(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173357
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】固体電解質粉末、固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材および固体電解質層用部材、ならびに固体酸化物形電解セル
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20231130BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20231130BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231130BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20231130BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20231130BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C04B35/465
H01B1/06 A
H01B1/08
B22F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085549
(22)【出願日】2022-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】上杉 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】戸田 喜丈
(72)【発明者】
【氏名】加賀 洋史
(72)【発明者】
【氏名】留野 暁
【テーマコード(参考)】
4G047
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4G047CA05
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD07
4G047CD08
4K018AB01
4K018AB10
4K018AC01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA20
4K018BC12
4K018BD04
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA25
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
(57)【要約】
【課題】本発明では、低温側においても有意に高いイオン伝導率を有する固体電解質粉末を提供することを目的とする。
【解決手段】固体電解質粉末であって、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、当該固体電解質粉末は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質粉末。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質粉末であって、
ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
当該固体電解質粉末は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質粉末。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト化合物の重量存在比は、0.1wt%~40wt%の範囲である、請求項1に記載の固体電解質粉末。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型構造の化合物のTiサイトの一部は、Alで置換されており、
前記ペロブスカイト型構造の化合物の格子定数は、3.8020Å~3.8150Åの範囲である、請求項1または2に記載の固体電解質粉末。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型構造の化合物の結晶構造は、立方晶である、請求項3に記載の固体電解質粉末。
【請求項5】
遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、
請求項3に記載の固体電解質粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極部材用の粉末。
【請求項6】
分散媒と、
請求項5に記載の燃料極部材用の粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極用のペースト。
【請求項7】
分散媒と、
請求項3に記載の固体電解質粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの固体電解質層用のペースト。
【請求項8】
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、燃料極用部材。
【請求項9】
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質層用部材。
【請求項10】
燃料極と、
酸素極と、
前記燃料極と前記酸素極との間に設置された固体電解質層と、
を有し、
