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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172347
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】調理済み麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20231129BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 A
A23L7/109 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084061
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LA04
4B046LA05
4B046LB09
4B046LC11
4B046LE06
4B046LG16
4B046LG29
4B046LG32
4B046LP51
4B046LP80
4B046LQ03
4B046LQ04
(57)【要約】
【課題】調理して冷蔵保存し、冷たい又は常温の状態で喫食したときにも、ほぐれがよくかつ良好な食感を有することができる麺類の提供。
【解決手段】調理済み麺類の製造方法であって、冷蔵調理済み麺類を、中心部の品温が12~30℃になるまで電子レンジ処理することを含み、該麺類が、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理済み麺類の製造方法であって、
冷蔵調理済み麺類を、中心部の品温が12~30℃になるまで電子レンジ処理することを含み、
該麺類が、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、
方法。
【請求項2】
冷蔵調理済み麺類を喫食用に仕上げる方法であって、
冷蔵調理済み麺類を、中心部の品温が12~30℃になるまで電子レンジ処理することを含み、
該麺類が、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、
方法。
【請求項3】
前記冷蔵調理済み麺類が、容器に充填された状態で冷蔵保存されたものであり、かつ、該容器に充填された状態で前記電子レンジ処理にかけられる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記単層麺の生地が、該生地に含まれる穀粉類及び澱粉類の合計量100質量部に対して食塩を4.5質量部以上含有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記多層麺の外層の生地が、該生地に含まれる穀粉類及び澱粉類の合計量100質量部に対して食塩を4.5質量部以上含有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
前記麺類が中華麺、うどん、又はそばである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項7】
前記麺類が、pH7.4~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH7.4~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
前記電子レンジ処理が、200~2000Wの出力で5秒~100秒間の処理である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
前記電子レンジ処理した調理済み麺類に15℃以下の液状調味料を添加することをさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理済み麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類の食感の改善や、長期保存用中華麺の保存中における品質劣化の抑制などを目的として、麺類のpHを調整することが行われている。特許文献1には、原料粉にpH5.6~6.0のリン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を添加、混合して調製した麺生地を用いて麺類を製造することが記載されている。特許文献2には、外層であるA層の麺生地が小麦粉を含む原料粉とpH5.6~6.0の水溶液から調製されている多層麺が記載されている。特許文献3には、pHが7.2~9.4となる量のかん水を含む内層とpHが4.0~7.0の外層とからなる多層麺を、水分含量が55~70重量%となるように茹処理し、加圧加熱殺菌処理して加圧加熱殺菌処理ラーメンを製造することが記載されている。特許文献4には、冷蔵や冷凍せずに長期保存可能なウェットタイプの中華麺の製造に関して、生麺線を、湿熱処理した後、アルカリ剤で処理し、該アルカリ剤処理と同時又はその後に低酸素濃度下でかつ密封包装した状態で加熱処理して、包装体内の酸素量を麺重量100g当り常温で0.1mL以下、かつ麺線のpHを8.1~9.7とする、包装麺類の製造方法が記載されている。
