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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172173
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】金型低汚染性シリコーンゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231129BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083798
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】首藤 重揮
(72)【発明者】
【氏名】飯野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 野歩
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP04Y
4J002CP04Z
4J002CP12W
4J002CP12X
4J002CP13W
4J002CP13X
4J002CP14W
4J002CP14X
4J002DD076
4J002EX007
4J002EZ006
4J002FD146
4J002FD147
4J002GP00
4J002GP01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一次加硫の連続成形後でも、金型汚れが抑制される付加硬化性シリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】付加硬化性シリコーンゴム組成物であって、(A)R SiO1/2単位とSiO4/2単位を有し、SiO4/2単位に対するR SiO1/2単位のモル比が0.5~1.5であり、アルケニル基含有である三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン、(B)ケイ素原子と結合するアルケニル基を1分子中に2個以上有する、直鎖状オルガノポリシロキサン、(C)下記一般式(1)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、

(式中、Rはアルキル基であり、Rはアルキル基もしくは水素原子である)、(D)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、1分子中に1~3個のフェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(E)付加反応触媒を含有するものである金型低汚染性シリコーンゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加硬化性シリコーンゴム組成物であって、
(A)R SiO1/2単位(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基である)とSiO4/2単位を有し、SiO4/2単位(Q単位)に対するR SiO1/2単位(M単位)のモル比[M/Q]が0.5~1.5であり、アルケニル基含有量が1×10-4~5×10-3mol/gである三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン:100質量部
(B)ケイ素原子と結合するアルケニル基を1分子中に2個以上有する、23℃で液状の直鎖状オルガノポリシロキサン:50~250質量部、
(C)下記一般式(1)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化1】
(式中、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基であり、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基もしくは水素原子であり、zは8以上の整数であり、yは0~150の整数であり、0.40≦z/(y+z)≦1.0であり、かつ1分子中のヒドロシリル基の数が10個以上である)
:組成物中の、全アルケニル基のモル数(Vi)に対する全ヒドロシリル基のモル数(H)の比(H/Vi)が1.0~1.5に相当する量
(D)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、1分子中に1~3個のフェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し0.1~5質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量
を含有するものであることを特徴とする金型低汚染性シリコーンゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型低汚染性シリコーンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDライトや各種液晶モニター画面の耐候性や光導波路の向上等のため、高硬度で高透明なシリコーン系樹脂が注目され、中でもシリカを全く含まず、高透明で、低温でも弾性を損なわず、熱硬化による成形も比較的容易な付加硬化性シリコーンゴム硬化物が採用されるようになった(特許文献1~4)。
【0003】
一般的に、LEDライト等の集光レンズとして使用されるシリコーンゴムは高硬度が求められている。このようなシリコーンゴムの成形方法は、まず、金型を用いた一次加硫を行い、次いで物性を安定させたり、硬化物中の揮発成分を除去したりする目的で、高温の乾燥機(オーブン)を用いて二次加硫を行っている。しかし、補強性シリカを含まない高硬度シリコーンゴムの場合、一次加硫の連続成形後、金型から硬化物を取り出すと金型汚れが発生し、その汚れによって、硬化物の平均表面粗さが大きくなる問題があった。硬化物の平均表面粗さがある基準数値を超えると光の拡散又は光の漏れが発生し、輝度が低下するという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-174233号公報
