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特開2023-171086化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法
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  • 特開-化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法 図1
  • 特開-化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法 図2
  • 特開-化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法 図3
  • 特開-化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171086
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及び架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/04 20060101AFI20231124BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20231124BHJP
   C07K 1/107 20060101ALI20231124BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20231124BHJP
   C07H 21/02 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C07H19/04
C12N15/11 Z ZNA
C07K1/107
C07H21/04
C07H21/02
C07H21/04 A
C07H21/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083316
(22)【出願日】2022-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三宅 由花
(72)【発明者】
【氏名】菊池 重俊
(72)【発明者】
【氏名】安齋 宏紀
【テーマコード(参考)】
4C057
4H045
【Fターム(参考)】
4C057AA17
4C057AA18
4C057AA20
4C057CC03
4C057DD03
4C057LL03
4C057LL19
4C057MM02
4C057MM04
4C057MM09
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA54
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光応答性塩基を有する新規の化合物、及びその関連技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る化合物は、下記式(1)で示される。

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、
、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基であり、
n個のRはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、カルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に結合しており、
は、メチル基、トリチル基、2-トリメチルシリルエチル基、メトキシフェニルジフェニルメチル基、又はジメトキシトリチル基であり、
nは、1以上4以下の整数である)
で示される、化合物。
【請求項2】
は、シアノ基であり、
及びRは、水素原子であり、
nは、1であり、
は、塩素原子、臭素原子又はメチル基であり、カルバゾール構造の6位に結合している、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】
(式(2)中、
、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基であり、
n個のRはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、カルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に結合しており、
X及びYにおいて、それぞれ他のヌクレオチドと結合しており、
nは、1以上4以下の整数である)
で示される構造を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
RNAを含む、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
タンパク質又はペプチドと、他のポリヌクレオチドとを結合するためのリンカーであって、
請求項3に記載のポリヌクレオチドを備える、リンカー。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載の化合物、又は請求項3に記載のポリヌクレオチドを用いて、ポリヌクレオチドの一本鎖領域同士を架橋させる、架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、ポリヌクレオチド、リンカー、及びポリヌクレオチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規機能性ポリペプチドの探索等の分子生物学の分野において、核酸構築物の安定化及び遺伝子発現の阻害等のために、ポリヌクレオチド同士の架橋技術が用いられることがある。中でも、光照射によって架橋反応を生じる光架橋技術は、反応条件に関する制限が少ないこと、及び反応系に含まれる成分の損傷が小さいことから、有用な技術として用いられている。
【0003】
