(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172001
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光装置並びに波長変換部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20231129BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20231129BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083528
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 利章
(72)【発明者】
【氏名】原 章徳
(72)【発明者】
【氏名】三好 隆
【テーマコード(参考)】
2H148
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA07
2H148AA09
2H148AA19
2H148AA25
5F142DA01
5F142DA55
5F142DA61
5F142DA73
5F142DA80
(57)【要約】
【課題】特性が改善された波長変換部材及び発光装置を提供する。
【解決手段】第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有する透光性部材と、前記透光性部材の前記側面を覆い、前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有する光反射性部材と、前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に設けられた半導体膜と、を有し、前記半導体膜は、前記第1面に設けられ、光励起によって第1光を発する活性領域を含む第1部分と、前記第3面に設けられ、多結晶構造またはアモルファス構造を有する第2部分と、を有する波長変換部材。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有する透光性部材と、
前記透光性部材の前記側面を覆い、前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有する光反射性部材と、
前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に設けられた半導体膜と、を有し、
前記半導体膜は、前記第1面に設けられ、光励起によって第1光を発する活性領域を含む第1部分と、前記第3面に設けられ、多結晶構造またはアモルファス構造を有する第2部分と、を有する波長変換部材。
【請求項2】
前記半導体膜の前記活性領域は、量子井戸構造を有する、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記半導体膜の前記活性領域は、InGaNからなる井戸層を有する、請求項2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記透光性部材は、サファイアからなる、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記第1光のピーク波長は、605nm~650nmである、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記第2面から前記第1面に向かう方向が第1方向であり、
前記透光性部材の前記第1面は、前記光反射性部材の前記第3面よりも前記第1方向の側に位置している、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記透光性部材の前記第2面の側に配置され、光励起によって前記第1光とは異なる第2光を発する蛍光体含有部材を備える、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記第2光のピーク波長は、520nm~560nmである、請求項7に記載の波長変換部材。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載の波長変換部材と、
前記透光性部材の前記第2面に励起光を照射する光源と、を備え、
前記半導体膜の前記活性領域は、前記透光性部材を通過した前記励起光の照射によって、前記励起光とは異なる前記第1光を発する、発光装置。
【請求項10】
第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有し、且つ単結晶である透光性部材と、前記透光性部材の前記側面を覆い、且つ前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有し、且つセラミックスからなる光反射性部材と、を有する複合体を準備する工程と、