【特許文献2】特開2010-174234号公報
【特許文献3】国際公開第2016/098883号
【特許文献4】国際公開第2016/098884号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を改善するためになされたもので、一次加硫の連続成形後でも、金型汚れが抑制される付加硬化性シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。また、多数個を連続成型した後でも、硬化物の平均表面粗さが低減された状態を維持し、透明性の高い硬化物を与えるシリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、
付加硬化性シリコーンゴム組成物であって、
(A)R SiO1/2単位(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基である)とSiO4/2単位を有し、SiO4/2単位(Q単位)に対するR SiO1/2単位(M単位)のモル比[M/Q]が0.5~1.5であり、アルケニル基含有量が1×10-4~5×10-3mol/gである三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン:100質量部
(B)ケイ素原子と結合するアルケニル基を1分子中に2個以上有する、23℃で液状の直鎖状オルガノポリシロキサン:50~250質量部、
(C)下記一般式(1)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化1】
(式中、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基であり、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基もしくは水素原子であり、zは8以上の整数であり、yは0~150の整数であり、0.40≦z/(y+z)≦1.0であり、かつ1分子中のヒドロシリル基の数が10個以上である)
:組成物中の、全アルケニル基のモル数(Vi)に対する全ヒドロシリル基のモル数(H)の比(H/Vi)が1.0~1.5に相当する量
(D)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、1分子中に1~3個のフェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し0.1~5質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量
を含有するものである金型低汚染性シリコーンゴム組成物を提供する。
【0007】
このようなシリコーンゴム組成物であれば、多数個成型した後の硬化物であっても、平均表面粗さが0.15μm以下を維持できる。従って、連続成型しても輝度低下が少なく、透明性の高い硬化物を与えることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一次加硫後で切断時伸び率が200%以上であり、一次加硫の連続成形後であっても金型汚れが抑制された付加硬化性シリコーンゴム組成物が得られる。それゆえ、多数個を連続して成型した後の硬化物であっても、平均表面粗さが0.15μm以下を維持できる。従って、連続成型しても輝度低下が少なく、透明性の高い硬化物を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定のアルケニル基含有シリコーンレジンとアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンとヒドロシリル基含有率が高いオルガノハイドロジェンシロキサン、フェニル基を含有する特定のオルガノハイドロジェンシロキサンを適当な比率で使用し、一次加硫後の硬化物の切断時伸びを200%以上とすることができ、一次加硫の連続成形後、金型汚れが抑制され、金型からの取り出した硬化物の平均表面粗さが0.15μm以下である透明性の高い硬化物を与えるシリコーンゴム組成物が得られる事を見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
上記知見は、種々の材料検討から、一次加硫後の硬化物の切断時伸びが200%以上であると、金型からの取り出しが容易であり、硬化物の平均表面粗さが0.15μm以下であると光の拡散や漏れが防止できて、輝度変化の少ない透明性の高い硬化物であると判明したことにより、得られたものである。
【0011】
即ち、本発明は、
付加硬化性シリコーンゴム組成物であって、
(A)R SiO1/2単位(式中、Rは独立して炭素数1~10の1価炭化水素基である)とSiO4/2単位を有し、SiO4/2単位(Q単位)に対するR SiO1/2単位(M単位)のモル比[M/Q]が0.5~1.5であり、アルケニル基含有量が1×10-4~5×10-3mol/gである三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン:100質量部
(B)ケイ素原子と結合するアルケニル基を1分子中に2個以上有する、23℃で液状の直鎖状オルガノポリシロキサン:50~250質量部、
(C)下記一般式(1)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化2】
(式中、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基であり、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基もしくは水素原子であり、zは8以上の整数であり、yは0~150の整数であり、0.40≦z/(y+z)≦1.0であり、かつ1分子中のヒドロシリル基の数が10個以上である)
:組成物中の、全アルケニル基のモル数(Vi)に対する全ヒドロシリル基のモル数(H)の比(H/Vi)が1.0~1.5に相当する量
(D)1分子中にヒドロシリル基を2個以上有し、1分子中に1~3個のフェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し0.1~5質量部、
