(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172493
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】鉱石スラリーの製造方法、及び、金属製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/00 20060101AFI20231129BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20231129BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C22B3/00
C22B23/00 102
C22B23/00 101
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084338
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA05
4K001DA05
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】原料鉱石から鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造において、従来の手段よりも低コストで、移送不良の原因となるスラリーの過剰な粘度上昇を抑制すること。
【解決手段】予め、複数の群にグループ分けされている原料鉱石について、それぞれの原料鉱石グループ毎に、粒度分布を測定する、粒度分布測定工程S11と、原料鉱石グループ単位での、原料鉱石の混合比を決定する混合比決定工程S12と、混合比に基づいて、原料鉱石をブレンドする、ブレンド工程S13と、オーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子からなる粗鉱石スラリーを得る分級工程S14と、粗鉱石スラリーに含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程S15と、を含んでなり、混合比決定工程S12では、ブレンド後の原料鉱石の平均粒度が所定値以上となるように、混合比を決定する、鉱石スラリーの製造方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料鉱石から鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法であって、
予め、複数の群にグループ分けされている前記原料鉱石について、それぞれの原料鉱石グループ毎に、粒度分布を測定する、粒度分布測定工程と、
前記原料鉱石グループ単位での、前記原料鉱石の混合比を決定する混合比決定工程と、
前記混合比に基づいて、前記原料鉱石をブレンドする、ブレンド工程と、
オーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子からなる粗鉱石スラリーを得る分級工程と、
前記粗鉱石スラリーに含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程と、を含んでなり、
前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が所定値以上となるように、前記混合比を決定する、
鉱石スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、前記鉱石スラリーの粘度上昇に起因する移送不良が生じない粒度となるように、前記混合比を決定する、
請求項1に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、前記鉱石スラリーの降伏応力が200Pa以下となる粒度となるように、前記混合比を決定する、
請求項1に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、8.0μm以上となるように、前記混合比を決定する、
請求項1から3の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記原料鉱石は、ニッケル酸化鉱石である、
請求項1から3の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【請求項6】
請求項1から3の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法によって製造された前記鉱石スラリーを硫酸に添加して、高温高圧下で、目的金属を含む浸出液を得る、浸出工程を含んでなる、
金属製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石スラリーの製造方法、金属製錬方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製造方法に関する。より詳しくは、鉱石スラリーの粘度の上昇を抑制することができる「鉱石スラリーの製造方法」、及び、「金属製錬方法」に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケルとコバルトを全量に対しそれぞれ1.0~2.0%、0.1~0.5%程度含有するニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルトを回収する製錬方法として、湿式製錬法の一つである、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach:以下、「HPAL法」とも言う)が利用されている。
