(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173602
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置および照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/10 20230101AFI20231130BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20231130BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231130BHJP
C07F 5/02 20060101ALN20231130BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H01L27/32
C09K11/06 690
C07F5/02 F
C07F5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022085962
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100171446
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 尚幸
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100171930
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 郁一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC21
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD67
3K107DD68
3K107DD69
3K107FF13
4H048AA03
4H048AB92
4H048VA22
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB20
(57)【要約】
【課題】高い発光効率を有し、寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス素子の提供。
【解決手段】発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有し、第1有機化合物が式(1)で示される化合物(X
1、X
2、X
3は水素元素または置換基)である有機エレクトロルミネッセンス素子とする。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、前記第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有し、
前記第1有機化合物が、下記式(1)で示される化合物であることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(式(1)中、X
1、X
2、X
3は、それぞれ水素原子または置換基を表す。)
【請求項2】
上記式(1)における置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、不飽和複素環基、アルキル基から選ばれるいずれかである、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
上記式(1)における置換基が、カルバゾール環またはo-トリル基である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
上記式(1)で示される化合物が、下記式(1-1)で示される化合物である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】
【請求項5】
上記式(1)で示される化合物が、下記式(1-2)で示される化合物である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】
【請求項6】
前記発光材料が、青色発光材料である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光材料が、熱活性化遅延蛍光材料を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光材料が、りん光発光材料を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記発光材料が、蛍光材料を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする、表示装置。
【請求項11】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、これを備える表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子は、薄く、フレキシブルである。このため、有機EL素子は、様々な用途への利用が期待されている。
【0003】
特に、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置と比べて、コントラストが高く、視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、大型テレビ、小型デバイスへの利用が拡大している。また、有機EL素子を用いた照明装置は、発光ダイオード(LED)とは異なり、面発光源であるという特徴がある。このため、有機EL素子を用いた照明装置は、これまでにないフレキシブルな照明装置としての利用が期待されている。
【0004】
有機EL素子は、陰極と陽極との間に発光層が積層されたものである。有機EL素子においては、陰極と陽極との間に、機能を分離した多種類の有機化合物層を積層することにより、性能を向上させてきた。その結果、近年の有機EL素子は、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極のように、多数の有機化合物層が積層された複雑な構成を有している(非特許文献1参照)。
【0005】