(E)付加反応触媒:触媒量
を含有するものである金型低汚染性シリコーンゴム組成物である。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
<付加硬化性シリコーンゴム組成物(金型低汚染性シリコーンゴム組成物)>
本発明の金型低汚染性シリコーンゴム組成物は、付加硬化性シリコーンゴム組成物である。本発明の付加硬化性シリコーンゴム組成物は、下記(A)~(E)成分を含むことを特徴とする。上記付加硬化性シリコーンゴム組成物は、液状であることが好ましい。
【0014】
(A)アルケニル基含有シリコーンレジン(三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン)
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンレジン(三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン、樹脂質共重合体)は、R SiO1/2単位及びSiO4/2単位を主成分として含有する三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジンである。上記(A)成分としては、25℃で固体であることが好ましい。
【0015】
は、互いに独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、炭素数1~8が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
【0016】
上記(A)成分のアルケニル基含有三次元網状構造オルガノポリシロキサンレジン(樹脂質共重合体)は、上記R SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなるものであってもよく、また必要に応じ、R SiO2/2単位やRSiO3/2単位(Rは上記の通り)を含んでもよい。
【0017】
SiO4/2単位(Q単位)に対するR SiO1/2単位(M単位)のモル比[M/Q]は0.5~1.5であり、好ましくは、0.5~1.3である。このモル比が0.5より小さいとゴムのタック力が大きくなり、1.5より大きいと相溶性が低下し、配合が困難になってしまう。
【0018】
上記R SiO2/2単位及び上記RSiO3/2単位は、これらの合計量として、共重合体全体に対して50質量%以下(0~50質量%)、好ましくは40質量%以下(0~40質量%)、より好ましくは30質量%以下(0~30質量%)の範囲で含んでよい。中でも、(CHSiO1/2単位、(CH=CH)(CHSiO1/2単位、SiO4/2単位の共重合体が好ましい。
【0019】
更に上記(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンレジンは、アルケニル基の量が、1×10-4~5×10-3モル/gであり、好ましくは2×10-4~3×10-3モル/g、より好ましくは3×10-4~2×10-3モル/gのビニル基を含有する。アルケニル基含有量が5×10-3モル/gより多いとゴムが固くて脆くなり、1×10-4モル/gより少ないとゴムが柔らかくなり、弱くなる。
【0020】
なお、上記樹脂質共重合体は、通常適当な(即ち、加水分解縮合してR SiO1/2単位やSiO4/2単位を生成する)1官能性及び4官能性のクロロシランやアルコキシシランを当該技術において周知の方法で共加水分解縮合することによって製造することができる。
【0021】
(B)直鎖状オルガノポリシロキサン(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)
本発明の(B)成分は、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有する、23℃で液状の直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0022】
上記(B)成分の粘度は、JIS K7117-1:1999記載の回転粘度計で測定した23℃で1~100Pa・sの範囲であるのが好ましい。より好ましくは、5~100Pa・s、更に好ましくは10~100Pa・sである。
【0023】
上記アルケニル基の数としては、2個以上であり、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個である。
【0024】
上記アルケニル基としては、炭素数2~10が好ましく、2~8がより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。
【0025】
上記アルケニル基以外の基としては、炭素数1~10の1価炭化水素基が好ましく、炭素数1~8の1価炭化水素基がより好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などが挙げられる。中でも、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0026】
上記(B)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは直鎖状であり、主鎖がジオルガノシロキサン単位(R SiO2/2)の繰り返し単位からなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R SiO1/2)で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好適である。
【0027】
上記(B)成分のオルガノポリシロキサンは、好ましくは1.0×10-5~2.0×10-4モル/gのアルケニル基を含有する。特に1.3×10-5~1.3×10-4モル/gのアルケニル基を含有することが好ましい。アルケニル基含有量が十分であれば架橋密度が十分に高く、実用的なゴム強度が低下することがなく、過剰でなければ架橋密度が高くなり過ぎず、ゴム硬化物の切断時伸びが低下することがない。なお、このアルケニル基の量は、H-NMRスペクトルにより測定されたものである。
