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  • 特開-交叉反応を抑制した葉酸測定方法 図1
  • 特開-交叉反応を抑制した葉酸測定方法 図2
  • 特開-交叉反応を抑制した葉酸測定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171257
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】交叉反応を抑制した葉酸測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G01N33/53 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056820
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022082673
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三谷 俊介
(57)【要約】
【課題】葉酸の測定系において、1.防腐効果、2.FOL低濃度域での感度が向上する、という2つの効果を両立できるような防腐剤の種類と濃度を提供する。
【解決手段】
検体中の葉酸を、葉酸と葉酸結合蛋白質との結合を利用した測定系で測定する方法において、検体中の葉酸と葉酸結合蛋白質とが接触する際に、0.0001~0.003w/v%の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び0.0001~0.01w/v%の5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを共存させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の葉酸を、葉酸と葉酸結合蛋白質との結合を利用した測定系で測定する方法において、検体中の葉酸と葉酸結合蛋白質とが接触する際に、0.0001~0.003w/v%の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを共存させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、検体中の葉酸と葉酸結合蛋白質とが接触する際に、さらに0.0001~0.01w/v%の5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを共存させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交叉反応を抑制した葉酸(以下「FOL」という)の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
体外診断用医薬品には、種々の物質が含有されており、直接測定に関与するもののほかに、種々の添加剤が含有されている。その1つとして防腐剤があげられ、例えばプロクリン防腐剤(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)のプロクリン150、プロクリン200、プロクリン300、プロクリン950が挙げられる(非特許文献1)。これらには2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下「RH573」とする)や5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下「RH651」とする)が含有されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】臨床診断薬用防腐剤/緩衝液用防腐剤ProClinカタログ、シグマアルドリッチジャパン株式会社、発行日2021年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、RH573を高濃度で含む防腐剤を使用すると、FOL測定時に、FOL低濃度域での測定値が理論値よりも高値となるという課題を見出した。本発明は、1.防腐効果、2.FOL低濃度域での感度が向上するという2つの効果を両立できるような防腐剤の種類と濃度を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、防腐剤の種類と濃度を特定の範囲に限定することにより、FOL低濃度域であっても測定値が理論値に近い値となる、即ち感度が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)検体中のFOLを、FOLと葉酸結合蛋白質との結合を利用した測定系で測定する方法において、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質とが接触する際に、0.0001~0.003w/v%のRH573を共存させることを特徴とする方法。
(2)上述の(1)に記載の方法において、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質とが接触する際に、さらに0.0001~0.01w/v%のRH651を共存させる方法。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、特に断りが無い限り、%はw/v%を示す。
【0008】
本発明において、検体とは特に限定されるものではないが、例えば血液、尿等の体液があげられる。好ましくは血液であり、全血又は血漿若しくは血清等であってもよいが、特に血清が好ましい。
