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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172471
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】生体試料測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20231129BHJP
   G01F 23/292 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01N35/00 Z
G01F23/292 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084300
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐尾 真侑
(72)【発明者】
【氏名】角野 雅仁
【テーマコード(参考)】
2F014
2G058
【Fターム(参考)】
2F014FA04
2G058GB03
(57)【要約】
【課題】ラベルが貼付された容器に格納された、複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する際に、測定対象とする対象部分を、大型な撮像機構を用いることなく、ラベルの向きによらず精度よく特定することができる技術を提供する。
【解決手段】本開示に係る生体試料測定装置は、撮像画像の輝度値の中間点を特定することにより、測定対象部分の上面境界と下面境界をそれぞれ特定し、特定した前記上面境界の位置に対して、メニスカス幅の補正量を適用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する生体試料測定装置であって、
前記生体試料に対して第1波長成分を有する第1光および第2波長成分を有する第2光を照射する光源、
前記生体試料を透過した前記第1および第2光を用いて前記生体試料の撮像画像を生成する撮像器、
前記成分領域のうち測定対象とする対象部分を前記撮像画像から特定する画像処理部、
を備え、
前記画像処理部は、前記第1光を用いて取得した前記撮像画像から、前記対象部分の高さ方向に沿った前記第1光の輝度値を取得するとともに、前記撮像画像の第1部分領域における前記第1光の輝度値の変化の中間点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記対象部分の上面境界の位置を特定し、
前記画像処理部は、前記撮像画像から、前記高さ方向に沿った前記第1光または前記第2光の輝度値を取得するとともに、前記撮像画像の第2部分領域における前記第1光または前記第2光の輝度値の変化の中間点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記対象部分の下面境界の位置を特定し、
前記画像処理部は、前記特定した前記上面境界の位置に対して、前記対象部分のメニスカス幅を補正する補正量を適用することにより、前記特定した前記上面境界の位置を補正する
ことを特徴とする生体試料測定装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記第1光と前記第2光を用いて取得した前記撮像画像から、前記高さ方向に沿った前記上面境界と前記下面境界それぞれの位置を仮特定し、
前記画像処理部は、前記仮特定した前記上面境界を包含する前記第1部分領域における前記第1光の輝度値の変化の中間点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記上面境界の位置を特定し、
前記画像処理部は、前記仮特定した前記下面境界を包含する前記第2部分領域における前記第1光または前記第2光の輝度値の変化の中間点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記下面境界の位置を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項3】
前記撮像器は、前記第1光が有する前記第1波長成分を用いて、前記生体試料の第1撮像画像を生成し、
前記撮像器は、前記第2光が有する前記第2波長成分を用いて、前記生体試料の第2撮像画像を生成し、
前記画像処理部は、前記第1撮像画像における前記第1波長成分を用いて生成された部分と、前記第2撮像画像における前記第2波長成分によって生成された部分との間の差分を計算し、
前記画像処理部は、前記差分が閾値以上となる部分を特定することにより、前記上面境界と前記下面境界それぞれの位置を仮特定する
ことを特徴とする請求項2記載の生体試料測定装置。
【請求項4】
