(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172474
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/20 555
G03G15/20 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084306
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 諒平
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA06
2H033AA20
2H033AA24
2H033AA26
2H033AA42
2H033BA25
2H033BA27
2H033BA31
2H033BA32
2H033BA35
2H033BA38
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB19
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033CA07
2H033CA17
2H033CA30
2H033CA32
(57)【要約】
【課題】定着部材の端部が、所定の異常温度以上となる前に第一および第二加熱源への電力供給を遮断でき、かつ、最大サイズ幅の記録材の幅方向端部の画像を良好に定着できる定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】サブヒータなどの第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(最大発熱比率Rp)が150%以下であり、第二加熱源の最大サイズ幅の幅方向端部に対応する箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(端部発熱比率Rq)が、130%以上である。また、第二加熱源の両側の発熱量が中央の発熱量よりも高い端部領域の半値幅が65mm以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着部材と、
互いに発熱分布の異なる定着部材加熱用の複数の加熱源と、
前記定着部材の幅方向の中央付近に対向配置され、前記定着部材の温度が所定の異常温度以上となる前に、各加熱源への電力供給を遮断する電力遮断手段とを備える定着装置において、
通紙可能な記録材の最大サイズ幅内で幅方向均一な発熱分布を有する第一加熱源と、
前記最大サイズ幅の幅方向両側に対応する発熱量が中央の発熱量よりも高い発熱分布を有する第二加熱源とを備え、
前記第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率が150%以下であり、
前記第二加熱源の前記最大サイズ幅の幅方向端部に対応する箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率が、130%以上であり、前記第二加熱源の両側の発熱量が中央の発熱量よりも高い領域の半値幅が65mm以下であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
前記定着部材は、金属層を有することを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の定着装置において、
前記金属層は、ニッケルまたは銅からなることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1に記載の定着装置において、
前記定着部材は、無端状の定着ベルトであることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
記録材に画像を形成する画像形成部と、
前記記録材に形成された画像を前記記録材に定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、
前記定着装置として、請求項1に記載の定着装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、定着部材と、互いに発熱分布の異なる定着部材加熱用の複数の加熱源と、定着部材の幅方向の中央付近に対向配置され、定着部材の温度が所定の異常温度以上となる前に、各加熱源への電力供給を遮断する電力遮断手段とを備える定着装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、上記定着装置として、第一加熱源と、第二加熱源とを備え、第二加熱源は、幅方向両側の発熱量が中央の発熱量よりも多い発熱分布を有し、かつ、第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率が125%であるものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最大サイズ幅の記録材を通紙したときに、記録材の幅方向端部の画像を良好に定着できないおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、定着部材と、互いに発熱分布の異なる定着部材加熱用の複数の加熱源と、前記定着部材の幅方向の中央付近に対向配置され、前記定着部材の温度が所定の異常温度以上となる前に、各加熱源への電力供給を遮断する電力遮断手段とを備える定着装置において、通紙可能な記録材の最大サイズ幅内で幅方向均一な発熱分布を有する第一加熱源と、前記最大サイズ幅の幅方向両側に対応する発熱量が中央の発熱量よりも高い発熱分布を有する第二加熱源とを備え、前記第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率が150%以下であり、前記第二加熱源の前記最大サイズ幅の幅方向端部に対応する箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率が、130%以上であり、前記第二加熱源の両側の発熱量が中央の発熱量よりも高い領域の半値幅が65mm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着部材の端部が、所定の異常温度以上となる前に第一および第二加熱源への電力供給を遮断することができ、かつ、最大サイズ幅の記録材の幅方向端部の画像を良好に定着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るプリンタの構成を示す概略構成図。
