IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツトヨの特許一覧 ▶ 株式会社3Dイノベーションの特許一覧

<>
  • 特開-測定装置および測定方法 図1
  • 特開-測定装置および測定方法 図2
  • 特開-測定装置および測定方法 図3
  • 特開-測定装置および測定方法 図4
  • 特開-測定装置および測定方法 図5
  • 特開-測定装置および測定方法 図6
  • 特開-測定装置および測定方法 図7
  • 特開-測定装置および測定方法 図8
  • 特開-測定装置および測定方法 図9
  • 特開-測定装置および測定方法 図10
  • 特開-測定装置および測定方法 図11
  • 特開-測定装置および測定方法 図12
  • 特開-測定装置および測定方法 図13
  • 特開-測定装置および測定方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171464
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20231124BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20231124BHJP
   G01S 7/4911 20200101ALI20231124BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20231124BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
G01S17/34
G02F1/01 F
G01S7/4911
G01S7/481 A
G01C3/06 120Q
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171567
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2019228280の分割
【原出願日】2019-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(71)【出願人】
【識別番号】319016460
【氏名又は名称】株式会社3Dイノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 晋路
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智隆
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大希
(57)【要約】
【課題】周波数シフト帰還レーザの周波数をシフトさせるシフト量および/またはシフト方向を容易に変更できるようにする。
【解決手段】複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置であって、入力する光を増幅する増幅媒体と、増幅媒体が増幅した光の周波数を周波数シフトする光SSB変調器とを有するレーザ共振器と、光SSB変調器を制御して、前記光SSB変調器に入力する光の周波数を周波数シフトさせる制御部とを備える、レーザ装置、測定装置、および測定方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置であって、
入力する光を増幅する増幅媒体と、
前記増幅媒体が増幅した光の周波数を周波数シフトする光SSB変調器と
を有するレーザ共振器と、
前記光SSB変調器を制御して、前記光SSB変調器に入力する光の周波数を周波数シフトさせる制御部と
を備える、レーザ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト量を設定する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧およびRF信号を供給し、周波数を変更して前記周波数シフト量を設定する、請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト方向を設定する、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧を供給して前記周波数シフト方向を切り換える、請求項4に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に供給するRF信号の位相を反転して、前記周波数シフト方向を切り換える、請求項4に記載のレーザ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の前記レーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部と
を備える、測定装置。
【請求項8】
請求項2または3に記載の前記レーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部と
を備える、測定装置。
【請求項9】
請求項4から6のいずれか一項に記載の前記レーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部と
を備える、測定装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を第1周波数と前記第1周波数よりも大きい第2周波数とのいずれかに設定してから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、
前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数にした場合に発生した次数判定ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数にした場合に発生した距離測定ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する、
請求項8に記載の測定装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に切り換えてから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、
前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側にした場合に発生した正側ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を負側にした場合に発生した負側ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する、
請求項9に記載の測定装置。
【請求項12】
前記ビート信号発生部は、前記反射光および前記参照光を直交検波する、請求項7から11のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項13】
光SSB変調器の周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して正側ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、
前記正側ビート信号および前記負側ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。
【請求項14】
光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、距離測定ビート信号を発生させるステップと、
前記次数判定ビート信号および前記距離測定ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。
【請求項15】
光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定し、周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、正側ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数のまま、前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、
前記次数判定ビート信号、前記正側ビート信号、および前記負側ビート信号に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置、測定装置、および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。また、周波数シフタとして、光SSB(Single Side Band)変調器が知られている(例えば、特許文献2および3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3583906号明細書
【特許文献2】特許第3867148号明細書
【特許文献3】特許第4524482号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】原武文,「FSFレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような周波数シフト帰還レーザとして、音響光学素子を用いた周波数シフタが共振器内に設けられている構成が知られている。音響光学素子は、素子内における超音波信号が伝播している領域に光を入力させると、入力光の周波数から超音波信号の周波数だけシフトさせた周波数の回折光を出力する素子である。このような音響光学素子は、シフトさせる周波数および周波数の正負を容易に変更することができなかった。したがって、このような音響光学素子を用いた周波数シフト帰還レーザは、周波数のシフト量およびシフト方向を容易に変更することができなかった。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、周波数シフト帰還レーザの周波数をシフトさせるシフト量および/またはシフト方向を容易に変更できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置であって、入力する光を増幅する増幅媒体と、前記増幅媒体が増幅した光の周波数を周波数シフトする光SSB変調器とを有するレーザ共振器と、前記光SSB変調器を制御して、前記光SSB変調器に入力する光の周波数を周波数シフトさせる制御部とを備える、レーザ装置を提供する。
【0008】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト量を設定してもよい。
