(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172381
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】差動増幅回路
(51)【国際特許分類】
H03F 3/45 20060101AFI20231129BHJP
H03F 1/52 20060101ALI20231129BHJP
H03K 5/08 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
H03F3/45 210
H03F3/45 110
H03F1/52 220
H03K5/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084128
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099818
【弁理士】
【氏名又は名称】安孫子 勉
(72)【発明者】
【氏名】小川 正訓
【テーマコード(参考)】
5J039
5J500
【Fターム(参考)】
5J039DA09
5J039KK18
5J039MM16
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA47
5J500AC13
5J500AC57
5J500AF20
5J500AH10
5J500AH17
5J500AH19
5J500AK05
5J500AK09
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5J500AM17
5J500AM21
5J500AT01
5J500AT02
5J500AT06
5J500DN02
5J500DN12
5J500DN22
5J500DP01
5J500WU08
5J500WU09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】消費電流の増加を招くことなく、NBTIやPBTIに起因するMOSトランジスタを用いた差動対における閾値電圧の変動を低減、抑圧する差動増幅回路を提供する。
【解決手段】差動増幅回路において、入力差動対101を構成する差動対用のトランジスタ1、2のドレイン電圧を所定電圧範囲に制限する電圧制限回路301は、NBTIに起因した差動対用トランジスタ1、2の閾値電圧の変動に伴う入力オフセット電圧の変動量を所望の大きさとするに必要とされる差動対用トランジスタ1、2のドレイン電位とゲート電位との電圧差に相当する電圧値が所定電圧範囲の上限値とされる一方、差動対用トランジスタ1、2のゲート電圧が同電位となる均衡状態において、入力差動対101から電圧制限回路301への電流流入が零となる際の差動対用トランジスタ1、2のドレイン電圧に相当する電圧値が所定電圧範囲の下限値とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PチャネルMOSFETを用いて差動増幅可能に構成された第1の入力差動対と、前記第1の入力差動対の負荷となる能動負荷回路とを有してなる差動増幅回路において、
前記第1の入力差動対を構成する前記PチャネルMOSFETのドレイン電圧を所定電圧範囲に制限する電圧制限回路を設け、
前記電圧制限回路は、負バイアス温度不安定性に起因した前記PチャネルMOSFETの閾値電圧の変動に伴う入力オフセット電圧の変動量を所望の大きさとするに必要とされる前記PチャネルMOSFETのドレイン電位とゲート電位との電圧差に相当する電圧値が前記所定電圧範囲の上限値とされる一方、
前記第1の入力差動対を構成するPチャネルMOSFETのゲート電圧が同電位となる均衡状態において、前記第1の入力差動対から前記電圧制限回路への電流流入が零となる際の前記第1の入力差動対を構成するPチャネルMOSFETのドレイン電圧に相当する電圧値が前記所定電圧範囲の下限値とされるよう構成されてなることを特徴とする差動増幅回路。
【請求項2】
前記第1の入力差動対の出力を増幅、出力するフォールデットカスコード回路が設けられてなることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項3】
前記第1の入力差動対と入力が共通するように第2の入力差動対が設けられると共に、前記第2の入力差動対の負荷となる第2の能動負荷回路と、前記第1の入力差動対の出力と前記第2の入力差動対の出力を加算し、増幅、出力可能にフォールデットカスコード回路とが設けられてなることを特徴とする請求項1記載の差動増幅回路。
【請求項4】
前記第1の入力差動対は、PチャネルMOSFETを用いた第1差動対用第1及び第2のトランジスタを有し、前記第1差動対用第1のトランジスタのゲートには反転入力信号が、前記第1差動対用第2のトランジスタのゲートには非反転入力信号が、それぞれ印加可能とされ、
前記第1差動対用第1及び第2のトランジスタのソースは、相互に接続されると共に、定電流源を介して正電源電圧が印加可能とされる一方、前記第1差動対用第1及び第2のトランジスタのドレインは、前記能動負荷回路に接続されてなり、
前記電圧制限回路は、NチャネルMOSFETを用いた制限用第1乃至第4のトランジスタを有してなり、前記制限用第1乃至第4のトランジスタは、それぞれゲートとドレインが相互に接続されたダイオード接続状態とされ、前記制限用第1のトランジスタのドレインは、前記第1差動対用第1のトランジスタのドレインに、前記制限用第2のトランジスタのドレインは、前記第1差動対用第2のトランジスタのドレインに、それぞれ接続され、前記制限用第1のトランジスタのソースは、前記制限用第3のトランジスタのドレインに接続され、前記制限用第3のトランジスタのソースには、負電源電圧が印加可能とされ、
前記制限用第2のトランジスタのソースは、前記制限用第4のトランジスタのドレインに接続され、前記制限用第4のトランジスタのソースには、負電源電圧が印加可能とされてなることを特徴とする請求項1、又は、請求項3記載の差動増幅回路。
【請求項5】
前記電圧制御回路に代えて、第2の電圧制御回路を設け、
前記第2の電圧制御回路は、NチャネルMOSFETを用いた制限用第1乃至第3のトランジスタを有してなり、前記制限用第1乃至第3のトランジスタは、それぞれゲートとドレインが相互に接続されたダイオード接続状態とされ、前記制限用第1のトランジスタのドレインは、前記第1差動対用第1のトランジスタのドレインに、前記制限用第2のトランジスタのドレインは、前記第1差動対用第2のトランジスタのドレインに、それぞれ接続され、前記制限用第1及び第2のトランジスタのソースは、相互に接続されると共に、前記制限用第3のトランジスタのドレインに接続され、前記制限用第3のトランジスタのソースには、負電源電圧が印加可能とされてなることを特徴とする請求項4記載の差動増幅回路。
【請求項6】
前記電圧制御回路に代えて、第3の電圧制御回路を設け、
前記第3の電圧制御回路は、NチャネルMOSFETを用いた制限用第2及び第4のトランジスタを有してなり、前記制限用第2及び第4のトランジスタは、それぞれゲートとドレインが相互に接続されたダイオード接続状態とされ、前記制限用第2のトランジスタのドレインは、前記第1差動対用第2のトランジスタのドレインに接続され、前記制限用第2のトランジスタのソースは、前記制限用第4のトランジスタのドレインに接続され、前記制限用第4のトランジスタのソースには、負電源電圧が印加可能とされてなることを特徴とする請求項4記載の差動増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペアンプやコンパレータに用いられる差動増幅回路に係り、特に、NBTI(Negative Bias Temperature Instability:負バイアス温度不安定性)やPBTI(Positive Bias Temperature Instability:正バイアス温度不安定性)によるMOSトランジスタの閾値電圧の変化に起因した入力オフセット電圧の経年変化の抑制、低減を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
オペアンプやコンパレータの入力オフセット電圧は、デバイスの性能を決定する重要なパラメータの一つである。
この入力オフセット電圧の発生原因の一つは、オペアンプやコンパレータの初段に用いられる差動増幅回路を構成する種々の素子が有する電気的特性における不整合である、いわゆる素子ミスマッチを挙げることができる。