前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に、光励起によって第1光を発する活性領域を含む半導体膜を成長させる工程と、
を備える波長変換部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材及び発光装置並びに波長変換部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、発光ダイオードチップと、可視光を透過し得る基板と、基板上に形成された半導体層とを備える発光素子が記載されている。特許文献1には、半導体層がInGaAlPにより形成されており、発光ダイオードからの青色又は紫外発光により赤色発光が可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、基板及び半導体層をパッケージに組み込むことは記載されているが、基板及び半導体層と光反射部材との組合せについて具体的な言及はない。半導体層によって波長変換を行う波長変換部材及びそれを用いた発光装置について、さらなる改良が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態の波長変換部材は、第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有する透光性部材と、前記透光性部材の前記側面を覆い、前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有する光反射性部材と、前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に設けられた半導体膜と、を有し、前記半導体膜は、前記第1面に設けられ、光励起によって第1光を発する活性領域を含む第1部分と、前記第3面に設けられ、多結晶構造またはアモルファス構造を有する第2部分と、を有する。
【0006】
本開示の一実施形態の発光装置は、上述の波長変換部材と、前記透光性部材の前記第2面に励起光を照射する光源と、を備え、前記半導体膜の前記活性領域は、前記透光性部材を通過した前記励起光の照射によって、前記励起光とは異なる前記第1光を発する。
【0007】
本開示の一実施形態の波長変換部材の製造方法は、第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有し、且つ単結晶である透光性部材と、前記透光性部材の前記側面を覆い、且つ前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有し、且つセラミックスからなる光反射性部材と、を有する複合体を準備する工程と、前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に、光励起によって第1光を発する活性領域を含む半導体膜を成長させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
上述の波長変換部材及び発光装置並びに波長変換部材の製造方法によれば、特性が改善された波長変換部材及び発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る波長変換部材の模式的な平面図である。
【
図3】
図3は、透光性部材と光反射性部材とを含む複合体の模式的な平面図である。
【
図5】
図5は、変形例1に係る波長変換部材の模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、変形例2に係る波長変換部材の模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、変形例3に係る波長変換部材の模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る波長変換部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る発光装置の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について適宣図面を参照して説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。
【0011】
<第1実施形態>
図1~
図4を用いて、第1実施形態に係る波長変換部材10を説明する。
図1は第1実施形態に係る波長変換部材10の平面図である。
図2は
図1のII-II線における断面図である。
図3は透光性部材1と光反射性部材3とを含む複合体20の模式的な平面図である。