また、有機EL素子として、発光材料と、第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含む発光層を、一対の電極間に有するものが提案されている(特許文献1、非特許文献2~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】カーステン ウォルザー(Karsten Walzer)、他3名,「ケミカル レビュー(Chemical Review)」,第107巻,2007年,p1233-1271
【非特許文献2】サトシ セオ,「ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジックス(J.J.Appl.Phys.)」,第53巻,2014年,p042102
【非特許文献3】Jeong-Hwan Lee、外4名,「エーシーエス アップライド マテリアルズ アンド インターフェーシズ(ACS Applied Materials & Interfaces)」,第9巻,2017年,p3277
【非特許文献4】Hejun Li,Ning Xie,Jiaxuan Wang,Yuguang Zhao,Baoyan Liang,Organic Electronics 88(2021)106004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の有機EL素子においては、高い発光効率を有するものであって、かつ、寿命のより長いものが要求されている。
特に、発光材料として、りん光材料または熱活性化遅延蛍光(TADF)材料からなる青色発光材料を用いた有機EL素子では、高い発光効率が得られるものの、寿命が不十分であるため、寿命を長くすることが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高い発光効率を有し、より一層、寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置および照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
【0011】
[1] 発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、前記第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有し、
前記第1有機化合物が、下記式(1)で示される化合物であることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0012】
【化1】
(式(1)中、X
1、X
2、X
3は、それぞれ水素原子または置換基を表す。)
【0013】
[2] 上記式(1)における置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、不飽和複素環基、アルキル基から選ばれるいずれかである、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 上記式(1)における置換基が、カルバゾール環またはo-トリル基である、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
[4] 上記式(1)で示される化合物が、下記式(1-1)で示される化合物である、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
【0016】
[5] 上記式(1)で示される化合物が、下記式(1-2)で示される化合物である、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
【0018】
[6] 前記発光材料が、青色発光材料である、[1]~[5]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記発光材料が、熱活性化遅延蛍光材料を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記発光材料が、りん光発光材料を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記発光材料が、蛍光材料を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする、表示装置。
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする、照明装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有し、第1有機化合物が、式(1)で示される化合物である。このため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、高い発光効率を有し、かつ、寿命の長いものとなる。したがって、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、表示装置および照明装置に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の有機EL素子の一例を説明するための断面模式図である。
【
図2】実施例1および比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
【
図3】実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
【
図4】実施例1、4、5および比較例5~7の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
【
図5】実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図6】実施例1、4,5および比較例5~7の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【
図7】実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
【
図8】実施例1、4、5および比較例5~7の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
【
図9】実施例1および比較例1の有機EL素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、上記課題を解決し、高い発光効率を有し、より一層、寿命の長いEL素子を提供すべく、以下に示すように、鋭意検討を重ねた。