このようなポリヌクレオチドの光架橋技術として、例えば特許文献1には、光架橋可能な光反応性架橋剤として、3位において、置換していてもよいビニル基により置換された、カルバゾリル基と糖類基、多糖類基等とが、カルバゾリル基の1位において結合してなる化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-121899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規機能性ポリペプチドの探索等の分子生物学の分野において利用可能な、光応答性塩基を有する化合物への需要は高く、光応答性塩基を有する新規の化合物が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光応答性塩基を有する新規の化合物、及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者等は、特定の式で示される新規化合物は、その構造中に有する塩基が光応答性であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の態様(1)に係る化合物は、下記式(1)(式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基であり、n個のRはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、カルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に結合しており、Rは、メチル基、トリチル基、2-トリメチルシリルエチル基、メトキシフェニルジフェニルメチル基、又はジメトキシトリチル基であり、nは、1以上4以下の整数である)で示される。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明の態様(2)に係る化合物は、態様(1)において、Rは、シアノ基であり、R及びRは、水素原子であり、nは、1であり、Rは、塩素原子、臭素原子又はメチル基であり、カルバゾール構造の6位に結合している。
【0011】
本発明の態様(3)に係るポリヌクレオチドは、下記式(2)(式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基であり、n個のRはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子であり、カルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に結合しており、X及びYにおいて、それぞれ他のヌクレオチドと結合しており、nは、1以上4以下の整数である)で示される構造を含む。
【0012】
【化2】
【0013】
本発明の態様(4)に係るポリヌクレオチドは、態様(3)において、RNAを含む。
【0014】
本発明の態様(5)に係るリンカーは、タンパク質又はペプチドと、他のポリヌクレオチドとを結合するためのリンカーであって、態様(3)又は(4)に係るポリヌクレオチドを備える。
【0015】
本発明の態様(6)に係る架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法は、態様(1)若しくは態様(2)に係る化合物、態様(3)若しくは態様(4)に係るポリヌクレオチド、又は態様(5)に係るリンカーを用いて、ポリヌクレオチドの一本鎖領域同士を架橋させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、光応答性塩基を有する新規の化合物、及びその関連技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例、比較例又は参考例のポリヌクレオチドと、モデルmRNAとしてBDAをコードするmRNAとを含む混合溶液の、光架橋反応後(RO)及び光開裂反応(CL)後のゲル電気泳動写真である。
図2】本発明の実施例、比較例又は参考例のポリヌクレオチドと、モデルmRNAとしてC14ライブラリとを含む混合溶液の、光架橋反応後(RO)及び光開裂反応後(CL)のゲル電気泳動写真である。
図3図1及び図2に示すゲル電気泳動写真において、同一レーンにおける、開裂構造を示すバンド強度に対する、架橋構造を示すバンド強度の比率を表すグラフである。
図4図1及び図2に示すゲル電気泳動写真において、同一サンプルにおける、2分間の光開裂反応後の開裂構造を示すバンド強度に対する、光架橋反応後の架橋構造を示すバンド強度の比率を表すグラフである。
図5】同一サンプルにおける、10分間の光開裂反応後の開裂構造を示すバンド強度に対する、光架橋反応後の架橋構造を示すバンド強度の比率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔定義〕
本発明の一態様について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書において「A~B」とは、特に指定しない限りA以上B以下であることを示している。
【0019】
本明細書において、「光開裂反応速度が低い」とは、架橋構造にある化合物に対して光開裂反応を意図して光照射したときに、架橋構造が維持される割合が、比較対象と比べて高いことを意味する。また、「光開裂反応速度が低い」とは、同様に光照射したときに、架橋構造が維持される割合の、比較対象との差が20%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下であることを意味する。
【0020】
〔化合物〕
本発明の一態様に係る化合物は、下記式(1)で示される。
【0021】
【化3】
式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、シアノ基、アミド基、又はカルボキシル基である。Rは、シアノ基であることが好ましい。また、R及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0022】
式(1)中、カルバゾール構造の3位に結合しているアルケン系官能基-C(R)=C(R)(R)は、光照射により、特定の官能基との光架橋反応を生じる官能基である。R、R及びRの種類は、光架橋反応速度に寄与し、R、R及びRそれぞれが上述した好ましい官能基であることによって、光架橋反応速度を向上させることができる。
【0023】
式(1)中、n個のRはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、又はハロゲン原子である。