【
図3】サブヒータの幅方向端部の発熱分布を示す図。
【
図4】実施例1の定着装置を用いた熱暴走試験時の定着ベルトの昇温プロファイル。
【
図5】実施例1の定着装置における冷間立ち上げ時の定着ベルトの端部と中央の昇温プロファイル。
【
図6】比較例1の定着装置における熱暴走試験時の定着ベルトの昇温プロファイル。
【
図7】(a)は、比較例2の定着装置における冷間立ち上げ時の定着ベルトの端部と中央の昇温プロファイルであり、(b)は、比較例2の定着装置における冷間立ち上げ時の定着ベルトの端部と中央の昇温プロファイル。
【
図8】実施例1の定着装置用いた第二熱暴走試験時の定着ベルトの昇温プロファイル。
【
図9】比較例1の定着装置用いた第二熱暴走試験時の定着ベルトの昇温プロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した画像形成装置として、電子写真方式のプリンタ(以下、単にプリンタという。)の一実施形態について説明する。まず、プリンタの概略構成について説明する。
図1は、本プリンタの構成を示す概略構成図である。プリンタ200は、複数の色画像を形成する作像部がベルトの展張方向に沿って並置されたタンデム方式を用いるカラープリンタあるが、本発明はこの方式に限ることはなく、またプリンタだけではなく複写機やファクシミリ装置などを対象とすることも可能である。
【0009】
プリンタ200は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkを備えた作像部としての4つの画像ステーションと、4つの画像ステーションの下方に対向して配設された光書き込み装置としての光書込装置8を有する。またプリンタ200は、4つの画像ステーションの上方に対向して配設された中間転写ベルトユニット10を有する。
【0010】
4つの画像ステーションは、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkが、A1方向の上流側からこの順で並んでいる。各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの画像をそれぞれ形成するものである。各感光体ドラムの周囲に、感光体ドラムの回転に従い画像形成処理するための装置が配置されている。ブラック画像形成を行う感光体ドラム20Bkを対象として説明すると、感光体ドラム20Bkの回転方向に沿って画像形成処理を行う帯電装置30Bk,現像装置40Bk、1次転写ローラ12Bkおよびクリーニング装置50Bkが配置されている。
【0011】
光書込装置8は、光源としての半導体レーザ、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラーおよび偏向手段としての回転多面鏡などを装備している。光書込装置8は、各感光体ドラム20Y,20C,20M,20Bkに対して色毎に対応した書き込み光Lbを出射して感光体ドラム20Y,20C,20M,20Bkに静電潜像を形成する。
図1では、便宜上、ブラック画像の画像ステーションのみを対象として符号が付けてあるが、その他の画像ステーションも同様である。
【0012】
中間転写ベルトユニット10は、無端ベルトである中間転写体である中間転写ベルト11、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkの他に、中間転写ベルト11が掛け回されている弾性ローラ72及び従動ローラ73を有している。従動ローラ73は、バネなどを用いた付勢手段を備え、中間転写ベルト11に対する張力付勢手段としても機能する。
【0013】
また、プリンタ200は、転写部材としての転写ローラである二次転写ローラ5と、中間転写クリーニング装置13とを有する。二次転写ローラ5は、中間転写ベルト11に対向して配設され中間転写ベルト11に従動し、連れ回りする。中間転写クリーニング装置13は、中間転写ベルト11に対向して配設され中間転写ベルト11上をクリーニングする。
【0014】
中間転写クリーニング装置13は、中間転写ベルト11に当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有し、これらにより、中間転写ベルト11上の残留トナー等の異物を掻き取って除去し、中間転写ベルト11をクリーニングする。中間転写クリーニング装置13は中間転写ベルト11から除去した残留トナーを搬出し廃棄するための排出手段を有する。
【0015】
以上の中間転写ベルトユニット10と、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkと、二次転写ローラ5と、中間転写クリーニング装置13とで転写装置71が構成されている。
【0016】
プリンタ200は、用紙Sを積載したシート給送装置61を本体下部に備えている。シート給送装置61は、最上位の用紙Sの上面に当接する給送ローラ3を有しており、給送ローラ3が反時計回り方向に回転駆動されることにより、最上位の用紙Sをレジストローラ対4に向けて給送する。
【0017】
レジストローラ対4は、シート給送装置61から搬送されてきた用紙Sを、中間転写ベルト上のトナー像が、二次転写ニップに到達するタイミングに合わせた所定のタイミングで、二次転写ニップに向けて繰り出す。プリンタ200は、用紙Sの先端がレジストローラ対4に到達したことを検知するセンサも備える。