発光材料と、第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含む発光層を有する有機EL素子では、励起錯体から発光材料に効率よくエネルギーが移動することによって、発光効率および寿命を向上させる。このため、励起錯体の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーは、発光材料の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーよりも大きい必要がある。
【0023】
しかしながら、発光材料と、第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含む発光層を有する従来の有機EL素子では、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが、発光材料よりも十分に大きい励起錯体が形成されない場合があった。
特に、発光材料として、りん光材料または熱活性化遅延蛍光(TADF)材料からなる青色発光材料を用いた有機EL素子は、発光材料の励起三重項エネルギーが高い。このため、発光層が、第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含むものであっても、励起錯体によって効率よくエネルギー移動させる効果が十分に得られなかった。
【0024】
そこで、本発明者は、発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有する有機EL素子において、励起錯体を形成するアクセプター性材料に着目して、鋭意検討を重ねた。
その結果、励起錯体を形成するアクセプター性材料として、式(1)で示される化合物を用いればよいことが分かった。より詳細には、式(1)で示される化合物とドナー性材料である第2有機化合物とが形成する励起錯体は、式(1)で示される化合物の骨格によって、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが十分に大きいものとなることを見出した。
【0025】
さらに、本発明者らは、発光材料と、式(1)で示される化合物と、式(1)で示される化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層を有する有機EL素子が、発光材料として、りん光材料または熱活性化遅延蛍光(TADF)材料からなる青色発光材料を用いた場合であっても、高い発光効率を有し、かつ、寿命の長いものとなることを確認し、本発明を想到した。
【0026】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置および照明装置について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「有機エレクトロルミネッセンス素子」
図1は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の一例を説明するための断面模式図である。本実施形態の有機EL素子10は、
図1に示すように、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8が、この順に積層された積層構造を有する。
【0027】
本実施形態においては、
図1に示すように、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7を有する有機EL素子10を例に挙げて説明するが、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子輸送層6、電子注入層7の各層は、必要に応じて設けられるものであり、これらのうち一部または全部が設けられていなくてもよい。
図1に示す有機EL素子10は、基板1と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板1側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0028】
(基板)
基板1の材料としては、樹脂材料、ガラス材料などが挙げられる。基板1の材料として、1種のみを用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
基板1に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板1の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子10が得られるため好ましい。
基板1に用いられるガラス材料としては、石英(SiO2)ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0029】
有機EL素子10がボトムエミッション型のものである場合には、基板1の材料として、透光性を有する基板を用いる。
有機EL素子10がトップエミッション型のものである場合には、基板1の材料として、透光性を有する基板だけでなく、不透明な基板を用いてもよい。不透明な基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0030】
(陽極)
陽極2の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、InSnZnO(インジウム酸化亜鉛錫、ITZO)、In3O3、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnOなどの酸化物からなる導電材料を用いることが好ましい。これらの中でも特に、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
有機EL素子10がボトムエミッション型のものである場合には、陽極2の材料として透光性を有する材料を用いることが好ましい。
【0031】
(正孔注入層)
正孔注入層3の材料としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(Clevios(登録商標)HIL1.3N))、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)などの公知の材料を用いることができる。
【0032】
(正孔輸送層)
正孔輸送層4の材料としては、後述する発光層5において第2有機化合物として含まれる有機化合物と同じ有機化合物を用いることが好ましい。より高い発光効率を有し、かつ、寿命の長い有機EL素子10となるためである。また、正孔輸送層4の材料として、発光層5に含まれる第2有機化合物と同等のエネルギー特性を有し、かつ第2有機化合物とは異なる別の有機化合物を用いてもよい。
【0033】
(発光層)
