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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172024
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20231129BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083569
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】國本 晃平
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CF02
4H001XA03
4H001XA07
4H001XA11
4H001XA12
4H001XA13
4H001XA19
4H001XA20
4H001XA38
4H001XA56
4H001YA25
4H001YA58
4H001YA63
4H001YA65
(57)【要約】
【課題】窒化物蛍光体の収率が高い製造方法を提供する。
【解決手段】 Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、Nとを含む原料混合物を準備することと、金属るつぼの底面に窒化物を含む敷粉を配置することと、前記敷粉の上に前記原料混合物を配置することと、前記敷粉の上に配置された前記原料混合物を800℃以上1300℃以下の範囲内の温度で熱処理することと、前記熱処理により得られた熱処理物を前記金属るつぼから取り出して窒化物蛍光体を得ること、を含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、Nとを含む原料混合物を準備することと、
金属るつぼの底面に窒化物を含む敷粉を配置することと、
前記敷粉の上に前記原料混合物を配置することと、
前記敷粉の上に配置された前記原料混合物を800℃以上1300℃以下の範囲内の温度で熱処理することと、
前記熱処理により得られた熱処理物を前記金属るつぼから取り出して窒化物蛍光体を得ること、を含む、窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記金属るつぼの底面に前記敷粉を配置する際に、前記敷粉が、AlN及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記金属るつぼが、Mo、W、Nb、Ta及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記敷粉を配置する際に、前記金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度が、0.3g/cm以上である、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理をする際に、前記熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む雰囲気である、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理をする際に、前記熱処理の圧力が0.2MPa以上200MPa以下である、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物を準備する際に、前記原料混合物の仕込み組成が、下記式(I)で表される組成を有する、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
Al (I)
(前記式(I)中、v、w、x、及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、1.5≦z≦5.0を満たす数である。)
【請求項8】
前記元素Mが少なくともSrを含み、前記元素Mが少なくともLiを含む、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記敷粉の上に前記原料混合物を配置する際に、前記敷粉の上に配置された前記原料混合物の密度が0.10g/cm以上0.90g/cm以下の範囲内である、請求項1に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)を備えた発光装置に用いられる蛍光体として、SrLiAl:Euで表される組成を有する、赤色に発光する窒化物蛍光体が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、原料の化合物を特定のモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢と乳棒を用いて混合し、混合した原料を管状炉に仕込み、900℃で焼成して、SrLiAl:Euで表される組成を有する蛍光体を得たことが開示されている。また、特許文献2には、原料混合物を蓋付きの円筒形BN製容器に充填し、電気炉で、1200℃で焼成して、例えばSr0.959Li1.023Eu0.003Al3.850.15で表される組成を有する蛍光体を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-109124号公報
