(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172879
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20231129BHJP
C08F 214/18 20060101ALI20231129BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20231129BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231129BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20231129BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20231129BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
B05D7/24 302L
C08F214/18
B05D7/04
B32B27/30 D
B05D3/02 Z
C09D127/18
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029203
(22)【出願日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022083613
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】中満 陽美
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、クラックの発生がない厚いポリマー層を形成できる、積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】耐熱性基材層に、平均粒子径が0.3μm以上10μm未満である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と沸点100℃以上の液体化合物から形成される液状媒体とを含む分散液を塗工して、前記耐熱性基材層の表面に前記分散液からなる塗工層を形成し、前記塗工層を有する前記耐熱性基材層を、25℃以上、前記液体化合物の沸点未満かつ[前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+10℃]未満である温度域にて最初の加熱を行い、続いて前記温度域より高くかつ前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度未満である温度域で第2の加熱を行って、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む層を表面に有する前記耐熱性基材層を得、さらに前記溶融温度以上の温度域にて加熱して、前記耐熱性基材層の表面に前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基材層に、平均粒子径が0.3μm以上10μm未満である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と沸点100℃以上の液体化合物から形成される液状媒体とを含む分散液を塗工して、前記耐熱性基材層の表面に前記分散液からなる塗工層を形成し、前記塗工層を有する前記耐熱性基材層を、25℃以上、前記液体化合物の沸点未満かつ[前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+10℃]未満である温度域にて最初の加熱を行い、続いて前記温度域より高くかつ前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度未満である温度域で第2の加熱を行って、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む層を表面に有する前記耐熱性基材層を得、さらに前記溶融温度以上の温度域にて加熱して、前記耐熱性基材層の表面に前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子が、機械的粉砕処理した破砕粒子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度が、60~120℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度が、200~320℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液状媒体の表面張力が、45mN/m以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記液状媒体が、さらにノニオン性界面活性剤を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記液体化合物が、水、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記液体化合物が水であり、前記最初の加熱の温度域が45~95℃であり、前記第2の加熱の温度域が100~150℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記液体化合物がN-メチル-2-ピロリドンであり、前記最初の加熱の温度域が45~95℃であり、前記第2の加熱の温度域が100~200℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記耐熱性基材が、ポリイミド、液晶性ポリマー及びポリテトラフルオロエチレンのいずれかの樹脂のフィルムである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記積層体が、前記耐熱性基材の両方の表面に前記ポリマー層を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー層の厚さが25μm以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信機器における高速化、高周波化に対応するため、通信機器のプリント基板の材料には高熱伝導、低線膨張係数、低誘電率かつ低誘電正接である材料が求められ、低誘電率かつ低誘電正接であるテトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。かかるポリマーを含む絶縁層を形成する材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液が知られている。
テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液から塗工により基材表面に塗膜等の層を形成する場合、基材形状等の制約は少ない。その反面、厚い層を形成しようとすると、層にクラック(ひび割れ)が生じやすく、形成する層の状態の制御が難しいという課題がある。
特許文献1には、特定粒径範囲のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子、非アルキルフェノール型ノニオン系界面活性剤及び特定のアセチレンジオール系界面活性剤を含む水性分散体である、被覆用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案される水性分散体は、さらにエチレングリコールを特定量配合すると好適とされるが、厚い層をクラックなく形成するには、なお改善の余地がある。また、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液に結着剤や界面活性剤等を配合して、それから形成される層の状態を制御する手法は、有効な剤の選定が煩雑であり、かかる剤が層に残留して、層物性に悪影響を及ぼす場合がある。
本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液の基材表面への塗工、及びポリマー焼成までの工程に着目して検討した。その結果、塗工から焼成までの状態を特定条件に制御すると、厚い層を形成してもクラックが発生せず、耐熱性及び電気特性に優れる積層体が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、クラックの発生がない厚いポリマー層を形成できる、積層体の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
〔1〕 耐熱性基材層に、平均粒子径が0.3μm以上10μm未満である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と沸点100℃以上の液体化合物から形成される液状媒体とを含む分散液を塗工して、前記耐熱性基材層の表面に前記分散液からなる塗工層を形成し、前記塗工層を有する前記耐熱性基材層を、25℃以上、前記液体化合物の沸点未満かつ[前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+10℃]未満である温度域にて最初の加熱を行い、続いて前記温度域より高くかつ前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度未満である温度域で第2の加熱を行って、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む層を表面に有する前記耐熱性基材層を得、さらに前記溶融温度以上の温度域にて加熱して、前記耐熱性基材層の表面に前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を有する積層体を得る、積層体の製造方法。
〔2〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子が、機械的粉砕処理した破砕粒子である、〔1〕の製造方法。
〔3〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度が、60~120℃である、〔1〕又は〔2〕の製造方法。
〔4〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度が、200~320℃である、〔1〕~〔3〕のいずれかの製造方法。
〔5〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、酸素含有極性基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーである、〔1〕~〔4〕のいずれかの製造方法。
〔6〕 前記液状媒体の表面張力が、45mN/m以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかの製造方法。
〔7〕 前記液状媒体が、さらにノニオン性界面活性剤を含有する、〔1〕~〔6〕のいずれかの製造方法。
〔8〕 前記液体化合物が、水、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔7〕のいずれかの製造方法。
〔9〕 前記液体化合物が水であり、前記最初の加熱の温度域が45~95℃であり、前記第2の加熱の温度域が100~150℃である、〔1〕~〔8〕のいずれかの製造方法。
〔10〕 前記液体化合物がN-メチル-2-ピロリドンであり、前記最初の加熱の温度域が45~95℃であり、前記第2の加熱の温度域が100~200℃である、〔1〕~〔8〕のいずれかの製造方法。
〔11〕 前記耐熱性基材が、ポリイミド、液晶性ポリマー及びポリテトラフルオロエチレンのいずれかの樹脂のフィルムである、〔1〕~〔10〕のいずれかの製造方法。
〔12〕 前記積層体が、前記耐熱性基材の両方の表面に前記ポリマー層を有する、〔1〕~〔11〕のいずれかの製造方法。
〔13〕 前記ポリマー層の厚さが25μm以上である、〔1〕~〔12〕のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む、クラックの発生がない厚いポリマー層を形成できる、積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子のD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移温度(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で分散液を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、分散液の、回転数が30rpmの条件で測定される粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