発光層5は、発光材料と、アクセプター(電子受容体)性材料である第1有機化合物と、ドナー(電子供与体)性材料である第2有機化合物とを含む。第1有機化合物と第2有機化合物は、励起錯体を形成するものである。発光層5中に含まれる第1有機化合物および第2有機化合物は、一部または全部が励起錯体として存在していてもよい。発光層5に含まれる発光材料は、ゲスト材料である。第1有機化合物および第2有機化合物は、ホスト材料である。
【0034】
「第1有機化合物」
発光層5に含まれる第1有機化合物は、下記式(1)で示される化合物である。発光層5に含まれる第1有機化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。第1有機化合物は、第2有機化合物および発光材料の種類、発光層5を備える有機EL素子10の用途などに応じて適宜決定できる。
【0035】
【化4】
(式(1)中、X
1、X
2、X
3は、それぞれ水素原子または置換基を表す。)
【0036】
式(1)で示される化合物は、ドナー性材料である第2有機化合物と励起錯体を形成する。この励起錯体は、式(1)で示される化合物の骨格を有しているため、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが十分に大きいものとなる。
式(1)中のX1、X2、X3は、それぞれ水素原子または置換基を表す。X1、X2、X3のうち一部または全部が置換基である場合、X1、X2、X3のうち置換基であるものの数は特に限定されない。X1、X2、X3のうち2つまたは3つが置換基である場合、2つまたは3つの置換基は一部または全部が同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0037】
X1、X2、X3のうち1つが置換基である場合、X1のみが置換基であることが好ましく、X1、X2、X3のうち2つが置換基である場合、X2およびX3が置換基であることが好ましい。一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーのより大きい励起錯体を形成できる式(1)で示される化合物となるためである。
また、X1、X2、X3が置換基である場合、X1、X2、X3はそれぞれ、式(1)で示される化合物の骨格を形成している縮合環のホウ素原子とベンゼン環に対してパラ位であって、縮合環を形成している酸素原子とベンゼン環に対してメタ位である位置に配置されていることが好ましい。一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーのより大きい励起錯体を形成できる式(1)で示される化合物となるためである。
【0038】
式(1)における置換基としては、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、不飽和複素環基、アルキル基などが挙げられる。
【0039】
式(1)における置換基が、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である場合の例としては、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられ、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーの大きい励起錯体を形成できる式(1)で示される化合物となるため、o-トリル基であることが好ましい。
【0040】
式(1)における置換基が、不飽和複素環基である場合の例としては、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、インドール環、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環などが挙げられ、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーの大きい励起錯体を形成できる式(1)で示される化合物となるため、カルバゾール環であることが好ましい。式(1)における置換基が、カルバゾール環である場合、式(1)で示される化合物の骨格を形成しているベンゼン環と、カルバゾール環の窒素原子とが結合していることがより好ましい。製造が容易な式(1)で示される化合物となるためである。
【0041】
式(1)における置換基が、アルキル基である場合の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
【0042】
式(1)で示される化合物は、具体的には、下記式(1-1)で示される化合物(DOBNA-CZ)または下記式(1-2)で示される化合物(DOBNA-3)であることが好ましい。式(1)で示される化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体が、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーのより大きいものとなるためである。
【0043】
【0044】
【0045】
「第2有機化合物」
発光層5に含まれる第2有機化合物は、第1有機化合物と励起錯体を形成する。発光層5に含まれる第2有機化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。第2有機化合物は、第1有機化合物および発光材料の種類、発光層5を備える有機EL素子10の用途などに応じて適宜決定できる。
【0046】
第2有機化合物としては、例えば、下記式で示される4-SF-DMAC、m-CBP、3-SF-DMAC、2-SF-DMAC、TcTa、Tris-PCzなどが挙げられる。これらの有機化合物の中でも、一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーの大きい励起錯体を形成できる化合物であるため、第2有機化合物が4-SF-DMACであることがより好ましい。
【0047】
【0048】
発光層5の形成に使用したホスト材料(第1有機化合物および第2有機化合物)中における第1有機化合物と第2有機化合物との比は、第1有機化合物および第2有機化合物の種類に応じて適宜決定できる。第1有機化合物と第2有機化合物との質量比(第1有機化合物:第2有機化合物)は、3:7~7:3であることが好ましく、1:1であることが最も好ましい。第1有機化合物と第2有機化合物との質量比が3:7~7:3の範囲内であると、第1有機化合物と第2有機化合物とが励起錯体を形成しやすくなるためである。
【0049】
「発光材料」
