(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172956
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】イネの再生二期作栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/22 20180101AFI20231129BHJP
【FI】
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084969
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022083913
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
(57)【要約】
【課題】食味の低下を生じにくい、より多収なイネ栽培方法の提供。
【解決手段】食用米のイネ品種を用いて、1回目のイネの早期栽培を行い、1回目の収穫を行った後、刈取り株から発生するひこばえを生育させて2回目のイネを栽培し、2回目の収穫を行うことを含み、1回目の収穫で得られる米と比較した2回目の収穫で得られる米における食味の低下が抑制されている、イネの再生二期作栽培方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用米のイネ品種を用いて、1回目のイネの早期栽培を行い、1回目の収穫を行った後、刈取り株から発生するひこばえを生育させて2回目のイネを栽培し、2回目の収穫を行うことを含み、1回目の収穫で得られる米と比較した2回目の収穫で得られる米における食味の低下が抑制されている、イネの再生二期作栽培方法。
【請求項2】
前記イネ品種が、早生~中生の良食味多収イネ品種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「ほしじるし」、又は「あきだわら」である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記イネ品種の苗を日本において4月から田で生育させて1回目のイネの早期栽培を行うことを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記イネ品種の苗を日本において4月に田に移植することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イネ品種の苗を4月上旬又は中旬に田に移植する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「えみだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記イネ品種の苗を日本において5月から田で生育させて1回目のイネの早期栽培を行うことを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記イネ品種の苗を日本において5月に田に移植することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
20cm以上の収穫高さで1回目の収穫を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
30cm以上の収穫高さで1回目の収穫を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
1回目のイネが日本において7月20日までに出穂するように1回目のイネの栽培を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
1回目の収穫を日本において8月26日までに行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域で栽培を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域で栽培を行う、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記地域が、九州地方北部である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記地域が、九州地方北部である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
1回目の収穫を、普通型コンバインで行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
2回目の収穫を、普通型コンバインで行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、又は「日本晴」における2回目の収穫を、自脱型コンバインで行う、請求項5に記載の方法。
【請求項22】
品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、又は「えみだわら」における2回目の収穫を、自脱型コンバインで行う、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
1回目のイネの出穂後から出穂後積算気温900℃となる時期までに追肥を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
1回目のイネの出穂後から出穂後積算気温900℃となる時期までに追肥を行い、2回目のイネの生育期間中には追肥をしない、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期に追肥を行う、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期に追肥を行い、2回目のイネの生育期間中には追肥をしない、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネの再生二期作栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では水稲栽培の多くは一期作で行われているが、これは日本におけるイネ(Oryza sativa L.)の生育可能期間が2回の田植えを行う通常の二期作を行うには比較的短いためである。近年、水稲栽培の収量を増加させるために、水稲再生二期作栽培が注目されている。多年生の性質を有する水稲は、収穫後、刈取り株から芽(ひこばえ)が発生(再生)し、それを引き続き栽培することにより、2回目の収穫を行うことができる。水稲のこの性質を利用して1回の田植えで2回の収穫を行う再生二期作栽培(株出し栽培)は、比較的短い生育可能期間を有効活用でき、2回の収穫により収量を増やすことができる。特に温暖化で生育可能期間が延びる傾向がある近年では、再生二期作栽培は水稲栽培の効率化への貢献が期待されている。
【0003】
一方で、水稲再生二期作栽培で通常用いる、生育期間が短いイネ品種は、一般的に、もともと収量性が高くなく、再生二期作栽培の合計収量でも多収品種の一期作の収量に及ばないことも多い。さらに、水稲再生二期作栽培では2回目の収穫で得られる米の食味が低下しやすいことが知られている(例えば、非特許文献1)。特に良食味品種の場合、イネ生育可能期間がより短い地域、例えば日本における福岡県を含む九州北部以北では、再生二期作栽培を実施しても、ひこばえ由来の再生イネ(2回目のイネ)を十分に登熟させて、良食味を保持した米を多収量で得ることは困難と考えられてきた。
【0004】
非特許文献2は、ジャポニカ品種「べこあおば」とインディカ品種「北陸193号」(いずれも飼料用米として主に利用されているイネ品種)を交配して得られたF1イネを「北陸193号」と再度交配して得られた後代系統の苗を用いて再生二期作栽培を行い、1回目の収穫時に50cmの収穫高さで遅刈することにより、合計収量を大きく増加させることができたことを報告している。しかし非特許文献2で超多収を示した供試イネ系統は食味が悪く、主食用米の生産には適していない。良食味と多収を両立できる水稲栽培方法がなおも望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】秋田ら、「1994年に茨城県南部において見られた再生稲の収量および食味」(1997)、日本作物学会紀事、Vol.66、No.1、p.131-132
【非特許文献2】Nakano et al., Agronomy Journal, 112, p.3975-3992 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食味の低下を生じにくい、より多収なイネ栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、「にじのきらめき」のような良食味イネ品種をはじめとするイネ品種を用いて早期栽培を行う再生二期作栽培により、食味の低下を生じにくい栽培に成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]食用米のイネ品種を用いて、1回目のイネの早期栽培を行い、1回目の収穫を行った後、刈取り株から発生するひこばえを生育させて2回目のイネを栽培し、2回目の収穫を行うことを含み、1回目の収穫で得られる米と比較した2回目の収穫で得られる米における食味の低下が抑制されている、イネの再生二期作栽培方法。
[2]前記イネ品種が、早生~中生の良食味多収イネ品種である、上記[1]に記載の方法。
[3]前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」である、上記[1]に記載の方法。
[4]前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「ほしじるし」、又は「あきだわら」である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記イネ品種の苗を日本において4月から田で生育させて1回目のイネの早期栽培を行うことを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6]前記イネ品種の苗を日本において4月に田に移植することを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記イネ品種の苗を4月上旬~中旬に田に移植する、上記[6]に記載の方法。