【0024】
炭素数1~6のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基が有してもよい置換基の例としては、炭素数1~3のアルキル基、及びハロゲン原子が挙げられる。また、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。製造の容易性及び価格低減の観点から、n個のRはそれぞれ独立して、塩素原子、臭素原子、メチル基又はエチル基であることが好ましく、塩素原子、臭素原子又はメチル基であることがより好ましく、塩素原子又はメチル基であることがさらに好ましく、塩素原子であることがよりさらに好ましい。
【0025】
式(1)中、nは、1以上4以下の整数である。nは、1以上2以下の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0026】
式(1)中、n個のRはそれぞれ独立して、カルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に結合している。架橋反応の効率及び製造の容易性の観点から、n個のRのうち1個は、カルバゾール構造の6位に結合していることが好ましい。
【0027】
式(1)中、n個のRはそれぞれ独立して、光架橋反応速度及び光開裂反応速度を変化させる官能基である。n個のRそれぞれが上述した好ましい官能基であることによって、光架橋反応速度を向上させるか又は維持しつつ、光開裂反応速度をより低下させるか又は同程度に維持することができる。
【0028】
特許文献1に記載の化合物は、同一の波長の光照射によって、光架橋反応及び光開裂反応の両方を生じるという性質を有している。本発明者等は、研究の中で、この性質によって、光架橋反応を意図した実験操作においても化合物が光開裂反応を生じ、したがって架橋構造が不安定化される、という問題点を見出した。本発明の一態様に係る化合物は、n個のRそれぞれが上述した構成を有するとき、中でもRが塩素原子又はメチル基であるとき(好ましくはn=1であり、6位に結合しているとき)に、光架橋反応速度を向上させるか又は維持しつつ、光開裂反応速度をより低下させるか又は同程度に維持することができる。したがって、本発明の一態様に係る化合物は、架橋構造が安定化されており、新規機能性ポリペプチドの探索等の分子生物学の分野において好適に利用することができる。
【0029】
式(1)中、Rは、メチル基、トリチル基、2-トリメチルシリルエチル基、メトキシフェニルジフェニルメチル基、又はジメトキシトリチル基である。Rは、トリチル基、メトキシフェニルジフェニルメチル基、又はジメトキシトリチル基であることが好ましく、ジメトキシトリチル基であることがより好ましい。
【0030】
式(1)中、Rは、式(1)で示される化合物を原料として用いる合成反応において、保護基として機能する官能基である。Rが上述した好ましい官能基であることによって、保護基としてより効果的に機能させることができる。
【0031】
式(1)中、カルバゾール構造は、ヌクレオチド類化合物の塩基部分との間に相補性を有する構造である。カルバゾール構造が相補性によって塩基部分とハイブリダイズすることによって、カルバゾール構造と塩基部分との位置関係が安定化されるため、カルバゾール構造の3位に結合しているアルケン系官能基-C(R)=C(R)(R)がより効果的に光架橋反応を生じることができる。換言すれば、式(1)中、カルバゾール構造及び3位に結合しているアルケン系官能基は、光応答性塩基である。
【0032】
式(1)中、ホスホロアミダイト構造は、式(1)で示される化合物を原料として用いる合成反応において、求核性を示し、カップリング反応を生じる構造である。したがって、式(1)で示される化合物は、ホスホロアミダイト法等のポリヌクレオチド合成法において好適に用いることができる。
【0033】
〔化合物の製造方法〕
式(1)で示される化合物は、例えば、本発明の一態様に係る化合物の製造方法によって、製造され得る。本発明の一態様に係る化合物の製造方法は、原料化合物が有するカルバゾール構造の5位、6位、7位又は8位に対して、n個のRを導入する第1の反応工程を含み得る。また、本発明の一態様に係る化合物の製造方法は、後述する第2の反応工程、第3の反応工程、第4の反応工程、及び第5の反応工程をさらに含み得る。
【0034】
以下、説明の簡単のため、式(1)中、Rがシアノ基であり、R及びRが水素原子であり、nが1であり、Rが塩素原子、臭素原子又はメチル基であり、カルバゾール構造の6位に結合しており、Rがジメトキシトリチル基である化合物(以下、「化合物6」という。)の製造方法について説明する。しかしながら、本発明の一態様に係る化合物の製造方法は、以下で説明する形態に限定されるものではなく、式(1)で示される化合物について所望される具体的な構造に応じて、当業者が種々の変更を行うことができる。なお、種々の変更の例は、Org. Lett. 2015, 17, 1874-1877; Tetrahedron Lett. 2012, 53, 4012-4014; Org. Lett. 2008, 10, 3227-3230に記載されている。
【0035】
本実施形態において、化合物6の製造方法は、下記スキームで示されるように、第1の反応工程(Reaction 1)、第2の反応工程(Reaction 2)、第3の反応工程(Reaction 3)、第4の反応工程(Reaction 4)、及び第5の反応工程(Reaction 5)を含む。化合物6の製造方法は、原料化合物として化合物1を用い、最終生成物として化合物6を得る。
【0036】
【化4】
【0037】
〔第1の反応工程〕
第1の反応工程は、化合物1のカルバゾール構造の6位に対して、Rを導入し、中間体化合物2を得る工程である。第1の反応工程において、NXSはRの供給源である。例えば、Rが塩素原子であるならば、NXSはNCS(N-クロロスクシンイミド)である。Rが臭素原子であるならば、NXSはNBS(N-ブロモスクシンイミド)である。Rが炭素数1~6のアルキル基であるならば、NXSは、NIS(N-ヨードスクシンイミド)と、炭素数1~6のアルキルカルボン酸との組み合わせである。例えば、Rがメチル基であるならば、NXSは、NIS(N-ヨードスクシンイミド)と酢酸との組み合わせである。
