面に形成された金属めっき層と、前記金属めっき層表面に形成された樹脂層とを有し、
前記樹脂層は、微生物の捕集部位として、微生物の表面分子と相補的である自発結合性の三次元構造の鋳型を備える、微生物捕集用の磁性ビーズ。
【請求項2】
前記金属めっき層は、金属ナノ粒子由来である、請求項1に記載の磁性ビーズ。
【請求項3】
前記金属めっき層は、金属元素として、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニア、錫、コバルト、ストロンチウム、バリウム、およびマンガンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項4】
外部刺激により微生物を着脱可能である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項5】
前記外部刺激は、電場、温度、pH、光、および化学反応からなる群より選択される少なくとも1つの変動である、請求項4に記載の磁性ビーズ。
【請求項6】
粒子径が1nm以上である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項7】
前記樹脂層の厚さが1~1000nmである請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項8】
前記樹脂層を構成する樹脂が、炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を主たる構成単位として含む樹脂である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【請求項9】
前記三次元構造の鋳型が、微生物の表面に存在する糖鎖または糖脂質の構造と相補的である請求項1または2に記載の磁性ビーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物捕集用の磁性ビーズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療産業、食品産業、農業、畜産、養殖、水処理施設などにおいて、微生物検出への関心が高まっている。食品、医薬品、農産物、海産物などに存在する汚染微生物は、微量であるにもかかわらず、人の健康に大きく影響しうる。また、病院や老人介護施設における微生物汚染が社会問題化している。さらに、多様な抗菌商品の流通や需要の高まりに見られるように、一般家庭における衛生管理にも関心が高まっている。例えば、食品加工工場の場合、出荷される食品の抜き取りでの細菌検査や工場内の環境中の細菌検査を実施している。しかし、培養法による測定の場合、結果が得られるまでに24~48時間程度を要し、出荷するまでの保管コストが高くなる要因となるため、迅速な検出方法が求められている。また、農業分野においても、例えば水耕栽培の培養液中の細菌数が増加すると発病のリスクが高まる。細菌数を早く把握することで素早く殺菌などの措置が取れるため、迅速な検出方法は有効である。このような状況から、微生物汚染を簡単に検出できる技術の必要性が近年急速に高まっている。また、医療現場においては、感染症の原因の病原菌を速やかに特定する必要があることから、病原菌を迅速かつ高感度で検出できる技術が求められている。
【0003】
微生物の検出または特定方法としては、ELISA法、ウェスタンブロッティング法などが知られている。これらの方法では、例えば、抗体(一次抗体)と微生物固有のタンパク質との抗原-抗体反応の後、さらに標識した二次抗体を反応させ、二次抗体の化学発光やATPの加水分解反応のモニターにより検出を行なう方法である。しかしながら、ELISA法、ウェスタンブロッティング法はいずれも微生物の有する特定のタンパク質を検出する方法であって、微生物そのものを検出する方法ではない。また、これらの方法を用いるためには、上記タンパク質に対応する抗体を作製する必要がある。以上の理由から、ELISA法やウェスタンブロッティング法は、微生物を容易に検出することのできる方法とはいえない。
【0004】
また、微生物の検出方法として、免疫沈降法が挙げられる(特許文献1)。免疫沈降法は、抗原と抗体が特異的に結合する結果、不溶化して沈殿する反応(免疫沈降反応)を利用するものであり、抗原を分離及び精製する方法である。得られた抗原を種々の分析手段を用いることで、当該抗原としての細胞、タンパク質、核酸がどの様な微生物に由来するものであるかを特定可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-156266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、抗体そのものの精製や、抗原抗体反応で得られた反応物の単離を簡便化する手段として、抗体に磁性を備える基材(粒子)を結合させる技術が知られている。この様な抗体結合磁性基材は、磁力による抗原抗体反応物の単離の観点からは有用である。しかしながら、抗体は高い分子認識能を有する一方で、その対象は抗原性を有する物質に限られる。言い換えると、抗原性を有する物質に対しては抗体を作製することができるが、抗原性を有しない物質に対しては当然、抗体を作製することはできない。また、抗原性を有しない物質は少なくない。さらに、抗体の作製には数ヶ月の時間を要するという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、迅速かつ簡便に微生物を捕集することのできる磁性ビーズを提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記磁性ビーズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の基材、金属めっき層、および樹脂層を備える磁性ビーズによれば、迅速かつ簡便に微生物を捕集することができ、経済的観点からも好ましく、さらに、樹脂層の種類を適宜選択することにより、繰り返し使用することが可能であることを明らかにした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、磁性を備える基材と、上記基材表面に形成された金属めっき層と、上記金属めっき層表面に形成された樹脂層とを有し、