【0009】
本発明において、FOLと葉酸結合蛋白質との結合を利用した測定系とは、特に限定されるものではないが、例えば競合法があげられる。具体的には、検体中のFOLと、検出試薬として標識されたFOLとが、葉酸結合蛋白質に対して競合して反応する測定系があげられる。このとき、標識されたFOLの代わりに、標識されたFOL誘導体を用いることができる。FOL誘導体としては、例えば葉酸、プテロイックアシッド、トリフルオロアセチルプテロイックアシッド等を用いることができる。
【0010】
標識としては特に限定は無いが、例えば酵素、色素、放射性物質等が用いられる。
【0011】
一方、葉酸結合蛋白質は固相に固定化されていてもよく、それによって検出が行いやすくなるため好ましい。
【0012】
固相としては特に限定は無いが、例えば粒子、微粒子、プレートなどであってよく、その材質も樹脂、ガラス等が利用できる。
【0013】
本発明において、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質とが接触する際に、0.0001~0.003w/v%のRH573を共存させることが必須であるが、好ましくは0.0004~0.002%、さらに好ましくは0.0006~0.001%である。
【0014】
また検体中のFOLと葉酸結合蛋白質とが接触する際に、さらにRH651が0.0001~0.01%共存下でFOLの測定を行うことが好ましい。さらに好ましくは0.001~0.005%、とりわけ好ましくは0.002~0.0025%である。
【0015】
本発明に用いられる測定系として、例えば、検体中のFOLと、検出試薬として標識されたFOL誘導体とが、葉酸結合蛋白質に対して競合して反応する場合を例示すると、検体中のFOLと、検出試薬として標識されたFOL誘導体とは、葉酸結合蛋白質に対して同時に反応させてもよく、又は順次反応させてもよい。例えば、検体中のFOLと、葉酸結合蛋白質とを反応させた後に、検出試薬として標識されたFOL誘導体を反応させる場合には、葉酸結合蛋白質が固相に固定化されていれば、FOL誘導体を反応させる前に分離/洗浄工程を設けることができ、その後にFOL誘導体を反応させてもよい。それによって、未反応物質を除去することができるため好ましいものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1.防腐効果、2.葉酸低濃度域での感度向上という2つの効果を両立することができる。この理由は明らかではないが、検体中のFOLがRH573と交叉反応するため、本発明の方法によりこの交叉反応を抑制することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例2と比較例4との相関を示す図である。
図2】実施例3と比較例5の結果を示す図である。
図3図2の低濃度域を拡大した図である。
【実施例0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0019】
[実施例1、比較例1~3]希釈試験
免疫測定装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)と、当該装置用のAIA-パックCL 葉酸と同様の2穴を有する試薬容器とを用い、1ステップディレイ競合法により測定を行った。詳細は以下のとおりである。
【0020】
(1)検体希釈試薬の調整
表1に示した通りに各溶液を調製し、検体希釈試薬とした。即ち、FOL Free 血清に、表1に記載の糖、消泡剤、防腐剤等を加えて攪拌後、2穴を有する試薬容器の一方の穴に分注し、凍結乾燥を行った。
【0021】
【表1】
【0022】
表1において、0.1%プロクリン950は、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際にRH573が0.00475%共存する。また0.1%プロクリン300は、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際にRH651が0.002~0.0025%、RH573が0.0007~0.0009%共存する。
【0023】
(2)測定
上述の検体希釈試薬を用いて、また測定試薬として、上述の2穴を有する別の試薬容器の一方の穴には磁性微粒子に固定化された葉酸結合蛋白質を含む凍結乾燥体、他方の穴にはアルカリ性ホスファターゼ標識葉酸誘導体を含む凍結乾燥体が、それぞれ封入されたものを用いて、1ステップディレイ競合法により測定を行った。具体的には、以下のとおりである。
【0024】
1)AIA-パックCL 葉酸の前処理試薬の変性剤に、溶解液(アジ化ナトリウムを含む分注水)を20μL、検体(患者血清又は血漿)を40μL加えて、10分間反応させた。
2)次に中和剤に溶解液を75μL加えて溶解させ、1)に40μL加えて前処理反応を停止させた。
3)次に(1)で調製した検体希釈試薬に、溶解液(アジ化ナトリウムを含む分注水)と2)で得られた前処理済み検体を分注し、各希釈率(1/5又は1/10)に調整した。
4)上述の測定試薬の磁性微粒子に固定化された葉酸結合蛋白質の凍結乾燥体が封入された穴に分注水10μLと3)で得られた希釈検体40μLを加え、37℃で6分間反応させ(第一反応)、未反応物を分離(B/F分離)及び洗浄液で3回洗浄することにより除去した。
5)次に上述の測定試薬の他方の穴(アルカリ性ホスファターゼ標識FOL誘導体の凍結乾燥物が封入)に溶解液を入れて溶解し、それを前述の第一反応後の穴に分注し、37℃で3分間反応させた(第二反応)。