[8]前記イネ品種が、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「えみだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」である、上記[3]に記載の方法。
[9]前記イネ品種の苗を日本において5月から田で生育させて1回目のイネの早期栽培を行うことを含む、上記[8]に記載の方法。
[10]前記イネ品種の苗を日本において5月に田に移植することを含む、上記[9]に記載の方法。
[11]20cm以上の収穫高さで1回目の収穫を行う、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]30cm以上の収穫高さで1回目の収穫を行う、上記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]1回目のイネが日本において7月20日までに出穂するように1回目のイネの栽培を行う、上記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]1回目の収穫を日本において8月26日までに行う、上記[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域で栽培を行う、上記[1]~[7]及びそれらに従属する[11]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域で栽培を行う、上記[8]~[10]及びそれらに従属する[11]~[14]のいずれかに記載の方法。
[17]前記地域が、九州地方北部である、上記[15]に記載の方法。
[18]前記地域が、九州地方北部である、上記[16]に記載の方法。
[19]1回目の収穫を、普通型コンバインで行う、上記[1]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20]2回目の収穫を、普通型コンバインで行う、上記[1]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、又は「日本晴」における2回目の収穫を、自脱型コンバインで行う、上記[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[22]品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、又は「えみだわら」における2回目の収穫を、自脱型コンバインで行う、上記[9]又は[10]に記載の方法。
[23]1回目のイネの出穂後から出穂後積算気温900℃となる時期までに追肥を行う、上記[1]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]1回目のイネの出穂後から出穂後積算気温900℃となる時期までに追肥を行い、2回目のイネの生育期間中には追肥をしない、上記[23]に記載の方法。
[25]1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期に追肥を行う、上記[23]に記載の方法。
[26]1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期に追肥を行い、2回目のイネの生育期間中には追肥をしない、上記[25]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、米の食味の低下を生じにくい、米、好ましくは良食味米のより多収な生産を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、イネの再生二期作栽培方法に関する。本発明は、とりわけ、食味の低下を生じにくい、水稲再生二期作栽培方法に関する。
【0012】
本発明では、イネ(Oryza sativa)を用いて、再生二期作栽培(好ましくは水稲再生二期作栽培)を行う。本発明で用いるイネは、ジャポニカ種のイネが好ましく、例えばうるち種のイネがより好ましいが、それらに限定されない。本発明の再生二期作栽培方法では、イネとして、良食味イネ品種をはじめとする所定のイネ品種を使用することができる。本発明の方法において用いるイネ品種は、主食用米などの食用米のイネ品種であることが好ましいが、それに限定されない。本発明に関して「食用米のイネ品種」とは、主に食用米を生産するためのイネ品種を指す。食用米は、ヒトが粒食又は粉食するための、炊飯用米、無菌包装米飯用米、加工米飯用米、米粉用米、輸出用米等を包含する。本発明に関して「主食用米のイネ品種」とは、主に主食用米を生産するためのイネ品種を指す。主食用米は、ヒトが粒食するための、炊飯用米、無菌包装米飯用米、加工米飯用米等を包含する。本発明の方法では、食用米のイネ品種の中でも、主食用米のイネ品種を用いることが好ましく、良食味イネ品種を用いることがより好ましく、良食味多収イネ品種を用いることがさらに好ましく、特に、再生二期作栽培における良食味と多収の両立に特に適したイネ品種を用いることがとりわけ好ましい。一実施形態において、本発明の方法では、早生~中生のイネ品種(好ましくは、早生~中生の食用米のイネ品種)を用いることができ、好ましくは、早生~中生の主食用米のイネ品種、より好ましくは、早生~中生の良食味イネ品種、さらに好ましくは、早生~中生の良食味多収イネ品種を用いることができる。本発明の方法において用いることができる食用米のイネ品種の例としては、以下に限定されないが、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、及び「コシヒカリ」が挙げられる。本発明の方法において特に好適に用いることができる早生~中生の主食用米のイネ品種としては、例えば日本の寒冷地南部~暖地(特に、九州)で栽培する場合は、以下に限定されないが、品種「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、及び「コシヒカリ」が挙げられる。本発明の方法に適した早生~中生の良食味イネ品種としては、以下に限定されないが、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「ほしじるし」、「あきだわら」及び「コシヒカリ」が挙げられる。本発明の方法により適した早生~中生の良食味多収イネ品種としては、以下に限定されないが、品種「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「ほしじるし」、及び「あきだわら」が挙げられる。これらのイネ品種の種子(種籾)は市販品として入手可能である。市販又は配布されている個々のイネ品種についての収量性の情報(多収品種かどうか等)は広く公開されており、本発明においてもそのような情報を参照できる。イネの収量は、栽培地域、栽培年の気候、作期、栽培方法等によって変動するが、一般的には、通常の一期作(普通期栽培)での標準施肥栽培(標肥栽培)で、1年当たり概ね600kg/10a以上、特に700kg/10a以上の精玄米収量をもたらす場合は「多収」ということができる。本発明において「収量」は、精玄米収量であってよいが、それに限定されない。
【0013】
イネ品種の早晩性は、一般に、播種から収穫までの生育期間(栽培期間)が短い方から、極早生(ごくわせ)、早生(わせ)、中生(なかて)、晩生(おくて)、及び極晩生(ごくおくて)の5種類に大きく分類される。早晩性は品種固有の特性であるとともに、栽培地域の気候にも依存する。本発明におけるイネ品種の早晩性、例えば早生~中生は、栽培地域における早晩性、例えば早生~中生(早生又は中生)を意味する。なお日本のイネ栽培では、一般に、農林水産省の稲種審査基準に記載されているように日本全国を寒地から暖地までの7つの地域に区分し、地域毎に早晩性に応じた標準品種を定め、また、地域毎に品種の早晩性を分類している。7つの地域区分は、寒地(北海道地方[北海道])、寒冷地北部(東北地方北部[青森県])、寒冷地中部(東北地方中南部[岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県])、寒冷地南部(北陸地方[新潟県、富山県、石川県、福井県])、温暖地東部(関東、東山、東海地方[茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、岐阜県、三重県])、温暖地西部(近畿、中国、四国地方[滋賀県、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県])、暖地(九州地方[福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県])の7つである。暖地、例えば九州[福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県]では、「にじのきらめき」は、早生品種に分類されている。
【0014】