前記燃料極は、請求項8に記載の燃料極用部材で構成され、および/または前記固体電解質層は、請求項9に記載の固体電解質層用部材で構成される、固体酸化物形電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質粉末、固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材および固体電解質層用部材、ならびに固体酸化物形電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水蒸気や二酸化炭素、またはそれらの混合ガスを電気分解し、水素および一酸化炭素を生成することができる固体酸化物形電解セル(SOEC)が着目されている。SOECは、燃料極および酸素極と、両電極の間に設けられた固体電解質層とを有し、この固体電解質層中を酸化物イオンが伝導することにより作動する。
【0003】
通常、固体電解質層には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような固体電解質が使用され、燃料極には、NiとYSZの混合物などが使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高橋武彦,原弘育,市村剛重,「チタン酸カルシウムを母体とした固溶体のCaTi1-xAlxO3-αのイオン導電性」,電気化学および工業物理化学,37巻,第12号,p.857-862,1962-12,電気化学会
【非特許文献2】F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOECの低電力での作動を実現するためには、燃料極や固体電解質層に含まれる材料の酸化物イオン伝導率を高めることが必要となる。このため、YSZに代わる候補材料の研究開発が進められている。
【0006】
非特許文献1には、例えば、CaTiO3系ペロブスカイト型構造の化合物において、Tiのサイトの一部をAlで置換することにより、高温域でのイオン伝導率が向上することが記載されている。
【0007】
ただし、非特許文献1によれば、CaTi1-xAlxO3系化合物は、ある温度を境に、温度とイオン伝導率の間の関係が変化する挙動を有し、すなわち、温度とイオン伝導率の関係において、800℃~900℃の範囲に「折れ点」が生じることが示されている。温度とイオン伝導率の間の関係に、そのような「折れ点」が生じると、低温側で材料のイオン伝導率が大きく低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、低温側においても有意に高いイオン伝導率を有する固体電解質粉末を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような固体電解質粉末から作製された固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような固体電解質粉末で構成された固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材を提供することを目的とする。さらに、本発明では、そのような燃料極用部材および/または固体電解質層用部材を有する固体酸化物形電解セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、
固体電解質粉末であって、
ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
当該固体電解質粉末は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質粉末が提供される。
【0010】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、燃料極用部材が提供される。
【0011】
また、本発明では、
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質層用部材が提供される。
【0012】
さらに、本発明では、
燃料極と、
酸素極と、
前記燃料極と前記酸素極との間に設置された固体電解質層と、
を有し、
前記燃料極および/または前記固体電解質層は、前述の特徴を有する燃料極用部材および/または固体電解質層用部材で構成される、固体酸化物形電解セルが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、低温側においても有意に高いイオン伝導率を有する固体電解質粉末を提供することができる。また、本発明では、そのような固体電解質粉末から作製された固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材を提供することができる。また、本発明では、そのような固体電解質粉末で構成された固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材を提供することができる。さらに、本発明では、そのような燃料極および/または固体電解質層を有する固体酸化物形電解セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物における温度とイオン伝導率の対数の間の関係を示した図である。
【
図2】本発明の一実施形態による固体電解質粉末の製造方法のフローの一例を模式的に示した図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるSOECの構成の一例を模式的に示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態による固体電解質粉末(粉末1)のX線回折パターンを示した図である。
【