【0003】
近年、調理済みの冷やし中華、冷やしうどん、冷やしそばなどがスーパーやコンビニエンスストアなどで販売されている。これらの麺は、通常、予め調理された状態で冷蔵流通又は保管された後、加熱されることなく冷たい又は常温の状態で喫食される。しかし、冷蔵保存した調理麺は、麺同士が接着してほぐれにくくなり、かつ食感も低下しがちである。接着した調理麺は、ほぐし液や油脂と和えることでほぐすことができるが、そのほぐれ効果は充分ではなく、かつ該ほぐし液や油脂が麺の風味に悪影響を与えることがある。あるいは、調理麺を熱湯で茹でることでも麺のほぐれや食感を改善できるが、この方法は麺が熱くなってしまうため、上述した冷やし中華などの冷たいまま食する冷蔵麺には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-178623号公報
【特許文献2】特開2020-162515号公報
【特許文献3】特開平5-049425号公報
【特許文献4】特開2002-262795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
調理して冷蔵保存し、冷たい又は常温の状態で喫食したときにも、ほぐれがよくかつ良好な食感を有することができる麺類が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定のpHの麺生地を用いて製造した調理済み麺類を、冷蔵保存した後、短時間の電子レンジ処理にかけることで、冷たい又は常温の状態でもほぐれがよく、かつ良好な食感を有する調理済み麺類が得られることを見出した。
【0007】
したがって本発明は、以下を提供する。
〔1〕調理済み麺類の製造方法であって、
冷蔵調理済み麺類を、中心部の品温が12~30℃になるまで電子レンジ処理することを含み、
該麺類が、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、
方法。
〔2〕冷蔵調理済み麺類を喫食用に仕上げる方法であって、
冷蔵調理済み麺類を、中心部の品温が12~30℃になるまで電子レンジ処理することを含み、
該麺類が、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、
方法。
〔3〕前記冷蔵調理済み麺類が、容器に充填された状態で冷蔵保存されたものであり、かつ、該容器に充填された状態で前記電子レンジ処理にかけられる、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記単層麺の生地が、該生地に含まれる穀粉類及び澱粉類の合計量100質量部に対して食塩を4.5質量部以上含有する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記多層麺の外層の生地が、該生地に含まれる穀粉類及び澱粉類の合計量100質量部に対して食塩を4.5質量部以上含有する、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記麺類が中華麺、うどん、又はそばである、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕前記麺類が、pH7.4~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH7.4~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕前記電子レンジ処理が、200~2000Wの出力で5秒~100秒間の処理である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕前記電子レンジ処理した調理済み麺類に15℃以下の液状調味料を添加することをさらに含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷蔵保存した麺類済み麺類におけるほぐれにくさや食感の低下をより簡便にかつ短時間で改善し、喫食に適した状態の調理済み麺類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、冷蔵保存した後、冷たい又は常温の状態で喫食するための調理済み麺類を提供する。すなわち本発明は、調理済み麺類の製造方法を提供し、当該方法では、特定のpHの麺生地を用いて製造した調理済み麺類を冷蔵保存して得られる冷蔵調理済み麺類を、特定温度になるように短時間電子レンジ処理することで、該冷蔵調理済み麺類を喫食用に仕上げる。
【0010】