「良食味イネ品種」は、基準米よりも米の食味が優れる品種を指す。主食用米などの食用米の「良食味イネ品種」は、食味官能試験で基準米に使用されることが多いイネ品種「日本晴」よりも米の食味が優れる品種を指す。主食用米などの食用米のイネ品種が良食味イネ品種かどうかは、常法に従い、精白米の炊飯米の食味を、当該イネ品種の米と、一期作で同様の栽培条件で得られる基準米(「日本晴」)との間で比較して評価することにより判断できる。例えば、食味官能試験の総合評価で、あるイネ品種の炊飯米の食味が、「日本晴」の炊飯米の食味よりも優れている場合、そのイネ品種の米は良食味であると判断できる。あるいは、食味官能試験の総合評価で、あるイネ品種の炊飯米の食味が、「日本晴」よりも食味が優れることが知られている良食味品種、例えば「コシヒカリ」、「あきたこまち」、「ひとめぼれ」、又は「ヒノヒカリ」などの炊飯米の食味と同等又はそれ以上である場合には、そのイネ品種の米は「日本晴」よりも食味が優れるといえるため良食味であると判断できる。一般的には、イネ品種の米の食味は、米の成分や物理的特性などの物理化学的測定、又は食味官能試験等によって評価することができる。物理化学的測定としては、例えば、米のアミロース含量測定、タンパク質含量測定、及びその他の成分分析等が挙げられる。一般に、米飯はアミロース含量が高いほど硬く、粘りが少なくなり、アミロース含量が低いほど柔らかく、粘りが増す。また米飯は一般に、タンパク質含量が高いほど食味が低下する傾向がある。多くの場合、アミロース含量が低くタンパク質含量が低い米は良食味であるとされている。物理化学的測定は食味評価装置を用いて行うことができる。一方、食味官能試験では、通常、専門の食味評価パネラーが米飯(炊飯米)の外観(白さ、つやなど)、粘り、硬さ、味など及び総合評価を基準米と比較評価してスコアリングする。本発明における食味官能試験は、例えば、後述の実施例に記載の食味官能試験方法に従って実施することができる。あるいは、炊飯米以外の米利用食品の食味官能試験では、専門の食味評価パネラーが当該食品について基準米を使用した同等の食品と比較評価してスコアリングすることができる。市販又は配布されている個々のイネ品種についての食味の情報は広く公開されており、本発明においてもそのような情報を参照できる。例えば、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「ほしじるし」、「あきだわら」、及び「コシヒカリ」はいずれも主食用米の良食味品種として知られている。
【0015】
本発明では、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種(特に、主食用米などの食用米のイネ品種)、例えば良食味イネ品種、好ましくは早生~中生の良食味イネ品種、より好ましくは早生~中生の良食味多収イネ品種を、再生二期作栽培方法で栽培する。本発明の再生二期作栽培方法は、苗を田に植え付ける「移植栽培」によって行ってもよいし、又は種子を直接田に播く「直播栽培」により行ってもよい。移植栽培の再生二期作栽培方法では、イネの種子(種籾)を播種し、発芽させ、育苗した後、苗を適切な移植時期に田に植え付け(移植し)、それを生育させて1回目のイネの栽培を行い、分げつ期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、及び登熟期を経て成熟期に至った段階で1回目のイネ(「1回目イネ」とも称する)を収穫する(1回目の収穫)。直播栽培の再生二期作栽培方法では、イネの種子を田に播種し、発芽させ、苗立ちさせ、その苗を生育させて1回目のイネの栽培を行い、分げつ期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、及び登熟期を経て成熟期に至った段階で1回目のイネ(「1回目イネ」とも称する)を収穫する(1回目の収穫)。いずれの栽培方法においても、1回目の収穫後、イネの刈取り株から芽(ひこばえ)を発生(再生)させ、それを田で引き続き生育させて2回目のイネを栽培し、分げつ期、幼穂形成期、穂ばらみ期、出穂期、及び登熟期を経て再び成熟期に至った段階で2回目のイネ(「2回目イネ」とも称する)を収穫する(2回目の収穫)。
【0016】
本発明の再生二期作栽培方法では、1回目のイネの栽培を、早期栽培で行うことが好ましい。「早期栽培」とは、播種や苗の移植又は苗立ちの時期を普通期栽培よりも前倒しすることによって成熟期を早め、普通期栽培よりも早い時期(日本においては通常、8月又はそれ以前)に収穫する作期で行うイネの栽培法を意味する。「普通期栽培」とは、各栽培地域におけるイネの通常の一期作の主要な作期(品種に依存しない最盛期に基づく作期)で行うイネの栽培法を意味する。移植期(田植期)の「最盛期」は、各栽培地域において田植え済の田の面積割合が全体の50%に達する時期として定めることができる。同様に、例えば、出穂期、収穫期(刈取期)の「最盛期」は、それぞれ、出穂済、収穫済の田の面積割合が全体の50%に達する時期として定めることができる。例えば関東以西(温暖地東部、温暖地西部、及び暖地;但し沖縄を除く)の普通期栽培では通常、5~6月に苗を移植又は苗立ちさせて、9~10月に収穫する。より詳細な例では、九州の普通期栽培では6月中旬が移植期、10月上旬~中旬が収穫期である。
【0017】
本発明のイネの再生二期作栽培方法は、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種(特に、主食用米などの食用米のイネ品種)を用いて、1回目のイネを早期栽培し、1回目の収穫を行った後、刈取り株から発生するひこばえを生育させて2回目のイネを栽培し、2回目の収穫を行うことを含むものであり得る。本発明のイネの再生二期作栽培方法では、1回目の収穫で得られる米と比較して2回目の収穫で得られる米における食味の低下が生じにくく、好ましい実施形態では、本発明のイネの再生二期作栽培方法は、1回目の収穫で得られる米と比較した2回目の収穫で得られる米における(一般的に生じ得る)食味の低下が抑制されるという優れた効果をもたらすことができる。一般に、例えば日本の本州におけるイネの再生二期作栽培では、1回目の収穫で得られる米の食味と比較して、2回目の収穫で得られる米は大きく低下した食味を有することが多いことが知られている。この問題は、食味が問題にならない飼料用米よりも、主食用米などの食用米のイネの栽培においてとりわけ重要になる。本発明のイネの再生二期作栽培方法の好ましい実施形態では、1回目の収穫で得られる米の食味と比較した2回目の収穫で得られる米の食味の低下を抑制することができるように、品種、栽培条件、栽培方法などが選択される。2回目の収穫で得られる米の食味の低下を抑制することができる本発明のイネの再生二期作栽培方法は、例えば、後述のように、「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」などの好ましい栽培地域、例えば、日本の寒冷地南部~暖地、好ましくは九州地方北部において好適に実施することができる。本発明の再生二期作栽培方法において、2回目の収穫で得られる米の食味が、同年の同じ田での1回目の収穫で得られる米の食味と同等又はそれ以上である場合には、1回目の収穫で得られる米と比較した2回目の収穫で得られる米における食味の低下が抑制されていると判断することができる。あるいは、本発明の再生二期作栽培方法において、1回目の収穫で得られる米の食味と2回目の収穫で得られる米の食味の両方が、「日本晴」よりも食味が優れることが知られているいずれかの良食味イネ品種(例えば、「コシヒカリ」、「あきたこまち」、「ひとめぼれ」、又は「ヒノヒカリ」など)の米の食味と同等又はそれ以上である場合、2回目の収穫で得られる米において1回目の収穫で得られる米と比較した食味の低下が抑制されていると判断することもできる。本発明において、米の食味について「同等である」とは、食味官能試験の総合評価スコア又は米の物理化学的測定値で両者の間に統計学的に有意な差(例えば、5%水準での有意差)が示されないことを意味する。一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法において、2回目の収穫で得られる米の食味は1回目の収穫で得られる米の食味と同等である。本発明の方法において、あるイネ品種の1回目の収穫で得られる米と2回目の収穫で得られる米の食味の比較は、当該イネ品種に適した主たる食品用途にその米を使用した食品の食味の比較によって行うことが好ましい。例えば、主食用米のイネ品種の場合は、炊飯米の食味を比較することが好ましく、食味官能試験による炊飯米の食味の総合評価スコアを比較することがさらに好ましい。一方、例えば、米粉パン製造用の米粉用米のイネ品種の場合は、米粉パンの食味を比較することが好ましく、食味官能試験による米粉パンの食味の総合評価スコアを比較することがさらに好ましい。
【0018】
本発明の再生二期作栽培方法では、上記のイネ品種の苗を、普通期栽培の移植時期よりも早い時期、より具体的には、移植早限期以降であって普通期栽培の移植時期よりも早い時期から、田で生育させて1回目のイネの栽培を行うことが好ましい。本発明において「移植早限期」とは、栽培地域において田にイネの苗を移植したときに安定して活着可能である最も早い移植時期であり、具体的には、田にイネの苗を移植したときに安定して活着可能である最低温度(典型的には、12.5℃)に日平均気温が最も早く到達する日(移植早限日)が含まれる旬を指す。「移植早限期」は、日平均気温又は旬平均気温[平年値]に基づいて定めることができる。一実施形態では、上記のイネ品種の苗を、栽培地域における普通期栽培の移植時期よりも早い時期であって、移植早限日、又は旬平均気温が12.5℃以上に最も早く到達する旬より始まり、旬平均気温が21℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは19℃以上、さらに好ましくは15℃以上又は13℃以上に最も早く到達する旬に至るまでの間のいずれかの時期から、田で生育させて(すなわち、当該時期に苗を田に移植又は苗立ちさせて生育させて)1回目のイネの栽培を行うことができる。
【0019】
本発明の再生二期作栽培方法を直播栽培で行う場合には、普通期栽培の移植時期よりも早い時期に苗立ちするように、種子を直播(田に播種)すればよい。それにより、普通期栽培の移植時期よりも早い時期から苗(直播した種子から発芽し生育した苗)を田で生育させて、1回目のイネの栽培(早期栽培)を行うことができる。そのような直播栽培は、当業者に公知の苗立ち時期の調整方法を用いて行うことができる。例えば、普通期の直播時期よりも早く(例えば、0.5~1ヶ月早く)直播することができる。なお直播栽培では田に種子を播種するのであって苗を移植するわけではないが、ここでは便宜上、苗立ちの時期を、普通期栽培の移植時期に基づいて「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」として規定する。
【0020】