図4は
図3のIV-IV線における断面図である。
【0012】
(波長変換部材10)
波長変換部材10は、透光性部材1と、光反射性部材3と、半導体膜5と、を有する。透光性部材1は、第1面1A、第1面1Aと反対側の第2面1B、及び、第1面1Aと第2面1Bを繋ぐ1以上の側面1Cを有する。光反射性部材3は、透光性部材1の側面1Cを覆っており、第3面3Aを有する。
図3に示すように、第3面3Aは、第1面1Aに垂直な平面視において第1面1Aを囲む面である。半導体膜5は、透光性部材1の第1面1A及び光反射性部材3の第3面3Aに設けられている。半導体膜5は、第1部分5aと第2部分5bとを有する。第1部分5aは、第1面1Aに設けられており、光励起によって第1光を発する活性領域を含む。第2部分5bは、第3面3Aに設けられており、多結晶構造またはアモルファス構造を有する。
【0013】
波長変換部材10は、第1部分5aに励起光を照射することにより、波長変換を行うことができる。励起光は、例えば透光性部材1を通って第1部分5aに照射される。励起光は、透光性部材1を通らずに第1部分5aに照射されてもよい。いずれにせよ、第1部分5aと隣接している透光性部材1には励起光が伝播し得る。波長変換部材10が光反射性部材3を備えることにより、透光性部材1に伝播する光を光反射性部材3によって反射させ、波長変換部材10の光取り出し面へと向かわせることができ、光の損失を低減することができる。光反射性部材3から光が漏れることにより、観察される発光の輪郭がぼやけること、すなわち光の見切り性が低下することがあるが、第2部分5bを設けていることにより、光反射性部材3から外に向かう光を第2部分5bによって散乱または吸収することができる。これにより、半導体膜5が設けられた側を波長変換部材10の光取り出し面としたときの光の見切り性を向上させることができる。第2部分5bは多結晶構造またはアモルファス構造を有するため、活性領域を含む第1部分5aよりも光を散乱または吸収しやすい。活性領域を含む第1部分5aは、部分的に多結晶構造またはアモルファス構造を含んでいてもよいが、少なくとも大部分は単結晶である。
【0014】
(透光性部材1)
透光性部材1は、半導体膜5を励起するための励起光に対して透光性である。透光性部材1は、半導体膜5によって波長変換された波長変換光に対して透光性であってもよい。透光性部材1としては、蛍光体を含有していない基板を用いることができる。透光性部材1は、例えば単結晶体である。透光性部材1は、半導体膜5を成長可能な単結晶基板であることが好ましい。これにより、半導体膜5を透光性部材1の第1面1Aに成長させることができるため、簡便に半導体膜5を得ることができる。透光性部材1は、例えばサファイアからなる。この場合、半導体膜5は例えばGaN系半導体からなる。透光性部材1がサファイアであれば、励起光の照射による半導体膜5の発熱に対して透光性部材1を放熱部材として機能させることができる。半導体膜5は、励起光が入射する部分が最も発熱し易いため、半導体膜5の励起光入射面は、透光性部材1が位置する側の面であることが好ましい。なお、半導体膜5を成長可能な単結晶基板としては、励起光や半導体膜5の発光を吸収する基板も挙げられるが、透光性の基板を透光性部材1として用いることで、光の吸収を低減することができ、波長変換部材10を用いた発光装置の光取り出し効率を向上させることができる。半導体膜5の透光性部材1が配置された側の面を励起光の入射面とする場合のみならず、半導体膜5の透光性部材1とは反対側の面を励起光の入射面および発光の取り出し面とする、いわゆる反射型の場合であっても、透光性である透光性部材1を設けることで、光の吸収を低減し、発光装置の光取り出し効率を向上させることができる。
【0015】
透光性部材1は、GaN基板などの窒化物半導体基板であってもよい。これにより、サファイア基板と同様に、GaN系半導体を成長させることができ、放熱部材として機能させることができる。コスト面からは、透光性部材1はサファイア基板であることが好ましい。
【0016】
透光性部材1は、半導体膜5を励起する励起光に対する透過率が70%以上であってよく、80%以上であってよい。透光性部材1は、半導体膜5が発する波長変換光に対する透過率が75%以上であってよく、85%以上であってよい。
【0017】
透光性部材1は、四角柱形状を有する。透光性部材1は、その上面が一方向に長い長方形である四角柱形状を有してもよい。透光性部材1は、四角柱形状以外の多角柱形状、円柱形状、角錐台形状、又は円錐台形状を有していてもよい。
【0018】
(光反射性部材3)
光反射性部材3は、透光性部材1を取り囲むように透光性部材1の側方に設けることができる。光反射性部材3には貫通孔が設けられており、貫通孔の内部に透光性部材1が配置されている。透光性部材1の第1面1A及び第2面1Bは、光反射性部材3に覆われておらず、光反射性部材3から露出している。
