(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172337
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/053 20220101AFI20231129BHJP
B01F 27/211 20220101ALI20231129BHJP
B01F 27/90 20220101ALI20231129BHJP
B01F 27/07 20220101ALI20231129BHJP
B01F 23/53 20220101ALI20231129BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20231129BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20231129BHJP
B01F 27/112 20220101ALI20231129BHJP
B01F 101/45 20220101ALN20231129BHJP
【FI】
B01F27/053
B01F27/211
B01F27/90
B01F27/07
B01F23/53
C22B23/00 102
C22B3/02
B01F27/112
B01F101:45
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084047
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 勝耐
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
4K001
【Fターム(参考)】
4G035AB46
4G035AE17
4G078AA09
4G078AB01
4G078BA05
4G078DA01
4G078DB10
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA06
4K001CA49
(57)【要約】
【課題】耐食性及び耐摩耗性に優れ、耐用年数を向上させた撹拌装置を提供する。
【解決手段】槽内でスラリーを撹拌する撹拌装置1であって、少なくとも、槽内に垂直に設けられた回転軸10と、回転軸10に設けられたブラケット20と、回転軸10にブラケット20を介して取り付けられたパドル型の撹拌翼30と、を備え、回転軸10にはゴムライニング15が施され、撹拌翼30は表面が耐摩耗性部材35で覆われており、ブラケット20の撹拌翼30との取り付け部分にはゴムライニング15の端部および耐摩耗性部材35の端部を含めて表面全体を覆うようにエポキシ樹脂層40が形成されるとともに、エポキシ樹脂層40と耐摩耗性部材35との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤50が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内でスラリーを撹拌する撹拌装置であって、
少なくとも、
前記槽内に垂直に設けられた回転軸と、
前記回転軸に設けられたブラケットと、
前記回転軸に前記ブラケットを介して取り付けられたパドル型の撹拌翼と、
を備え、
前記回転軸にはゴムライニングが施され、前記撹拌翼は表面が耐摩耗性部材で覆われており、
前記ブラケットの前記撹拌翼との取り付け部分には前記ゴムライニングの端部および前記耐摩耗性部材の端部を含めて表面全体を覆うようにエポキシ樹脂層が形成されるとともに、前記エポキシ樹脂層と前記耐摩耗性部材との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤が形成されていることを特徴とする撹拌装置。
【請求項2】
前記撹拌翼はチタン製ないしチタン合金製であり、表面を覆う前記耐摩耗性部材はセラミック製部材であることを特徴とする請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記セラミック粒子充填エポキシ樹脂に配合されるセラミック粒子が、直径が0.5~2.5mmのアルミナ製セラミックビーズであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物の粉体を含むスラリーを撹拌することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌装置、より詳しくは、槽内でスラリーを撹拌する撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスとして、MCLE(Matte Chlorine Leach Electrowinning、マット塩素浸出電解採取)プロセスが知られている。このMCLEプロセスでは、ニッケル・コバルト混合硫化物(以下、「MS」ともいう)およびニッケルマット(主成分は二硫化三ニッケルとニッケルメタル)を原料として、湿式製錬により、電気ニッケルと電気コバルトを生産する。