上記樹脂層は、微生物の捕集部位として、微生物の表面分子と相補的である自発結合性の三次元構造の鋳型を備える、微生物捕集用の磁性ビーズを提供する。
【0010】
上記金属めっき層は、金属ナノ粒子由来であることが好ましい。
【0011】
上記金属めっき層は、金属元素として、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニア、錫、コバルト、ストロンチウム、バリウム、およびマンガンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0012】
上記磁性ビーズは、外部刺激により微生物を着脱可能であることが好ましい。
【0013】
上記外部刺激は、電場、温度、pH、光、および化学反応からなる群より選択される少なくとも1つの変動であることが好ましい。
【0014】
上記磁性ビーズは、粒子径が1nm以上であることが好ましい。
【0015】
上記樹脂層の厚さは、1~1000nmであることが好ましい。
【0016】
上記樹脂層を構成する樹脂は、炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を主たる構成単位として含む樹脂であることが好ましい。
【0017】
上記三次元構造の鋳型は、微生物の表面に存在する糖鎖または糖脂質の構造と相補的であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁性ビーズによれば、迅速かつ簡便に微生物を捕集することができる。また、樹脂層の種類を適宜選択することにより、外部刺激により微生物を着脱して繰り返し使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】磁性ビーズの一実施形態を示す模式図である。
図2】(a)金属めっき層が形成されていない磁性ビーズの走査型電子顕微鏡写真および(b)磁性ビーズの表面に金ナノ粒子由来の金めっき層が形成された状態(金ナノ粒子被覆磁性ビーズ)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図3図1に示す磁性ビーズの捕集部位に微生物の表面分子が取り込まれた状態を示す模式図である。
図4図3に示す磁性ビーズの捕集部位に微生物の表面分子が取り込まれた状態から樹脂層が相転移した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[磁性ビーズ]
本発明の磁性ビーズは微生物の捕集に用いられる。本発明の磁性ビーズは、磁性を備える基材と、上記基材表面に形成された金属めっき層と、上記金属めっき層表面に形成された樹脂層とを有する。上記樹脂層は、微生物の捕集部位を有する。本発明の磁性ビーズは、磁性を備える基材を有することにより、磁石との強い引力を発揮する。このため、目的とする微生物を容易に単離できる。また、本発明の磁性ビーズは、金属めっき層を基材表面に設けることにより、様々な基材上に上記樹脂層を形成することができる。
【0021】
本発明の磁性ビーズの形状は、粒子状であれば特に限定されないが、球状または楕円体状であることが好ましい。本発明の磁性ビーズが上記形状を有することにより、高い磁性が発揮点される点で好ましい。また、上記樹脂層における体積あたりの捕集部位の領域を広く設計することができる点で好ましい。
【0022】
本発明の磁性ビーズの一実施形態を図1に示す。図1に示す磁性ビーズ1は、粒状である磁性を備える基材10と、基材10の表面に設けられた金属めっき層20と、金属めっき層20の表面に設けられた樹脂層30とから構成される。金属めっき層20は複数の金属ナノ粒子21から構成される。樹脂層30は、基材10および金属めっき層20を覆うように形成されている。樹脂層30は、微生物の表面分子の構造に応じて形成された三次元構造の鋳型を備える捕集部位31を有する。
【0023】
本発明の磁性ビーズの粒子径は特に限定されないが、例えば、1nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm~100μm、より好ましくは50nm~50μm、より好ましくは100nm~10μmである。粒子径が上記範囲内にあることにより、磁性ビーズが高い磁性を発揮するため、微生物が捕集された磁性ビーズを磁石により容易に回収することができる傾向がある。
【0024】
上記微生物としては、例えば、ウィルス、細菌、真菌類などが挙げられる。上記ウィルスとしては、A型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、E型肝炎ウィルス、ヒトパルボウィルスB19、エイズウィルス、ヒトT細胞白血病ウィルス、サイトメガロウィルス、EBウィルス、ウエストナイルウィルス、エボラ出血熱ウィルス、インフルエンザウィルス、コロナウィルス、水痘ウィルス、麻疹ウィルス、ムンプスウィルス、などが挙げられる。上記細菌としては、大腸菌のEscherichia属、Shigella属、Salmonella属、Yersinia属、Klebsiella属、Enterobacter属、Citrobacter属、Proteus属、Serratia属、緑膿菌などのPseudomonas属、Vibrio属、Burkholderia属、Sphingomonas属、Chromobacterium属、Acinetobacter属、Neisseria属、Haemophilus属、Campylobacter属、Legionella属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Listeria属、Corynebacterium属、Bacillus属、Clostridium属、Mycobacteria属、Mycoplasma属、Chlamydia属、Chlamydophila属、Rickettsias属などが挙げられる。上記真菌類としてはCandida属、Saccharomyces属、Cryptococcus属、Aspergillus属、Penicillium 属などが挙げられる。