【特許文献2】国際公開第2019/188377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、より高い収率で目的とする組成を有する窒化物蛍光体が得られる窒化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、Nとを含む原料混合物を準備することと、金属るつぼの底面に窒化物を含む敷粉を配置することと、前記敷粉の上に前記原料混合物を配置することと、前記敷粉の上に配置された前記原料混合物を800℃以上1300℃以下の範囲内の温度で熱処理することと、前記熱処理により得られた熱処理物を金属るつぼから取り出して窒化物蛍光体を得ること、を含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、より高い収率で目的とする組成を有する窒化物蛍光体が得られる窒化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】窒化物蛍光体の製造方法の一態様を示すフローチャートである。
図2】実施例に係り、熱処理後の金属るつぼ内の状態を示す模式的断面図である。
図3】実施例に係り、熱処理後の金属るつぼ内の窒化物蛍光体を示す外観写真である。
図4】比較例に係り、熱処理後のセラミックスるつぼ内の状態を示す模式的断面図である。
図5】比較例に係り、熱処理後のセラミックスるつぼ内の窒化物蛍光体を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る窒化物蛍光体の製造方法の一実施態様を説明する。ただし、以下に示す実施態様は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の窒化物蛍光体の製造方法に限定されない。
【0010】
窒化物蛍光体の製造方法
以下、図1を参照にして、窒化物蛍光体の製造方法を説明する。図1は、窒化物蛍光体の製造方法の一態様を示すフローチャートである。窒化物蛍光体の製造方法は、原料混合物を準備することS101、敷粉を配置することS102、敷粉の上に原料混合物を配置することS103、熱処理をすることS104、及び窒化物蛍光体を得ることS105を含む。
【0011】
原料混合物を準備すること
窒化物蛍光体の製造方法は、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、Nとを含む原料混合物を準備することを含む。
【0012】
原料混合物を準備する際に、原料混合物の仕込み組成が、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
Al (I)
前記式(I)中、v、w、x、及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、1.5≦z≦5.0を満たす。元素Mが少なくともSrを含み、元素Mが少なくともLiを含むことが好ましい。前記式(I)中、xは、0.001<x≦0.020を満たすことがより好ましく、0.002≦x≦0.015を満たすことがさらに好ましい。
【0013】
原料混合物は、元素M、元素M、元素M又はAlを構成する金属元素の単体及びそれらの元素を含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。元素M、元素M、元素M又はAlを含む化合物は、少なくとも1種以上が窒化物であることが好ましい。
【0014】
元素Mを含むM化合物は、元素Mを含む窒化物、水素化物及びフッ化物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。M化合物は、具体的に、SrN、SrN、Sr、SrH、SrF、Ca、CaH、CaF、Ba、BaH、BaF、Mg、MgH、MgFを挙げることができる。SrFを原料として用いる場合は、M化合物としてだけでなく後述するフラックスとして機能させることもできる。M化合物は、イミド化合物、アミド化合物等の化合物を使用することもできる。
【0015】
元素Mを含むM化合物は、少なくともLiを含むことが好ましく、Liの窒化物、水素化物、アミド化合物及びイミド化合物から成る群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。M化合物がLiを含む場合、Liの一部がNa及び/又はKで置換されていてもよく、窒化物蛍光体を構成する他の金属元素を含んでいてもよい。元素MがLiである場合、M化合物は、具体的に、LiN、LiN、LiH、LiAlH、LiNH、LiNH等を挙げることができる。
【0016】
元素Mを含むM化合物は、賦活剤としてのEu、Ce、Tb及びMnを含み、元素Mを含む水素化物、酸化物、窒化物又はフッ化物が挙げられる。元素MがEuの場合、M化合物は、具体的に、EuH(tはEuイオンの電荷の絶対値である。)、Eu、EuN、EuFを挙げることができる。
【0017】
Alを含むAl化合物は、化合物に含まれる金属元素が実質的にAlのみの化合物であってもよく、Alの一部が第13族元素のGa及びIn、並びに第4周期の遷移元素のV、Cr及びCo等からなる群から選択された元素で置換された化合物であってもよく、Alに加えてLi等の窒化物蛍光体を構成するAl以外の元素を含む金属化合物であってもよい。Al化合物は、具体的に、AlN、AlH、AlF、LiAlHを挙げることができる。
【0018】
原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、各化合物の反応がより促進され、さらには固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた窒化物蛍光体を得るために用いる焼成物を製造することができる。フラックスは、希土類金属元素、アルカリ土類金属元素及びアルカリ金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むハロゲン化物を用いることができる。フラックスは、得られる熱処理物の目的組成の元素の一部になるように加えることもでき、得られる熱処理物の目的組成となるように計量された原料混合物に更に添加する形で加えることもできる。フラックスは、例えばLiF、LiCl等を用いることができる。
