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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173096
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】絶縁性熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231130BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20231130BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231130BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231130BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/38
C08L83/05
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085096
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】今泉 圭司
【テーマコード(参考)】
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4J002CP04X
4J002CP13W
4J002CP14W
4J002DD047
4J002DE187
4J002DK006
4J002FD206
4J002FD207
4J002GN00
4J002GQ00
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA15
5F136FA16
5F136FA18
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA82
5F136GA17
5F136GA35
(57)【要約】
【課題】厚さ方向の熱伝導性に優れ、かつ柔軟な絶縁性熱伝導シートの提供。
【解決手段】
(A)下記(A1)~(A3)を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(A2)特定の構造を有する(A2-a)及び特定の構造を有する(A2-b)からなる1分子中に2個以上のヒドリシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A3)ヒドロシリル化触媒
(B)レーザー回折・散乱法により計測される平均粒径が40~100μmでアスペクト比が20~100の窒化ホウ素:150~500質量部
を含む熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化物である絶縁性熱伝導シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)成分;
(A)下記(A1)~(A3)を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(A2)下記(A2-a)及び(A2-b)からなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基の総量のモル比が0.7~1.2となる量
(A2-a)下記式(a)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化1】
(mは2または3であり、nは10~50の数であり、m、nで括られた各シロキサン単位の結合順序は、ブロックでもランダムでもよい)
(A2-b)下記式(b)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化2】
(pは10~30の数である)
(上記(A2-a)成分と(A2-b)成分とのモル比は、(A2-a)成分:(A2-b)成分=1:0.2~1:2である)
(A3)ヒドロシリル化触媒:(A1)成分100質量部に対して白金族金属原子換算で100~3,000ppmとなる量
(B)レーザー回折・散乱法により計測される平均粒径が40~100μmでアスペクト比が20~100の窒化ホウ素:150~500質量部
を含む熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化物である絶縁性熱伝導シートであって、
前記絶縁性熱伝導シートのX線回折法により検出される厚さ方向の配向度が[2θ=41~43°]のカウント和/[2θ=25~27°]のカウント和=1以上である絶縁性熱伝導シート。
【請求項2】
アスカーC硬度が20~60である請求項1に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項3】
厚さ方向の熱伝導率が16~30W/mKである請求項1または2に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項4】
絶縁破壊電圧が5kV/mm以上である請求項1に記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項5】
比重が1.2~2.0である請求項1に記載の絶縁性熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気絶縁性を備える熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の更なる高性能化に伴い、半導体素子の高密度化、および高実装化が進んでいる。これに伴い、電子機器を構成する電子部品から発生する熱量も増加し、効率よく放熱する事が重要になっている。これに対し、発熱体から生じる熱を放熱するため、一般的にヒートシンクなどの放熱体が用いられる。発熱体と放熱体の間には伝熱効率を高める目的で放熱シートを配置されることが知られている。