【0009】
前記光SSB変調器は、基板と、前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路とを有し、前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧およびRF信号を供給し、周波数を変更して前記周波数シフト量を設定してもよい。
【0010】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト方向を設定してもよい。
【0011】
前記光SSB変調器は、基板と、前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路とを有し、前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧を供給して前記周波数シフト方向を切り換えてもよい。
【0012】
前記光SSB変調器は、基板と、前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路とを有し、前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に供給するRF信号の位相を反転して、前記周波数シフト方向を切り換えてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、第1の態様の前記レーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部とを備える、測定装置を提供する。
【0014】
本発明の第2の態様においては、第1の態様の前記レーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部とを備える、測定装置を提供する。
【0015】
本発明の第3の態様においては、第1の態様の前記レーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部とを備える、測定装置を提供する。
【0016】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を第1周波数と前記第1周波数よりも大きい第2周波数とのいずれかに設定してから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数にした場合に発生した次数判定ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数にした場合に発生した距離測定ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出してもよい。
【0017】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に切り換えてから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側にした場合に発生した正側ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を負側にした場合に発生した負側ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出してもよい。
【0018】
前記ビート信号発生部は、前記反射光および前記参照光を直交検波してもよい。
【0019】
本発明の第4の態様においては、光SSB変調器の周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して正側ビート信号を発生させるステップと、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、前記正側ビート信号および前記負側ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【0020】
本発明の第5の態様においては、光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定するステップと、レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、距離測定ビート信号を発生させるステップと、前記次数判定ビート信号および前記距離測定ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【0021】
本発明の第6の態様においては、光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定し、周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、正側ビート信号を発生させるステップと、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数のまま、前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、前記次数判定ビート信号、前記正側ビート信号、および前記負側ビート信号に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、周波数シフト帰還レーザの周波数をシフトさせるシフト量および/またはシフト方向を容易に変更できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図2】AOFS20の構成例を示す。
図3】本実施形態に係る光SSB変調器30と制御部50の構成例を示す。
図4】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図5】本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。
図6】本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
図7】本実施形態に係るビート信号発生部150および検出部160の構成例を示す。
図8】本実施形態に係るビート信号発生部150および検出部160の直交検波の概略の一例を示す。
図9】本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第1例を示す。
図10】本実施形態に係る測定装置100の参照光および測定光の光周波数と、観測されるビート信号の周波数の概念を示す。
図11】本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第2例を示す。
図12】本実施形態に係るレーザ装置110の周波数シフト量νと絶対測長範囲との関係の概念を示す。
図13】本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第3例を示す。
図14】本実施形態に係る制御部50の変形例を光SSB変調器30と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[レーザ装置110の構成例]
図1は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。図1に示すレーザ装置110は、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110のレーザ共振器は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117、出力カプラ118とを含むレーザ共振器を有する。
【0025】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけ周波数シフトする。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νまたは-νとする。例えば、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0026】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力する光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0027】
即ち、図1に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。
【0028】
このようなレーザ装置110に用いられている周波数シフタ112として、従来、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)が知られている。AOFSについて次に説明する。
【0029】
[AOFS20の構成例]
図2は、AOFS20の構成例を示す。AOFS20は、光学結晶21と、超音波トランスデューサ22と、超音波吸収体23と、発振器24とを備える。光学結晶21は、光を透過させる結晶であり、例えば、TeO2、PbMoO4、重フリントガラス等である。
【0030】
超音波トランスデューサ22は、光学結晶21の端面に設けられ、発振器24から供給される周波数ωの電気信号に応じた超音波を発生させる。超音波トランスデューサ22は、例えば、光学結晶21の一の端面から一の端面に対向する端面へと発生させた超音波を伝播させる。図2において、超音波の伝播方向の一例を矢印で示す。なお、光学結晶21の超音波トランスデューサ22が設けられている端面に対向する端面には、超音波吸収体23が設けられている。
【0031】
光学結晶21の内部には、超音波が伝播することによって屈折率変調が生じる。このような光学結晶21に光を入射させると、ラマン-ナス回析によって入射した光が回析する。回析された光の周波数は、伝播する超音波によるドップラー効果によって、入射した光の周波数ωから超音波の周波数ωだけシフトする。このように、回析光の周波数は、ドップラー効果に基づいてシフトするので、シフトする周波数の正負は、超音波の伝播方向と入射光の入射方向とに応じて定まる。図2は、周波数シフトの方向が正であり、回析光の周波数はω+ωとなる例を示す。
【0032】
例えば、強い回折光が生じさせるには、超音波による屈折率格子間隔d、光波の波長λ、光波の入射角θi、回折角θo、および回折の次数hがd(sinθi―sinθo)=hλ、h=0、±1、±2、...の関係を満たす必要がある。hが正ならば周波数シフトは正に、hが負ならば周波数シフトは負となり、hが0ならば周波数シフトは生じない。一般にλ、θiは固定され、hが+1または-1のいずれかの回折光を取り出すようにθoが調整されている。
【0033】