【0003】
ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)の原料スラリーは、貯槽において撹拌装置により撹拌されている。ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスでは、塩酸酸性水溶液を取り扱うことが多く、またニッケル・コバルト混合硫化物(MS)は、粒径が70~80μm(D50)程度であり、原料スラリーは300~400g/Lと高濃度であるため、撹拌時には撹拌装置の撹拌翼とスラリーが頻繁に接触・衝突する。このため撹拌装置には、高い耐食性及び耐摩耗性が要求される。なお、D50は、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径を意味する。
【0004】
例えば、特許文献1には、撹拌反応槽内で腐食作用および磨耗作用のあるスラリー液を撹拌するパドルタイプの撹拌翼であって、撹拌翼がチタン製翼板で構成され、該撹拌翼表面のうちで腐食性、磨耗性が強い表面の実質的全面に、断面L型セラミック製部材、断面コ型セラミック製部材又は平板形状のセラミック製部材から選ばれるいずれかの耐磨耗性部材が固定されている撹拌翼が記載されている。
【0005】
特許文献1に係る発明によれば、翼板磨耗条件の厳しい撹拌条件でパドルタイプの翼板を使用し、耐腐食及び耐磨耗性が必要とされる翼板の全表面に、特定形状のセラミック製の部材を取付け、耐磨耗性能を向上させているから、撹拌翼の寿命延長が可能となり、ランニングコストの圧縮と休止損失の低減が達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の撹拌装置を用いた場合であっても、撹拌翼の回転軸への取り付け部分等の金属の露出部分は腐食しやすく、その金属の露出部分に耐食性ライニング等を施したとしても、その耐食性ライニングと耐磨耗性部材との境界部分などは摩耗しやすく、これらの摩耗箇所から腐食性水溶液が浸透して腐食が生じる原因となっていた。
【0008】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、耐食性及び耐摩耗性に優れ、耐用年数を向上させた撹拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ね、撹拌装置の摩耗が生じやすい箇所にセラミック粒子充填エポキシ樹脂を塗工することに想到した。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、槽内でスラリーを撹拌する撹拌装置であって、少なくとも、槽内に垂直に設けられた回転軸と、回転軸に設けられたブラケットと、回転軸にブラケットを介して取り付けられたパドル型の撹拌翼と、を備え、回転軸にはゴムライニングが施され、撹拌翼は表面が耐摩耗性部材で覆われており、ブラケットの撹拌翼との取り付け部分にはゴムライニングの端部および耐摩耗性部材の端部を含めて表面全体を覆うようにエポキシ樹脂層が形成されるとともに、エポキシ樹脂層と耐摩耗性部材との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤が形成されている。
【0011】
本発明の一態様によれば、撹拌翼は耐摩耗性部材で覆われ、回転軸にはゴムライニングを施すとともに、撹拌翼と回転軸との接続部分を、エポキシ樹脂と、セラミック粒子充填エポキシ樹脂で覆うことにより耐食性及び耐摩耗性に優れ、耐用年数を向上させた撹拌装置を実現することができる。
【0012】
このとき、本発明の一態様では、撹拌翼はチタン製ないしチタン合金製であり、表面を覆う耐摩耗性部材はセラミック製部材であるとしてもよい。
【0013】
チタン製ないしチタン合金製の撹拌翼の表面をセラミック製の部材で覆うことにより、耐食性及び耐摩耗性能をより向上させた撹拌翼とすることができる。
【0014】
また、本発明の一態様では、セラミック粒子充填エポキシ樹脂に配合されるセラミック粒子が、直径が0.5~2.5mmのアルミナ製セラミックビーズであるとしてもよい。
【0015】