そのため、差動増幅回路の素子ミスマッチを低減することは、オペアンプやコンパレータの入力オフセット電圧の改善を図る上で重要となる。
【0003】
ところで、この入力オフセット電圧は、能動負荷を備えた一般的な差動増幅回路においては、上述のNBTIによるPMOS(PチャネルMetal-Oxide Semiconductor)トランジスタ(以下「PMOS」と称する)の閾値電圧Vthの変化に伴い変動することが知られている。ここで、閾値電圧Vthの変化とは、例えば、Vth=-0.7Vが-0.8Vとなるような変化を意味する。
このNBTIによる閾値電圧Vthの変化について、
図14及び
図15を参照しつつ説明すれば、まず、
図14には、能動負荷を備えた一般的な差動増幅回路の構成例が示されている。
【0004】
すなわち、
図14に示された差動増幅回路は、PMOSを用いたトランジスタM1,M2からなる差動対と、NMOS(NチャネルMetal-Oxide Semiconductor)トランジスタ(以下「NMOS」と称する)を用いたトランジスタM3,M4からなる能動負荷とを具備して構成されたものとなっている。
【0005】
このような構成の差動増幅回路においては、
図15に示されたようなバイアス条件下で、NBTIによる閾値電圧Vthの変化が顕著に表れる。
なお、
図14においては、
図15のバイアス条件下における主要なノードの電圧が示されている。
まず、バイアス条件は、正電源電圧VDD=5.5V、負電源電圧VSS=0V、反転入力端子電圧Vinm=5.5V、非反転入力端子電圧Vg=0である(
図15参照)。
【0006】
このバイアス条件下で、NBTIの影響を受けて閾値電圧Vthが変化する素子は、トランジスタM2である。上述のバイアス条件下において、トランジスタM2のゲート電圧VgはVg=0V、ソース電位VsはVs=5.3V、ドレイン電位VdはVd=5.3Vとなる。このように、ゲート電位が低く、ソース電位及びドレイン電位が高い場合に、NBTIの影響により閾値電圧Vthが変化することとなる。
この閾値電圧Vthの変化は、
図17に示されたように、ゲート電位とドレイン電位の差が大きいほど指数関数的に大きくなる傾向にある。
【0007】
図17に示された閾値電圧Vthの変動量は、温度加速度試験により、NBTIの影響を受ける上述したゲート電位Vg=0V、ドレイン電位Vd=ソース電位Vs=5.3Vの状態を10年程度維持した場合に、閾値電圧Vthがどの程度変化するかを推定した結果を表したものである。
閾値電圧Vthの変動量は、オペアンプやコンパレータにおける入力オフセット電圧の変動量となる。すなわち、先に述べたバイアス条件(
図15参照)で、
図14に示された構成の差動増幅回路を有するオペアンプやコンパレータを10年間使用し続けた場合、入力オフセット電圧は、
図17において”従来技術”と表記された箇所の変動量である80mV程度変動することを意味する。
一般に、オペアンプやコンパレータの入力オフセット電圧は、数mV以下のスペックであるため、上述のような入力オフセット電圧の経年変化は大きな問題となる。
【0008】
このような入力オフセット電圧の経年変化を解決する方策として、差動増幅回路を、例えば、特許文献1に開示されたような回路構成とする方法がある。
図16には、この特許文献1に開示された差動増幅回路が示されており、以下、同図を参照しつつ、この回路について説明する。
この差動増幅回路は、先に
図14に示された差動増幅回路に、NMOSを用いたトランジスタM101,M102、及び、電流源I2が付加された構成を有するものである。
このような素子の追加により、トランジスタM2のNBTI状態が緩和されるものとなる。
【0009】
この
図16に示された差動増幅回路において、NBTI状態がどの程度緩和されるかについて、以下に説明する。
まず、前提として、
図16に示された差動増幅回路において、バイアス条件は先に
図15に示されたバイアス条件と同一とする。
図16において、主要なノードには、上述のバイアス条件を適用した場合の電圧が示されている。
先に
図14に示された構成においては、トランジスタM2のドレイン電位及びソース電位共に5.3Vであったのに対して、
図16に示された差動増幅回路においては、同じバイアス条件で、共に1.5Vとなる。したがって、トランジスタM2のドレイン電位Vdとゲート電位Vgとの差(Vd-Vg)は、(Vd-Vg)=1.5Vとなり、先の
図14に示された差動増幅回路におけるドレイン電位とゲート電位との差に比して確実に小さくなっている。
【0010】
図17において、この1.5Vのドレイン電位とゲート電位との差に対する閾値電圧Vthの変動量が、”特許文献”の表記の箇所にプロットしてあり、その具体的な変動量は、ほぼ0mVとなっていることが確認できる。
このように、トランジスタM2のドレイン電位、ソース電位を低下させることができるのは、トランジスタM2のゲート電位を、トランジスタM102,101を介してトランジスタM1へ伝えているためである。
【0011】
トランジスタM1のゲート電位Vyは、上述の素子によりVy=0.2Vに抑えられている。
その結果、トランジスタM1,M2のソース電位VsもVs=1.5Vと低い値となる。トランジスタM2は、ソース電位がVs=1.5Vとなるため、ドレイン電位VdもVd=1.5Vに抑えられることとなる。
【0012】
なお、
図17に示された特性線図における閾値電圧Vth変動量は、上述のように温度加速試験による推定値である。
また、例えば、特許文献2には、NBTIの影響による閾値電圧Vthの変動量は、温度が高くなるほど大きくなり、素子劣化が促進されることが開示されている。
さらに、ストレス印加時間が長いほど、閾値電圧Vthの変動量が大きくなることが知られている。したがって、差動増幅回路を高温の環境条件下で加速試験することで、10年間使用し続けた場合における閾値電圧Vth変動量を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2020-120320号公報
【特許文献2】特許第4989261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、先の
図16で説明した特許文献1に開示された差動増幅回路の場合、確かに入力オフセット電圧の変化を抑えることはできるものの、電流源I2の追加により、消費電流の増加を招くという新たな問題が生ずる。
【0015】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、消費電流の増加を招くことなく、NBTIやPBTIに起因するMOSトランジスタを用いた差動対における閾値電圧の変動を抑圧可能とすることで、入力オフセット電圧の変動を抑制、低減し、信頼性、安定性の高い差動増幅回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る差動増幅回路は、
PチャネルMOSFETを用いて差動増幅可能に構成された第1の入力差動対と、前記第1の入力差動対の負荷となる能動負荷回路とを有してなる差動増幅回路において、
前記第1の入力差動対を構成する前記PチャネルMOSFETのドレイン電圧を所定電圧範囲に制限する電圧制限回路を設け、
前記電圧制限回路は、負バイアス温度不安定性に起因した前記PチャネルMOSFETの閾値電圧の変動に伴う入力オフセット電圧の変動量を所望の大きさとするに必要とされる前記PチャネルMOSFETのドレイン電位とゲート電位との電圧差に相当する電圧値が前記所定電圧範囲の上限値とされる一方、
前記第1の入力差動対を構成するPチャネルMOSFETのゲート電圧が同電位となる均衡状態において、前記第1の入力差動対から前記電圧制限回路への電流流入が零となる際の前記第1の入力差動対を構成するPチャネルMOSFETのドレイン電圧に相当する電圧値が前記所定電圧範囲の下限値とされるよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、入力オフセット電圧の変動を招く差動対を構成するMOSトランジスタの閾値電圧の変動の要因となる能動負荷回路とトランジスタとの接続点の電圧を、電圧制限回路により、閾値電圧の変動を抑圧できる所定電圧範囲に制限することで、消費電流の増加を招くことなく、NBTIやPBTIに起因するMOSトランジスタを用いた差動対における閾値電圧の変動抑圧を可能とし、それによって入力オフセット電圧の変動を抑圧、低減することができ、信頼性、安定性の高い差動増幅回路を提供することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第1の基本回路構成例を示す回路図である。