本発明で提供される麺類の種類としては、特に限定されないが、中華麺、うどん、冷や麦、きしめん、素麺、そば、パスタなどが挙げられ、好ましくは中華麺、うどん、又はそばである。これらの麺類は、pH5.0~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH5.0~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である。食感向上の観点からは、好ましくは、該麺類は多層麺である。より好ましい例において、該麺類は中華麺である。好ましくは、該中華麺は、pH7.4~9.4の生地から製造された単層麺であるか、又はpH7.4~9.4の生地から製造された外層を有する多層麺である。該中華麺が多層麺である場合、好ましくは、該多層麺は、上述したpHの生地から製造された外層と、該外層の生地よりも高pHの生地から製造された内層とを有し、全体としてアルカリ性に調整されている。本明細書において、麺生地のpHとは、生の麺生地(調製後、加熱調理又は乾燥していないもの)1gを水10mLに懸濁させた懸濁液のpH(25℃)をいう。
【0011】
前記多層麺は、前記外層を最外層とし、かつ2つの該外層の間に内層が配置された三層以上の層からなる多層構造を有する多層麺である。好ましくは、該多層麺は、「外層/内層/外層」からなる三層構造を有する三層麺である。あるいは、該多層麺において、2つの該外層に挟まれる内層は複数の層を有していてもよい。
【0012】
本発明で用いられる前記単層麺、及び多層麺(外層及び内層を含む)の生地は、穀粉類を含有する原料粉から調製される。該穀粉類の例としては、小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉、ふすま粉などが挙げられ、好ましくは小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、及びそば粉が挙げられる。これらの穀粉類は、製造する麺類の種類に応じて、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0013】
好ましくは、前記原料粉は小麦粉を含む。該原料粉に含まれる小麦粉の量は、製造する麺類の種類に応じて適宜調整することができる。一例として、該麺類が中華麺、うどん又はパスタの場合、好ましくは、該原料粉に使用される穀粉類の70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%が小麦粉である。別の一例として、該麺類がそばの場合、該原料粉に使用される穀粉類の、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~70質量%が小麦粉であり、かつ少なくとも10質量%以上、好ましくは30質量%以上がそば粉である。該小麦粉は、麺類の製造に一般に使用されるものであればよく、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、熱処理粉(α化小麦粉、部分α化小麦粉、焙焼小麦粉等)などが挙げられる。これらの小麦粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。ただし、該原料粉に含まれる穀粉類中における熱処理小麦粉の量は20質量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記原料粉は、必要に応じてさらに澱粉類を含有していてもよい。該原料粉が澱粉を含有すると、最終的に得られる調理済み麺類の食感が向上する。該澱粉類の例としては、特に限定されず、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及びそれらを加工(例えば、架橋化、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化など)した加工澱粉が挙げられる。本発明において、これら未加工澱粉及び加工澱粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0015】
好ましくは、該澱粉類はタピオカ澱粉である。該タピオカ澱粉としては、未加工タピオカ澱粉及び加工タピオカ澱粉が挙げられ、該加工タピオカ澱粉としては、アセチル化、エーテル化及び架橋化からなる群より選択される1種以上の加工を行った加工タピオカ澱粉が挙げられる。上記に挙げたタピオカ澱粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。より好ましくは、前記澱粉類は加工タピオカ澱粉である。該加工タピオカ澱粉は、エーテル化タピオカ澱粉及びアセチル化タピオカ澱粉からなる群より選択される1種以上である。該エーテル化タピオカ澱粉及びアセチル化タピオカ澱粉は、架橋処理されていてもよい。
【0016】