【0018】
プリンタ200は、トナー像が転写された用紙S(定着対象)上にトナー像を定着させるための定着ユニットとしての接触加熱方式の定着装置100を有する。また、プリンタ200は、定着済みの用紙Sをプリンタ200の本体外部に排出する排紙ローラ7と、プリンタ200の本体上部に配設されて排紙ローラ7によりプリンタ200の本体外部に排出された用紙Sを積載する排紙トレイ17とを有する。また、プリンタ200は、排紙トレイ17の下側に、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナーを収容したトナーボトル9Y、9C、9M、9Bkを有する。
【0019】
プリンタ200の画像形成動作は次のとおりである。4つの画像形成ステーションで各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに可視像を形成する。各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対峙しながら矢印A1方向に移動する中間転写ベルト11に対し1次転写行程を実行してそれぞれの画像が重畳転写される。中間転写ベルト11に重畳転写された可視像は、用紙Sに対して二次転写ローラ5で二次転写行程を実行することで一括転写される。トナー像が一括転写された用紙Sは定着装置100でトナー像が定着され、定着済みの用紙Sは排紙ローラ7によりプリンタ200の本体外部に排出される。
【0020】
図2は、定着装置100の概略構成図である。定着装置100は、回転可能な定着部材としての無端状の定着ベルト101と、これに対向配置されて回転可能な加圧部材としての加圧ローラ103とを有している。定着装置100は、定着ベルト101の内側に、第一加熱源たるメインヒータ102a、第二加熱源たるサブヒータ102b、ニップ形成部材としてのパッド106および支持部材107を有する。また、定着装置100は、定着ベルト101の内側に、反射板であるリフレクタ109と、摺動部材116を有する。これら、定着ベルト101の内側に配置されているメインヒータ102a、サブヒータ102b、パッド106、摺動部材116及び支持部材107は、いずれも定着ベルト101の幅方向長さ以上の長さを有している。図中、用紙Sは下方から上方に向けて搬送され、定着ベルト101の移動方向は図中反時計回りである。
【0021】
定着ベルト101は、ニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料を用いた無端ベルトまたはフィルムで構成される。ベルトの表層はPFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性を持たせている。ニッケルやSUSなどからなるベルトの基材とPFAまたはPTFE層の間にはシリコーンゴムの層などで形成された弾性層があっても良い。シリコーンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。さらには、ベルトの基材と弾性層との間に銅やニッケルなどの高熱伝導性で形成された金属層としての高熱伝導層があってもよい。高熱伝導層を設けることで、高熱伝導層により幅方向に定着ベルトの熱を移動することができ、定着ベルトの幅方向の温度の均一化を図ることができる。
【0022】
加圧ローラ103は芯金105に弾性ゴム層104があり、離型性を得るために表面に離型層(PFAまたはPTFE層)103aが設けてある。加圧ローラ103は、画像形成装置に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧ローラ103は、スプリングなどにより定着ベルト101側に押し付けられており、弾性ゴム層104が押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。加圧ローラ103は中空のローラであっても良く、加圧ローラ103にハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。
【0023】
定着ベルト101の内側に配置されたニップ形成部材としてのパッド106は、定着ベルト101を介して加圧ローラ103との間で定着部である定着ニップNを形成する。パッド106は、定着ベルト内面と摺動する摺動部材116が設けられている。このパッド106は、支持部材107に支持されている。支持部材107は、加圧ローラ103により圧力を受けるパッド106の撓みを防止し、軸方向で均一なニップ幅を得られるようにしている。
【0024】
メインヒータ102aおよびサブヒータ102bは、ハロゲンヒータであり、定着ベルト101は、内周側からこれらヒータ102a,102bの輻射熱で直接加熱される。ここで、各ヒータ102a,102bは、定着ベルト101を加熱できればよく、IHであっても良いし、抵抗発熱体、カーボンヒータ等であっても良い。
【0025】
メインヒータ102aは、本プリンタが通紙可能な最大サイズの幅で発熱量が均一な発熱分布を有している。一方、サブヒータ102bは、幅方向両端の発熱量が、中央の発熱量よりも多い発熱分布を有している。
【0026】
また、本実施形態では、各ヒータ102a,102bと支持部材107との間にリフレクタ109が設けられている。リフレクタ109を備える代わりに、支持部材107の表面に断熱もしくは鏡面処理を行っても同様の効果を得ることが可能となる。
【0027】
定着ベルト101の外部には、定着ベルト101の表面温度を検出する温度検知手段である温度検知センサ110が設けられている。温度検知センサ110としては、サーモパイルなど温度応答性の高い温度センサが用いられる。温度検知センサ110は、定着ベルト101の幅方向中央部の温度を検知する。
【0028】