【0019】
光反射性部材3は、光反射性セラミックスであってよい。光反射性セラミックスは、複数の空隙を有するセラミックスであってよい。例えば、透光性部材1と光反射性部材3とを横切る一断面において、複数の空隙は透光性部材1の近傍に偏在している。これにより、透光性部材1の近傍では光を効率的に反射させることができ、その外側では強度を向上させるとともに放熱性を向上させることができる。
【0020】
光反射性部材3が光反射性セラミックスである場合、その材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ルテチウム、酸化ランタンなどからなる酸化物、酸窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素などからなる酸窒化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などからなる窒化物の単体、又はこれらの複合部材などが挙げられる。光反射性部材3としては、酸化アルミニウムをベースとしたものを用いることが好ましい。酸化アルミニウムセラミックスは、光反射性セラミックスとして用いることができる材料の中で、熱伝導率が高く、光吸収が少なく、焼結性が良いためである。酸化アルミニウムをベースとして使用する場合、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、又は酸化イットリウムの1以上を添加してもよい。また、酸化ジルコニウムなどの高屈折率材料と組み合わせてもよい。酸化アルミニウムをベースとしてそれとは異なる材料を添加することで、酸化アルミニウムの粒子の成長を抑制することが可能である。粒子成長抑制により粒界が増えるため、空隙のサイズ縮小及び数の増大が期待でき、これによる反射率の向上が期待できる。
【0021】
光反射性部材3は、半導体膜5を励起する励起光に対する反射率が70%以上であってよく、80%以上であってよい。光反射性部材3は、半導体膜5が発する波長変換光に対する反射率が80%以上であってよく、90%以上であってよい。
【0022】
光反射性部材3は、金属であってもよく、金属とセラミックスの複合材料であってもよい。光反射性部材3は、透光性部材1とは異なる材料からなる。光反射性部材3は、透光性部材1よりも半導体膜5の成長に適さない材料からなることが好ましい。これにより、半導体膜5を、透光性部材1の第1面1A上では単結晶で成長させ、光反射性部材3の第3面3A上では多結晶構造またはアモルファス構造を有する部分として成長させることができる。
【0023】
(半導体膜5)
半導体膜5は、第1部分5aと第2部分5bとを有する。半導体膜5は、1以上の層を含むことができる。半導体膜5は、透光性部材1の第1面1A及び光反射性部材3の第3面3Aの全体に亘って連続して設けられていてもよく、部分的に断絶していてもよい。第1面1A及び第3面3Aに半導体膜5を成長させる場合は、第1部分5aと第2部分5bとが繋がった半導体膜5を得ることができる。これにより、波長変換部材10から半導体膜5を通過せずに光が取り出される確率を低減させることができる。第1部分5aの外縁のすべてが第2部分5bと繋がっていなくてもよい。なお、第1部分5aと第2部分5bは同時に形成することができるため、本開示においては、第1部分5aと第2部分5bの形成をいずれも成長と呼ぶ。
【0024】
半導体膜5の第1部分5aは、透光性部材1の第1面1Aに設けられる。半導体膜5の第1部分5aは、透光性部材1の第1面1Aと接していてよい。半導体膜5の第1部分5aは、透光性部材1の第1面1Aに半導体を成長させるためのバッファ層を含んでいてもよい。
【0025】
半導体膜5の第1部分5aは、活性領域を含む。活性領域は、例えば量子井戸構造を有する。活性領域は、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造を有することができる。活性領域が多重量子井戸構造を有することで、波長変換光の光強度を増大可能である。活性領域は、InGaNからなる井戸層を有することができる。このような活性領域を有する半導体膜5の第1部分5aは、GaN系半導体から構成することができる。GaN系半導体を成長させるための成長基板であれば、可視光に対して透光性を有する材料を選択することができるため、透光性部材1を半導体膜5の第1部分5aを成長させるための成長基板として用いることができる。
【0026】