【0003】
この「HPAL法」は、例えば、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧下で浸出して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出処理方法である。そして、この「HPAL法」を適用した浸出工程、不純物元素を含む中和澱物スラリーとニッケル回収用母液を形成する中和工程、及び、ニッケル回収用母液からニッケル・コバルト混合硫化物と貧液を形成する硫化工程、を含む金属製錬方法が広く行われている(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、上述の金属製錬方法の実施において、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石は、解砕処理及び多段階からなる分級(篩分け)処理を施す解砕・分級工程と、鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程を経て、鉱石スラリーとされた後に、上記の浸出工程に投入されている(特許文献2、3参照)。しかしながら、この鉱石スラリーを製造するプロセスにおいて、投入される原料鉱石の粒度の変動によって、過度に粒度の小さい微細な鉱石粒子が混入する場合があり、その結果、得られる鉱石スラリーの粘度が過剰に高くなってしまうことがあった。これは、過度に粒度の小さい鉱石粒子からなる鉱石スラリーでは、微細な鉱石粒子同士が所定の凝集力によって凝集し、その凝集した粒子間に水分が取り込まれるようになり、スラリー中の見かけの溶媒量が減少し、その結果として鉱石スラリー粘度を上昇させることによるものと考えられる。
【0005】
鉱石スラリーのスラリー粘度が過剰に上昇すると、例えば金属製錬処理プロセスに鉱石スラリーを移送する際、通常の移送ポンプでは効果的に移送することができず、配管にスラリーが付着する等の障害をもたらすことになる。金属製錬処理において、このような鉱石スラリーの移送不良が生じると、配管に付着したスラリーを除去するために操業を一時的に停止させなければならず、著しく操業効率を低下させる。
【0006】
原料鉱石の過剰な細粒化とそれに伴う鉱石スラリーの過度の粘度上昇を回避するための技術的手段として、解砕・分級工程の最終段として、過度に微細な鉱石粒子を除去する工程を新たに設けることが考えられる。しかしながら、このような手段の実施には、新たな設備導入のコストが嵩むこととなる。加えて、このような手段によるとすれば、解砕・分級工程でリジェクトされる鉱石量が増加することによって鉱石資源の有効活用性が低下してしまうリスクも大きい。
【0007】
そこで、上記問題を解決することを企図する他の技術的手段として、解砕・分級工程にて除去されたオーバーサイズの鉱石粒子の一部を固液分離装置に再度装入添加する「鉱石スラリーの製造方法」が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-350766号公報
【特許文献2】特開2009-173967号公報
【特許文献3】特開平11-124640号公報
【特許文献4】特開2013-95998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、オーバーサイズの鉱石粒子の一部を固液分離装置に再度装入添加する特許文献4に記載の方法は、分級処理により除去回収されたオーバーサイズの鉱石粒子の貯留場所を確保する必要があり、又、これらのオーバーサイズの鉱石粒子を、例えば、20~100μmの粒子となるように調整するための粉砕設備が必要になる。そのため、この方法の実施も、設備コストが著しく高くなるおそれがある。又、不純物の混入度が高いオーバーサイズの鉱石粒子を混合することによる平均不純物品位の上昇により、資材投入量の増加により、生産コストを増加させる一因ともなり得る。
【0010】
本発明は、以上述べた実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石から鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造において、従来の手段よりも低コストで、移送不良の原因となるスラリーの過剰な粘度上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、原料鉱石から鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法において、原料の鉱石を粒度分布毎にグループ分けして、それぞれのグループのブレンド比を最適に調整することで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0012】