前記撮像器は、前記生体試料を透過した前記第1または第2光を用いて、前記生体試料の2次元画像を前記撮像画像として生成するエリアカメラであり、
前記画像処理部は、前記高さ方向に対して直交する水平方向に沿った前記生体試料の中心領域において、前記2次元画像の画素値を前記水平方向に沿って統計処理することにより、前記第1光または前記第2光の1次元信号を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記高さ方向に沿った位置に対する前記輝度値の1次微分を取得するとともに、前記1次微分のピークを特定することにより、前記上面境界の位置または前記下面境界の位置を特定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項6】
前記画像処理部は、前記第1部分領域において特定した前記上面境界または前記第2部分領域において特定した前記下面境界を包含する領域における前記輝度値の最大値と最小値をそれぞれ求め、
前記画像処理部は、前記最大値と前記最小値との間の差分の所定割合を前記最小値に対して加算することにより得られる前記輝度値に対応する前記高さ方向の位置を、前記上面境界の位置または前記下面境界の位置として特定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項7】
前記画像処理部は、前記メニスカス幅に対して補正係数を乗算することにより、前記補正量を計算し、
前記画像処理部は、前記特定した前記上面境界の位置に対して前記補正量を適用することにより、前記特定した前記上面境界の位置を補正する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項8】
前記画像処理部は、前記生体試料の種類に対応する前記補正係数を格納した記憶部から前記補正係数を取得し、
前記画像処理部は、前記記憶部から取得した前記補正係数を用いて、前記上面境界の位置を補正する
ことを特徴とする請求項7記載の生体試料測定装置。
【請求項9】
前記補正係数は、前記補正量が前記メニスカス幅の0.5~1.0倍となるように構成されている
ことを特徴とする請求項7記載の生体試料測定装置。
【請求項10】
前記画像処理部は、前記第1撮像画像を用いて前記仮特定した前記下面境界の第1コントラストと、前記第2撮像画像を用いて前記仮特定した前記下面境界の第2コントラストとを比較し、
前記画像処理部は、前記第1コントラストのほうが前記第2コントラストよりも所定値以上大きい場合は、前記第1光を用いて取得した前記撮像画像から、前記高さ方向に沿った前記第1光の輝度値を取得するとともに、前記仮特定した前記下面境界を包含する領域における前記第1光の輝度値の変化の変曲点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記下面境界の位置を特定し、
前記画像処理部は、前記第2コントラストのほうが前記第1コントラストよりも前記所定値以上大きい場合は、前記第2光を用いて取得した前記撮像画像から、前記高さ方向に沿った前記第2光の輝度値を取得するとともに、前記仮特定した前記下面境界を包含する領域における前記第2光の輝度値の変化の変曲点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記下面境界の位置を特定する
ことを特徴とする請求項3記載の生体試料測定装置。
【請求項11】
前記画像処理部は、前記第1コントラストと前記第2コントラストとの間の差分が前記所定値未満である場合は、前記第1光を用いて取得した前記撮像画像から、前記高さ方向に沿った前記第1光の輝度値を取得するとともに、前記仮特定した前記下面境界を包含する領域における前記第1光の輝度値の変化の変曲点を特定することにより、前記高さ方向に沿った前記下面境界の位置を特定する
ことを特徴とする請求項10記載の生体試料測定装置。
【請求項12】
前記画像処理部は、前記特定した前記上面境界の位置と前記特定した前記下面境界の位置に基づき、前記対象部分の液量を測定する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【請求項13】
前記生体試料を収容する容器の側面にはラベルが貼られており、
前記生体試料測定装置は、前記撮像器と前記ラベルとの間の位置関係を調整することなく、前記撮像器によって前記撮像画像を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の生体試料測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検査など臨床検査の効率化を目的に、従来目視確認で実施されていた開栓前(分注前)の生体検体の液量確認作業を自動化する技術が求められている。特に、分注前の血液検体などの生体試料は、遠心分離などによって複数層に分離された構成になっており、このうち分析対象となる試料の液量のみを測定する技術が必要である。また、分注前の生体試料は、識別用のバーコードラベルや、採血管に貼付されて出荷されるプリラベルが貼られていることがあるため、これらのラベルが貼られた状態で測定可能な技術が求められている。
