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特開2023-172863運転計画作成装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172863
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】運転計画作成装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231129BHJP
【FI】
G06Q50/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003908
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022083766
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】矢口 航太
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】水谷 遼太
(72)【発明者】
【氏名】武田 朗子
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギー出力抑制の公平性を考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる運転計画作成装置、およびプログラムを提供することである。
【解決手段】第1不確実性集合生成部は、前記需要実績データに基づいて第1不確実性集合を作成する。第2不確実性集合生成部は、前記発電量実績データに基づいて第2不確実性集合を作成する。再エネ発電量ばらつき式生成部は、前記第2不確実性集合に基づいて前記再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値を計算するためのばらつき式を計算する。問題生成部は、前記発電機データと前記系統データと前記ばらつき式を使用して、発電機コストと再生可能エネルギー抑制コストに関する目的関数と制約条件を作成する。計画作成部は、前記制約条件の下で前記目的関数を所望の値に近づける最適化問題を解き、最適解を得ることで発電機の計画データを作成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績データ、再生可能エネルギーによる発電量実績データ、発電機の諸元を示す発電機データ、および電力系統の状態を示す系統データをそれぞれ取得する取得部と、
前記需要実績データに基づいて第1不確実性集合を作成する第1不確実性集合生成部と、
前記発電量実績データに基づいて第2不確実性集合を作成する第2不確実性集合生成部と、
前記第2不確実性集合に基づいて前記再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値を計算するためのばらつき式を計算する再エネ発電量ばらつき式生成部と、
前記発電機データと前記系統データと前記発電量のばらつき式とを使用して、発電機コストと再生可能エネルギー抑制コストに関する目的関数と制約条件を作成する問題生成部と、
前記制約条件の下で前記目的関数を所望の値に近づける最適化問題を解き、最適解を得ることで発電機の計画データを作成する計画作成部と、
を備える運転計画作成装置。
【請求項2】
前記目的関数および前記制約条件に対して、ロバスト最適化手法に適用するための式変形を行う前処理部を更に備え、
前記計画作成部は、前記式変形された式に対してロバスト最適化手法に基づいて前記計画データを作成する、
請求項1記載の運転計画作成装置。
【請求項3】
前記計画作成部による最適化計算の結果である決定変数値を取得し、取得した値に基づいて、コストに関する第1指標と、前記再生可能エネルギーによる発電機についての公平性に関する第2指標とを最適解ごとに算出する評価計算部と、
前記第1指標と第2指標に基づく処理を行って、一つの最適解を選択する選択部と、 を更に備える請求項1記載の運転計画作成装置。
【請求項4】
前記選択部は、最適解ごとの前記第1指標と前記第2指標を二次元グラフにプロットした画像を表示装置に表示させた後、操作者による最適解を選択する操作に応じて一つの最適解を選択する、
請求項3記載の運転計画作成装置。
【請求項5】
コンピュータに、
対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績データ、再生可能エネルギーによる発電量実績データ、発電機の諸元を示す発電機データ、および電力系統の状態を示す系統データをそれぞれ取得することと、
前記需要実績データに基づいて第1不確実性集合を作成することと、
前記発電量実績データに基づいて第2不確実性集合を作成することと、