前記原料粉における前記穀粉類及び澱粉類の合計含有量は、それぞれ、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。好ましくは、該原料粉は、小麦粉とタピオカ澱粉を合計で70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有する。前記原料粉が穀粉類及び澱粉類を含有する場合、該原料粉における穀粉類と澱粉類の質量比の範囲は、好ましくは穀粉類:澱粉類=95:5~50:50である。例えば、該穀粉類が小麦粉であり、該澱粉類がタピオカ澱粉であれば、該原料粉は、小麦粉とタピオカ澱粉を、好ましくは小麦粉:タピオカ澱粉=95:5~50:50の質量比で含有する。
【0017】
前記原料粉は、前述した穀粉類、澱粉類に加えて、麺類の製造に従来用いられる他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分としては、例えば、小麦蛋白質(グルテン)、大豆蛋白質、乳蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材、油脂類、食塩、かんすい原料、糖類、甘味料、焼成カルシウム、食物繊維、香辛料、調味料、ビタミン、ミネラル、栄養強化剤、色素、香料、デキストリン(難消化性含む)、膨張剤、増粘剤、乳化剤、保水剤、保存剤、酵素剤、pH調整剤、酸化還元剤などが挙げられる。これらの他の材料は、製造する麺類の種類に応じて、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。該原料粉における該他の成分の合計含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。該原料粉中における該他の材料の各々の配合量は、製造する麺類の種類に応じて適宜決定することができる。
【0018】
前記麺類が多層麺の場合、外層及び内層の原料粉の組成は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、該外層及び内層の原料粉に含まれる穀粉類、澱粉類及び他の材料の種類や量は、同じであっても異なっていてもよい。
【0019】
前記原料粉に、常法に従って水分を添加し、混捏することにより前記単層麺又は多層麺の生地を調製することができる。該麺生地の調製に用いられる水分としては、麺生地の製造に通常用いられる練水、例えば水、塩水、かん水、酸性溶液などを用いることができる。該麺生地の調製に用いられる練水の量は、練水の水分量として、原料粉100質量部あたり、好ましくは25~65質量部、より好ましくは28~50質量部である。
【0020】
好ましくは、前記単層麺又は多層麺の生地は食塩を含有する。さらに、該麺生地における食塩の含有量が、該生地に含まれる穀粉類及び澱粉類の合計量100質量部に対して4.5質量部以上であると、最終的に得られる調理済み麺類の食感が向上する。食塩は、麺生地の原料粉に予め配合してもよく、麺生地の調製時に原料粉に別途添加してもよく、又は、前記練水に添加してもよい。
【0021】
前記単層麺及び多層麺の麺生地のpHは、食品に使用可能な有機酸、リン酸、それらの塩等のpH調整剤や、又はかんすい原料などを用いて調整することができる。これらのpH調整剤やかんすい原料は、前記麺生地の原料粉に予め配合してもよく、麺生地の調製時に原料粉に別途添加してもよく、又は、前記練水に添加してもよい。麺生地のpH調整においては、該pH調整剤とかんすい原料のいずれか一方を用いればよいが、併用することも可能である。
【0022】
前記有機酸の例としては、一価~三価の有機酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、酢酸、イタコン酸、フィチン酸、酒石酸などからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。前記有機酸塩の例としては、前記に例示した有機酸の塩が挙げられる。該塩の種類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
【0023】
前該リン酸及びリン酸塩は、食用に用いられるものであればよく、該リン酸塩の例としては、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム等の単リン酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等の重合又は縮合リン酸塩などからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
前記有機酸、リン酸、それらの塩は、いずれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。例えば、有機酸と有機酸塩は、各々単独で使用しても、併用してもよく、又はリン酸とリン酸塩は、各々単独で使用しても、併用してもよい。有機酸と有機酸塩を併用する場合、該有機酸塩の有機酸は、併用される有機酸と同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。
【0025】