6)その後B/F分離及び洗浄液で3回洗浄して未反応物質を除去した後、発光基質(化合物名DIFURAT:3-(5-tert-ブチルー4,4-ジメチルー2,6,7-トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプト-1-イル)フェニルリン酸エステル ジナトリウム塩)を分注して4分間反応させ、固相に結合したアルカリホスファターゼの活性を発光量から測定した。
【0025】
これら一連の操作は前記自動免疫測定装置で行った。
【0026】
(3)測定結果
検体を1/5又は1/10倍希釈して測定した結果を比較した。結果を表2に示す。希釈検体の回収率は、[測定値からの算出濃度/理論濃度]×100(%)で算出した。
【0027】
【表2】
【0028】
実施例1より、防腐剤であるプロクリン300(検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH651が0.002~0.0025%、RH573が0.0007~0.0009%共存)を使用すると、FOL低濃度域(1/5又は1/10希釈)であっても、FOLの回収率に問題は見られなかった。一方、比較例1,2より、防腐剤であるプロクリン950(検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH573が0.00475%共存)を使用すると、FOL低濃度域で高回収になることが分かった。
【0029】
以上より、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH573が0.00475%以上共存すると、FOLがRH573と交叉反応することが示唆された。
【0030】
[実施例2、比較例4]相関性試験
免疫測定装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)を用い、1ステップディレイ競合法により測定を行った。詳細は以下の通りである。
【0031】
(1)測定試薬の調製
表3に示した通りに測定試薬を調製した。即ち、実施例1と同様にして、但し、表3に記載のプロクリンを共存させて、測定試薬(一方の穴には磁性微粒子に固定化された葉酸結合蛋白質を含む凍結乾燥体を含み、他方の穴にはアルカリ性ホスファターゼ標識FOL誘導体を含む凍結乾燥体を含む)を調製した。
【0032】
【表3】
【0033】
表3において、0.1%プロクリン950は、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH573が0.00475%共存する。また0.1%プロクリン300は、検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH651が0.002~0.0025%、RH573が0.0007~0.0009%共存する。
【0034】
(2)測定
上述の(1)で調製した測定試薬を用いて、実検体を20例用いて1ステップディレイ競合法により測定を行った。具体的には、以下のとおりである。
1)AIA-パックCL 葉酸の前処理試薬の変性剤に溶解液(アジ化ナトリウムを含む分注水)を20μL、検体(実検体の血清)を40μL加えて、10分間反応させた。
2)次に中和剤に溶解液を75μL加えて溶解させ、1)に40μL加えて前処理反応を停止させた。
3)次に(1)で調製した測定試薬の一方の穴(磁性微粒子に固定化された葉酸結合蛋白質を含む凍結感光体が封入)に溶解液(アジ化ナトリウムを含む分注水)10μLと前処理された検体40μLを加え、37℃で6分間反応させ(第一反応)、未反応物をB/F分離及び洗浄液で3回洗浄することにより除去した。
4)次に、測定試薬の他方に穴(アルカリ性ホスファターゼ標識FOL誘導体を含む凍結乾燥体が封入)に溶解液を入れて溶解し、それをもう一方の穴に分注し、37℃で3分間反応させた(第二反応)。
5)その後B/F分離及び洗浄液で3回洗浄して未反応物質を除去した後、実施例1と同様にして、発光基質を用いて測定した。
【0035】
これら一連の操作は前記自動免疫測定装置で行った。
【0036】
(3)測定結果
結果を図1に示す。縦軸は実施例2によるFOL濃度、横軸は比較例4によるFOL濃度を示す。実施例2、比較例4の相関より、実施例2(防腐剤プロクリン950(検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH573が0.00475%共存)がない条件)では、比較例4よりも低濃度域で高い測定値が得られたことから、実施例2の方が感度が向上したことが示唆された。
[実施例3、比較例5]
実施例1又は比較例2と同様にして、但し、検体の希釈倍率を表4に示したようにして、それぞれ実施例3、比較例5を行った。結果を表4に示す。またその結果を図2に示し、さらにその低濃度域の拡大図を図3に示す。図中、白丸は比較例5を、黒丸は実施例3を示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4及び図2,3から明らかなように、実施例3のように、防腐剤である0.1%プロクリン300(検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH651が0.002~0.0025%、RH573が0.0007~0.0009%共存)を使用すると、FOL低濃度域(希釈倍率0.2又は0.1)であっても、FOLの回収率に問題は見られなかった。一方、比較例5のように、防腐剤である0.1%プロクリン950(検体中のFOLと葉酸結合蛋白質が接触する際の濃度換算で、RH573が0.00475%共存)を使用すると、FOLが高度域では問題がないものの、FOL低濃度域で高回収になることが分かった。
図1
図2
図3