図5】本発明の一実施形態による固体電解質粉末(粉末2)のX線回折パターンを示した図である。
【
図6】本発明の一実施形態による固体電解質粉末(粉末3)のX線回折パターンを示した図である。
【
図7】本発明の一実施形態による粉末から作製した焼結体のイオン伝導率の対数の温度依存性を、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物のイオン伝導率の対数の温度依存性と合わせて示したグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態による粉末から作製した焼結体において、
図7の直線の傾きから得られた活性化エネルギーの値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
本発明の一実施形態では、
固体電解質粉末であって、
ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
当該固体電解質粉末は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質粉末が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態による固体電解質粉末は、C12A7構造(Ca12Al14O33)のマイエナイト化合物を含む。
【0018】
マイエナイト化合物は、12CaO・7Al2O3で表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。
【0019】
このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、内部が酸化物イオンで占められている。しかしながら、このケージ内の酸化物イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を有しており、このため、ケージ内の酸化物イオンは、特にフリー酸化物イオンと呼ばれている。
【0020】
マイエナイト化合物は、組成式[Ca24Al28O64]4+(O2-)2とも表記される(非特許文献2)。
【0021】
前述のように、非特許文献1に記載のCaTi1-xAlxO3系化合物(以下、「従来のCaTi1-xAlxO3系化合物」と称する)は、低温側で材料のイオン伝導率が大きく低下してしまうという問題がある。
【0022】
図1には、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物における温度とイオン伝導率の間の関係を示す。
図1には、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物において、x=0.1、0.3、および0.5の場合の温度とイオン伝導率の間の関係が示されている。
【0023】
図1から、それぞれの材料において、800℃~900℃の温度領域に、温度とイオン伝導率の関係が変化する「折れ点」が生じていることがわかる。
【0024】
例えば、x=0.1の場合、温度約839℃を境に、直線の傾きが変化している。また、x=0.3の場合、温度約861℃を境に、直線の傾きが変化している。同様に、x=0.5の場合、温度約838℃を境に、直線の傾きが変化している。
【0025】
温度とイオン伝導率の間の関係において、このような折れ点が生じると、低温側で材料のイオン伝導率が大きく低下してしまうという問題がある。
【0026】
これに対して、本発明の一実施形態による固体電解質粉末は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(y=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満であるという特徴を有する。特に、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト型構造の化合物の重量存在比は、0.1wt%~40wt%の範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明の一実施形態による固体電解質粉末では、このような範囲でマイエナイト型構造の化合物を含有させることにより、
(i)温度とイオン伝導率の関係において、800℃~900℃の温度領域に折れ点が生じない、
(ii)温度とイオン伝導率の関係から得られる近似直線の勾配(酸化物イオンの拡散における活性化エネルギー)が小さい
という効果を得ることができる。
【0028】
上記(i)および(ii)の効果は、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物が存在することで、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の界面における酸化物イオンの拡散が支配的になるためと考察している。
【0029】
そのため、本発明の一実施形態による固体電解質粉末は、例えば、700℃以下のような低温側においても、有意に高いイオン伝導率を維持することができる。
【0030】
また、これにより、本発明の一実施形態による固体電解質粉末は、SOECの固体電解質層および燃料極用の材料として、有意に適用できる。
【0031】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末について、より詳しく説明する。
【0032】
前述のように、本発明の一実施形態による固体電解質粉末(以下、単に「第1の粉末」と称する)は、ペロブスカイト型構造の化合物およびマイエナイト型構造の化合物を有する。
【0033】