【0038】
第1の反応工程において、NXSの量は、化合物1に対して1当量~2当量であってもよい。第1の反応工程において、溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよい。第1の反応工程で使用され得る溶媒の例としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、及びテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。溶媒は、DMFであることが好ましい。
【0039】
〔第2の反応工程〕
第2の反応工程は、中間体化合物2のカルバゾール構造の3位に結合しているヨウ素原子をビニルシアノ基で置換し、中間体化合物3を得る工程である。本実施形態において、ビニルシアノ基の供給源として、中間体化合物2に対して3.0当量のアクリロニトリルが用いられ、反応溶媒としてDMFと水との混合溶媒が用いられる。また、酸成分として、中間体化合物2に対して1.0当量~3.0当量のトリプロピルアミン(TPA)が用いられる。
【0040】
第2の反応工程において、反応系にマイクロウェーブ(MW)を照射することが好ましい。反応系にMWを照射することによって、カルバゾール構造の3位に導入されるビニルシアノ基の幾何異性選択性(E/Z値)を向上させ、したがって収率を向上させることができる。
【0041】
〔第3の反応工程〕
第3の反応工程は、中間体化合物3のカルバゾール構造の9位に対してデオキシリボフラノース構造を導入し、中間体化合物4を得る工程である。第3の反応工程において、デオキシリボフラノース構造の供給源として、下記式で示されるHoffer’s chlorosugarが用いられる。
【0042】
【化5】
【0043】
〔第4の反応工程〕
第4の反応工程は、中間体化合物4のデオキシリボフラノース構造の5位に対して、4,4-ジメトキシトリチル基を導入し、中間体化合物5を得る工程である。本実施形態において、4,4-ジメトキシトリチル基の供給源として、4,4-ジメトキシトリチルクロリド(DMTrCl)が用いられる。溶媒としては、ジクロロメタン(DCM)が用いられる。
【0044】
第4の反応工程において、脱ハロゲン化剤としてジアザビシクロウンデセン(DBU)が用いられる。なお、脱ハロゲン化剤としては、DBUの代わりにジアザビシクロノネン(DBN)を用いてもよい。
【0045】
〔第5の反応工程〕
第5の反応工程は、中間体化合物5のデオキシリボフラノース構造の3位に対して、ホスホロアミダイト構造を導入し、最終生成物として化合物6を得る工程である。本実施形態において、ホスホロアミダイト構造の供給源として、2-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイトが用いられる。
【0046】
〔ポリヌクレオチド〕
本発明の一態様は、ポリヌクレオチドに関する。本発明の一態様に係るポリヌクレオチドは、下記式(2)で示される構造を含む。本発明の一態様に係るポリヌクレオチドは、例えば、主鎖を構成する構成単位のうち少なくとも一部に、式(2)で示される構造を含む、ポリヌクレオチドであり得る。ここで、当該構造は、式(1)で示される化合物に由来する構造であり得る。
【0047】
【化6】
【0048】
なお、本明細書において、「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドを構成単位として含む重合体を意味する。ヌクレオチドにおいて、塩基それぞれは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)及びU(ウラシル)などの天然塩基であってもよく、天然塩基に由来する誘導体塩基であってもよく、人工的に合成された合成塩基であってもよい。ポリヌクレオチドにおいて、ヌクレオチドそれぞれは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、及びこれらの誘導体から独立して選択される。ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド以外に由来する構成単位を含んでもよい。ヌクレオチド以外に由来する構成単位としては、例えば、合成アミノ酸等が挙げられる。ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの総質量に対して、ヌクレオチドを構成単位とする部分を、50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0049】
式(2)中、R、R、R、R、及びnはそれぞれ、上述した式(1)に含まれるR、R、R、R、及びnと同一の構成を備えるため、その説明を繰り返さない。
【0050】
式(2)で示される構造は、X及びYそれぞれにおいて、ポリヌクレオチド主鎖に構成単位として含まれる、それぞれ他のヌクレオチドと結合している。例えば、X及びYはそれぞれ独立して、リン酸エステル結合、及び当該結合を介して式(2)で示される構造に結合している他のヌクレオチドの組み合わせを表す。
【0051】
本発明の一態様に係るポリヌクレオチドは、式(2)で示される構造を含むポリヌクレオチド主鎖に加えて、他の部材をさらに含んでもよい。説明の簡単のため、以下、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドに含まれる:(X)式(2)で示される構造を含むポリヌクレオチド主鎖;及び(Y)存在する場合には他の部材;のうち、(X)を「第1のセグメント」と記載することがある。
【0052】
本発明の一態様において、第1のセグメントは、式(2)で示される構造を含めばよく、塩基配列は特に制限されない。式(2)で示される構造は、例えば、第1のセグメントにおける中間領域に位置していることが好ましい。限定するものではないが、式(2)で示される構造は、第1のセグメントの3’末端及び5’末端それぞれから2塩基以上離れていることが好ましい。このような構成によれば、式(2)で示される構造による光架橋反応速度がより向上する。
【0053】