【
図2】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第1の具体回路構成例を示す回路図である。
【
図3】
図2に示された第1の具体回路構成例において均衡状態の場合の主要なノードにおける電位を表した回路図である。
【
図4】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第2の具体回路構成例を示す回路図である。
【
図5】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第3の具体回路構成例を示す回路図である。
【
図6】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第2の基本回路構成例を示す回路図である。
【
図7】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第4の具体回路構成例を示す回路図である。
【
図8】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第3の基本回路構成例を示す回路図である。
【
図9】本発明の実施の形態における差動増幅回路の第5の具体回路構成例を示す回路図である。
【
図10】PBTIを説明するための従来構成の差動増幅回路の構成例を示す回路図である。
【
図11】本発明の実施の形態における差動増幅回路を構成するMOSトランジスタのドレイン電位とゲート電位の差に対する閾値電圧の変動量の変化特性を示す特性線図である。
【
図12】本発明の実施の形態における差動増幅回路のバイアス状態前後におけるPMOS差動対の入力オフセット電圧の変動量の変化特性を示す特性線図である。
【
図13】本発明の実施の形態における差動増幅回路のバイアス状態前後におけるNMOS差動対の入力オフセット電圧の変動量の変化特性を示す特性線図である。
【
図14】従来の差動増幅回路の構成例を示す回路図である。
【
図15】NBTIの影響が生ずるバイアス条件の一例を示す回路図である。
【
図16】入力オフセット電圧の経年変化を解決する方策が施された従来の差動増幅回路の構成例を示す回路図である。
【
図17】従来の差動増幅回路におけるドレイン電位とゲート電位の差に対する閾値電圧の変動量の変化特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図13を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における差動増幅回路の第1の基本回路構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における演算増幅器は、入力差動対101と、能動負荷回路(
図1においては「AC-L」と表記)201と、電圧制限回路(
図1においては「V-LIM」と表記)301とに大別されて構成されたものとなっている。
【0020】
入力差動対101は、PMOSを用いた差動対用第1及び第2のトラジスタ(
図1においては、それぞれ「M1」、「M2」と表記)1,2を中心に構成されている。
差動対用第1及び第2のトランジスタ1,2は、ソースが相互に接続され、その接続点と正電源端子53との間に定電流源41が接続されており、正電源端子53には、外部から電源電圧VDDが印加されるものとなっている。
【0021】
また、差動対用第1のトランジスタ1のゲートは、反転入力信号が印加される反転入力端子(
図1においては「INM」と表記)51に、差動対用第2のトランジスタ2のゲートは、非反転入力信号が印加される非反転入力端子(
図1においては「INP」と表記)52に、それぞれ接続されている。
そして、差動対用第1のトランジスタ1のドレインは、第1負荷第1入力端子A1を介して能動負荷回路201に接続されると共に、第1制限入力端子C1を介して電圧制限回路301に接続されている。
【0022】
同様に、差動対用第2のトランジスタ2のドレインは、第1負荷第2入力端子A2を介して能動負荷回路201に、第2制限入力端子C2を介して電圧制限回路301に、それぞれ接続されると共に、出力端子(
図1においては「OUT」と表記)55に接続されている。
なお、能動負荷回路201の負電源電圧ラインは、第1負荷基準端子A3を介して、電圧制限回路301の負電源電圧ラインは、制限基準端子C3を介して、共に負電源端子(
図1においては「VSS」と表記)54に接続されている。
【0023】
能動負荷回路201は、入力差動対101の負荷として機能する回路であり、いわゆる能動素子を用いてなるもので、基本的には従来同様の構成を有してなるものである。
電圧制限回路301は、入力差動対101を構成するMOSトランジスタの閾値電圧の変動の要因となる能動負荷回路201との接続点における電圧を、所定電圧範囲に制限することで、閾値電圧の変動を抑圧し、それによって入力オフセット電圧の変動を抑圧、低減可能に構成されてなるものである(詳細は後述)。
かかる構成におけるこの第1の基本回路構成例の差動増幅回路の回路動作については、次述する第1の具体回路構成例における回路動作の説明を以て、これに代えることとする。
【0024】
図2には、
図1に示された第1の基本回路構成例の具体回路例が示されており、以下、
図2を参照しつつ第1の具体回路構成例について説明する。
なお、
図1に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
また、
図2においては、
図1において示された端子A1~A3、及び、端子C1~C3の表記を省略することとする。
最初に、能動負荷回路201は、NMOSを用いた負荷用第1及び第2のトランジスタ(
図2においては、それぞれ「M3」、「M4」と表記)3,4を有して構成されている。
【0025】
負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4は、次述するようにカレントミラーを構成している。
すなわち、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4は、ゲートが相互に接続されると共に、負荷用第1のトランジスタ3のドレインに接続されている。
また、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4のソースは、共に負電源端子54に接続されている。
そして、負荷用第1のトランジスタ3のドレインは、差動対用第1のトランジスタ1のドレインに接続されている。また、負荷用第2のトランジスタ4のドレインは、差動対用第2のトランジスタ2のドレインに接続されると共に、出力端子55に接続されている。
【0026】
一方、電圧制限回路301は、NMOSを用いた制限用第1乃至第4のトランジスタ(
図2においては、それぞれ「M11」、「M12」、「M13」、「M14」と表記)11~14により構成されている。
制限用第1乃至第4のトランジスタ11~14は、いずれもゲートとドレインが接続されて、いわゆるダイオード接続状態となっている。
そして、差動対用第1のトランジスタ1のドレインと負電源端子54との間に、制限用第1及び第3のトランジスタ11,13が直列接続されて設けられる一方、差動対用第2のトランジスタ2のドレインと負電源端子54との間に、制限用第2及び第4のトランジスタ12,14が直列接続されて設けられている。
【0027】
すなわち、制限用第1のトランジスタ11のソースと制限用第3のトランジスタ13のドレインが接続される一方、制限用第1のトランジスタ11のドレインは、差動対用第1のトランジスタ1のドレインに接続され、制限用第3のトランジスタ13のソースは、負電源端子54に接続されている。
また、制限用第2のトランジスタ12のソースと制限用第4のトランジスタ14のドレインが接続される一方、制限用第2のトランジスタ12のドレインは、差動対用第2のトランジスタ2のドレインに接続され、制限用第4のトランジスタ14のソースは、負電源端子54に接続されている。
【0028】
次に、かかる構成における回路動作について説明する。