液状媒体又は液体化合物の「表面張力」は、表面張力計を用いて、25℃においてウィルヘルミー法で測定した値である。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、耐熱性基材層に、平均粒子径が0.3μm以上10μm未満である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「F粒子」とも記す。)と沸点100℃以上の液体化合物から形成される液状媒体とを含む分散液(以下、「本分散液」とも記す。)を塗工して、前記耐熱性基材層の表面に本分散液からなる塗工層を形成し、前記塗工層を有する前記耐熱性基材層を、25℃以上、前記液体化合物の沸点未満かつ[前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのガラス転移温度+10℃]未満である温度域にて最初の加熱(以下、「最初の加熱」とも記す。)を行い、続いて前記温度域より高くかつ前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度未満である温度域で第2の加熱(以下、「第2の加熱」とも記す。)を行って、F粒子を含む層を表面に有する前記耐熱性基材層を得、さらに前記溶融温度以上の温度域にて加熱して、前記耐熱性基材層の表面にFポリマーを含むポリマー層を有する積層体を得る、積層体の製造方法である。
本法によれば、クラックを発生しない厚いポリマー層を有する積層体が得られやすく、かかるポリマー層はFポリマーに基づく耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0009】
F粒子を含む分散液から形成される塗工層の厚さが大きい場合、塗工層から液体化合物を乾燥で蒸発させる過程で、F粒子間で凝集に作用するラプラス力が、特に層の歪みの原因となると考えられる。換言すれば、乾燥過程におけるラプラス力が層のミクロ構造形成に影響し、ポリマー層を形成する過程において、その内部応力を緩和する作用が働いて、ポリマー層にクラックを生じさせる因子となると考えられる。
本法では、本分散液からなる塗工層から液体化合物を除去するために、所定の温度域での乾燥を段階的に行う。具体的には、最初の加熱では、塗工層中でのF粒子の拡散状態を維持しつつ、ガラス転移温度近傍で加熱して、F粒子自体の状態変化を少なくすることを優先させる。一方、第2の加熱では、塗工層から溶剤である液体化合物の拡散除去を優先させて、全体として歪みの少ない乾燥被膜であるF粒子を含む層を形成させる。そして、かかる乾燥被膜を焼成して、Fポリマーを含むポリマー層を形成させている。
この段階的な乾燥により、他の材料との親和性が概して低いFポリマー、特にサブミクロンレベルのF粒子を含む分散液を用いても、ラプラス力による層の歪みを抑制しつつF粒子の拡散と液体化合物の拡散とがバランスすることにより、Fポリマーを含む、クラックが発生しない厚いポリマー層を有する積層体が生産性良く得られたと考えられる。
【0010】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含む、熱溶融性ポリマーである。ここで、熱溶融性のポリマーとは、荷重49Nの条件下、溶融流れ速度が1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。
Fポリマーの溶融温度は、200℃以上が好ましく、260℃以上がさらに好ましい。Fポリマーの溶融温度は、320℃以下が好ましく、315℃以下がより好ましい。この場合、本法で用いる本分散液が加工性に優れやすく、また、本分散液から形成されるポリマー層等の成形物が耐熱性に優れやすい。
【0011】
Fポリマーのガラス転移温度は、60℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、JIS K 6768に規定されているぬれ張力試験用混合液(和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
【0012】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましく、PFA及びFEPがより好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0013】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。
この場合、本法で用いる本分散液が分散性に優れやすい。また、かかる分散液から形成されるポリマー層等の成形物が、耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性に優れやすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OH及び-C(CF3)2OHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0014】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
【0015】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0016】
本発明において、F粒子は、平均粒子径(D50)が0.3μm以上10μm未満であれば、非中空状の粒子であってもペレット状であってもよい。
また、F粒子は、平均粒子径100μm以上である熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を、乾式ジェットミル等により機械的粉砕処理した破砕粒子であってもよい。
F粒子のD50は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。F粒子のD50は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましい。この場合、本発明で用いる本分散液が分散性と加工性に優れやすい。また、本分散液から形成されるポリマー層(塗膜)等の成形物が、耐熱性、電気特性(低線膨張係数、低誘電率及び低誘電正接)等の物性や、表面外観に優れやすい。
F粒子の比表面積は、1~25m2/gが好ましく、3~15m2/gがより好ましい。
【0017】
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、溶融温度が200~320℃である、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子であるのがより好ましい。この場合、上述した作用機構がより発現されてF粒子の凝集も抑制されやすい。
F粒子は、Fポリマー以外の樹脂や無機化合物を含んでいてもよく、FポリマーをコアとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をシェルとするコア-シェル構造を形成していてもよく、FポリマーをシェルとしFポリマー以外の樹脂又は無機化合物をコアとするコア-シェル構造を形成していてもよい。