【0003】
このような生体試料測定装置として、例えば、特許文献1は、検体に赤外光を当てラインセンサで透過光を検出し、その1次微分値に基づいてラベルと血清領域(測定対象領域)の境界を求め、検体の血清量を測定する液体検出装置について開示している。
【0004】
特許文献2では、光量を変えて透過光の信号を取得することで、ラベルによる透過光の減衰の有無によらず解析可能としている。また、特許文献2は、複数層に分離した試料に対して、2波長のパルス光を時分割に切り替えて照射し、試料を鉛直方向に走査しながら透過光を測定することにより、複数層に分離した試料の所定領域の高さを検出する技術について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-037320号公報
【特許文献2】US2012/0013889
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている技術は、複数の成分により構成される生体試料について、赤外線透過光の信号から微分にもとづく信号処理によって、ラベルが貼りつけられている上下方向の位置と、測定対象となる血清の上下面高さを検出することにより血清量を測定する。しかしながら、特許文献1の信号処理は、ラベルが検出器側に貼られている検体などのように、透過光がラベルにより散乱される検体の条件において、血清上下面を示す信号が散乱によってぼやけてしまい、検出精度が低下するという課題がある。したがって、ラベルの向き(検体の向き)を検出して揃える回転機構が必要となり、装置の小型化が難しい。
【0007】
特許文献2に開示されている技術は、複数の成分により構成される生体試料について、測定対象に対して吸収率が異なる2波長の透過光の信号から、測定対象領域の境界を精度よく特定して液量を測定する液量測定技術に関するものである。しかしながら、特許文献2においては、検体(採血管)を長軸方向に鉛直走査しながら測定する必要があり、走査機構の分だけ装置の小型化が難しいという課題がある。
【0008】
本開示は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ラベルが貼付された容器に格納された、複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する際に、測定対象とする対象部分を、大型な撮像機構を用いることなく、ラベルの向きによらず精度よく特定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る生体試料測定装置は、撮像画像の輝度値の中間点を特定することにより、測定対象部分の上面境界と下面境界をそれぞれ特定し、特定した前記上面境界の位置に対して、メニスカス幅の補正量を適用する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る生体試料測定装置によれば、ラベルが貼付された容器に格納された、複数の成分領域へ分離された生体試料を測定する際に、ラベルの向きに依存して生じる透過光の散乱の影響下においても、ラベルの向きによる測定のばらつきを低減することができる。これにより、ラベルの向きを揃える回転機構を取り付けず小型化を実現しながら、ラベルによる透過光散乱の影響を低減し、解析精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る生体試料測定装置1の構成図である。
図2A】測定対象領域を特定する原理を説明する図である。
図2B】測定対象領域を特定する原理を説明する図である。
図3A】生体試料2の容器にラベルが貼られている例を示す。
図3B】生体試料2の容器にラベルが貼られている例を示す。
図4A】透過画像の例である。
図4B】測定対象領域で吸収のある波長(1550 nm)の照明を用いて、実際にラベルの向き(検体の向き)を変えて同じ模擬検体を撮像し、血清上面の境界の傾きを抽出した結果を示す。
図4C】測定対象領域で吸収のある波長(1550 nm)の照明を用いて、実際にラベルの向き(検体の向き)を変えて同じ模擬検体を撮像し、血清上面の境界の傾きを抽出した結果を示す。
図5A】透過画像の例である。
図5B】波長970nmの照明で撮像した際の血清上面の信号を抽出した結果を示す。
図6】ラベル301を検体片側に2枚貼って取得した結果について、図4B図4Cを重ねて表示したグラフである。
図7A】1次元信号の輝度変化の中心点を検出する方法を示す。