本発明の再生二期作栽培方法を移植栽培で行う場合には、普通期栽培の移植時期よりも早い時期に、苗を、田に移植すればよい。それにより、普通期栽培の移植時期よりも早い時期から苗(育苗により得た苗)を田で生育させて、1回目のイネの栽培(早期栽培)を行うことができる。
【0021】
一実施形態では、「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」は、普通期栽培の移植時期よりも0.5~3ヶ月早い時期であり得る。例えば、本発明の再生二期作栽培方法では、苗を、普通期栽培の移植時期よりも0.5~3ヶ月、例えば0.5~1ヶ月、0.5~2ヶ月、1~2ヶ月、又は2~3ヶ月早い時期(前倒しした時期)に移植する又は苗立ちさせることが好ましい。「普通期栽培の移植時期よりも0.5~3ヶ月早い時期」は、栽培地域によって変動し得るが、日本においては、3月~5月であってよい。
【0022】
本発明においては、「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」として、本発明の方法で使用するイネ品種についての、栽培地域における通常の一期作の移植時期よりも早い時期を選択することもでき、例えば、移植早限期以降であって移植早限期により近い時期を選択することも好ましい。その場合、「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」は、例えば、移植早限期(好ましくは移植早限日)から2ヶ月以内、1.5ヶ月以内、1ヶ月以内、2週間以内、又は1週間以内であり得る。一実施形態では、そのような「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」は、栽培地域や品種などによるが、例えば、日本における3月下旬又は4月(4月上旬、4月中旬、若しくは4月下旬、又は4月上旬~中旬)であり得る。別の実施形態では、「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」は、栽培地域や品種などによるが、例えば、日本における5月(5月上旬、5月中旬、若しくは5月下旬、又は5月上旬~中旬)であり得る。
【0023】
一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法は、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種の苗を日本において4月(例えば、4月上旬、中旬、又は下旬、より好ましくは4月上旬~中旬、又は4月上旬若しくは中旬)から田で生育させることにより、1回目のイネの早期栽培を行ってもよい。直播栽培で日本において4月に苗立ちさせる場合、及び、移植栽培で苗を日本において4月に田に移植する場合のいずれも、「苗を日本において4月から田で生育させる」ことに包含される。日本において4月に苗立ちさせるように直播栽培を行うには、直播時期を適宜早める(例えば、栽培地域に依存して直播時期を0.5~1ヶ月早める)などの当業者に公知の方法により苗立ち時期の調整を行えばよい。
【0024】
別の実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法は、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種の苗を日本において5月(例えば、5月上旬、中旬、又は下旬、より好ましくは5月上旬~中旬、又は5月上旬若しくは中旬)から田で生育させることにより、1回目のイネの早期栽培を行ってもよい。直播栽培で日本において5月に苗立ちさせる場合、及び、移植栽培で苗を日本において5月に田に移植する場合のいずれも、「苗を日本において5月から田で生育させる」ことに包含される。日本において5月に苗立ちさせるように直播栽培を行うには、直播時期を適宜早めるなどの当業者に公知の方法により苗立ち時期の調整を行えばよい。
【0025】
本発明において、上記の「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」として、品種及び/又は栽培地域に応じてより適した時期をさらに選択することも好ましい。一実施形態では、例えば、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」では、本発明の方法に関して「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」として、4月(4月上旬、4月中旬、又は4月下旬)、例えば、4月上旬~中旬(又は4月上旬若しくは中旬)を選択することができる。例えば、それらの品種の苗を田で生育させる(田に移植又は苗立ちさせる)ためのそのような時期は、例えば、後述の「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」などの好ましい栽培地域、例えば、日本の寒冷地南部~暖地、好ましくは九州地方北部における栽培において、特に好適である。
【0026】
別の実施形態では、例えば、品種「にじのきらめき」、「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「えみだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」では、本発明の方法に関して「普通期栽培の移植時期よりも早い時期」として、5月(5月上旬、5月中旬、又は5月下旬)も好ましく、5月上旬~中旬(又は5月上旬若しくは中旬)もより好ましい。例えば、それらの品種の苗を田で生育させる(田に移植又は苗立ちさせる)ためのそのような時期は、例えば、後述の「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」などの好ましい栽培地域、例えば、日本の寒冷地南部~暖地、好ましくは九州地方北部における栽培において、特に好適である。
【0027】
本発明では、上記の良食味イネ品種の苗を、普通期栽培と比べてより早い時期であって品種及び/又は栽培地域に適した時期から、田で生育させて、1回目のイネを栽培することにより、成熟期での1回目の収穫を適切な時期に完了することができ、かつ、2回目のイネの成長及び十分な登熟を促進することができる。
【0028】
本発明の再生二期作栽培方法は、日本の寒冷地南部~暖地(寒冷地南部、温暖地東部、温暖地西部、又は暖地)で実施することが好ましく、例えば暖地(好ましくは沖縄県及び奄美地方を除く、暖地)、特に九州で実施することがより好ましい。本発明の再生二期作栽培方法は、九州地方北部(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、及び熊本県)において特に好適に実施することができる。あるいは、本発明の再生二期作栽培方法は、4月の平均気温が11~18℃の範囲、及び10月の平均気温が15~22℃の範囲にある地域で行うことも好ましい。本発明の再生二期作栽培方法はまた、緯度32°~37°の範囲の地域(好ましくは、北半球又は日本の緯度32°~37°の範囲の地域)で実施することも好ましい。
【0029】
本発明の再生二期作栽培方法は、典型的には、北半球の、3月~4月に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域(具体的には、当該地域の田)で実施することができる。一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法は、4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域(具体的には、当該地域の田)で実施することが好ましい。本発明において「旬」とは各月の上旬、中旬、又は下旬の各期間を指す。本発明において、「上旬」とは各月の1日から10日まで、「中旬」とは各月の11日から20日まで、「下旬」とは各月の21日から末日までを意味する。本発明において、「旬平均気温」とは、各月の旬毎(上旬、中旬、又は下旬)の平均気温(℃)[平年値]を意味し、例えば日本においては気象庁が発表する気象データとして入手することもできる(表1参照)。平均気温(℃)[平年値]は、1991年~2020年の平均気温(℃)として算出してもよい。「旬平均気温が初めて12.5℃以上になる」とは、1月上旬から継時的に旬平均気温の変化を追ったときに4月上旬又は中旬で初めて旬平均気温が12.5℃又はそれ以上になることを意味する。「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」は、日本では、概ね、緯度32°~37°の範囲に相当する。また「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」は、日本では、概ね、寒冷地南部~暖地(寒冷地南部、温暖地東部、温暖地西部、又は暖地)に相当する。一実施形態では、「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」において、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種(例えば、早生~中生の良食味多収イネ品種)の苗を、4月、例えば4月上旬又は中旬から田で生育させることも好ましい。一実施形態では、4月上旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、4月(4月上旬、中旬、又は下旬)、例えば4月上旬又は中旬(例えば、4月上旬~中旬)から田で生育させることがより好ましい。一実施形態では、4月中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、4月中旬又は下旬から、田で生育させることがより好ましい。別の実施形態では、「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」において、上記のイネ品種の苗を、5月、より好ましくは5月上旬又は中旬(例えば、5月上旬~中旬)から田で生育させることも好ましい。