【0025】
(基材)
上記基材は磁性を備えるものであれば特に限定されないが、例えば、磁性を有しない核の表面に磁性材料からなる層が形成された基材や、磁性材料のみからなる基材などが挙げられる。
【0026】
上記磁性を有しない核としては、例えば、合成高分子や天然高分子などの樹脂(アクリル樹脂、プラスチック等)、炭素、セラミック、ガラスなどからなる核が挙げられる。
【0027】
上記磁性材料としては、例えば、常磁性材料、超常磁性材料、強磁性材料、フェライト磁性材料、またはこれらの2以上を含む材料や、上記磁性材料と合成高分子や天然高分子などの樹脂(プラスチック)、炭素、セラミック、ガラスなどの磁性を有しない材料との混合材料が挙げられる。磁性材料は、具体的には、例えば、マグネタイト、コバルトフェライト、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、マンガンフェライト、マンガン-亜鉛フェライトなどの各種酸化鉄などが挙げられる。上記磁性材料の形状は特に限定されないが、例えば、ナノ粒子状であることが好ましい。
【0028】
上記基材の形状は特に限定されないが、粒状であることが好ましく、例えば、真球状または略球状などの球状;楕円体(楕円球)状;円錐状、多角錘状などの錘状;立方体状や直方体状などの多角方体状;扁平状、鱗片状、薄片状などの板状;ロッド状または棒状;繊維状、樹針状などの線状;不定形状などが挙げられる。
【0029】
上記基材が粒状である場合、中心粒径(D50)は特に限定されないが、例えば、0.1~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.5~50μm、さらに好ましくは1.0~30μmである。
【0030】
(金属めっき層)
上記金属めっき層は、上記樹脂層を形成するための土台として機能する。上記基材上に上記樹脂層を直接形成することが困難である場合であっても、上記金属めっき層を介することで上記基材上に様々な種類の樹脂層を形成することが容易となる。
【0031】
上記金属めっき層を構成する金属元素としては、特に限定されないが、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニア、錫、コバルト、ストロンチウム、バリウム、およびマンガンなどが挙げられる。また、上記金属めっき層は、金属単体で構成されていてもよく、金属酸化物などの金属化合物で構成されていてもよい。上記金属としては、中でも、上記樹脂層の形成のしやすさや金属めっき層の安定性に優れる観点から、金が好ましい。また、上記金属として鉄やニッケルを用いた場合、本発明の磁性ビーズの磁性がより向上することから微生物の捕集効率が上昇する。上記金属は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0032】
上記金属めっき層は金属ナノ粒子により形成された層(すなわち金属ナノ粒子由来の層)であることが好ましい。このような金属めっき層は、無電解金属めっきにより容易に作成することができる。上記金属ナノ粒子由来の金属めっき層は、例えば特開2003-213442号公報に開示の方法で作製することができる。
【0033】
上記金属めっき層は、複数の金属ナノ粒子のうちの少なくとも一部がナノ粒子の形態を維持しつつ配列して形成された層であってもよい。このような金属めっき層を有する場合、金属ナノ粒子由来の光学特性を利用した標識や、電気特性や電気化学特性を利用した標識を利用することができる。さらには、光電効果もしくは発熱効果を利用した検出に利用することができる。
【0034】
なお、本明細書において、金属ナノ粒子とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する金属粒子をいうものとする。ナノメートルのオーダーとは1~数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には粒径が1~100nmの範囲である。
【0035】
金属めっき層が形成されていない磁性ビーズの走査型顕微鏡写真を図2(a)に、磁性ビーズの表面に金ナノ粒子由来の金めっき層が形成された状態の走査型顕微鏡写真を図2(b)にそれぞれ示す。図2(b)から、金属ナノ粒子由来の金属めっき層には金属ナノ粒子由来の形状が維持されていることが分かる。
【0036】
(樹脂層)
上記樹脂層は、上記微生物を捕集する部位(以下、「捕集部位」と称する)を有する。上記樹脂層を構成する樹脂の種類および形状は、微生物および所望の外部刺激に対する感応性の種類に応じて適宜設定することができる。上記樹脂層は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0037】
上記捕集部位は、微生物の捕集を可能とするため、微生物の表面分子と相補的である自発結合性の三次元構造の鋳型を備える。より具体的に説明すると、上記捕集部位は、微生物がその表面(例えば、細胞表面)に有する分子の構造と相補的であって、上記分子と自発的に結合し得る特性を有し、三次元構造を有する鋳型を備える。