図7B】1次元信号の輝度変化の中心点を検出する方法を示す。
図8】画像処理部14が測定対象領域21の液量(血清液量)を測定する手順を説明するフローチャートである。
図9】S2の詳細を説明するフローチャートである。
図10】S23の詳細を説明するフローチャートである。
図11】S24の詳細を説明するフローチャートである。
図12】S3の詳細を説明するフローチャートである。
図13A】メニスカスを模式化したシミュレーションモデルを示す。
図13B図13Aのモデルを用いて光線追跡シミュレーションによる透過光(血清上面付近の1次元信号)のシミュレーションを行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
本開示の実施形態において測定する生体試料は、開栓前(分析前)のラベルが貼られた検体であって、遠心分離有無により複数の成分層(典型的には1層~3層)に分離されているものを想定する。測定対象とするのは、複数層に分離した検体のうち、例えば血漿や血清などのような、生化学分析装置などによる分析対象となる(分注対象となる)部分である。
【0013】
ラベルが検出器側に貼られている場合、検体透過光が検体表面のラベルによって散乱され、ラベルが照明側に貼られている場合と比較して、境界がぼやけることがわかっている。すなわち、ラベルの向きによって信号の傾きが大きく異なることになる。したがって、ラベルの向きに起因する検出信号のばらつきを抑える血清境界の検出方法が必要である。
【0014】
図1は、本開示の実施形態1に係る生体試料測定装置1の構成図である。生体試料測定装置1は、生体試料2を測定する装置である。生体試料2は、上記のように構成された試料である。生体試料測定装置1は、生体試料2の測定対象領域21を特定し、その液量を測定する。生体試料測定装置1は、面照明光源11、エリアカメラ12、時分割制御ドライバ13、画像処理部14を備える。
【0015】
面照明光源102は、出射する光の波長を2つの波長間で切り替えることができるように構成されており、その光によって生体試料2を照明する。面照明光源11が出射する光は、生体試料2を構成している2以上の成分層を同時に(すなわち2以上の成分層をまたいで)照明することができる。また、成分層によらず、最上部層の上面(試料と空気層の境界)を照射することができる。光の波長を切り替えるとは、必ずしも単一の波長のみを有する光を出射することを要するものではなく、最も強度が強い波長成分を切り替えることができればよい(波長λ1=1550±100nm、波長λ2=970±100nmなど)。成分層が1層または3層である生体試料2において、成分層の層数が測定前にわかっている場合には、2つの波長のどちらかを用いれば足り、波長を切り替える必要はない。理由と波長の選択方法は後述の測定原理において説明する。
【0016】
エリアカメラ12は、生体試料2を透過した面照明光を撮像することにより、生体試料2の2次元撮像画像を生成する。エリアカメラ12は、面照明光源11が出射する波長帯の光を検出できる感度特性を有する。エリアカメラ12は、例えばInGaAsカメラなどによって構成できる。
【0017】
時分割制御ドライバ13は、面照明光源11が出射する光の波長を時分割で切り替える。時分割制御ドライバ13は、波長切り替えと同期して、エリアカメラ12の露光時間(またはゲイン)をその波長に適した時間へ調整する。エリアカメラ12による撮像タイミングは、面照明光源11が出射する波長に同期して時分割制御ドライバ13が制御する。時分割制御ドライバ13は、画像処理部14から処理結果を受け取りその結果にしたがって再撮影を制御する場合もある。
【0018】
画像処理部14は、エリアカメラ12が取得した撮像画像から、測定対象領域(検体の画像領域)を抽出する。抽出原理については後述する。画像処理部14は、測定対象領域特定部141、メニスカス補正部142、液量計算部143を備える。これらの動作についても併せて後述する。
【0019】
図2A図2Bは、測定対象領域を特定する原理を説明する図である。図1の構成において、エリアカメラ12は、図2Aおよび図2Bのような、生体試料2の2次元の透過画像を撮像する。
【0020】
図2Aは生体試料2が3層に分離されている例を示す。図2Bは生体試料2が2層に分離されている例を示す。血餅23は、生体試料2を遠心分離したとき下層にできるものである。分離材22は、血餅23と測定対象領域21を分離するために混入させるものである。
【0021】
面照明光源102が出射する第1波長(波長1)と第2波長(波長2)を比較すると、波長1が血餅23を透過するときの透過率と波長2が血餅23を透過するときの透過率はほぼ同じである。したがって、波長1を用いて取得した血餅23の撮像画像と波長2を用いて取得した血餅23の撮像画像との間の差分は、ごく僅かである。分離材22についても同様に、波長1の透過率と波長2の透過率はほぼ同じであるので、両画像間の差分はごく僅かである。