前記第2不確実性集合に基づいて前記再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値を計算するためのばらつき式を計算することと、
前記発電機データと前記系統データと前記発電量のばらつき式とを使用して、発電機コストと再生可能エネルギー抑制コストに関する目的関数と制約条件を作成することと、
前記制約条件の下で前記目的関数を所望の値に近づける最適化問題を解き、最適解を得ることで発電機の計画データを作成することと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、運転計画作成装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光、風力等の再生可能エネルギーの導入が進んでいる。再生可能エネルギーの発電量は天候に左右され予測が困難である。また、再生可能エネルギーの発電量が需要を上回り、再生可能エネルギー運用事業者へ出力抑制の依頼を行っているケースが発生している。従来、時間帯ごとの電力需要を満たすような発電機の運転計画は、変動のない入力データを用いた最適化計算を解くことや、オペレータの経験により事前に計画が立てられてきたが、再生可能エネルギーの大量導入により計算や予想が困難になっている。
【0003】
ここで、送配電事業者(TSO)が、供給地域における周波数制御、需給制御を行うための能力を調整力という。TSOは、電力システムの安定性を考慮し、需要と供給を一致させるという責務を負っている。需給均衡が保たれなければ、電力システムの周波数が変動し、最悪の場合、停電をもたらす可能性がある。
【0004】
調整力に関する各事業者間の料金のやり取りは、例えば以下の通りである。TSOが需給一致のために発電機出力を上げる調整を行った場合、その分の燃料費に相当する金額を発電事業者に支払う。TSOが発電機出力を下げる調整を行った場合、発電事業者は不要となった燃料費に相当する金額をTSOに支払う。また、TSOが再生可能エネルギーの抑制を行った場合、発電事業者の発電機会を損なわせることになるため、TSOから発電事業者に機会損失分の金額を支払うことが予想される。このような条件の中でTSOはコストを最小化する計画を立てることが望ましい。この問題に関して、特許文献2では、需要および再生可能エネルギーの不確実性の下でもコスト最小の計画を作成する技術が開示されている。
【0005】
一方、出力抑制を受ける側の再生可能エネルギーの所有者(具体的には、太陽光パネルの所有者)の視点に立った場合、出力抑制は発電機会の喪失であるため、特定の再生可能エネルギーの所有者に抑制が集中することは、公平性の点で望ましくない。また、設備保全の観点からも特定の再生可能エネルギー設備に稼働が集中することは望ましくない。この点、特許文献2に記載の技術では、再生可能エネルギーへの出力指令が特定の再生可能エネルギーに集中する解を排除することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-65368号公報
【特許文献2】特開2021-33625号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長谷川淳、他「電気学会大学講座:電力系統工学」,電気学会,pp92-103(2002)
【非特許文献2】Benders, J. F., "Partitioning procedures for solving mixed-variables programming problems", Numerische Mathematik Vol.4, No.3, 238-252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、再生可能エネルギー出力抑制の公平性を考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる運転計画作成装置、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の運転計画作成装置は、取得部と、第1不確実性集合生成部と、第2不確実性集合生成部と、再エネ発電量ばらつき式生成部と、問題生成部と、計画作成部とを持つ。取得部は、対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績データ、再生可能エネルギーによる発電量実績データ、発電機の諸元を示す発電機データ、および電力系統の状態を示す系統データをそれぞれ取得する。第1不確実性集合生成部は、前記需要実績データに基づいて第1不確実性集合を作成する。第2不確実性集合生成部は、前記発電量実績データに基づいて第2不確実性集合を作成する。再エネ発電量ばらつき式生成部は、前記第2不確実性集合に基づいて前記再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値を計算するためのばらつき式を計算する。問題生成部は、前記発電機データと前記系統データと前記発電量のばらつき式とを使用して、発電機コストと再生可能エネルギー抑制コストに関する目的関数と制約条件を作成する。計画作成部は、前記制約条件の下で前記目的関数を所望の値に近づける最適化問題を解き、最適解を得ることで発電機の計画データを作成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る運転計画作成装置1の構成図。