【0028】
上記(B)成分のオルガノポリシロキサンの平均重合度(又は、分子中のケイ素原子数)は、100~1,500、特に150~1,000であることが好ましい。この平均重合度(又は平均分子量)は、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした平均重合度を指すこととする。
【0029】
[測定条件]
展開溶媒:トルエン
流量:1mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:KF-805L×2(Shodex社製)
カラム温度:25℃
試料注入量:30μL(濃度0.2質量%のトルエン溶液)
【0030】
上記(B)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対し、50~250質量部の範囲であり、好ましくは100~180質量部である。この配合量が上記範囲よりも少なくなると、脆い硬化物となる恐れがあり、逆に上記範囲を超えると、軟らかい硬化物となるためレンズ用途等には適さなくなるおそれがある。
【0031】
(C)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子中のヒドロシリル基が、上記(A)成分及び(B)成分等のケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル化付加反応により架橋し、組成物を硬化させるための硬化剤として作用するものである。
【0032】
この(C)成分として、下記一般式(1)で示されるものを用いる。
【化3】
(式中、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基であり、Rは独立して炭素数1から10のアルキル基もしくは水素原子であり、zは8以上の整数であり、yは0~150の整数であり、0.40≦z/(y+z)≦1.0であり、かつ1分子中のヒドロシリル基の数が10個以上である)
【0033】
ここで、Rで示される炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられるが、全てのRの90モル%以上、特には全てのR基がメチル基であることが好ましい。また、RはRで示されるものに加え、水素原子が挙げられる。
【0034】
さらに、上記一般式(1)中のzは8以上の整数であり、好ましくは10~200、より好ましくは12~100である。zが8未満の場合、二次加硫後でも硬さが目標(例えば65以上)よりも低くなってしまう恐れがある。yは0~150の整数、好ましくは0~100の整数である。また、0.40≦z/(y+z)≦1.0である。すなわち、y単位とz単位の合計に対するz単位のモル比(比)はz/(y+z)が40モル%(0.4)以上であり、45モル%(0.45)以上が好ましい。z/(y+z)が40モル%未満の場合、一次加硫後の切断時伸びが低く、金型からの取り出し性が悪くなってしまう。また、一分子中のケイ素原子結合水素基(ヒドロシリル基)の数が10個以上であり、12個以上が好ましい。
【0035】
この上記(C)成分の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(D)フェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子と結合する水素原子(ヒドロシリル基)を2個以上有し、かつ、1分子中に1~3個のフェニル基を有するものである。上記(C)成分はフェニル基を有さないため、(C)成分と(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは本質的に異なるものである。
【0037】
上記(D)成分は、分子中のヒドロシリル基が上記(A)成分と(B)成分のケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル付加反応により架橋し、組成物を硬化させるための硬化剤として作用するものである。この上記(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは3~5個のケイ素原子結合水素原子(ヒドロシリル基)を有し、かつ1分子中に1~3個、好ましくは1~2個のフェニル基を有するものである。
【0038】
ここで、フェニル基以外の置換基としては、炭素数1~10、好ましくは1~8の脂肪族炭化水素基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。中でもメチル基が好ましい。更に、脂肪族不飽和基を有しないものが好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状のいずれの構造であってもよい。この場合、1分子中のケイ素原子の数は好ましくは3~9個、より好ましくは3~8個、更に好ましくは4~8個で、25℃で液状のものが好適に用いられる。なお、ケイ素原子に結合する水素原子は分子鎖末端に位置するものが良い。
【0039】
上記(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン環状共重合体、メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン環状共重合体、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン環状共重合体、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン環状共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO2/2単位とから成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とから成る共重合体、(CHSiO1/2単位と(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体、(CHSiO1/2単位と(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO2/2単位とから成る共重合体、(CHSiO1/2単位と(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0040】