【0022】
これに対して、波長1が測定対象領域21を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域21を透過するときの透過率は、大きく異なる。したがって、波長1を用いて取得した測定対象領域21の撮像画像と波長2を用いて取得した測定対象領域21撮像画像との間の差分は、顕著である。この差分を識別することにより、測定対象領域21を撮像画像から抽出することができる。
【0023】
波長1および波長2として採用する波長帯は、図2A図2Bが例示するように、測定対象領域21においては顕著な差分が波長間で生じるが、それ以外の部分においては差分がほぼ生じないように、あらかじめ選択しておく必要がある。この条件を満たせば、具体的な波長の数値は任意でよい。すなわち、少なくとも、波長1が測定対象領域21を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域21を透過するときの透過率との間の差分は、波長1が測定対象領域21以外を透過するときの透過率と波長2が測定対象領域21以外を透過するときの透過率との間の差分よりも大きければよい。
【0024】
上記測定原理を用いることにより、生体試料2が複数の成分層に分離されている場合において、測定対象領域21を特定することができる。画像処理部14はこの原理にしたがって、測定対象領域21を特定する。成分層の数は問わないが、血漿や血清などの典型的な生体試料においては、1層~3層に分離されている。いずれの場合においても測定対象領域21を精度よく特定できる。
【0025】
成分層が1層の生体試料2と成分層が3層の生体試料2について、成分層の数があらかじめ測定前にわかっている場合には、1波長のみの透過画像を用いて測定可能である。図2Аのように3層となっている場合は、測定対象領域21の上下に位置する分離材22や空気層と測定対象領域21との間の吸収率の差がある波長を選べばよい。1層の場合には、測定対象領域21の上部の空気層と、測定対象領域21の吸収率との間に差がある波長を選べばよい。
【0026】
<実施の形態1:ラベルによる透過光散乱の課題について>
図3A図3Bは、生体試料2の容器にラベルが貼られている例を示す。図3Aは容器の側面図、図3Bは上面図である。生体試料2の容器(例えば採血管)には、バーコードラベルやプリラベル(ラベル301)などが貼られていることがある。このような場合であっても、測定対象領域21を精度よく特定することが求められる。また、生体試料2の向きを制御する機構を持たない場合、ラベル301と面照明光源11とエリアカメラ12との間の位置関係は、生体試料2ごとに様々である。例えばラベル301が照明側にある場合(図3B(1))と、照明と反対側にある場合(図3B(2))がある。どちらの場合にも同じ精度で測定対象領域21を特定することが求められる。
【0027】
図3のようにラベル301の向きを変えて(生体試料2の向きを変えて)透過画像を取得すると、ラベル301が検出器(エリアカメラ12)側にある場合には血清境界がぼやけることがわかっている。これは、検体を透過する光が、検体表面にあるラベル301によって散乱されることが原因である。
【0028】
図4Aは、透過画像の例である。図4B図4Cは、測定対象領域で吸収のある波長(1550 nm)の照明を用いて、実際にラベルの向き(検体の向き)を変えて同じ模擬検体を撮像し、血清上面の境界の傾きを抽出した結果を示す。画像処理部14は、波長1550nmで撮像した画像から、検体中心の3mm幅を抜き出してx方向に平均することにより、1次元信号を取得した。「ラベル照明側」は図3B(1)に対応し、「ラベルカメラ側」は図3B(2)に対応する。図4Bは、ラベル301をカメラ(エリアカメラ12)側に1枚貼った検体、ラベル301をカメラ側に2枚貼った検体、ラベル301を全周(計2枚)に貼った検体、をそれぞれ測定した結果である。図4Cは、ラベル301をカメラ側に1枚貼った検体、ラベル301をカメラ側に2枚貼った検体、ラベル301を貼っていない検体、それぞれの測定結果である。
【0029】
図4B図4Cに示すように、ラベル301がカメラ側にある場合とない場合で血清境界付近の信号の傾きが大きく異なることがわかる。よって、液量測定においては、ラベル301の向きによって異なる傾きをもつ測定信号から、測定対象領域21の境界位置を検出すること、すなわちラベル301の向きによる検出座標のばらつきを低減することが必要である。
【0030】
図5A図5Bは、波長970nmの照明で撮像した際の血清上面の信号を抽出した結果を示す。画像処理部14は、波長970nmで撮像した画像から、図4B図4Cと同様に検体中心の3mm幅を抜き出してx方向に平均することにより、1次元信号を取得した。図5Bは、ラベル301を照明(面照明光源11)側に2枚貼っている場合と、ラベル301をカメラ側に2枚貼っている場合、それぞれの結果を示している。