また、定着ベルト101の外部には、定着ベルト101の表面温度の異常を検知してヒータへの電力供給を停止させる電力遮断手段たる電力遮断装置111が配置されている。電力遮断装置111としては、サーモスタットまたは温度ヒューズが挙げられる。また、電力遮断装置111としては、温度検知センサ110よりも温度応答性が悪い安価な温度検知センサを設け、その温度検知センサの検知結果に基づいて、ヒータへの電力を遮断するものでもよい。電力遮断装置111は、定着ベルト101の幅方向略中央部に配置されている。
【0029】
定着ベルト101は加圧ローラ103により連れ回り回転する。
図2の場合は加圧ローラ103が駆動源により回転し、定着ニップNでベルトに駆動力が伝達されることにより定着ベルト101が回転する。用紙上の画像たるトナー像は定着ニップNにおいて加熱・加圧により定着される。
【0030】
定着ベルト101の温度を規定温度(定着温度または待機温度)にまで上昇させるウォームアップ時は、サブヒータ102bとメインヒータ102aの両方を点灯して、端部の発熱量を中央よりも多くする。これは、ウォームアップ時は、定着ベルトの内周面の幅方向端部に接触して定着ベルトをガイドするガイド部材等により定着ベルトの熱が奪われ、定着ベルトの端部の温度が、定着ベルトの中央の温度よりも低くなる所謂温度ダレが生じやすいからである。
【0031】
よって、本実施形態では、ウォームアップ時は、サブヒータ102bとメインヒータ102aの両方を点灯して、端部の発熱量を中央よりも多くし、定着ベルト101端部の温度ダレを抑制する。これにより、定着ベルト101の幅方向端部を、中央と同等に規定温度(定着温度または待機温度)にすばやく上げることができる。これにより、ウォームアップ時間の短縮化を図ることができ、ファーストプリントタイムの短縮化を図ることができる。また、ウォームアップ終了後の最初の画像形成時の用紙の端部の定着性の確保を図ることができる。
【0032】
定着ニップに通紙される用紙サイズが大サイズのときは、まず、サブヒータ102bとメインヒータ102aとを両方点灯させる。このように、サブヒータ102bとメインヒータ102aとを両方点灯させることで、端部温度ダレ生じた状態で、定着動作が行われるのを抑制でき、トナー像の幅方向端部の定着不良の発生を抑制することができる。なお、本実施形態では、B4縦(幅サイズ:257mm)以上のサイズを大サイズとし、B4縦未満のサイズを小サイズとしているが、これに限らず、装置の構成によって、適宜、大サイズ、小サイズを設定すればよい。
【0033】
そして、通紙開始(定着動作開始)から所定時間経過し、ガイド部材が定着温度近くまで昇温し、定着ベルト101の端部からガイド部材への熱移動が少なり端部温度ダレが発生しない条件となったら、サブヒータ102bの点灯を停止する。そして、メインヒータ102aのみ、温度検知センサ110の検知結果に基づいて点灯制御を行って、定着ベルト101を定着温度に維持する。
【0034】
メインヒータ102aのみの点灯となると、幅方向にほぼ均一な発熱量となり、定着ベルト101がほぼ均一に加熱される。従って、端部温度ダレが発生しない条件となった後は、幅方向中央に配置した温度検知センサ110が検知した定着ベルト101の温度に基づいてメインヒータ102aの点灯制御を行う。これにより、定着ベルト101の温度を幅方向でほぼ定着温度に維持することができ、幅方向端部の定着不良の発生を抑制できる。
【0035】
通紙される用紙が小サイズのときは、メインヒータ102aのみを温度検知センサ110の検知結果に基づいて点灯制御を行って、定着ベルト101を定着温度に維持する。
【0036】
このように、本実施形態では、メインヒータ102aを、本プリンタが通紙可能な最大サイズの幅で均一な発熱量とすることで、定着ベルトの端部を定着温度に維持するためのサブヒータ102bの点灯制御用の端部温度検知センサを無くすことができる。これにより、部品点数の削減を図ることができ、装置のコストダウンを図ることができる。
【0037】
ごく稀に制御部の誤作動等により、メインヒータ102aおよびサブヒータ102bへの通電制御が制御不能となり、定着ベルトが異常加熱される所謂熱暴走が生じることがある。従来は、メインヒータ102aの熱暴走に対応した電力遮断装置を定着ベルトの中央に対向配置し、サブヒータ102bの熱暴走に対応した電力遮断装置を定着ベルトの端部に対向配置していた。しかしながら、従来では、複数の電力遮断装置を備えるため、部品点数の増加による装置のコストアップや装置の大型化が生じするおそれがあった。
【0038】
本実施形態では、サブヒータ102bの発熱分布を適切な発熱分布にすることで、サブヒータ102bの熱暴走により定着ベルトの端部温度が異常温度以上となる前に定着ベルトの幅方向略中央に配置した電力遮断装置によりサブヒータ102bへの電力を遮断できるようにした。以下、図面を用いて、具体的に説明する。
【0039】
図3は、サブヒータ102bの幅方向端部の発熱分布を示す図である。
図3に示す発熱分布は、次のようにして求めた。すなわち、サブヒータ102bに一定電圧(例えば50V)を印可して1分待機した後、サブヒータ102bの幅方向全域を一端から他端まで約20秒で光センサを走査し、光センサによりサブヒータ102bの幅方向各位置の赤外光量を検知することで求めた。赤外光量が、ヒータの各位置の発熱量に対応する。
【0040】
本実施形態のサブヒータ102bは、幅方向端部の最大発熱箇所の中央に対する発熱比率である最大発熱比率Rpを150%としている。また、本プリンタが通紙可能な最大サイズ(本実施形態では、SRA3サイズ(幅:320mm×縦:450mm))の端部の中央に対する発熱比率である端部発熱比率Rqを130%としている。さらに、本実施形態のサブヒータ102bの中央よりも発熱量が多い端部領域の半値幅Lを65mmとしている。なお、上記半値は、最大発熱比率Rp150%の中央発熱比率(100%)に対する半値(125%)である。
【0041】
図4は、