前記かんすい原料としては、中華麺の製造に通常用いられるものを使用することができ、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのかんすい原料は、いずれか単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム又はこれらの組み合わせを主体とするかんすい原料が用いられる。該かんすい原料は市販品であってもよく、例えば、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含有する市販のかんすい原料(例えば、オリエンタル酵母工業株式会社製の商品名「粉末かんすい青」など)を好適に使用することができる。
【0026】
前記麺類が中華麺の場合、前記麺生地は、好ましくはかんすい原料を含有する。また該中華麺が多層麺の場合、好ましくは、少なくとも該多層麺の内層の生地にかんすい原料を含有する。該多層麺の外層及び内層の生地がともにかんすい原料を含有してもよい。中華麺の食感の観点から、該内層の生地は、好ましくはpHが該外層の生地よりも高く、かつpH8.0~11.0である。より好ましくは、該内層の生地はpH9.5~10.5であり、かつ該外層の生地よりも0.2以上高いpHを有する。
【0027】
前記麺生地からの麺類の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、麺生地を、ロール等の通常の手段により圧延し、又は、必要に応じて複合と圧延を繰り返して、麺帯を得る。その後、該麺帯を切出し等の通常の成形手段により成形して、生麺類を製造することができる。あるいは、麺生地を押出機等により押出して生麺類を製造することができる。これらの工程は、当該分野の通常の技術に従って、又は通常用いられる製麺装置を用いて行うことができる。
【0028】
また例えば、麺類が多層麺の場合、得られた外層生地及び内層生地をそれぞれ圧延して外層麺帯及び内層麺帯を得る。該内層麺帯を2枚の該外層麺帯で両側から挟み込んで多層麺帯を作製し、次いでこれを圧延し、製麺することにより、生の多層麺を製造することができる。本発明で用いる多層麺は、その最外層の両側を該外層生地から作製し、該最外層の内側の層を該内層生地から作製すること以外は、従来の多層麺の製造方法と同様の手順で製造することができる。例えば、圧延と製麺の手段としては、押出し、ロールによる圧延と切出し、などが挙げられるが、特に限定されない。
【0029】
製造された生麺類は、全体の厚みが1~4mmであることが好ましい。麺類が多層麺の場合、該多層麺の各層の厚みは、麺の層数や求める食感に応じて適宜調整することができる。例えば、該多層麺における外層と内層の厚みの比は、外層/内層/外層=1~16:8:1~16であり、好ましくは2~16:8:2~16である。
【0030】
得られた生麺類を加熱調理し、得られた調理済みを冷蔵することで、本発明で用いる冷蔵調理済み麺類を製造することができる。該生麺類の加熱調理の手段としては、茹で、蒸しなどが挙げられる。該加熱調理により、麺類を喫食可能にα化する。該茹でや蒸しに用いる水としては、水、食塩水などが使用できる。必要に応じて、該加熱調理された麺類を水洗、風冷、空冷などにより冷却する。基本的には、該生麺類は、密封包装されることなく加熱調理され、好ましくは包装されることなく加熱調理される。一方、得られた調理済み麺類は、好ましくは包装されて冷蔵保存される。例えば、該生麺類は大量にまとめて茹で調理された後、水洗冷却し、小分けにされ、例えば1食ごとに分けられ、冷蔵保存用に包装される。該調理済み麺類の包装には、袋、カップ、ボウル、トレイなどの任意の形状の容器を用いることができる。冷蔵保存中の麺類の乾燥を防ぐため、該容器は封止可能なものであることが好ましく、そのような容器としては、封止可能な袋や、蓋付きの又は開口部をシール可能なカップ、ボウル又はトレイなどが挙げられる。ただし、本発明で該調理済み麺類の包装に用いられる容器は、レトルトパウチのような加圧加熱殺菌用の容器ではない。該容器は、プラスチック容器などの冷蔵と電子レンジ処理が可能な素材から製造されたものであると好ましい。また該容器は、カップやボウルなどの、電子レンジ処理の後そのまま食器として使用できるものであると好ましい。好ましい例において、該調理済み麺類は、上面を蓋又はシールで閉じたカップ、ボウル又はトレイ内に包装された状態で冷蔵保存され、後述する電子レンジ処理にかけられる。
【0031】
得られた調理済み麺類の冷蔵は、一般的な冷蔵調理済み麺類と同様に行うことができる。例えば、該調理済み麺類を1食~数食ごとに包装し、通常の冷蔵温度下(例えば約0℃~約10℃)で保存すればよい。ただし、保管や流通の段階で一時的に該調理済み麺類を冷凍保存されることは許容される。本発明で用いる冷蔵調理済み麺類は、店頭で販売又は販売のために保管されているとき、あるいは最終消費者に提供されるときには冷蔵温度下で保存されている。好ましくは、本発明で用いる冷蔵調理済み麺類は、調理済み麺類として製造されてから、後述する電子レンジ処理までに、少なくとも6時間、より好ましくは12~120時間、冷蔵温度下で保存されている。