本発明の実施の形態における差動増幅回路にあって重要となるのは、電圧制限回路301により、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、所定電圧範囲に制限されることである。すなわち、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧より1Vgs程度高い電圧で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧を超えない範囲に制限されることである。なお、ここで、1Vgs程度は、具体的には、CMOSトランジスタのゲート・ソース間の電位差程度である。
【0029】
以下、この点について具体的に説明する。
先ず、前提として、バイアス条件は、従来回路におけるバイアス条件と同一であり、具体的には、先に、従来技術についての説明において示された
図15のバイアス条件に準ずるものとする。
図2において、主要なノードに表記された電圧は、上述のバイアス条件下におけるものである。
差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位Vdは、
図2に示された通り、Vd=1.7Vに抑えられる。
このVd=1.7Vは、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧に1Vgsを加算した値である。
【0030】
このように、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位Vdの設定を、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧に1Vgsを加算した値としたのは、均衡状態において、制限用第1のトランジスタ11から負電源端子54へ、また、制限用第2のトランジスタ12から負電源端子54へ、それぞれ電流が流れないようにするためである。
ここで、”均衡状態”とは、差動対用第1及び第2のトランジスタ1,2のゲート電位が同電位となった状態であり、
図3には、
図2に示された差動増幅回路が均衡状態の場合の主要なノードの電圧が示されている。
このような均衡状態は、オペアンプにあっては、帰還をかけた状態に生じ、また、コンパレータにあっては、出力が論理値Highから論理値Lowへ切り替わる際に生ずる。
【0031】
この均衡状態において、上述のように、制限用第1のトランジスタ11から負電源端子54へ、また、制限用第2のトランジスタ12から負電源端子54へ、それぞれ電流が流れると、差動増幅回路の電圧利得が低下する問題が生ずる。
この電圧利得の低下が生ずるのは、制限用第1乃至第4のトランジスタ11~14において、上述のように電流が流れることで、能動負荷の出力インピーダンスが低下したことと等価な状態となるためである。
【0032】
さらに、この均衡状態において、製造上の素子ミスマッチなどにより、制限用第1のトランジスタ11と制限用第2のトランジスタ12に流れる電流に差が生ずると、入力オフセット電圧が発生する問題がある。これらの問題を回避するため、本発明の実施の形態における差動増幅回路は、均衡状態において、先に述べたように制限用第1のトランジスタ11から負電源端子54へ、また、制限用第2のトランジスタ12から負電源端子54へ、それぞれ電流が流れることがないように、電圧制限回路301のトランジスタを2段積みする構成を採っている。
すなわち、制限用第1及び第3のトランジスタ11,13が直列接続されて2段積みされており、また、制限用第2及び第4のトランジスタ12,14が、同様に直列接続されて2段積みされている。
【0033】
その結果、先に述べたバイアス条件(
図15参照)下にあっては、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位は、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧より1Vgs程度高い電圧、Vd=1.7Vに制限されることとなる。
一方、均衡状態において、制限用第1乃至第4のトランジスタ11~14において、上述のような電流を流さないことにだけに着目するのであれば、上述のような電圧制限回路301におけるトランジスタの2段積みではなく、3段積みであっても良い。しかし、3段積みとした場合、NBTI対策効果が低下することとなり、本願発明の本来の目的が毀損されてしまう。
【0034】
ここで、トランジスタの段数が、トランジスタの閾値電圧の変動量に及ぼす影響について、
図11を参照しつつ説明する。
図11は、MOSトランジスタのドレイン電位とゲート電位の差の変化に対する閾値電圧Vthの変化例を示す特性線図である。
同図の特性線上には、トランジスタ1段積み、2段積み、3段積みのそれぞれについて、ドレイン電位とゲート電位の差に対する閾値電圧Vthの変動量に該当する箇所に黒丸点が表記されている。
また、同様の特性線上には、従来の差動増幅回路(
図14参照)におけるドレイン電位とゲート電位の差に対する閾値電圧Vthの変動量に該当する箇所に黒丸点が表記されている。
【0035】
図11によれば、トランジスタの段数を増やすほど、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲート間の電位差(Vd-Vg)が増加し、閾値電圧Vth変動量が大きくなることが確認できる。
3段積みの場合、閾値電圧Vth変動量は数mVとなる。オペアンプやコンパレータの入力オフセット電圧のスペックは、通常、数mV以下であることを考慮すると、3段積みにおける数mVの閾値電圧Vth変動量は実用上、問題である。
【0036】
したがって、本発明の実施の形態における差動増幅回路においては、その回路定数設定の際に、NBTIによる閾値電圧Vthの変動特性を予め把握することが重要となる。そして、この特性を把握し、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲートの電位差(Vd-Vg)の目標値を定める。
本発明の実施の形態においては、閾値電圧Vthの変動がほぼ零となる際の電位差(Vd-Vg)の目標値を、(Vd-Vg)=2.2V以下としている(
図11参照)。
本発明の実施の形態における差動増幅回路においては、先に述べたように、電圧制限回路301において、トランジスタ2段積みの構成を採っているため、(Vd-Vg)=1.7Vとなり、先の目標値を満足したものとなっている。
【0037】
このように、本発明の実施の形態における差動増幅回路において重要となるのは、電圧制限回路301によって、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、能動負荷回路201の出力インピーダンスが低下しない電圧(本発明の実施の形態においては負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧よりも1Vgs程度高い電圧)で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧に制限されるということである。換言すれば、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位は、電圧制限回路301によって、下限値と上限値で規定される所定電圧範囲となるように制限されるようになっている。ここで、電圧制限回路301の所定電圧範囲の下限値は、均衡状態において入力差動対101から電圧制限回路301への電流流入が零となる際の差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧とされる。また、電圧制限回路301の所定電圧範囲の上限値は、上述したように閾値電圧Vthの変動がほぼ零となる際の差動対用第2のトランジスタ2のドレイン・ゲート間の電位差(Vd-Vg)に相当する電圧値とされる。
具体的には、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲート間の電位差(Vd-Vg)が、1.7V~2.2Vの範囲(
図11の横矢印の範囲)に収まるように回路定数を定めることとなる。ただし、下限値については、上述したように、均衡状態において差動対用第1及び第2のトランジスタ1,2に流れる電流が電圧制限回路301に流れないような電圧値に設定されればよく、1.7Vに限定されない。
【0038】
本発明の実施の形態における差動増幅回路の場合、先に述べたバイアス条件下において、差動対用第2のトランジスタ2は、ドレイン電位VdがVd=1.7Vに抑えられるため、NBTIによる閾値電圧Vthの変動は殆ど生じない(
図11参照)。したがって、本発明の実施の形態における差動増幅回路においては、NBTIによる入力オフセット電圧の経時変化は殆ど生ずることなく、しかも、特許文献1等の従来回路と異なり、NBTI対策のための回路構成に起因する消費電流の増加を招くことがない。