ここで、Fポリマー以外の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、マレイミドが挙げられ、無機化合物としては、シリカ、窒化ホウ素が挙げられる。
【0018】
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
また、F粒子は、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と混合して用いてもよい。F粒子として、溶融温度が200~320℃である熱溶融性Fポリマーの粒子が好ましく、溶融温度が200~320℃であり、酸素含有極性基を有する熱溶融性Fポリマーの粒子がより好ましく、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子として、非熱溶融性PTFEの粒子が好ましい。この場合、熱溶融性Fポリマーの粒子による凝集抑制作用と、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーのフィブリル化による保持作用とがバランスし、本法で用いる本分散液の分散性が向上しやすい。また、それから形成されるポリマー層等の成形物において、非熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーの電気特性が高度に発現されやすい。
【0019】
本分散液が含む液状媒体を構成する、沸点100℃以上の液体化合物としては、大気圧下、25℃にて液体であり、沸点が100℃以上であり、100~240℃である液体化合物が好ましい。かかる液体化合物は1種類を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種の液体化合物を用いる場合、2種の液体化合物は、互いに相溶するのが好ましい。
また、本法において、液体化合物は予め脱気して用いると好ましい。
【0020】
前記液体化合物は、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが挙げられる。
中でも、本法においては、液体化合物として水又はN-メチル-2-ピロリドンを用いるのが好ましい。
【0021】
液状媒体の表面張力が、45mN/m以下であるのが好ましい。液状媒体の表面張力は、20mN/m以上が好ましい。液状媒体の表面張力が上記範囲内であると、上述した作用機構がより発現されやすいと考えられる。
液状媒体の表面張力を上記範囲に調整する観点から、液状媒体は、上記した液体化合物と界面活性剤を含むのが好ましい。界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、グリコール系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が挙げられる。
中でも、親水部位に水酸基を有するノニオン性界面活性剤が好ましく、親水部位としてポリオキシアルキレン構造を、疎水部位としてポリジメチルシロキサン構造を有する、ポリオキシアルキレン変性ジメチルシロキサンがより好ましい。
ノニオン性界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業社製)、「Tergitol」シリーズ(ダウケミカル社製、「Tergitol TMN-100X」等。)が挙げられる。
液状媒体が上記した液体化合物と界面活性剤を含有する場合、液状媒体中の界面活性剤の含有量は、1~15質量%が好ましい。
【0022】
本分散液における上記液体化合物の含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。液体化合物の含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0023】
本分散液は、無機粒子をさらに含有していてもよい。この場合、本分散液から形成される塗膜(ポリマー層)等の成形物が、電気特性と低線膨張性とに優れやすい。
無機粒子の形状は、球状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよく、具体的には、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状であってもよい。
無機粒子としては、例えば石英粉、シリカ、ウォラストナイト、タルク、窒化ケイ素、炭化ケイ素、雲母等のケイ素化合物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒素化合物;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物;炭素繊維;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素同素体;銀、銅等の金属;が挙げられる。無機粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機粒子のD50は、0.1~20μmが好ましい。
無機粒子の表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0024】
無機粒子の好適な具体例としては、シリカ粒子(「アドマファイン(登録商標)」シリーズ(アドマテックス社製)、「SFP(登録商標)」シリーズ(デンカ社製)、「E-SPHERES」シリーズ(太平洋セメント社製)等)、酸化亜鉛粒子(「FINEX(登録商標)」シリーズ(堺化学工業株式会社製)等)、酸化チタン粒子(「タイペーク(登録商標)」シリーズ(石原産業社製)、「JMT(登録商標)」シリーズ(テイカ社製)等)、タルク粒子(「SG」シリーズ(日本タルク社製)等)、ステアタイト粒子(「BST」シリーズ(日本タルク社製)等)、窒化ホウ素粒子(「HP40MF」シリーズ、「HP40J」シリーズ(いずれも水島合金鉄社製)、「UHP」シリーズ(昭和電工社製)、「デンカボロンナイトライド」シリーズの「GP」、「HGP」グレード(デンカ社製)等)が挙げられる。
本分散液が無機粒子を含む場合、本分散液における無機粒子の含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0025】
本分散液は、Fポリマーとは異なる他の樹脂をさらに含んでいてもよい。かかる他の樹脂は、本分散液に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本分散液を構成する液体化合物等の液状分散媒(以下、「液状分散媒」とも記す。)に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