図3に示した発熱分布を有するサブヒータ102bを備えた実施例1の定着装置を用いて意図的に熱暴走させた熱暴走試験時の定着ベルト101の昇温プロファイルである。
図4(a)は、冷間立ち上げ熱暴走試験における定着ベルト101の昇温プロファイルであり、
図4(b)は、通紙後熱暴走試験における定着ベルト101の昇温プロファイルである。通紙後熱暴走試験は、通紙後に想定外の故障が起き、定着ベルト101の端部側表面温度が240℃付近で飽和した状態で、定着ベルト停止状態からメインヒータ102aとサブヒータ102bとが同時に熱暴走した状態を想定したものである。
【0042】
冷間立ち上げ熱暴走試験は、定着ベルト101を停止した状態で冷間状態からメインヒータ102aおよびサブヒータ102bを点灯させて行った。通紙後熱暴走試験は、A4縦サイズを100枚連続通紙後に、定着ベルト101を停止した状態でメインヒータ102aおよびサブヒータ102bを点灯させて行った。具体的には、温度検知センサ110で、メインヒータ102aのみで定着ベルト表面を138℃で温度制御しながら、線速150mm/sで、A4縦サイズ紙(リコー複写印刷用紙90K、坪量105g/m2)を連続100枚通紙した。その後、定着ベルト停止状態からメインヒータ102aとサブヒータ102bとを同時に点灯させて行った。
【0043】
図4に示す昇温プロファイルは、定着ベルト101の表面温度が回転方向で最も高くなる定着ニップ前の
図2に示すQの位置の表面温度(以下、ニップ前温度という)の昇温プロファイルである。
図2に示すQの位置に幅方向に熱電対を複数配置し、これら熱電対により定着ベルト101の幅方向でニップ前温度を測定して、
図4に示す昇温プロファイルを得た。Tcは定着ベルト101の幅方向中央の昇温プロファイルであり、Teは、定着ベルトの幅方向中央から幅方向で約130mm離れた箇所における昇温プロファイルである。
【0044】
以下、各熱暴走試験に用いた実施例1の定着装置の諸元を示す。
・メインヒータ102a:通紙可能な最大サイズ(SRA3サイズ)幅で均一な発熱分布のハロゲンヒータ
・サブヒータ102b:
図3に示す端部発熱分布を有するハロゲンヒータ
・温度検知センサ110:サーモパイル、定着ベルトの幅方向中央に配置
・電力遮断装置111:サーモスタット、定着ベルトの幅方向中央から40mmの位置に配置し、定着ベルトとのギャップは約3mm。
・摺動部材116:材質PTFE
・加圧ローラ103:外径32mm、幅方向(軸方向)長さ340mm
芯金105:φ12mm
弾性ゴム層104:厚み4mmの発泡ゴム
離型層103a:50μmのPFAチューブ
・定着ベルト101:外径30mm、幅方向(軸方向)長さ360mmで、内側から厚み10μmの内面コート層、厚み30μmのニッケルからなる基材、厚み10μmの銅からなる高熱伝導層、厚み120μmのシリコーンゴム層、厚み7μmのPFAコートを有する。
・ニップ荷重:25Kgf
・定着ニップ幅:中央部10mm,端部10.5mm
【0045】
各熱暴走試験のヒータ点灯条件は、以下の通りである。
・入力電圧(最大):274V(定格電圧上限+10%)
・メインヒータ入力電力:810W(定格電力上限+10%)
・サブヒータ入力電力:520W(定格電圧上限+10%)
・定着ベルト101の異常温度:400℃
【0046】
幅方向端部が
図3に示す発熱分布を有するサブヒータ102bが搭載された実施例1の定着装置においては、
図4(a)に示すように、冷間立ち上げ時に熱暴走が発生したときは、定着ベルト101の中央が端部よりも早く昇温することがわかる。これにより、定着ベルトの表面温度が、異常温度(400℃)を超える前に、略中央に配置したサーモスタットが作動して、各ヒータへの電力を遮断することができる。
【0047】
図4(b)に示すように、実施例1の定着装置は、定着ベルト101の端部側のニップ前温度Teが中央のニップ前温度Tcよりも高い状態で、メインヒータ102aとサブヒータ102bが熱暴走しても、端部側のニップ前温度Teが異常温度(400℃)に到る前に、中央のニップ前温度Tcが端部側のニップ前温度Teより高くなる。よって、通紙後など、定着ベルト101の端部側のニップ前温度Teが中央のニップ前温度Tcよりも高い状態で熱暴走が発生しても、定着ベルト101の端部側が異常温度(400℃)を超える前に略中央に配置したサーモスタットが作動し、各ヒータへのへの電力を遮断できる。
【0048】
尚、昇温途中で定着ベルト中央のニップ前温度Tcと端部側のニップ前温度Teとが逆転するのは、以下の理由と考えられる。すなわち、熱暴走開始初期は、定着ベルト101の端部側の温度が中央よりも高いため、定着ベルト101端部側の熱が、ベルト幅方向の熱伝導により中央部に熱供給される。特に、上述したように、定着ベルト101は、銅からなる厚み10μmの金属層たる高熱伝導層を有している。よって、ベルト幅方向の熱伝導性がよく、温度が高い定着ベルト端部側の熱を、良好にベルト幅方向中央へ移動させることができる。このように、定着ベルト端部側の熱が、中央部に移動することで、端部側と中央との温度差が無くなっていき、やがて定着ベルト101の幅方向の温度が均一化する。温度が均一化した後は、定着ベルト101の端部側の熱は、定着ベルト101の内周面の端部に接触するガイド部材などへ移動するが、幅方向中央部分の熱は定着ベルト101の端部側に比べて、熱の移動先が少ない。その結果、温度が均一化した後は、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが端部側のニップ前温度Teよりも高くなって、昇温途中で定着ベルト中央のニップ前温度Tcと端部側のニップ前温度Teとが逆転すると考えられる。
【0049】
図5は、実施例1の定着装置において、通紙可能な最大サイズ幅の端部に対応する定着ベルトの箇所と、中央箇所との冷間立ち上げ時のニップ前温度(
図2のQの位置温度)の昇温プロファイルである。