したがって、AOFS20において、シフトする周波数の正負を切り換えるには、例えば、超音波の伝播方向を反対方向に切り換えるか、または、光の入射角度を変更しなければならない。超音波の伝播方向および光の入射角は、電気信号等によって容易に変更できるものではないので、このようなAOFS20を用いた従来のレーザ装置110において、周波数のシフト方向を切り換えることは困難であった。
【0034】
また、超音波トランスデューサ22には、材料に起因する共振周波数を有するので、共振周波数から大きくずれた周波数の超音波を発生させることができない。また、光学結晶21によって回析される光の回析角は、超音波の周波数に対応する角度となる。回析角が周波数シフト量に応じて変化すると、出力側の光学系との結合損失が発生してしまう。したがって、AOFS20において、シフトする周波数のシフト量を自由に変更することは困難であった。そこで、本実施形態に係るレーザ装置110は、周波数シフタ112として光SSB変調器を用いることにより、容易に周波数のシフト量および/またはシフト方向を切り換え可能とする。このような光SSB変調器について、次に説明する。
【0035】
[光SSB変調器30の構成例]
図3は、本実施形態に係る光SSB変調器30と制御部50の構成例を示す。光SSB変調器30は、基板31、メインマッハツェンダ導波路32、第1サブマッハツェンダ導波路33、第2サブマッハツェンダ導波路34、メインDC電極35、第1サブDC電極36、第2サブDC電極37、第1RF電極38、および第2RF電極39を備える。
【0036】
基板31は、少なくとも一部が電気光学結晶で形成されている基板であり、例えば、LiNbO結晶を有する。このような基板31の表面に、導波路および基板が形成されている。メインマッハツェンダ導波路32は、光SSB変調器30に入力する光を2つに分岐し、分岐した光を再び合波してから出力する。メインマッハツェンダ導波路32は、2つに分岐した光をそれぞれ通過させる第1アーム導波路41および第2アーム導波路42を有する。
【0037】
第1アーム導波路41には、第1サブマッハツェンダ導波路33が設けられている。第1サブマッハツェンダ導波路33は、第1アーム導波路41が通過させる光を2つに分岐し、分岐した光を再び合波してから第1アーム導波路41へと出力する。第1サブマッハツェンダ導波路33は、入力した光をそれぞれ通過させる第1サブアーム導波路43および第2サブアーム導波路44を有する。
【0038】
第2アーム導波路42には、第2サブマッハツェンダ導波路34が設けられている。第2サブマッハツェンダ導波路34は、第2アーム導波路42が通過させる光を2つに分岐し、分岐した光を再び合波してから第2アーム導波路42へと出力する。第2サブマッハツェンダ導波路34は、入力した光をそれぞれ通過させる第3サブアーム導波路45および第4サブアーム導波路46を有する。
【0039】
メインDC電極35は、一例として、メインマッハツェンダ導波路32の第1アーム導波路41および第2アーム導波路42のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。メインDC電極35は、制御部50から直流電圧が供給される。
【0040】
第1サブDC電極36および第1RF電極38は、一例として、第1サブマッハツェンダ導波路33の第1サブアーム導波路43および第2サブアーム導波路44のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。第1サブDC電極36および第1RF電極38は、別個の電極であってもよく、共通の1つの電極であってもよい。
【0041】
同様に、第2サブDC電極37および第2RF電極39は、一例として、第2サブマッハツェンダ導波路34の第3サブアーム導波路45および第4サブアーム導波路46のそれぞれから略同一の距離だけ離れた位置に設けられている。第2サブDC電極37および第2RF電極39は、別個の電極であってもよく、共通の1つの電極であってもよい。
【0042】
第1サブDC電極36および第2サブDC電極37には、制御部50から直流電圧がそれぞれ供給される。第1RF電極38および第2RF電極39には、制御部50からRF信号がそれぞれ供給される。RF信号は、例えば、数GHzから数十GHzの高周波信号である。
【0043】
このように、入力する光を通過させる導波路の近傍に設けられている電極に電圧を加えることにより、導波路の屈折率を変化させる電気光学効果(ポッケルス効果)が発生する。電気光学効果が発生している導波路を通過する光の振幅強度レベルおよび位相には、加えた電圧に対応する変調、オフセット等が生じることになる。このような電気光学効果による屈折率の変化は、電場の印加方向に対応するので、例えば、電極に印加する電圧の正負を変更するだけで、位相の変化方向を切り換えることができる。
【0044】
制御部50は、光SSB変調器30の複数の電極に直流電圧およびRF信号を供給して、導波路を通過する光の位相を調節する。制御部50は、直流電圧生成部52と、RF信号生成部54とを有する。直流電圧生成部52は、直流電圧を生成してメインDC電極35、第1サブDC電極36、および第2サブDC電極37に供給する。RF信号生成部54は、RF信号を生成して第1RF電極38および第2RF電極39に供給する。
【0045】
制御部50は、直流電圧生成部52およびRF信号生成部54を制御して、光SSB変調器30に直流電圧およびRF信号を供給し、周波数シフト方向および周波数シフト量を調節する。例えば、制御部50は、光SSB変調器30に入力する光の周波数をRF信号の周波数だけシフトさせる。制御部50は、RF信号の周波数を変更して光SSB変調器30の周波数シフト量を更に設定可能でもよい。
【0046】
また、制御部50は、メインマッハツェンダ導波路32、第1サブマッハツェンダ導波路33、および第2サブマッハツェンダ導波路34に対応して基板31に設けられているメインDC電極35、第1サブDC電極36、および第2サブDC電極37に、予め定められた値の直流電圧を供給して周波数シフト方向を切り換える。このような光SSB変調器30の周波数シフトおよびシフト方向の切換等については、既知の特許文献2および特許文献3等に記載されているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0047】
以上のように、本実施形態に係るレーザ装置110は、図3に示す光SSB変調器30を周波数シフタ112として用いる。そして、制御部50は、光SSB変調器30に供給するRF信号の周波数を設定することで、光SSB変調器30の周波数シフト量を設定可能とする。また、制御部50は、光SSB変調器30に供給する電圧を切り換えることで、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に切り換え可能とする。これにより、レーザ装置110の周波数をシフトさせるシフト量と正負の方向とを容易に設定することができる。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0048】
図4は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。図4は、時刻tにおいてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数の縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτRT(=1/ν)とすると、複数の縦モードは、次式のように1/τRT(=ν)間隔で並ぶことになる。なお、νは、時刻tにおける光スペクトルの初期周波数とする。
【数1】
【0049】
図4は、レーザ装置110が出力する複数の縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。図4の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、図4は、レーザ装置110が出力するレーザ光の周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻tにおける瞬時周波数を左側に示したものである。
【0050】
レーザ装置110は、一例として、周波数シフタ112のシフト量が+νに設定され、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数を+νだけ増加させる。即ち、時間がτRT経過する毎に、各モードの周波数はνだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν/τRTと略等しくなる。したがって、(数1)式で示した複数の縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数2】
【0051】
なお、(数2)式は、周波数のシフト方向をプラス方向(正の方向)とした場合の式である。図4の右側において、周波数のシフト方向をプラス方向とした場合のレーザ光の周波数の時間的な変化の例を時刻tからtの間の期間に示す。これに代えて、周波数のシフト方向をマイナス方向(負の方向)とした場合は、(数2)式の第2項であるν・t/τRTの符号がマイナスとなる。図4の右側において、周波数のシフト方向をマイナス方向とした場合のレーザ光の周波数の時間的な変化の例を時刻tからtの間の期間に示す。
【0052】
以上のように、光SSB変調器30を周波数シフタ112として用いたレーザ装置110は、周波数のシフト方向を正方向および負方向のいずれかに切り換えることができる。また、レーザ装置110は、周波数のシフト量を容易に変更できる。そして、光SSB変調器30は、このような周波数のシフト量およびシフト方向の変更を、出力角の変更なしに実行できる。即ち、レーザ装置110は、光出力をほとんど変化させることなく、周波数のシフト量およびシフト方向を容易に変更できる。このようなレーザ装置110を光学式の距離計等に用いると、距離測定の精度を向上させること、機能を改善できること等を容易に実現できる。そこで、本実施形態に係るレーザ装置110を備える光学式距離計について、次に説明する。
【0053】
[測定装置100の構成例]
図5は、本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。測定装置100は、当該測定装置100および計測対象物10の間の距離を光学的に測定する。また、測定装置100は、計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査して、計測対象物10の三次元的な形状を計測してもよい。測定装置100は、制御部50と、レーザ装置110と、分岐部120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、検出部160と、表示部170を備える。