【0038】
上記表面分子としては、微生物の表面に存在する糖鎖、脂質、ペプチド、糖鎖および脂質からなる糖脂質(リポポリサッカライド)、糖鎖およびペプチドからなるペプチドグリカン、糖鎖と結合し得る抗体やレクチンなどのタンパク質が挙げられる。この中でも、微生物との特異的な結合性および選択性の観点から、糖鎖、糖脂質であることが好ましい。すなわち、上記捕集部位は、微生物の表面に存在する糖鎖または糖脂質の構造と相補的である、自発結合性の三次元構造の鋳型を備えることが好ましい。
【0039】
上記樹脂層は、外部刺激により上記微生物を着脱可能であることが好ましい。上記外部刺激としては、電場、温度、pH、光、化学反応などの変動が挙げられる。上記樹脂層の外部刺激による変動性は、樹脂層を構成する樹脂の種類に依存する。このような変動性を有する樹脂としては公知乃至慣用の外部刺激性の樹脂を用いることができる。
【0040】
上記樹脂層の厚さは特に限定されないが、例えば、1~1000nmが好ましく、より好ましくは5~500nm、さらに好ましくは10~300nmである。樹脂層の厚さが上記範囲内であることにより、良好な磁性を発揮しつつ、微生物を充分に捕集することが可能となる傾向がある。
【0041】
上記樹脂層を構成する樹脂は、金属めっき層(特に金めっき層)表面への樹脂層を容易に形成できる観点、温度感応性およびpH感応性を有する樹脂層を形成可能である観点から、炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を主たる構成単位として含むことが好ましい。炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドは、極性基であるアミド基と、疎水性基である炭化水素基を有するため、低温環境下では樹脂の水への分散性に優れ、加温下では疎水性相互作用により樹脂の収縮・凝集・ゲル化などを起こし、温度感応性などを発揮し、また、pH感応性も発揮する。このため、温度変動やpH変動により上記樹脂層は相転移可能となる。例えば、低温環境下では、図3に示すように樹脂層30が膨張した状態となり、捕集部位31に微生物の表面分子40を取り込むことができる。そして、加温下では、図4に示すように、樹脂層30が収縮するため捕集部位31の構造が維持されないものと推測され、微生物の表面分子40が捕集部位31から吐出(脱着・脱離)される。そして、磁性ビーズとして再利用する場合は、低温環境下とすることで樹脂層30を膨張させ、捕集部位31の構造を復活させることができる。このようにして、微生物の捕集および脱離を意図的に実施することが可能であるため、繰り返し使用することができる。また、後述のポリピロール層を形成する場合、外部刺激に対する感応性を付与するため、また自発結合性を付与するためには、金属めっき層表面を分子修飾し、複数の樹脂層を形成してpH変動性を付与したり、微生物の表面分子との相互作用部位を増加させたりする必要があり、樹脂層の厚さが500nm以上となる。一方、炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位を主たる構成単位として含む樹脂で構成される上記樹脂層は、単層で形成することができ、樹脂層の厚さを比較的薄く形成することができるため、基材の特性、例えば、磁性、光学特性、導電性、電気応答性を充分に発揮することが可能となる。
【0042】
上記炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドにおける炭化水素基の炭素数は、極性基であるアミド基による樹脂の親水性とのバランスを考慮し、6以下が好ましく、より好ましくは4以下である。また、上記炭化水素基は、樹脂内の立体障害により樹脂の収縮・凝集などをより起こしやすい観点や、微生物の表面分子に応じた三次元構造の鋳型を形成しやすい観点から、分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。このため、上記炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドとしては、中でも、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。上記炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドは、一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルをいうものとする。
【0043】
上記樹脂層を構成する樹脂の構成単位が極性基と炭化水素基を有する場合(例えば、樹脂の構成単位が炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドに由来するものである場合)、上記樹脂は極性基による親水性と炭化水素基による疎水性を併せ持つこととなる。ここで、微生物の表面分子(例えば、糖鎖、糖脂質、ペプチドグリカン、タンパク質)も同様に、親水性と疎水性を併せ持つものである。よって、上記樹脂の重合は、樹脂の有する極性基及び炭化水素基と微生物の表面分子との間における、親水性や疎水性といった化学的性質による環境を保持する形で進行する。その結果、外部刺激によって微生物(微生物の表面分子)が吐出(脱着・脱離)されて形成される捕集部位は、微生物の表面分子に対して、物理的、化学的に相補的な三次元構造の鋳型となる。
【0044】