図2】式(1)および他の式における各項の定義の一覧を示す図。
図3】選択部70が表示させるインターフェース画面の一例を示す図。
図4】再エネを用いない発電機2台、再エネ発電機が2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図(その1)。
図5】再エネを用いない発電機2台、再エネ発電機が2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の運転計画作成装置、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0012】
<第1実施形態>
[構成]
図1は、実施形態に係る運転計画作成装置1の構成図である。運転計画作成装置1は、例えば、取得部10と、第1不確実性集合生成部20と、第2不確実性集合生成部22と、再エネ発電量ばらつき式生成部24と、問題生成部30と、前処理部40と、計画作成部50と、評価計算部60と、選択部70と、再エネ抑制指令部80と、発電機動作指示部90と、記憶部100とを含む。記憶部100以外の構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。
【0013】
記憶部100は、例えばRAM(Random Access Memory)やHDD、フラッシュメモリなどを含む。記憶部100には、例えば、第1実績データ110、第2実績データ112、発電機データ114、系統データ116、問題データ120、計画データ130などのデータが格納される。更に、記憶部100には、上述のプログラムが格納されてもよい。
【0014】
取得部10は、第1実績データ110、第2実績データ112、発電機データ114、および系統データ116を取得し、記憶部100に記憶させる。取得部10は、これらのデータを、例えばネットワークを介して他装置から取得する。ネットワークは、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)、インターネット、セルラー網などを含む。この場合、取得部10は、ネットワークカードなどの通信インターフェースを含んでもよい。また、取得部10は、キーボードやマウス、タッチパネル、可搬型記憶装置およびドライブ装置などを介して上記データを取得してもよい。
【0015】
第1実績データ(需要実績)110は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統に接続された需要家による消費電力の実績データである。第1実績データ110は、需要家に設置された電力測定器等により測定された消費電力を統合したものである。第1実績データ110は、個別の需要家の消費電力を足し合わせたものでも良いし、複数の需要家の消費電力を足し合わせたものでも良い。
【0016】
第1不確実性集合生成部20は、第1実績データ110に基づいて、需要予測データを生成する。需要予測データは、不確実性を内包する需要家の将来の消費電力に関して、例えば需要の期待値(予測値、中央値)、および変動幅等を設定したものである。変動幅については、例えば、需要家の将来の消費電力が確率分布を持つものである場合は、範囲が予測値の±1σ(68.27[%])であるような変動幅を選定してもよいし、もしくは予測値の±2σ、あるいは±3σに基づいて定義してもよい。
【0017】
第2実績データ(再エネ発電実績)112は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統における、再生可能エネルギー(再エネ)を用いた発電機の発電量の実績データである。再エネには、太陽光、風力、地熱、水力などが含まれる。なお、水力に関しては再エネでない発電に分類されてもよい。第2実績データ112は、再エネを用いて発電する発電機に設置された電力測定器等で測定されたデータである。第2実績データ112は、メガソーラー、ウインドファームなど多数の発電機の集合体について測定されたデータでもよい。以下、再エネによる発電機のことを再エネ発電機と称する場合がある。
【0018】