【0054】
制御部50は、レーザ装置110を制御するための直流電圧およびRF信号を供給する。レーザ装置110は、光SSB変調器30を有する周波数シフト帰還レーザである。制御部50およびレーザ装置110については、既に説明したのでここでは説明を省略する。
【0055】
分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。分岐部120は、一例として、光ファイバ型の光カプラである。図5の例において、分岐部120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給する。
【0056】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。図5は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、分岐部120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0057】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0058】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離をdとする。
【0059】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズで、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0060】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、分岐部120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0061】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2dに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光および反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0062】
検出部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号を周波数解析して、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。検出部160の周波数解析については後述する。
【0063】
表示部170は、検出部160の解析結果を表示する。表示部170は、ディスプレイ等を有し、検出結果を表示してよい。また、表示部170は、記憶部等に解析結果を記憶させてもよい。
【0064】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100および計測対象物10の間の距離を測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触および非破壊の光学式距離計を構成できる。
【0065】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置100は、(数2)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定する。ここで、参照光および反射光の間の光路差が、距離dを往復した距離2dだけであり、距離2dに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数3】
【0066】
一方、時刻tにおける参照光は、(数2)式と同様に次式で示すことができる。ここで、参照光をνq’(t)とした。
【数4】
【0067】
ビート信号発生部150は、このような反射光および参照光を重畳させるので、(数3)式の複数の縦モードと(数4)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν(m,d)とすると、ν(m,d)は、(数3)式および(数4)式より次式で示すことができる。なお、mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2d/cとした。
【数5】
【0068】
(数5)式より、距離dは、次式のように示される。ここで、1/τRT=νとした。
【数6】
【0069】
(数6)式より、縦モード番号の間隔mを判別すれば、ビート信号の周波数観測結果から距離dを算出できることがわかる。なお、間隔mは、ビート信号の次数mと呼ばれ、レーザ装置110の周波数シフト量νを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、判別することができる。このような次数mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0070】
観測されるビート信号は常に正の周波数であるから、計算上、負の周波数側に発生するビート信号は、正側に折り返され、イメージ信号として観測される。このようなイメージ信号の発生について、次に説明する。
【0071】
図6は、本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。図6の横軸は距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数ν(m,d)を示す。図6の実線で示す複数の直線は、(数5)式に示したように、距離dに対するビート信号の周波数ν(m,d)の関係を、複数の次数m毎に示したグラフである。
【0072】
図6のように、mの値に応じた複数のビート信号が発生する。しかしながら、反射光および参照光のそれぞれに含まれる複数の縦モードは、略一定の周波数間隔νで並ぶので、mの値が等しい複数のビート信号は周波数軸上では略同一の周波数に重畳されることになる。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、複数のビート信号は略同一の周波数に重畳されて、1本の線スペクトルとして観測される。
【0073】
これに加えて、0よりも小さい負の領域のビート信号の周波数ν(m,d)は、周波数の絶対値がイメージ信号として更に観測される。即ち、図6の縦軸が0よりも小さい領域のグラフは、周波数0を境界として折り返される。図6は、折り返されたイメージ信号を、複数の点線で示す。折り返された複数のイメージ信号は、正負が反転するだけなので、観測される周波数軸上では折り返される前の周波数の絶対値と同一の周波数に重畳される。例えば、周波数0からνの間の周波数帯域を観測した場合、このようなビート信号およびイメージ信号は、周波数がそれぞれν/2にならない限り、それぞれ異なる周波数に位置する。
【0074】
このように、周波数0からνの間の観測帯域においては、ビート信号ν(m,d)と、ビート信号ν(m,d)とはmの値が異なるイメージ信号ν(m’,d)の2本の線スペクトルが発生する。ここで、一例として、m’=m+1である。この場合、ビート信号発生部150が直交検波を用いることで、このようなイメージ信号をキャンセルできる。そこで直交検波を用いたビート信号発生部150および検出部160について、次に説明する。
【0075】
[ビート信号発生部150および検出部160の構成例]
図7は、本実施形態に係るビート信号発生部150および検出部160の構成例を示す。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を直交検波する。ビート信号発生部150は、光90度ハイブリッド152と、2つの光電変換部154とを有する。
【0076】
光90度ハイブリッド152は、入力する反射光および参照光をそれぞれ2つに分岐する。光90度ハイブリッド152は、分岐した一方の反射光と、分岐した一方の参照光とを光カプラ等で合波して第1ビート信号を発生させる。また、光90度ハイブリッド152は、分岐した他方の反射光と、分岐した他方の参照光とを光カプラ等で合波して第2ビート信号を発生させる。ここで、光90度ハイブリッド152は、分岐した2つの参照光の間に90度の位相差を生じさせてから、ビート信号を発生させる。光90度ハイブリッド152は、例えば、分岐した2つの参照光のうちいずれか一方に、π/2波長板を介してから反射光とそれぞれ合波させる。
【0077】
光電変換部154は、合波した反射光および参照光を受光して電気信号に変換する。光電変換部154は、フォトダイオード等でよい。光電変換部154は、一例として、バランス型フォトダイオードである。図7において、2つの光電変換部154のうち一方の光電変換部154が第1ビート信号を発生させ、他方の光電変換部154が第2ビート信号を発生させるものとする。以上のように、ビート信号発生部150は、位相を90度異ならせた2つの参照光と反射光とをそれぞれ合波させて直交検波し、2つのビート信号を検出部160に出力する。
【0078】
検出部160は、2つのビート信号を周波数解析する。ここでは、検出部160が、第1ビート信号をI信号とし、第2ビート信号をQ信号として周波数解析する例を説明する。検出部160は、第1フィルタ部162、第2フィルタ部164、第1AD変換部202、第2AD変換部204、クロック信号供給部210、および周波数解析部220を有する。
【0079】
第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域とは異なる周波数帯域の信号成分を低減させる。ここで、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域を0からνとする。第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、例えば、周波数ν以下の信号成分を通過させるローパスフィルタである。この場合、第1フィルタ部162は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第1ビート信号を第1AD変換部202に供給する。また、第2フィルタ部164は、周波数νよりも高い周波数の信号成分を低減させた第2ビート信号を第2AD変換部204に供給する。
【0080】