【0019】
原料となる各化合物は、例えば不活性雰囲気のグローブボックス内で計量した後、混合して原料混合物を得る。
【0020】
敷粉を配置すること
窒化物蛍光体の製造方法は、金属るつぼの底面に窒化物を含む敷粉を配置することを含む。元素Mや元素Mを含む化合物は、後述する熱処理の温度よりも化合物の融点が低い化合物が多く、原料混合物中から、元素Mや元素Mが飛散して、金属るつぼと反応しやすい。金属るつぼの底面に敷粉を配置することによって、後の熱処理する工程において、原料混合物中に含まれる元素と金属るつぼの反応が抑制され、高い収率で目的とする組成を有する窒化物蛍光体を得ることができる。
【0021】
金属るつぼは、耐熱性及び汎用性を考慮して、Mo、W、Nb、Ta及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。金属るつぼは、1種の金属からなるものであってもよく、2種以上の金属を含む合金からなるものであってもよい。金属るつぼの容量は特に限定されない。金属るつぼの容量は、100mL以上5000mL以下が挙げられる。金属るつぼは、金属るつぼの底部を保護するために底板が配置されているものであってもよい。底板は、金属るつぼに含まれる金属と同一の金属を含むものであってもよく、金属るつぼに含まれる金属とは異なる、Mo、W、Nb、Ta及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。底板は、1種の金属からなるものであってもよく、2種以上の金属を含む合金からなるものであってもよい。
【0022】
金属るつぼの底面に敷粉を配置する際に、敷粉がAlN及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。敷粉がAlN及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、敷粉が窒化物蛍光体の組成を構成する元素である窒素及び/又はAlを含むため、敷粉によって窒化物蛍光体を構成する原料混合物と金属るつぼとの反応がより抑制され、より高い収率で目的とする組成を有する窒化物蛍光体を得ることができる。敷粉は、AlNが100質量%のものであってもよく、Siが100質量%のものであってもよい。敷粉は、AlN及びSiの両方を含んでいてもよい。敷粉に含まれるAlNとSiの質量比は、1:99以上99:1以下の範囲内であってもよく、10:90以上90:10以下の範囲内であってもよい。敷粉がAlN及びSiの両方を含む場合は、AlNとSiの合計量が100質量%であることが好ましい。敷粉は、原料混合物と金属るつぼの反応をより抑制するため、Siよりも融点の高いAlNを少なくとも含むことがさらに好ましい。
【0023】
敷粉を配置する際に、金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度は0.3g/cm以上であることが好ましく、0.5g/cm以上であることがより好ましく、0.7g/cm以上であることがさらに好ましい。金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度が0.7g/cm以上であれば、原料混合物と金属るつぼの反応がより抑制され、目的とする組成を有する窒化物蛍光体の収率を向上することができる。金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度の上限値は特に制限されないが、簡便に敷粉を配置するために、金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度は5.0g/cm以下であってもよく、2.0g/cm以下であってもよく、1.0g/cm以下であってもよい。
【0024】
敷粉を配置する際に、金属るつぼの底面に配置された敷粉は、金属るつぼの底面から敷粉の表面まで厚みが1mm以上であれば、2mm以上であってもよく、3mm以上であってもよい。金属るつぼの底面に配置された敷粉の厚みは、敷粉上に配置する原料混合物の体積を考慮して、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。
【0025】
敷粉の上に原料混合物を配置すること
窒化物蛍光体の製造方法は、敷粉の上に原料混合物を配置することを含む。敷粉の上に原料混合物を配置することによって、原料混合物と金属るつぼが底面において接触することなく、後の熱処理する工程において、原料混合物中に含まれる元素と金属るつぼの反応が抑制され、高い収率で目的とする組成を有する窒化物蛍光体を得ることができる。
【0026】
敷粉の上に原料混合物を配置する際に、敷粉の上に配置された原料混合物は、その密度が0.10g/cm以上0.90g/cm以下の範囲内であることが好ましく、0.15g/cm以上0.95g/cm以下の範囲内であることがより好ましく、0.20g/cm以上0.80g/cm以下の範囲内であることがさらに好ましい。敷粉の上に配置された原料混合物の密度が0.10g/cm以上0.90g/cm以下の範囲内であると、後の熱処理する工程において、金属るつぼの内側面から原料混合物が熱処理された熱処理物が離れるように収縮し、原料混合物と金属るつぼの反応がより抑制される。
【0027】
熱処理すること