上記(D)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対し0.1~5質量部である。
【0041】
また、上記付加硬化性シリコーンゴム組成物中の上記(C)成分と上記(D)成分の配合量は、組成物中の全アルケニル基のモル数(Vi)に対する全ヒドロシリル基のモル数(H)の比(H/Vi)が1.0~1.5であり、特に1.1~1.5が好ましい。1.0よりも低いと架橋が不十分で硬化物のタックが強く、二次加硫後も硬さが低いゴムとなってしまう上に金型汚染防止効果に乏しい。一方、1.5よりも高いと一次加硫後の硬化物の硬さや切断時伸びが高くなり過ぎてしまい、硬化物は破損してしまう。
【0042】
(E)付加反応触媒
(E)成分の付加反応触媒としては、ヒドロシリル化付加反応用のものであれば特に限定されないが、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。
【0043】
付加反応触媒である上記(E)成分の配合量は触媒量とすることができ、組成物の合計質量に対し、白金族金属(質量換算)として好ましくは0.1~10ppmであり、特に0.5~10ppm程度が好ましい。上記(E)成分の配合量が0.1ppmより少ないと硬化が進行しにくくなり、10ppmより多くとなると硬化物が着色してしまう恐れがある。
【0044】
その他の成分
本発明の付加硬化性シリコーンゴム組成物には、その他の成分として、必要に応じて、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤(特には、分子中にアルケニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基等から選ばれる1種以上の反応性官能基を含有すると共に、分子中にヒドロシリル基を含有しないアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物など)等を配合することが任意に可能である。
【0045】
<付加硬化性シリコーンゴム組成物の調製>
上記(A)~(E)成分や、更に必要に応じてその他の任意成分を添加して均一に混合することにより、付加硬化性シリコーンゴム組成物を調製することができるが、この混合においては一般のシリコーンゴム配合に使用される混合機を用いればよく、例えば、ニーダー、ゲートミキサー、品川ミキサー、加圧ミキサー、三本ロール、二本ロール等が挙げられる。
【0046】
<付加硬化性シリコーンゴム組成物の成形>
上記付加硬化性シリコーンゴム組成物の成形、硬化方法としては、特に限定されず常法を採用し得るが、成形法としては、コンプレッション成形や射出成形法が好適に採用される。また、成形の際に、硬化物表面の粗さを低減させ、透明性を高めるため、平坦度の高いライナーを用いて成形しても構わない。硬化条件としては、例えば、金型を用いて100~180℃で5秒間~30分間、好ましくは110~180℃で10秒~20分間、特に120~160℃で30秒間~10分間程度の一次加硫を行い、金型から硬化物を取り出した後、オーブン等により80~200℃、特に100~200℃にて10分間~24時間、特に30分間~10時間の二次加硫を行うことで所定の硬さの成形物が得られる。
【0047】
<シリコーンゴム硬化物>
本発明の付加硬化性シリコーンゴム組成物は、120℃/10分のプレスキュア(一次加硫)によって得られるシリコーンゴム硬化物(エラストマー)が、JIS K 6251:2017に基づく引張試験での切断時伸びが200%以上となり、また、プレスキュア後、150℃/1時間のポストキュア(二次加硫)を実施して得られるシリコーンゴム2mm厚の硬化物がJIS K 7361-1:1997に記載のD65光に対する全光線透過率が90%以上、特に92%以上となり、該ポストキュア後の2mm厚の成形体がJIS K 7136:2000に記載のD65光を用いたヘーズ試験において、ヘーズ値が3%以下となる高硬度で高透明なシリコーンゴムを与えることができるものである。一次加硫後の硬化物の切断時伸びが200%以上であると、金型からの取り出しが容易になる。
【0048】
又、一次加硫の連続成形後、金型から取り出した硬化物の平均表面粗さが0.15μm以下であると光の拡散や漏れが防止でき、輝度低下を抑制することができる。
【0049】
このように、本発明の付加硬化性シリコーンゴム組成物は、金型からの取り出し性に優れ、光の拡散や漏れが防止できる輝度低下の少ない透明性の高いシリコーンゴムを与えるものであり、LED等の光学用途として好適に用いることができる。
【実施例0050】
以下、実施例と比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記例で部は質量部を示す。また、平均重合度は、数平均重合度を示す。そして平均重合度の測定方法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質として測定したものである。
[測定条件]
展開溶媒:トルエン
流量:1mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:KF-805L×2(Shodex社製)
カラム温度:25℃
試料注入量:30μL(濃度0.2質量%のトルエン溶液)
【0051】
〔使用した材料〕
(A)三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン(シリコーンレジン)
・「A-1」:(CHSiO1/2単位、(CH=CH)(CHSiO1/2単位、SiO4/2単位の共重合体、M単位/Q単位(モル比)=0.90、1分子当たりのアルケニル基数:4.2個(数平均分子量=3,000)、アルケニル基含有量1.4×10-3mol/g
【0052】
(B)液状直鎖状オルガノポリシロキサン(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)