発光材料としては、蛍光材料、りん光材料、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料など公知のものを用いることができる。発光材料は、緑色発光材料、赤色発光材料、青色発光材料のいずれであってもよい。発光材料が、青色発光材料である場合、式(1)で示される化合物の骨格によって、第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが大きいものとなることによる効果が顕著となる。
【0050】
青色発光材料としては、具体的には、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料である下記式で示されるν-DABNA、りん光材料であるFlrpic、蛍光材料であるBD-1、BSB4などが挙げられる。これらの青色発光材料の中でも、色純度が高く、発光効率の高い有機EL素子10となるため、ν-DABNAを用いることが好ましい。
【0051】
【0052】
発光層5(ホスト材料およびゲスト材料)中に含まれる発光材料(ゲスト材料)の含有量は、ホスト材料およびゲスト材料の種類に応じて適宜決定できる。発光層5中の発光材料(ゲスト材料)の含有量は、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。発光材料(ゲスト材料)の含有量が上記範囲内であると、より高い発光効率を有し、かつ、寿命の長い有機EL素子10となるためである。
【0053】
(電子輸送層)
電子輸送層6の材料としては、発光層5に第1有機化合物として含まれる式(1)で示される化合物と同じ有機化合物を用いることが好ましい。より高い発光効率を有し、かつ、寿命の長い有機EL素子10となるためである。また、電子輸送層6の材料として、発光層5に含まれる第1有機化合物と同等のエネルギー特性を有し、かつ第1有機化合物とは異なる別の有機化合物を用いてもよい。
【0054】
(電子注入層)
電子注入層7の材料としては、例えば、複素環式芳香族化合物、スピロ環化合物などが挙げられる。
複素環式芳香族化合物としては、例えば、下記式で示されるPy-hpp2、Py-hpp3、フェナントレンの炭素のうち2つを窒素で置換したものなどが挙げられ、発光効率の高い有機EL素子10となるため、Py-hpp2またはPy-hpp3を用いることが好ましい。
スピロ環化合物としては、例えば、下記式で示されるspiro-pye(2,7-ジピレニル-9,9-スピロビフルオレン)などが挙げられる。
【0055】
【0056】
電子注入層7は、上記の材料を1種のみ含むものであってもよいし、2種以上の材料を含むものであってもよい。電子注入層7が2種以上の材料を含むものである場合、電子注入層7の材料として、発光層5において第1有機化合物として含まれる式(1)で示される化合物を含むことが好ましい。寿命の長い有機EL素子10となるためである。
【0057】
電子注入層7が式(1)で示される化合物を含む場合、電子注入層7中に含まれる式(1)で示される化合物の含有量は、50質量%~70質量%であることが好ましく、60質量%~65質量%であることがより好ましい。式(1)で示される化合物の含有量が上記範囲内であると、より高い発光効率を有し、かつ、寿命の長い有機EL素子10となるためである。
【0058】
(陰極)
陰極8の材料としては、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金などが挙げられる。これらの中でも陰極8の材料としては、Au、Ag、Alのいずれかを用いることが好ましい。
有機EL素子10がトップエミッション型のものである場合には、陰極8の材料として透光性を有する材料を用いることが好ましい。
【0059】
(製造方法)
次に、本実施形態の有機EL素子10の製造方法の一例として、
図1に示す有機EL素子10の製造方法を説明する。
本実施形態の有機EL素子10の製造方法では、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8をこの順に形成する。
【0060】
まず、基板1上に、陽極2を形成する。陽極2は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法など公知の方法により製造できる。
本実施形態においては、基板1として、例えば、ガラスなどからなる基板上に、陽極2が形成された市販品を用いてもよい。
次に、陽極2が形成された基板1上に、正孔注入層3を形成する。正孔注入層3は、例えば、正孔注入層3となる材料を溶媒に分散または溶解させた溶液を、陽極2が形成された基板1上に塗布する方法など、公知の方法を用いて形成できる。
【0061】
その後、正孔注入層3上に、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8の各層を、この順に、それぞれ真空蒸着法、スパッタ法、化学気相成長法(CVD法)など公知の方法を用いて形成する。正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8は、真空蒸着法により真空一貫で形成することが好ましい。
以上の工程を行うことにより、
図1に示す有機EL素子10が得られる。
【0062】
本実施形態の有機EL素子10は、発光材料と、アクセプター性材料である第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成するドナー性材料である第2有機化合物とを含む発光層5を有し、第1有機化合物が、式(1)で示される化合物である。このため、以下に示すように、本実施形態の有機EL素子10は、高い発光効率を有し、かつ、寿命の長いものとなる。
【0063】
すなわち、本実施形態の有機EL素子10は、陽極2から注入されて、正孔輸送層4を経て発光層5に到達した正孔と、陰極8から注入されて、電子輸送層6を経て発光層5に到達した電子とが、発光層5内で再結合することにより発光する。このとき、発光層5に含まれるドナー性材料である第2有機化合物に正孔が注入され、アクセプター性材料である式(1)で示される化合物からなる第1有機化合物に電子が注入されて、第1有機化合物と第2有機化合物とが励起錯体を形成する。励起錯体において、正孔と電子とが再結合して生じた一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーは、励起錯体から発光材料に移動する。
【0064】