活性領域は、光励起によって第1光を発する。第1光のピーク波長は、例えば605nm~650nmである。波長変換部材10における主たる波長変換は半導体膜5とは異なる波長変換部によって行ってよい。この場合、半導体膜5が発する第1光は、主たる波長変換光の補助として用いることができる。第1光は、例えば演色性の向上に資する光である。第1光は、例えば赤色光である。活性領域がInGaNからなる井戸層を有する場合、InGaNのIn組成比を20~35%とすることができる。活性領域は、希土類元素を添加したGaN系半導体層を有していてもよい。活性領域は、例えば、Euを添加したGaN層を有していてもよい。
【0027】
半導体膜5の第1部分5aの一例を表1に示す。第1下地層が透光性部材1の第1面1Aに最も近い層であり、表1の下から上に向かってこの順に成長させる。半導体膜5の第1部分5aは、表1に示した層以外の層を有していてもよい。例えば、第1下地層と第1面1Aの間にGaN、InGaNまたはAlNからなるバッファ層を設けてよく、活性領域の上にバリア層よりも大きな厚さを有する層を設けてもよい。
【0028】
【0029】
第1下地層および第2下地層を設けることで、その上に成長させる層の結晶性を向上させることができる。第1下地層は不純物を意図的に添加せずに形成するアンドープ層であってよく、第2下地層はSiなどのn型不純物を含有するSiドープ層であってよい。第1下地層および第2下地層の一方または両方を省略してもよい。活性領域の最下層のバリア層を省略し、超格子層の一部をバリア層としてもよい。超格子層は省略してもよい。超格子層のように、励起光を吸収し、デクスター型エネルギー移動またはフェルスター型エネルギー移動によって活性領域を励起することが可能な励起補助層を、活性領域に近接して設けることが好ましい。これにより、励起光のうち励起補助層が無ければ半導体膜5を透過していた光を励起補助層で吸収させることができ、それによって活性領域をさらに励起することができる。したがって、励起補助層を設けない場合と比較して半導体膜5が発する第1光の光強度が増大することが期待できる。励起補助層は超格子層でなくてもよい。励起補助層の発光スペクトルと活性領域の井戸層の吸収スペクトルの重なりが大きいほどエネルギー移動は起こりやすいため、井戸層がInxGa1-xN(0<x)層である場合、励起補助層はInyGa1-yN(y<x)層を含むことが好ましい。
【0030】
活性領域は、量子井戸構造として、井戸層とそれを挟むバリア層を有することができる。表1では1ペアの井戸層及びバリア層を記載したが、これを複数ペア設けることで多重量子井戸構造とすることができる。井戸層及びバリア層を複数ペア設ける場合は、バリア層/井戸層/バリア層/井戸層/バリア層、というように、井戸層と井戸層に挟まれたバリア層は一層のみとしてよい。井戸層のIn組成比が高くなるほどバリア層成長時に井戸層が分解され易くなるため、表1に示すようにキャップ層を設けることが好ましい。キャップ層の厚さはバリア層の厚さよりも小さい。キャップ層のバンドギャップエネルギーは、井戸層のバンドギャップエネルギーより大きく、バリア層のバンドギャップエネルギーより大きくてもよい。キャップ層は、例えばAlGaNからなる。キャップ層はバリア層の一部として機能してもよい。キャップ層は設けなくてもよい。
【0031】
半導体膜5の第2部分5bは、第1部分5aとは別の条件で成長させてもよいが、第1部分5aを成長させる条件と同じ条件で成長させることにより形成してもよい。第2部分5bは、透光性部材1とは異なる光反射性部材3の上に成長させることで、第1部分5aと同じ成長条件であるが、多結晶構造またはアモルファス構造を有する部分とすることができる。この場合、光反射性部材3は、例えばセラミックスや金属のように結晶成長用の基板として適さない材料である。
【0032】
第2部分5bは、第1部分5aのような明確な層構造を有していなくてもよい。第2部分5bは、活性領域として機能する領域が無くてよい。第2部分5bは、多結晶構造の領域とアモルファス構造の領域を含んでいてもよい。第2部分5bの一部は単結晶の領域であってもよい。
【0033】
第2部分5bは、第1部分5aと共通する元素を有することができる。例えば、第1部分5aがGaN層とInGaN層とAlGaN層を有するのであれば、第2部分5bはGaとNとInとAlを含有する。半導体膜5において半導体としての機能が求められるのは第1部分5aであり、第2部分5bは半導体であってもよいが、半導体でなくてもよい。第2部分5bは例えばGa酸化物を含んでいてもよい。第1部分5aの厚さと第2部分5bの厚さは異なっていてもよい。第2部分5bの方が結晶成長し難いことにより、第2部分5bの方が厚さが小さい場合がある。
【0034】
(変形例)
図5~
図7を用いて、波長変換部材10の変形例を説明する。
【0035】
図5は、変形例1に係る波長変換部材10Aの模式的な断面図である。
