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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172630
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】担体粒子の担持割合を計測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20231129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231129BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231129BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20231129BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20231129BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
G01N27/02 D
C12M1/00 A
C12M1/34
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084579
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 章仁
(72)【発明者】
【氏名】増井 健治
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃治
【テーマコード(参考)】
2G060
4B029
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AF06
2G060AG03
2G060AG10
2G060HC10
2G060KA09
4B029AA07
4B029AA21
4B029AA23
4B029BB13
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA04
4B029FA09
(57)【要約】
【課題】対象物質を担持している担体粒子の割合を簡便に計測するための新しい方法を提供すること
【解決手段】複数の担体粒子を含有する液体中で、対象物質を担持していない担体粒子と、対象物質を担持している担体粒子との割合を評価する方法であって、液体のインピーダンススペクトルを計測することを含む、方法。
【選択図】図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の担体粒子を含有する液体中で、対象物質を担持していない前記担体粒子と、前記対象物質を担持している前記担体粒子との割合を評価する方法であって、
前記液体のインピーダンススペクトルを計測することを含む、
方法。
【請求項2】
計測された前記インピーダンススペクトルと基準インピーダンススペクトルとを比較することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
計測された前記インピーダンススペクトルの形状と基準インピーダンススペクトルの形状とを比較する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基準インピーダンススペクトルとして、複数の基準インピーダンススペクトルを用いる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
10kHz~100kHzの範囲で、計測された前記インピーダンススペクトルと前記基準インピーダンススペクトルとを比較する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記基準インピーダンススペクトルと計測された前記インピーダンススペクトルとから算出されるCOS類似度を用いて、前記比較を行う、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記担体粒子が、前記対象物質を被包することによって、前記対象物質を担持している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記担体粒子が、ウィルスであり、かつ
前記対象物質が、核酸である、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