ここで、第1の粉末において、ペロブスカイト型構造の化合物は、一般式がCaTiO3で表される。ペロブスカイト型構造の化合物は酸素欠損を含んでもよく、CaTiO3-αで表され、0≦α≦0.5である。ただし、Tiの一部は、Alで置換されてもよく、CaTi1-xAlxO3-αで表される。αは任意の値であり、第1の粉末の雰囲気に依存し、Tiの一部がAlで置換されると変化する。
【0034】
また、第1の粉末において、マイエナイト型構造の化合物は、組成式[Ca24Al28O64]4+(O2-)2で表される。ただし、CaおよびAlの一部は、Ti等で置換されてもよい。
【0035】
また、本発明の一実施形態では、第1の粉末に含まれるTiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))は、原子比で、0.05以上0.60未満である。
【0036】
第1の粉末において、TiとAlの合計量に対するAlの含有量yは、原子比で、0.06≦y≦0.55の範囲であることが好ましく、0.10≦y≦0.50の範囲であることがより好ましい。
【0037】
0.10≦y≦0.50とすることにより、活性化エネルギーを小さくしつつ、高いイオン伝導率を示す電解質を得ることが可能となる。
【0038】
ここで、第1の粉末において、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト型構造の化合物の重量存在比は、例えば、0.1wt%~40wt%の範囲であり、1.0wt%~35wt%の範囲であることが好ましい。
【0039】
なお、本願において、粉末に含まれるマイエナイト型構造の化合物の含有量は、粉末のX線回折結果から、WPPF法により把握することができる。
【0040】
前述のように、第1の粉末において、ペロブスカイト型構造の化合物のTiサイトの一部は、Alで置換されていてもよい。例えば、ペロブスカイト型構造の化合物の一般式は、CaTi1-xAlxO3で表されてもよい。ここで、例えば、x=0.07~0.53であり、x=0.10~0.50であることが好ましい。
【0041】
このように、ペロブスカイト型構造の化合物のTiサイトの一部をAlで置換することにより、第1の粉末のイオン伝導率をより高めることができる。
【0042】
また、第1の粉末において、ペロブスカイト型構造の化合物の格子定数は、3.8020Å~3.8150Åの範囲であることが好ましく、より好ましくは3.8030Å~3.8140Åの範囲であり、さらに好ましくは3.8040Å~3.8130Åの範囲である。
【0043】
また、第1の粉末において、ペロブスカイト型構造の化合物の結晶構造は、立方晶であってもよい。
【0044】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される燃料極用部材)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される燃料極用部材について、より詳しく説明する。燃料極用部材はグリーンシートのようなバインダ樹脂と固体電解質粉末および遷移金属または遷移金属の化合物の粉末から構成されるものであってもよく、それらの粉末が焼結により成型された基板であってもよい。基板であれば、それを支持体とした燃料極支持型のSOECとして供される。また、金属やセラミックスまたはそれらの複合体からなる多孔質支持体上に燃料極が積層された燃料極用部材でもよい。
【0045】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される固体電解質層用部材)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される固体電解質層用部材について、より詳しく説明する。固体電解質層用部材はグリーンシートのようなバインダ樹脂と固体電解質粉末から構成されるものであってもよく、焼結により成型された基板であってもよい。基板であれば、それを支持体とした固体電解質層支持型のSOECとして供される。また、上記に記載した燃料極用部材上に固体電解質層が積層された固体電解質層用部材であってもよい。
【0046】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される固体酸化物形電解セル)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末から作製される固体酸化物形電解セルについて、より詳しく説明する。固体酸化物形電解セルは燃料極支持型であっても、固体電解質層支持型であってもよい。燃料極支持型であれば、燃料極用基板の上に固体電解質を含むペーストを塗布して焼成して固体電解質層を形成してもよいし、固体電解質を含むグリーンシートを積層して焼成して形成してもよい。固体電解質層支持型であれば、固体電解質層用基板の上に燃料極用の粉末を含むペーストを塗布して焼成して燃料極を形成してもよいし、燃料極部材を含むグリーンシートを積層して焼成して形成してもよい。
【0047】
酸素極の材料としては、例えば、La0.4Sr0.6Co0.2Fe0.8O3(LSCF)およびLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)等の複合酸化物、セリア系酸化物、ならびにこれらの混合物を用いることができる。特にLa、Sr、Co、Fe、およびMnからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。燃料極支持型であれば、固体電解質層を形成した後に、酸素極用の粉末を含むペーストを塗布して焼成して酸素極を形成してもよい。固体電解質層支持型であれば、固体電解質基板上に酸素極用の粉末を含むペーストを塗布して焼成して酸素極を形成してもよい。固体電解質層と酸素極の間には反応防止層として、セリア系電解質を形成してもよい。