【0031】
波長970nmの照明は、血清領域における減衰が1550nmの照明に対して少ないが、ラベル301が照明側にある検体について、血清上面のメニスカス領域で特徴的な透過光の減衰が見られる。これは、曲面状のメニスカスによって、透過光が散乱・屈折するからである。一方、ラベル301がカメラ側にある場合にはディップの形状が不明瞭になっていることがわかる。これは、図4B図4Cと同様に、透過光が検体表面にあるラベルによって散乱されることが原因である。つまり、ラベルがカメラ側にない場合には、波長970nmの透過光におけるメニスカスのディップを検出することによりメニスカス下面を精度よく測定できるが、ラベルがカメラ側にある場合には、散乱の影響でディップがぼやけることによって、メニスカス下面を検出することが難しい。
【0032】
以上のように、ラベル301による透過光の散乱が発生する条件のもとで、メニスカス下面を検出することと、ラベル301の向きによる検出位置のばらつきを低減することが課題となる。
【0033】
<実施の形態1:血清境界信号処理の原理>
図6は、ラベル301を検体片側に2枚貼って取得した結果について、図4B図4Cを重ねて表示したグラフである。図6に示すように、信号の傾きはラベルの向きによって大きく異なるが、どちらも輝度50%付近の地点で点対称になる特徴があることがわかる。よって、本開示では、この対称性を利用し、輝度変化の中心点を検出することにより、ラベルの向きによらず測定対象領域21の境界を精度よく検出することを図る。
【0034】
測定対象領域21の境界(上面境界と下面境界のうちいずれか)を包含する画像領域において、1次元信号の輝度値は最大値(図6の左半分領域)と最小値(図6の右半分領域)をとる。ここでいう輝度50%とは、これら最大値と最小値との間の中心点に相当する輝度値のことである。
【0035】
図7A図7Bは、1次元信号の輝度変化の中心点を検出する方法を示す。画像処理部14は、1次元信号の1次微分のピークを検出する(例:1次元信号の2次微分のゼロクロス点を検出する)ことにより、1次元信号の変曲点を検出し、これを輝度変化の中心点(すなわち測定対象領域21の境界)として特定することができる。図7Aはラベル301がカメラ側にある場合において波長1550nmの光によって取得した1次元信号とその1次微分のプロファイルを示す。図7Bは、ラベル301が照明側にある場合において波長1550nmの光によって取得した1次元信号とその1次微分のプロファイルを示す。1次微分のピーク座標が、輝度の50%付近の座標に対応していることがわかる。したがって、1次元信号の1次微分のピーク位置を特定することにより、測定対象領域21の境界を特定できる。上面境界と下面境界いずれについても同様である。
【0036】
1次元信号の輝度変化の中心点を検出する別方法としては、測定対象領域21の境界付近における輝度変化の最大値と最小値を特定し、それらの間の中心点を求めることにより、輝度値が最大値の50%レベルとなる点を特定することが考えられる。上面境界と下面境界いずれについても同様である。1次元信号の1次微分ピークが中心点と一致しない場合は、本手法を用いることが望ましい。
【0037】
例えば生体試料2の個体や種類ごとのばらつきなどによっては、測定対象領域21の境界が、境界付近における最大輝度と最小輝度との間の中心点ではない(輝度50%レベルではない)場合がある。そこで画像処理部14は、このようなばらつきがなるべく小さくなるような輝度レベルを、測定対象領域21の境界として取り扱うこともできる。例えば測定対象領域21の境界付近の最大輝度と最小輝度との間の中心よりもやや最大輝度寄りの輝度(例:輝度60%レベル)を、境界とみなしてもよい。この場合は最大輝度と最小輝度との間の中心点に代えて、両者の中間点(この例においては輝度60%レベル)を用いることになる。
【0038】
同様に1次微分ピークを用いる場合においても、輝度変化の変曲点によって求めた境界位置をさらに補正した位置を、最終的な境界とみなしてもよい。例えば1次微分ピークを用いて求めた境界位置と、輝度中心点を用いて求めた境界位置とが互いに異なる場合、両者の中間を境界とみなす、などの手法が考えられる。
【0039】
このような境界位置の補正は、あらかじめその補正量を実験などによって求めておき、1次微分ピークや輝度中心点などによって求めた境界位置に対してその補正量を適用することによって、実施することができる。補正量を求める処理は、例えば測定を実施する前のキャリブレーション工程などにおいて実施することができる。
【0040】