第1AD変換部202および第2AD変換部204は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。例えば、第1AD変換部202は第1ビート信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換部204は第2ビート信号をデジタル信号に変換する。クロック信号供給部210は、第1AD変換部202および第2AD変換部204にクロック信号を供給する。これにより、第1AD変換部202および第2AD変換部204は、受け取ったクロック信号の周波数と略同一のサンプリングレートでアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0081】
ここで、観測帯域を0からνとすると、ビート信号の周波数は、最大でもレーザ共振器の共振周波数νである。したがって、クロック信号供給部210が、レーザ共振器の共振周波数νの2倍以上の周波数のクロック信号を第1AD変換部202および第2AD変換部204に供給することで、ビート信号を観測することができる。ここで、共振周波数νの2倍以上の周波数をサンプリング周波数とする。このように、検出部160は、ビート信号をサンプリング周波数でサンプリングして生成した第1ビート信号および第2ビート信号を第1サンプリングデータとして周波数解析する。
【0082】
周波数解析部220は、第1ビート信号および第2ビート信号を周波数データに変換する。周波数解析部220は、一例として、第1ビート信号および第2ビート信号をそれぞれデジタルフーリエ変換(DFT)する。周波数解析部220は、周波数データに変換した第1ビート信号を実部、周波数データに変換した第2ビート信号を虚部として加算し、イメージ信号を相殺する。以上の検出部160の動作は、例えば、制御部50によって制御される。
【0083】
このような制御部50および検出部160の少なくとも一部は、例えば、集積回路等で構成されている。この場合、ビート信号がデジタル信号に変換された後の検出部160の一部の構成が、集積回路等で構成されている。例えば、制御部50と検出部160とは、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、および/またはCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0084】
制御部50および検出部160の少なくとも一部をコンピュータ等で構成する場合、当該制御部50および検出部160は、記憶部を含む。記憶部は、一例として、制御部50および周波数解析部220を実現するコンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部は、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、および/または当該アプリケーションプログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してよい。即ち、記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでよい。
【0085】
コンピュータ等は、CPU等のプロセッサを含み、記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって制御部50および周波数解析部220として機能する。コンピュータ等は、GPU(Graphics Processing Unit)等を含んでもよい。
【0086】
[直交検波の概略]
図8は、本実施形態に係るビート信号発生部150および検出部160の直交検波の概略の一例を示す。図8の横軸はビート信号の周波数、縦軸は信号強度を示す。図8は、I信号およびQ信号のいずれか一方の周波数スペクトルを示す。I信号およびQ信号のいずれの周波数スペクトルも、図8の上側に示すように、略同一のスペクトル形状となる。I信号およびQ信号は、例えば、周波数0からνの間の周波数帯域に、ビート信号ν(m,d)およびイメージ信号ν(m+1,d)が観測される。この場合、I信号およびQ信号には、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域に、ビート信号-ν(m,d)およびイメージ信号の元のビート信号-ν(m+1,d)が存在する。
【0087】
ここで、I信号およびQ信号は、ビート信号発生部150が直交検波した信号成分なので、スペクトル形状が同一であっても、異なる位相情報を含む。例えば、正側の周波数0からνの間の周波数帯域において、I信号およびQ信号のイメージ信号ν(m+1,d)は、互いに位相が反転する。同様に、負側の周波数0から-νの間の周波数帯域において、I信号およびQ信号のビート信号-ν(m,d)は、互いに位相が反転する。
【0088】
したがって、図8の下側に示すように、周波数解析部220がI信号およびQ信号を用いてI+jQを算出すると、周波数0からνの間の周波数帯域において、周波数ν(m,d)のビート信号は強め合い、周波数ν(m+1,d)のイメージ信号は相殺される。同様に、周波数0から-νの間の周波数帯域において、周波数-ν(m+1,d)の2つのビート信号は強め合い、周波数-ν(m,d)の2つのビート信号は相殺される。
【0089】
このような周波数解析部220の周波数解析結果により、周波数0からνの間の周波数帯域には1つのビート信号が周波数ν(m,d)に観測されることになる。測定装置100は、このようにして、イメージ信号をキャンセルできるので、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定できる。
【0090】
以上のように、本実施形態に係る測定装置100によれば、当該測定装置100および計測対象物10の間の距離dを非破壊、非接触で測定することができる。このような非接触で計測対象物10までの距離dを測定する測定装置100は、計測対象物10とは別個独立に配置されていることが多い。したがって、測定装置100および計測対象物10の少なくとも一方が振動または移動している場合、測定装置100および計測対象物10の間には相対速度が発生することになる。このような相対速度は、測定装置100の測定結果に誤差として影響を与えることがある。
【0091】
例えば、測定装置100の測定光の光軸方向と平行な方向の相対速度の成分が有限の値を有する場合、計測対象物10からの反射光には、ドップラー効果によって、相対速度の成分に応じた周波数シフトが発生する。反射光の周波数シフトは、ビート信号発生部150が発生させるビート信号の周波数を変動させてしまうので、測定装置100の測定結果に誤差が生じることになる。
【0092】
そこで、本実施形態に係る測定装置100は、レーザ装置110の周波数シフト方向を変更し、シフト方向を変更した前後のビート信号を周波数解析することにより、このようなドップラー効果に基づく誤差を低減させる。このような測定装置100の測定動作について次に説明する。
【0093】
[測定装置100の動作フローの第1例]
図9は、本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第1例を示す。測定装置100は、図9のS1010からS1060までの動作を実行することにより、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定する。
【0094】
まず、S1010において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定する。例えば、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側に設定する。また、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフトのシフト量νを更に設定してもよい。
【0095】
次に、S1020において、制御部50は、レーザ共振器内に増幅媒体114と光SSB変調器30とを有するレーザ装置110を制御して、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。そして、分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して正側ビート信号を発生させる。
【0096】
次に、S1030において、制御部50は、検出部160を制御して、検出部160に正側ビート信号を周波数解析させる。検出部160は、例えば、正側ビート信号をレーザ共振器の共振周波数の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングして、サンプリングデータを生成する。周波数解析部220は、サンプリングデータのI信号およびQ信号を周波数変換してI+jQを算出する。そして、周波数解析部220は、正側ビート信号が発生した正側周波数Fを算出する。
【0097】
次に、S1040において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を反対方向に切り換える。例えば、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側から負側に切り換える。分岐部120は、周波数シフト方向が切り換えられた周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。そして、ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して負側ビート信号を発生させる。
【0098】
次に、S1050において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を切り換えてから、検出部160を制御して負側ビート信号を周波数解析させる。検出部160は、例えば、正側ビート信号と同様に、負側ビート信号が発生した負側周波数Fを算出する。
【0099】
次に、S1060において、周波数解析部220は、正側ビート信号および負側ビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差、即ち距離dを検出する。ここで、測定装置100および計測対象物10の間の相対速度に応じたドップラー効果が発生している場合、正側ビート信号および負側ビート信号の周波数解析結果には誤差が含まれることになる。
【0100】
例えば、ドップラー効果による周波数誤差をΔFとすると、正側ビート信号の正側周波数Fは、F-ΔFと表すことができる。ここで、Fは、ドップラー効果が発生していない場合に観測される正側ビート信号の周波数である。また、負側ビート信号の負側周波数Fは、光SSB変調器30の周波数シフト方向を反対側に切り換えているので、ドップラー効果による誤差の正負の符号が反転し、F+ΔFと表すことができる。このような正側周波数Fおよび負側周波数Fの概念について、図10を用いて説明する。