本発明の一態様において、第1のセグメントの長さは、5ヌクレオチド長以上であることが好ましく、10ヌクレオチド長以上であることがより好ましく、15ヌクレオチド長以上であることがさらに好ましい。第1のセグメントの長さがこのような数値範囲内であることによって、第1のセグメントと、他のポリヌクレオチドとの二本鎖領域の形成効率が向上する。また、第1のセグメントの長さは、90ヌクレオチド長以下であることが好ましく、60ヌクレオチド長以下であることがより好ましく、40ヌクレオチド長以下であることがさらに好ましい。第1のセグメントの長さがこのような数値範囲内であることによって、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドを安価に製造することができる。
【0054】
本発明の一態様において、第1のセグメントのG/C含有量は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることがよりさらに好ましい。G/C含有量がこのような数値範囲内であることによって、第1のセグメントと、他のポリヌクレオチドとの二本鎖領域の形成効率が向上する。また、第1のセグメントのG/C含有量は、99%以下であることが好ましく、98%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましく、80%以下であることがよりさらに好ましい。G/C含有量がこのような数値範囲内であることによって、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドによる非特異的な吸着が減少する。なお、本明細書において、「G/C含有量」とは、ポリヌクレオチドに含まれるすべての塩基の合計数に対する、ポリヌクレオチドに含まれるG(グアニン)塩基、C(シトシン)塩基及びこれらに由来する誘導体塩基の合計数の割合を意味する。
【0055】
本発明の一態様に係るポリヌクレオチドは、他の部材として、RNAを含んでもよい。また、RNAは、第1のセグメントとハイブリダイゼーションすることによって二本鎖領域を形成していてもよい。換言すれば、第1のセグメントと、RNAとが二本鎖領域を形成してなる複合体もまた、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドの一実施形態である。本発明の一態様において、RNAは、mRNAであることが好ましい。
【0056】
本発明の一態様において、RNAは、第1のセグメントとハイブリダイゼーションすることによって二本鎖領域を形成していることが好ましい。このような構成において、RNAは、第1のセグメントに含まれる式(2)で示される構造と相補的な塩基として、A/Gプリン環塩基を含むことが好ましい。このような構成によれば、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドにおいて、第1のセグメントとRNAとが高い効率で光架橋を形成し、ポリヌクレオチドの構造が安定化される。また、RNAは、第1のセグメントに含まれる式(2)で示される構造と相補的な塩基の3’末端側で隣接している塩基として、T/C/Uピリミジン環塩基を含むことが好ましい。このような構成によれば、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドにおいて、第1のセグメントとRNAとがさらに高い効率で光架橋を形成し、ポリヌクレオチドの構造が安定化される。
【0057】
また、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドは、他の部材として、第1のセグメントに共有結合している部材を含んでもよい。ここで、他の部材は、第1のセグメントの主鎖上に存在してもよいし、第1のセグメントに側鎖として結合していてもよい。他の部材としては、例えば:蛍光標識部位;スペーサー部位;等が挙げられる。
【0058】
〔リンカー〕
本発明の一態様は、リンカーに関する。本発明の一態様に係るリンカーは、タンパク質又はペプチドと、他のポリヌクレオチドとを結合するためのリンカーであって、本発明の一態様に係るポリヌクレオチドを備える。本発明の一態様に係るリンカーは、例えば、式(2)で示される構造を含むポリヌクレオチド主鎖である第1のセグメントを備えており、タンパク質又はペプチドと、第1のセグメントとは別のポリヌクレオチド(他のポリヌクレオチド)とを結合するためのリンカーである。
【0059】
本発明の一態様に係るリンカーは、結合部位を含み得る。結合部位は、リンカーにおいて、当該リンカーとタンパク質又はペプチドとの間の結合を形成する性質を有する部位である。結合部位は、第1のセグメントの主鎖中に含まれてもよいし、第1のセグメントの側鎖としてリンカーに含まれてもよい。
【0060】
結合部位は、タンパク質又はペプチドと結合する性質を有する限りにおいて、任意の構造を有し得る。結合部位としては、例えば、ピューロマイシン、3’-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)、3’-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)及びデオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)などのアミノアシルtRNA3’末端アナログ等が挙げられる。
【0061】
PANS-アミノ酸としては、例えば、アミノ酸部分がグリシンであるPANS-Gly、アミノ酸部分がバリンであるPANS-Val、アミノ酸部分がアラニンであるPANS-Ala、及び、アミノ酸部分がすべてのアミノ酸それぞれに対応するPANS-アミノ酸混合物、が挙げられる。AANS-アミノ酸としては、例えば、アミノ酸部分がグリシンであるAANS-Gly、アミノ酸部分がバリンであるAANS-Val、アミノ酸部分がアラニンであるAANS-Ala、及び、アミノ酸部分がすべてのアミノ酸それぞれに対応するAANS-アミノ酸混合物、が挙げられる。
【0062】
結合部位は、ピューロマイシン、3’-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(PANS-アミノ酸)及び3’-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(AANS-アミノ酸)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような構成を有する結合部位は、タンパク質及びペプチドに対して高い結合能を有し、したがってリンカーが高い効率で所望の複合体を形成することができる。