【0003】
特に自動車の電子化が著しく、電子部品搭載個数が増加し、放熱部材の需要が増えている。放熱部材にはシートタイプやグリースタイプがあるが、実装のし易さなどからシートタイプが好んで使用されている場合が多い。また、自動運転を背景としてこのような放熱部材においては、さらなる熱伝導性の向上が要求されている。一般的に高熱伝導性を目的としてポリマー内に分散されたフィラーの充填率を高める必要があるため、比重が高くなる傾向があるが、ガソリン車の燃費、EV車の電費を向上させる軽量化を進めるうえで問題となっている。
【0004】
例えば、特許文献1において、ポリマー、異方性フィラー、および充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出すことにより、当該押出成形物を硬化させて硬化物を得る硬化工程と、当該硬化物を、超音波カッターを用いて押出し方向に対し垂直方向に所定の厚さに切断する切断工程と、を少なくとも含む熱伝導性樹脂シートの製造方法が提案されている。
【0005】
また、例えば特許文献2においても、ポリマー、異方性フィラー、および充填剤を含有する熱伝導性組成物に磁場を印加して異方性熱伝導フィラーを配向させ、塊状成形体を形成し、所望のシート厚みにスライスを実行する熱伝導性シートの製造方法が提案されている。
【0006】
また、例えば特許文献3においても、ポリマー、異方性フィラー、および充填剤を含有する熱伝導性組成物を異方性フィラー長径の平均値の20倍以下の厚さに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することで配向した一次シートを作製し、該一次シートを積層した成形体をスライスする熱伝導シートの製造方法が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献4においても同様に、扁平状の窒化ホウ素をアラミド樹脂に高充填し配向させた一次シートを作製後、絶縁接着層を塗布し積層した成型体をスライスする絶縁熱伝導シートの製造方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの従来の方法によって得られる熱伝導シートは、窒化ホウ素等の異方性フィラーを高充填し、配向することにより、シートの硬度が高くなる傾向がある。このため、従来の方法によって得られる熱伝導シートは発熱部品との密着が低下し、十分な放熱性を発揮できない問題があった。
また、熱伝導シートは発熱部品の昇温・降温の影響を受け、膨張・収縮することが一般的である。このため、積層界面が異なる材料や硬度で構成される場合、長期的信頼性の面で大きな懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-023335号公報
【特許文献2】特開2019-186555号公報
【特許文献3】特開2017-126614号公報
【特許文献4】国際公開第2021/090929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、厚さ方向の熱伝導性に優れ、かつ柔軟な絶縁性熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、窒化ホウ素を高配向し、シリコーン樹脂の架橋構造をコントロールすることで、厚さ方向の熱伝導性に優れ、かつ柔軟な絶縁性熱伝導シートが得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、次の絶縁性熱伝導シートを提供するものである。
【0012】
[1]
下記(A)及び(B)成分;
(A)下記(A1)~(A3)を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(A2)下記(A2-a)及び(A2-b)からなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基の総量のモル比が0.7~1.0となる量
(A2-a)下記式(a)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化1】
(mは2または3であり、nは10~50の数であり、m、nで括られた各シロキサン単位の結合順序は、ブロックでもランダムでもよい)
(A2-b)下記式(b)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化2】
(pは10~30の数である)
(上記(A2-a)成分と(A2-b)成分とのモル比は、(A2-a)成分:(A2-b)成分=1:0.2~1:2である)
(A3)ヒドロシリル化触媒:(A1)成分100質量部に対して白金族金属原子換算で100~3,000ppmとなる量
(B)レーザー回折・散乱法により計測される平均粒径が40~100μmでアスペクト比が20~100の窒化ホウ素:150~500質量部
を含む熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化物である絶縁性熱伝導シートであって、
前記絶縁性熱伝導シートのX線回折法により検出される厚さ方向の配向度が[2θ=41~43°]のカウント和/[2θ=25~27°]のカウント和=1以上である絶縁性熱伝導シート。
[2]
アスカーC硬度が20~60である[1]に記載の絶縁性熱伝導シート。
[3]
厚さ方向の熱伝導率が16~30W/mKである[1]または[2]に記載の絶縁性熱伝導シート。