【0101】
図10は、本実施形態に係る測定装置100の参照光および測定光の光周波数と、観測されるビート信号の周波数の概念を示す。図10の上側の図は、横軸が時間を示し、縦軸が参照光および測定光の光周波数を示す。また、図10の下側の図は、横軸が時間を示し、縦軸がビート信号の周波数を示す。図10は、制御部50が光SSB変調器30の周波数シフト方向の切り換えを一定の周期Tで繰り返している例を示す。
【0102】
例えば、時刻tからtn+1までの期間にビート信号発生部150に到達した参照光は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側にした期間にレーザ装置110から出力されたレーザ光の一部である。また、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側にした期間に分岐された測定光は、一定の時間だけ遅延した時刻tからtm+1までの期間にビート信号発生部150へと到達する。
【0103】
ドップラー効果による影響がなければ、参照光に対する測定光の遅延時間は、計測対象物10までの距離dに対応し、ビート信号発生部150が発生するビート信号の周波数はFとなる。図10は、ドップラー効果による誤差ΔFが生じている例を示し、時刻tからtn+1までの期間にビート信号発生部150が発生する正側ビート信号の正側周波数FはF-ΔFとなる。
【0104】
同様に、時刻tn+1からtn+2までの期間にビート信号発生部150に到達した参照光は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を負側にした期間にレーザ装置110から出力されたレーザ光の一部である。また、光SSB変調器30の周波数シフト方向を負側にした期間に分岐された測定光は、一定の時間だけ遅延した時刻tm+1からtm+2までの期間にビート信号発生部150へと到達する。
【0105】
ここで、ドップラー効果による誤差は、測定光の周波数をシフトするので、図10の上側の図において測定光の波形を縦軸方向にずれることになる。この場合、参照光に対する測定光の遅延時間は、シフト方向に応じて異なる時間になる。例えば、時刻tm+1からtn+2までの期間にビート信号発生部150が発生する負側ビート信号の負側周波数FはF+ΔFとなる。
【0106】
したがって、周波数解析部220は、一例として、正側周波数Fおよび負側周波数Fの平均値を算出すると、理想的には、ドップラー効果による影響がない場合に発生するビート信号の周波数Fの値を得ることができる。これにより、周波数解析部220は、(数6)式を用いて、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを算出できる。表示部170は、算出した距離dの値を表示する。
【0107】
以上のように、検出部160は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側にした場合に発生した正側ビート信号と、光SSB変調器30の周波数シフト方向を負側にした場合に発生した負側ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、ドップラー効果による影響を低減させた参照光と測定光との伝搬距離の差を検出することができる。なお、測定装置100は、周波数変調レーザ光を計測対象物10に照射する位置を異ならせて、図9に示す動作フローを繰り返して、計測対象物10の形状を測定してもよい。
【0108】
以上の本実施形態に係る測定装置100は、光SSB変調器30を有するレーザ装置110を用いることで、ドップラー効果による影響を低減させて計測対象物10までの距離dを精度よく測定できる。ここで、(数6)式より、ビート信号の信号周波数ν(m,d)の測定精度が距離dの測定精度に与える影響は、νおよびνの値が大きいほど小さくなる。レーザ装置110の共振器長を短くすることでνの値を大きくすることはできるが、レーザ発振に必要な増幅媒体114の長さ、ファイバの取り扱いに必要な長さ等にも限界があり、容易にνの値を大きくすることはできない。
【0109】
周波数シフタ112として、AOFS20を用いた場合、光学結晶21による周波数シフト量の最大値は1.5GHz程度であり、効率等の観点から通常は数百MHz程度のシフト量である。また、超音波トランスデューサ22には共振周波数があるので、周波数シフト量を可変にして用いるには限界がある。
【0110】
これに対し、本実施形態に係る測定装置100は、光SSB変調器30を用いるので、AOFS20と比較して数十倍程度の周波数シフト量νを設定可能とする。したがって、測定装置100は、従来に比べて、距離dの変化に対するビート周波数の感度を数十倍程度に向上させることができ、計測対象物10までの距離dを高精度に測定できる。
【0111】
また、本実施形態に係る測定装置100は、周波数シフト帰還レーザの周波数のシフト量を変更できることにより、例えば、ビート信号の次数mを容易に決定することもできる。(数6)式の説明でも述べたとおり、次数mは、レーザ装置110の周波数シフト量νを変化させた場合のビート信号の変化を検出することによって判別できる。
【0112】
このような次数mの決定方法は、特許文献1等に記載されているように、異なる周波数シフト量毎にビート信号を検出して、(数5)式の関係式を生成して連立させ、次数mを連立方程式の解として算出する方法として既知である。測定装置100は、周波数シフト帰還レーザの周波数のシフト量を変更することで、このような方法を用いて次数mを判別してよい。
【0113】
なお、周波数シフト量の変化に応じて次数mが変化してしまうと、連立方程式の解の数が増加することになり、連立すべき方程式の数を対応して増加させなければならない。次数mの値は、距離dを絶対測長範囲で割った商として、次式のように示すことができる。ここで、絶対測長範囲は、次数mの値が変わらずに、連続的に距離dを測定できる範囲であり、シフト周波数νの逆数の時間内に測定光が往復する距離(即ち、c/2ν)である。また、floor()は、小数部分の切り捨てを意味する。
【数7】
【0114】
ここで、(数7)式をνで微分することにより、次式を得る。
【数8】
【0115】
(数8)式より、距離dの値が大きければ大きいほど、周波数のシフト量νの変化に対する次数mの値の変化量が大きいことがわかる。これは、レーザ装置110から計測対象物10までの距離dが離れていれば離れているほど、周波数シフトによって次数mが変化しやすいことを意味する。また、上述のように、周波数シフト量νを大きくすると、距離の測定精度が向上する一方で、絶対測長範囲が狭くなり、次数mが変化しやすい。したがって、より遠くの計測対象物10を精度良く測定するには、mの値がより多く変化して連立方程式が複雑になってしまうので、測定装置100による測定が困難になってしまうことがあった。
【0116】
そこで、本実施形態に係る測定装置100は、次数mを決定するための周波数シフト量と、距離dを測定するための周波数シフト量とを異ならせることにより、より高感度でより遠方の距離dを測定可能とする。このような測定装置100の測定動作について次に説明する。
【0117】
[測定装置100の動作フローの第2例]
図11は、本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第2例を示す。第2例の動作フローにおいて、第1例の動作フローで既に説明した動作については説明の一部を省略する。
【0118】
まず、S1110において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量νを第1周波数νs1に設定する。第1周波数νs1は、次数mを判定するための周波数シフト量であり、距離dを測定するための周波数シフト量よりも小さい値である。第1周波数νs1は、距離dを測定するための絶対測長範囲を数倍程度以上の範囲に拡大するための低い周波数であることが望ましい。また、第1周波数νs1は、後に述べるように、距離dに対応する周波数であることがより望ましい。第1周波数νs1は、例えば、数十MHzから数GHz程度の周波数である。また、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を更に設定してもよい。
【0119】
次に、S1120において、制御部50は、レーザ共振器内に増幅媒体114と光SSB変調器30とを有するレーザ装置110を制御して、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。そして、分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させる。
【0120】
次に、S1130において、制御部50は、検出部160を制御して、検出部160に次数判定ビート信号を周波数解析させる。そして、周波数解析部220は、次数判定ビート信号が発生した次数判定用の周波数Fを算出する。
【0121】
次に、S1140において、周波数解析部220は、次数判定用の周波数Fと(数5)式とを用いて、次数mを判定する。周波数解析部220は、距離dを測定するための絶対測長範囲における次数mを判定する。このような周波数シフト量νと絶対測長範囲との関係について、図12を用いて説明する。
【0122】
図12は、本実施形態に係るレーザ装置110の周波数シフト量νと絶対測長範囲との関係の概念を示す。図12の横軸は計測対象物10までの距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数を示す。図12の実線で示す複数の直線は、図6で説明したように、距離dに対するビート信号の周波数ν(m,d)の関係を、複数のm毎に示したグラフである。即ち、実線で示す複数の直線は、制御部50が距離dを測定するための周波数シフト量νs2をレーザ装置110に設定した場合の距離dおよび周波数ν(m,d)の関係を示す。この場合の周波数シフト量νs2を第2周波数とする。また、絶対測長範囲は、c/2ν=c/2νs2となる。
【0123】
図12の点線で示す直線は、周波数シフト量νを第1周波数νs1に設定した場合の距離dおよび周波数ν(m,d)の関係を示す。図12は、第1周波数νs1をνs2/5とした例を示す。これにより、絶対測長範囲が、5c/2νs2に拡大されたことがわかる。したがって、周波数シフト量νを第1周波数νs1に設定し、0からνまでの範囲の周波数の次数判定ビート信号を検出すると、次数mの変化なしに距離dに対応する次数判定用の周波数Fを検出できる。
【0124】