このようなアルミナ製セラミックビーズをエポキシ樹脂に配合することにより、耐摩耗性に優れた樹脂を塗布することができる。
【0016】
また、本発明の一態様では、ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物の粉体を含むスラリーを撹拌する撹拌装置としてもよい。
【0017】
このニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスのように、塩酸酸性水溶液とMSのスラリーなど、腐食や摩耗が生じやすい水溶液を撹拌する撹拌装置に好ましく適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、耐食性及び耐摩耗性に優れ、耐用年数を向上させた撹拌装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明が適用される撹拌装置の一例を示した図であり、(A)は正面図であり、(B)は撹拌翼部分の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る撹拌装置の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0021】
まず、本発明に適用される撹拌装置の概要について説明する。
図1は、本発明が適用される撹拌装置の一例を示した図であり、(A)は正面図であり、(B)は撹拌翼部分の断面図である。撹拌装置は、耐磨耗性パドルタイプの撹拌翼30を回転軸10に固定した状態で使用される。撹拌翼30は、例えばチタン製ないしチタン合金製の板状翼板をベースとして構成されている。翼板は、回転軸10に設けられたブラケット20に翼板の取付け孔5aとボルト5とによって鉛直方向と所定の角度をなす向きに固定され、回転軸10に連結されており、図示しないモータにより回転するようになっている。なお、
図1(A)では、翼板は一段であるが、その上に1又は2以上の翼板をさらに設けた多段パドルタイプの撹拌翼としてもよい。傾斜角は、45~90度の間で適宜調整できる。
【0022】
本発明の一態様では、チタン製ないしチタン合金製の板状翼板をベースとして、この翼板表面のうち腐食性、磨耗性が高い表面の実質的全面に、断面L型セラミック製部材、断面コ型セラミック製部材又は平板形状のセラミック製部材から選ばれるいずれかの耐磨耗性部材が固定されている。
【0023】
一例として、
図1(A)に示すように、撹拌翼の中央部分2aは板状翼板を横断面がL型形状のセラミック製部材6aで挟み込み、撹拌翼の端部2bは横断面がL型形状のセラミック製部材6bと、横断面及び縦断面が何れもL型形状であるセラミック製部材7とで板状翼板の先端部を挟み込むようにしている。そして、
図1(A)に示すように、中央部分2aのセラミック製部材6aには、側面に4個のテーパ孔8があり、その中に翼板と同材質製の固定金具が挿入され固定され、端部2bのセラミック製部材6b、7には側面に2個のテーパ孔8があり、その中に翼板と同材質製の固定金具が挿入され固定されている。
【0024】
このように構成されているのは、回転軸に近い中央部分2aよりも、回転軸から離れた端部2bのほうがスラリーによる腐食作用および磨耗作用が強く加わるからである。したがって、セラミック製の部材を複数の分割状態として翼板に固定することで、一部のセラミック製部材が部分的に磨滅しても、その一部を交換することにより、撹拌翼が再使用可能となるため好ましい。また、翼板全面を同じセラミックで覆ってもよいし、異なるセラミックで覆ってもよい。すなわち、撹拌翼の端部表面が、耐磨耗性が特に優れる断面L型又は断面コ型形状のセラミック製部材で覆われ、それ以外の部分が比較的安価なセラミックで覆われるようにすることができる。
【0025】
セラミック製とは、例えば、窒化珪素、炭化珪素、サイアロン、酸化ジルコニウム、部分安定化ジルコニア、アルミナなどの耐磨耗性材料である。これらセラミックは、単一成分からなるものでも、必要に応じて他の成分、例えば周期律表第3a族元素の酸化物、ダイシリケートやモノシリケートなどのシリケート化合物、アルミナ、シリカ、マグネシアなどを含有したものでもよい。
【0026】
断面がL型形状のセラミック製部材は、
