(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017329
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結基板の包装体
(51)【国際特許分類】
B65D 81/20 20060101AFI20230131BHJP
B65D 77/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B65D81/20 Z
B65D77/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121532
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】多中 茂明
(72)【発明者】
【氏名】河合 秀昭
【テーマコード(参考)】
3E067
【Fターム(参考)】
3E067AA12
3E067AB99
3E067AC01
3E067AC03
3E067AC14
3E067BA12A
3E067BB12A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB25A
3E067CA10
3E067CA24
3E067EA06
3E067FA01
3E067GA18
3E067GD07
(57)【要約】
【課題】 保存環境が変化した場合においても安定した保存を行うことを可能とした窒化ケイ素焼結基板の包装体を提供する。
【解決手段】 窒化ケイ素焼結基板が、40℃、90RHにおける透湿度が10g/m2・day以下の包装袋に封入され、且つ、包装袋内の気相部を構成するガスの露点が-10℃以下である窒化ケイ素焼結基板の包装体であり、上記包装袋は、多層フィルムよりなり、窒化ケイ素焼結基板と接する層が添加剤無添加の樹脂層であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素焼結基板が、40℃、90RHにおける透湿度が10g/m2・day以下の包装袋に封入され、且つ、包装袋内の気相部を構成するガスの露点が-10℃以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板の包装体。
【請求項2】
前記包装袋が多層フィルムよりなり、窒化ケイ素焼結基板と接する層が添加剤無添加の樹脂層であり、且つ、少なくとも1層の水蒸気バリア層を有する、請求項1記載の窒化ケイ素焼結基板の包装体。
【請求項3】
前記気相部を構成するガスが窒素又は空気である請求項1又は2に記載の窒化ケイ素焼結基板の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素基板の新規な包装体に関する。詳しくは、保存環境が変化した場合においても安定した保存を行うことを可能とした窒化ケイ素焼結基板の包装体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素粉末に各種の焼結助剤を添加し、高温で焼結させた窒化ケイ素焼結体は、各種セラミックス焼結体の中でも、軽量で且つ常温から高温までの機械的強度が強く、耐薬品性、電気絶縁性に優れる、等の特徴があり、また、助剤の種類や焼結条件を工夫することにより、熱伝導性も高めることが可能であるため、薄くて強度の高い窒化ケイ素焼結基板として、電子機器における放熱材料としても使用されるようになってきた。
【0003】
上記電子機器用途において、窒化ケイ素焼結基板は必要に応じて表面の清浄化処理をした後、包装して出荷され、電子機器の製造工程に供されている。
【0004】
上記包装において、窒化ケイ素焼結基板は窒化アルミニウム焼結基板などに比べて水分に対しても安定であるため、例えば、ポリエチレンなどの樹脂フィルムよりなる包装袋に入れ、開口部をシールして出荷されていた。尚、複数枚の窒化ケイ素焼結基板をまとめて包装する場合、環状に加工した、熱収縮性を有する帯状の樹脂フィルムにより積層した窒化ケイ素焼結基板を巻いた後、加熱して樹脂フィルムを収縮させることにより包装袋内での積層体の崩れを防止することも提案されている。
【0005】
ところが、窒化ケイ素焼結基板を包装袋に封入する工程は、作業雰囲気が十分に管理されているとは言い難く、作業を行う温度や湿度は日々変動することが一般的であった。
【0006】
それ故、前記包装体は、包装袋に窒化ケイ素焼結基板を封入する際に同時に封入された雰囲気ガス(通常は包装設備内の外気)が、その後の保存時、具体的には、倉庫における貯蔵時、トラックや船による輸送時などにおける保存環境の変化により結露するという問題を有することが判明した。上記結露が生じると前記複数の窒化ケイ素焼結基板を積層して封入した場合には、基板が密着することにより使用時の作業性を低下させ、また、結露した水が蒸発した後には、水垢痕が生じ、使用時にそれを除去する作業を必要とするなどの問題が懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、窒化ケイ素基板の包装体における保存時の結露発生を効果的に防止し、保存環境が変化した場合においても結露の発生を抑制し安定した保存を行うことを可能とした窒化ケイ素焼結基板包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を重ねた結果、かかる目的に対して窒化ケイ素焼結基板を包装する際の包装袋内で気相部を構成する雰囲気ガスの管理が極めて重要であるとの知見を得、上記雰囲気ガスの露点を特定の範囲とすることにより、保存中における結露による前記問題が全て解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、窒化ケイ素焼結基板が、40℃、90RHにおける透湿度が30g/m2・day以下の包装袋に封入され、且つ、包装袋内の気相部を構成するガスの露点が-10℃以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結基板の包装体が提供される。