他の樹脂としては、芳香族ポリマーが好ましく、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族イミドポリマーがより好ましい。芳香族ポリマーは本分散液中で、液状分散媒に溶解したワニスとして含まれるのが好ましい。
【0026】
芳香族イミドポリマーの具体例としては、「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)、「ネオプリム(登録商標)」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア(登録商標)」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON(登録商標)」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド(登録商標)」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「HPC-1000」、「HPC-2100D」(いずれも昭和電工マテリアルズ社製)が挙げられる。
本分散液が他の樹脂をさらに含む場合、F粒子に対する他の樹脂の含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0027】
本分散液は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0028】
かかる粘度調整剤の好適な具体例としては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられる。前記(メタ)アクリル系ポリマーとしては、メタクリル系ポリマーが好ましい。
前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移点は、0~120℃が好ましい。
前記(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、10000~1000000が好ましい。
前記(メタ)アクリル系ポリマーは、ヒドロキシ基を有するのが好ましい。
前記(メタ)アクリル系ポリマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素系(メタ)アクリレートに基づく単位を含むのが好ましい。上記炭化水素系(メタ)アクリレートとしては、炭化水素系メタクリレートが好ましい。
【0029】
本ポリマー層がかかる(メタ)アクリル系ポリマーを含めば、本法により、本分散液を耐熱性基材層に塗布して積層体を作成する場合に、前記分散液の粘度等のチキソトロピーを向上させるだけでなく、本ポリマー層からのFポリマーの脱落が抑制されやすい。液体化合物が、非水系の前記した液体化合物(アミド、ケトン、エステル等)である場合、特に上述した、アミド、ケトンおよびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である場合は、かかる効果が顕著になりやすい。
かかる(メタ)アクリル系ポリマーは、市販品(共栄社化学社製「オリコックス KC-1300」、積水化成品工業社製「テクポリマー IBM-2」、日油株式会社製「マープルーフ MH-03041」等)として入手できる。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリル」はアクリル、メタアクリル及びそれらの双方を総称する用語である。「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタアクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。
【0030】
本分散液の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本分散液の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましい。この場合、本分散液は塗工性に優れ、任意の厚さを有する塗膜(ポリマー層)等の成形物を形成しやすい。また、かかる範囲の粘度範囲にある本分散液は、それから形成される成形物において、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
本分散液のチキソ比は、1.0~3.0が好ましい。この場合、本分散液は、塗工性及び均質性に優れ、より緻密な成形物を生成しやすい。これらの液物性は、本分散液が、ポリビニルアルコール系高分子、ポリビニルピロリドン系高分子及び多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種のノニオン性の水溶性高分子を含む場合に向上しやすい。
【0031】
ポリビニルアルコール系高分子は、部分的にアセチル化又は部分的にアセタール化されたポリビニルアルコールであってもよい。
多糖類としては、グリコーゲン類、アミクロペクチン類、デキストリン類、グルカン類、フルクタン類、キチン類、アミロース類、アガロース類、アミクロペクチン類、セルロース類が挙げられる。セルロース類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0032】
ノニオン性の水溶性高分子は、ノニオン性の多糖類が好ましく、ノニオン性のセルロース類がより好ましく、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースがさらに好ましい。
かかるノニオン性の多糖類の具体例としては、「サンローズ(登録商標)」シリーズ(日本製紙社製)、「メトローズ(登録商標)」シリーズ(信越化学工業社製)、「HEC
CFグレード」(住友精化社製)が挙げられる。
【0033】
本分散液は、F粒子と液状媒体と、必要に応じて無機粒子、他の樹脂、添加剤等を混合することで得られる。本分散液は、F粒子と液状媒体を一括で混合して得ても、複数回に分割して混合して得てもよい。また、無機粒子、他の樹脂、添加剤をさらに混合する場合の混合順序には特に限定はなく、F粒子と予め混合してから液状媒体と混合してもよく、液状媒体に予め添加してからF粒子と混合してもよく、F粒子への液状媒体の添加に際して混合してもよい。