くし形電極を用いて前記液体のインピーダンススペクトルを計測する、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、担体粒子の担持割合を計測する方法に関する。特に、本開示は、核酸などの対象物質を被包するウィルスなどの担体粒子に関して、その集合が対象物質を担持する割合(被包率)を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソーム又はウィルスなどの担体粒子に薬物分子又は核酸などの対象物質を担持させることによって、例えば人体において、対象物質を所望の場所(例えば特定の臓器又は特定の細胞)に移動させることができる。
【0003】
例えば、ドラッグデリバリーシステム(DDS)では、内部に薬物分子を保持しているリポソームなどの担体粒子を用いて、体内における薬物の分布を安定して制御することができる。
【0004】
非特許文献1では、特許庁がドラッグデリバリーシステムについて技術動向を俯瞰している。この文献では、有効成分をリポソームやウィルス等の製剤構成成分で覆うことで、“理想的な体内動態に制御する技術、システム”として、関連技術が述べられている。
【0005】
また、例えば、遺伝子治療では、組み換え用遺伝子をコードした核酸をベクターとしてのウィルスで被包し、このウィルスを細胞内に侵入させることで、生体に遺伝子導入を行うことができる。ウィルス(特にはウィルスの外殻など)の内部に核酸を保持することによって、組み換え用遺伝子をコードした核酸の分解を回避することができ、また、細胞への導入効率を高めることができる。
【0006】
非特許文献2では、ウィルスを用いた遺伝子治療について、これまでの経緯、技術課題等について述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】『特許出願技術動向調査報告書(概要)ドラッグデリバリーシステム(DDS)』(特許庁)
【非特許文献2】ウィルスを基盤とした遺伝子治療薬の臨床開発の現状と今後の展望(櫻井文教 著) Drug Delivery System,2019,34巻,2号,p.99-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リポソーム又はウィルスなどの担体粒子を用いて薬物分子又は核酸といった対象物質を輸送する場合に、対象物質を担持している担体粒子の割合(すなわち担体粒子の担持率)が低いと、所望の目的を達成することができないおそれがある。
【0009】
例えば、組み換え用遺伝子をコードした核酸を有するウィルスを細胞内に注入する遺伝子導入法では、注入されたウィルスのうち、遺伝子導入に成功する確率はごくわずかである。したがって、細胞への遺伝子導入の効率を高めるためには、核酸含有ウィルスの割合を高めることが重要となる。
【0010】
また、ウィルスなどによる対象物質の被包処理は、完全なものではなく、原料の状態及び処理条件などにより、対象物質を有する担体粒子だけでなく、対象物質を有しない「空の」担体粒子も混在する。
【0011】
したがって、所望の目的を達成するためには、対象物質を担持する担体粒子と対象物質を有しない担体粒子(空の担体粒子)との割合をあらかじめ調べることが重要であるが、対象物質を含有する担体粒子の割合を計測するための従来の方法は、簡便性に欠けることがあった。また、従来の測定原理では計測精度が不十分となることがあった。
【0012】
したがって、担持割合を決定するための、簡便であってかつ新しい測定原理に基づく評価手段が望まれていた。
【0013】
本開示は、対象物質を担持している担体粒子の割合を簡便に計測するための新しい方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る下記の態様によれば、上記の課題を解決することができる:
<態様1>
複数の担体粒子を含有する液体中で、対象物質を担持していない前記担体粒子と、前記対象物質を担持している前記担体粒子との割合を評価する方法であって、
前記液体のインピーダンススペクトルを計測することを含む、
方法。
<態様2>
計測された前記インピーダンススペクトルと基準インピーダンススペクトルとを比較することをさらに含む、
態様1に記載の方法。
<態様3>
計測された前記インピーダンススペクトルの形状と基準インピーダンススペクトルの形状とを比較する、態様2に記載の方法。
<態様4>
前記基準インピーダンススペクトルとして、複数の基準インピーダンススペクトルを用いる、態様2又は3に記載の方法。
<態様5>
10kHz~100kHzの範囲で、計測された前記インピーダンススペクトルと前記基準インピーダンススペクトルとを比較する、態様2~4のいずれか一項に記載の方法。
<態様6>
前記基準インピーダンススペクトルと計測された前記インピーダンススペクトルとから算出されるCOS類似度を用いて、前記比較を行う、態様2~5のいずれか一項に記載の方法。