・「B-1」:両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン
平均重合度:750(数平均分子量=56,000)、粘度:30Pa・s
1分子当たりのアルケニル基数:2個
【0053】
(C)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0054】
・「C-1」:下式両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン
1分子当たりのSiH基数:50個(SiH基含有量0.0076mol/g)
【化4】
【0055】
・「C-2」:下式両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン
1分子当たりのSiH基数:70個(SiH基含有量0.0104mol/g)
【化5】
【0056】
・「C-3」:下式両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン
1分子当たりのSiH基数:20個(SiH基含有量0.0074mol/g)
【化6】
【0057】
(D)フェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(フェニル基含有オルガノポリシロキサン)
・「D-1」:下式トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン
1分子当たりのSiH基数:3個(SiH基含有量0.0091mol/g)
1分子当たりのフェニル基の個数:1個
【化7】
【0058】
・「D-2」:下式両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体
1分子当たりのSiH基数:6個(SiH基含有量0.0063mol/g)
1分子当たりのフェニル基の個数:4個
【化8】
【0059】
(E)付加反応触媒(ヒドロシリル化反応触媒)
・「E-1」:白金触媒 (Pt濃度:1質量%)
【0060】
(F)ヒドロシリル化反応制御剤
・「F-1」:1-エチニルシクロヘキサノール
【0061】
[実施例1~2及び比較例1~4]
金型低汚染性シリコーンゴム組成物の各例について、(A)三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン(シリコーンレジン)、(B)直鎖状オルガノポリシロキサン(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)、(C)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(D)フェニル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(フェニル基含有オルガノハイドロジェンポリシロキサン)、(E)付加反応触媒(ヒドロシリル化反応触媒)、及び(F)ヒドロシリル化反応制御剤のそれぞれの配合量を表1に示した。各組成物は均一に混合撹拌、減圧脱泡した。
【0062】
プレス板上に、ポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー、厚さ2.2mmの枠を重ね、この枠内に上記の金型低汚染性シリコーンゴム組成物を流し込み、この上にさらにPETライナー、プレス板を積層して120℃で10分間プレス成型した。2枚のPETライナーごと取り出して冷却後、PETライナーを剥離して厚さ約2mmのシリコーンゴム製透明シートを得た。120℃/10分のプレスキュア(一次加硫)後に得られた2mm厚の硬化物について、JIS K 6253-3:2012に基づき、デュロメータタイプAにおける硬さ及びJIS K 6251:2017に基づき、切断時伸びを測定した結果を表1に示した。また、プレスキュア後にオーブン内で150℃/1時間のポストキュア(二次加硫)を行った2mm厚の硬化物について、JIS K 6253-3:2012に基づき、デュロメータタイプAにおける硬さ、及びJIS K 6251:2017に基づき、切断時伸びを測定した結果、さらに、JIS K 7361-1:1997に記載のD65光に対する全光線透過率を測定した結果、および、JIS K 7136:2000に記載のD65光を用いたヘーズ測定を行った結果を表1に示した。
【0063】
・圧縮成形用金型から離型性評価方法:上記の金型低汚染性シリコーンゴム組成物をクロムメッキされた圧縮成形用金型を用いて120℃/10分間プレス加硫して、寸法が13cm×17cm×厚さ2mmの硬化シートを成形し、成形品と金型の剥離性を調べた。その結果を表1に示した。
【0064】
・硬化物の平均表面粗さ&輝度:射出成形機として、「ARBURG 420C/Allrounder 1000-150」を用い、比較例3は切断時伸びが200%以下であり、比較例4は圧縮成形用金型から離型性が不良であったため、以後の硬化物の平均表面粗さ及び輝度の評価を行わなかった。実施例1、2の金型低汚染性シリコーンゴム組成物及び比較例1、2の比較例用シリコーンゴム組成物を使用して、150℃/20秒硬化で成形し、各ショット数における硬化物の平均表面粗さを、Olympus社製レーザー顕微鏡で測定した結果を表1に示した。また、各ショット数における硬化物の輝度を、高感度分光放射輝度装置で測定した結果を表1に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
本発明の金型低汚染性シリコーンゴム組成物は、1次加硫後に十分な切断時伸びを有し、金型からの取り出しが容易であると共に、金型を汚染することがないために硬化物の平均表面粗さが0.15μm以下となっている。また、そのため連続成型しても輝度低下が少なく透明性の高い硬化物を与えることができる。
【0067】
一方で、比較例1、2で使用した(D)成分を含まない比較例用シリコーンゴム組成物は、切断時伸びこそ良好であったが、平均表面粗さが0.20μmと実施例より劣り、輝度も低下していた。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。