(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171004
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法及び操業効率向上方法
(51)【国際特許分類】
F26B 13/18 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
F26B13/18 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083166
(22)【出願日】2022-05-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】氏家 章吾
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AA06
3L113AB05
3L113AC05
3L113AC32
3L113AC45
3L113AC46
3L113AC54
3L113AC64
3L113BA16
3L113BA26
3L113BA30
3L113CA20
3L113CB01
3L113DA02
(57)【要約】
【課題】ドラムドライヤにおける加熱効率向上策の効果を短期間で求めることができるドラムドライヤ改善効果の評価方法及びそれに基づく操業効率向上方法を提供する。
【解決手段】回転するドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外周面に接する被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を改善する改善処理を実施したことによる改善度合いを、該ドラムの回転駆動電流値又は電力値に基づいて評価することを特徴とするドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外周面に接する被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を改善する改善処理を実施したことによる改善度合いを、該ドラムの回転駆動電流値又は電力値に基づいて評価することを特徴とするドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【請求項2】
前記改善処理が、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤の添加によることを特徴とする請求項1に記載のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【請求項3】
前記駆動電流値又は電力値が、前記ドラムドライヤのドレン状態がパドリング又はカスケーディングの時のものであり、電流値又は電力値が低いほど改善度合が高いと評価することを特徴とする請求項1に記載のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【請求項4】
請求項2のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法の評価結果に基づき、接触角増大剤の添加量を制御することを特徴とするドラムドライヤ操業効率向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法及び操業効率向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙工場や食品、飲料の製造工場等では、蒸気により製造物を加熱することにより、製造物を乾燥、濃縮、又は殺菌する処理が行われている。例えば、抄紙設備では、回転式のドラムを備えた蒸気ドライヤにより、含水率50%程度の湿紙を含水率5~10%程度にまで乾燥させる処理が行われている。
【0003】
蒸気ドライヤとしてヤンキードライヤを例にとって説明する。ドラムは、その軸心回りに回転駆動されており、このドラム内に水蒸気が供給される。湿紙は、このドラムの外周面に接触して乾燥され、該外周面から剥離された後、製品巻取り工程へ送られる。乾燥された紙の含水率とドラム外周面の温度とがセンサによって測定され、これらに基づいて水蒸気流量が調節される。
【0004】
ドラム内で水蒸気が凝縮して生じた凝縮水は、ドラムの回転に伴う遠心力によってドラムの内周面に押し付けられ、ドラムの回転方向にリフトされることで、ドラムの内周面に水膜を形成している。
【0005】
ドラム内周面の水膜の膜面積が大きくなると、ドラム外周面への熱伝達が阻害され、加熱効率(乾燥効率)が低下する。
【0006】
そこで、この乾燥工程での湿紙の乾燥効率を高めて紙の生産量を上げる方法として、ドラムの回転速度を下げて膜のリフト量を少なくしたり、スポイラバーと呼ばれる突起をドラム内周面に設けたりして、ドライヤのドラム内に蓄積される凝縮水膜を不均一にする方法が行われることがある。また、ドラム内での凝縮水膜の形成を抑えるために、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤として、オクタデシルアミン等の長鎖脂肪族アミン(特許文献1)やポリアミンを添加する方法が提唱されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-12921号公報
【特許文献2】特開2019-56524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ドラムドライヤにおける乾燥効率向上効果を検証する指標として、蒸気原単位(生産品1t当たりの蒸気量)がある。しかし、蒸気原単位は、抄紙速度、製品含水率、蒸気圧力、外気温、ブローク率など種々の要因を合致させて評価する必要があるため、操業が同じ条件になるまで数カ月を要するケースが多く、その期間短縮が求められていた。
【0009】