図8は、画像処理部14が測定対象領域21の液量(血清液量)を測定する手順を説明するフローチャートである。画像処理部14は、エリアカメラ12が撮像した2つの波長の透過画像それぞれを取得する(S1)。測定対象領域特定部141は、各波長の撮像画像から測定対象領域21を特定する(S2:詳細は後述)。メニスカス補正部142は、特定した測定対象領域21の境界に対して、メニスカス幅の補正を適用する(S3:詳細は後述)。液量計算部143は、測定対象領域21の液量を計算する(S4)。
【0041】
図9は、S2の詳細を説明するフローチャートである。以下図9の各ステップについて説明する。
【0042】
図9:ステップS21)
測定対象領域特定部141は、取得した分光画像の1次元信号を取得する。1次元信号は、生体試料2の画像から水平方向に沿った中心付近を所定幅だけ抜き出し、その画素値を用いて求める。抜き出す中心領域の幅は、1pixelから生体試料2の幅までの間とする。中心領域の画素値の平均や中央値を1次元信号とする。
【0043】
図9:ステップS22)
測定対象領域特定部141は、波長970nmの照明を用いて取得した透過画像の1次元信号と、波長1550nmの照明を用いて取得した透過画像の1次元信号との間の差分を取得する。測定対象領域特定部141は、その差分に基づき、測定対象領域21を仮特定する。具体例は図2A図2Bにおいて説明した通りである。
【0044】
図9:ステップS23)
測定対象領域特定部141は、S22において仮特定した測定対象領域21の上面境界付近の部分画像を取得し、その部分画像を用いて、測定対象領域21の上面境界を特定する。例えばS22において仮特定した測定対象領域21の境界±5mm程度の範囲を、部分画像として取得すればよい。S23により、以後の解析においてノイズ耐性を向上できる。ノイズが少ない場合においては、本ステップを省略することもできる。S24についても同様である。本ステップの詳細は後述する。
【0045】
図9:ステップS24)
測定対象領域特定部141は、S22において仮特定した測定対象領域21の下面境界付近の部分画像を取得し、その部分画像を用いて、測定対象領域21の下面境界を特定する。部分画像の範囲は例えばS22において仮特定した測定対象領域21の境界±5mm程度とする。本ステップの詳細は後述する。
【0046】
図10は、S23の詳細を説明するフローチャートである。本フローチャートは、図6図7Bにおいて説明した手順を実装したものである。血清上面は、1550nmなど、血清が吸収する波長の信号を用いて解析する。本フローチャートにおいては1次元信号の1次微分のピークを用いる例を示したが、境界付近の輝度の最大値と最小値を用いてもよいし、これらを併用してもよい。
【0047】
測定対象領域特定部141は、1次元信号の1次微分値を取得し(S231)、その1次微分値のピークを検出する(S232)。1次微分値の取得前の1次元信号または、ピーク検出前の1次微分値(両方でもよい)に、ガウシアンフィルタなどの平滑化フィルタをかけておいてもよい。これにより、ノイズとの分離がしやすくなる効果がある。測定対象領域特定部141は、検出したピークのうち、あらかじめ設定した閾値以上の絶対値を有するものを選択する(S233)。例えば、検出したピークのうち、図9のS22において仮特定した測定対象領域の上面境界を基準として、血清側により近いピークを選択する。また、候補となるピーク前後(数ミリ程度)の座標における1次元信号の輝度値が、ピーク前後で増減しているか否かを確認することにより、正しく血清境界が検出できているかを確認してもよい。これによって、ノイズとの分離ができ、精度が向上する。以上によって、測定対象領域21の上面境界を特定することができる(S234)。
【0048】
図11は、S24の詳細を説明するフローチャートである。図2A図2Bにおいて説明したように、測定対象領域21の下面境界においてコントラストが生じる波長は、測定対象領域21の下方に存在する物質によって異なる。図2A図2Bの例においては、生体試料2を構成する層数によって、いずれの波長の透過画像を用いるかが異なる。例えば図2Aにおいては波長2を用いて下面境界を特定し、図2Bにおいては波長1を用いて下面境界を特定する。そこで測定対象領域特定部141は、生体試料2を構成する層数にしたがって、いずれの波長を用いるかを切り替える。
【0049】
測定対象領域特定部141は、生体試料2を構成する層数を確認する(S241)。具体的には、S2において仮特定した下面境界をまたいだ部分領域の輝度値の差分(コントラスト)を、970nmと1550nmそれぞれの波長で取得した撮像画像または1次元信号をもとに取得する。970nmのコントラストのほうが大きい場合は2層の検体であり、970nm透過画像を解析することによって下面境界を検出する。1550nmの方がコントラスト大きい場合は3層の検体であり、1550nm透過画像を解析することによって下面境界を検出する。両波長のコントラストが同程度である(下面境界をまたいだコントラストが閾値未満である)場合は1層の検体であり、1550nm波長の透過画像を解析することによって下面境界を検出する。S242~S245はS231~S234と同様である。