【0048】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末の製造方法)
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態による固体電解質粉末の製造方法の一例について説明する。
【0049】
図2には、本発明の一実施形態による固体電解質粉末の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローの例を模式的に示す。
【0050】
図2に示すように、第1の製造方法は、
(1)Ca源、Ti源、およびAl源を所定の割合で混合して、混合粉末を得る工程(工程S110)と、
(2)混合粉末を仮焼して、仮焼粉を得る工程(工程S120)と、
(3)仮焼粉を粉砕する工程(工程S130)と、
を有する。
【0051】
以下、各工程について、説明する。
【0052】
(工程S110)
まず、混合粉末が調製される。このため、Ca源、Ti源、およびAl源が準備される。
【0053】
Ca源は、例えば、金属カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、および酢酸カルシウムといったカルボン酸カルシウム塩などから選定されてもよい。
【0054】
Ti源は、例えば、金属Tiおよび/または酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)といった酸化物や、水酸化チタン、フッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、チタンイソプロポキシドやチタンブトキシドといったチタンアルコキシドなどから選定されてもよい。酸化チタン(IV)は、ルチル型またはアナターゼ型のいずれもでもよい。
【0055】
Al源は、例えば、金属アルミニウム、αアルミナ、γアルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、および酢酸アルミニウムといったカルボン酸カアルミニウム塩などから選定されてもよい。
【0056】
各原料は、目的組成を有する粉末が得られるように秤量され、混合される。
【0057】
混合の際には、遊星ボールミルのようなボールミル器が使用されることが好ましい。例えば、各原料は、イソプロパノールのようなアルコール溶媒の存在下で、ジルコニアボールにより湿式混合される。
【0058】
ボールミル器を使用することにより、過剰な混合を行うことなく、各原料を適正に混合できる。また、アルコール溶媒を使用することにより、原料が溶媒中で分解することを抑制できる。
【0059】
その後、原料を含むスラリーが乾燥処理され、アルコール溶媒が除去される。乾燥処理の温度は、特に限られないが、例えば、80℃~250℃の範囲である。
【0060】
これにより、乾燥した混合粉末が得られる。
【0061】
(工程S120)
次に、混合粉末が仮焼される。
【0062】
これにより、混合粉末に含まれる炭酸根および硝酸根などが脱離し、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物との混合物を生成することができる。
【0063】
第1の製造方法では、生成されるペロブスカイト型構造の化合物は、Tiのサイトの一部がAlで置換されるため、一般式はCaTi1-xAlxO3で表される。ここで、x=0.07~0.53である。
【0064】
仮焼の条件は、特に限られないが、目的の混合物を得るためには、仮焼温度は、1000℃以上が好ましい。ただし、仮焼温度が高すぎると、混合粉末において、過度に焼結が進行し、粉砕が困難になる。従って、仮焼温度は、1450℃以下が好ましい。
【0065】
仮焼時間は、例えば、5時間~24時間程度である。ただし、仮焼時間は、仮焼温度によっても変化し、仮焼温度が高いほど、仮焼時間を短くできる。
【0066】
(工程S130)
次に、仮焼粉が粉砕される。
【0067】
これにより、固体電解質粉末が形成される。
【0068】
焼結体の粉砕方法は、特に限られず、従来の一般的な粉砕方法が利用されてもよい。
【0069】
以上の工程により、本発明の一実施形態による固体電解質粉末を製造することができる。
【0070】
なお、上記の第1の製造方法は、単なる一例であって、本発明の一実施形態による固体電解質粉末は、別の方法で製造されてもよい。
【0071】
ただし、非特許文献1に記載の方法では、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.60未満の場合、ペロブスカイト型構造の化合物と同時にマイエナイト型構造の化合物を生成することはできない(非特許文献1の
図1参照)。従って、ペロブスカイト型構造の化合物およびマイエナイト型構造の化合物を含む固体電解質粉末を得るには、工程S110において、原料を極端に混合しないようにして、混合粉末を調合することに留意する必要がある。特に、非特許文献1に記載されているような、硝酸溶液を原料に追加して、炭酸カルシウムを分解する方法では、マイエナイト型構造の化合物を得ることは難しい。
【0072】
(本発明の一実施形態による固体電解質粉末の適用例)
次に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末の適用例について説明する。以下に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質粉末(「第1の粉末」)は、各種態様で各種部材に適用され得る。