<態様7>
前記担体粒子が、前記対象物質を被包することによって、前記対象物質を担持している、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
<態様8>
前記担体粒子が、ウィルスであり、かつ
前記対象物質が、核酸である、
態様7に記載の方法。
<態様9>
くし形電極を用いて前記液体のインピーダンススペクトルを計測する、態様1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、対象物質を担持している担体粒子の割合を簡便に計測するための新しい方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示に係る方法の原理を説明するための概念図である。
図2図2は、本開示に係る方法で用いることができる測定装置の例示的な実施態様を示す概略図である。
図3図3は、図2の測定装置で本開示に係る方法を行っている様子を示す概念図である。
図4A図4Aは、実施例1で計測されたインピーダンススペクトルを示すグラフである。
図4B図4Bは、図4Aのグラフの一部(四角枠で囲まれた部分)を拡大した図である。
図5図5は、サンプル溶液1~6に関して取得されたインピーダンススペクトルのCOS類似度と、それぞれの溶液中における担持割合(Full割合)(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪担持割合を評価する方法≫
本開示に係る方法は、
複数の担体粒子を含有する液体中で、対象物質を担持していない担体粒子と、対象物質を担持している担体粒子との割合を評価する方法であって、
液体のインピーダンススペクトルを計測すること(インピーダンス測定工程)、
を含む。
【0018】
対象物質含有担体粒子と対象物質非含有担体粒子との割合を計測するために、従来、例えば、透過電子顕微鏡を用いた計測、及び吸光光度計を用いた計測が行われていた。
【0019】
透過電子顕微鏡を用いる方法は、対象物質としての核酸の存在に起因して電子線視線の透過が異なることに基づいて、撮影像から、核酸を有するウィルスの割合などを算出する方法である。しかしながら、この方法は、装置が高価であること、及び、オスミウム染色などの前処理に手間がかかるなどの不利な点を有していた。
【0020】
また、吸光光度計を用いる方法(吸光光度法)は、核酸が有する260nm付近の特徴的な吸光ピークに基づいて、核酸を有するウィルスの割合などを算出する方法である。しかしながら、感度が低いこと、核酸以外の生体物質であっても260nm付近に吸光ピークを示す物質が存在するため、吸光光度法を用いて精度の高い測定を行うことが困難な場合があった。
【0021】
このような背景において、本件発明者は、新たな測定方法を検討した結果、担体粒子の担持割合、すなわち、対象物質を含有していない担体粒子と対象物質を含有している担体粒子との割合に応じて、異なるインピーダンススペクトルが得られることを見出した。より具体的には、担体粒子を含有している液体を2つの電極の間に配置し、インピーダンスを計測することによって、担体粒子の担持割合に応じたインピーダンススペクトルが得られることが分かった。
【0022】
図1は、本開示に係る方法の原理を説明するための概念図である。なお、添付の図面は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。図1において、電極12及び14の間に(図示していない)液体が存在し、この液体中に、(例えば核酸などの)対象物質18を被包している(例えばウィルスなどの)担体粒子16が、存在している。
【0023】
理論によって限定する意図はないが、2つの電極12及び14の間に電圧を印加すると:
電極から担体粒子への電子の移動(電荷移動:図1の「A」)、
担体粒子内部の電荷に起因する担体粒子付近での分極の発生(図1の「B」)、
外部電場による担体粒子の移動(誘電泳動:図1の「C」)、
等の現象が生じると考えられる。2つの電極の間で検出されるインピーダンススペクトルは、これらの現象(図1の「A」~「C」)を反映すると考えられる。
【0024】
対象物質を担持している担体粒子と、対象物質を担持していない担体粒子とでは、上記の現象の発生の有無及び/又はその程度が異なるので、それらを反映するインピーダンススペクトルも異なったものになると考えられる。このインピーダンススペクトルを、例えば基準となるインピーダンススペクトルと比較することによって、対象物質を担持する担体粒子の割合を検出することができる。
【0025】