第2不確実性集合生成部22は、第2実績データに基づいて、再エネ発電量予測データを生成する。再エネ発電量予測データは、不確実性を内包する再エネの将来の発電量に関して、例えば再エネの将来の発電量の期待値(予測値、中央値)、および変動幅等を設定したものである。変動幅については、例えば、再エネの将来の発電量が確率分布を持つものである場合は、範囲が予測値の±1σであるような変動幅を選定してもよいし、もしくは予測値の±2σ、あるいは±3σに基づいて定義してもよい。需要予測データにおける変動幅と、再エネ発電量予測データにおける変動幅は、同じ確率分布に従う必要は無く、それぞれ個別に設定されてよい。
【0019】
再エネ発電量ばらつき式生成部24は、再エネ発電量予測データに基づいて、再エネ発電機の発電量のばらつきを示す指標値を計算するためのばらつき式を生成する(計算する)。
【0020】
発電機データ114は、再エネを用いない発電機に関する各種情報(諸元データ)を、発電機ごと(或いは発電機グループごと)に集めたものである。再エネを用いない発電機とは、例えば、火力発電機や原子力発電機、ガス発電機、燃料電池など、ある程度、機動的に発電量の調整を行うことが可能な発電機である。発電機には、狭義の発電機ではないが同様の機能を持つもの、例えば蓄電池システムなどが含まれてもよい。発電機データ114は、例えば、発電機ごとの最小運転時間、最小停止時間、出力変化速度、出力増加速度、出力低下速度、最大出力および最小出力、並びに予備力制約などを含む。予備力とは、潮流変動の発生を抑制するために、系統に即時出力することを想定した発電機の出力の余力である。
【0021】
系統データ116は、運転計画作成装置1が処理対象とする電力系統の予備力確保量、予備力上限値、送電線に流せる電力の上下限のデータなどを含む。予備力確保量は、系統全体で発電機に要求される予備力の合計値である。予備力上限値は、各発電機に設定される予備力の上限値であり、発電機の予備力はこの値より小さく設定する必要がある。
【0022】
問題生成部30は、需要予測データ、再エネ発電量予測データ、再エネ発電機のばらつき式、発電機データ114、および系統データ116に含まれる各種データを入力値とする最適化計算における目的関数と制約式を生成する。なお、「式を生成する」とは、例えば、予め定められた数式における入力値に対して、上記各種データのどの項目を割り当てるかを決定する処理である。
【0023】
[目的関数]
目的関数は、式(1)で表される。式(1)における各項の定義は、図2に掲載する通りである。図2は、式(1)および以降で説明する式における各項の定義の一覧を示す図である。上式からΓ*D(S)を除いた部分は、TSOから見たコストを表している。D(S)は、再エネ発電機jの単位時間あたりの発電量のばらつきを示す指標値(下記の例では、再エネ発電機jの単位時間あたりの発電量の分散)である。D(S)は、再エネ発電量ばらつき式生成部24により生成されたばらつき式の計算結果である。式(1)の上式ではD(S)、下式ではD(S)と表記しているが、これらは同じものである。起動変数は、起動が開始される最初のタイミングで立ち上がり、その後は立ち下がる信号である。停止変数は、停止が開始される最初のタイミングで立ち上がり、その後は立ち下がる信号である。
【0024】
【数1】
【0025】
制約式は、式(2)~(15)で表される。式(2)および(3)のそれぞれは、発電機の起動および停止に関する制約を示す式である。
【0026】
【数2】
【0027】
式(4)および(5)のそれぞれは、最小運転時間、最小停止時間に関する制約を示す式である。
【0028】
【数3】
【0029】
式(6)は、電力系統における需要と供給のバランスを表す式である。需要は消費電力であり、供給は発電機と再生可能エネルギーの発電量の合計である。これらが一致する必要がある。例えば、再生可能エネルギーの出力抑制がされた場合(r=1の場合)、発電電力の合計値は減ることになる。式(7)は、需要を期待値d(バー) および変動幅d(ハット) を用いて定義した式である。この期待値と変動幅は、第1不確実性集合生成部20が生成する需要予測データに含まれている。式(8)は、再エネの将来の発電量を期待値z(バー) および変動幅z(ハット) を用いて定義した式である。この期待値と変動幅は、第2不確実性集合生成部22が生成する再エネ発電量予測データに含まれている。
【0030】
【数4】
【0031】
式(9)は、発電機の出力変化速度を定義した式である。RU は発電機のランプアップレート(最大の出力増加速度)であり、RD は発電機のランプダウンレート(最大の出力減少速度)である。
【0032】
【数5】
【0033】