(1) 原料鉱石から鉱石スラリーを製造する鉱石スラリーの製造方法であって、予め、複数の群にグループ分けされている前記原料鉱石について、それぞれの原料鉱石グループ毎に、粒度分布を測定する、粒度分布測定工程と、前記原料鉱石グループ単位での、前記原料鉱石の混合比を決定する混合比決定工程と、前記混合比に基づいて、前記原料鉱石をブレンドする、ブレンド工程と、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子からなる粗鉱石スラリーを得る分級工程と、前記粗鉱石スラリーに含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮する鉱石スラリー濃縮工程と、を含んでなり、前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が所定値以上となるように、前記混合比を決定する、鉱石スラリーの製造方法。
【0013】
(1)の鉱石スラリーの製造方法によれば、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石から鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造において、従来の手段よりも低コストで、移送不良の原因となるスラリーの粘度上昇を抑制することができる。
【0014】
尚、ニッケル酸化鉱石等の各種の原料鉱石は、同種の鉱石であっても、通常、銘柄毎、即ち、発生元毎に、平均粒度等の物理的性状に一定の差異があり、又、同一発生元であっても、搬入単位毎、即ち、ロット毎にある程度の物理的性状のバラツキがあることが不可避である。このような原料鉱石の銘柄やロット毎の物理的性状のバラツキは、従来、鉱石スラリーの粘度の過剰な上昇や、最終製造品の品質のバラツキの要因となりかねないところであった。これに対して、(1)の鉱石スラリーの製造方法は、原料鉱石の銘柄毎等の物理的性状のバラツキを、ブレンド工程を行うための「グループ」として巧みに活用することによって、プロセス全体の生産性を向上させることができるようにしている点において、原料鉱石の有効活用と最終製造品の品質の安定性にも寄与し得るプロセスである。
【0015】
(2) 前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、前記鉱石スラリーの粘度上昇に起因する移送不良が生じない粒度となるように、前記混合比を決定する、(1)に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【0016】
(2)の鉱石スラリーの製造方法によれば、鉱石スラリーの粘度上昇を抑え、スラリーの移送不良による生産性低下を回避することができる。
【0017】
(3) 前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、前記鉱石スラリーの降伏応力が200Pa以下となる粒度となるように、前記混合比を決定する、(1)に記載の鉱石スラリーの製造方法。
【0018】
(3)の鉱石スラリーの製造方法によれば、鉱石スラリーを用いた金属精錬処理において一般的に使用されている移送ポンプにおいて、鉱石スラリーの降伏応力が200Paを超えるようになる粒度を指標として、ブレンド後の原料鉱石の平均粒度をブレンド時の混合比の最適化によって管理することにより、鉱石スラリーの粘度上昇を抑え、移送不良等の発生を防止することができる。尚、操業現場においては、鉱石スラリーの粘度を表す場合、代替指標として降伏応力の値(単位は「Pa」)を使用するのが一般的であり(特許文献4参照)、本明細書においても、上記のように鉱石スラリーの降伏応力を、必要に応じて、鉱石スラリーの粘度を表す代替指標として用いる。
【0019】
(4) 前記混合比決定工程では、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が、8.0μm以上となるように、前記混合比を決定する、(1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【0020】
(1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法を実施する場合、ニッケル酸化鉱石を原料鉱石とする場合を含め、多くの場合において、鉱石スラリーは、その粒度が、8.0μm未満となる場合に降伏応力が200Paを超えるようになる。このことから、(4)の鉱石スラリーの製造方法によれば、ブレンド後の前記原料鉱石の平均粒度が8.0μm以上となるように、ブレンド時の混合比の最適化によって管理することにより、鉱石スラリーの粘度上昇を抑え、移送不良等の発生を防止することができる。
【0021】
(5) 前記原料鉱石は、ニッケル酸化鉱石である、(1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法。
【0022】