【0063】
〔架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法〕
本発明の一態様に係る化合物、本発明の一態様に係るポリヌクレオチド、及び本発明の一態様に係るリンカーを用いて、架橋部位を有するポリヌクレオチドを製造できる。かかる架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法も本発明の一態様である。
【0064】
本発明の一態様に係る架橋部位を有するポリヌクレオチドの製造方法は、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド、又はリンカーを用いて、ポリヌクレオチドの一本鎖領域同士を架橋させる工程を含む。当該工程は、任意のポリヌクレオチド(以下、「対象ポリヌクレオチド」と略記する)と、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド又はリンカーとを架橋させる工程である。ポリヌクレオチドの一本鎖領域同士を架橋させる工程は、アニーリング工程と、光照射工程とを含んでもよい。
【0065】
アニーリング工程は、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド又はリンカーと、対象ポリヌクレオチドとをアニーリング処理に供する工程である。アニーリング処理は、ポリヌクレオチドをアニーリングするための当業者に公知の方法によって、実施することができる。アニーリング処理は、例えば、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド又はリンカーと、対象ポリヌクレオチドとを含む溶液を、60℃~100℃にて2分間~60分間、ヒートブロック、アルミブロックまたはウォーターバスなどの加温用器具にて温めた後、室温にて2分間~60分間静置して液温を穏やかに低下させ、さらに-5℃~10℃まで冷却することによって、実施することができる。アニーリング処理は、例えば、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド又はリンカーと、対象ポリヌクレオチドとを含む溶液を、90℃にて5分間アルミブロック上にて温め、次いで70℃にて5分間アルミブロック上にて温め、最後に室温にて10分間静置した後、氷上に置いて冷却することによって、実施することが好ましい。
【0066】
光照射工程は、アニーリング工程の後に、本発明の一態様に係る、化合物、ポリヌクレオチド又はリンカーと、対象ポリヌクレオチドとに光照射し、光架橋反応させ、架橋部位を形成する工程である。照射される光の波長は、適宜に選択され得、350nm~370nmの範囲内であることが好ましく、360nm~366nmの範囲内であることがより好ましい。光強度は、適宜に選択され得、400mJ~420mJの範囲内であることが好ましく、400mJ~405mJの範囲内であることがより好ましい。
【実施例0067】
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
【0068】
〔実施例1〕化合物6-1の合成(R=Cl)
以下のスキーム(合成例1-1~5-1)に従って、化合物6-1を合成した。なお、化合物6-1において、Rは塩素原子(Cl)である。
【0069】
(合成例1-1)化合物2-1の合成(Reaction 1)
化合物1-1(3.00g、10.2mmol)とN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(10mL)との混合物に、N-クロロスクシンイミド(NCS)(2.46g、18.4mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。反応混合物に水30mLを加え、析出した固体をろ取した。得られた粗生成物をエタノールにより再結晶し、化合物2-1(1.60g、4.27mmol)を白色粉末状物として得た。
【0070】
(合成例2-1)化合物3-1の合成(Reaction 2)
化合物2-1(1.60g、4.27mmol)とDMF(2mL)と水(3mL)との混合物に、アクリロニトリル(0.567g、10.7mmol)、トリプロピルアミン(TPA)(0.612g、4.27mmol)及び酢酸パラジウム(0.0960g、0.427mmol)を加え、マイクロウェーブを照射しながら160℃で10分間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(10mL)と水(10mL)を加え、有機相を減圧下、溶媒である酢酸エチル及びDMFを留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)により精製し、化合物3-1(0.676mg、2.68mmol)を黄色粉末状物として得た。
【0071】
(合成例3-1)化合物4-1の合成(Reaction 3)
化合物3-1(676mg、2.68mmol)とアセトニトリル(5mL)との混合物に、3,5-ジ-O-(p-トルイル)-2-デオキシリボフラノシルクロリド(Hoffer’s chlorosugar)(381mg、3.21mmol)、水素化ナトリウム(66.1mg、2.75mmol)を加え、1時間撹拌した。その後、メタノール(5mL)と28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(0.512mL、2.68mmol)を加え、30分間撹拌した。減圧下、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)により精製し、化合物4-1(0.650g)を黄色オイル状物として得た。
【0072】
【化7】
【0073】
(合成例4-1)化合物5-1の合成(Reaction 4)