【0039】
次に、第2の具体回路構成例について、
図4を参照しつつ説明する。
なお、
図2に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の具体回路構成例は、第1の具体回路構成例で示された4つのトランジスタを用いて構成された電圧制限回路301に代えて、3つのトランジスタを用いて構成された第2の電圧制限回路301Aを備えた点が第1の具体回路構成例と異なるもので、残余の回路構成は、
図2に示された具体的回路構成例と同一構成を有するものである。
【0040】
第2の電圧制限回路301Aは、NMOSを用いた制限用第1乃至第3のトランジスタ11~13を用いて構成されたものとなっている。
この第2の電圧制限回路301Aは、差動対用第1のトランジスタ1のドレインと負電源端子54との間に、また、差動対用第2のトランジスタ2のドレインと負電源端子54との間に、それぞれトランジスタが2段積みとなる構成は、先の電圧制限回路301と同様であるが、詳細は次述するように、負電源電圧VSS側に位置する2段目のトランジスタが一つである点が電圧制限回路301の構成と異なっているものである。
【0041】
以下、具体的な回路構成について説明すれば、まず、制限用第1乃至第3のトランジスタ11~13は、電圧制限回路301と同様、いずれもそれぞれが、いわゆるダイオード接続状態となっている。
また、電圧制限回路301と同様、制限用第1のトランジスタ11のドレインは、差動対用第1のトランジスタ1のドレインに、制限用第2のトランジスタ12のドレインは、差動対用第2のトランジスタ1のドレインに、それぞれ接続されている。
【0042】
そして、制限用第1のトランジスタ11のソースと制限用第2のトランジスタ12のソースは、相互に接続されると共に、制限用第3のトランジスタ13のドレインに接続される一方、制限用第3のトランジスタ13のソースは、負電源端子54に接続されている。
この第2の具体回路構成例においても、先の第1の具体回路構成例同様、電圧制限回路301Aにより、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、負荷用第1及び第2の動作電圧より、1Vgs程度高い電圧で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧を超えない範囲に制限されるようになっている。
【0043】
そのため、この第2の具体回路構成例においても、回路定数設定の際に、先に
図11に示されたようなNBTIによる閾値電圧Vthの変動特性を予め把握し、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲートの電位差(Vd-Vg)の目標値を定める。この目標値は、先の第1の具体回路構成例同様、(Vd-Vg)=2.2V以下とするのが好適である。
また、その一方で、第2の電圧制限回路301Aにおいて、先に述べたようにトランジスタを2段積みとすることで、均衡状態において制限用第1及び第2のトランジスタ11,12に電流が流れないようにしている。
【0044】
なお、高精度オペアンプと称される入力オフセット電圧が極めて小さなオペアンプにおいては、この第2の具体回路構成例を適用した差動増幅回路を用いるのが有効である。
また、本発明の実施の形態における差動増幅回路が均衡状態にある場合、制限用第1及び第2のトランジスタ11,12には電流が流れないと説明したが、高温状態においては、ナノアンペア程度の極めて僅かのリーク電流が発生する。
【0045】
仮に、このリーク電流の大きさが、制限用第1のトランジスタ11と制限用第2のトランジスタ12で全く同じであれば問題はない。
しかし、実際には、制限用第1のトランジスタ11のリーク電流と制限用第2のトランジスタ12のリーク電流には、微少な差が生じ、このリーク電流の差が入力オフセット電圧として現れる。
そこで、入力オフセット電圧を小さくするため、すなわち、制限用第1及び第2のトランジスタ11,12のリーク電流の差を小さくするためには、制限用第1及び第2のトランジスタ11,12の各ノード電位を可能な限り同じにする必要がある。
【0046】
そこで、この第2の具体回路構成例の差動増幅回路においては、制限用第1及び第2のトランジスタ11,12のソース電位を共通電位とし、2段積みとするために制限用第3のトランジスタ13を設けた構成としてある。
図4において、主要なノードに表記された電圧値は、先に述べたバイアス条件(
図15参照)とした場合のものである。この場合、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧Vdは、Vd=1.7Vに抑制され、先の第1の具体回路構成例の場合と同様に、NBTIによる閾値電圧Vthの変動が抑えられるものとなっている(
図11参照)。
【0047】
このように、この第2の具体回路構成例における差動増幅回路は、先の第1の具体回路構成例よりも1素子少ない回路構成で、回路規模を小さくできるものとなっている。また、制限用第1及び第2のトランジスタ11,12のソース電位を共通にしたことで、高温下における制限用第1及び第2のトランジスタ11,12のリーク電流差が抑えられるため、この第2の具体回路構成例は、第1の具体回路構成例よりも高温における入力オフセット電圧の悪化が抑圧されるものとなっている。そのため、この第2の具体回路構成例は、高精度オペアンプに好適である。
【0048】
次に、第3の具体回路構成例について、
図5を参照しつつ説明する。
なお、
図2に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第3の具体回路構成例は、第1の具体回路構成例で示された4つのトランジスタを用いて構成された電圧制限回路301に代えて、2つのトランジスタを用いて構成された第3の電圧制限回路301Bを備えた点が第1の具体回路構成例と異なるもので、残余の回路構成は、
図2に示された具体的回路構成例と同一構成を有するものである。
【0049】
第3の電圧制限回路301Bは、NMOSを用いた制限用第2及び第4のトランジスタ12,14を用いて構成されたものとなっている。
すなわち、まず、制限用第2乃至第4のトランジスタ12,14は、それぞれダイオード接続状態とされて、制限用第2のトランジスタ12のソースと制限用第4のトランジスタ14のドレインが相互に接続されている。そして、制限用第2のトランジスタ12のドレインは、差動対用第2のトランジスタ2のドレインに接続される一方、制限用第4のトランジスタ14のソースは、負電源端子54に接続されている。
【0050】
この第3の具体回路構成例においても、先の第1の具体回路構成例同様、電圧制限回路301Bにより、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧より、1Vgs程度高い電圧で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧を超えない範囲に制限されるようになっている。
そのため、この第3の具体回路構成例においても、回路定数設定の際に、先に
図11に示されたようなNBTIによる閾値電圧Vthの変動特性を予め把握し、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲートの電位差(Vd-Vg)の目標値を定める。この目標値は、先の第1の具体回路構成例同様、(Vd-Vg)=2.2V以下とするのが好適である。
【0051】
また、その一方で、第3の電圧制限回路301Bにおいても、先に述べたようにトランジスタを2段積みとすることで、均衡状態において制限用第2のトランジスタ12に電流が流れないようにしている。
なお、高速オペアンプ、高速コンパレータと称される比較的短い時間での応答が可能なデバイスにおいては、この第3の具体回路構成例を適用した差動増幅回路を用いるのが好適である。
【0052】
また、この第3の具体回路構成例における電圧制御回路301Bは、第1及び第2の具体回路構成例(
図2、
図4参照)において用いられていた制限用第1のトランジスタ11が削除された構成となっている。
制限用第1のトランジスタ11には、ゲート容量があるため、このゲート容量を充放電する間、応答時間が長くなるというデメリットを招く。しかしながら、この第3の具体回路構成例の場合、上述のように制限用第1のトランジスタ11を削除した構成を採るため、先の第1、第2の具体回路構成例に比して応答時間の短縮が実現できるものとなっている。