本開示に係る方法は、迅速かつ簡便な方法を提供することができる。例えば、担体粒子を含有する液体を電極の上に滴下しインピーダンスを計測する作業は、通常、数十秒間~数分間(例えば1分間)で完了することができる。また、電極に修飾処理を行わなくても、測定を行うことができる。また、計測されたインピーダンススペクトルに基づいて液体中の存在比を算出する過程も、例えばコンピュータを用いることで迅速に行うことができる。
【0026】
また、本開示に係る方法は、対象物質及び担体粒子の誘電特性に基づく測定方法であり、従来とは異なる新しい測定原理に基づいている。したがって、例えば、従来の吸光光度計に基づく計測では正確な測定が容易でなかったような試料であっても、本開示に係る方法によれば計測が可能になることが期待される。また、本開示に係る方法によれば、他の測定手法と相補的なデータを取得することができる。
【0027】
さらに、本開示に係る方法ではインピーダンススペクトルを用いるので、測定の精度を向上させることができる。すなわち、測定されたインピーダンススペクトルのうち、特定の周波数範囲(例えば1kHz~100MHzの範囲)、又は特定の成分(位相、振幅など)に注目して解析を行うことによって、サンプル間での差異を高い精度で評価することができる。
【0028】
以上のとおり、本開示に係る方法によれば、担体粒子の担持割合を簡便に計測するための新しい方法を提供することができる。
【0029】
以下で、本開示に係る方法の各構成要素について、さらに詳細に記載する。
【0030】
<液体>
本開示に係る液体は、複数の担体粒子を含有する。液体は、特に限定されないが、担体粒子に応じて適切なバッファー、水溶液、水などを選択することができる。好ましくは、液体は、担体粒子が安定的に存在することができる液体であり、かつ/又は、担体粒子中での対象物質の良好な担持を可能にする液体である。
【0031】
液体のインピーダンススペクトルを計測する際に、あらかじめ液体に事前処理を行うことができる。例えば、担体粒子に担持されていない遊離の対象物質(例えばベクターに被包されていない核酸など)や不純物を除去するための処理を行うことができる。このような除去操作としては、フィルター処理、遠心分離処理、クロマトグラフィー処理、沈殿処理などが挙げられる。
【0032】
<担体粒子>
担体粒子は、対象物質を担持することができるように構成されている。担体粒子は、粒子状であってよく、特には微粒子であってよい。担体粒子の直径は、特に限定されないが、好ましくは、5nm~750nm、10nm~500nm、20nm~250nm、又は25nm~100nmである。
【0033】
担体粒子は、好ましくは、対象物質を保持するための内部空間を有する粒子(中空の粒子)である。そのような担体粒子としては、有機化合物から構成される担体、特にはリポソーム及びウィルス、水溶性高分子が挙げられる。
【0034】
(リポソーム)
リポソームは、脂質二重層を有する小胞であり、その内部に薬物分子などの対象物質を格納することができる。リポソームの直径は、特に限定されないが、例えば10nm~1000nm、又は50nm~200nmであってよい。リポソームは、特には、リン脂質から構成される。
【0035】
(ウィルス)
ウィルスとしては、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス(AAV)、レトロウウィルスが挙げられる。
【0036】
これらのうち、アデノ随伴ウィルス(AAV)は、遺伝子治療で有望視されているウィルスである。組み換え用遺伝子をコードした核酸を含むAAV、及び組み換え用遺伝子をコードした核酸を含まない空のAAVが市販されている。
【0037】
担体粒子の直径は、電子顕微鏡などを用いて取得した画像から20以上の担体粒子の直径を計測し、計測値を平均することによって求めることができる。なお、担体粒子が真円ではない場合、すなわち例えば楕円状などである場合には、最も大きい粒子長さを直径と見做すことなどできる。
【0038】
<対象物質>
対象物質は、担体粒子に担持されることができる。特には、対象物質は、担体粒子に被包されて、担体粒子の内部に保持されることができる。
【0039】
対象物質は、担体粒子に担持されることができれば特に限定されないが、例えば、無機化合物又は有機化合物であり、特には、薬物作用を有する分子、又は核酸である。
【0040】
(薬物作用を有する分子)
本開示に係る方法の1つの態様では、対象物質が、薬物作用を有する分子である。薬物作用を有する分子は、特に、担体粒子としてのリポソームに担持されることができ、リポソームの内部に保持されることができる。
【0041】
(核酸)
本開示に係る方法の別の態様では、対象物質が、核酸(リボ核酸(RNA)、又はデオキシリボ核酸(DNA))であり、特には、組み換え用遺伝子をコードしている核酸である。核酸は、特に、担体粒子としてのウィルスの内部(例えばAAVの場合には外殻の内部)に保持されることができる。