(5)の鉱石スラリーの製造方法によれば、(1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法の奏する上記各効果を享受して、鉱石スラリーの粘度上昇が抑制できることにより、鉱石スラリーの移送不良を効果的に防止することができ、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを得る金属製錬プロセスにおいて、鉱石スラリーの移送不良に起因する生産性低下を防ぐことができる。
【0023】
(6) (1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法によって製造された前記鉱石スラリーを硫酸に添加して、高温高圧下で、目的金属を含む浸出液を得る、浸出工程を含んでなる、金属製錬方法。
【0024】
(6)の金属製錬方法によれば、(1)から(3)の何れかに記載の鉱石スラリーの製造方法の奏する上記各効果を享受して、鉱石スラリーの粘度上昇が抑制できることにより、新規な設備等を設けることなく、鉱石スラリーの移送不良を効果的に防止することができ、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(HPAL法)を用いて行う金属製錬プロセスにおいて、鉱石スラリーの移送不良に起因する生産性低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石から鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造において、従来の手段よりも低コストで、移送不良の原因となるスラリーの過剰な粘度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の「鉱石スラリーの製造方法」及び「金属製錬方法」を適用することができる代表的な金属製錬プロセスであるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程図である。
【
図2】本発明の「鉱石スラリーの製造方法」の工程図である。
【
図3】粒度が異なる2種類の原料鉱石をブレンドした時のスラリー密度と粘度との関係を説明したグラフである。
【
図4】粒度が異なる2種類の原料鉱石をブレンドした時のスラリー密度と粘度の関係を説明した対数グラフである。
【
図5】鉱石スラリーを浸出工程に送液するためのポンプについて、鉱石スラリーの粘度と吐出量との関係を示した能力曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の「鉱石スラリーの製造方法」、及び、「金属製錬方法」について、具体的な実施形態を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0028】
<鉱石スラリーの製造方法>
本発明の鉱石スラリーの製造方法(以下、単に「鉱石スラリーの製造方法」とも言う)は、例えば、ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルトを回収する金属製錬等、各種の金属製錬において、原料鉱石から、「浸出工程」等の下流側の工程に投入するための「鉱石スラリー」を製造する方法である。
【0029】
この「鉱石スラリーの製造方法」は、
図1に示す、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」の流れの中で、その部分工程である鉱石スラリー製造工程S1を実施するためのプロセスとして好適なプロセスである。そして、この「鉱石スラリーの製造方法」は、
図2に示す通り、粒度分布測定工程S11、混合比決定工程S12、ブレンド工程S13、分級工程S14、鉱石スラリー濃縮工程S15の各工程を順次行うことにより、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石から、移送不良を引き起こすことがない適度な粘度を有する鉱石スラリーを安定的に製造することができる。
【0030】
尚、本発明の「鉱石スラリーの製造方法」は、上記のニッケル酸化鉱石金属に限られず、例えば、銅を含有した酸化銅鉱石等、有価金属を含有する各種の原料鉱石の処理に適用することができる。
【0031】
[粒度分布測定工程]
粒度分布測定工程S11は、予め、複数の群にグループ分けされている原料鉱石について、それぞれの原料鉱石グループ毎の粒度分布を測定する工程である。ここで、それぞれの原料鉱石グループは、同種の鉱石を一定量毎にまとめた任意の量の納品ロット等で構成することができるが、この原料鉱石グループは、比較的性状の均一性が高い、同一銘柄の原料鉱石(同一の鉱石エリアから採掘された原料鉱石)毎にグループ分けされたものであることが好ましい。
【0032】
各原料鉱石グループの粒度分布の測定は、各原料鉱石グループから採取した統計データとして十分な量のサンプリング試料について、溶媒として純水を加えて粒度分布測定装置へ投入して、平均粒度(50%径:D50)を測定することによって行う。粒度分布測定装置としては、例えば、マイクロトラック粒度測定装置等、各種の公知の粒度分布測定装置を用いることができる。
【0033】