[4]
絶縁破壊電圧が5kV/mm以上である[1]~[3]のいずれか1項に記載の絶縁性熱伝導シート。
[5]
比重が1.2~2.0である[1]~[4]のいずれか1項に記載の絶縁性熱伝導シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、厚さ方向の熱伝導性に優れ、電気絶縁性にも優れていながら、低硬度で柔軟性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】充填工程に用いる金型の一例を示す斜視図である。
図2図1の金型の断面構造を示す断面図である。
図3】成型工程に用いる金型の一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[絶縁性熱伝導シート]
本発明の絶縁性熱伝導シートは、熱硬化性シリコーン樹脂及び窒化ホウ素を含有する熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化物であり、好ましくは、熱硬化性シリコーン樹脂中に窒化ホウ素を含有する熱伝導性シリコーン樹脂組成物を、後述する方法で成型したものである。以下詳述する。
【0016】
[熱伝導性シリコーン樹脂組成物]
熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、(A)熱硬化性シリコーン樹脂と、(B)窒化ホウ素とを含むことを特徴とする。(A)熱硬化性シリコーン樹脂は、下記(A1)~(A3)を含む熱硬化性シリコーン樹脂(付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物)である。
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
(A2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A3)ヒドロシリル化触媒
【0017】
[(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン]
(A1)成分はケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の主剤となるものである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるものが一般的である。なお、分子構造の一部に分枝状の構造を含んでも、環状体でもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数が2~8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の炭素数2~4の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。なお、アルケニル基は、1分子中に2個以上存在することが必要であり、得られる硬化物の柔軟性がよいものとするためには、(A1)成分は分子鎖両末端のケイ素原子にのみアルケニル基が結合したものがより好ましい。
前記アルケニル基以外のケイ素原子に結合した基としては、1価炭化水素基であり、中でも、炭素原子数が1~10、特には炭素原子数が1~6のものが好ましい。該1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基などが挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基及びフェニル基である。また、アルケニル基以外のケイ素原子に結合した基は全てが同一であることに限定するものではなく、異なる複数種の基がケイ素原子に結合したものでもよい。
(A1)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、通常、10~100,000mm2/sの範囲であること好ましく、特に好ましくは100~100,000mm2/sの範囲である。前記動粘度が10mm2/s以上であれば、得られる樹脂組成物の保存安定性が良好であり、また100,000mm2/s以下であれば、得られる樹脂組成物の伸展性が悪くなることもない。
なお、本明細書中において、動粘度はJIS Z 8803:2011記載のキャノンフェンスケ型粘度計を用いた場合の25℃における値である。
この(A1)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、構造又は動粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
[(A2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(A2)成分は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、下記(A2-a)成分と(A2-b)成分の混合物であることを特徴とする。
【0019】
(A2-a)下記式(a)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化3】
(mは2または3であり、nは10~50の数であり、m、nで括られた各シロキサン単位の結合順序は、ブロックでもランダムでもよい。)
【0020】
(A2-b)下記式(b)で示されるオルガノハイドロポリシロキサン
【化4】
(pは10~30の数である。)
【0021】