【0053】
図5において、主要なノードに表記された電圧値は、先に述べたバイアス条件(
図15参照)とした場合のものである。この場合、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧Vdは、Vd=1.7Vに抑制され、先の第1の具体回路構成例の場合と同様に、NBTIによる閾値電圧Vthの変動が抑えられるものとなっている(
図11参照)。
【0054】
このように、この第3の具体回路構成例における差動増幅回路は、消費電力を増加させることなく、NBTIによる閾値電圧Vthの変動抑圧が可能となっている。さらに、この第3の具体回路構成例における差動増幅回路は、先の第1の具体回路構成例よりも2素子少ない回路構成で、回路規模を小さくできるものとなっている。また、この第3の具体回路構成例における差動増幅回路は、制限用第1のトランジスタ11の削除により、回路内の寄生容量を減らし、第1及び第2の具体回路構成例に比してより短い時間での回路応答が可能となっている。そのため、この第3の具体回路構成例における差動増幅回路は、特に、高速オペアンプ、高速コンパレータに適するものである。
【0055】
次に、第2の基本回路構成例について、
図6を参照しつつ説明する。
なお、
図1に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第2の基本回路構成例は、先に
図1に示された第1の基本回路構成例に、フォールデットカスコード回路(
図6においては「F-CA」と表記)401が付加された構成を有してなるものである。
かかるフォールデットカスコード回路401は、従来同様の回路構成を有してなるもので、入力差動対101の出力信号を増幅、出力するよう設けられている。
【0056】
フォールデットカスコード回路401の図示されない正電源ラインは、カスコード基準端子F1を介して正電源端子53に接続されている。
また、フォールデットカスコード回路401の一方の入力段は、カスコード第1入力端子F2を介して差動対用第1のトランジスタ1のドレインに、フォールデットカスコード回路401の他方の入力段は、カスコード第2入力端子F3を介して差動対用第2のトランジスタ2のドレインに、それぞれ接続されている。
そして、フォールデットカスコード回路401の出力段は、出力端子55に接続されている。
かかる構成におけるこの第2の基本回路構成例の差動増幅回路の回路動作については、次述する第4の具体回路構成例における回路動作の説明を以て、これに代えることとする。
【0057】
図7には、上述の第2の基本回路構成例の具体回路例である第4の具体回路構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ、第4の具体回路構成例について説明する。
なお、
図4、
図6に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
また、
図7においては、
図6において示された端子A1~A3、端子C1~C3、及び、端子F1~F3の表記を省略することとする。
【0058】
この第4の具体回路構成例におけるフォールデットカスコード回路401は、PMOSを用いたカスコード用第1及び第2のトランジスタ(
図7においては、それぞれ「M5」、「M6」と表記)5,6、及び、NMOSを用いたカスコード用第3及び第4のトランジスタ(
図7においては、それぞれ「M7」、「M8」と表記)7,8を主たる構成要素として構成されている。
すなわち、カスコード用第1及び第2のトランジスタ5,6のソースは、共に正電源端子53に接続される一方、ゲートが相互に接続されると共に、ゲートと正電源端子53との間には、正極側が正電源端子53側となるように第1の定電圧源45が接続されている。
【0059】
また、カスコード用第1のトランジスタ5のドレインは、カスコード用第3のトランジスタ7のドレインに接続されると共に、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4のゲートに接続されている。
また、カスコード用第2のトランジスタ6のドレインは、カスコード用第4のトランジスタ8のドレイン及び出力端子55に接続されている。
一方、カスコード用第3及び第4のトランジスタ7,8は、ゲートが相互に接続されると共に、ゲートと負電源端子54との間には、正極側がゲート側となるように第2の定電圧源46が接続されている。
【0060】
また、カスコード用第3のトランジスタ7のソースは、負荷用第1のトランジスタ3のドレインに、カスコード用第4のトランジスタ8のソースは、負荷用第2のトランジスタ4のドレインに、それぞれ接続されている。
かかる構成の第4の具体回路構成例においても、先の第1の具体回路構成例同様、電圧制限回路301Aにより、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧より、1Vgs程度高い電圧で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧を超えない範囲に制限されるようになっている。
【0061】
そのため、この第4の具体回路構成例においても、回路定数設定の際に、先に
図11に示されたようなNBTIによる閾値電圧Vthの変動特性を予め把握し、差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲートの電位差(Vd-Vg)の目標値を定める。この目標値は、先の第1の具体回路構成例同様、(Vd-Vg)=2.2V以下とするのが好適である。
また、その一方で、第2の電圧制限回路301Aにおいて、先に述べたようにトランジスタを2段積みとすることで、均衡状態において制限用第1及び第2のトランジスタ11,12に電流が流れないようにしている。
【0062】
さらに、
図7において、主要なノードに表記された電圧値は、先に述べたバイアス条件(
図15参照)とした場合のものである。この場合、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧Vdは、Vd=1.7Vに抑制され、先の第1の具体回路構成例の場合と同様に、NBTIによる閾値電圧Vthの変動が抑えられるものとなっている(
図11参照)。
このように、この第4の具体回路構成例における差動増幅回路は、消費電流を増加させることなく、NBTIによる閾値電圧Vthの変動抑圧が可能となっている。
【0063】
さらに、この第4の具体回路構成例における差動増幅回路は、フォールデットカスコード回路401が設けられているため、これまでの具体回路構成例に比して、出力端子55に大きな振れ幅の出力信号を得ることが可能である。
なお、この第4の具体回路構成例において、第2の電圧制限回路301Aを、
図2に示された電圧制限回路301に代えても良く、また、同様に、
図5に示された第3の電圧制限回路301Bに代えても良い。
【0064】
次に、第3の基本回路構成例について、
図8を参照しつつ説明する。
なお、
図1、又は、
図6に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この第3の基本回路構成例は、入力フルスイング形式に対応可能とするため、第1及び第2の入力差動対101,102が設けられ、それに伴い、第1及び第2の能動負荷回路201,202が設けられると共に、切替回路501、第2の電圧制限回路301A、及び、フォールデットカスコード回路401が設けられた構成を有してなるものである。
なお、この第3の基本回路構成例においては、先に、
図2において示された入力差動対101を、説明の便宜上、”第1の入力差動対101”と称することとするが、両者は、回路自体は同一であり、異なるものではない。
【0065】
まず、第2の入力差動対102は、NMOSを用いた第2差動対用第1及び第2のトランジスタ(
図8においては、それぞれ「M21」、「M22」と表記)21,22により構成されている。
第2差動対用第1のトランジスタ21のゲートは、第1差動対用第1のトランジスタ1のゲートに、第2差動対用第2のトランジスタ22のゲートは、第1差動対用第2のトランジスタ2のゲートに、それぞれ接続されている。
【0066】
そして、第2差動対用第1及び第2のトランジスタ21,22は、ソースが相互に接続されると共に、後述する切替回路501を構成するNMOSを用いた切替用第3のトランジスタ33のドレインに接続されている。