式(10)は、送電線が健全である場合の潮流制約を示す式である。式(11)は、送電線の一部または全部が脱落している場合の潮流制約を示す式である。f maxは送電線に流せる有効電力の上限であり、fl,i maxは送電線iが脱落している場合に送電線に流せる有効電力の上限である。a’およびal,i’は、送電線の感度係数である。送電線が脱落した場合、一般にal,i’のベクトルの要素がa’のベクトルの要素より小さくなるため、結果的に送電線に流せる電力が制限される。要素の変化幅自体は潮流計算等によって事前に求められてもよい。
【0034】
【数6】
【0035】
式(12)は、発電機の出力の上下限制約を示す図である。発電機が停止している場合、x =0であるため、p =0となる。p minは発電機iの出力の下限であり、p maxは発電機iの出力の上限である。
【0036】
【数7】
【0037】
式(13)は、発電機の出力と予備力との合計が発電機の出力の上下限の範囲内に収まることを規定する式である。qi,a は発電機予備力である。引数aは集合Aに属するものであり、AはTMSR,TMNSR,TMORの組み合わせからなる集合である。
【0038】
【数8】
【0039】
式(14)は、電力系統全体の予備力の確保量を規定する式である。q(バー)ktは電力系統全体で要求される予備力であり、Nrは要求される予備力の種別である。予備力の種別には、TMSR、T10、T30がある。TMSRとは、Ten-Minute Spinning Reserveの略であり、10分以内に供給できる予備力(部分負荷運転の発電機)を意味する。Akは、ATMSR={TMSR},AT10={TMSR,TMNSR},AT30={TMSR,TMNSR,TMOR}のいずれかである。TMNSRとは、Ten-Minute Non Spinning Reserveの略であり、10分以内に起動できる予備力(停止待機中の水力・火力)を意味する。TMORとは、Thirty-Minute Operating Reserveの略であり、30分以内に負荷に供給できる予備力を意味する。
【0040】
【数9】
【0041】
式(15)は、各発電機の予備力の上限を規定する式である。q(バー)i,K は発電機iの予備力の上限である。ある発電機について、その発電機の予備力の構成要素であるTMSR,TMNSR,TMORの合計値は、予備力上限より小さい必要がある。
【0042】
【数10】
【0043】
上記の考え方に従い問題生成部30により作成された数式(目的関数および制約式)は、問題データ120として記憶部100に格納される。
【0044】
前処理部40は、計画作成部50が行う処理手法に合わせて式変形を行う。例えば、計画作成部50で確率計画法を用いる場合では、複数のシナリオを作成する処理を行う。以下では、ロバスト最適化手法を用いる場合の例について記載する。
【0045】
例えば、前処理部40は、新たな変数ζ およびη を用いて、式(7)を式(16)に変形し、式(8)を式(17)に変形する。
【0046】
【数11】
【0047】
【数12】
【0048】
更に、前処理部40は、式(1)を式(18)に、式(2)~(5)を式(19)に、式(9)、(13)~(15)を式(20)に、式(10)~(12)を式(21)に、式(6)を式(22)に、それぞれ変形する。
【0049】
【数13】
【0050】
式(18)は、式(1)と等価であり、xは発電機の起動停止および出力抑制に関するベクトルであり、yは発電機出力および予備力に関するベクトルである。また、Φ(ζ,η)は不確実性パラメタζ、ηについての二次式であり、式(1)のΓ*D(s)に相当する。
【0051】
[前処理・計画作成]
前処理部40は、ロバスト最適化手法を適用して運転計画を求めるために、不確実なパラメータを含む項の式変形を行う。式(18)のxはxとrの関数、yはdとzの関数であり(一方でxはyの関数ではない)、需要d 及び再生可能エネルギー出力z は変動を含む不確実なパラメタであるため、これらが如何なる変動範囲であっても解を満たすためには、まずはコスト最大のbyを求める必要があるため、式(23)にしめすMinMax問題に変形できる。さらに、yはx、ζ、ηの変数でもあるため、xを固定したときの最小コストを求めるために、式(23)の第2項を解けばよい。なお、式(24)は制約式をまとめたものである。
【0052】
【数14】
【数15】
【0053】
計画作成部50は、ロバスト最適化法、確率計画法、遺伝的アルゴリズム等の手法を用いて計画データ130を作成し、記憶部100に記憶させる。計画データ130は、目的関数を最小化するパラメータの集合である。
【0054】