窒化物蛍光体の製造方法は、敷粉の上に配置された原料混合物を800℃以上1300℃以下の範囲内の温度で熱処理することを、含む。原料混合物を熱処理することによって、目的とする組成を有する窒化物蛍光体を得ることができる。熱処理の温度は、900℃以上1300℃以下の範囲内であってもよく、1000℃以上1300℃以下の範囲内であってもよく、1100℃以上1300℃以下の範囲内であってもよい。熱処理温度が低いと、目的とする組成を有する窒化物蛍光体が形成されにくい。また、熱処理温度が高いと、形成された窒化物蛍光体が分解し、発光特性が損なわれる場合がある。熱処理は、800℃以上1000℃以下で1段階目の熱処理を行い、徐々に昇温して1000℃以上1300℃以下で2段階目の熱処理を行う2段階の熱処理(多段階の熱処理)を行ってもよい。
【0028】
熱処理をする際に、熱処理する雰囲気は、窒素ガスを含む雰囲気であることが好ましく、窒素ガスに加えて水素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、及びアンモニア等からなる群から選択される少なくとも1種を含む雰囲気とすることもできる。熱処理する雰囲気における窒素ガスの含有率は、70体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、100体積%であってもよい。
【0029】
熱処理する際に、熱処理する雰囲気は、0.2MPa以上200MPa以下の加圧雰囲気で行うことが好ましい。目的とする組成を有する窒化物蛍光体は、熱処理する温度が高くなるほど分解し易くなるが、加圧雰囲気にすることにより、得られる窒化物蛍光体の分解が抑えられる。加圧雰囲気は、ゲージ圧として、0.2MPa以上1.0MPa以下の範囲内であることがより好ましく、0.8MPa以上1.0MPa以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0030】
熱処理する時間は、熱処理する温度、ガス圧力等に応じて適宜選択すればよい。熱処理する時間は、例えば0.5時間以上20時間以内であり、1時間以上10時間以内であってもよい。
【0031】
窒化物蛍光体を得ること
窒化物蛍光体の製造方法は、熱処理により得られた熱処理物を金属るつぼから取り出して、窒化物蛍光体を得ることを含む。窒化物蛍光体の製造方法は、金属るつぼから取り出した熱処理物を粉砕する工程を含んでいてもよく、粉砕した熱処理物を分級して、窒化物蛍光体を得る工程を含んでいてもよい。
【0032】
熱処理物は、粉砕機を用いて粉砕してもよい。熱処理物の粉砕は、例えばボールミル、振動ミル、ハンマーミル、ロールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機を用いて行ってもよい。また、熱処理物の粉砕は、乳鉢と乳棒等を用いて行ってもよい。
【0033】
熱処理物は、粉砕前に分級を行ってもよく、粉砕後に分級を行ってもよい。分級によって、目的とする大きさを有する窒化物蛍光体が得られる。熱処理物の分級は、篩い分け、溶液中での重力による沈降分級、遠心分離等によって行ってもよい。
【0034】
得られる窒化物蛍光体は、下記式(II)で表される組成を有することが好ましい。
Al (II)
(前記式(II)中、Mは、Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、1.5≦z≦5.0を満たす。)
【0035】
得られた窒化物蛍光体の平均粒径は、4.0μm以上であり、好ましくは4.5μm以上、より好ましくは5.0μm以上である。得られた窒化物蛍光体の平均粒径は、30.0μm以下であり、好ましくは25.0μm以下である。窒化物蛍光体の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばMASTER SIZER2000、MALVERN社製)により測定される体積基準の粒度分布における累積50%の粒径(メジアン径)である。
【0036】
得られた窒化物蛍光体は、励起光源を備えた発光装置の波長変換部材の構成要素として用いることができる。
本開示に係る発明は以下の態様を包含する。
[1項]
Sr、Ca、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素Mと、Alと、Nとを含む原料混合物を準備することと、
金属るつぼの底面に窒化物を含む敷粉を配置することと、
前記敷粉の上に前記原料混合物を配置することと、
前記敷粉の上に配置された前記原料混合物を800℃以上1300℃以下の範囲内の温度で熱処理することと、
前記熱処理により得られた熱処理物を前記金属るつぼから取り出して窒化物蛍光体を得ること、を含む、窒化物蛍光体の製造方法。
[2項]
前記金属るつぼの底面に前記敷粉を配置する際に、前記敷粉が、AlN及びSiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[3項]
前記金属るつぼが、Mo、W、Nb、Ta及びNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む、1項又は2項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[4項]
前記敷粉を配置する際に、前記金属るつぼの底面に配置された敷粉の密度が、0.3g/cm以上である、1項から3項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[5項]
前記熱処理をする際に、前記熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む雰囲気である、1項から4項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[6項]