図5における目標ニップ前温度は、温度検知センサ110が検知した温度が138℃となるようにメインヒータ102aを点灯制御したときのニップ前温度である。本実施形態では、目標ニップ前温度は、150℃である。
図5に示すように、実施例1の定着装置は、用紙が定着ニップNに突入する前に、定着ベルトの通紙可能な最大サイズ(SRA3サイズ)幅の端部に対応する定着ベルト101の箇所を、ほぼ目標ニップ前温度に立ち上げることができる。これにより、装置の電源ON後に最初に印刷する用紙サイズが、本プリンタの通紙可能な最大サイズ(SRA3サイズ)幅であっても、用紙幅方向端部のトナー像を良好に用紙に定着することができる。
【0050】
図6は、比較例1の定着装置における熱暴走試験時の定着ベルトの昇温プロファイルである。
図6(a)は、冷間立ち上げ熱暴走試験における定着ベルト101の昇温プロファイルであり、
図6(b)は通紙後熱暴走試験における定着ベルト101の昇温プロファイルである。
【0051】
比較例1の定着装置は、サブヒータ102bの最大発熱比率Rpを160%とした以外は、実施例1と同一の構成である。そして、実施例1と同条件で熱暴走試験を行い、定着ベルトの端部側のニップ前温度Teと、中央のニップ前温度Tcとを測定した。
【0052】
比較例1の定着装置は、サブヒータ102bの最大発熱比率Rpを160%とし、実施例1の定着装置よりもサブヒータ102bの最大発熱比率Rpを10%高くしている。そのため、定着ベルトの端部側に与える熱量が実施例1よりも多くなり、
図6(a)に示すように、冷間立ち上げ時の熱暴走において、定着ベルト101の端部側が、中央よりも早く昇温する。そのため、略中央に配置されたサーモスタットが定着ベルトの中央の表面温度によって動作する前に、定着ベルト101の端部側が、異常温度(400℃)に達してしまう。
【0053】
図6(b)に示すように、連続印刷通紙後の熱暴走においても、定着ベルト101の端部が、中央よりも早く異常温度(400℃)に達してしまう。これは、以下の理由が考えられる。すなわち、サブヒータ102bの最大発熱比率Rpを160%とし、実施例1の定着装置よりもサブヒータ102bの最大発熱比率Rpが10%高い。そのため、サブヒータ102bおよびメインヒータ102aにより定着ベルト101の端部側に与えられる熱量が実施例1よりも多くなる。その結果、定着ベルト101の端部側からベルト中央やガイド部材へ移動する熱量よりも、定着ベルト101の端部側に与えられるヒータの熱量の方が多く、定着ベルト101の端部側のニップ前温度Teが、定着ベルトの中央のニップ前温度Tcよりも高い状態のままになったと考えられる。よって、定着ベルト101の端部側が異常温度(400℃)を超えた後にサーモスタットが定着ベルトの中央の表面温度によって動作することになったと考えられる。
このように、比較例1の定着装置では、熱暴走が発生すると、定着ベルト101の端部側が異常温度(400℃)に達してしまい、定着装置が熱によって異常をきたすおそれがある。
【0054】
下記表1は、実施例1の定着装置と、比較例1の定着装置について、光沢ムラ、端部温度ダレを評価した結果を示すものである。
【0055】
【0056】
冷間状態から立ち上げてA3サイズ紙(坪量105g/m
2)を連続通紙したときの定着ニップ手前の位置(
図2のQの位置)で熱電対により検知した定着ベルト101のニップ前温度と光沢ムラとの関係を事前評価した。その結果、定着ベルト101の端部側のニップ前温度が、目標ニップ前温度150℃に対して+8℃(158℃)を超えると中央と幅方向端部側とで光沢が異なる光沢ムラが発生した。そのため、冷間状態から用紙が定着ニップNに突入する前までに定着ベルトの端部側のニップ前温度が158℃を超える箇所があった場合は、光沢ムラを「×」判定とした。一方、定着ベルトの端部側のニップ前温度が、158℃以下の場合は、光沢ムラ判定を「〇」判定とした。
【0057】
冷間状態から用紙が定着ニップNに突入する前までに定着ベルト101の端部側のニップ前温度が、目標ニップ前温度150℃に対して-8℃未満(142℃未満)の場合、コールドオフセットが発生した。そのため、定着ベルト101の端部側のニップ前温度が、142℃未満の場合は、「×」判定とした。一方、定着ベルトの端部側のニップ前温度が、142℃以上の場合は、端部温度ダレ判定を「〇」判定とした。
【0058】
比較例1、実施例1ともに、冷間状態から用紙が定着ニップNに突入する前までに定着ベルトの端部側のニップ前温度を150℃±8℃の範囲に納めることができた。これにより、比較例1、実施例1ともに、装置の電源ON後に最初に印刷する用紙サイズが、大サイズ紙であっても、用紙幅方向端部と中央とで光沢の差を抑制できる。また、端部温度ダレによる用紙幅方向端部の定着不良(コールドオフセット)も抑制できる。
【0059】
下記表2は、比較例2、比較例3の熱暴走試験の結果を示す表である。
【0060】
【0061】
比較例2の定着装置は、表2に示すように、サブヒータの端部発熱比率Rqを、120%とし、実施例1に対してサブヒータの端部発熱比率Rqを10%低下させた以外は、実施例1と同一のものである。比較例3は、半値幅を75mmとし、実施例1に対してサブヒータの端部領域の半値幅Lを10mm長くした以外は、実施例1と同一のものである。
【0062】
比較例2、3では、実施例1と同様、冷間立ち上げ熱暴走試験、通紙後熱暴走試験いずれにおいても、端部側よりも先に定着ベルト101の中央が、異常温度400℃に到達した。しかし、比較例2については、端部温度ダレの判定が「×」となり、比較例3については、光沢ムラが「×」判定となった。
【0063】
図7(a)は、比較例2の定着装置において、通紙可能な最大サイズ幅の端部に対応する定着ベルトの箇所と、中央箇所との冷間立ち上げ時のニップ前温度(
図2のQの位置温度)の昇温プロファイルである。
図7(b)は、比較例3の定着装置において、定着ベルト幅方向中央から幅方向105mmの箇所と、中央箇所とのニップ前温度(
図2のQの位置温度)の冷間立ち上げ時の昇温プロファイルである。