尚、この粒度分布測定工程S11では、粒度の測定に先行して、篩い分けにより、サンプリング試料にから、小石や木の根等の混入物とともに、一定以上の粒度の鉱石粒子を、予め除去する前処理を行っておくことが好ましい。この前処理で分級点とする上記の「一定以上の粒度」とは、後の分級工程S14での分級点とする粒度と同じ大きさとすることが好ましい。この前処理は、より具体的には、適切なサイズの(一例として、1.7mm-2.0mm)メッシュによる手篩いによって行うことができる。
【0034】
[混合比決定工程]
混合比決定工程S12は、原料鉱石グループ単位での、原料鉱石の混合比を決定する工程である。この混合比決定工程S12では、続いて行われるブレンド工程S13での「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度(50%D)」が、所定値以上となるように、混合比を決定する。このようにして、過剰な粘度上昇が起こらない平均粒度以上になるように、原料鉱石をブレンドすることにより、微細な鉱石粒子同士の物理的な凝集を阻害するようになる。そして、これにより、粒子間に水分が保持されることが抑制され、結果として濃縮後のスラリー粘度を低下させることができる。ブレンド工程S13での「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度(50%D)」の具体的な値は、各プロセスを実施する操業現場の各種の操業条件や取り扱う原料鉱石の種類によってある程度変動するが、後段の実施例においても実証されている通り、一例として、ニッケル酸化鉱石を原料鉱石とする場合のブレンド後の原料鉱石の平均粒度の好ましい目標所定値は、8.0μm以上である。
【0035】
尚、「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度」については、それぞれ値が異なるブレンド前の各グループ毎の原料鉱石の平均粒度を、上記の混合比に基づいて加重平均して算出した平均値を、「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度」、或いは、その近似値とみなして本発明を実施することができる。
【0036】
又、混合比決定工程S12においては、「鉱石スラリーの粘度とポンプの移送能力との関係」(
図5参照)を織り込んで、「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度」について、鉱石スラリーの粘度上昇に起因する上述の移送不良が生じない粒度となるように、上記ブレンドの混合比を決定することがより好ましい。
【0037】
又、一般的に、多くの金属製錬プロセスにおいて、鉱石スラリーの移送の用いるポンプは、鉱石スラリーの降伏応力が200Paを超える時に上述の移送不良が生じやすくなるため、「ブレンド後の原料鉱石の平均粒度」は、鉱石スラリーの降伏応力が200Pa以下となる粒度となるように、混合比を決定することもできる。
【0038】
[ブレンド工程]
ブレンド工程S13は、鉱石エリア単位(鉱石種)毎、或いは搬入ロット毎等によってグループ分けされている原料鉱石を、混合比決定工程S12において決定された「混合比」に基づいて、ブレンドする工程である。尚、このブレンドのための混合処理は、ショベルローダーやホイールローダー等の重機等を用いて機械的に行うことができる。
【0039】
[分級工程]
分級工程S14は、ブレンドした原料鉱石を、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子からなる粗鉱石スラリーを得る工程である。分級工程S14における分級処理は、先ず、ブレンドした原料鉱石を、一般的なボールミルや、ロッドミル、AGミル等の解砕機を用いて解砕した後に、グリズリーや振動ふるい等を用いた篩い分けによる、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去する手順で行うことが好ましい。
【0040】
具体的には、例えば分級点を1.4mm程度とし、1.4mmの目開きの篩を用いて篩分けすることによって分級処理することができる。このようにして分級処理を行うことによって、篩上の残存した粒径が1.4mmより大きな鉱石粒子、即ちオーバーサイズの鉱石粒子を小石や木の根等とともに除去する。
【0041】
一方で、篩の目開きを通過した篩下(網下)の鉱石粒子は、1.4~2.0mm以下の粒径を有する小さな鉱石粒子、即ちアンダーサイズの鉱石粒子である。分級工程S14においては、このアンダーサイズの鉱石粒子を回収して粗鉱石スラリーとし、次工程である鉱石スラリー濃縮工程S15に移送する。
【0042】
[鉱石スラリー濃縮工程]
鉱石スラリー濃縮工程S15は、分級工程S14において得られた上記の粗鉱石スラリーを、固液分離装置に装入し、その粗鉱石スラリー中に含まれる水分を分離除去して鉱石成分を濃縮し、鉱石スラリーを得る工程である。
【0043】
具体的に、鉱石スラリー濃縮工程S15では、例えばシックナー等の固液分離装置に粗鉱石スラリーを装入し、固形成分を沈降させて装置の下部から取り出し、一方で上澄みとなった水分を装置の上部からオーバーフローさせる固液分離を行う。この固液分離処理により、粗鉱石スラリー中の水分を低減させ、スラリー中の鉱石成分を濃縮させることによって、例えば固形分濃度として40重量%程度の鉱石スラリーを得る。
【0044】