一実施形態において、4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、上記のイネ品種の苗を、5月(5月上旬、中旬、又は下旬)、より好ましくは5月上旬又は中旬(例えば5月上旬~中旬)から、田で生育させてもよい。さらに別の実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法を、3月中旬、3月下旬、又は4月下旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域(具体的には、当該地域の田)で実施してもよい。3月中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、3月中旬若しくは下旬、4月(4月上旬、中旬、若しくは下旬)、又は5月(5月上旬、中旬、若しくは下旬)から、田で生育させてもよく、4月上旬、中旬、若しくは下旬、又は5月上旬又は中旬から、田で生育させることも好ましい。あるいは、3月下旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、3月中旬若しくは下旬、4月(4月上旬、中旬、若しくは下旬)、又は5月(5月上旬、中旬、若しくは下旬)から、田で生育させてもよく、4月上旬~5月上旬から、田で生育させることも好ましい。あるいは、4月下旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域において、4月下旬又は5月(5月上旬、中旬、若しくは下旬)から、田で生育させてもよく、4月下旬~5月上旬から、田で生育させることも好ましい。
【0030】
「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」は、北半球又は日本であってよい。より具体的には、日本における「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」は、県単位では、九州地方北部(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、及び熊本県)、四国地方(愛媛県、香川県、徳島県、高知県)、中国地方(鳥取県、島根県、山口県、広島県、岡山県)、近畿地方(滋賀県、京都府、兵庫県、大阪府、和歌山県、奈良県、三重県)、富山県・新潟県・長野県を除く中部地方(福井県、石川県、岐阜県、愛知県、静岡県、山梨県)、及び茨城県を除く関東地方(栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、千葉県)にある地域であり得る。寒冷地南部~暖地の各都府県の旬平均気温(都府県庁所在地の旬平均気温の平年値)を表1に示す。一実施形態では、本発明における栽培地域としての「4月上旬又は中旬に旬平均気温が初めて12.5℃以上になる地域」の特に好ましい例として、九州地方北部、具体的には、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、及び/又は熊本県が挙げられるが、それに限定されない。
【0031】
【0032】
一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法において、1回目のイネが日本において7月中、好ましくは7月20日まで、より好ましくは7月15日まで、さらに好ましくは7月10日までに出穂するように1回目のイネの栽培を行えばよい。例えば、7月中、好ましくは7月20日まで、より好ましくは7月15日まで、さらに好ましくは7月10日までに出穂可能な品種を用いることができる。あるいは育苗期間を延長して生育のより進んだ苗を田に移植することにより、7月中、好ましくは7月20日まで、より好ましくは7月15日まで、さらに好ましくは7月10日までに出穂させることもできる。一実施形態では、苗を日本において4月(例えば、4月上旬、中旬、又は下旬、より好ましくは4月上旬~中旬、例えば4月上旬又は中旬)から田で生育させる本発明の再生二期作栽培方法において、1回目のイネが日本において7月中、好ましくは7月20日まで、より好ましくは7月15日まで、さらに好ましくは7月10日までに出穂するように1回目のイネの栽培を行ってもよい。別の実施形態では、苗を日本において5月(例えば、5月上旬、中旬、又は下旬、より好ましくは5月上旬~中旬、例えば5月上旬又は中旬)から田で生育させる本発明の再生二期作栽培方法において、1回目のイネが日本において7月中、好ましくは7月20日まで、より好ましくは7月15日まで、さらに好ましくは7月10日までに出穂するように1回目のイネの栽培を行ってもよい。
【0033】
本発明の再生二期作栽培方法では、上記のようにして1回目のイネの栽培を行い、1回目の収穫を行った後、刈取り株から発生するひこばえを生育させて2回目のイネを栽培し、2回目の収穫を行うことができる。本発明の再生二期作栽培方法において、1回目のイネ及び2回目のイネの収穫は成熟期に達した後に行う。1回目のイネ及び2回目のイネの成熟期での収穫は、黄化籾率が85~90%に達した時期に行えばよい。あるいは、1回目のイネ及び2回目のイネの成熟期は、必要に応じ、品種毎の収穫適期の指標となる出穂後積算気温に基づいて判断することもできる。例えば、「にじのきらめき」の場合、通常は黄化籾率に基づいて成熟期(収穫期)を判断することができるが、出穂後積算気温1000℃超、例えば1025℃又は1100~1200℃に達した時期を成熟期(収穫期)と判断してもよい。他の食用米のイネ品種についても、「にじのきらめき」と同様にして成熟期(収穫期)を判断することができる。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法において、1回目の収穫を8月中、好ましくは8月26日まで、より好ましくは8月20日まで、さらに好ましくは8月15日まで、例えば8月10日までに行うことができる。苗を日本において4月から田で生育させる本発明の再生二期作栽培方法においては、1回目の収穫を、より好ましくは8月20日まで、さらに好ましくは8月15日までに行うことができる。苗を日本において5月から田で生育させる本発明の再生二期作栽培方法においては、1回目の収穫を、より好ましくは8月26日まで、さらに好ましくは8月20日までに行うことができる。1回目の収穫をこの時期に行うと、2回目のイネの成長及び登熟に有利である。
【0035】
一実施形態では、「にじのきらめき」などの上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種を用いて、4月から苗を田で生育させた場合(4月に苗を移植した場合又は4月に苗立ちさせた場合)、通常は、1回目のイネの収穫は7月~8月、2回目イネの収穫は9月~11月に行えばよく、例えば、1回目のイネの収穫を8月、2回目イネの収穫を10月に行えばよい。典型的な実施形態では、「にじのきらめき」などの上記良食味イネ品種を用いて、4月中旬(4月11日~20日)から苗を田で生育させた場合(4月中旬に苗を移植した場合又は4月中旬に苗立ちさせた場合)、1回目のイネの収穫は8月上旬(8月1日~10日)、2回目イネの収穫は10月中旬(10月10日~20日)又は下旬(10月21日~31日)に行えばよい。但し、成熟期は品種や栽培条件、その年の気候等にも依存して決まることから、収穫のスケジュールは必ずしもそれらに限定されない。
【0036】
一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法では、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種の苗を、4月中旬(4月11日~20日)に日本の九州、とりわけ九州地方北部(例えば、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、又は熊本県)の田に移植し、成熟期に達した8月上旬(8月1日~10日)に1回目の収穫を行えばよい。その場合、2回目イネの収穫は10月中旬(10月10日~20日)又は下旬(10月21日~31日)に行うことが好ましい。
【0037】
別の実施形態では、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種を用いて、5月から苗を田で生育させた場合(5月に苗を移植した場合又は5月に苗立ちさせた場合)、通常は、1回目のイネの収穫は8月、2回目イネの収穫は10月~11月に行えばよい。一実施形態では、本発明の再生二期作栽培方法では、上記の良食味イネ品種をはじめとするイネ品種の苗を、5月中旬(5月11日~20日)に日本の九州、とりわけ九州地方北部(例えば、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、又は熊本県)の田に移植し、成熟期に達した8月中旬(8月11日~20日)に1回目の収穫を行えばよい。その場合、2回目イネの収穫は11月上旬(11月1日~10日)、中旬(11月11日~20日)又は下旬(11月21日~30日)に行うことが好ましい。但し、成熟期は品種や栽培条件、その年の気候等にも依存して決まることから、収穫のスケジュールは必ずしもそれらに限定されない。
【0038】