【0010】
上記包装体は、包装袋として、多層フィルムよりなり、窒化ケイ素焼結基板と接する層が添加剤無添加の樹脂層であり、且つ、少なくとも1層の水蒸気バリア層を有するものを使用することが好ましい。
【0011】
また、前記気相部を構成するガスが窒素又は空気であるのが一般的である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の窒化ケイ素焼結基板の包装体によれば、窒化ケイ素基板の包装体が保存中に冷たい外気と接した際にも結露の発生を効果的に防止し、窒化ケイ素焼結基板表面への水垢痕の発生を防止でき、また、窒化ケイ素焼結基板を複数枚積層した包装において、結露により基板同士が異常に密着する現象を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、包装体に封入される窒化ケイ素焼結基板は、特に制限されるものではなく、各種用途に対応した大きさや厚みを有するものが全て対象となる。具体的には、大きさは25cm2~900cm2程度が、また、厚みは1枚当たり0.1mm~5mm程度が一般的である。
【0014】
一般に、窒化ケイ素焼結基板は窒化ケイ素粉末を成形し、焼成して得られるが、得られた窒化ケイ素焼結基板は、焼成後そのまま包装に供してもよいし、ブラスト処理などの処理を行ったものを包装に供してもよい。但し、包装に供する前の窒化ケイ素焼結基板は、包装体における気相部の露点を経時的に上げる原因となる、表面の付着水を可及的に除去したものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明において、包装は、窒化ケイ素焼結基板を一枚ずつ包装してもよいが、包装、開封の効率性を考慮した場合、複数枚、具体的には、5~100枚を積層した状態で行うのが現実的である。また、複数枚を積層して包装する場合、包装袋内での崩れを防止する手段を講ずることが好ましい。例えば、前記したように、環状に加工した、熱収縮性を有する帯状の樹脂フィルムにより積層した窒化ケイ素焼結基板を巻いた後、加熱して樹脂フィルムを収縮させることにより緊縛する方法が好適である。また、その他の方法として、公知の結束バンドにより緊縛することもできる。
【0016】
上記包装袋は、水蒸気の透過率が、40℃、90RHにおける透湿度が、10g/m2・day以下、好ましくは、5g/m2・day以下のものであることが、後述の気相部を構成するガスの露点を維持するために必要である。前記樹脂フィルムよりなる包装袋の場合、水蒸気バリア層を有する多層フィルムが好適に使用される。かかる水蒸気バリア層としては、アルミニウム等の金属蒸着層、ポリ塩化ビニリデン層が挙げられる。
【0017】
本発明において、包装袋を構成するフィルムの添加剤によるによる窒化ケイ素焼結基板の接触汚染を考慮すると、窒化ケイ素焼結基板と接する、包装袋を構成する樹脂フィルムの最内層は添加剤無添加の樹脂層により構成することが好ましい。ここで、前記添加剤無添加の樹脂は、重合工程を経て得られたままの樹脂であることが好ましいが、可塑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤の含有量が前記窒化珪素焼結基板の汚染に影響を及ぼさない程度、具体的には0.05質量%以下に制限された樹脂も含むものである。添加剤無添加の樹脂は、市販されているものを使用することができる。例えば、市販されている添加剤無添加のポリエチレンは、入手が容易である上に、上記包装袋の最内層をポリエチレンで構成することにより、窒化ケイ素焼結基板を包装袋内に入れた後の開口部の封止を、熱融着により容易に行うことができるというメリットも有する。
【0018】
従って、本発明の包装体に使用する包装袋を構成する多層フィルムは、窒化ケイ素焼結基板と接する層が添加剤無添加の樹脂層であり、且つ、少なくとも1層の水蒸気バリア層を有し、前記透湿度を有するものが好適である。上記多層フィルムにおいて、上記以外の他の層としては、前記金属蒸着層を設ける場合の基体となる支持層として、ポリエチレンテレフタレート層、必要に応じて形成される接着樹脂層などが挙げられる。
【0019】
本発明において、樹脂フィルムよりなる包装袋において、樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、50~500μm、好ましくは、70~400μmであることが、強度と作業性の面で好ましい。また、本発明において使用される樹脂フィルムよりなる包装袋の他の仕様も特に制限されるものではないが、平袋、ガゼット袋が一般的である。
【0020】
本発明の包装体において、袋内の気相部を構成するガスの種類は特に制限されないが、空気又は窒素が一般的である。また、必要に応じて、アルゴン、ヘリウム等も使用することができる。
【0021】