【0032】
本発明においては、前記の冷蔵調理済み麺類を電子レンジ処理して、喫食用の調理済み麺類を製造する。言い換えると、該電子レンジ処理により、冷蔵調理済み麺類を喫食用に仕上げる。冷蔵調理済み麺類を電子レンジで加熱することで、そのまま喫食する場合、又は室温下で放置されて昇温した場合と比べて、麺のほぐれと食感をより改善することができる。
【0033】
前記電子レンジ処理にかける冷蔵調理済み麺類の量は、喫食する量に合わせて適宜調整すればよく、例えば、一度に電子レンジ処理する量として、好ましくは70~500g、より好ましくは100~450g、さらに好ましくは150~400gの範囲であり得る。該電子レンジ処理にかける前の冷蔵調理済み麺類は、中心部の品温が冷蔵温度帯周辺、例えば0~10℃、好ましくは3~10℃である。本明細書において、麺類の中心部の品温とは、該麺類の麺塊の中心部の温度をいう。
【0034】
本発明による冷蔵調理済み麺類の電子レンジ処理は、該冷蔵調理済み麺類の中心部の品温が、好ましくは12~30℃、より好ましくは12~25℃、さらに好ましくは14~25℃になるまで行われる。このとき、電子レンジ処理後の麺類の中心部の品温が低すぎると、麺類のほぐれや食感が充分に向上せず、他方、中心部の品温が高すぎると冷やし麺としては好ましくない温度になり、また麺がべたつきやすくなる。
【0035】
前記電子レンジ処理に用いる電子レンジは、型式や出力は特に制限されず、例えば、ターンテーブルを具備するものでもしないものでもよい。例えば、電子レンジの出力は、好ましくは200W以上、より好ましくは200~2000W、より好ましくは400~2000Wである。該電子レンジ処理での処理時間(加熱時間)は、前記冷蔵調理済み麺類が前述した品温に達すればよいので、使用する電子レンジの出力、処理する麺類の量などに応じて異なり得る。例えば、処理時間は、電子レンジ処理する冷蔵調理済み麺類70~500gあたり、200~2000Wの電子レンジ出力で5~100秒間の範囲で調整すればよい。より詳細には、処理時間は、該冷蔵調理済み麺類150~400gあたり、電子レンジの出力が1000W以上の場合、好ましくは5~50秒間、出力700~1000Wの場合、好ましくは5~70秒間、出力700W未満の場合、好ましくは7~100秒間の範囲で調整すればよい。好ましくは、該冷蔵調理済み麺類は、冷蔵保存に用いた包装容器に包装された状態のまま電子レンジ処理される。より好ましくは、該冷蔵調理済み麺類は、該包装容器ごと電子レンジ処理され、喫食用に供される。
【0036】
前述の手順で電子レンジ処理した調理済み麺類は、そのまま喫食可能である。すなわち、本発明においては、前記冷蔵調理済み麺類を、前記電子レンジ処理により喫食用の調理済み麺類として仕上げる。本発明で得られた電子レンジ処理された調理済み麺類は、そのままでも冷たい状態~常温の状態、例えば12~30℃程度の品温であるため、冷やし麺として好適である。すなわち、本発明で前記電子レンジ処理を経て製造された調理済み麺類は、いわゆるレンジ加熱仕上げの冷やし麺であり得る。必要に応じて、該電子レンジ処理した調理済み麺類は、さらに水洗冷却して喫食してもよい。
【0037】
好ましくは、該電子レンジ処理した調理済み麺類は、冷やし中華、冷やしうどん、冷やしそば、冷やしつけ麺、冷製パスタなどの冷やし麺として喫食される。好ましくは、該電子レンジ処理した調理済み麺類は、喫食前に、調味料を添加される。該調味料は、好ましくは、たれ、スープなどの液状調味料であり、より好ましくは15℃以下の液状調味料である。
【0038】
本発明に用いる冷蔵調理済み麺類は、調理済み麺類以外に、前述した調味料、具材などを備えていてもよい。これらの調味料、具材などは、該麺類とともに包装され、冷蔵保存されていてもよく、又は別添えされていてもよい。好ましくは、該調味料、具材などは、該麺類とともに冷蔵保存される。また、該麺類とともに冷蔵保存された調味料、具材などは、該麺類とともに電子レンジ処理されてもよいが、電子レンジ処理されないように電子レンジ処理する際には該麺類と分けられてもよい。好ましくは、該調味料は、電子レンジ処理されないように、冷蔵調理済み麺類を電子レンジ処理する際には該麺類と分けられ、該電子レンジ処理の後に該麺類に添加される。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0040】
製造例1.冷蔵中華麺の製造
1)材料
小麦粉:中力粉
加工澱粉:エーテル化タピオカ澱粉
かんすい:粉末かんすい青(オリエンタル酵母工業)
【0041】
2)単層麺の製造
表1及び2に示す組成の原料粉と練水を混合し、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。得られた生地のpHを測定した。該生地を製麺ロールで圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(#20角)で切り出して麺線を製造した(麺厚1.35mm)。