(A2-a)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個または3個のケイ素原子に直接結合した水素原子(ヒドロシリル基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A1)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(A2-a)成分中のヒドロシリル基が(A1)成分中のアルケニル基に、後述の(A3)成分のヒドロシリル化触媒により促進されるヒドロシリル化反応で付加することにより、3次元網目構造を与える。
一方、(A2-b)成分の両末端にのみヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A1)成分中のアルケニル基に付加した場合でも、分子鎖を延長するのみに留まり分子の自由な運動を妨げないものである。
【0022】
(A2-a)成分と(A2-b)成分のモル比は、(A2-a)成分:(A2-b)成分=1:0.2から1:2であり、1:0.3から1:1.6がより好ましく、1:0.4から1:0.8がさらに好ましい。(A2-a)成分:(A2-b)成分=1:0.2未満となる場合、鎖長延長の割合が低下し、硬化物の柔軟性が損なわれる。反対に、(A2-a)成分:(A2-b)成分=1:2を超える場合は3次元架橋構造の割合が低下し組成物の硬化が困難となる。
【0023】
(A2)成分の添加量は、(A2)成分由来のヒドロシリル基が(A1)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.7~1.2モルとなる量(すなわち、ヒドロシリル基のモル数が(A1)成分由来のアルケニル基のモル数の0.7~1.2倍量となる量)である。(A2)成分由来のヒドロシリル基の量が(A1)成分由来のアルケニル基1モルに対して、0.7モル未満であると硬化しない。また1.2モルを超えると硬化物の柔軟性がなくなり、硬化物が脆くなるおそれがある。
【0024】
[(A3)ヒドロシリル化触媒]
(A3)成分のヒドロシリル化触媒は、(A1)成分由来のアルケニル基と、(A2)成分由来のヒトロシリル基の付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
(A3)成分の含有量は、(A1)成分に対する白金族金属元素の質量換算で100~3,000ppmであり、好ましくは100~2,000ppmである。(A3)成分の含有量が100ppm以上であれば十分な触媒活性が得られ、3,000ppm以下であれば付加反応を促進する効果は十分であり、コストも抑えられる。
【0025】
[(B)窒化ホウ素]
(B)成分の窒化ホウ素は絶縁性熱伝導シート(以下単に「シート」ともいう)の厚さ方向に配向し熱伝導を促す粒子である。シートの厚さ方向における熱伝導および電気絶縁性の観点から、(B)成分の窒化ホウ素は特に六方晶系窒化ホウ素が好ましい。さらに、その形状は後記の通り特定の平均粒径及びアスペクト比を有するものであり、扁平状、鱗片状、板状又はフレーク状であるものが好ましい。
【0026】
窒化ホウ素のアスペクト比は20~100であり、好ましくは30~100であり、より好ましくは50~100である。アスペクト比が20以上である場合には、熱伝導を高めるために重要な配向性が確保され、シートの厚さ方向に高い熱伝導を付与できる。また、アスペクト比が100以下であれば、シートの柔軟性を保つことができる。
本明細書において、アスペクト比は、粒子の長径を、粒子の厚さで除した値であり、つまり長径/厚さである。粒子が球状の場合のアスペクト比は1であり、扁平な度合いが増すにつれてアスペクト比は高くなる。
本明細書において、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率1500倍で粒子の長径と厚さを測定し、長径/厚さを計算することによって、得た値である。
【0027】
窒化ホウ素の平均粒径は、40~100μmであり、より好ましくは40~90μm、特に好ましくは50~80μmである。シートの柔軟性を付与するためには、効率的に厚さ方向の熱伝導経路を形成する必要があり、40μm未満では熱伝導率が不足する。また100μmを超える場合はシートの柔軟性が損なわれてしまう。窒化ホウ素は単一の平均粒径を有したものを用いてもよく、異なる平均粒径を有するものを複数種類混合してもよい。
平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いてレーザー回折・散乱法によって測定されるメジアン径(ある粉体をある粒径から二つに分けたとき、その粒径より大きい粒子と小さい粒子が等量となる粒径、一般にD50とも呼ばれる)である。
【0028】
窒化ホウ素の含有量は、(A)成分100質量部に対して、150~500質量部であり、好ましくは200~400質量部である。窒化ホウ素の含有量が、150質量部未満の場合、シートの厚さ方向に対して十分な熱伝導率が得られず、500質量部を超える場合、シートが剛直となり柔軟性に欠けるものとなる。
【0029】
また、窒化ホウ素の配向を妨げない範囲で、アルミナ、マグネシア、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、シリカなどの絶縁性無機粒子を併用してもよい。他の絶縁性無機粒子と併用することで組成物の粘度を調整できるため、加工性の点で好ましい場合がある。
【0030】
[その他の成分]
前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物には、更に必要に応じて、例えば溶剤、チキソトロピー性付与剤、分散剤、硬化剤、硬化促進剤、遅延剤、微粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤等の成分を配合することができる。
【0031】