イネの収穫時に稲穂を刈取る高さ(地際からの刈取り位置の高さ)を「収穫高さ」と称する。本発明の再生二期作栽培方法において、1回目のイネは、一期作の通常の収穫高さ(5~10cm)よりも高い収穫高さで稲穂を刈取ることが好ましく、さらに高い収穫高さで稲穂を刈取ることが特に好ましい。1回目のイネの収穫は、15cm以上、通常は20cm以上、好ましくは20cm超(20cmよりも高い)、より好ましくは25cm以上、さらに好ましくは30cm以上、特に好ましくは35cm以上、例えば40cm以上の収穫高さで行うことができ、例えば、15~60cm、20~50cm、25~50cm、30~50cm、30~45cm、35~50cm、35~45cm、又は40~45cm、例えば40cmの収穫高さで行ってもよい。収穫高さの上限は、使用するイネ品種の稈長(地際から穂首までの長さ)に基づいて稲穂の刈取りや脱穀に適した範囲で定めればよい。例えば、「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、及び「つきあかり」のような短稈品種では、収穫高さを40cm以下又は45cm以下とすることが好ましい。1回目のイネを、より高い収穫高さで収穫(高刈)することにより、その刈取り株から再生するひこばえ由来の2回目のイネの米の収量を顕著に増加させることができる。高刈は、使用するイネ品種の稈長(収穫直前の長さ)に応じて、20cm以上、30cm以上、35cm以上、又は40cm以上の収穫高さで行えばよく、例えば、20~60cm、30~60cm、30~50cm、30~45cm、35~50cm、35~45cm、又は40~45cm、例えば40cmの収穫高さで行えばよい。一実施形態では、1回目のイネの稈長(収穫直前の長さ)が50cm以上である場合、20cm超(20cmよりも高い)、好ましくは25cm以上、より好ましくは30cm以上の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。一実施形態では、1回目のイネの稈長(収穫直前の長さ)が50cm以上、かつ55cm未満である場合、好ましくは25cm以上、さらに好ましくは30cm以上、例えば28cm~32cm(約30cm)の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。一実施形態では、1回目のイネの稈長(収穫直前の長さ)が55cm以上である場合、好ましくは25cm以上、より好ましくは30cm以上、さらに好ましくは40cm以上、例えば30~45cm、又は38cm~42cm(約40cm)の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。一実施形態では、1回目のイネの稈長(収穫直前の長さ)が40cm以上、かつ50cm未満である場合、好ましくは15cm以上、より好ましくは15~25cm、さらに好ましくは20cm以上、例えば18cm~22cm(約20cm)の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。一実施形態では、4月又は5月から「さんさんまる」の苗を田で生育させた場合(4月に苗を移植した場合又は4月に苗立ちさせた場合)、18cm~22cm(約20cm)の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。一実施形態では、4月又は5月から「にじのきらめき」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、又は「コシヒカリ」の苗を田で生育させた場合(4月若しくは5月に苗を移植した場合、又は4月若しくは5月に苗立ちさせた場合)、38cm~42cm(約40cm)の収穫高さで1回目のイネの収穫を行ってもよい。
【0039】
2回目のイネの収穫ではより低い収穫高さで稲穂を刈取ることができ、典型的には一期作の通常の収穫高さ(5~10cm)で稲穂を刈取ることができる。
【0040】
収穫時の稲穂の刈取りは、手作業で行ってもよいし、コンバインや農業ロボット等の収穫用の農業機械を使用して行ってもよい。コンバインは作物の刈取機能、脱穀機能、及び選別機能を併せ持つ収穫機械であり、普通型コンバインと自脱型コンバインに大別される。普通型コンバインは刈取った作物全体(葉や茎を含む)を脱穀機に通過させる構造になっており、幅広い作物に対応可能で、通常、収穫高さを比較的高く(例えば50cmまでの収穫高さ)設定でき、収穫高さが高くても脱穀可能である。一方、自脱型コンバインはイネやムギなどの収穫に特化した収穫機械であり、刈取ったイネやムギなどの穂先だけを脱穀機に通過させる構造になっていて、通常、設定可能な収穫高さの下限は比較的低い(例えば20cmまでの収穫高さ)が、イネやムギの稈長が短い場合には脱穀が困難になる。したがって1回目のイネの収穫は普通型コンバインで行うことがより好ましい。また2回目のイネの収穫を普通型コンバインで行ってもよいが、それに限定されない。一般に、2回目のイネは1回目のイネよりも草丈が短くなるため、2回目のイネがかなり短い稈長を示すイネ品種(例えば、「にじのきらめき」のような短稈品種)を用いる場合には特に、収穫ロスを減らすために、2回目のイネの収穫も普通型コンバインで行うことが好ましい。但し、上記のような収穫高さでの刈取り及び脱穀が可能であれば、普通型コンバインに限定されず、他のコンバイン等の収穫用の農業機械を使用してもよい。あるいは、2回目のイネがより長い稈長(典型的には、55cm以上)を示すイネ品種については、2回目のイネの収穫(2回目の収穫)は、普通型コンバインで行ってもよいが、自脱型コンバインで行うこともできる。一実施形態では、4月から苗を田で生育させた品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、及び「日本晴」は、2回目のイネの稈長が長いことから、2回目の収穫を自脱型コンバインで行うことができる。別の実施形態では、5月から苗を田で生育させた品種「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、及び「えみだわら」は、2回目のイネの稈長が長いことから、2回目の収穫を自脱型コンバインで行うことができる。
【0041】
本発明の再生二期作栽培方法では、それぞれの品種や栽培地域等に応じて、育苗、水管理(入水、中干し、落水など)、病害虫防除等の栽培作業・管理を適切に行うことが好ましい。本発明の再生二期作栽培方法では、施肥を適切に行うことも好ましい。
【0042】
本発明の再生二期作栽培方法では、移植日又はその前後に基肥を施してもよい。基肥は、以下に限定されないが、表層散布又は全層散布で施用してもよい。一実施形態では、基肥は、窒素、リン、及びカリからなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、又は3つ全てを含む。一実施形態では、基肥は、硫安、尿素、P2O5、及びK2Oからなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つ全てを含む。本発明の再生二期作栽培方法では、適宜、追肥を施してもよい。一実施形態では、追肥は、移植後~収穫前までに1回又は複数回行ってもよい。追肥は、窒素(例えば、硫安又は尿素)、リン(例えば、P2O5)、及びカリ(例えば、K2O)からなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、又は3つ全てを含むものであってよく、例えば、一実施形態では、追肥は、窒素(例えば、硫安又は尿素)、リン(例えば、P2O5)、カリ(例えば、K2O)、シリカ(例えば、SiO2)、マグネシウム(例えば、MgO)、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つ~6つ全てを含むものであってよく、例えば、カリ(例えば、K2O)、シリカ(例えば、SiO2)、マグネシウム(例えば、MgO)、及び硫黄を含むものであってもよい。異なる成分を含む追肥を順次施用してもよい。例えば、窒素(例えば、硫安又は尿素)、リン(例えば、P2O5)、カリ(例えば、K2O)、から選択される少なくとも1つ、2つ、又は3つ全てを含む追肥を1回又は複数回施用した後に、カリ(例えば、K2O)、シリカ(例えば、SiO2)、マグネシウム(例えば、MgO)、及び硫黄からなる群から選択される少なくとも1つ~4つ全てを含む追肥を1回又は複数回施用してもよい。一実施形態では、1回目のイネの出穂後、比較的早い時期に、具体的には、1回目のイネの出穂後から、出穂後積算気温が600℃、700℃、800℃、又は900℃となる時期までに、好ましくは、1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期に、追肥(好ましくは、窒素を含む肥料、例えば尿素の施肥)を行うことも好ましい。一実施形態では、1回目のイネの出穂後から上記の出穂後積算気温で定められる時期まで(例えば、1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期)に追肥を行い、2回目のイネの生育期間中には追肥をしないことが好ましい。一実施形態では、施肥は、実施例に記載の施肥量及び/又は施肥スケジュールに従って行ってもよい。
【0043】
本発明では、上記のようにしてイネの再生二期作栽培方法を実施することにより、食味の低下を防止しつつ、米をより多くの収量で生産することができる。本発明の好ましい実施形態では、上記の良食味イネ品種を用いて、このような再生二期作栽培方法を実施することにより、良食味米をより多くの収量で生産することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
イネ品種「にじのきらめき」について再生二期作栽培試験を行った。具体的には、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 九州沖縄農業研究センターの試験圃場(福岡県筑後市、日本)において、「にじのきらめき」の苗を、4月中旬(2021年4月12日)に田に移植し、栽培し、8月上旬に成熟期に収穫した(1回目のイネ;出穂後積算時間1025℃に達した2021年8月7日に収穫)。1回目のイネ(1回目イネ)の収穫高さは25cmとした。この栽培試験における1回目のイネの出穂期(出穂日)は2021年7月3日であった。
【0046】
1回目のイネの収穫後、刈取り株から発生(再生)した芽(ひこばえ)を引き続き栽培し、10月下旬に成熟期に収穫した(2回目のイネ、2021年10月29日)。この栽培試験における2回目のイネの出穂期(出穂日)は2021年9月11日であった。
【0047】
収穫した「にじのきらめき」について米の食味試験を行った。対照として、上記試験圃場において慣行の栽培方法(一期作)で栽培・収穫したイネ品種「ヒノヒカリ」及び「日本晴」についても米(米飯)の食味試験を同様に実施した。イネ品種「ヒノヒカリ」の米は、特に良食味で知られている。なお対照の栽培試験における移植日は「ヒノヒカリ」及び「日本晴」の両方で2021年6月17日、収穫日は「日本晴」が2021年10月1日、「ヒノヒカリ」が2021年10月7日、収穫高さは「ヒノヒカリ」及び「日本晴」の両方で5cmであった。