本実施形態の有機EL素子10では、第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが、発光材料の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーよりも十分に大きい。このため、励起錯体から発光材料へのエネルギー移動が効率よく行われ、有機EL素子10の発光効率および寿命を向上させる効果が十分に発揮される。その結果、発光材料として、例えば、りん光材料または熱活性化遅延蛍光(TADF)材料からなる青色発光材料を用いた発光層5を有する有機EL素子10であっても、高い発光効率を有し、かつ、寿命の長いものとなる。
【0065】
「表示装置」
本実施形態の表示装置は、本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えるものである。このような表示装置としては、詳細な図示を省略するが、
図1に示す本実施形態の有機EL素子10の他に、例えば、陽極2および陰極8に電流を供給する配線などを備えたものが挙げられる。
本実施形態の表示装置は、発光効率が高く、寿命の長い有機EL素子を含むため、優れた性能を有する。
【0066】
「照明装置」
本実施形態の照明装置は、本実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えるものである。このような照明装置としては、詳細な図示を省略するが、例えば、
図1に示す本実施形態の有機EL素子10の他に、陽極2および陰極8に接続される各種端子、有機EL素子10を駆動するための回路などを備えたものが挙げられる。
本実施形態の照明装置は、発光効率が高く、寿命の長い有機EL素子を含むため優れた性能を有する。
【実施例0067】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実験例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
以下に示す方法により、
図1に示す有機EL素子10を得た。
SiO
2からなる基板1上に、ITO(酸化インジウムスズ)からなる厚み70nmの陽極2が設けられた基板1を用意した。
【0069】
次に、陽極2が設けられた基板1の表面に対して、酸素プラズマによるドライ洗浄と、アルカリ性溶液によるウェット洗浄と、UVオゾンの照射とをこの順に行うことによって、表面の不純物を除去した。不純物を除去した後の基板1の陽極2上に、純水と、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(Clevios(登録商標)HIL1.3N))と、イソプロパノールの体積比が60:35:5である溶液を塗布する方法により、厚み10nmの正孔注入層3を形成した。
【0070】
次に、陽極2上に形成された正孔注入層3上に、厚み20nmの正孔輸送層4と、厚み30nmの発光層5と、厚み40nmの電子輸送層6と、厚み5nmの電子注入層7と、厚み100nmの陰極8とをこの順に、真空蒸着法により真空一貫で形成した。
より詳細には、正孔注入層3上に、真空蒸着法により、下記式で示される4-SF-DMACからなる正孔輸送層4を形成した。
【0071】
次に、正孔輸送層4上に、発光材料(ゲスト材料)である下記式で示されるν-DABNAと、第1有機化合物(ホスト材料(アクセプター性材料))である式(1-1)で示される化合物(DOBNA-CZ)と、第2有機化合物(ホスト材料(ドナー性材料))である下記式で示される4-SF-DMACとを共蒸着する方法により、発光材料を1質量%含む発光層5を形成した。発光層5の形成に使用したホスト材料中における第1有機化合物と第2有機化合物との質量比は、1:1(第1有機化合物:第2有機化合物)とした。
【0072】
次に、発光層5上に、真空蒸着法により、式(1-1)で示される化合物からなる電子輸送層6を形成した。
次に、電子輸送層6上に、式(1-1)で示される化合物と、下記式で示されるPy-hpp2とが、6:4(式(1-1)で示される化合物:Py-hpp2)の質量比となるように共蒸着することにより、電子注入層7を形成した。
その後、電子注入層7上に、真空蒸着法により、アルミニウムからなる陰極8を形成した。
以上の工程を行うことにより、実施例1の有機EL素子10を得た。
【0073】
【0074】
(実施例2)
電子注入層7の材料として、Py-hpp2に代えて、下記式で示されるPy-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の有機EL素子10を得た。
【0075】
【0076】
(実施例3)
発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、式(1-2)で示される化合物(DOBNA-3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の有機EL素子10を得た。
【0077】
(実施例4)
正孔輸送層4および発光層5の第2有機化合物の材料として、4-SF-DMACに代えて、下記式で示されるm-CBPを用いたことと、電子注入層7の材料として、Py-hpp2に代えて、Py-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の有機EL素子10を得た。
【0078】
【0079】
(実施例5)
正孔輸送層4および発光層5の第2有機化合物の材料として、4-SF-DMACに代えて、下記式で示される3-SF-DMACを用いたことと、発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、式(1-2)で示される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5の有機EL素子10を得た。
【0080】
【0081】
(比較例1)
発光層5の第1有機化合物、電子輸送層6および電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物(DOBNA-CZ)に代えて、下記式で示されるTmBPhTzを用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を得た。
【0082】
【0083】
(比較例2)
発光層5の第1有機化合物、電子輸送層6および電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、下記式で示されるm-DBF-Ph-DRZを用いたことと、電子注入層7の材料として、Py-hpp2に代えて、Py-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の有機EL素子を得た。