【0073】
(固体電解質層用のペースト)
第1の粉末は、SOECの固体電解質層用のペーストとして提供されてもよい。
【0074】
そのようなペースト(以下、「第1のペースト」と称する)は、分散媒と、前述の第1の粉末とを混合することにより、調製されてもよい。
【0075】
分散媒は、特に限られないが、例えば、水、アルコール、ケトン、エステル、エーテルおよび炭化水素の少なくとも一つであってもよい。それらの中でも、ターピネオールやジヒドロターピネオール等のテルペンアルコール系、エチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコール系、デカン、トルエンやキシレン等の炭化水素系、エチルカルビトールやブチルカルビトール等のエーテル系などの溶剤の1種を単独でまたは、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
ペースト中には、粘性や結着性を調整するためにバインダ樹脂を含んでもよい。バインダ樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、ポリカーボネート樹脂及びセルロース樹脂等のうち少なくとも一種が挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれていることが好ましい。
【0077】
(固体電解質層)
第1の粉末は、SOECの固体電解質層に適用されてもよい。
【0078】
その場合、第1の粉末から、前述の第1のペーストが調製され、この第1のペーストを用いて、固体電解質層が形成されてもよい。
【0079】
第1のペーストから固体電解質層を形成する場合、例えば、以下のような工程が実施されてもよい。
【0080】
まず、第1のペーストが燃料極支持体の上に塗布され、塗布膜が形成される。塗布の方法は、特に限られず、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、またはスピンコート法など、一般的な方法が利用されてもよい。
【0081】
次に、塗布膜を乾燥させた後、塗布膜が熱処理され、固体電解質層が形成されてもよい。熱処理の温度は、例えば、1000℃~1450℃の範囲である。
【0082】
(燃料極用の混合粉末)
第1の粉末は、SOECの燃料極用の混合粉末に適用されてもよい。
【0083】
この場合、遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、第1の粉末とが混合されてもよい。遷移金属または遷移金属化合物の粉末は、例えば、ニッケル、銅、鉄、コバルト等の3d遷移元素などの金属または酸化物の粉末である。混合粉末に含まれる第1の粉末の含有量は、例えば、20wt%~90wt%の範囲である。より好ましくは30wt%~80wt%の範囲であり、さらに好ましくは30wt%~70wt%の範囲である。
【0084】
(燃料極用のペースト)
第1の粉末は、SOECの燃料極用のペーストとして提供されてもよい。
【0085】
そのようなペースト(以下、「第2のペースト」と称する)は、分散媒に、前述の燃料極用の混合粉末を添加することにより調製されてもよい。
【0086】
分散媒は、特に限られないが、第1のペーストと同様の分散媒やバインダ樹脂を用いることができる。
【0087】
(燃料極)
第1の粉末は、SOECの燃料極に適用されてもよい。
【0088】
その場合、第1の粉末から、前述の第2のペーストが調製され、この第2のペーストを用いて、燃料極が形成されてもよい。
【0089】
第2のペーストから燃料極を形成する場合、例えば、以下のような工程が実施されてもよい。
【0090】
まず、第2のペーストが固体電解質支持体の上に塗布される。塗布の方法は、特に限られず、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、およびスピンコート法など、一般的な方法が利用されてもよい。
【0091】
次に、第2のペーストを乾燥させた後、第2のペーストが熱処理され、燃料極が形成されてもよい。熱処理の温度は、例えば、1000℃~1450℃の範囲である。
【0092】
(SOEC)
本発明の一実施形態では、第1の粉末を用いてSOECが構成されてもよい。
【0093】
図3には、そのようなSOECの一構成例を模式的に示す。
【0094】
図3に示すように、このSOEC(以下、「単セル」と称する)100は、酸素極110、燃料極120、および両電極の間の固体電解質層130を有する。
【0095】
水蒸気が電解されることを想定した場合、単セル100を外部電源150に接続した際に、燃料極120では、例えば、以下の反応が生じる:
2H2O+4e-→2H2+2O2- (1)式
また、二酸化炭素が電解されることを想定した場合、以下の反応が生じる:
CO2+2e-→CO+O2- (2)式
燃料極120で生じた酸化物イオンは、固体電解質層130内を通り、反対側の酸素極110に達する。
【0096】
酸素極110では、例えば、以下の反応が生じる:
2O2-→O2+4e- (3)式
従って、(1)式~(3)式の反応により、水蒸気または二酸化炭素の電解反応が進行し、水素または一酸化炭素を生成することができる。
【0097】
このような単セル100において、固体電解質層130に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末を適用することができる。例えば、前述の第1の粉末を含む第1のペーストを熱処理することにより、固体電解質層130が形成される。
【0098】