【0064】
比較例2では、サブヒータの端部発熱比率Rqを、120%とし、実施例1に対してサブヒータの端部発熱比率Rqを10%低下させている。その結果、
図7(a)に示すように、定着ベルト101の最大サイズの端部に対応する箇所のニップ前温度が、142℃(目標ニップ前温度150℃に対して-8℃)を下回ってしまった。そのため、通紙可能な最大サイズ幅を通紙したときに、幅方向端部の画像にコールドオフセットが発生するおそれがあり、端部温度ダレの判定が「×」となった。
【0065】
比較例3では、半値幅を75mmとし、実施例1に対してサブヒータの端部領域の半値幅Lを10mm長くしている。そのため、発熱量が多い端部領域が実施例1よりも長くなる。このように、端部領域が長くなることで、定着ベルト101の端部側が過剰に加熱されてしまう。その結果、
図7(b)に示すように、定着ベルト101の端部側で、158℃(目標ニップ前温度150℃に対して+8℃)を上回る箇所が生じた。そのため、比較例3では、通紙可能な最大サイズ幅を通紙したときに、幅方向端部側と中央側とで光沢が異なり、光沢ムラが発生するおそれがあり、光沢ムラの判定が「×」となった。
【0066】
下記表3は、実施例2の熱暴走試験の結果を示す表である。
【0067】
【0068】
実施例2の定着装置は、表3に示すように、サブヒータの最大発熱比率Rpを145%、端部発熱比率Rqを140%、半値幅を60mmとした以外は、実施例1と同一のものである。この実施例2も、冷間立ち上げ熱暴走試験、通紙後熱暴走試験いずれも実施例1と同様、端部側よりも先に定着ベルト101の中央が、異常温度400℃に到達し、熱暴走評価は「〇」判定であった。また、冷間状態から用紙が定着ニップNに突入する前までに定着ベルトの端部側のニップ前温度を150℃±8℃の範囲に納めることができ、光沢ムラ評価、端部温度ダレ評価いずれも「〇」判定であった。
【0069】
以上実施例1~2、比較例1~3の結果から以下のことがわかった。
すなわち、最大発熱比率Rpを、150%以下とすることで、端部よりも先に定着ベルト101の中央を異常温度(400℃)に到達させることができる。これにより、定着ベルト101の表面温度が異常温度(400℃)を超える前に幅方向略中央に配置したサーモスタット等の電力遮断装置111によりサブヒータ102bおよびメインヒータ102aへの電力を遮断することができる。よって、定着装置100の異常高温による不具合の発生をひとつの電力遮断装置111により抑制することができる。その結果、定着ベルト101の幅方向端部と、中央とに電力遮断装置を配置するもの比べて部品点数の削減を図ることができ、装置のコストダウンおよび定着装置の小型化を図ることができる。
【0070】
また、端部発熱比率Rqを130%以上とすることで、端部温度ダレを抑制し、大サイズ通紙時の幅方向端部の定着不良(コールドオフセット)を抑制できる。さらには、サブヒータの端部領域の半値幅Lを65mm以下とすることで、大サイズ通紙時の幅方向端部と中央との光沢ムラの発生を抑制できる。これにより、大サイズの幅方向端部のトナー像を良好に定着することができる。
【0071】
図8は、実施例1の定着装置用いて意図的にサブヒータのみを520Wで熱暴走させた第二熱暴走試験時の定着ベルト101の昇温プロファイルである。
図8(a)は、冷間立ち上げ第二熱暴走試験における昇温プロファイルであり、
図8(b)は、通紙後第二熱暴走試験における昇温プロファイルである。
【0072】
図8(a),(b)に示すように、サブヒータ102bのみの熱暴走では、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが、端部側のニップ前温度Teよりも高くなることはなかった。しかし、端部側のニップ前温度Teが400℃を超える前に、サーモスタットが作動しサブヒータ102bへの電力が遮断された。冷間立ち上げ第二熱暴走試験においては、
図8(a)に示すように、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが、約360℃でサーモスタットが動作した。また、通紙後第二熱暴走試験においては、
図8(b)に示すように、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが、約350℃でサーモスタットが動作した。
【0073】
第二熱暴走試験は、サブヒータ102bのみ熱暴走させているため、サブヒータ102bとメインヒータ102aの両方を熱暴走させた場合に比べて昇温スピードが遅い。そのため、定着ベルト101の端部側のニップ前温度Teが400℃を超える前に、サーモスタット周辺の雰囲気温度がサーモスタットが作動する温度に到達し、サーモスタットが動作したと考えられる。
【0074】
図9は、比較例1の定着装置用いた第二熱暴走試験時の定着ベルト101の昇温プロファイルである。
図9(a)は、冷間立ち上げ第二熱暴走試験における昇温プロファイルであり、
図9(b)は、通紙後第二熱暴走試験における昇温プロファイルである。
【0075】
図9(a)に示すように、比較例1についても、実施例1と同様に、冷間立ち上げ第二熱暴走試験では、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが約360℃でサーモスタットが動作した。また、
図9(b)に示すように、通紙後第二熱暴走試験においても実施例1と同様に、定着ベルト中央のニップ前温度Tcが、約350℃でサーモスタットが動作した。
【0076】
しかしながら、比較例1では、冷間立ち上げ第二熱暴走試験と通紙後第二熱暴走試験の両方で、サーモスタットが動作したときの定着ベルト端部側のニップ前温度Teが400℃を越えてしまった。これは、比較例1は、サブヒータ102bの最大発熱比率Rpを160%とし、実施例1の定着装置よりもサブヒータ102bの最大発熱比率Rpを10%高くしている。そのため、定着ベルト101の端部側に与える熱量が実施例1よりも多い。これにより、