上記樹脂層を構成する樹脂は、微生物(微生物の表面分子)の種類に応じて、炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドと共重合可能な他の重合性モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。上記他の重合性モノマーとしては、例えば、上記微生物の種類に応じた捕集部位を有する樹脂層を形成しやすい観点から、カルボキシ基、酸無水物基、ヒドロキシ基、エポキシ基、スルホン酸基、リン酸基、窒素原子含有基などの極性基を含む重合性モノマー(極性基含有モノマー)が好ましい。
【0045】
上記カルボキシ基を有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸などが挙げられる。上記酸無水物基を有するモノマー(酸無水物基含有モノマー)としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0046】
上記樹脂層を構成する樹脂は、重合開始剤、架橋剤、連鎖移動剤などに由来する構造部を有していてもよい。上記架橋剤としては、多官能性化合物が挙げられ、上記重合性モノマーとして使用される上記極性基含有モノマーの種類に応じて適宜選択される。中でも、水への分散性、およびカルボキシ基との反応性の優れる観点から、多官能イミド系化合物が好ましい。
【0047】
上記樹脂層を構成する樹脂が共重合体である場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などいずれであってもよい。
【0048】
また、上記樹脂層はポリピロール層であってもよい。ポリピロール層は、当該層を形成する表面が負電荷を帯びた状態でピロールを重合させることで容易に形成することができる。具体的には、例えば、まず金属めっき層表面に自己集合性を利用してアミノチオフェノール層を形成し、アミノチオフェノール層表面に、静電作用によって、ポリテトラフルオロエチレン骨格とスルホン酸基を有するパーフルオロ側鎖を備える樹脂(例えば、登録商標「ナフィオン」)の層を形成する。これにより、負電荷を帯びた層を金属めっき層表面に形成することができる。そして、当該樹脂におけるフッ素原子との水素結合およびスルホン酸基との静電作用により、当該樹脂層表面においてピロールを重合させてポリピロール層を形成することができる。ポリピロール層の形成を微生物の表面分子の存在下で行うことにより、ポリピロール層に上記三次元構造を形成することができる。ナフィオンなどとの積層化によって、外部刺激に対する変動性を付与したり、微生物の表面分子との相互作用部位の増加に伴い、樹脂層に形成された三次元構造に微生物の表面分子との自発結合性を付与したりすることができる。
【0049】
上記磁性ビーズの形状は特に限定されないが、粒状であることが好ましく、例えば、真球状または略球状などの球状;楕円体(楕円球)状;円錐状、多角錘状などの錘状;立方体状や直方体状などの多角方体状;扁平状、鱗片状、薄片状などの板状;ロッド状または棒状;繊維状、樹針状などの線状;不定形状などが挙げられる。
【0050】
上記磁性ビーズが粒状である場合、中心粒径(D50)は特に限定されないが、例えば、0.1~100μmであることが好ましく、より好ましくは0.5~50μm、さらに好ましくは1.0~30μmである。
【0051】
本発明の磁性ビーズは、溶媒中で微生物を含む試料と混合することで、上記捕集部位に対応する微生物の表面分子のみを選択的かつ自発的に結合することができ、混合液中で微生物との複合体を形成する。上記複合体は磁性を備えるため、磁石を用いることで上記混合液から容易に単離することができる。また、単離した上記複合体中の微生物は、生命活動に伴う増殖や染色、または呼吸に伴う溶存酸素の減少量を計測することにより、その存否を容易に評価することができる。また、単離した上記複合体は、外部刺激により微生物の着脱が可能であるため、微生物の精製・濃縮にも使用できる。また、本発明の磁性ビーズは、微生物に応じたテーラーメイドが可能であり、且つ迅速かつ簡便に作製することができる。そして、本発明の磁性ビーズは、回収して再利用することができるため、環境安定性に優れる。
【0052】
本発明の磁性ビーズは、特定の微生物を選択的かつ自発的に捕集することができるように設計することが容易であり、磁性を有していることから、免疫沈降法に用いることができる。
【0053】
[磁性ビーズの製造方法]
本発明の磁性ビーズの製造方法は特に限定されないが、金属めっき層を構成する金属の塩もしくは錯体、および上記微生物の表面分子の存在下で、重合性モノマーを重合させて基材上に樹脂層を形成する重合工程を少なくとも備える。すなわち、本発明の製造方法では、上記樹脂層は、上記金属めっき層を構成する金属の塩もしくは錯体、および、上記表面分子の存在下で、重合性モノマーを重合させることを特徴とする。
【0054】
上記重合工程において上記金属塩または上記金属錯体は、重合性モノマーの重合と並行して上記基材の表面に形成された金属めっき層表面に金属単体として付着し、金属めっき層を成長させる。このため、上記金属塩または上記金属錯体の存在下で重合性モノマーの重合を行うことで、効率的に金属めっき層表面に上記樹脂層を形成することができる。一方、上記金属塩または上記金属錯体が存在しない系では、重合性モノマーの重合は、主に金属めっき層表面から離れた位置で起こり、金属めっき層表面において上記樹脂層の形成が起こりにくい傾向にある。また、上記金属塩または上記金属錯体の存在下で重合性モノマーを重合する場合であっても、上記基材を用いない場合や上記金属めっき層が形成されていない基材を用いた場合、上記樹脂層は基材表面に形成されにくく、主に、上記基材表面から離れた位置で、金属粒子を核とし、当該金属粒子表面に樹脂層が形成された粒子が形成される。また、上述のように、本発明の磁性ビーズの製造方法によれば、表面に金属めっき層が形成された基材に、金属塩または金属錯体の存在下で重合性モノマーを重合させることで、ワンステップで本発明の磁性ビーズを製造することができ、迅速かつ簡便に微生物を捕集できる。そして、比較的厚さの薄い樹脂層を形成することができるため、得られる磁性ビーズにおいて基材の特性をより充分に発揮することができる。