一例として、検出部160が次数判定ビート信号を検出して周波数解析し、周波数Fを算出したとする。この場合、次数判定ビート信号の周波数は、絶対測長範囲の範囲内なので、周波数Fに対応する距離dを算出できる。そして、算出された距離dに基づき、周波数シフト量を第2周波数νに設定した場合の次数mを判定することができる。例えば、図12の実線で示す複数の直線より、距離dを測定可能な絶対測長範囲は次数m=3であり、他の次数の直線によるビート信号はレプリカとなることがわかる。以上のように、第1周波数νs1をより低い周波数とすることで、絶対測長範囲を拡大させて、距離dを測定する場合の次数mを判定できる。なお、第1周波数νs1は、拡大した絶対測長範囲に計測対象物10までの距離dに対応する周波数が含まれる程度の周波数とすることが望ましい。
【0125】
次に、S1150において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量νを第1周波数νs1よりも大きい第2周波数νs2に切り換える。第2周波数νs2は、上述のとおり、距離dを測定するための周波数シフト量である。分岐部120は、周波数シフト量が切り換えられた周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。そして、ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して距離測定ビート信号を発生させる。
【0126】
次に、S1160において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量を切り換えてから、検出部160を制御して距離測定ビート信号を周波数解析させる。そして、周波数解析部220は、距離測定ビート信号が発生した距離測定用の周波数Fを算出する。
【0127】
次に、S1170において、周波数解析部220は、次数判定ビート信号および距離測定ビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。周波数解析部220は、例えば、次数mと距離測定用の周波数Fを(数6)式に代入して、距離dを算出する。表示部170は、算出した距離dの値を表示する。
【0128】
以上のように、測定装置100は、少なくとも次数mが判定できる程度の分解能を有するように、周波数シフト量を低減させることで、容易に次数mを判定可能とする。そして、周波数シフト量をより高い周波数に切り換えることにより、測定精度を向上させてから距離dを測定する。これにより、測定装置100は、より遠方の距離dをより高感度で測定することができる。
【0129】
なお、図11の動作フローにおいて、測定装置100が次数判定ビート信号を検出してから距離測定ビート信号を検出する例を説明したが、これに限定されることはない。測定装置100は、距離測定ビート信号を検出してから次数判定ビート信号を検出してもよい。このように、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量を第1周波数νs1と第1周波数νs1よりも大きい第2周波数νs2のいずれかに設定してから、検出部160にビート信号を周波数解析させてよい。そして、検出部160は、光SSB変調器30の周波数シフト量を第1周波数νs1にした場合に発生した次数判定ビート信号と、光SSB変調器の周波数シフト量を第2周波数νs2にした場合に発生した距離測定ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。
【0130】
以上の本実施形態に係る測定装置100において、ドップラー効果の影響を低減させる動作と、次数mを判定する動作とをそれぞれ別個に説明したが、これに限定されることはない。測定装置100は、ドップラー効果の影響を低減させつつ、次数mを判定してもよい。このような測定装置100の動作について、次に説明する。
【0131】
[測定装置100の動作フローの第3例]
図13は、本実施形態に係る測定装置100の動作フローの第3例を示す。第3例の動作フローにおいて、第1例の動作フローおよび第2例の動作フローで既に説明した動作については説明の一部を省略する。
【0132】
まず、S1210において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量を第1周波数νs1に設定し、周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定する。一例として、制御部50は、第1周波数をν/5に、周波数シフト方向を正に設定する。
【0133】
次に、S1220において、制御部50は、レーザ装置110を制御して、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。そして、分岐部120は、レーザ装置110が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させる。
【0134】
次に、S1230において、制御部50は、検出部160を制御して、検出部160に次数判定ビート信号を周波数解析させる。そして、周波数解析部220は、次数判定ビート信号が発生した次数判定用の周波数Fを算出する。
【0135】
次に、S1240において、周波数解析部220は、次数判定用の周波数Fと(数5)式とを用いて、次数mを判定する。この段階において、次数判定ビート信号に基づいて算出された周波数Fには、ドップラー効果の影響による誤差が含まれていることがある。しかしながら、ドップラー効果の影響による誤差は、次数mの判定にはほとんど影響を及ぼさない程度の小さな誤差であり、ここでは問題にはならない。
【0136】
次に、S1250において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量を第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、正側ビート信号を発生させる。ここで、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を変更しない。
【0137】
次に、S1260において、制御部50は、検出部160を制御して正側ビート信号を周波数解析させる。そして、周波数解析部220は、周波数解析結果を用いて正側ビート信号が発生した正側周波数Fを算出する。この段階においても、正側ビート信号に基づいて算出された正側周波数Fには、ドップラー効果の影響による誤差が含まれていることがある。
【0138】
次に、S1270において、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト量を第2周波数のまま、周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させる。例えば、制御部50は、光SSB変調器30の周波数シフト方向を正側から負側に切り換える。分岐部120は、周波数シフト方向が切り換えられた周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる。光ヘッド部140は、測定光を計測対象物10に照射する。光ヘッド部140は、計測対象物10から反射された反射光を受光する。そして、ビート信号発生部150は、反射光と参照光とを混合して負側ビート信号を発生させる。
【0139】
次に、S1280において、制御部50は、検出部160を制御して負側ビート信号を周波数解析させる。そして、周波数解析部220は、周波数解析結果を用いて負側ビート信号が発生した負側周波数Fを算出する。この段階においても、負側ビート信号に基づいて算出された負側周波数Fには、ドップラー効果の影響による誤差が含まれていることがある。この場合、負側周波数Fに含まれている誤差は、正側周波数Fに含まれている誤差と比較して、値が略同一で符号が反転していることになる。
【0140】
次に、S1290において、周波数解析部220は、次数判定ビート信号、正側ビート信号、および負側ビート信号を周波数解析した結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。周波数解析部220は、一例として、正側周波数Fおよび負側周波数Fの平均値を算出する。これにより、周波数解析部220は、平均値と次数mとを(数6)式に代入して、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを算出する。表示部170は、算出した距離dの値を表示する。
【0141】
以上のように、本実施形態に係る測定装置100は、容易に周波数シフト量および周波数シフト方向を変更できるレーザ装置110を備えているので、ドップラー効果の影響を低減させつつ次数mを判定し、高精度に計測対象物10までの距離dを測定することができる。
【0142】
[制御部50の変形例]
以上の本実施形態に係る測定装置100において、レーザ装置110が光SSB変調器30を有し、光SSB変調器30に供給する電圧を切り換えることで、光SSB変調器30の周波数シフト方向を切り換え可能とする例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、測定装置100は、光SSB変調器30を駆動するRF信号の位相を反転することで、光SSB変調器30の周波数シフト方向を切り換え可能としてもよい。このような測定装置100の光SSB変調器30および制御部50について次に説明する。
【0143】
図14は、本実施形態に係る制御部50の変形例を光SSB変調器30と共に示す。図14に示す光SSB変調器30および変形例の制御部50において、図3に示された本実施形態に係る光SSB変調器30および制御部50の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。変形例の制御部50は、位相差生成部310と切換部320とを更に有する。
【0144】
変形例の制御部50において、RF信号生成部54は、複数のRF信号を生成する。RF信号生成部54は、例えば、位相と周波数が略一致する2つのRF信号を生成する。RF信号生成部54は、一例として、1つのRF信号を2つに分岐してもよい。RF信号生成部54は、生成した複数のRF信号を位相差生成部310に供給する。
【0145】
位相差生成部310は、入力する複数のRF信号の位相をそれぞれ異ならせて、予め定められた位相差を有する複数のRF信号を出力する。位相差生成部310は、例えば、入力する同位相の2つのRF信号を、略90度ずつ位相差を有する3つのRF信号にして出力する。例えば、位相差生成部310が出力する3つのRF信号のうち第1のRF信号の位相を0度とすると、第2のRF信号の位相は第1のRF信号に対して略90度異なり、第3のRF信号の位相は第1のRF信号に対して略180度異なる。