一方、第2差動対用第1のトランジスタ21のドレインは、第2負荷第1入力端子B1を介して、また、第2差動対用第2のトランジスタ22のドレインは、第2負荷第2入力端子B2を介して、それぞれ第2の能動負荷回路202に接続されている。なお、第2の能動負荷回路202は、第2負荷基準端子B3を介して正電源端子53に接続されて、正電源電圧VDDが供給されるようになっている。
【0067】
さらに、第2差動対用第1のトランジスタ21のドレインは、カスコード第3入力端子F4を介して、また、第2差動対用第2のトランジスタ22のドレインは、カスコード第4入力端子F5を介して、それぞれフォールデットカスコード回路401に接続されている。なお、カスコード第1及び第2入力端子F2,F3における回路接続は、
図6で説明した回路接続と同一であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0068】
切替回路501は、入力信号のレベルに応じて第1の入力差動対101と第2の入力差動対102の動作切替を行うものであり、PMOSを用いた切替用第1のトランジスタ(
図8においては「M31」と表記)31と、NMOSを用いた切替用第2及び第3のトランジスタ(
図8においては、それぞれ「M32」、「M33」と表記)32,33と、切替用定電圧電源47とを有して構成されたものとなっている。
【0069】
以下、切替回路501の具体的な回路構成について説明する。
まず、切替用定電圧電源47は、その正極側が正電源端子53に接続される一方、負極側が切替用第1のトランジスタ31のゲートに接続されている。
切替用第1のトランジスタ31は、ソースが第1差動対用第1及び第2のトランジスタ1,2のソースと定電流源41との接続点に接続される一方、ドレインが切替用第2のトランジスタ32のドレインに接続されている。
【0070】
切替用第2のトランジスタ32は、いわゆるダイオード接続状態で設けられている。すなわち、切替用第2のトランジスタ32は、ゲートとドレインとが相互に接続されると共に、切替用第3のトランジスタ33のゲートと接続されている。
そして、切替用第2及び第3のトランジスタ32,33のソースは、共に負電源端子54に接続されている。
かかる構成におけるこの第3の基本回路構成例の差動増幅回路の回路動作については、次述する第5の具体回路構成例における回路動作の説明を以て、これに代えることとする。
【0071】
図9には、上述の第3の基本回路構成例の具体回路例としての第5の具体回路構成例が示されており、以下、同図を参照しつつ、この具体回路構成例について説明する。なお、
図7、
図8に示された構成例と同一の構成要素については、 同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
また、
図9においては、
図8において示された端子A1~A3、端子B1~B3、端子C1~C3、及び、端子F2~F5の表記を省略することとする。
【0072】
この第5の具体回路構成例において、第1の入力差動対101、及び、電圧制限回路301Aは、
図7に示された回路と同一であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略することとする。
第2の能動負荷回路202は、PMOSを用いた第2負荷用第1及び第2のトランジスタ(
図9においては、それぞれ「M23」、「M24」と表記)23,24、及び、第2負荷用定電圧源48を有して構成されている。
【0073】
第2負荷用第1及び第2のトランジスタ23,24は、ソースが共に正電源端子53に接続される一方、ゲートが相互に接続されると共に、ゲートと正電源端子53との間には、正極側が正電源端子53側となるように第2負荷用定電圧源48が接続されている。
一方、第2負荷用第1のトランジスタ23のドレインは、第2差動対用第1のトランジスタ21のドレインに、第2負荷用第2のトランジスタ24のドレインは、第2差動対用第2のトランジスタ22のドレインに、それぞれ接続されている。
【0074】
フォールデットカスコード回路401は、先に、
図7において説明したように、PMOSを用いたカスコード用第1及び第2のトランジスタ5,6、及び、NMOSを用いたカスコード用第3及び第4のトランジスタ7,8を主たる構成要素として構成されている点は、同一であるが、次述するように、カスコード用第1及び第2のトランジスタ5,6のソース側の接続が、
図7に示された回路接続とは異なっている。
すなわち、カスコード用第1のトランジスタ5のソースは、第2負荷用第1のトランジスタ23のドレインに、カスコード用第2のトランジスタ6のソースは、第2負荷用第2のトランジスタ24のドレインに、それぞれ接続されている。
【0075】
この第5の具体回路構成例においても、先の第1の具体回路構成例同様、電圧制限回路301Aにより、差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電位が、負荷用第1及び第2のトランジスタ3,4の動作電圧より、1Vgs程度高い電圧で、且つ、NBTIの影響を低減、抑圧可能な電圧を超えない範囲に制限されるようになっている。
そのため、この第5の具体回路構成例においても、回路定数設定の際に、先に
図11に示されたようなNBTIによる閾値電圧Vthの変動特性を予め把握し、第1差動対用第2のトランジスタ2のドレインとゲートの電位差(Vd-Vg)の目標値を定める。この目標値は、先の第1の具体回路構成例同様、(Vd-Vg)=2.2V以下とするのが好適である。
【0076】
また、その一方で、第2の電圧制限回路301Aにおいて、先に述べたようにトランジスタを2段積みとすることで、均衡状態において制限用第2のトランジスタ12に電流が流れないようにしている。
図9において、主要なノードに表記された電圧値は、先に述べたバイアス条件(
図15参照)とした場合のものである。この場合、第1差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧Vdは、Vd=1.7Vに抑制され、先の第1の具体回路構成例の場合と同様に、NBTIによる閾値電圧Vthの変動が抑えられるものとなっている(
図11参照)。
【0077】
さらに、この第5の具体回路構成例においては、第2差動対用第1のトランジスタ21のPBTIによる閾値電圧Vthの変動抑圧も可能となっている。
すなわち、第2差動対用第1のトランジスタ21は、上述のバイアス条件下において、ゲート電位VinmがVinm=5.5V、ドレイン電位Vd2がVd2=5.3V、ソース電位Vs2がVs2=5.3Vと、各ノード電位差が小さい状態となる(
図9参照)。
【0078】
ここで、PBTIについて説明する。
PBTIは、NMOSにおいて、ゲート電位が高く、ドレイン電位とソース電位が低い場合、閾値電圧Vthが変化する劣化現象である。
図10は、このような電位状態となることを示しており、
図9に示された第5の具体回路構成例における第2の電圧制限回路301Aを削除した状態の回路で、主要なノードにおける電圧値は、先に述べたバイアス条件(
図15参照)下におけるものである。
【0079】
図10において、NMOSである第2差動対用第1のトランジスタ21のゲート電位Vinm=5.5Vに対して、ドレイン電位とソース電位が共に0.9Vと低くなっていることが確認できる。
また、
図10においては、定電流源41により供給されるテイル電流I1の流れ先が重要となる。
図10において、まず、正電源電圧VDD=5.5Vで、第1差動対用第1のトランジスタ1のゲート電位VinmがVinm=5.5Vであるので、第1差動対用第1のトランジスタ1には電流は流れない。
【0080】
また、第1差動対用第2のトランジスタ2は、ソース電位VsがVs=5.3V、ゲート電位VgがVg=0Vであり、ゲート・ソース間には十分な電位差が生じているが、ドレイン電位VdがVd=5.3Vと高いため、第1差動対用第2のトランジスタ2には、ほぼ電流が流れない。
一方、切替用第1のトランジスタ31は、ソース電位VsがVs=5.3V、ゲート電位Vg31がVg31=4Vであり、トランジスタが動作するに足りるゲート・ソース間の電位差がある。さらに、切替用第1のトランジスタ31のドレイン電位Vs31は、Vs31=0.9Vであり、ソース・ドレイン間には十分な電位差がある。
その結果、PMOS差動対である第1の入力差動対101のテイル電流I1は、切替用第1のトランジスタ31に流れ込むこととなる(
図10点線矢印の線参照)。
【0081】
このテイル電流I1は、NMOS差動対である第2の入力差動対102において、ゲート電位が高い方の第2差動対用第1のトランジスタ21のみに流れ込むこととなる(