【0055】
上記金属塩または上記金属錯体は、一方のみを使用してもよいし、両方を使用してもよい。また、上記金属塩または上記金属錯体は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0056】
上記金属塩または上記金属錯体における金属(金属元素)は、上記金属めっき層を構成する金属(金属元素)と同じである。上記金属塩または上記金属錯体における金属としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、タングステン、ジルコニア、錫、コバルト、ストロンチウム、バリウム、およびマンガンなどが挙げられる。
【0057】
銀塩としては、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀などが挙げられる。金塩としては、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウムなどが挙げられる。白金塩としては、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウムなどが挙げられる。パラジウム塩としては、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウムなどが挙げられる。銅塩としては、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅、ギ酸銅、フマル酸銅、塩化銅、臭化銅などが挙げられる。鉄塩としては、酸化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸鉄、ステアリン酸鉄などが挙げられる。チタン塩としては、酸化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、塩化チタン、フッ化チタン、チタン酸リチウムなどが挙げられる。アルミニウム塩としては、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。亜鉛塩としては、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられる。錫塩としては、硫酸錫、塩化第二錫などが挙げられる。タングステン塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸リチウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸銀、タングステン酸セリウム、タングステン酸コバルト、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステンカルボニルなどが挙げられる。ジルコニウム塩としては、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0058】
上記金属錯体における配位子としては、例えば、NH3、RNH2、ハロゲン原子(Cl、F、Br、I、At)、カルボキシ基、カルボキシレート基(-CO-O-)、ピリジル基、H2O、CO3 2-、OH-、NO2 -、NO3 -、NO3 2-、SO3 2-、ROH、N24、PO4 3-、R2O、RO-、ROP3 2-、(RO)2PO2 -、R2S、R3P、RS-、CN-、RSH、RNC、(RS)2PO2 -、(RO)2P(O)S-、SCN-、CO、H-、N3 -、イミダゾール環、不飽和環状有機基、R-(ただし、上記「R」はいずれも、飽和または不飽和有機基を示す)などが挙げられる。なお、上記金属塩と上記金属錯体には、いずれにも該当する化合物が存在する。
【0059】
重合性モノマーの重合を微生物の表面分子の存在下で行うことにより、その形状に応じた三次元構造の鋳型を樹脂層に形成することができる。
【0060】
上記重合性モノマーとしては、ラジカル重合性モノマーや酸化重合性モノマーが好ましい。ラジカル重合性モノマーが重合する際に生じるラジカルにより、または酸化重合性モノマーが重合する際に生じる電子により、上記重合工程において上記金属塩または上記金属錯体に由来する金属イオンが還元されるものと推測され、金属めっき層の成長がより進行しやすい。
【0061】
上記重合性モノマーは、水への分散性に優れ、金属イオンの還元をより促進し得る観点から、アクリルアミド基含有モノマーを含むことが好ましい。上記アクリルアミド基含有モノマーとしては、中でも、温度感応性およびpH感応性を有する樹脂層を形成可能である観点から、上記炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドが好ましく、より好ましくはN-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミドである。また、上記重合性モノマーは、上記その他の重合性モノマーを含んでいてもよく、上記極性基含有モノマーを含むことがより好ましい。
【0062】
上記重合工程における重合性モノマーの重合方法は、特に限定されないが、例えば、溶液重合方法、乳化重合方法、塊状重合方法、活性エネルギー線照射による重合方法(活性エネルギー線重合方法)などが挙げられる。
【0063】