【0048】
食味試験(食味官能試験)の結果を表2に示す。「にじのきらめき」の再生二期作では、1回目のイネと2回目のイネのどちらの米も「ヒノヒカリ」に近い良食味を示した。また、その1回目のイネと2回目のイネの間で米の食味に統計学的に有意な差は示されなかった。
【0049】
【0050】
[実施例2]
イネ(水稲)品種「にじのきらめき」について異なる作期及び収穫高さを用いて再生二期作栽培試験を行った。試験区は、2水準の作期(4月中旬、5月中旬移植)及び2水準の1回目のイネの収穫高さ(20cm、40cm)の3反復の、主区を作期、副区を1回目のイネの収穫高さとした分割区法で配置した。
【0051】
具体的には、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターの試験圃場(福岡県筑後市、日本)において、「にじのきらめき」の苗を、4月中旬(2021年4月12日)及び5月中旬(2021年5月12日)に田に移植し、栽培し、8月上旬及び8月中旬の成熟期にそれぞれ収穫した(1回目のイネ;4月中旬移植試験区は2021年8月8日に収穫、5月中旬移植試験区は2021年8月20日に収穫。いずれも出穂後積算時間1025℃に達した時期)。1回目のイネの出穂日は、4月中旬移植試験区で2021年7月3日、5月中旬移植試験区で2021年7月14日であった。1回目のイネの収穫高さは20cm(低刈)又は40cm(高刈)とした。
【0052】
1回目のイネの収穫後、刈取り株から発生(再生)したイネ(ひこばえ)を引き続き栽培し(2回目のイネ)、10月下旬及び11月下旬の成熟期にそれぞれ収穫した(2回目のイネ;4月中旬移植試験区は2021年10月29日に収穫、5月中旬移植試験区は2021年11月30日に収穫)。2回目のイネの出穂日は、4月中旬移植試験区(高刈)で2021年9月11日、4月中旬移植試験区(低刈)で2021年9月11日、5月中旬移植試験区(高刈)で2021年9月30日、5月中旬移植試験区(低刈)で2021年9月28日であった。
【0053】
なお4月中旬移植試験区において、基肥として、苗の移植日(2021年4月12日)に10kg/10a[10アール当たり10kg]の窒素(N)(硫安/LPSS100/LSP120,40:42:18)、5kg/10aのリン酸(P2O5)及び5kg/10aのカリ(K2O)を表層散布で施用した。また追肥として、1回目のイネの出穂前12日(2021年6月21日)に、化成肥料(化成48号)を、3kg/10a[10アール当たり3kg]の窒素(N)、3kg/10aのリン酸(P2O5)及び3kg/10aのカリ(K2O)となる量で施用し、1回目のイネの収穫前9日(2021年7月30日)に硫安(硫酸アンモニウム)を4kg/10aの窒素(N)となる量で施用し、さらに、1回目のイネの収穫日(2021年8月8日)に被覆尿素肥料LP30を4kg/10aの窒素(N)となる量で、また1回目のイネの収穫後30日(2021年9月7日)に硫安を2kg/10aの窒素(N)となる量で施用した。
【0054】
また5月中旬移植試験区において、基肥として、苗の移植日(2021年5月12日)に10kg/10aの窒素(N)(硫安/LPSS100/LSP120,40:42:18)、5kg/10aのリン酸(P2O5)及び5kg/10aのカリ(K2O)を表層散布で施用した。また追肥として、1回目のイネの出穂前12日(2021年7月2日)に、化成肥料(化成48号)を、3kg/10aの窒素(N)、3kg/10aのリン酸(P2O5)及び3kg/10aのカリ(K2O)となる量で施用し、1回目のイネの収穫前11日(2021年8月9日)に硫安(硫酸アンモニウム)を4kg/10aの窒素(N)となる量で施用し、さらに、1回目のイネの収穫日(2021年8月20日)に被覆尿素肥料LP30を4kg/10aの窒素(N)となる量で、また1回目のイネの収穫後30日(2021年9月19日)に硫安を2kg/10aの窒素(N)となる量で施用した。
【0055】
作期(移植時期)と1回目のイネの収穫高さに応じた収量(精玄米収量)を表3に示す。なおここで用いた「精玄米収量」は、収穫したイネの種籾から籾殻を除去して玄米とした後、1.7mmの篩で選別した玄米の収量である。
【0056】
【0057】
表3に示されるように、4月に移植した試験区では、5月に移植した試験区と比較して、2回目のイネの収量が大幅に増加した。また、1回目のイネの収穫高さを高刈とした場合、低刈とした場合と比較して、2回目のイネの収量が増加した。特に、4月に移植し、1回目のイネの収穫高さを高刈として再生二期作栽培を行うことにより、「にじのきらめき」の2回目のイネの収量は相乗的に増加した。実施例1の結果も踏まえると、イネ品種「にじのきらめき」は、移植時期を普通期栽培の移植時期(福岡県では6月中旬)よりも早期の4月に設定して再生二期作栽培を行うことにより、良食味と多収を両立できることが示された。
【0058】
参考のため、九州地方北部(佐賀県)の例として、一期作で「にじのきらめき」の苗を5月16日に移植したところ、7月30日に出穂し、9月8日に成熟期(収穫期)を迎えたことを示す報告がある(佐賀県研究成果情報(作成2020年3月))。また寒冷地南部についての「にじのきらめき」栽培暦(多収・良食味米品種「にじのきらめき」標準作業手順書、農研機構)では、一期作で「にじのきらめき」の苗を5月10日に移植すると、8月5日頃に出穂し、9月18日頃に成熟期(収穫期)を迎えると記載されている。
【0059】
さらに、1回目のイネの移植時期及び収穫高さが2回目のイネの玄米タンパク含有率に及ぼす影響を調べるため、2回目のイネから収穫された米(玄米)のタンパク質含有率を測定した。結果を表4に示す。2回目のイネの玄米タンパク質含有率は、4月中旬移植試験区の方が、5月中旬移植試験区と比較して低かった。また1回目のイネの収穫高さを高刈とした場合の方が、低刈とした場合と比較して、2回目のイネの玄米タンパク質含有率が低かった。玄米タンパク含有率は食味と負の相関があり、玄米タンパク含有率が低い方が一般的に良食味である。したがって、1回目のイネの収穫高さを高刈とする場合の方が低刈とする場合と比べて優れていることが示された。
【0060】
【0061】
以上の結果から、本発明では、「にじのきらめき」の再生二期作栽培において、1回目のイネを早期栽培すること、特に、「にじのきらめき」の通常の一期作と比較しても早い時期から田で苗を生育させることが好ましいことが示された。
【0062】
[実施例3]
「にじのきらめき」について、1回目のイネの移植時期及び収穫高さがイネの収量に及ぼす影響を確認するための再生二期作栽培試験を、4月移植試験区又は5月移植試験区として3反復の圃場試験で、2022年にさらに実施した。
【0063】
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターの試験圃場(福岡県筑後市、日本)において、「にじのきらめき」の苗を、4月中旬(2022年4月15日;4月移植試験区)又は5月中旬(2022年5月13日;5月移植試験区)に田に移植し、栽培し、成熟期に収穫した(1回目のイネの出穂後積算気温1025℃に達した時点で収穫)。4月移植試験区及び5月移植試験区における1回目のイネの収穫高さ(刈取り高さ)は、40cm(高刈)とした。
【0064】
本実施例の4月移植試験区では、基肥として、苗の移植日(2022年4月15日)に10kg/10aのN(硫安/LPSS100/LSP120,40:42:18)、5kg/10aのP2O5及び5kg/10aのK2Oを、表層散布で施用した。また追肥として、1回目のイネの出穂前12日に、3kg/10aのN、3kg/10aのP2O5及び3kg/10aのK2Oを施用し、1回目のイネの収穫前9日に4kg/10aのN(硫安)を施用し、1回目のイネの収穫日に4kg/10aのN(被覆尿素肥料LP30)を、また1回目のイネの収穫後30日に2kg/10aのN(硫安)を施用した。さらに、移植後60日(2022年6月14日)に4kg/10aのK2O及び6.8kg/10aのシリカ(SiO2)、移植後70日(2022年6月24日)に5.0kg/10aの酸化マグネシウム(MgO)及び4.2kg/10aの硫黄(S)を施用した。
【0065】
本実施例の5月移植試験区では、基肥として、苗の移植日(2022年5月13日)に10kg/10aのN(硫安/LPSS100/LSP120,40:42:18)、5kg/10aのP2O5及び5kg/10aのK2Oを、表層散布で施用した。また追肥として、1回目のイネの出穂前12日に、3kg/10aのN、3kg/10aのP2O5及び3kg/10aのK2Oを施用し、1回目のイネの収穫前11日に4kg/10aのN(硫安)を施用し、1回目のイネの収穫日に4kg/10aのN(被覆尿素肥料LP30)を、また1回目のイネの収穫後30日に2kg/10aのN(硫安)を施用した。さらに、移植後45日(2022年6月27日)に4kg/10aのK2O及び6.8kg/10aのSiO2、移植後55日(2022年7月7日)に5.0kg/10aのMgO及び4.2kg/10aのSを施用した。
【0066】
1回目のイネの収穫後、刈取り株から発生(再生)した芽(ひこばえ)を引き続き栽培し(2回目のイネ)、成熟期に収穫した。作期(移植時期)と1回目のイネの収穫高さに応じた収量(精玄米収量)を表5に示す。なおここで用いた「精玄米収量」は、収穫したイネの種籾から籾殻を除去して玄米とした後、1.7mmの篩で選別した玄米の収量である。
【0067】
【0068】
2022年の「にじのきらめき」の再生二期作栽培試験の結果も、表3に示された2021年の再生二期作栽培の結果と概ね同様の傾向を示した。但し1回目のイネの収量は2021年と比較して少なかった。この収量の低下は、イネの出穂期が2021年よりも早まったことから、出穂期までの生育量が減少して籾数も減少したことによるものと考えられた。また5月移植試験区の2回目のイネの収量は、2回目のイネの生育期間の気温が高かったことから、2021年と比較して増加した。
【0069】