【0042】
<インピーダンス測定工程>
本開示に係る方法では、担体粒子を含有する液体のインピーダンススペクトルを計測する。特には、担体粒子を含有する液体を2つの電極の間に配置し、この2つの電極の間でのインピーダンススペクトルを計測することができる。
【0043】
<電極>
本開示に係る方法では、電極、特にはくし形電極(櫛形電極)を用いることができる。くし形電極では、1つの電極から突出する複数の帯状体(櫛歯部)と、他方の電極から突出する複数の帯状体(櫛歯部)とが互い違いに(交互に)平行に配置されており、異なる極からの櫛歯部が、一定の間隔で隣り合うようになっている。
【0044】
図2は、本開示に係る方法で用いることができる測定装置の例示的な実施態様を示す概略図である。図中のLは長さ方向を表し、Wは幅方向を表す。
【0045】
図2では、インピーダンスアナライザ20が、測定器具28に接続されている。測定器具28は、基板22、並びに、この基板の上の2つのくし形電極24及び26を有している。くし形電極24から突出する複数の帯状の櫛歯部と、くし形電極26から突出する複数の帯状の櫛歯部とが、互い違いに平行に配置されており、(例えば1μm~10μmの)一定の間隔で隣り合うようになっている。
【0046】
くし形電極24及び26は、それぞれ、インピーダンスアナライザ20の端子部HP及びLPに接続している。また、インピーダンスアナライザ20の端子部HCが、端子部HP及びくし形電極24に接続しており、端子部LCが、端子部LP及びくし形電極26に接続している。
【0047】
図2の態様では、端子部HC及びLCが、インピーダンスアナライザ20と測定器具28との間で接続しているが、インピーダンスアナライザ20の内部、又は測定器具28の基板22上で接続してもよい。
【0048】
図2の測定装置を用いて本開示に係る方法を実行する場合、例えば、測定対象となる担体粒子を有する液体を、くし形電極24と26との間に滴下し、それにより、少なくとも、くし形電極26の1つの櫛歯部と、それに隣接するくし形電極24の1つの櫛歯部との間に、液体が存在するようにする。
【0049】
そして、液体の滴下の後で、電圧を印加し、端子部LCと端子部HCとの間の電流値、及び、端子部LPと端子部HPとの間の電圧値を測定することによって、インピーダンスを計測することができる。
【0050】
図3は、図2の測定装置で本開示に係る方法を行っている様子を示す概念図である。図3は、図2の切断線A′-A′に沿う断面を示している。図中のHは高さ方向を表し、Wは幅方向を表す。
【0051】
図3では、上記くし形電極26の櫛歯部162及び164、並びに、これらと交互に配置されている上記くし形電極24の櫛歯部142及び144が、上記の測定器具28の基板22の上に配置されている。これらの櫛歯部を覆うようにして、検出対象となる担体粒子35を含有するサンプル溶液の液滴37が、滴下されている。
【0052】
担体粒子35の存在態様としては、電極の櫛歯部に付着している場合、電極の櫛歯部の間に存在する場合、及び、電極の櫛歯部から離れて存在している場合がある。
【0053】
隣り合う櫛歯部(例えば櫛歯部164と櫛歯部144)が、それぞれの対極となっており、それらの間のインピーダンスが、計測される。
【0054】
(櫛形電極)
くし形電極の櫛歯部は、0.5μm~25μm、又は1μm~10μmのくし幅を有することができる。また、くし形電極は、10~200本、又は30~100本の櫛歯部を有することができる。また、1対の電極から構成されるくし形電極の櫛歯部の間隔は、0.5μm~25μm、又は1μm~10μmであってよい。くし形電極は、例えば金で形成されていることができる。
【0055】
互い違いに平行に配置される櫛歯部の組数は、特に限定されないが、1~200組、2~100組、5~90組、10~80組、又は20~60組であってよい。
【0056】
<担持割合の評価>
本開示に係る方法の1つの実施態様では、特定のサンプル液体に対して得られたインピーダンススペクトルを、基準インピーダンススペクトルと比較することによって、当該サンプル液体における担体粒子の担持割合を評価(特には推定又は算出)する。これは、特には、インピーダンススペクトルの形状(波形)を比較することによって行うことができる。
【0057】
(基準インピーダンススペクトル)
基準インピーダンススペクトルは、特には、担体粒子の担持割合が既知である液体であらかじめ取得されたインピーダンススペクトルである。
【0058】
例えば、基準インピーダンススペクトルは、対象物質を含有している担体粒子の割合がゼロである液体(担持割合0%の液体)で取得されたインピーダンススペクトルであってよく、又は、対象物質を含有している担体粒子の割合が100%である液体(担持割合100%の液体)で取得されたインピーダンススペクトルであってよい。