【0146】
位相差生成部310は、一例として、入力する2つのRF信号のうちの一方の位相を90度異ならせる。また、位相差生成部310は、入力する2つのRF信号のうちの他方のRF信号に対して、180度位相が異なるRF信号を生成する。言い換えると、位相差生成部310は、1つのRF信号(一例として、前述の第2のRF信号)と、当該1つのRF信号に対して位相が±90度異なる2つのRF信号(一例として、前述の第1および第3のRF信号)とを含む3つのRF信号を生成する。
【0147】
これに代えて、RF信号生成部54は、位相と周波数が略一致する3つのRF信号を生成して位相差生成部310に供給してもよい。この場合、位相差生成部310は、入力する3つのRF信号のうちの1つのRF信号の位相を90度異ならせ、また、残りの2つのRF信号のうちの一方のRF信号の位相を180度異ならせてもよい。
【0148】
そして、位相差生成部310は、3つのRF信号のうち、位相差が他の2つのRF信号からそれぞれ90度異なる1つのRF信号を第1RF電極38または第2RF電極39に供給する。そして、位相差生成部310は、残りの2つのRF信号を切換部320に供給する。図14は、位相差生成部310が第2のRF信号を第1RF電極38に供給し、第1のRF信号および第3のRF信号を切換部320に供給する例を示す。
【0149】
切換部320は、入力する2つのRF信号のいずれか一方のRF信号を、第1RF電極38および第2RF電極39のうち位相差生成部310がRF信号を供給していない方の電極に供給する。図14は、切換部320に入力する2つのRF信号のいずれか一方のRF信号が第2RF電極39に入力する例を示す。
【0150】
これにより、第1RF電極38および第2RF電極39にそれぞれ供給される2つのRF信号の位相差は、+90度または-90度となる。また、2つの位相差は、制御部50が切換部320を制御することにより、切り換え可能である。このように、制御部50が第1RF電極38および第2RF電極39に供給するRF信号の位相差の正負を反転させることにより、光SSB変調器30の周波数シフト方向を切り換えることができる。即ち、制御部50は、光SSB変調器30に供給するRF信号の位相を切り換えることで、光SSB変調器30の周波数シフト方向を切り換え可能とする。
【0151】
以上のように、光SSB変調器30に供給するRF信号を切り換えることは、スイッチ等の簡便な回路構成で実現することができる。このように変形例の制御部50は、簡便な回路構成とすることができるので、低コスト、安定、および高速に周波数シフト方向を切り換え可能とすることができる。
【0152】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0153】
10 計測対象物
20 AOFS
21 光学結晶
22 超音波トランスデューサ
23 超音波吸収体
24 発振器
30 光SSB変調器
31 基板
32 メインマッハツェンダ導波路
33 第1サブマッハツェンダ導波路
34 第2サブマッハツェンダ導波路
35 メインDC電極
36 第1サブDC電極
37 第2サブDC電極
38 第1RF電極
39 第2RF電極
41 第1アーム導波路
42 第2アーム導波路
43 第1サブアーム導波路
44 第2サブアーム導波路
45 第3サブアーム導波路
46 第4サブアーム導波路
50 制御部
52 直流電圧生成部
54 RF信号生成部
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 分岐部
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
152 光90度ハイブリッド
154 光電変換部
160 検出部
162 第1フィルタ部
164 第2フィルタ部
170 表示部
202 第1AD変換部
204 第2AD変換部
210 クロック信号供給部
220 周波数解析部
310 位相差生成部
320 切換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置であって、
入力する光を増幅する増幅媒体と、
前記増幅媒体が増幅した光の周波数を周波数シフトする光SSB変調器と
を有するレーザ共振器と、
前記光SSB変調器を制御して、前記光SSB変調器に入力する光の周波数を周波数シフトさせる制御部と
を有する、前記レーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させる分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合してビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記ビート信号を周波数解析して、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する検出部と
を備える、測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト量を設定する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧およびRF信号を供給し、周波数を変更して前記周波数シフト量を設定する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記光SSB変調器の周波数シフト方向を設定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に、予め定められた値の直流電圧を供給して前記周波数シフト方向を切り換える、請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記光SSB変調器は、
基板と、
前記基板に設けられており、第1アーム導波路および第2アーム導波路を有するメインマッハツェンダ導波路と、
前記第1アーム導波路に設けられている第1サブマッハツェンダ導波路と、
前記第2アーム導波路に設けられている第2サブマッハツェンダ導波路と
を有し、
前記制御部は、前記メインマッハツェンダ導波路、前記第1サブマッハツェンダ導波路、および前記第2サブマッハツェンダ導波路に対応して前記基板に設けられている電極に供給するRF信号の位相を反転して、前記周波数シフト方向を切り換える、請求項4に記載の測定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を第1周波数と前記第1周波数よりも大きい第2周波数とのいずれかに設定してから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、
前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数にした場合に発生した次数判定ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数にした場合に発生した距離測定ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する、
請求項2又は3に記載の測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に切り換えてから、前記検出部に前記ビート信号を周波数解析させ、
前記検出部は、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を正側にした場合に発生した正側ビート信号と、前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を負側にした場合に発生した負側ビート信号とをそれぞれ周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出する、
請求項4から6のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記ビート信号を周波数解析することにより得られた前記ビート信号の周波数ν (m、d)を用いて、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差dを次式により算出し、
ここで、cは光速、νsは前記周波数変調レーザ光の周波数シフト量、νcは1/τ RT 、τ RT は前記レーザ装置の共振器を光が1周する時間、mは前記周波数変調レーザ光の縦モード番号の間隔である、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項10】
前記ビート信号発生部は、前記反射光および前記参照光を直交検波する、請求項からのいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項11】
光SSB変調器の周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して正側ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、
前記正側ビート信号および前記負側ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。
【請求項12】
光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、距離測定ビート信号を発生させるステップと、
前記次数判定ビート信号および前記距離測定ビート信号を周波数解析した結果に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。
【請求項13】
光SSB変調器の周波数シフト量を第1周波数に設定し、周波数シフト方向を正側および負側のいずれか一方に設定するステップと、
レーザ共振器内に増幅媒体と前記光SSB変調器とを有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐させるステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して次数判定ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第1周波数よりも大きい第2周波数に切り換えて、正側ビート信号を発生させるステップと、
前記光SSB変調器の前記周波数シフト量を前記第2周波数のまま、前記周波数シフト方向を反対方向に切り換えて、負側ビート信号を発生させるステップと、
前記次数判定ビート信号、前記正側ビート信号、および前記負側ビート信号に基づき、前記参照光と前記測定光との伝搬距離の差を検出するステップと
を備える、測定方法。