尚、固液分離装置としては、上記のシックナーを用いることが好ましい。この場合においては、固液分離装置(シックナー)に投入される粗鉱石スラリーの粘度が高いほど、装置内での鉱石粒子の沈降速度が遅くなり、結果として排出される鉱石スラリーの粘度が低下する傾向がある。このことにより、シックナーによっても、鉱石スラリーが極端な粘度上昇を引き起こすリスクが補助的に抑制され、その結果、本発明の効果をより安定的に享受することができるからである。
【0045】
尚、上記各工程を経て製造された鉱石スラリーの粘度は、例えばレオメーターを用いて測定することができるが、鉱石スラリーの粘度は、スランプ試験による降伏応力として算出することもできる。スランプ試験は、鉱石スラリーを取り扱う実操業の現場では良く知られた方法であり、コンクリートのスランプ試験方法(JIS A 1101)に類似した方法である。スランプ試験は、円筒形パイプにスラリーを充填し、水平面に直立させ、パイプだけを静かに上方に抜き取ると、スラリーの柱は自重によって底部が広がり高さが低くなることを利用して測定される。即ち、円筒形パイプの高さ(≒パイプ抜き取り直後のスラリー柱の高さ)をH0とし、その後自重によって変形した後のスラリーの高さをH1とし、その変化率をSとすると、Sは次の式(1)で表され、そして、スラリーの密度γ[g/L]を下記式(2)に代入することによって、降伏応力[Pa]を求めることができる。
S=(H0-H1)/H0・・・(1)
降伏応力[Pa]=0.5×(1-S0.5)×γ×0.98×H0・・・(2)
【0046】
<金属製錬方法(ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法)>
上記において詳細を説明した本発明の「鉱石スラリーの製造方法」は、ニッケル酸化鉱石を原料鉱石として用いる湿式製錬プロセス(以下、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」と言う)の流れの中で、原料鉱石から鉱石スラリーを製造する「鉱石スラリー製造工程S1」としての実施を好適な実施形態の一例とする工業プロセスである。以下において、本発明の「鉱石スラリーの製造方法」を、その部分プロセスとして実行可能な全体プロセスである「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」について説明する。
【0047】
図1示すように、「ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法」は、ニッケル酸化鉱石から鉱石スラリーを製造する鉱石スラリー製造工程S1、得られた鉱石スラリーからニッケル及びコバルトを浸出して浸出スラリーを得る浸出工程S2、得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S3、得られた浸出液を中和しニッケル回収用の母液と中和澱物スラリーとに分離する中和工程S4、及び、母液である硫酸に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を進行させてニッケルを含む硫化物と貧液とを得る硫化工程S5とが順次行われるプロセスである。
【0048】
[鉱石スラリー製造工程]
鉱石スラリー製造工程S1は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石から鉱石スラリーを製造する工程である。この鉱石スラリー製造工程S1を、本発明の「鉱石スラリーの製造方法」によって行うことにより、スラリー粘度の過剰な上昇を抑制した鉱石スラリーを安定的に製造することができ、一般的な移送ポンプ等を用いて、移送不良等を生じさせることなく、次工程の浸出工程に効率的に鉱石スラリーを移送することができる。
【0049】
尚、上記のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。又、鉄の含有量は、10~50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。又、ラテライト鉱のほかに、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0050】
[浸出工程]
浸出工程S2は、オートクレーブ等を用いて鉱石スラリー製造工程S1にて得られた鉱石スラリーからニッケル、コバルト等の有価成分を硫酸で浸出して浸出スラリーを得る工程である。この浸出工程S2は、鉱石スラリーを硫酸に添加して、高温高圧下で、目的金属を含む浸出液を得る高温加圧酸浸出法(HPAL法)によって行うことが好ましい。
【0051】
[固液分離工程]
固液分離工程S3は、多段のシックナー等を用いて、上記の浸出スラリーを、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とに分離する工程である。
【0052】
[中和工程]
中和工程S4は、上記の浸出液を、ニッケルを含む母液と中和澱物スラリーとに分離する工程である。
【0053】
[硫化工程]
硫化工程S5は、ニッケル回収用の上記母液に硫化剤を添加して、ニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(Ni、Co混合硫化物)と貧液とに分離する工程である。