【0059】
担持割合が既知の液体に関してあらかじめ取得されたこのような基準インピーダンススペクトルと、任意の液体で取得されたインピーダンススペクトルとを比較することによって(特には、インピーダンススペクトルの形状の間の差異を検出することによって)、当該任意の液体の担持割合を評価(特には推定又は算出)することができる。
【0060】
(複数の基準インピーダンススペクトル)
好ましくは、基準インピーダンススペクトルとして、複数の基準インピーダンススペクトルを用いる。例えば、任意の液体で取得されたインピーダンススペクトルを、種々の担持割合を示す液体に関してあらかじめ取得された基準インピーダンススペクトルと比較することによって、当該任意の液体における担体粒子の担持割合をさらに高い精度で評価(特には推定又は算出)することができる。
【0061】
(規格化)
任意の液体について計測されたインピーダンススペクトルと基準インピーダンススペクトルとを比較する際に、インピーダンススペクトルを規格化(正規化)することができる。液体のインピーダンスは、周囲雰囲気中の酸素、二酸化炭素の吸収などに起因して変動することがある。したがって、規格化を行うことによって、比較処理の精度をさらに高めることができる場合がある。
【0062】
規格化は、用いる担体粒子及び対象物質などに応じて適宜行うことができる。例えば、特定の周波数(例えば1kHz)におけるインピーダンスの値に対して他の周波数領域の絶対値を規格化することができる。
【0063】
(成分)
インピーダンススペクトルの比較は、特には、インピーダンススペクトルを構成する成分(振幅、位相または実部、虚部)を用いて行うことができる。例えば、インピーダンススペクトルを構成する成分のうち、差異が最も大きい成分に着目して、インピーダンススペクトルの比較を行うことができる。
【0064】
また、インピーダンススペクトルの比較は、波形、信号解析、ベクトル解析で用いられる特徴量に基づいて行うことができる。
【0065】
(COS類似度)
例えば、インピーダンススペクトルのうち特定の波長領域部分における差異(又は類似度)を、COS類似度(「コサイン類似度」又は「cos類似度」ともいう。)で表すことができる。COS類似度を用いることによって、比較処理の定量性を向上させることができる場合がある。COS類似度は、ベクトルの類似度の評価に用いられる指標であり、余弦(COS、コサイン)を用いて、2つのベクトルの方向性に関する類似度を表す。COS類似度の値は、2つのベクトルが同一方向(高い類似性)であるほど1に近づき、異なる方向(低い類似性)であるほど0に近づく。
【0066】
例えば、COS類似度Sは、例えば10kHz~100kHzの範囲のデータに基づいて、下記の式に従って算出することができる。下記の式(1)は、担持割合100%の液体で取得されたインピーダンススペクトルを基準インピーダンススペクトルとして用いた場合にCOS類似度を求める式である。
【0067】
【数1】
【0068】
上記式(1)中、Sは、コサイン類似度(COS類似度)であり、f100(ω)は、担持割合100%(Full100%)サンプルのインピーダンススペクトルを表すベクトルであり、f(ω)は、対象サンプルのインピーダンススペクトルを表すベクトルである。なお、基準インピーダンススペクトルとして他のインピーダンススペクトルを用いる場合には、上記式(1)中のf100(ω)を、当該基準インピーダンススペクトルを表すベクトルfs(ω)で置き換えた式を用いて、COS類似度Sを求めることができる。
【0069】
(標準曲線)
任意の液体における担体粒子の担持割合を評価する場合に、担体粒子の担持割合とインピーダンススペクトルとの関係を示すグラフ(標準曲線)又は式を用いて、当該任意の液体における担体粒子の担持割合を推定(又は算出)することもできる。
【0070】
このような標準曲線は、例えば、上記のCOS類似度を用いて作成することができる。すなわち、担持割合が既知でありかつ種々である複数の液体のインピーダンススペクトルの特定の波長領域部分(特には10kHz~100kHzの範囲の部分)を、含有割合100%の基準インピーダンススペクトルに対するCOS類似度で表し、このCOS類似度と、担持割合との関係をグラフで表すことによって、標準曲線を作成することができる(図5参照)。
【実施例0071】
以下で、実施例に基づいて本発明を説明する。実施例は、本発明の例示的な実施態様を示すものであり、本発明を限定しない。
【0072】
≪実施例1≫
実施例1では、対象物質として、GFP(Green fluorescent protein)遺伝子をコードする核酸(DNA)を用い、担体粒子として、アデノ随伴ウィルス(AAV)を用いた。