【0050】
図12は、S3の詳細を説明するフローチャートである。メニスカス補正部142は、S2において特定した上面境界座標を取得する(S31)。メニスカス補正部142は、メニスカス幅を取得する(S32)。メニスカス補正部142は、使用する採血管や事前に取得する実験データなどから、想定するメニスカス幅をあらかじめ取得しておく。または、検体を連続で測定する間に、ラベル301が照明側にあるとき、970nm透過光の信号(このときメニスカス領域において特徴的なディップが見られる)からメニスカス幅を求めておいてもよい。メニスカス補正部142は、メニスカス幅に対して補正係数を乗算することにより得た幅だけ、上面境界の位置を下方(メニスカス下面へ近づける方向)へ補正する(S33)。補正係数の例については後述する。メニスカス補正部142は、メニスカス幅を補正した上面境界の位置を、最終的な上面境界位置として決定する(S34)。
【0051】
図13Aは、メニスカスを模式化したシミュレーションモデルを示す。測定対象領域21の上面境界は、メニスカス下面である。ここではY座標が15mmの位置がメニスカス下面であるものとする。メニスカス幅は1.7mmである。
【0052】
図13Bは、図13Aのモデルを用いて光線追跡シミュレーションによる透過光(血清上面付近の1次元信号)のシミュレーションを行った結果である。S2において特定する上面境界(図13Bにおける輝度50%レベル)は、メニスカスの影響により、メニスカス下面よりも上方にずれる。メニスカス補正部142は、このずれを補正することにより、上面境界の推定位置をメニスカス下面へ近づける。図12における補正係数は、このずれ量とメニスカス幅との間の比率によって定義される。図13Bにおいては、輝度50%レベルの座標は、メニスカス下面よりも、メニスカス幅×0.94だけ上方となることが、図13Aのシミュレーションモデルによって示された。したがってメニスカス補正部142は、あらかじめ取得したメニスカス幅とこの補正係数(図13Bの結果において補正係数は0.94)を乗算することにより補正量を計算し、その補正量を適用することにより、上面境界の位置をメニスカス下面へ向かって下方修正する。
【0053】
補正係数は、メニスカスによって上面境界の推定位置がずれるメカニズムに鑑みると、0.5~1.0の間の値とすることが望ましい。補正係数は、シミュレーションやキャリブレーションによりあらかじめ決定しておくことができる。補正係数は、生体試料測定装置1が備える記憶部にあらかじめ格納しておいてもよいし、外部装置が備える記憶装置から取得してもよい。生体試料2の種類ごとに補正係数をあらかじめ求めておき、測定時における生体試料2の種類に応じて補正係数を使い分けてもよい。
【0054】
以上の手順により、生体試料測定装置1は、生体試料2に対して貼られたラベル301の位置(面照明光源11に対する位置またはエリアカメラ12に対する位置)を調整することなく、測定対象領域21の上面境界と下面境界を、精度よく特定することができる。
【0055】
<実施の形態2>
実施形態1で生体試料測定装置1は、既存装置の追加オプションとして既存装置内に搭載することもできるし、生体試料測定装置1単独で使用することもできる。
【0056】
実施形態1においては、生体試料2の具体的構成(血清試料)を想定し、透過画像を得るために用いる波長の具体例を説明した。本開示はこれに限るものではなく、その他種類の試料についても適用できる。すなわち、試料の吸光度特性に基づき、図2A図2Bで例示したような透過画像を得るための波長を適切に選択することによって、その他の試料について適用することができる。
【0057】
画像処理部14(および画像処理部14が備える各機能部)は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0058】
1次元信号の取得方法としては、生体試料2の画像から水平方向に沿った中心付近を所定幅だけ抜き出し、その画素値から画素値の平均や中央値を求めて1次元信号としてもよいし、生体試料2の二次元画像のそれぞれの画素列を一次元信号として扱い、図9に示す解析処理を画素列単位で実施してもよい。画素列単位で実施する場合には、各画素列で決定する境界座標について平均や中央値を求めて上面と下面を決定する。
【符号の説明】
【0059】
1:生体試料測定装置
11:面照明光源
12:エリアカメラ
13:時分割制御ドライバ
14:画像処理部
2:生体試料
21:測定対象領域
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B