【0042】
3)多層麺の製造
外層:表3に示す組成の原料粉と練水を混合し、減圧(-0.093MPa)下で混捏し、圧延して厚さ7mmのシート状の外層生地を得た。得られた生地のpHを測定した。
内層:表3に示す組成の原料粉と練水を混合し、減圧(-0.093MPa)下で混捏し、圧延して厚さ7mmのシート状の内層生地を得た。得られた生地のpHを測定した。
2枚の外層生地の間に1枚の内層生地を積層し、圧延して、三層麺帯を調製した。外層と内層の厚比は外層:内層:外層=1:1:1であった。得られた麺帯を切り刃(#20角)で切り出して三層の麺線(麺厚1.35mm)を製造した。
【0043】
4)冷蔵麺の製造
前記3)で得られた麺線を、対麺歩留まりが175%程度となるように熱湯で茹でた。得られた茹で麺200gを容器に充填し、冷蔵庫(4℃)で24時間保存した。
【0044】
5)具材あり冷蔵麺の製造
前記3)で得られた麺線を、対麺歩留まりが175%程度となるように熱湯で茹でた。得られた茹で麺300gと蒸し野菜(キャベツ及びもやし)50gを容器に充填し、冷蔵庫(4℃)で24時間保存した。
【0045】
製造例2.冷蔵うどんの製造
1)材料
小麦粉:中力粉
加工澱粉:アセチル化タピオカ澱粉
【0046】
2)冷蔵麺の製造
表4に示す組成の原料粉と練水を混合し、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。得られた麺生地のpHを測定した。該生地を製麺ロールで圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(#10角)で切り出して麺線を製造した(麺厚3.0mm)。得られた麺線を、対麺歩留まりが175%程度となるように熱湯で茹でた。得られた茹でうどん200gを容器に充填し、冷蔵庫(4℃)で24時間保存した。
【0047】
製造例3.冷蔵そばの製造
1)材料
小麦粉:中力粉
そば粉
加工澱粉:アセチル化タピオカ澱粉
【0048】
2)冷蔵麺の製造
表5に示す組成の原料粉と練水を混合し、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。得られた麺生地のpHを測定した。該生地を製麺ロールで圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(#18角)で切り出して麺線を製造した(麺厚1.2mm)。得られた麺線を、対麺歩留まりが175%程度となるように熱湯で茹でた。得られた茹でそば200gを容器に充填し、冷蔵庫(4℃)で24時間保存した。
【0049】
試験例1
製造例1~3で製造した冷蔵保存後の麺を以下の(a)~(c)のとおり処理した。
(a)そのまま喫食:麺を冷蔵庫から出し、麺の中心部の品温が約8℃になるまで、容器ごと約2分間室温に放置した。
(b)室温放置:麺を冷蔵庫から出し、麺の中心部の品温が約18℃になるまで、容器ごと約60分間室温に放置した。
(c)レンジ:麺を冷蔵庫から出し、電子レンジ(シャープ業務用電子レンジ RE-7600Pフラットテーブル型)により、麺の中心部の品温が所定の温度になるまで容器ごと加熱した。加熱の際の電子レンジの出力、加熱後の麺の中心部の品温は、表1~5のとおりとした。
上記(a)~(c)の処理をした麺につゆをかけてほぐし、喫食した。その際の麺のほぐれ、食感、風味等を、訓練したパネラー10人により下記評価基準で評価した。麺のほぐれ、ねじれ、柔軟性、つるみ、風味については、10人の評価の平均点を求めた。麺のべたつきについては、前記パネラー10人のうち2人以上が×と評価した場合は×とした。結果を表1~5に示す。
<評価基準>
(ほぐれ)
5点:対照より非常に優れる
4点:対照より優れる
3点:対照よりやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照より劣る
(ねじれ)
5点:対照よりも麺のねじれがかなり解消されている
4点:対照よりも麺のねじれが解消されている
3点:対照よりも麺のねじれがやや解消されている
2点:対照と同等の麺のねじれ状態である
1点:対照よりも麺のねじれが顕著である
(柔軟性)
5点:対照より非常にしなやかで柔軟性に非常に優れる
4点:対照よりしなやかで柔軟性に優れる
3点:対照よりややしなやかで、柔軟性にやや優れる
2点:対照と同等のしなやかさ、柔軟性である
1点:対照より強張っており、柔軟性に欠ける
(つるみ)
5点:対照より非常に優れる
4点:対照より優れる
3点:対照よりやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照より劣る
(風味)
5点:対照例より非常に優れる
4点:対照例より優れる
3点:対照例よりやや優れる
2点:対照例と同等である
1点:対照例より劣る
(べたつき)
○:問題なし
×:麺表面にべたつきが生じている
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】