前記熱処理をする際に、前記熱処理の圧力が0.2MPa以上200MPa以下である、1項から5項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[7項]
前記原料混合物を準備する際に、前記原料混合物の仕込み組成が、下記式(I)で表される組成を有する、1項から6項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
Al (I)
(前記式(I)中、v、w、x、及びzは、それぞれ0.8≦v≦1.2、0.5≦w≦1.8、0.001<x≦0.1、1.5≦z≦5.0を満たす数である。)
[8項]
前記元素Mが少なくともSrを含み、前記元素Mが少なくともLiを含む、1項から7項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
[9項]
前記敷粉の上に前記原料混合物を配置する際に、前記敷粉の上に配置された前記原料混合物の密度が0.10g/cm以上0.90g/cm以下の範囲内である、1項から8項のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体の製造方法。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
原料混合物を準備すること
Alで表される組成を有し、元素MがSrであり、元素MがLi、MがEuである原料混合物を準備した。具体的には、Srと、AlNと、LiNHと、EuH(tはEuイオンの電荷の絶対値)の各化合物を用いた。各元素がモル比で、Sr:Li:Al:Eu=1.191:1.175:3:0.0075となるように不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で計量し、さらに、フラックスとしてLiFを、前述の各化合物の合計量100質量%に対して5質量%添加し、混合して原料混合物を準備した。
【0039】
敷粉を配置すること
金属るつぼは、Moを含む、モリブデン製の金属るつぼを用いた。金属るつぼは、内径が117mm、頂部から底面までの高さが50mmであり、容量が537.3mLの円筒形状のものを用いた。金属るつぼを保護するために、直径115mm、厚み1mmのMoを含む、モリブデン製の底板を配置した。金属るつぼの底面の底板の上に、AlNを100質量%含む敷粉を20g、密度が0.93g/cm、厚みが2mmとなるように配置した。
【0040】
敷粉の上に原料混合物を配置すること
前述の敷粉の上に前述の原料混合物を315g、密度が0.64g/cm、厚みが46mmとなるように配置した。
【0041】
熱処理すること
金属るつぼの開口部に、Moを含むモリブデン製の蓋をして、電気炉中に、原料混合物を入れた金属るつぼを配置した。ゲージ圧で0.92MPaの窒素雰囲気(窒素の含有量が99体積%以上)で、1050℃、3時間熱処理を行った。
【0042】
窒化物蛍光体を得ること
得られた熱処理物を金属るつぼから取り出し、乳鉢と乳棒を用いて熱処理物を粉砕し、エタノール中で分散、分級、乾燥して、SrLiEuAlで表される組成を有する窒化物蛍光体を得た。SrLiEuAlで表される組成中、v、w及びxは、例えばvが1.02であり、wが1.19であり、xが0.007であり、zは1.5≦z≦5.0を満たしていた。
【0043】
実施例2
敷粉を配置する際に、AlNを100質量%含む敷粉を40g、厚みが4mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化物蛍光体を得た。
【0044】
実施例3
敷粉を配置する際に、AlNを80質量%とSiを20質量%含む敷粉を40g、厚みが4mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化物蛍光体を得た。
【0045】
実施例4
敷粉を配置する際に、AlNを50質量%とSiを50質量%含む敷粉を40g、厚みが4mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化物蛍光体を得た。
【0046】
実施例5
敷粉を配置する際に、Siを100質量%含む敷粉を40g、厚みが4mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化物蛍光体を得た。
【0047】
比較例1
敷粉を配置せずに、底板の上に原料混合物を配置したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化物蛍光体を得た。
【0048】
比較例2
るつぼは、Alを含む酸化アルミニウム(Al)製のセラミックスるつぼを用いた。セラミックスるつぼは、頂部における内径が100mm、頂部から底面までの高さが95mmであり、容量が725mLの椀状のものを用いた。底板は配置しなかった。敷粉を配置することなく、るつぼの底面の上に前述の原料混合物を800g、密度が1.1g/cm、厚みが93mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0049】
評価
以下の評価を行った。結果を表1に示す。表1中、「-」の記号は該当する数値がないことを表す。
【0050】
密度(g/cm
敷粉及び原料混合物の密度は、敷粉又は原料混合物の質量(g)、厚み(mm)から算出した。
【0051】
Mo含有量(質量ppm)
各窒化物蛍光体、熱処理物及び敷粉について、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Perkin Elmer社製)を用いてMo含有率の分析を行い、窒化物蛍光体、熱処理物及び敷個に対する含有量(Mo含有量)を求めた。表1中、「<10」、「<20」とあるのは、それぞれ「10質量ppm未満」、「20質量ppm未満」であることを表す。