本分散液を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー及びプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル及びアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機及びV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。これらの中でも、本分散液の分散安定性の観点から、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機が好ましい。プラネタリーミキサーは、互いに自転と公転を行う2軸の撹拌羽根を有する撹拌装置である。薄膜旋回型高速ミキサーは、円筒形の撹拌槽の内壁面に、F粒子と液状媒体とを、薄膜状に展開し旋回させて、遠心力を作用させながら混合する撹拌装置である。
【0034】
本法では、耐熱性基材層に本分散液を塗工して、耐熱性基材層の表面に本分散液からなる塗工層をまず形成する。
本分散液の塗工の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
【0035】
耐熱性基材層としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等の金属基板;ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル等の液晶性ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等の、Fポリマー以外のテトラフルオロエチレン系ポリマー等の耐熱性樹脂のフィルム;プリプレグ基板(繊維強化樹脂基板の前駆体)、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミックス基板;ガラス基板が挙げられる。
中でも、耐熱性基材が、ポリイミド、液晶性ポリマー及びポリテトラフルオロエチレンのいずれかの樹脂のフィルムであるのが好ましく、ポリイミドフィルムがより好ましい。
【0036】
基材の形状としては、平面状、曲面状、凹凸状が挙げられる。また、基材の形状は、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
基材の表面の十点平均粗さは、0.01~0.05μmが好ましい。
基材の表面は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよく、プラズマ処理されていてもよい。かかるシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0037】
次に、前記塗工層を有する耐熱性基材層を、25℃以上、本分散液を構成する液体化合物の沸点未満かつ[Fポリマーのガラス転移温度+10℃]未満である温度域にて最初の加熱を行い、続いて前記温度域より高くかつFポリマーの溶融温度未満である温度域で第2の加熱を行って、F粒子を含む層を表面に有する耐熱性基材層を得る。
最初の加熱の下限は、50℃以上であり[液体化合物の沸点-50℃]であるのが好ましく、50℃以上であり[液体化合物の沸点-40℃]であるのがより好ましい。
最初の加熱の上限は、Fポリマーのガラス転移温度以下であるのが好ましい。
また、第2の加熱は、最初の加熱の温度域より50℃以上高く、[Fポリマーの溶融温度-100℃]以下である温度域で行うのが好ましい。
【0038】
具体的には、本分散液を構成する液状媒体における液体化合物が水である場合、最初の加熱の温度域が45~95℃であり、第2の加熱の温度域が100~150℃であることが好ましい。
また、本分散液を構成する液状媒体における液体化合物がN-メチル-2-ピロリドンである場合、最初の加熱の温度域が45~95℃であり、第2の加熱の温度域が100~200℃であることが好ましい。
【0039】
上記した最初の加熱及び第2の加熱は、いずれも1~30分間で行うのが好ましい。最初の加熱及び第2の加熱において、液体化合物は、完全に除去する必要はなく、F粒子のパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、最初の加熱及び第2の加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって液体化合物の除去を促してもよい。
【0040】
前記第2の加熱によって得られた、F粒子を含む層を表面に有する耐熱性基材層を、さらにFポリマーの溶融温度以上の温度域にて加熱(以下、「第3の加熱」とも記す。)して、前記耐熱性基材層の表面にFポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)を有する積層体を得る。
第3の加熱の温度域は、具体的には340~400℃であるのが好ましい。また、第3の加熱の加熱時間は、0.1~30分間であるのが好ましい。
【0041】
上記した最初の加熱、第2の加熱及び第3の加熱の各加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
本法においては、各加熱は、常圧(大気圧)下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、各加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0042】
F層は、耐熱性基材層への本分散液の塗工、及び最初の加熱、第2の加熱及び第3の加熱の各加熱の工程を経て形成される。これら工程は1回ずつ行ってもよく、2回以上繰り返してもよい。例えば、耐熱性基材層の表面に本分散液を塗工して塗工層を得、最初の加熱、第2の加熱及び第3の加熱によりF層を形成し、さらに前記F層の表面に本分散液を塗工して塗工層を形成して、上記した各加熱により2層目のF層を形成してもよい。また、耐熱性基材層の表面に本分散液を塗工して塗工層を得、上記した最初の加熱及び第2の加熱により液体化合物を除去した段階で、さらにその表面に本分散液を塗工し、上記した各加熱によってF層を形成してもよい。
なお、最初の加熱を、前記した最初の加熱の温度域に属する複数の温度で段階的に行ってもよく、第2の加熱を、前記した第2の加熱の温度域に属する複数の温度で段階的に行ってもよい。
【0043】
本分散液は、耐熱性基材層の一方の表面にのみ配置してもよく、耐熱性基材層の両面に配置してもよい。前者の場合、耐熱性基材層と、かかる耐熱性基材層の片方の表面にF層を有する積層体が得られ、後者の場合、耐熱性基材層と、かかる耐熱性基材層の両方の表面にF層を有する積層体が得られる。
【0044】
積層体の好適な具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。