本発明の最大の特徴は前記窒化ケイ素焼結基板の包装袋の気相部を構成する上記ガスの露点が-10℃以下、好ましくは、-15℃以下としたことにある。包装袋の気相部を構成するガスの露点を上記範囲とすることにより、年間を通して、貯蔵、搬送などの保存期間中に包装袋内に結露の発生を効果的に防止することができ、結露による前記問題を未然に防止することができる。
【0022】
本発明において、包装袋の気相部を構成するガスの露点の測定は、後述する実施例に記載の方法により測定したものである。
【0023】
本発明において、包装袋の気相部を構成するガスの露点を前記範囲とすると共に、包装体に占める気相部の体積を100cc以下、好ましくは、50cc以下にすることが更に効果的である。上記気相部は、一般の包装において、5cc以上の体積で存在する場合が多い。
【0024】
本発明にかかる窒化ケイ素焼結基板の包装体を製造する方法は、特に制限されるものではないが、代表的な方法を例示すれば、一方が解放した包装袋に窒化ケイ素焼結基板を挿入した後、前記露点を有するガスにより包装袋内をガス置換し、その状態で開口部を封止する方法が推奨される。
【0025】
上記方法において、ガス置換後から開口部を封止までの間に外気が混入するのを防止するため、包装袋の長さは、窒化ケイ素焼結基板が存在する位置から5cm以上、好ましくは15cm以上長いものを使用することが、ガス置換後、かかる部分のガスを追い出しながら開口部を封止することができるため好ましい。
【0026】
また、ガス置換は、開口部の一部を残して封止し、残した開口箇所よりノズルを差し込んでガス置換を行った後、完全に開口部を封止することにより行ってもよい。
【0027】
また、他の方法として、前記包装操作を、前記露点を有するガス雰囲気内で行うことも可能である。
【0028】
本発明の窒化ケイ素焼結基板の包装体は、このまま保存することができるが、これをさらに包装袋に封入して多重包装して保存してもよいし、仕切りが形成された段ボール等の包装資材により梱包して保存することもできる。
【実施例0029】
以下、本発明をさらに具体的に説明するため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
尚、実施例において、各種測定は以下の方法によって行った。
【0031】
(1)40℃、90RHにおけるフィルムの透湿度
試料フィルムをJIS Z 0208に準じて測定した。
【0032】
(2)包装体中の気相部を構成するガスの露点
試料包装体の一箇所にサンプリング用の吸入管を差し込み、気相部のガスを吸引してサンプリングガスを採取し、上記サンプリングガスについて、市販の露点計にて露点を測定した。
【0033】
(3)包装体内の気相部の体積
アルキメデス法により包装体の全体積を測定し、包装した窒化ケイ素焼結基板の重量を測定し、窒化ケイ素の密度よりその体積を求め、全体積より窒化ケイ素焼結基板の体積を引いた値を包装体内の気相部の体積(cc)とした。
【0034】
実施例1
窒化ケイ素焼結基板
焼成によって得られた、大きさ20cm×20cm、厚み0.3mmの窒化ケイ素焼結基板を100枚積層したものを結束バンドにより束ねたものを準備した。尚、上記窒化ケイ素焼結基板は、焼成後に表面をブラスト処理後、水洗し、150℃で1時間乾燥したものである。
【0035】
一方、最内層から、添加剤無添加のポリエチレン樹脂層(70μm)、ポリエチレンテレフタレート樹脂層(50μm)にアルミニウム蒸着層(1μm)を形成した水蒸気バリア層を、接着用樹脂層を介してこの順で積層した厚み150μmの樹脂フィルムよりなる平袋(幅30cm、長さ50cm)を準備した。尚、上記フィルムの透湿度は、2g/m2・dayであった。
【0036】
温度25℃、湿度70%の作業環境において、上記平袋の開口部より、前記準備した積層窒化ケイ素焼結基板を挿入した後、露点が-30℃の窒素ガスを包装袋内に供給して袋内をガス置換した後、開口部から20cmの位置で熱シールして封止して包装体を得た。
【0037】
上記方法により、包装体を6体製造した。上記6の包装体内の気相部の体積は、平均で約20ccであった。
【0038】
得られた包装体の2体について、製造後に気相部よりガスをサンプリングして露点を調べたところ、-24℃であった。
【0039】
また、前記製造した包装体の2体について、温度0℃の恒温室と温度50℃の恒温室とにおける保存を24時間毎に繰り返して実施し、48時間後に2体について、それぞれ気相部よりガスをサンプリングして露点を調べた。また、前記製造した包装体の2体について、倉庫にて3カ月間保存後、気相部よりガスをサンプリングして露点を調べた。結果を表1に示す。尚、気相部のガスの露点についての測定値は2体のうち高い方の値を示している。
【0040】
また、48時間後に恒温室より取り出した包装体、及び倉庫にて保管後の包装体について、窒化珪素焼結基板表面への結露、水垢の生成の有無を観察した結果も表1に併せて示す。
【0041】
比較例1
実施例1において、作業環境下でそのまま包装、即ち、袋内をガス置換しなかった以外は同様にして包装体を製造した。
【0042】
得られた包装体の2体について、製造後に気相部よりガスをサンプリングして露点を調べたところ、19℃であった。
また、残部の包装体について実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に併せて示す。
【0043】
尚、気相部のガスの露点についての測定値は2体のうち高い方の値を示している。
【0044】