以下、計画作成部50がロバスト最適化法を用いて計画データ130を作成するものとする。式(23)に関連した最適解を式(25)で定義する。式(25)は、w、ζ、ηが固定された場合における経済的なディスパッチコストを表している。再生可能エネルギーの発電量が大きければ発電機による発電量が減り発電コストが小さくなり、需要が少なければ発電コストが小さくなることから、それらの場合はワーストケースにはならないと考えられる。そのため、ワーストケースはζ、ηが共にゼロ以上の場合に現れると仮定できる。このため、不確実性集合を式(26)のように簡略化することができる。
【0055】
【数16】
【0056】
【数17】
【0057】
式(26)に対して双対定理を適用することで、式(27)が得られる。a(小さい丸)bは、a、bのそれぞれと同じ要素数のベクトルであり、各ベクトルのi番目の要素についてa・bを算出することで求められる(要素積)。
【0058】
【数18】
【0059】
再エネ発電機の発電量のばらつきを表すΦ(ζ,η)をmaxζ,ηS(w,ζ,η)に加えたものの最大値(最適値)をR(x)とすると、R(x)は式(28)で表される。
【0060】
【数19】
【0061】
式(28)は双線形の最適化問題であるため、前処理部40は、以下の点を考慮して式(28)を整数線形計画問題に変形する。集合D×Zは凸集合のため、集合D×Zの端点上に最適解ζ*、η*が存在することが証明できることから、各xについて、バイナリベクトルで表される最適解ζ*、η*が存在する。特に、目的関数R(x)中の多重線形の項は連続の変数とバイナリ変数(ζまたはη)との積で表される部分があり、正の連続変数κとバイナリ変数βの積であるκβに書き直すことができる。これを、式(29)で示される線形の制約条件を満たすような新たな変数ν=κβを導入することによって線形化できる。ただし、κはκの上限値である。このように、Sにν=κβを代入することで、R(x)を整数線形問題として扱うことができる。前述の仮定より,追加した初項Φ(ζ,η)は連続凸関数なので、R(x)は全体としては線形制約を持つ混合整数二次計画問題を解くことで得られる。これは一般に普及している数理計画ソルバーで解くことができる。
【0062】
【数20】
【0063】
計画作成部50は、例えば、ベンダーズ分解法等の手法を用いて解を求め、計画データ130を作成する。ベンダーズ分解法は、連続変数と整数とが混在する非線形問題の繰り返し解法として提案された古典アルゴリズムである(非特許文献2)。以下、ベンダーズ分解法を本発明に適用する場合のアルゴリズムの一例を掲載する。
【0064】
1.まず、初期化処理として、U=∞、k=1とおく。次に、2.以下を収束するまで繰り返し実行する。
【0065】
2.式(30)で表されるロバストプロブレムRPを解き,その最適解をx、最適値をLとする。引数kは繰り返し実行される処理のサイクル数を示すものである。
【0066】
【数21】
【0067】
3.リコースプロブレムR(x)を解く。最適値をv(R(x))最適解をΦ、λ、μ、η、ζとする。
【0068】
4.U=c++v(R(x))でUを更新する。
【0069】
5.式(31)で表される収束判定条件を満たすならば、xとΦ、λ、μ、η、ζを最適解として終了する。収束判定条件を満たさない場合、式(32)で表される制約式をロバストプロブレムRPに追加する。
【数22】
【0070】
[評価・選択]
以下、計画作成部50により複数セットの最適解が算出されるものとする。もし計画作成部50により一つの最適解のみ算出される場合、評価計算部60と選択部70は省略されてよく、一つの最適解に従う再エネ抑制指令および発電機動作指示が制御対象発電機に出力されてよい。
【0071】
計画作成部50により複数セットの最適解が算出される場合、評価計算部60は、計画作成部50による最適化計算の結果である決定変数値を取得し、取得した値に基づいて、TSOから見たコストに関する第1指標と、再エネ発電機についての公平性に関する第2指標とを最適解ごとに算出する。第1指標は、例えば、式(1)の目的関数からD(S)の項を除いた値である。第2指標は、例えば、ジニ係数である。ジニ係数は、所得等の偏りを定量化する指標として経済統計分野で用いられているものある。ジニ係数を本発明に適用した場合、ジニ係数Giniは式(33)で表される。ここで、j´はjを昇順に並べ替えた引数を表している。ジニ係数Giniは、値が大きいほど不公平であることを表す。個別の再エネ発電機の発電量が完全に公平である、つまり全ての再エネ発電機の発電量が同一の値である場合にはジニ係数は0となる。逆にもっとも不公平な場合、発電量が1個の再エネ発電機に集中している場合にはジニ係数は1となる。現実には個々の再エネ発電機の規模は多様であり、個別再エネ発電量からの直接的なジニ係数計算が、必ずしも不公平を反映しているとは言えないケースもある。例えばメガソーラーと家庭用PV規模のシステムが混在する場合などである。その場合は、例えば、個々の個別再エネ発電量を各々の定格値で正規化し、発電比率として計算することで公平性を表現できる。
【0072】