図1(B)に示すように、L字の短辺が翼板の厚さと略一致する長さを有し、L字の長辺が翼板の幅よりも若干大きい長さを有している。若干大きいとは、セラミック製部材の少なくとも片方の厚さ分だけ翼板の幅より長くするということである。セラミック製部材の厚さは、特に制限されるわけではないが、例えば、3~10mm、好ましくは3~5mmとする。3mmよりも薄いと耐磨耗性が不十分となり、10mmを超えると重量が大きくなり、コスト面でも好ましくない。L型形状セラミック製部材には、一辺がL型形状のものと二辺がL型形状のもの(1横断面と1縦断面がL型形状のもの)、又は三辺がL型形状のもの(1横断面と2縦断面がL型形状のもの)があり、いずれも使用できるが、二辺、又は三辺がL型形状のものは、翼板の端部に専ら使用する。
【0027】
断面がコ型形状セラミック製部材は、上記L型形状のセラミック製部材のコーナーがコ字になったものであり、L字の短辺に繋がる部分は、長さが比較的短く、例えば、1~5cm程度とすることが望ましい。成形がやや難しく、翼板へ取り付ける際に破損しやすいからである。コ型形状セラミック製部材は、一端がコ型形状のものと両端がコ型形状のものがある。このコ型形状セラミック製部材を用いると、翼板の端部全体を覆うことができる。
【0028】
次に、本発明に係る撹拌装置の特徴点について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る撹拌装置の構造を示す概略図である。本発明の一態様は、槽内でスラリーを撹拌する撹拌装置1であって、少なくとも、槽内に垂直に設けられた回転軸10と、回転軸10に設けられたブラケット20と、回転軸10にブラケット20を介して取り付けられたパドル型の撹拌翼30と、を備え、回転軸10にはゴムライニング15が施され、撹拌翼30は表面が耐摩耗性部材35で覆われており、ブラケット20の撹拌翼30との取り付け部分にはゴムライニング15の端部および耐摩耗性部材35の端部を含めて表面全体を覆うようにエポキシ樹脂層40が形成されるとともに、エポキシ樹脂層40と耐摩耗性部材35との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤50が形成されている。
【0029】
回転軸10は、例えば、SS400(一般構造用圧延鋼材)などの素材で構成されており、表面に天然ゴム、ブチルゴム等のゴムライニングが施されている。上述したようにニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスでは、塩酸酸性水溶液を取り扱うことが多く、強酸性の薬品などの撹拌では鋼製の回転軸では腐食が進んでしまうため、ゴムライニングを施すことにより、強酸性水溶液に対する耐食性を向上させることができる。
【0030】
また、撹拌翼30に関しては、上述したようにセラミック部材などの耐摩耗性部材35で、表面を覆っているため、摩耗に強い構造となっている。
【0031】
一方で、回転軸10と撹拌翼30の接続箇所であるブラケット20の部分については、ブラケット20側のブラケット20と撹拌翼30の当り面に回転軸10と同様にゴムライニングを施すと、撹拌翼30の固定が不十分になり、また、その後の運転中に弛みが発生することにもつながる。そのため、ブラケット20の部分にはゴムライニングが施せないため、このような回転軸10と撹拌翼30の接続箇所がもっとも腐食しやすいという課題があった。
【0032】
そこで、本発明では、
図2に示すように、ブラケット20に撹拌翼30を取り付けた後に、ブラケット20と撹拌翼30との取り付け部分に、ゴムライニング15の端部、撹拌翼30を覆う耐摩耗性部材35の端部、及びボルト5等による突起部分を含めて表面全体を覆うようにエポキシ樹脂層40を形成するとともに、エポキシ樹脂層40と耐摩耗性部材35との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤50が形成されている。このようにすることで、従来、腐食が生じやすかった回転軸10のブラケット20を腐食から保護すると共に、摩耗が生じやすかったエポキシ樹脂層40と耐摩耗性部材35との境界部分を摩耗から保護することができ、より耐用年数を向上させることができる。
【0033】
セラミック粒子は、一定以上の硬度を持ったものであれば特に限定はされないが、例えば、アルミナ製セラミックビーズが用いられる。また、セラミック粒子の粒径もエポキシ樹脂内に均一に分散できる程度の大きさであればよいが、一例として直径が0.5~1.0mm、あるいは、2.0~2.5mmのものが用いられる。ハンドリング性の面からは、直径が0.5~1.0mmのものを用いることが好ましい。セラミック粒子をエポキシ樹脂内に分散させることにより、スラリーの撹拌時においても、セラミック粒子が摩耗を食い止めることでセラミック粒子充填エポキシ樹脂が塗布されている表面を保護することができ、耐摩耗性を向上させることができる。
【0034】