【0084】
【0085】
(比較例3)
発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、下記式で示されるmSiTRZを用いたことと、電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて下記式で示されるspiro-pyeを用い、Py-hpp2に代えてPy-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の有機EL素子を得た。
【0086】
【0087】
(比較例4)
発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、下記式で示されるP3PyPh用いたことと、電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えてspiro-pyeを用い、Py-hpp2に代えてPy-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例4の有機EL素子を得た。
【0088】
【0089】
(比較例5)
正孔輸送層4および発光層5の第2有機化合物の材料として、4-SF-DMACに代えて、m-CBPを用いたことと、発光層5の第1有機化合物、電子輸送層6および電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、m-DBF-Ph-DRZを用いたことと、電子注入層7の材料として、Py-hpp2に代えて、Py-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例5の有機EL素子を得た。
【0090】
(比較例6)
正孔輸送層4および発光層5の第2有機化合物の材料として、4-SF-DMACに代えて、m-CBPを用いたことと、発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、mSiTRZを用いたことと、電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えてm-DBF-Ph-DRZを用い、Py-hpp2に代えてPy-hpp3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例6の有機EL素子を得た。
【0091】
(比較例7)
正孔輸送層4および発光層5の第2有機化合物の材料として、4-SF-DMACに代えて、3-SF-DMACを用いたことと、発光層5の第1有機化合物および電子輸送層6の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて、m-DBF-Ph-DRZを用いたことと、電子注入層7の材料として、式(1-1)で示される化合物に代えて式(1-2)で示される化合物(DOBNA-3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例7の有機EL素子を得た。
【0092】
このようにして得られた実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子について、それぞれ第1有機化合物(ホスト材料(アクセプター性材料))、第2有機化合物(ホスト材料(ドナー性材料))、電子注入層の材料を、表1または表2に示す。
【0093】
【0094】
【0095】
[有機EL素子の印加電圧と発光輝度との関係]
実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例1~比較例7の有機EL素子について、それぞれケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-110」を用いて輝度を測定した。その結果を
図2~
図4に示す。
【0096】
図2は、実施例1および比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図3は、実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図4は、実施例1、4、5および比較例5~7の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
また、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子において、輝度が1cd/m
2である時、輝度が100cd/m
2である時、輝度が1000cd/m
2である時の駆動電圧の測定結果を、表1または表2に示す。
【0097】
表1および表2、
図2~
図4に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例1~比較例7の有機EL素子は、いずれも駆動電圧が低く、印加電圧と輝度との関係に有意な差は見られなかった。
【0098】
[有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係]
実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子について、それぞれケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて、印加電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を
図5および
図6に示す。
図5は、実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図6は、実施例1、4,5および比較例5~7の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【0099】
図5および
図6に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子において、印加電圧と電流密度との関係に有意な差は見られなかった。
【0100】
[有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係]
実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子について、それぞれケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて、電流密度と外部量子効率との関係を調べた。その結果を
図7および
図8に示す。