そのような単セル100では、固体電解質層130が低温でも高い酸化物イオン伝導性を有するため、低温においても電解作動中の電解電圧を下げることができる。そのため、低い電力で水素および/または一酸化炭素を生成することができる。
【0099】
これに加えて、またはこれとは別に、単セル100において、燃料極120に、本発明の一実施形態による固体電解質粉末を適用してもよい。例えば、前述の第1の粉末を含む第2のペーストを熱処理することにより、燃料極120が形成されてもよい。
【実施例0100】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の例において、例1~例3は、実施例である。
【0101】
(例1)
前述のような第1の製造方法により、固体電解質粉末を製造した。
【0102】
まず、Ca源としてのCaCO3粉末(高純度化学社製)3.6807gと、Ti源としてのTiO2粉末(富士フィルム和光純薬社製)2.6648gと、Al源としてのAl(NO3)3・9H2O粉末(富士フィルム和光純薬社製)1.3919gとを準備した。
【0103】
次に、遊星ボールミル器およびジルコニアボールを用いて、溶媒の存在下で、これらの粉末を混合した。溶媒には、10gの2-プロパノールを使用した。遊星ボールミルの回転数は300rpmとし、処理時間は60分とした。
【0104】
次に、得られた混合粉末を大気中、高温で2時間保持し、乾燥させた。処理温度は、140℃とした。これにより、溶媒が除去された乾燥混合粉末が得られた。
【0105】
次に、乾燥混合粉末を大気中で仮焼した。
【0106】
処理温度は、1400℃とし、処理時間は、10時間とした。
【0107】
室温まで冷却した後、得られた処理体を乳鉢で粉砕することにより、粉末が製造された。
【0108】
得られた粉末を「粉末1」と称する。
【0109】
粉末1において、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))は、原子比で、0.1であった。
【0110】
(例2)
例1と同様の方法により、粉末を製造した。ただし、この例2では、原料に含まれるCa源、Ti源、およびAl源の量を例1の場合とは変化させた。
【0111】
得られた粉末を「粉末2」と称する。
【0112】
粉末2において、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))は、原子比で、0.3であった。
【0113】
(例3)
例1と同様の方法により、粉末を製造した。ただし、この例3では、原料に含まれるCa源、Ti源、およびAl源の量を例1、例2の場合とは変化させた。
【0114】
得られた粉末を「粉末3」と称する。
【0115】
粉末2において、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))は、原子比で、0.5であった。
【0116】
(評価)
粉末1~粉末3を用いて、以下の評価を実施した。
【0117】
(X線回折分析)
X線回折装置(ブルカー社製 D2PHASER)を用いて、粉末1~粉末3のX線回折分析を実施した。
【0118】
測定結果を
図4~
図6に示す。
図4には、粉末1のX線回折パターンを示し、
図5には、粉末2のX線回折パターンを示し、
図6には、粉末3のX線回折パターンを示す。
【0119】
これらの結果から、いずれの粉末においても、CaTiO3に対応する回折ピークと、マイエナイト型構造の化合物に対応する回折ピークとが出現していることがわかる。このことから、粉末1~粉末3はいずれも、CaTiO3系のペロブスカイト型化合物およびマイエナイト型構造の化合物を含むことが確認された。なお、各粉末において、CaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶構造は、立方晶であった。
【0120】
次に、得られた結果から、WPPF法により、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト型構造の化合物の重量存在比、およびペロブスカイト型構造の化合物の格子定数を算定した。
【0121】
WPPF法には、リガク社の解析ソフト「PDXL2」を使用した。CaTiO3は、PDFカード番号:03-065-3287の回折パターンを、マイエナイト型構造の化合物は、PDFカード番号:01-076-5010の回折パターンを用いて、フィッティングを行った。
【0122】
その結果、粉末1~粉末3において、ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト型構造の化合物の重量存在比は、それぞれ、2.0wt%、6.8wt%、および30.0wt%であった。また、ペロブスカイト型構造の化合物の格子定数は、それぞれ、3.8120Å、3.8094Å、および3.8057Åであった。
【0123】
純粋なCaTiO3は、直方晶であるが、粉末1~粉末3の結晶相は立方晶であり、TiとAlの合計量に対するAlの含有量yの増加につれて格子定数が小さくなっている。
【0124】
このことから、粉末1~粉末3に含まれるCaTiO3系化合物は、Tiのサイトの一部がAlで置換され、CaTi1-xAlxO3の構造を有するものと考えられる。
【0125】
以下の表1には、各粉末において得られた評価結果をまとめて示した。
【0126】
【表1】
(イオン伝導率の評価)
次に、各粉末を用いて焼結体を作製し、交流インピーダンス法により酸化物イオン伝導率の測定を実施した。
【0127】
(測定用試料の作製)