重合性モノマーの重合に際しては、各種の一般的な溶剤が用いられてもよい。上記溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類;トルエン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;アセトニトリルなどのニトリルなどの有機溶剤が挙げられる。中でも、水であることが好ましい。上記溶剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0064】
重合性モノマーの重合に用いられる重合開始剤、架橋剤、連鎖移動剤、乳化剤などは特に限定されず適宜選択して使用することができる。
【0065】
本発明の磁性ビーズの製造方法は、上記重合工程後に、上記樹脂層から、上記樹脂層に取り込まれた微生物の表面分子を除去する除去工程を備えることが好ましい。上記重合工程では、微生物の表面分子の存在下で重合性モノマーを重合することで、上記捕集部位を備える樹脂層が、上記微生物の表面分子を取り込んだまま形成される。このため、上記製造方法により得られる磁性ビーズの機能を発揮させるためには、上記樹脂層から上記微生物の表面分子を除去する必要がある。
【0066】
上記除去工程における上記微生物の表面分子の除去方法としては、例えば、上記微生物の表面分子を分解する方法や、上記樹脂層の感応性を利用した除去方法などが挙げられる。例えば、上記樹脂層がポリピロール層である場合、磁性ビーズを含む系のpHや電圧を変動させることなどにより、ポリピロール層を酸化させることで帯電状態をリセットし、上記微生物の表面分子との静電相互作用を不可逆的に解消することで上記微生物の表面分子を除去することができる。また、上記樹脂層が炭化水素基含有(メタ)アクリルアミドを主たる構成単位とする場合、磁性ビーズを含む系の温度やpHを変動させて可逆的に相転移させることで上記微生物の表面分子を吐出して除去することができる。
【0067】
本発明の磁性ビーズの製造方法によれば、表面に金属めっき層が形成された基材を用いることにより、化学重合で容易にあらゆる基材表面に樹脂層を形成することができる。このため、迅速かつ簡便に微生物を捕集用できる。また、本発明の磁性ビーズの製造方法によれば、微生物に応じたテーラーメイドが可能であり、微生物を選択的に捕集可能な磁性ビーズを迅速かつ簡便に作製することができる。
【0068】
[微生物の捕集方法]
本発明の磁性ビーズは微生物の捕集に用いられる。微生物の捕集方法は、例えば、サンプルの調製工程、磁性ビーズの洗浄工程、サンプルの精製濃縮工程を含む。
【0069】
・サンプルの調製工程
まず、捕集対象となる微生物を含み得るサンプルを用意する。サンプルが固形分である場合はストマッカーなどによって粉砕し、溶媒に分散、または溶解して、サンプル溶液として使用する。溶媒はサンプルの種類などにより適宜選択することができる。上記溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類などの有機溶剤が挙げられる。
【0070】
・磁性ビーズの洗浄工程
適当量の磁性ビーズを容器(例えば、ガラス管やチューブなど)に入れる。これに溶媒を加えて洗浄し、磁石などで磁性ビーズを壁面や底面に集めた後、洗浄液をピペットで除去する。この操作は2回以上繰り返してもよい。使用する溶媒は特に限定されず、例えば、サンプルの調製工程にて例示したものを使用できる。
【0071】
上記操作後の容器に対し、サンプルが含有するものと同じ溶媒を加えて洗浄し、磁石などで磁性ビーズを壁面に集めた上で、洗浄液をピペットで除去する。この操作は2回以上繰り返してもよく、2~5回繰り返すことが好ましい。
【0072】
・サンプルの精製濃縮工程
洗浄した磁性ビーズにサンプルを加えて撹拌・混和する。撹拌・混和の温度は特に限定されないが、例えば、1~50℃であることが好ましく、より好ましくは5~40℃、さらに好ましくは10~35℃、特に好ましくは室温(例えば27℃)である。撹拌・混和の時間は特に限定されないが、例えば、1~60分であることが好ましく、より好ましくは3~30分、さらに好ましくは5~15分である。混和後、磁石などで磁性ビーズを壁面に集めた上で、溶液をピペットなどで除去する。その後、適当な溶媒を加えて洗浄し、磁石などで磁性ビーズを壁面に集めた上で、洗浄液をピペットで除去する。この操作は2回以上繰り返してもよく、2~5回繰り返すことが好ましい。
【0073】
十分に洗浄液を取り除いた後、適当な溶媒を適当量加えて撹拌し磁性ビーズを十分に懸濁する。得られた懸濁液に対し、必要に応じて外部刺激を与えることで磁性ビーズに結合した微生物を分離してもよい。
【0074】
溶液を除去する際に用いる磁石などは、特に制限されず、様々な形態や組成の永久磁石(例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石)、電磁石などを用いることができる。また市販されている磁性ビーズ用のマグネットスタンドを用いることもできる。
【0075】
以上の操作から、使用するサンプルから目的の微生物を精製濃縮することができる。また、捕集物について、表面塗抹法などにより評価を行うことで、微生物の存否を確認することが可能となる。
【実施例0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
(金ナノ粒子被覆磁性ビーズの作製)