また、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物には、前記(B)成分以外の充填材を配合してもよい。具体的はシリカ、酸化チタンなどが挙げられる。前記充填材の配合量としては、本発明の効果を損なわない程度であれば特に制限はないが、前記(A)成分100質量部に対して0~60質量部が好ましく、0~40質量部がより好ましい。
【0032】
[熱伝導性シリコーン樹脂組成物の製造方法]
前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、(A)熱硬化性シリコーン樹脂及び(B)窒化ホウ素並びに更に必要に応じて前記その他の成分を、ミキサー等を用いて混合することにより製造することができる。
(A)熱硬化性シリコーン樹脂は、(A1)成分、(A2-a)及び(A2-b)からなる(A2)成分並びに(A3)成分を、ミキサー等を用いてあらかじめ混合してから(B)窒化ホウ素等と混合してもよいし、あらかじめ混合せずに(B)窒化ホウ素等と混合時に一度に混合してもよい。
【0033】
[絶縁性熱伝導シートの製造方法]
本発明の絶縁性熱伝導シートの製造方法としては、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物を成形する工程や硬化する工程を含むものであるが、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0034】
[絶縁性熱伝導シートの製造方法(1)]
本発明の絶縁性熱伝導シートの製造方法の一例としては、
熱伝導性シリコーン樹脂組成物を金型に充填する充填工程と、
金型を超音波で振動させ脱泡及び窒化ホウ素を整列させる振動工程と、
加熱により熱伝導性シリコーン樹脂組成物から紐状半硬化シリコーン組成物を得る加熱工程と、
紐状半硬化シリコーン組成物を長手方向に並べて加温、加圧し、熱伝導性シリコーン成型体を得る成型工程と、
熱伝導性シリコーン成型体をスライスすることで所望の厚さの絶縁性熱伝導シートを得るスライス工程と、
を経る製造方法(1)が挙げられる。
この方法により、窒化ホウ素を高配向させることで厚さ方向の熱伝導性に優れ、かつ柔軟な絶縁性熱伝導シートを得ることができる。
以下、製造方法(1)の各工程について詳述する。
【0035】
充填工程(1)
(充填工程に用いる金型)
充填工程で用いる金型は、幅が5.0mm以下、深さが幅長+1.0mm以上、長さが10.0mm以上、底面形状は特に限定されないが、くさび状、半円状、波状及び平面状などが挙げられる溝部を1ヵ所以上有するものである。図1は充填工程で用いる金型の一例を示す斜視図であり、図2図1に示す金型のA-A線における断面図である。
【0036】
(充填方法)
充填工程において、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を金型溝部に規定量充填してもよいし、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を多量に充填したあと、スキージなどで不要分を掻き落としてもよい。
熱伝導性シリコーン樹脂組成物に溶剤を添加すれば、組成物の粘度が低下し、充填性が向上するため好ましい。また、次工程の振動工程で脱泡及び窒化ホウ素を沈降させる際に、紐状半硬化シリコーン組成物の長軸方向に窒化ホウ素の長軸方向が整列しやすくなる。
【0037】
振動工程(1)
振動工程は、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を充填した前記金型を超音波で振動させ、脱泡及び窒化ホウ素を整列させるために行う。次工程の加熱工程で紐状半硬化シリコーン組成物を得るために、前記金型を超音波で振動させることで、脱泡及び窒化ホウ素を沈降、配向させ、紐状半硬化シリコーン組成物の長軸方向に窒化ホウ素を長軸方向に整列させることができる。
振動工程の周波数は28~120kHzが好ましく、40~120kHzがより好ましい。また、振動工程を行う際のシリコーン樹脂組成物の温度は硬化反応を促進させないように40℃以下で行うことが好ましい。
【0038】
加熱工程(1)
加熱工程は、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物を充填し、振動工程後の金型内の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を加熱することにより、金型の溝部の形状に沿った紐状半硬化シリコーン組成物を得る工程である。前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物中に溶剤が含まれていれば、加熱により溶剤分を揮発させる工程も含む。加熱工程の加熱温度は、40~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。また、加熱時間は1~30分間が好ましく、1~10分間がより好ましい。
【0039】
成型工程(1)
(成型工程で用いる金型)
成型工程で用いる金型は、金型の内寸が幅10.0mm以上、長さ10.0mm以上、深さ10.0mm以上の凹型であり、底面形状が平面状の下型と、下型内寸より幅および長さがそれぞれ0.01~0.2mm短い上型と、を有することを特徴とする。上型の高さは特に制限はないが上型を加圧出来うる高さが必要である。図3は成型工程で用いる金型の一例を示す分解斜視図である。図3に示す成型工程で用いる金型は、内寸が幅33.0mm(X軸)、長さ52.0mm(Y軸)、深さ50.0mm(Z軸)の下型と、幅32.9mm(X軸)、長さ51.9mm(Y軸)、高さ40.0mm(Z軸)の上型と、を有するものである。
【0040】
(充填方法)