仮焼粉0.7gをφ10mmの超硬金属ダイスに入れ、油圧プレス器(エヌピーエーシステム社製:NT-200H)で10MPaの圧力を印加して一軸成形により圧粉体を作製した。さらに、200MPaで冷間静水圧プレスを行った。圧粉体を大気中、1400℃で10時間熱処理し、焼結体を得た。
【0128】
焼結体の両面を紙やすりで研磨して平滑化した。焼結体の両面に白金ペースト(田中貴金属製:U-3401)を塗布し、大気雰囲気において1000℃で15分間熱処理し、白金電極を焼き付けた。
【0129】
(交流インピーダンスの測定)
焼結体を大気雰囲気の電気炉内(ノレックス社製:Probostat)に設置した。焼結体を白金線が結線された白金電極で挟み、ポテンショガルバノスタット(ソーラトロンアナリティカル社製:1260A)と接続した。インピーダンス測定を実施し、Cole-Coleプロットを得た。測定周波数は10MHz~100mHz、変調電位の振幅は100mVとした。測定により得られたインピーダンス値を焼結体の厚みで除することで、酸化物イオン伝導率を算出した。
【0130】
図7には、各粉末において得られたイオン伝導率の測定結果を示す。
【0131】
図7において、横軸は、温度の逆数(1/T)(単位:K
-1)であり、縦軸は、酸化物イオン伝導率(単位:S/cm)の対数である。また、
図7には、前述の
図1に示した非特許文献1に記載のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物の酸化物イオン伝導率も合わせて示されている。
【0132】
図7から、粉末1~粉末3では、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物で生じた「折れ点」が認められないことがわかる。すなわち、粉末1~粉末3では、イオン伝導度の温度依存性は、一本の直線で近似された。
【0133】
またその結果、粉末1~粉末3では、従来のCaTi1-xAlxO3系化合物と比べて、700℃以下のような低温側においても、高い酸化物イオン伝導率を示すことがわかった。
【0134】
図8には、各粉末において
図7の直線の傾きから得られた活性化エネルギーの値を示す。
図8には、参考のため、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物における活性化エネルギーも示されている。なお、「折れ点」が生じた従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物における活性化エネルギーは、低温側の近似直線から算出した。
【0135】
図8から、粉末1~粉末3は、従来のCaTi
1-xAl
xO
3系化合物に比べて、有意に小さい活性化エネルギーを有することがわかった。
【0136】
このように、粉末1~粉末3では、温度とイオン伝導率の関係において、800℃~900℃の範囲に折れ点が生じない上、活性化エネルギーが比較的小さいことがわかった。
【0137】
従って、粉末1~粉末3では、700℃以下のような低温側においても、有意に高いイオン伝導率を示すと言える。
【0138】
(本発明の態様)
本発明は、以下の態様を有し得る:
(態様1)
固体電解質粉末であって、
ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
当該固体電解質粉末は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質粉末。
(態様2)
前記ペロブスカイト型構造の化合物とマイエナイト型構造の化合物の合計に対するマイエナイト化合物の重量存在比は、0.1wt%~40wt%の範囲である、態様1に記載の固体電解質粉末。
(態様3)
前記ペロブスカイト型構造の化合物のTiサイトの一部は、Alで置換されており、
前記ペロブスカイト型構造の化合物の格子定数は、3.8020Å~3.8150Åの範囲である、態様1または2に記載の固体電解質粉末。
(態様4)
前記ペロブスカイト型構造の化合物の結晶構造は、立方晶である、態様1乃至3のいずれか一つに記載の固体電解質粉末。
(態様5)
遷移金属または遷移金属化合物の粉末と、
態様1乃至4のいずれか一つに記載の固体電解質粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極部材用の粉末。
(態様6)
分散媒と、
態様5に記載の燃料極部材用の粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの燃料極用のペースト。
(態様7)
分散媒と、
態様1乃至4のいずれか一つに記載の固体電解質粉末と、
を有する、固体酸化物形電解セルの固体電解質層用のペースト。
(態様8)
固体酸化物形電解セル用の燃料極用部材であって、
当該燃料極用部材は、遷移金属および固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、燃料極用部材。
(態様9)
固体酸化物形電解セル用の固体電解質層用部材であって、
当該固体電解質層用部材は、固体電解質を有し、
該固体電解質は、ペロブスカイト型構造の化合物と、マイエナイト型構造の化合物とを含み、
前記ペロブスカイト型構造の化合物は、CaおよびTiを含み、
前記固体電解質は、TiとAlの合計量に対するAlの含有量y(=Al/(Ti+Al))が、原子比で、0.05以上0.60未満である、固体電解質層用部材。
(態様10)
燃料極と、
酸素極と、
前記燃料極と前記酸素極との間に設置された固体電解質層と、
を有し、
前記燃料極は、態様8に記載の燃料極用部材で構成され、および/または前記固体電解質層は、態様9に記載の固体電解質層用部材で構成される、固体酸化物形電解セル。