【数23】
【0073】
選択部70は、評価計算部60により計算された第1指標と第2指標に基づく処理を行って、一つの最適解を選択する。選択部70は、第1指標と第2指標に対して何らかの演算処理を行って自動的に一つの最適解を選択してもよいし、以下に説明するようにオペレータ(例えばTSOの運営者の一員)に情報を提示して、オペレータの選択操作を受け付けることで一つの最適解を選択してもよい。
【0074】
例えば、選択部70は、不図示の表示装置に、最適解ごとの第1指標と第2指標を二次元グラフにプロットした画像を表示させる。表示装置は、運転計画作成装置1に接続された専用モニターでもよいし、スマートフォンやタブレット端末、パーソナルコンピュータでもよい。図3は、選択部70が表示させるインターフェース画面の一例を示す図である。このインターフェース画面では、例えば縦軸にコスト(第1指標)、横軸にジニ係数(第2指標)が設定され、それぞれの最適解の座標が二次元グラフに示されている。選択部70は、このインターフェース画面を表示装置に表示させた後、オペレータによる、どの最適解を選択するかを指定する操作を受け付け、操作された最適解を選択する。
【0075】
再エネ抑制指令部80は、選択された最適解に基づいて、再エネ発電機またはその制御装置に、再エネ抑制指令を出力する。また、発電機動作指示部90は、選択された最適解に基づいて、再エネでない発電機またはその制御装置に、動作指示を出力する。
【0076】
[解の例]
図4、5は、一例として、再エネを用いない発電機2台、再エネ発電機が2台、時間コマ数が1~24のときの解のイメージを表す図である。図中、x1、x2が再エネ発電機、p1、p2が再エネを用いない発電機である。図示する例に基づいてジニ係数Giniを計算すると、S1=120、S2=360となる。1番目までの再エネ発電量の累積相対度数は0.25、再エネ発電機の台数の累積相対度数は1/2=0.5である。また、2番目の再エネ発電量の累積相対度数は1、再エネ発電機の台数の累積相対度数は1である.このときジニ係数は、2*{(0.5-0.25)+(1-1)}=0.5となる。
【0077】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値D(s)(あるいはD(sj))は分散であるものとしたが、式(34)に示すように、平均値からの差分の絶対値和であってもよい。式(34)は平均値からの差分の絶対値和を求めるばらつき式である。係る場合でも、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0078】
【数24】
【0079】
<第3実施形態>
また、再生可能エネルギーによる発電量のばらつきを示す指標値を求めるためのばらつき式として、正の連続変数Kを導入してもよい。この場合、指標値D(s)は式(35)で表され、sの合計上限を合わらすと共に、式(36)で示される線形制約を問題に追加するものである。上限を低く抑えることができれば,他を圧倒する大きな割り当てが発生するケースは少なくなるため、この場合であっても第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0080】
【数25】
【0081】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、対象とする電力系統に関するデータであって、電力の需要実績データ、再生可能エネルギーによる発電量実績データ、発電機の諸元を示す発電機データ、および電力系統の状態を示す系統データをそれぞれ取得する取得部10と、需要実績データに基づいて第1不確実性集合を作成する第1不確実性集合生成部20と、発電量実績データに基づいて第2不確実性集合を作成する第2不確実性集合生成部22と、第2不確実性集合に基づいて再生可能エネルギーによる発電量のばらつき式を計算する再エネ発電量ばらつき式生成部24と、発電機データと系統データを使用して、発電機コストと再生可能エネルギー抑制コストに関する目的関数と制約条件を作成する問題生成部30と、制約条件の下で目的関数を所望の値に近づける最適化問題を解き、最適解を得ることで発電機の計画データを作成する計画作成部50とを持つことにより、再生可能エネルギー出力抑制の公平性を考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 運転計画作成装置
10 取得部
20 第1不確実性集合生成部
22 第2不確実性集合生成部
24 再エネ発電量ばらつき式生成部
30 問題生成部
40 前処理部
50 計画作成部
60 評価計算部
70 選択部
100 記憶部
110 第1実績データ
112 第2実績データ
114 発電機データ
116 系統データ
130 計画データ
図1
図2
図3
図4
図5