前記加熱工程で得た紐状半硬化シリコーン組成物を下型に下記(i)又は(ii)のように充填する。
(i)金型のX軸方向に紐状半硬化シリコーン組成物の長手方向が平行となるよう揃えて並べ、Z軸方向に積み上げ、充填する。
(ii)金型のY軸方向に紐状半硬化シリコーン組成物の長手方向が平行となるよう揃えて並べ、Z軸方向に積み上げ、充填する。
このようにすれば、窒化ホウ素が配向した成型体をより好ましく効率的に得ることができる。
X軸方向又はY軸方向に並べる紐状半硬化シリコーン組成物の数は特に制限はなく、下型の大きさ、紐状半硬化シリコーン組成物の大きさ等により適宜決定できるが、生産性の観点から、例えば、2~5,000であることが好ましく、5~3,000であることがより好ましい。
また、Z軸方向に積み上げる紐状半硬化シリコーン組成物の数は、2個(2段)以上であることが好ましく、5~3,000個(5~3,000段)がより好ましい。
【0041】
(成型方法)
成型工程は、前記下型を前記上型でZ軸方向に加圧し、加熱することで前記紐状半硬化シリコーン組成物を完全硬化させ、熱伝導性シリコーン成型体を得る工程である。
加圧方法としては、大気圧から徐々に加圧していき、所望する圧力に到達することが好ましい。
前記金型を加圧する圧力は、所望する前記熱伝導性シリコーン成型体の形状や硬度などによって適宜選択されるが、0.1~20.0MPaが好ましく、0.5~5.0MPaがより好ましい。
前記金型を加圧する際の下型表面温度は、-10から40℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。
前記紐状半硬化シリコーン組成物を硬化させる際の下型表面温度は50~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、硬化時間は1分~24時間が好ましく、5分~1時間がより好ましい。
【0042】
スライス工程(1)
スライス工程は、前記成型工程で得られた熱伝導性シリコーン成型体をスライスすることで所望の厚さの絶縁性熱伝導シートを得る工程である。具体的には、前記成型工程において、
(i)の方法で充填した場合は、Y-Z平面に対して平行に、
(ii)の方法で充填した場合は、X-Z平面に対して平行に、
それぞれ前記成型体の所望の厚さにスライスすることにより、窒化ホウ素の長手方向がシートの厚さ方向に配向した絶縁性熱伝導シートを得ることができる。
【0043】
[絶縁性熱伝導シートの製造方法(2)]
また、前記製造方法とは異なる本発明の絶縁性熱伝導シートの製造方法としては、
熱伝導性シリコーン樹脂組成物をフィルムセパレーター上にベーカー式フィルムアプリケーター等を用い、均一厚みになる塗布を行う塗布工程と
加熱により熱伝導性シリコーン樹脂組成物からシート状半硬化シリコーン組成物を得る加熱工程と、
熱伝導性シリコーン樹脂組成物をフィルムセパレーターから剥離し、成型工程で用いる金型の大きさに合わせて断裁を行う断裁工程と、
シート状半硬化シリコーン組成物を塗布方向に並べて加温、加圧し、熱伝導性シリコーン成型体を得る成型工程と、
熱伝導性シリコーン成型体をスライスすることで所望の厚みに熱伝導シートを得るスライス工程と、
を経る製造方法(2)が挙げられる。
以下、製造方法(2)の各工程について詳述する。
【0044】
塗布工程(2)
塗布工程は、熱伝導性シリコーン樹脂組成物から、次工程の加熱工程でシート状半硬化シリコーン組成物が剥離しうるフィルムセパレーター上にベーカー式フィルムアプリケーター等を用い、均一な厚さになるように塗布する工程である。これにより、シート状半硬化シリコーン組成物の塗布方向(塗布面に平行)に窒化ホウ素の長軸方向を整列させることができる。フィルムセパレーター上に塗工する熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、例えば、厚さが好ましくは100~2,000μmになるように、より好ましくは300~1000μmになるように、均一に塗工する。
【0045】
加熱工程(2)
加熱工程は、塗布工程でフィルムセパレーター上に塗工した前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物を加熱することにより、シート状半硬化シリコーン組成物を得る工程である。前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物に溶剤が含まれていれば、加熱により溶剤分を揮発させる工程も含む。加熱工程の加熱温度は、40~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。また、加熱時間は1~30分間が好ましく、1~10分間がより好ましい。
【0046】
断裁工程(2)
断裁工程は前記加熱工程で得た前記シート状半硬化シリコーン組成物をフィルムセパレーターから剥離し、次工程の成型工程で用いる金型の大きさに合わせて断裁を行う工程である。断裁するサイズは金型内寸に対し、幅及び長さを-0.3~-1.0mmにすることで、次工程の成型工程でシート状半硬化シリコーン組成物が充填しやすくなるため好ましい。
【0047】
成型工程(2)
(成型工程で用いる金型)
前記成型工程(1)と同様である。
【0048】
(充填方法)
前記断裁工程で得たシート状半硬化シリコーン組成物を下型に下記(i)又は(ii)のように充填する。
(i)金型のX軸方向にシート状半硬化シリコーン組成物の塗布流れ方向が平行となるよう揃えて並べ、Z軸方向に積み上げ、充填する。
(ii)金型のY軸方向にシート状半硬化シリコーン組成物の塗布流れ方向が平行となるよう揃えて並べ、Z軸方向に積み上げ、充填する。
このようにすれば、窒化ホウ素が配向した成型体をより好ましく効率的に得ることができる。