さらに、1回目のイネの移植時期及び収穫高さが2回目のイネの玄米タンパク含有率に及ぼす影響を調べるため、2回目のイネから収穫された米(玄米)のタンパク質含有率を測定した。結果を表6に示す。2回目のイネの玄米タンパク質含有率は、4月中旬移植試験区と5月中旬移植試験区のいずれも2021年と比較して低く、良食味であることが示された。また1回目のイネの収穫高さを高刈とした場合の方が、低刈とした場合と比較して、2回目のイネの玄米タンパク質含有率が低かった。1回目のイネの収穫高さを高刈とする場合の方が低刈とする場合と比べて優れていることが示された。
【0070】
【0071】
[実施例4]
イネ品種「さんさんまる」、「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「萌えみのり」、「しふくのみのり」、「つきあかり」、「にじのきらめき」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」、「あきだわら」、「日本晴」、及び「コシヒカリ」について再生二期作栽培試験を4月移植試験区又は5月移植試験区として3反復の圃場試験で行った。また対照として、イネ品種「ヒノヒカリ」及び「日本晴」について、通常の一期作(普通期栽培)での栽培試験を3反復の圃場試験で行った。いずれの圃場試験も、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)九州沖縄農業研究センターの試験圃場(福岡県筑後市、日本)で行った。
【0072】
具体的には、再生二期作栽培試験では、各イネ品種の苗を、4月中旬(2022年4月15日;4月移植試験区)又は5月中旬(2022年5月13日;5月移植試験区)に田に移植し、栽培し、成熟期に収穫した。なおコシヒカリについては紐で倒伏を防止した。4月移植試験区における1回目のイネの収穫高さ(刈取り高さ)は、1回目のイネの稈長(後述の表8)に基づく高刈とし、具体的には「さんさんまる」については20cm、他のイネ品種では40cmとした。5月移植試験区における1回目のイネの収穫高さ(刈取り高さ)は、1回目のイネの稈長(後述の表8)に基づく高刈とし、具体的には「さんさんまる」については20cm、それ以外のイネ品種では40cmとした。
【0073】
通常の一期作(普通期栽培)での栽培試験では、イネ品種「ヒノヒカリ」及び「日本晴」の苗を、2022年6月16日に田に移植した。「ヒノヒカリ」の出穂日は8月20日、収穫日は10月4日であった。「日本晴」の出穂日は8月14日、収穫日は10月3日であった。
【0074】
なお本実施例の再生二期作栽培試験の4月移植試験区では、基肥として、苗の移植直後(2022年4月15日)に12kg/10aのN(硫安/LPSS100/LSP120,4:4:4)、8kg/10aのP2O5及び8kg/10aのK2Oを、表層散布で施用した。また追肥として、苗の移植後35日(2022年5月20日)に6kg/10aのN(LPS120)、移植後60日(2022年6月14日)に2kg/10aのN、2kg/10aのP2O5及び2kg/10aのK2O、移植後70日(2022年6月24日)に2kg/10aのN、2kg/10aのP2O5及び2kg/10aのK2O、移植後105日(2022年7月29日)に3kg/10aのN(LP40)を施用した。さらに、移植後60日(2022年6月14日)に4kg/10aのK2O及び6.8kg/10aのSiO2、移植後70日(2022年6月24日)に5.0kg/10aのMgO及び4.2kg/10aのSを施用した。
【0075】
再生二期作栽培試験の5月移植試験区では、基肥として、苗の移植直前(2022年5月13日)に12kg/10aのN(硫安/LPSS100/LSP120,4:4:4)、8kg/10aのP2O5及び8kg/10aのK2Oを、全層散布で施用した。また追肥として、苗の移植後35日(2022年6月17日)に6kg/10aのN(LPS120)、移植後45日(2022年6月27日)に2kg/10aのN、2kg/10aのP2O5及び2kg/10aのK2O、移植後55日(2022年7月7日)に2kg/10aのN、2kg/10aのP2O5及び2kg/10aのK2O、移植後87日(2022年8月8日)に3kg/10aのN(LP40)を施用した。さらに、移植後45日(2022年6月27日)に4kg/10aのK2O及び6.8kg/10aのSiO2、移植後55日(2022年7月7日)に5.0kg/10aのMgO及び4.2kg/10aのSを施用した。
【0076】
1回目のイネの収穫後、刈取り株から発生(再生)した芽(ひこばえ)を引き続き栽培し、成熟期に収穫した。各イネ品種について、4月移植試験区及び5月移植試験区の1回目のイネ及び2回目のイネの出穂日、収穫日、及び登熟気温を表7及び8に示す。登熟気温は、出穂後1日~40日の平均気温である。4月移植試験区では、全品種で2回目のイネの登熟気温が18.5℃以上であった。5月移植試験区では、「やまだわら」、「ほしじるし」、及び「あきだわら」で2回目のイネの登熟気温が17.5℃以下であった。
【0077】
【0078】
【0079】
4月移植試験区及び5月移植試験区の1回目のイネ及び2回目のイネの稈長(収穫直前の長さ)を表9及び10に示す。イネの稈長が約55cm以上の場合、自脱型コンバインによる収穫に適している。そのため、4月移植試験区の「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」、「えみだわら」、「ほしじるし」及び「日本晴」、並びに5月移植試験区の「ちほみのり」、「ゆみあずさ」、「つきあかり」、「とよめき」、「やまだわら」及び「えみだわら」は、1回目のイネよりも稈長が短くなる2回目のイネも自脱型コンバインによる収穫が可能である。
【0080】
【0081】
【0082】
4月移植試験区及び5月移植試験区の1回目のイネ及び2回目のイネの収量(精玄米収量)を表11及び12に示す。ここで用いた「精玄米収量」は、収穫したイネの種籾から籾殻を除去して玄米とした後、1.7mmの篩で選別した玄米の収量である。
【0083】
【0084】
【0085】
本実施例の再生二期作栽培試験(2022年)では、全体的にイネの出穂期が早まったことから、出穂期までの生育量が減少し、それが1回目のイネの全体的な収量減少傾向につながったと考えられる。なお「にじのきらめき」において5月移植試験区の1回目のイネの収量が4月移植試験区の1回目のイネの収量よりも多かったのは、5月移植試験区で基肥を全層施用したことによる結果と考えられる。一方、5月移植試験区の2回目のイネの収量は、2回目のイネの生育期間の気温が高かったことも影響し、比較的高くなった。なお本実施例の栽培試験では比較のため「コシヒカリ」を倒伏防止措置を施して栽培したが、米生産を目的とした倒伏防止措置を行わない通常のイネ栽培では、「コシヒカリ」は倒伏して多収を得られないと考えられる。
【0086】
4月移植試験区及び5月移植試験区で収穫した米の食味試験(食味官能試験)を行った。結果を表13及び14に示す。4月移植試験区の再生二期作では、全品種で、2回目のイネの炊飯米の食味が1回目のイネの炊飯米の食味と同等以上であり、2回目のイネにおいても食味の低下は認められなかった。4月移植試験区の再生二期作では1回目のイネと比較して2回目のイネの食味が非常に低下しにくいことが示された。一方、5月移植試験区の再生二期作では、「萌えみのり」、「やまだわら」、「ほしじるし」、及び「あきだわら」において、2回目のイネの炊飯米の食味(総合評価)が1回目のイネの炊飯米の食味(総合評価)と比べて低下したことが示された。
【0087】
【0088】
【0089】
[実施例5]
「にじのきらめき」について、1回目のイネに対する異なる追肥条件を用いた再生二期作栽培試験を、2022年にさらに実施した。
【0090】
具体的には、1回目のイネの追肥を、出穂後積算気温600℃(前半型)、出穂後積算気温800℃(中間型)、又は出穂後積算気温1000℃(後半型)となる時期に行い、収量及び玄米タンパク質含有率に及ぼす影響を3反復の圃場試験で調べた。
【0091】
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センターの試験圃場(福岡県筑後市、日本)において、「にじのきらめき」の苗を、4月中旬(2022年4月15日)に田に移植し、栽培し、成熟期に収穫した(1回目のイネの出穂後積算気温1050℃に達した時点で収穫)。1回目のイネの収穫高さ(刈取り高さ)は、40cm(高刈)又は20cm(低刈)とした。
【0092】
基肥として、苗の移植日3日前(2022年4月12日)に10kg/10aのN(硫安/LPSS100/LSP120,40:42:18)、5kg/10aのP2O5及び5kg/10aのK2Oを、表層散布で施用した。また追肥として、1回目のイネの出穂前12日(2022年6月16日)に、2kg/10aのN、2kg/10aのP2O5及び2kg/10aのK2Oを施用した。さらに、1回目のイネの出穂後積算気温600℃(前半型)、800℃(中間型)又は1000℃(後半型)となる時期に、尿素を8kg/10aの窒素となる量で施用した。また、移植後60日(2022年6月14日)に4kg/10aのK2O及び6.8kg/10aのシリカ(SiO2)、移植後70日(2022年6月24日)に5.0kg/10aの酸化マグネシウム(MgO)及び4.2kg/10aの硫黄(S)を施用した。
【0093】
1回目のイネの収穫後、刈取り株から発生(再生)した芽(ひこばえ)を引き続き栽培し(2回目のイネ)、成熟期に収穫した。イネの移植日、出穂日、及び収穫日を表15に示す。また収量(精玄米収量)を表16に示す。なおここで用いた「精玄米収量」は、収穫したイネの種籾から籾殻を除去して玄米とした後、1.7mmの篩で選別した玄米の収量である。
【0094】
【0095】
【0096】
2回目のイネから収穫された玄米タンパク質含有率を測定した。結果を表17に示す。2回目のイネの玄米タンパク質含有率は、高刈、低刈のいずれにおいても、前半型及び中間型の方が、後半型よりも低かった。追肥は、1回目のイネの出穂後積算気温600~800℃となる時期などの比較的早い時期に行う方が、食味の向上につながりやすいことが示された。
【0097】