化合物4-1(650mg、1.76mmol)とジクロロメタン(DCM)(2mL)との混合物に、4,4-ジメトキシトリチルクロリド(DMTrCl)(597mg、1.76mmol)及びジアザビシクロウンデセン(DBU)(0.791mL、5.29mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。減圧下、溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)により精製し、化合物5-1(100mg、0.149mmol)を黄色オイル状物として得た。
【0074】
【化8】
【0075】
化合物5-1のH NMRの結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 8.02 (d, 2H, J = 12.4 Hz), 7.71 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.61 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.45-7.52 (m, 4H), 7.25-7.37 (m, 8H), 7.12 (dd, 1H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.81 (dd, 4H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.57 (dd, 1H, J = 8.2, 6.3 Hz), 5.76 (d, 1H, J = 16.8 Hz), 4.82 (s, 1H), 4.05-4.10 (m, 1H), 3.77 (s, 6H), 3.56-3.58 (m, 2H), 2.82-2.89 (m, 1H), 2.22-2.25 (m, 1H)。
【0076】
(合成例5-1)化合物6-1の合成(Reaction 5)
化合物5-1(100mg、0.149mmol)に無水アセトニトリル(1mL)を加え、減圧下、溶媒を留去した。この操作を3回繰り返し、化合物5-1に含まれる水を除去した。窒素雰囲気下、化合物5-1と無水アセトニトリル(1mL)との混合物に、2-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイド(0.045mL、0.149mmol)及び1H-テトラゾール(10.4mg、0.149mol)を加え、室温で1時間撹拌した。減圧下、溶媒を留去した。残渣に無水アセトニトリル(1mL)を加え、減圧下、溶媒を留去の操作を3回繰り返して、化合物6-1(103mg、0.0118mmol)を黄色結晶状物として得た。
【0077】
【化9】
【0078】
なお、合成例5-1において実施された第5の反応工程(Reaction 5)の詳細は、Org. Lett. 2015, 17, 1874-1877; Tetrahedron Lett. 2012, 53, 4012-4014; Org. Lett. 2008, 10, 3227-3230に記載されている。合成例5-1において化合物6-1が得られたことは、これらの文献を参照すれば、当業者が容易に理解し得ることである。
【0079】
〔実施例2〕化合物6-2の合成(R=Br)
合成例1-1においてN-クロロスクシンイミドの代わりにN-ブロモスクシンイミド(3.28mg、184mmol)を用いたことを除いて、実施例1と同一のスキームで、化合物6-2を合成した。なお、化合物6-2において、Rは臭素原子(Br)である。
【0080】
化合物5-2のH NMRの結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 8.07 (s,1H), 8.02-8.05 (m, 1H), 7.71 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.45-7.52 (m, 4H), 7.25-7.37 (m, 8H), 7.12 (dd, 1H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.83 (dd, 4H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.56 (dd, 1H, J = 8.2, 6.3 Hz), 5.76 (d, 1H, J = 16.7 Hz), 4.82 (s, 1H), 4.05-4.10 (m, 1H), 3.77 (s, 6H), 3.56-3.58 (m, 2H), 2.82-2.89 (m, 1H), 2.22-2.25 (m, 1H)。
【0081】
〔実施例3〕化合物6-3の合成(R=Me)
合成例1-1において、化合物1-1の代わりに化合物1-3(2.40g、13.2mmol)、N-クロロスクシンイミドの代わりにN-ヨードスクシンイミド(5.36g、23.8mmol)と酢酸(10mL、175mmol)との混合物を用いたことを除いて、実施例1と同一のスキームで、化合物6-3を合成した。なお、化合物6-3において、Rはメチル基(Me)である。
【0082】
化合物5-3のH NMRの結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz)δ 8.04 (s,1H), 7.82 (s, 1H), 7.71 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.45-7.52 (m, 4H), 7.25-7.37 (m, 8H), 7.12 (dd, 1H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.83 (dd, 4H, J = 8.8, 1.7 Hz), 6.58 (t, 1H, J = 8.2 Hz), 5.74 (d, 1H, J = 16.4 Hz), 4.79 (s, 1H), 4.05-4.10 (m, 1H), 3.77 (s, 6H), 3.56-3.58 (m, 2H), 2.82-2.89 (m, 1H), 2.47 (s, 3H), 2.22-2.25 (m, 1H)。
【0083】
実施例1~3のスキームそれぞれにおける収率、収量及び生成物のE/Z値を下記表に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
〔比較例1〕化合物6-C1の合成(R=H)