X軸方向又はY軸方向に並べるシート状半硬化シリコーン組成物の数は特に制限はなく、下型の大きさ、シート状半硬化シリコーン組成物の大きさ及び厚さ等により適宜決定できるが、生産性の観点から、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
また、Z軸方向に積み上げるシート状半硬化シリコーン組成物の数は、2枚(2段)以上であることが好ましく、5~3,000枚(5~3,000段)がより好ましい。
【0049】
(成型方法)
成型工程は、前記下型を前記上型でZ軸方向に加圧し、加熱することで前記シート状半硬化シリコーン組成物を完全硬化させ、熱伝導性シリコーン成型体を得る工程である。
加圧方法としては、大気圧から徐々に加圧していき、所望する圧力に到達することが好ましい。
前記金型を加圧する圧力は、所望する前記熱伝導性シリコーン成型体の形状や硬度などによって適宜選択されるが、0.1~20.0MPaが好ましく、0.5~5.0MPaがより好ましい。
前記金型を加圧する際の下型表面温度は、-10~40℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。
前記シート状半硬化シリコーン組成物を硬化させる際の下型表面温度は50~200℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、硬化時間は1分~24時間が好ましく、5分~1時間がより好ましい。
【0050】
スライス工程(2)
スライス工程は、前記成型工程で得られた熱伝導性シリコーン成型体をスライスすることで所望の厚さの絶縁性熱伝導シートを得る工程である。具体的には、前記成型工程において、
(i)の方法で充填した場合は、Y-Z平面に対して平行に、
(ii)の方法で充填した場合は、X-Z平面に対して平行に、
それぞれ前記成型体を所望の厚さにスライスすることにより、窒化ホウ素の長手方向が厚さ方向に配向した絶縁性熱伝導シートを得ることができる。
【0051】
[絶縁性熱伝導シート]
本発明の絶縁性熱伝導シートは好ましくは下記の特性を備えるものである。
【0052】
[配向度]
絶縁性熱伝導シートのX線回折法により検出される厚さ方向のピーク強度比、すなわち、[2θ=41~43°]のカウント和/[2θ=25~27°]のカウント和を配向度として、該配向度=1以上であり、好ましくは2以上である。
【0053】
[硬さ]
本発明の絶縁性熱伝導シートの硬さは、取扱い性と放熱性の観点から、アスカーC硬度が20~60であることが好ましく、20~40であることがより好ましい。アスカーC硬度が20よりも小さいとシートの取り扱い時にシートが変形しやすく配向が崩れる可能性があり、硬さが60を超える場合、シートと発熱体および冷却体との間の接触熱抵抗が大きくなってしまう。
【0054】
[熱伝導率]
絶縁性熱伝導シートの厚さ方向の熱伝導率は、好ましくは16~30W/mKであり、より好ましくは18~26W/mKである。熱伝導率はJIS R 1611:2010に準拠して、レーザーフラッシュ法(LFA 447 Nanoflash ネッチ社製)により測定される値である。
【0055】
[絶縁破壊電圧]
絶縁性熱伝導シートの絶縁破壊電圧は、好ましくは5kV/mm以上であり、より好ましくは8kV/mm以上である。絶縁破壊電圧はJIS C 2110に準拠した方法で測定される値である。
【0056】
[比重]
絶縁性熱伝導シートの比重は、好ましくは1.2~2.0であり、より好ましくは1.4~1.8である。比重はJIS K 6249:2003に準拠し、自動比重測定装置(SGM-6、メトラー社製)を用いて、水中置換法により25℃で測定される値である。
【実施例0057】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、動粘度はJIS Z 8803:2011記載のキャノンフェンスケ型粘度計を用いた場合の25℃における値であり、アスペクト比はSEM測定より求め、平均粒径はマイクロトラックベル社製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXIIにより測定した体積基準の累積平均粒径(メジアン径)である。
【0058】
(熱伝導性シリコーン樹脂組成物の調製)
下記実施例に用いられている(A)~(C)成分を下記に示す。
【0059】
(A1)成分:下記式で示されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン
【化5】
(A1-a)上記式中のqが25℃における動粘度を600mm2/sとする数であるオルガノポリシロキサン
(A1-b)上記式中のqが25℃における動粘度を100,000mm2/sとする数であるオルガノポリシロキサン
【0060】
(A2)成分:下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A2-a)
【化6】
(括弧内のシロキサン単位の配列順は不定である。)
(A2-b)
【化7】
【0061】
(A3)成分:5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0062】
(B)成分:平均粒径、アスペクト比が下記の通りである窒化ホウ素
(B1)HSPD50(平均粒径50μm、アスペクト比75、Dandong Chemical Engineering Institute Co.製)
(B2)HSPD(平均粒径45μm、アスペクト比50、Dandong Chemical Engineering Institute Co.製)
(B3)HSP(平均粒径40μm、アスペクト比30、Dandong Chemical Engineering Institute Co.製)