図8と
図9の比較から明らかなように、定着ベルト端部側のニップ前温度Teの温度上昇が、実施例1よりも早くなる。そのため、略中央に配置されたサーモスタットが雰囲気温度によって作動する前に、定着ベルト端部側のニップ前温度Teが、異常温度の400℃を越えてしまったと考えられる。
【0077】
下記表4は、第二熱暴走試験の結果をまとめたものである。
【0078】
【0079】
第二熱暴走試験から、最大発熱比率Rpを150%以下とすることで、サブヒータ102bのみ熱暴走した場合でも、定着ベルト101の端部側の表面温度が異常温度(400℃)を超える前に幅方向略中央に配置したサーモスタット等の電力遮断装置111によりサブヒータへの電力を遮断できる。これにより、サブヒータ102bのみ熱暴走したときでも、定着装置の異常高温による不具合の発生をひとつの電力遮断装置111により抑制できる。
【0080】
なお、メインヒータ102aのみ熱暴走したときは、定着ベルト101の中央が端部側よりも温度が高くなる。これは、
図4に示したように、メインヒータ102aとサブヒータ102bの両方が熱暴走した際にベルト中央の方が高くなることから、メインヒータ102aのみ熱暴走した場合は、定着ベルトの中央が端部側よりも温度が高くなるのは自明である。よって、メインヒータ102aのみ熱暴走したときは、定着ベルト101の端部側の表面温度が異常温度(400℃)を超える前に幅方向略中央に配置したサーモスタット等の電力遮断装置111によりサブヒータへの電力を遮断することができる。
【0081】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
定着ベルト101などの定着部材と、互いに発熱分布の異なる定着部材加熱用の複数の加熱源と、定着部材の幅方向の中央付近に対向配置され、定着部材の温度が所定の異常温度以上となる前に、各加熱源への電力供給を遮断する電力遮断装置111などの電力遮断手段とを備える定着装置100において、通紙可能な記録材の最大サイズ幅内で幅方向均一な発熱分布を有するメインヒータ102aなどの第一加熱源と、最大サイズ幅の幅方向両側に対応する発熱量が中央の発熱量よりも高い発熱分布を有するサブヒータ102bなどの第二加熱源とを備え、第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(最大発熱比率Rp)が150%以下であり、第二加熱源の最大サイズ幅の幅方向端部に対応する箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(端部発熱比率Rq)が、130%以上であり、第二加熱源の端部領域などの両側の発熱量が中央の発熱量よりも高い領域の半値幅Lが65mm以下である。
これによれば、上述した各熱暴走試験で説明したように、サブヒータ102bなどの第二加熱源の両側の最も発熱量が多い最大発熱箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(最大発熱比率Rp)を150%以下とすることで、第二加熱源が熱暴走したとき、定着ベルト101などの定着部材の両側が所定の異常温度を超える前に幅方向中央付近に配置したサーモスタットなどの電力遮断手段が作動し、第二加熱源への電力供給を遮断することができる。
さらに、第二加熱源の最大サイズ幅の幅方向端部に対応する箇所の中央の発熱量に対する発熱量の比率(端部発熱比率Rq)を130%以上とし、第二加熱源の両側の発熱量が中央の発熱量よりも高い領域の半値幅Lを65mm以下とすることで、最大サイズ幅の用紙などの記録材を通紙したときの定着部材の両側の表面温度を所定の温度範囲(150℃±8℃)に維持することができ、最大サイズ幅の記録材の幅方向端部のトナー像を良好に定着することができる。
【0082】
(態様2)
態様1において、定着ベルト101などの定着部材は、高熱伝導層などの金属層を有する。
これによれば、実施形態で説明したように、定着部材の幅方向の熱伝導性がよくなる。その結果、定着部材の端部側の温度が中央よりも高い状態で熱暴走が発生した場合、端部側の熱を、良好にベルト幅方向中央へ移動させ、定着部材の幅方向の温度の均一化を図ることができる。これにより、定着部材の端部側が異常温度を超えてから、幅方向の中央に配置された電力遮断装置などの電力遮断手段が動作するのを抑制することができる。
【0083】
(態様3)
態様2において、高熱伝導層などの金属層は、ニッケルまたは銅からなる。
これによれば、熱伝導率の高いニッケルまたは銅で高熱伝導層などの金属層を構成することで、良好に定着ベルトの温度の均一化を図ることができる。
【0084】
(態様4)
態様1乃至3いずれかにおいて、定着部材は、無端状の定着ベルトである。
これによれば、
【0085】
(態様5)
用紙などの記録材に画像を形成する画像形成部と、
前記記録材に形成された画像を前記記録材に定着させる定着装置とを備えた画像形成装置において、定着装置として、態様1乃至4いずれかの定着装置を用いた。
これによれば、良好な画像を得ることができ、かつ、部品点数の削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0086】
100 :定着装置
101 :定着ベルト
102a :メインヒータ
102b :サブヒータ
103 :加圧ローラ
103a :離型層
104 :弾性ゴム層
105 :芯金
106 :パッド
107 :支持部材
109 :リフレクタ
110 :温度検知センサ
111 :電力遮断装置
116 :摺動部材
200 :プリンタ
L :半値幅
N :定着ニップ
Rp :最大発熱比率
Rq :端部発熱比率
S :用紙
Tc :定着ベルト中央のニップ前温度
Te :定着ベルト端部側のニップ前温度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0087】