【0054】
この硫化工程S5においては、平均粒度を所定の大きさ以上となるように調整したニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)を種晶として硫酸中に添加することもできる。これにより、硫化反応により生成した硫化物スラリーを沈殿物である硫化物と貧液とに分離する沈降分離処理に際して、オーバーフロー液中におけるニッケルを含む微細な浮遊固形分の濃度を低下させることができ、硫化物として沈殿形成させることができるニッケル分を増加させ、ニッケルの回収ロスを低減させることができる。
【実施例0055】
以下に、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
[実施例1~3]
本発明の「鉱石スラリーの製造方法」による鉱石スラリーの試験製造を、以下に詳細を示す通りの試験条件の下で実施した。原料鉱石としては、「鉱石種A」及び「鉱石種B」の2種の銘柄のニッケル酸化鉱石を、それぞれ「グループ1」及び「グループ2」の原料鉱石として用いた。
【0057】
(粒度分布測定工程)
「グループ1」及び「グループ2」の各原料鉱石(鉱石種A、鉱石種B)について、サンプリング試料を採取し、この試料を、先ず、1.7mm-2.0mmメッシュの手篩いにかけて、アンダーサイズのみを採取し、当該アンダーサイズに対して溶媒として純水を加えたスラリーを、粒度測定用サンプルとしてマイクロトラック粒度測定装置(9320-X100、日機装株式会社製)に投入し、各原料鉱石(鉱石種A、鉱石種B)の粒度分布を測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0058】
【0059】
(混合比決定工程)及び(ブレンド工程)
表1に示す粒度分布を有するグループ1(鉱石種A)の原料鉱石とグループ2(鉱石種B)について、表2に示す通り、実施例1~2として、2つのパターンの混合比でブレンドを行い2種類のブレンド済の原料鉱石を得た。又、ブレンドを行わずに用いる各原料鉱石を比較例1~2の原料鉱石とした。
【0060】
【0061】
(分級工程)
実施例1~2の2種のブレンド済の原料鉱石、比較例1~2のブレンドを行わなかった原料鉱石それぞれについて、解砕後に、分級点を1.4mmとして分級して、オーバーサイズの鉱石粒子を除去し、アンダーサイズの鉱石粒子からなる粗鉱石スラリーを得た。
【0062】
(鉱石スラリー濃縮工程)
次に、実施例1~4の4種のブレンド済の原料鉱石から得たそれぞれの粗鉱石スラリーを、直径約25m、高さ約5m、容積約2000m3のシックナーに、流量として250m3/時間で装入し、水分を除去して鉱石成分を濃縮させる濃縮処理を行った。濃縮処理の終了後、得られた各鉱石スラリーをシックナーの下部から取り出した。尚、各実施例1~3それぞれについて、水分の除去率が異なる5種ないし6種の鉱石スラリーのサンプルを製造した。
【0063】
[鉱石スラリーの評価]
実施例1~2及び比較例1~2の4種のブレンド済の原料鉱石から得た各鉱石スラリーのサンプルについて、スラリー密度及び粘度を測定した。測定結果を
図3に示す。
【0064】
図3より、平均粒度(50%D)が細かいグループ1の鉱石(鉱石種A)のみからなる比較例1のスラリーは、同一密度における粘度が最も高くなっている。又、平均粒度(50%D)が粗いグループ1の鉱石(鉱石種B)のみからなる比較例2のスラリーは、同一密度における粘度が最も低くなっている。
【0065】
又、同じく、
図3より、実施例1、2のように、平均粒度(50%D)が細かいグループ1の鉱石(鉱石種A)を処理する場合であっても、平均粒度(50%D)が粗いグループ1の鉱石(鉱石種B)をブレンドすることにより、スラリーの粘度を低下させることができることが分かる。
【0066】
図3を対数表示した
図4より、スラリー密度1.5g/cm
3のときの各鉱石混合比における粘度を逆算すると、実施例1の鉱石スラリーでは、粘度は、2175mPa・sとなる。一方で、比較例1の鉱石スラリーでは、粘度は9638mPa・sとなる。
【0067】
鉱石スラリーを次工程の浸出工程へ送液するためのポンプの能力曲線である
図5に、
図4で得た各鉱石スラリーの粘度をプロットすると、吐出できるスラリー流量は、表3に示す通り、比較例1の鉱石スラリーでは、スラリー流量は、220m
3/hであるが、実施例1の鉱石スラリーでは、スラリー流量は、270m
3/hとなる。
【0068】
【0069】
以上の評価結果より、本発明の鉱石スラリーの製造方法によれば、ニッケル酸化鉱石等の原料鉱石から鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造において、従来の手段よりも低コストで、移送不良の原因となるスラリーの粘度上昇を抑制することができることが分かる。又、原料鉱石の銘柄やロット毎の物理的性状のバラツキを、ブレンド工程を行うための「グループ」として巧みに活用することによって、プロセス全体の生産性を向上させることができるようにしている点において、原料鉱石の有効活用と最終製造品の品質の安定性にも寄与し得るプロセスであることが分かる。