超純水200mLに、1質量%テトラクロロ金(III)酸四水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)水溶液5.8mLを添加し、次いで2質量%水素化ホウ素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)水溶液3mLを加え、室温で12時間撹拌した。これにより、金コロイド溶液(0.013質量%)を得た。透過型電子顕微鏡(商品名「JEM-2000FXII」、日本電子株式会社製)により観察したところ、金コロイドの平均粒子径は、5.0nm(σ=1.1nm)であった。得られた金コロイド溶液160mLに、磁性ビーズ(グリーンケム株式会社製、粒径:5.0μm、アクリル樹脂ビーズをコバルトフェライトナノ粒子でコートしたもの)200mgおよび10mMアミノエタンチオール(富士フイルム和光純薬株式会社製)/エタノール溶液1.6mLを加え、室温で1日間撹拌した。次いで、孔径1.0μmのオムニポアメンブレンフィルター(メルク株式会社製)でろ過し、超純水で洗浄した。次いで、真空乾燥を室温で24時間行い、金ナノ粒子被覆磁性ビーズを作製した。金ナノ粒子被覆磁性ビーズの粒径は約5.0μmであった。
【0078】
(微生物捕集用磁性ビーズの作製)
テンプレート(微生物の表面分子)として、2.0mgのE.coli O26リポポリサッカライド(LPS)(大腸菌O26由来のLPS、超遠心品、富士フイルム和光純薬株式会社製)を超純水50mLに加えて15分間超音波振動で分散することにより、O26 LPS溶液を作製した。重合性モノマーとして、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)20mg、アクリル酸1.1μL、N-t-ブチルアクリルアミド17mg、及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド1.0mgを上記O26 LPS溶液(50mL)に添加した。なお、N-t-ブチルアクリルアミドは水に溶けないため、エタノール1.5mLに25mg溶かしたものを1.0mL(N-t-ブチルアクリルアミドは17mg)加えて混合溶液とした。この混合溶液に、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム10mg、1重量%の塩化金酸水溶液300μL、上記で作製した金ナノ粒子被覆磁性ビーズ100mgを加えた。その後、得られた混合溶液を減圧下10分間脱気し、次いで30分間窒素通気によってバブリングした。さらに、ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液30mg/500μLとN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン15μLを開始剤として混合溶液中に添加し、298Kで窒素通気によってバブリングしながら18時間撹拌することで重合反応を行った。混合液中のpHは4.0であった。重合反応の終了後、余剰のO26 LPSや未反応の重合性モノマー等を排除するために、磁石を容器の外側から近づけてビーズを固定・回収し、上澄みを除去した。ビーズに固定されたO26 LPSを排出するために、新たに超純水50mLを加えて分散させた後、323Kで30分間加熱した(以下、このプロセスを洗浄操作と称する)。洗浄操作を3回繰り返した後、343Kで乾燥し、微生物捕集用磁性ビーズを得た。
【0079】
(結合性評価)
100mg(粒径:約5μm、密度:1.7g/cm3、9.0×109個/g)の微生物捕集用磁性ビーズを1mLの滅菌蒸留水に分散したものを磁性ビーズ液とした。
【0080】
[実施例2]
(接種菌液の調製)
E.coli O26:H11(PV03-017)、E.coli K-12 (NBRC 3301)、S.aureus (NBRC100910)の各菌株について、マックファーランド濁度標準液番号1の1/2の濁度(108CFU/mL)になるように滅菌蒸留水5mLで調製し、これを100倍希釈したもの(濁度は106CFU/mL)を接種菌液とした。
【0081】
2880μLの滅菌蒸留水、60μLの磁性ビーズ液、60μLの接種菌液を混合し、各菌株の試料液を3mL作製した。なお、磁性ビーズ濃度は2mg/mL、菌液濁度は20000CFU/mLである。
【0082】
各試料液をよく混和後、表面塗抹法(10μL、100μL塗布)により、生菌数(CFU/mL)を測定した。測定後の生菌数を「初発液の生菌数」と称する。これらの操作は普通寒天培地(栄研化学株式会社製)を使用して、37℃、18時間、好気培養で実施した。
【0083】
各試料液を室温で振盪しながら1.5時間インキュベートした後、7mLの滅菌蒸留水を添加して全量を10mLとし、ボルテックスミキサーを用いて混和した。磁石を容器の底に3分間あてた後、デカンテーションして得た上清を廃棄した。さらに、沈査に滅菌精製水10mLを加えて再懸濁し、磁石を容器の底に3分間あてた後、デカンテーションして得た上清を廃棄した。この操作をもう一度繰り返した。
【0084】
デカンテーション後の上記容器に、沈査に滅菌精製水3mLを加えて再懸濁した。得られた懸濁液を上記と同様の表面塗抹法を用いて、生菌数(CFU/mL)を測定した。また、30~300集落を示したシャーレを採用値とし、希釈倍率を乗じて、各試料液1mLあたりの生菌数値を算出した。測定後の生菌数を「再浮遊液の生菌数」と称する。そして、以下の式に基づいて「回収率(%)」を算出した。その結果を表1に示す。
回収率(%)=再浮遊液の生菌数/初発液の生菌数×100
【0085】
【表1】
【0086】
表1から、実施例1で得た微生物捕集用磁性ビーズは、E.coli O26 LPSを有するE.coli O26:H11を捕集し、上記LPSを持たないE.coli K-12やS.aureusを捕集しなかったことから、E.coli O26のLPSに対して特異的に結合することが示唆された。微生物捕集用磁性ビーズは、E.coli O26:H11の回収率は平均34.6%であった。
【符号の説明】
【0087】
1 磁性ビーズ
10 基材
20 金属めっき層
21 金属ナノ粒子
30 樹脂層
31 捕集部位
40 微生物の表面分子
図1
図2
図3
図4