【0073】
<液体の調製>
(サンプル溶液1)
GFP遺伝子をコードする核酸がパッケージングされたアデノ随伴ウィルスを含む溶液(AAV2-CMV-GFP(製品名)、Applied Viromics社製)を、フィルター濃縮処理(フィルター径50kDa;メルクミリポア社 Amicon(R) Ultra)を3回行うことによって、0.025μM Tris-HCl pH8.0 Pluronic(登録商標) 0.001%の水溶液で置換し、ウィルス中に被包されていない核酸が除去されたサンプル溶液1を得た。
【0074】
(サンプル溶液2)
空のアデノ随伴ウィルスを含む溶液(AAV2-Empty、Applied Viromics社製)を、0.025μM Tris-HCl pH8.0 Pluronic(登録商標) 0.001%の水溶液で置換して、サンプル溶液2として用いた。
【0075】
(サンプル溶液3~6)
上記のサンプル溶液1とサンプル溶液2とを下記の表1に示す割合で混合することによって、サンプル溶液3~6を調製した。
【0076】
【表1】
【0077】
<インピーダンススペクトルの測定>
(電極)
電極として、くし形電極(櫛歯幅10μm、櫛歯間隔5μm、長さ2mm、櫛歯の組数65組、金電極。ビー・エー・エス株式会社製)を用いた。
【0078】
(測定)
上記のくし形電極に20μLの上記のサンプル溶液1を滴下した。そして、インピーダンスアナライザ(ZA57630、株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製)を用いて、印加電圧1Vで、かつ1kHz~36MHzまでの周波数範囲を対数分割した2000点で、上記のくし形電極におけるインピーダンスを計測した。
【0079】
サンプル溶液2~6についても、サンプル溶液1と同様にして、インピーダンスの計測を行った。
【0080】
(波形の解析)
測定の結果として得られたインピーダンススペクトルを、1kHzの値を1として規格化した。サンプル溶液1~6に係る規格化されたインピーダンススペクトルを図4Aに示す。また、図4Aのグラフの一部(四角枠で囲まれた部分)を拡大した図を図4Bに示す。なお、図4A及び図4Bにおいて、Fullは、担持割合100%の溶液(サンプル溶液1)の混合割合であり、Emptyは、担持割合0%の溶液(サンプル溶液2)の混合割合である。
【0081】
図4A及び図4Bで見られるとおり、担持割合が異なるサンプル溶液1~6について、互いに異なる波形を有するインピーダンススペクトルが得られた。規格化されたインピーダンススペクトルは連続的に変化しており、特に、10kHz~100kHzの範囲において、サンプル溶液間での顕著な差異が見られた(図4B)。
【0082】
(COS類似度)
サンプル溶液1~6のインピーダンススペクトルについて、COS類似度を算出した。具体的には、10kHz~100kHzの範囲のインピーダンススペクトルの波形について、下記の式(1)に従って、担持割合100%でのインピーダンススペクトルの波形に対するCOS類似度を算出した。結果を、図5に示す。
【0083】
【数2】
【0084】
上記式(1)中、Sは、コサイン類似度(COS類似度)であり、f100(ω)は、Full100%サンプルのインピーダンススペクトルを表すベクトル、f(ω)は、対象サンプルのインピーダンススペクトルを表すベクトルである。
【0085】
図5は、サンプル溶液1~6のインピーダンススペクトルのCOS類似度と、それぞれの溶液中における対象物質を有する担体粒子の割合(担持割合、担持率、又はFull割合)との関係を示すグラフである。図5で見られるとおり、担持割合に比例してインピーダンススペクトルのCOS類似度が高くなっており、担持割合とCOS類似度との間に直線的な関係が確認された。このことは、本開示に係る方法に従って液体のインピーダンススペクトルを計測することによって、担体粒子の担持割合を精度高く算出することができることを示す。
【0086】
なお、例えば、担持割合が未知である任意の溶液を評価する場合、この溶液のインピーダンススペクトルを計測し、基準インピーダンスとのCOS類似度を算出し、かつこれを図5のグラフ(検量線)に当てはめることによって、当該溶液における担持割合を算出することができる。
【符号の説明】
【0087】
12、14 電極
16、35 担体粒子
18 対象物質
20 インピーダンスアナライザ
22 基板
24、26 くし形電極
28 測定器具
37 液滴
142、144 くし形電極24の櫛歯部
162、164 くし形電極26の櫛歯部
A’-A’ 切断線
L 長さ方向
W 幅方向
H 高さ方向
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5