このような硬化後のセラミック粒子充填エポキシ樹脂は以下に示す特徴を有している。
・耐摩耗性:ショア硬さが約90HSである。これは、回転軸10の素材であるSS400や撹拌翼30の素材であるチタンと比較して2.5~4倍のショア硬さである。
・耐薬品性:硫酸、苛性ソーダ、塩化ニッケル等の腐食性水溶液に対する耐性を備える。
・150℃程度の高温環境でも使用可能である。
・金属・樹脂への接着性が良く、溶接が不要で、取り扱いが容易である。
【0035】
なお、セラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤50は水溶液を浸透する可能性があるため、塩酸酸性水溶液が浸透して内部の素材が腐食してしまう恐れがある。このため、本発明では、セラミック粒子充填エポキシ樹脂をブラケット20に直接塗布するのではなく、まず、エポキシ樹脂をブラケット20の撹拌翼30との取り付け部分にゴムライニング15の端部および耐摩耗性部材35の端部を含めて表面全体を覆うように塗布したうえで、エポキシ樹脂層40と耐摩耗性部材35との境界部分を覆うようにセラミック粒子充填エポキシ樹脂を塗布している。このようにすることで、エポキシ樹脂層40は水溶液を浸透させないため、耐食性を向上させるとともに、その外側に塗布したセラミック粒子充填エポキシ樹脂により、耐摩耗性を向上させたハイブリッド仕様とすることができる。なお、硬化後のエポキシ樹脂自体は、基本的には液体を浸透させないが、セラミック粒子が充填されると微小な間隙が生じやすく、水溶液を透過させる可能性がある。
【0036】
本発明の一態様に係る撹拌装置は、ニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)の原料スラリーの貯槽における撹拌の用途として用いることができる。MSは、Ni:50~60重量%、Co:5重量%程度、S:30~40重量%のNiSとCoSの混合物である。もちろん、本発明の一実施形態に係る撹拌装置はこのような例のみに限定されるわけでは無く、摩耗性のある固体を含んだ腐食性のある強酸性水溶液からなるスラリー全般の撹拌に適用することも可能である。
【実施例0037】
以下、本発明について、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
上記したニッケル及びコバルトの湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS)の原料スラリー貯槽の撹拌機に本発明を適用し、本発明の一実施形態に係る撹拌装置とした。セラミック粒子充填エポキシ樹脂として、セラミックエポキシ材型式:HL-K1、メーカー関西パテ化工、アルミナ製セラミックビーズの粒子径:0.5~1.0mm、を塗布した。セラミック粒子充填エポキシ樹脂は主剤と硬化剤を1:2で混合し塗布した。塗布したセラミック粒子充填エポキシ樹脂は、24時間以上置くことでエポキシ材の硬化・乾燥を行った。
【0039】
本実施例における運転環境は、pH1.5~3.0、温度55~65℃、回転数80~90rpmである。本発明を適用する前の従来例(比較例)では、撹拌装置は約1.5年で摩耗、腐食のために更新が必要となった。これに対して、本発明を適用した撹拌装置(実施例)では、8.5年経過した時点でも問題なく使用することが可能となった。なお、上記比較例の撹拌装置は、セラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤50を備えていない以外は、本発明の一態様として上述したものと同一の撹拌装置である。
【0040】
したがって、本発明を適用することにより撹拌装置の耐用年数を大幅に向上させることができた。
【0041】
なお、上記のように本発明の一実施形態および実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0042】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、撹拌装置の構成も本発明の一実施形態および実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
1 撹拌装置、2a 撹拌翼の中央部分、2b 撹拌翼の端部、5 ボルト、5a 取付け孔、6a,6b セラミック製部材(横断面がL型形状)、7 セラミック製部材(横断面及び縦断面がL型形状)、8 テーパ孔、10 回転軸、15 ゴムライニング、20 ブラケット、30 撹拌翼、35 耐摩耗性部材、40 エポキシ樹脂層、50 セラミック粒子充填エポキシ樹脂瘤