図5に示すように、透光性部材1の第2面1Bから第1面1Aに向かう方向が第1方向Xであり、透光性部材1の第1面1Aは、光反射性部材3の第3面3Aよりも第1方向Xの側に位置していてもよい。これにより、その上に設ける半導体膜5の第1部分5aおよび第2部分5bも同様の位置関係となるため、光が第1部分5aから第2部分5bへ伝播し難くなり、光の見切り性が向上する。第1方向Xにおける第3面3Aと第1面1Aとの高さの差は、第2部分5bの厚さより大きくてもよい。この場合、第2部分5bは第1部分5aと完全に分断されていてよい。
【0036】
図6は、変形例2に係る波長変換部材10Bの模式的な断面図である。
図6に示すように、波長変換部材10Bは、さらに蛍光体含有部材7を有していてもよい。蛍光体含有部材7は、透光性部材1の第2面1Bの側に配置される。蛍光体含有部材7は、光励起によって第1光とは異なる第2光を発する。これにより、複数種類のピーク波長の光を混合した光を得ることができ、例えば演色性が向上した光を得ることができる。第2光のピーク波長は、第1光のピーク波長とは異なる。第2光のピーク波長は、例えば520nm~560nmである。
【0037】
蛍光体含有部材7は、蛍光体を含有している。蛍光体により光が散乱するため、半導体膜5に入射する光の光密度を低減させることができ、半導体膜5の発熱を低減させることができる。
【0038】
蛍光体含有部材7を設けた後に光反射性部材3や半導体膜5を形成する場合は、それらの形成時の温度で溶融しない材料を用いる。蛍光体含有部材7は、例えば蛍光体を含有するセラミックス(以下、「蛍光体セラミックス」という。)である。蛍光体含有部材7は、実質的に蛍光体のみからなるセラミックスであってもよい。
【0039】
蛍光体セラミックスとしては、蛍光体と無機材料からなる結着剤とを含むものを用いることができる。具体的には、蛍光体としてYAG(Yttrium Aluminum Garnet)系蛍光体を用いて、結着剤として酸化アルミニウムを用いることができる。光反射性部材3として、酸化アルミニウムを主成分として含む材料を用いてもよい。蛍光体含有部材7に含まれる結着剤に光反射性部材3と同じ材料を含むことで、蛍光体含有部材7と光反射性部材3との密着力を向上させることができる。結着剤としては、賦活剤を含まないYAGや、酸化イットリウムを用いてもよい。YAG系蛍光体には、例えばYの少なくとも一部をTbに置換したもの(TAG)や、Yの少なくとも一部をLuに置換したもの(LAG)も含まれる。YAG系蛍光体は、組成中にGdやGa等が含まれるものであってもよい。
【0040】
図7は、変形例3に係る波長変換部材10Cの模式的な断面図である。
図7に示すように、波長変換部材10Cは、透光性部材1を第1透光性部材とし、さらに第2透光性部材9を有していてもよい。第2透光性部材9は、蛍光体含有部材7の透光性部材1が位置する側とは反対の面に配置される。第2透光性部材9の側から励起光を入射させる場合に、励起光の照射による蛍光体含有部材7の発熱を第2透光性部材9によって引くことができる。第2透光性部材9の材料は、第1透光性部材(透光性部材1)の材料とした挙げた群と同じ群から選択することができる。第2透光性部材9として、例えばサファイアを用いることができる。
【0041】
(波長変換部材10の製造方法)
図8は、第1実施形態に係る波長変換部材10の製造方法を示すフローチャートである。
図8に示すように、波長変換部材10の製造方法は、複合体準備工程S101と、半導体膜成長工程S102とを有する。これにより、半導体膜5が形成された波長変換部材10を得ることができる。
【0042】
以下で、波長変換部材10の製造方法に含まれる各工程について説明する。ここで、同一の名称、符号については、上記で説明したものと同一もしくは同質の部材を示しているため、重複した説明は適宜省略する。
【0043】
複合体準備工程S101において、複合体20を準備する。複合体20は、
図3および
図4に示すとおり、透光性部材1と光反射性部材3とを有する。透光性部材1は、第1面1A、第1面1Aと反対側の第2面1B、及び、第1面1Aと第2面1Bを繋ぐ1以上の側面1Cを有する。透光性部材1は、単結晶である。光反射性部材3は、透光性部材1の側面1Cを覆う。光反射性部材3は、第1面1Aに垂直な平面視において第1面1Aを囲む第3面3Aを有し、セラミックスからなる。
【0044】
複合体20は、例えば、特開2017-149929号、特開2019-9406号等に記載の方法により又はそれらの方法に準じた方法等によって製造することができる。この場合、透光性部材1を1つのみ配置してもよいし、透光性部材1を複数配置した後、光反射性部材3を切断して複数の複合体20を得てもよい。
【0045】