本発明は、ドラムドライヤにおける加熱効率向上策の効果を短期間で求めることができるドラムドライヤ改善効果の評価方法及びそれに基づく操業効率向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ドラムドライヤの駆動電流値又は電力値に基づいて、早期に加熱効率向上効果を評価できることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 回転するドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外周面に接する被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を改善する改善処理を実施したことによる改善度合いを、該ドラムの回転駆動電流値又は電力値に基づいて評価することを特徴とするドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【0012】
[2] 前記改善処理が、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤の添加によることを特徴とする[1]に記載のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【0013】
[3] 前記駆動電流値又は電力値が、前記ドラムドライヤのドレン状態がパドリング又はカスケーディングの時のものであり、電流値又は電力値が低いほど改善度合が高いと評価することを特徴とする[1]に記載のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
【0014】
[4] [2]のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法の評価結果に基づき、接触角増大剤の添加量を制御することを特徴とするドラムドライヤ操業効率向上方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のドラムドライヤの加熱効率の改善評価方法では、回転するドラムを介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、加熱効率の改善度合いを、ドラムを回転させるための駆動電流値又は電力値に基づいて評価する。本発明方法では、抄紙速度、製品含水率、蒸気圧力、外気温、ブローク率など種々の要因を合致させて評価する必要がないため、早期に加熱効率向上効果を評価できる。
【0016】
本発明の操業効率向上方法によれば、かかる評価結果に基づき、接触角増大剤の添加量を制御する。これにより、ドラム駆動に必要な電力量を削減できる。また、電力量をモニタリングして、その結果に基づいて薬注することで、操業を最適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、蒸気ドライヤとしてヤンキードライヤ(1本の大径の鋳鉄製シリンダからなるドライヤ)を用いた湿紙乾燥設備を示す系統図であり、補給水装置1、給水槽2、配管3及び給水ヘッダ4を介してボイラ5へ給水が供給される。ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給される。
【0020】
このドラム11は、
図1において時計方向にモータを有する駆動装置によって回転駆動されており、湿紙Pは、このドラム11の外周面に接触して乾燥され、該外周面から剥離された後、製品巻取り工程へ送られる。乾燥された紙の含水率とドラム外周面の温度とがセンサによって測定される。
【0021】
ドラム内で水蒸気が凝縮して生じた凝縮水Wは、サイホン管12及び配管13を介してフラッシュタンク14へ送られ、濾過器15を介して給水槽2へ返送される。ドラム11内においては、凝縮水Wは、ドラム11の回転に伴う遠心力によってドラム11の内周面に押し付けられ、ドラム11の回転方向にリフトされることで、ドラム11の内周面に水膜を形成している。
【0022】
この水膜の状態は、
図2(a)のようにドレン水が持ち上げられる高さが比較的低いパドリング状態と、ドレン水の持ち上げ高さがそれよりも高い、(ほぼ天面部近くに達した)カスケーディング状態と、水膜がドラム内周面の全面に張り付いたリミング状態とに大別される。
【0023】
ドラムを構成する金属材料としては、耐久性に優れ、伝熱効率の高いものであればよく、鉄系材料や銅系材料が挙げられるが、アルミニウム系材料などの軽金属材料であってもよい。
【0024】
また、被加熱物についても特に制限はなく、本発明は、上記のように、抄紙設備における湿紙の加熱乾燥や、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、紙おむつなどの家庭紙用原料紙や片艶包装紙などの製造設備において、圧搾・搾水部を出た湿紙の加熱乾燥に有効に適用できるが、これ以外であってもよい。
【0025】
ドラムドライヤは単一でもよいし、マルチドライヤーと呼ばれるような複数設置されているシステムのドラムドライヤであってもよい。その他、例えばディスク型伝導加熱式液体乾燥機のような熱交換器等における蒸気による加熱で粉体を製造するプロセスにも適用することができる。
【0026】
本発明では、このドライヤにおいて加熱効率改善対策を行ったときの加熱効率改善効果を、ドラムを回転駆動する電流値又は電力値に基づいて評価する。
【0027】
即ち、本発明者が、
図2のドラム内の水膜状態と電流値又は電力値との関係を調べたところ、ドラムの回転速度(rpm又は回転周速)が同一の場合、水膜のリフト量が高くなるほど(
図2(a)→
図2(b))、電流値又は電力値が増大するが、カスケーディング状態(
図2(b))を過ぎてリミング状態になると電流値又は電力値は急激に低下することが認められた。
【0028】