【0052】
窒化物蛍光体の収率(%)
熱処理物の収率を、敷粉の上に設置した原料混合物の質量を100とした時の、熱処理物の質量を質量比率として算出した。次に、得られた熱処理物の質量を100とした時の窒化物蛍光体の質量を質量比率として、窒化物蛍光体の収率を算出した。
【0053】
窒化物蛍光体の平均粒径(μm)
各窒化物蛍光体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(MASTER SIZER2000、MALVERN社製)により測定した体積基準の粒度分布における累積50%の粒径を平均粒径として測定した。
【0054】
窒化物蛍光体の相対発光強度(%)
各窒化物蛍光体について、分光蛍光光度計(QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、発光ピーク波長が450nmである励起光を照射し、発光スペクトルを測定した。測定した発光スペクトルから各窒化物蛍光体の相対発光強度(%)を求めた。相対発光強度(%)は、比較例1の窒化物蛍光体の相対発光強度を100%として算出した。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1から5に係る製造方法によれば、比較例1及び2に係る製造方法よりも、高い収率で窒化物蛍光体が得られた。実施例1から5に係る製造方法で得られた窒化物蛍光体は、相対発光強度が比較例1に係る製造方法で得られた窒化物蛍光体よりも高くなった。実施例1から5に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体と、比較例1及び2に係る製造方法によって得られた窒化物蛍光体とでは、窒化物蛍光体の平均粒径に大きな変化はなかった。
【0057】
実施例1から3に係る製造方法において、金属るつぼの底面に配置したAlNを80質量%以上含む敷粉には、300質量ppm以上のMoが含まれていた。AlNを80質量%以上含む敷粉は、原料混合物よりも敷粉中の成分の方が優先的にMoと反応し、敷粉の上に配置した原料混合物とモリブデン製のるつぼとの反応が抑制され、高い収率で窒化物蛍光体が得られたと推測された。実施例4から5に係る製造方法において、金属るつぼの底面に配置したSiを50質量%以上含む敷粉には、Moの含有量が20質量ppm未満であった。Siを50質量%以上含む敷粉は、金属るつぼと原料混合物の間に配置されていることによって、原料混合物と金属るつぼの反応を抑制していると推測された。
【0058】
図2は、実施例1に係る製造方法において、熱処理後の金属るつぼ10内の状態を示す模式的断面図である。説明の便宜上、図2及び図4における、各部材の形態、大きさ、厚み等は単なる例示であり、誇張して記載している部分もある。金属るつぼ10の形態は円筒形に限定されない。モリブデン製の金属るつぼ10の底面10aには、底板11が配置され、底板11の上には、敷粉30が配置された。敷粉30の上に配置された原料混合物を熱処理することによって得られた熱処理物40は、原料混合物の密度が0.64g/cmと小さいため、熱処理によって収縮し、熱処理物40全体の側面が金属るつぼ10の内側面10bから離れており、熱処理物40全体の底面のみ金属るつぼ10と接触していた。図2において、金属るつぼ10の開口部は、モリブデン製の蓋体12によって閉塞された状態を示す。
【0059】
図3は、実施例1に係る製造方法において、熱処理後の金属るつぼ内の上面視の外観写真である。金属るつぼ内の熱処理物は、色むらのない赤色であった。また、金属るつぼと、熱処理物の間には隙間が確認できた。
【0060】
図4は、比較例2に係る製造方法において、熱処理後のセラミックスるつぼ20内の状態を示す模式的断面図である。酸化アルミニウム製のセラミックスるつぼ20の底面20aには、底板及び敷粉を配置することなく、底面20a及び内側面20bに接触して配置された原料混合物が熱処理された熱処理物50が配置されている。熱処理物50は、原料混合物の密度が1.10g/cmであり、セラミックスるつぼ20と反応するため、セラミックスるつぼ20に接触した状態であった。熱処理物50は、セラミックスるつぼ20と接触している部分、及びセラミックスるつぼ20と接触していない上面においても茶色に変色した部分50aが存在した。図4において、セラミックスるつぼ20の開口部は、酸化アルミニウム製の蓋体22によって閉塞された状態を示す。
【0061】
図5は、比較例2に係る製造方法において、熱処理後のセラミックスるつぼ内の上面視の外観写真である。セラミックスるつぼ内の熱処理物は、中央部分とセラミックスるつぼに近い周囲の部分で色むらがあり、セラミックスるつぼに近い周囲の部分は茶色に変色していた。得られた窒化物蛍光体の茶色に変色した部分は、目的の組成と異なるか、発光効率が低下している可能性がある。そのため、窒化物蛍光体の茶色に変色した部分を除去する必要があり、そのため窒化物蛍光体の製造方法における作業性が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造された窒化物蛍光体は、励起光源から発する光の波長を変換する波長変換体として発光装置に用いることができる。本発明の一態様に係る製造方法によって製造された窒化物蛍光体を用いた発光装置は、照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
10:金属るつぼ、10a:底面、10b:内側面、20:セラミックスるつぼ、20a:底面、20b:内側面、11:底板、12、22:蓋体、30:敷粉、40、50:熱処理物。
図1
図2
図3
図4
図5