図10における点線矢印の線参照)。
ここで、第2差動対用第1のトランジスタ21のゲート電位Vinmは、Vinm=5.5Vと非常に高い値である。その一方で、第2差動対用第1のトランジスタ21のソース電位Vs2は、切替用第3のトランジスタ33のミラー元である切替用第2のトランジスタ32のドレイン電位Vs31と同じ電位Vs2=0.9Vを保とうとする。その結果、第2差動対用第1のトランジスタ21のゲート・ソース間の電位差が非常に大きくなるため、第2差動対用第1のトランジスタ21は線形領域で動作する。
【0082】
この第2差動対用第1のトランジスタ21の線形領域での動作により、そのドレイン電位とソース電位はほぼ同じVd=0.9Vとなる。その結果、先に述べたように、第2差動対用第1のトランジスタ21のゲート電圧Vinm=5.5Vに対して、ソース電位及びドレイン電位が同電位の0.9Vの電位関係となるため、PBTI状態となる。
【0083】
一方、
図9に示された第5の具体回路構成例においては、上述のようなPBTIが回避可能である。以下、その理由について説明する。
まず、第5の具体回路構成例においては、PMOS差動対である第1の入力差動対101のドレイン電圧抑制回路として、制限用第1乃至第3のトランジスタ31~33からなる電圧制限回路301Aが設けられており、この制限用第1乃至第3のトランジスタ31~33により、第1差動対用第2のトランジスタ2のドレイン電圧Vdは、Vd=1.7Vに制限される。その結果、第1差動対用第2のトランジスタ2のソース電圧Vsも、Vs=1.7Vに制限される。
【0084】
ここで、切替用第1のトランジスタ31のゲート電圧Vg31は、Vg31=4Vであるため、ゲート・ソース間の電位差が不足し、そのため、切替用第1のトランジスタ31は、電流を流すことができない。また、第1差動対用第1のトランジスタ1も、ゲート電位Vinmが正電源電圧と同じVinm=5.5Vであるため、電流を流すことができない。
そのため、テイル電流I1は、線形領域で動作する第1差動対用第2のトランジスタ2に流れることとなる。この第1差動対用第2のトランジスタ2に流れる電流は、制限用第2及び第3のトランジスタ12,13に流れることとなる(
図9における二点鎖線の矢印線参照)。
【0085】
このように、切替用第1のトランジスタ31に電流が流れないため、切替用第2及び第3のトランジスタ32,33にも電流が流れない。その結果、第2差動対用第1のトランジスタ21にも電流が流れない。第2差動対用第1のトランジスタ21に電流が流れないということは、第2差動対用第1のトランジスタ21のゲート・ソース間の電位差がほぼ生じないことを意味する。そのため、第2差動対用第1のトランジスタ21のソース電位Vs2は、Vs2=5.3Vとなる。また、第2差動対用第1のトランジスタ21のドレイン電位Vd2も、Vd2=5.3Vとなる。結果、第2差動対用第1のトランジスタ21は、先に述べたように、ゲート電位VinmがVinm=5.5V、ドレイン電位Vd2がVd2=5.3V、ソース電位Vs2がVs2=5.3Vと、各ノード電位差が小さい電位状態となり、PBTIの影響で閾値電圧Vthが変化しない状態となる。
【0086】
このように、この第5の具体回路構成例は、PMOS差動対を構成する第1差動対用第2のトラジスタ2のNBTIに起因する閾値電圧Vthの変動抑圧(NBTI対策)だけでなく、NMOS差動対を構成する第2差動対用第1のトランジスタ21のPBTIに起因する閾値電圧Vthの変動抑圧(PBTI対策)も可能に構成されたものである。
また、この第5の具体回路構成例の場合、PBTI対策として、先に述べたNBTI対策の場合のように、ドレイン電位とゲート電位の差に対する閾値電圧Vthの変動量特性(
図11参照)を事前に把握する必要がない。これは、PBTI対策は、根本的にNMOS差動対(第2の入力差動対102)を動作させないことで成り立つからである。
【0087】
ここで、この第5の具体回路構成例を用いた高精度アンプにおけるNBTI対策効果を確認するために行った実測結果について、
図12を参照しつつ説明する。
図12には、先に説明したバイアス条件(
図15参照)の設定前後における第1差動用第1及び第2のトランジスタ1,2から構成された第1の入力差動対101の入力オフセット電圧Vioの時間変化が示されている。
同図において、横軸は時間を、縦軸はPMOS差動対である第1の入力差動対101の入力オフセット電圧Vioを、それぞれ示している。
先のバイアス条件設定前における初期入力オフセット電圧は、Vio=0μVである。
【0088】
図12は、第5の具体回路構成例において、初期入力オフセット電圧確認後、30秒間(
図12における太線横矢印線参照)、先のバイアス条件(
図15参照)のバイアス状態でストレス印加し、そのストレス印加終了直後から再び入力オフセット電圧を計測した結果を表したものである。
同図において、ストレス印加終了直後を、時間軸である横軸の0秒としている。
図12において、点線の特性線は、従来の差動増幅回路における上述した計測結果を表しており、ストレス印加終了直後に入力オフセット電圧が変化していることが確認できる。この入力オフセット電圧の変化は、NBTIによるものであり、この計測例においては、100μV以上変化が観測されている。
【0089】
一方、
図12において、第5の具体回路構成例に対する同様の計測結果は、実線の特性線で示されており、入力オフセット電圧は変化することなく、初期値電圧Vio=0μVを維持し続けることが確認できる。すなわち、第5の具体回路例のNBTIに対する具体的な有効性が確認できる。
【0090】
また、
図13には、PBTI対策効果を確認するための
図12と同様の計測におけるNMOS差動対である第2の入力差動対102の入力オフセット電圧の変化特性が、従来回路の同様の変化特性と共に示されており、以下、同図について説明する。
図13において、横軸は時間を、縦軸はNMOS差動対である第2の入力差動対102の入力オフセット電圧Vioを、それぞれ示している。
図13において、点線の特性線は、
図12と同様、従来回路の計測結果であり、ストレス印加終了後、PBTIに起因する入力オフセット電圧の変化は、400μV以上であることが確認できる。
【0091】
また、
図13において、第5の具体回路構成例に対する同様の計測結果は、
図12同様、実線の特性線で示されており、PMOS差動対である第1の入力差動対101の場合と同様に、入力オフセット電圧はストレス印加前後で変化することなく、初期値電圧Vio=0μVを維持し続けることが確認でき、これによって、PBTIに対する有効性があることが確認できるものとなっている。
なお、この第5の具体回路構成例における第2の電圧制限回路301Aに代えて、
図2に示された電圧制限回路301を用いても良く、また、同様に、
図5に示された第3の電圧制限回路301Bを用いる構成としても良い。
【0092】
上述の本発明の実施の形態における第1及び第2の能動負荷回路201,202、電圧制限回路301、301A、302B、フォールデットカスコード回路401の回路構成は、あくまでも一構成例であり、これに限定されるものではなく、種々変更可能である。
例えば、第1の能動負荷回路201は、NMOSだけの構成ではなく、NMOSと負電源端子54との間に抵抗器を設けた回路構成としても良い。また、電圧制限回路301、301A、302Bは、トランジスタだけの構成ではなく、ダイオードを用いた回路構成としても良い。さらに、第2の能動負荷回路202は、PMOSだけの構成ではなく、PMOSと正電源端子53との間に抵抗器を設けた回路構成としても良い。またさらに、フォールデットカスコード回路401、第1及び第2の能動負荷回路201,202、電圧制限回路301、301A、301Bにおいては、CMOSトランジスタに代えて、バイポーラトランジスタを用いても良い。
以上説明したように、本発明に係る差動増幅回路は、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
消費電流の増加を招くことなく、NBTIやPBTIに起因するMOSトランジスタを用いた差動対における閾値電圧の変動抑圧が所望される差動増幅回路に適用できる。
【符号の説明】
【0094】
101…第1の入力差動対
102…第2の入力差動対
201…第1の能動負荷回路
202…第2の能動負荷回路
301…電圧制限回路
301A…第2の電圧制限回路
301B…第3の電圧制限回路
401…フォールデットカスコード回路
501…切替回路