複合体20は、例えば、透光性部材1と、透光性部材1を囲む無機材料からなる粉末と、を一体的に成形した成形体を形成し、その成形体を焼結することにより得ることができる。無機材料からなる粉末は、焼結することにより光反射性部材3となる。透光性部材1の光入射面や光出射面となる面が無機材料からなる粉末によって覆われている成形体を形成する場合は、焼結後、光反射性部材3の一部を研磨等によって除去し、透光性部材1の光入射面や光出射面となる面を露出させる。
【0046】
成形体は、スリップキャスト法、ドクターブレード法(シート成形法)、乾式成形法などを用いて成形することができる。焼結は、放電プラズマ焼結法(SPS法:spark plasma sintering法)またはホットプレス焼結法(HPS法:hot pressing sintering法)等を用いることができる。焼結は、1100℃~1800℃の温度範囲で行うことができる。成形体を焼結することによって焼結体を得た後、酸化雰囲気において1000℃~1500℃の温度範囲で熱処理してもよい。
【0047】
複合体20は、蛍光体含有部材7を有していてもよい。蛍光体含有部材7の製造には、例えば、CIP(Cold Isostatic Pressing)、HIP(Hot Isostatic Pressing)等を用いることができる。例えば、蛍光体含有部材7と透光性部材1とを接合することにより接合体を得、その接合体と接合体を囲む無機材料からなる粉末とを一体的に成形した成形体を形成し、その成形体を焼結することにより、蛍光体含有部材7を有する複合体20を形成することができる。
【0048】
蛍光体含有部材7と透光性部材1との接合は、樹脂のような接着剤を用いて行うと、焼結や半導体膜5の成長時の高温環境下において劣化が懸念される。このため、蛍光体含有部材7と透光性部材1との接合は、表面活性化接合法や原子拡散接合法などの直接接合を用いて行うことが好ましい。これにより、接着剤を用いずに部材どうしを直接的に接触させることで接合が可能となるため、半導体膜5を成長させる部材として適している。
【0049】
直接接合を行う場合、接合する面は平坦であることが望ましい。例えば、算術平均粗さが1nm以下の面を接合面とする。蛍光体含有部材7として蛍光体セラミックスのように研磨等によって表面を平坦化することが困難な材料を用いる場合は、蛍光体セラミックスの表面に透光性膜を形成したものを蛍光体含有部材7として用いてもよい。この透光性膜を研磨等によって平坦化することで、算術平均粗さが1nm以下の面を得ることができる。
【0050】
複合体20は、さらに第2透光性部材9を有していてもよい。その場合も、直接接合によって透光性部材1と蛍光体含有部材7と第2透光性部材9とが接合されていることが好ましい。これによって、半導体膜5の成長用として適した複合体20を得ることができる。
【0051】
次に、半導体膜成長工程S102において、透光性部材1の第1面1A及び光反射性部材3の第3面3Aに、半導体膜5を成長させる。半導体膜5は、光励起によって第1光を発する活性領域を含む。透光性部材1の上に半導体膜5を成長させることにより、活性領域を含む第1部分5aを形成することができる。一方で光反射性部材3はセラミックスからなるため、光反射性部材3の上に半導体膜5を成長させることにより、多結晶構造またはアモルファス構造を有する第2部分5bを形成することができる。このように透光性部材1と光反射性部材3の上に半導体膜5を成長させることにより、第1部分5aと第2部分5bを同時に形成することができる。
【0052】
半導体膜5は、有機金属気相成長(MOCVD:metalorganic chemical vapor deposition)法、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、またはスパッタリング法により形成することができる。半導体膜5は、これらの方法を組み合わせて形成してもよい。例えばMOCVD法を用いて半導体膜5を複合体20の上に成長させる。
【0053】
<第2実施形態>
図9を用いて、第2実施形態に係る発光装置100を説明する。
図9は、第2実施形態に係る発光装置の模式的な断面図である。
【0054】
発光装置100は、波長変換部材10と光源30とを有する。波長変換部材10は、第1実施形態に係る波長変換部材10である。光源30は、透光性部材1の第2面1Bに励起光を照射する光源である。半導体膜5の活性領域は、透光性部材1を通過した励起光の照射によって、励起光とは異なる第1光を発する。
【0055】
発光装置100は、半導体膜5の第1部分5aによる波長変換光である第1光を含む光を発することができる。発光装置100が発する光は、光源30が発する励起光を含んでよい。励起光のピーク波長は、第1光のピーク波長とは異なる。励起光のピーク波長は、例えば420nm~480nmである。発光装置100が発する光は、例えば可視光である。発光装置100が発する光は、例えば白色光である。
【0056】