【0045】
F層の厚さは、25μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。F層の厚さは、300μm以下が好ましい。
F層の誘電率は2.4以下であるのが好ましく、2.0以下であるのがより好ましい。また、誘電率は1.0超であるのが好ましい。F層の誘電正接は、0.0022以下であるのが好ましく、0.0020以下であるのがより好ましい。また、誘電正接は、0.0010超であるのが好ましい。F層の熱伝導率は1W/m・K以上であるのが好ましく、3W/m・K以上がより好ましい。なお、F層の熱伝導率とは、F層の面内方向における熱伝導率を意味する。
【0046】
F層の線膨張係数は、100ppm/℃以下が好ましく、80ppm/℃以下がより好ましい。F層の線膨張係数の下限は、30ppm/℃である。なお、線膨張係数は、JIS C 6471:1995に規定される測定方法に従って、25℃以上260℃以下の範囲における、試験片の線膨張係数を測定した値を意味する。
F層と耐熱性基材層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましい。上記剥離強度は、100N/cm以下が好ましい。
なお、かかる積層体から耐熱性基材層を分離すれば、Fポリマーを含むシートを得られる。
【0047】
本法で得られる積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、放熱部品等として有用である。
具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気自動車等のモーター等に使用されるエナメル線被覆材、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、石油輸送ホース、水素タンク、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、ヨー軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、ブッシュ、シール、スラストワッシャ、ウェアリング、ピストン、スライドスイッチ、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、テンションロープ、ウェアパッド、ウェアストリップ、チューブランプ、試験ソケット、ウェハーガイド、遠心ポンプの摩耗部品、薬品及び水供給ポンプ、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ラケットのガット、ダイス、便器、コンテナ被覆材、パワーデバイス用実装放熱基板、無線通信デバイスの放熱部材、トランジスタ、サイリスタ、整流器、トランス、パワーMOS FET、CPU、放熱フィン、金属放熱板、風車や風力発電設備や航空機等のブレード、パソコンやディスプレイの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装、低酸素下で加熱処理する加工機や真空オーブン、プラズマ処理装置などのシール材、スパッタや各種ドライエッチング装置等の処理ユニット内の放熱部品、電磁波シールドとして有用である。
【0048】
本法で形成される積層体は、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等の電子基板材料、保護フィルムや放熱基板、特に自動車向けの放熱基板として有用である。
以上、本法について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本法は、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例0049】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.4μm、Tg:85℃、比表面積:9m2/g)
F粒子2:前記テトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:20μm、Tg:85℃、比表面積:6m2/g)[液体化合物]
水(沸点100℃、表面張力73mN/m)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP;沸点202℃、表面張力41mN/m)
[界面活性剤]
界面活性剤1:主鎖にポリシロキサン鎖を有し、側鎖にポリエチレンオキシド基を有するノニオン性界面活性剤[耐熱性基材層]
基材1:厚さ25μmの芳香族性ポリイミドフィルム(PI Advanced Materials社製「FG-100」)
【0050】
2.分散液の製造例
自転公転ミキサーを用いて、下記成分を混合して分散液を製造した。
分散液1:F粒子1とNMPを含む、液状化合物をNMPとするF粒子1の含有量が33質量%である分散液。
分散液2:F粒子1と水を含む、液状化合物を水とするF粒子1の含有量が33質量%である分散液。
分散液3:F粒子1と界面活性剤1と水を含む、液状化合物を水とするF粒子1の含有量が33質量%である分散液。なお、界面活性剤1と水から形成される液状媒体の表面張力は、20mN/mであった。
分散液4:F粒子2とNMPを含む、液状化合物をNMPとするF粒子2の含有量が33質量%である分散液。
【0051】
3.積層体の製造例と評価
[例1]
ロール・ツー・ロールプロセスにより、基材1の一方の面に、製造例1に従って得た分散液1を小径グラビアリバース法で塗工して塗工層を形成し、かかる塗工層を炉温70℃の通風乾燥炉に5分間で通過させて最初の加熱を行い、続いて炉温150℃の通風乾燥炉に5分間で通過させて第2の加熱を行い、F粒子1を含む層を表面に有する基材1を形成した。
次いで、F粒子1を含む層を表面に有する基材1を、炉温350℃の遠赤外線炉に5分間で通過させてF粒子1を溶融焼成して、基材1の片面にF粒子1の溶融焼成物を含むポリマー層を形成し、ポリマー層及び基材1層を有する積層体1を得た。積層体1におけるポリマー層の厚さは30μmであった。
積層体1のポリマー層表面におけるスジ及び膜割れの有無を目視で観察し、以下の基準で評価した。
<ポリマー層表面の評価基準>
A:スジも膜割れも観察されない
B:小さなスジが入っているが膜割れは観察されない
C:膜割れが発生している
【0052】
[例2~8]
分散液の種類、最初の加熱温度、第2の加熱温度を表1に示すとおり変化させた以外は、例1と同様にして、積層体2~8を得た。
それぞれの積層体のポリマー層表面を目視で観察して評価した。結果を表1に示す。
【0053】