(B4)GP(平均粒径8μm、アスペクト比10、電気化学工業製、比較例用)
(B5)PTX-60(平均粒径55μm、アスペクト比1の球状凝集粉、Mommentive Co.製、比較例用)
【0063】
(C)成分:混練時の希釈溶剤としてトルエン
【0064】
下記表1に示す各成分所定量を、プラネタリーミキサーで60分間混練し、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0065】
以下、実施例及び比較例で用いる金型について図面を参照しながら説明する。
図1に、充填工程で用いる金型の斜視図を示す。図2に、図1に示す充填工程で用いる金型のA-A線における断面図を示す。充填工程で用いる金型は、幅1.5mm、長さ50.0mm、深さ2.5mm、底面形状が半円状の溝部を、金型の長軸方向に平行に、複数有するものである。
図3に、成型工程で用いる金型の分解斜視図を示す。成型工程で用いる金型は、内寸が幅33.0mm(X軸)、長さ52.0mm(Y軸)、深さ50.0mm(Z軸)の下型と、幅32.9mm(X軸)、長さ51.9mm(Y軸)、高さ40.0mm(Z軸)の上型と、を有するものである。
【0066】
(充填工程)
上記調製した熱伝導性シリコーン樹脂組成物を、充填工程で用いる金型の溝部からオーバーフローするよう充填し、オーバーフローした部分をスキージで掻き落とした。
【0067】
(振動工程)
上記実施例1~6および比較例1~8の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を充填した金型を、シャープ社製卓上型超音波洗浄機UT-106を用いて、水温25℃、周波数37kHz、出力100%の条件で30分間振動させた。比較例9の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を充填した金型は、振動工程を省略し、続く加熱工程に供した。
【0068】
(加熱工程)
振動工程後、金型内の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を80℃環境下で2分間加熱し、紐状半硬化シリコーン組成物を得た。また比較例9については、振動工程を省略し、充填工程後の金型内の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を80℃環境下で2分間加熱させ、紐状半硬化シリコーン組成物を得た。
【0069】
(成型工程)
上記紐状半硬化シリコーン組成物を図3の金型の下型に、紐状半硬化シリコーン組成物の長手方向が金型のY軸方向と平行となるようにX軸方向21列並べ、さらにZ軸方向には40段となるように充填し、上型で油圧プレス機にてZ軸方向に1.0MPaで加圧した状態で、120℃で30分間加熱し、成型体を得た。
【0070】
(スライス工程)
前記成型体をX-Z平面に対して平行にカッターナイフでスライスし、シートを得た。
【0071】
実施例1~6および比較例1~9で得たシートについて下記評価をおこなった結果を表1に示す。
【0072】
(硬度)
12mm厚にスライスしたシートを、アスカーC硬度計を用いて25℃で測定した。
【0073】
(熱伝導率)
2mm厚にスライスしたシートを直径12.7mmの円形となるように打ち抜き、これを試験片として、JIS R 1611:2010に準拠して、レーザーフラッシュ法(LFA 447 Nanoflash ネッチ社製)を用いて熱伝導率を測定した。
【0074】
(絶縁破壊電圧)
1mm厚にスライスしたシートを油中に浸漬しJIS C 2110に準拠した方法で絶縁破壊電圧を測定した。
【0075】
(比重)
2mm厚にスライスしたシートをJIS K 6249:2003に準拠し、自動比重測定装置(SGM-6、メトラー社製)を用いて、水中置換法により25℃における比重を測定した。
【0076】
(配向度)
2mm厚にスライスしたシートを直径12.7mmの円形となるように打抜き、これを試験片としてBRUKER JAPAN社製 卓上型粉末X線回析装置 D2 PHASER2nd Generationにて、
スキャン範囲:20-90°、
ステップサイズ:0.024°、
試料回転:10rpm、
電圧:30kV、
電流:10mA
の条件で測定を行い2θ=41~43°(100面)および25~27°(002面)のカウント数の和を算出した。
配向度は下記式と定義した。

配向度=[2θ=41~43°]のカウント和/[2θ=25~27°]のカウント和
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1~3と比較例1、2をみると、(A1)成分のアルケニル基に対する(A2)成分のヒドロシリル基のモル比を調整することで、適切な硬度のシートが得られることがわかった。一方で、比較例5、6のように(A2)成分の割合が適切でない場合、シートの硬度が高くなり、成型自体が困難であった。他方、比較例7、8から、窒化ホウ素の含有量が多すぎると、シートの硬度が高くなり、含有量が少なすぎると熱伝導率が低くなることがわかった。
実施例4~5と比較例3をみると、窒化ホウ素の平均粒径が40μm以上であれば好適な熱伝導率となることがわかった。
また、製造過程で振動工程を経ずに製造された、シートの厚さ方向の窒化ホウ素の配向度が1未満のシートは、良好な熱伝導パスが形成されず、シート中の窒化ホウ素の含有量が同程度の実施例2のシートに比べて低い熱伝導率となった。
【符号の説明】
【0079】
10 充填工程に用いる金型
11 充填工程に用いる金型の溝部
20 成型工程に用いる金型
1 成型工程に用いる金型の上型
2 成型工程に用いる金型の下型
図1
図2
図3