発光装置100は、半導体膜5の第2部分5bが設けられていることにより、光の見切り性を向上させることができる。波長変換部材10の半導体膜5が設けられた側の面を、発光装置100の光取り出し面とすることができる。
【0057】
波長変換部材10は、
図5~
図7に示す波長変換部材10A、10B、10Cのいずれかであってもよい。励起光は、透光性部材1の第2面1Bに直接的に照射されなくてもよい。例えば、波長変換部材10Bまたは10Cのように蛍光体含有部材7が配置されている場合、励起光は、蛍光体含有部材7を通過して、透光性部材1の第2面1Bに照射されてよい。蛍光体含有部材7によって波長変換された光が半導体膜5によってさらに波長変換されてもよい。
【0058】
光源30としては、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)またはレーザダイオード(Laser Diode:LD)が挙げられる。光源30は、例えばLDである。
図9に示すように、光源30は波長変換部材10から離れた位置に配置してよい。これにより、光源30の発熱と波長変換部材10の発熱をそれぞれ別の経路で散らすことができる。光源30は波長変換部材10と接していてもよい。光源30は、LD素子などの発光素子のみから構成することができる。光源30は、発光素子とそれを包囲するパッケージとを有することができる。
【0059】
発光装置100の製造方法は、波長変換部材10を得る工程と、波長変換部材10の透光性部材1の第2面1Bに光源30が発する光が照射されるように波長変換部材10と光源30とを配置する工程と、を有することができる。波長変換部材10を得る工程には、第1実施形態の波長変換部材10の製造方法を用いることができる。
【0060】
以上、実施形態について説明したが、これらの説明によって特許請求の範囲に記載された構成は何ら限定されるものではない。
【0061】
本明細書でこれまで説明してきた内容を通し、以下の技術事項が開示される。
(項1)
第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有する透光性部材と、
前記透光性部材の前記側面を覆い、前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有する光反射性部材と、
前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に設けられた半導体膜と、を有し、
前記半導体膜は、前記第1面に設けられ、光励起によって第1光を発する活性領域を含む第1部分と、前記第3面に設けられ、多結晶構造またはアモルファス構造を有する第2部分と、を有する波長変換部材。
(項2)
前記半導体膜の前記活性領域は、量子井戸構造を有する、項1に記載の波長変換部材。
(項3)
前記半導体膜の前記活性領域は、InGaNからなる井戸層を有する、項2に記載の波長変換部材。
(項4)
前記透光性部材は、サファイアからなる、項1乃至3のいずれか1つに記載の波長変換部材。
(項5)
前記第1光のピーク波長は、605nm~650nmである、項1乃至4のいずれか1つに記載の波長変換部材。
(項6)
前記第2面から前記第1面に向かう方向が第1方向であり、
前記透光性部材の前記第1面は、前記光反射性部材の前記第3面よりも前記第1方向の側に位置している、項1乃至5のいずれか1つに記載の波長変換部材。
(項7)
前記透光性部材の前記第2面の側に配置され、光励起によって前記第1光とは異なる第2光を発する蛍光体含有部材を備える、項1乃至6のいずれか1つに記載の波長変換部材。
(項8)
前記第2光のピーク波長は、520nm~560nmである、項7に記載の波長変換部材。
(項9)
項1乃至8のいずれか1つに記載の波長変換部材と、
前記透光性部材の前記第2面に励起光を照射する光源と、を備え、
前記半導体膜の前記活性領域は、前記透光性部材を通過した前記励起光の照射によって、前記励起光とは異なる前記第1光を発する、発光装置。
(項10)
第1面、前記第1面と反対側の第2面、及び、前記第1面と前記第2面を繋ぐ1以上の側面を有し、且つ単結晶である透光性部材と、前記透光性部材の前記側面を覆い、且つ前記第1面に垂直な平面視において前記第1面を囲む第3面を有し、且つセラミックスからなる光反射性部材と、を有する複合体を準備する工程と、
前記透光性部材の前記第1面及び前記光反射性部材の前記第3面に、光励起によって第1光を発する活性領域を含む半導体膜を成長させる工程と、
を備える波長変換部材の製造方法。
【符号の説明】
【0062】
1 透光性部材
1A 第1面
1B 第2面
1C 側面
3 光反射性部材
3A 第3面
5 半導体膜
5a 第1部分
5b 第2部分
7 蛍光体含有部材
9 第2透光性部材
10、10A、10B、10C 波長変換部材
20 複合体
30 光源
100 発光装置