合成例1-1を実施せず、合成例2-1において化合物2-1の代わりに化合物1-1(500mg、1.70mmol)を用いたことを除いて、実施例1と同一のスキームで化合物6-C1を合成した。なお、化合物6-C1において、Rは水素原子(H)である。
【0086】
〔評価例〕モデルポリヌクレオチドを用いた光架橋反応及び光開裂反応における反応速度の分析
【0087】
合成した化合物を用いてモデルポリヌクレオチドを合成し、モデルポリヌクレオチドとモデルmRNAとの光架橋反応及び光開裂反応の反応速度を、ゲル電気泳動によって得られるバンド強度に基づいて、分析した。
【0088】
(モデルポリヌクレオチドの合成)
モデルポリヌクレオチドとして、実施例1で合成された化合物6-1を原料として用いて、ポリヌクレオチド1を合成した。合成は、つくばオリゴサービス株式会社に委託され、自動核酸合成装置を使用して、ホスホロアミダイト法に従って実施した。ポリヌクレオチド1は、下記の塩基配列を有する。
【0089】
3’-TCC(FT)GCCCCCCGCCGK’ACCTTTAA-5’(配列番号1、24mer)
ここで、FTはFITC(フルオレセインイソチオシアネート)-dTを表す。K’は化合物6-1に由来する塩基を表す。
【0090】
ポリヌクレオチド1と同様に、ポリヌクレオチド2、3及びC1を合成した。ポリヌクレオチド2は化合物6-2に由来する構造を含み、ポリヌクレオチド3は化合物6-3に由来する構造を含み、ポリヌクレオチドC1は化合物6-C1に由来する構造を含んだ。
【0091】
さらに、参考例1として、国際公開第2016/159211号の実施例1に記載の方法に従って、リンカー(Puromysine-linker(polyA+cnvK))を合成し、ポリヌクレオチドR1とした。
【0092】
(光架橋反応及び光開裂反応)
モデルmRNAとしては、(1)BDA(B Domain of protein A)をコードするmRNA、又は(2)C14ライブラリを用いた。2種類のモデルmRNAの両方はそれぞれ、その一部に、モデルポリヌクレオチドに相補的な下記の塩基配列を含む。
【0093】
5’-AGGACGGGGGGCGGCGUGGAAA-3’(配列番号2、22mer)
【0094】
ポリヌクレオチド1(最終濃度100μM)とmRNA(最終濃度100μM)との混合溶液(100mM NaClを含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5))を調製した。混合溶液を90℃で1分間インキュベートし、次いで70℃で1分間インキュベートし、0.08℃/秒の速度で25℃まで降温させることによって、アニーリング処理を行い、ポリヌクレオチド1とモデルmRNAとをハイブリダイズさせた。
【0095】
混合溶液に波長366nmの紫外光を405mJ照射し、ポリヌクレオチド1とモデルmRNAとを光架橋反応させた。
【0096】
混合溶液5μLを分取し、UVトランスイルミネータ(MBP-UV312JP)を用いて、分取した混合溶液に波長312nmの紫外光(48W)を2分間照射し、ポリヌクレオチド1とモデルmRNAとを光開裂反応させた。
【0097】
8Mの尿素を含む4%スタッキングゲル-6%分離ゲルのSDS-PAGEを用いた電気泳動により、光架橋反応後の混合溶液及び光開裂反応後の混合溶液を分析した。電気泳動の条件は、電圧20V及び泳動時間20分間であった。
【0098】
ポリヌクレオチド2、3、C1及びR1それぞれについても、ポリヌクレオチド1について上述した方法と同一の方法を用いて、分析した。
【0099】
電気泳動の結果を表すゲル電気泳動写真を図1及び2に示す。図1は、モデルmRNAとしてBDAをコードするmRNAが用いられた結果である。図2は、モデルmRNAとしてC14ライブラリが用いられた結果である。図1及び2において、CLレーンは光架橋反応後の混合溶液のレーンであり、ROレーンは光開裂反応後の混合溶液のレーンである。図1及び2において、鎖線で囲まれた領域内のバンドは、互いに架橋されていない、開裂構造にあるモデルポリヌクレオチド及びモデルmRNAを表すバンドである。また、鎖線で囲まれた領域よりも上側に存在するバンドは、互いに架橋されている、架橋構造にあるモデルポリヌクレオチド及びモデルmRNAの複合体を表すバンドである。図1及び2に示すように、式(2)で示され、式(1)で示される化合物に由来する構造を含むポリヌクレオチド1~3は、光照射によって、光架橋反応を生じた。
【0100】
(評価)
モデルポリヌクレオチドに含まれるFITCの蛍光によるバンド強度の比率を算出した。バンド強度の比率は、架橋構造にある複合体の量と、開裂状態にあるモデルポリヌクレオチド及びモデルmRNAの量との比率を表すため、バンド強度の比率に基づいて、光架橋反応及び光開裂反応の反応速度を判断することができる。バンド強度の比率の算出結果を表すグラフを図3~5に示す。
【0101】
図3は、同一レーンにおける、架橋構造を表すバンド強度(X)と、開裂構造を表すバンド強度(Y)との比率(=X/(X+Y)×100)を表すグラフである。グラフは、比率が高いほど光架橋反応速度が高いことを示す。図3に示すように、ポリヌクレオチド1~3は、従来技術に係るポリヌクレオチドC1と比較して、同程度の光架橋反応速度を示した。
【0102】
図4は、同一のモデルmRNAを用いた場合の、ROレーンの架橋構造を表すバンド強度(X)と、CLレーンの開裂構造を表すバンド強度(Y)との比率(=X/(X+Y)×100)を表すグラフである。グラフは、比率が高いほど光開裂反応速度が低いことを示す。図4に示すように、ポリヌクレオチド1~3は、従来技術に係るポリヌクレオチドC1と比較して、低いか又は同程度の光開裂反応速度を示した。
【0103】
図5は、光開裂反応のための光照射時間を2分間ではなく10分間としたことを除いて、図4に示すグラフと同一の条件で分析を行った場合のグラフである。図5に示すように、ポリヌクレオチド1~3は、従来技術に係るポリヌクレオチドC1と比較して、同程度の光開裂反応速度を示した。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、例えば、新規機能性ポリペプチドの探索等の分子生物学の分野において、利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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