加熱効率を向上させる、すなわちドラム内周面から外周面に効率よく熱を伝達するための手段としては、ドラム内にスポイラバーと称される突起を設けたり、特許文献1のようにドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤(水膜形成抑制剤)をドラム内の水に含有させたり、特許文献2のようにポリアミンと中和アミンとを水蒸気に添加する等の1又は2以上の手段(対策)を採用する。
【0029】
本発明の一態様では、パドリング状態(
図2(a))ないしカスケーディング状態(
図2(b))となっていることが確認されているドラムにおいて、そのときの電流値又は電力値を測定すると共に、接触角増大剤を添加した後の電流値又は電力値を測定する。特に、接触角増大剤添加量を次第に増加させ、そのときの電流値又は電力値を測定する。
【0030】
接触角増大剤の添加量を増加させることにより、次第に電流値又は電力値が低下する。そこで、接触角増大剤の種類を変えて添加し、添加後の電流値又は電力値を当該接触角増大剤無添加時の電流値又は電力値と比較することにより、種々の接触角増大剤の添加効果を比較することができる。
【0031】
また、上述の通り、接触角増大剤の添加量を増加させることにより、次第に電流値又は電力値が低下する。しかしながら、一般に、添加量をある所定量よりも多くしても電流値又は電力値はそれ以下には低下しないようになる。そこで、接触角増大剤の添加量が該所定量以下の範囲となるように、接触角増大剤の添加量を制御することにより、接触角増大剤の過剰添加が防止される。なお、この際、接触角増大剤の薬品コストと、低減される電力コストとを勘案して添加量を決定してもよい。
【0032】
ドラムの駆動電流値又は電力値を測定するには、ドラムドライヤの制御装置にドラム駆動力(電流値又は電力値)に関するデータを蓄積する機構があるときはそのデータを採取してもよい。設置されていない場合には、例えばクランプ式の電流値計測器を用いて計測できるが、ドラムドライヤの動力制御盤にテスト端子がある場合は、そこに電流メータを接続して計測してもよい。
【0033】
また、改善策の前後データを蓄積するデータ設備を併用し、取得した電流値又は電力値の差分をCO2に換算する機構を備えてもよい。
【実施例0034】
以下に実施例及び比較例について説明する。
【0035】
[実施例1、2、比較例1]
図1に示す抄紙乾燥設備において、ヤンキードライヤのドラム直径3.6m、供給水蒸気圧力0.6MPa、水蒸気供給量約900kg/hとし、ドラムの外表面温度が115℃となり、乾燥後の製品(紙)の含水率が20~30%となるように、ヤンキードライヤへの水蒸気供給量を流量調節弁9で制御した。
【0036】
この抄紙乾燥設備において、ドラム内に撥水性を付与する接触角増大剤添加による加熱効率の改善度合いを評価する実験を行った。
【0037】
一般的なヤンキードライヤでは、蒸気原単位(生産量1tあたりの蒸気量)を比較するには、蒸気量と生産量の単純比較ではなく、ドラム回転速度、製品含水率、蒸気圧力の3要素が同一となる操業条件で比較する必要がある。そのため、蒸気原単位に基づく評価を行うには数か月を要した。
【0038】
一方、実施例1、2及び比較例1では、電力値に着目することで、接触角増大剤添加の効果を把握する。この場合、ドラム回転速度のみが一致する結果を比較するだけで良いので、1日もあれば評価でき、迅速に評価結果を得ることができる。
【0039】
図3は、実施例1、2及び比較例1におけるドラムドライヤ駆動電力値とドラム回転周速度との関係を示したものである。
【0040】
比較例1では、接触角増大剤を何も添加しない条件下で、ドラム周速度200~900m/minの範囲で駆動電力値を測定した。結果を
図3に示す。
【0041】
図3の通り、周速度570m/min以下のパドリング及びカスケーディング領域では、回転速度の増加と共にドレン水の持ち上げられる高さが上昇し、電力値は次第に上昇することが分かる。周速度が700m/min超となり、ドラムドライヤ内面にドレン水が張り付くリミングと呼ばれる状態になると、電力量は低く維持されることが分かった。
【0042】
実施例1、2では、接触角増大剤としてポリアミン系薬剤を水蒸気に対し5mg/kg(実施例1)又は20mg/kg(実施例2)となるようにして同様の測定を行った。結果を
図3に示す。
【0043】
図3の通り、これらの場合も、パドリング及びカスケーディング領域では、回転速度の増加と共にドレン水の持ち上げられる高さが上昇し、電力値は次第に上昇することが分かる。一方、ドラムドライヤ内面にドレン水が張り付くリミングと呼ばれる状態になると、電力量は低く維持されることが分かった。
【0044】
また、薬剤の添加量を多くするほど、電力値のカーブが下側にシフトすること、即ち薬品添加量を増やすことで、電力値が低減されることが認められた。なお、実施例2よりも更に薬品添加量を増やしても、更なる電気量の低減は見られなかった。このことから、この場合、最適な添加量は20mg/kg-水蒸気であることが分かった。この結果より、薬品の添加量を電力値に基づいて制御すればよいことが認められた。
回転するドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外周面に接する被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を改善する改善処理を実施したことによる改善度合いを、該ドラムの回転駆動電流値又は電力値に基づいて評価するドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法であって、
前記駆動電流値又は電力値が、前記ドラムドライヤのドレン状態がパドリング又はカスケーディングの時のものであり、電流値又は電力値が低いほど改善度合が高いと評価することを特徴とするドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。
前記改善処理が、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤の添加によることを特徴とする請求項1に記載のドラムドライヤにおける加熱効率改善効果の評価方法。