図7は、実施例1~3および比較例2~4の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図8は、実施例1、4、5および比較例5~7の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
【0101】
図7および
図8に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2、4~6の有機EL素子において、電流密度と外部量子効率との関係はほぼ同程度であった。
しかし、
図7および
図8に示すように、比較例3および比較例7の有機EL素子は、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2、4~6の有機EL素子と比較して、外部量子効率の低いものであった。
この理由は、比較例3の有機EL素子では、ドナー性材料(4-SF-DMAC)とアクセプター性材料(mSiTRZ)とによって形成される励起錯体における一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが低いため、励起錯体から発光材料に効率よくエネルギー移動しなかったためであると推定される。
比較例7の有機EL素子では、電子注入層の材料として式(1-2)で示される化合物(DOBNA-3)を用いたことによって、発光層へのエネルギー障壁が高くなったためであると推定される。
【0102】
[有機EL素子の輝度と外部量子効率との関係]
実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子について、それぞれケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて、輝度が100cd/m2である時と、輝度が1000cd/m2である時の外部量子効率(EQE:External Quantum Efficiency)を算出した。輝度は、コニカミノルタ社製の「LS-110」を用いて測定した。その結果を表1または表2に示す。
【0103】
表1および表2に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2、4~6の有機EL素子は、いずれも外部量子効率が高く、優れた発光効率を有するものであり、輝度と外部量子効率との関係に有意な差は見られなかった。
【0104】
[有機EL素子の駆動寿命測定]
実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2~比較例7の有機EL素子について、それぞれ測定開始時の輝度を100cd/m2とし、EHC社製の「有機EL寿命測定装置」により、経過時間と輝度との関係を測定した。このとき有機EL素子それぞれに対し、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて、輝度が100cd/m2となる測定開始時の電流が、一定の値で継続して流れるように駆動電圧を調整した。また、輝度の測定には、コニカミノルタ社製の輝度計(LS-110)を用いた。測定開始時の輝度(100cd/m2)が75%(75cd/m2)となるまでの時間を表1または表2に示す。
【0105】
表1および表2に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子は、いずれも比較例2~比較例7の有機EL素子と比較して、100cd/m2における輝度が75%となるまでの寿命の長いものであった。
特に、発光層に含まれる第1有機化合物が式(1-1)で示される化合物であって、電子注入層が式(1-1)で示される化合物を含む実施例1の有機EL素子は、比較例2~7の有機EL素子と比較して、100cd/m2における輝度が75%となるまでの寿命が2倍以上であり、長寿命であった。
また、発光層に含まれる第2有機化合物が4-SF-DMACである実施例2の有機EL素子では、発光層に含まれる第2有機化合物がm-CBPである実施例4の有機EL素子と比較して、長寿命であった。
【0106】
[有機EL素子の評価]
図3~
図8、表1および表2に示すように、実施例1~実施例5の有機EL素子、および比較例2、4~6の有機EL素子は、いずれも優れた発光効率を有し、電子注入性は同程度であると推定される。しかし、実施例1~実施例5の有機EL素子は、いずれも比較例2~比較例7の有機EL素子と比較して寿命の長いものであった。
【0107】
この結果は、実施例1~実施例5の有機EL素子の発光層において、式(1)で示される化合物である第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体の一重項励起状態および三重項励起状態のエネルギーが十分に大きいことによるものであると推定される。また、電子注入層の材料として式(1)で示される化合物を用いた比較例7の有機EL素子が、実施例1~実施例5の有機EL素子と比較して寿命が短いことからも、第1有機化合物が式(1)で示される化合物であることが長寿命になった理由であるものと推定される。
【0108】
[有機EL素子の発光特性測定]
実施例1および比較例1の有機EL素子について、コニカミノルタ社製の光度計(CS-2000A)を用いて、発光スペクトルを測定した。その結果を
図9に示す。
図9は、実施例1および比較例1の有機EL素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【0109】
図9に示すように、実施例1の有機EL素子の発光スペクトルは、波長470nm付近にピークを有するものであった。比較例1の有機EL素子の発光スペクトルも、実施例1の有機EL素子と同様に、波長470nm付近にピークを有するものであった。しかし、実施例1の有機EL素子の発光スペクトルは、比較例1の有機EL素子と比較して発光スペクトルの幅が狭いものであった。すなわち、実施例1の有機EL素子の発光は、比較例1の有機EL素子の発光と比較して鮮やかな青色光であった。
【0110】
発光材料は固有のエネルギー励起状態を持っており、実施例1の有機EL素子と比較例1の有機EL素子とは発光材料が同じである。このため、実施例1の有機EL素子と比較例1の有機EL素子とにおける発光スペクトルの幅の差は、実施例1の有機EL素子において、第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体から発光材料へのエネルギー移動によって、比較例1の有機EL素子と比較してエネルギー移動が効率よく行われたためであると推定される。
【0111】
上述した実施例では、本発明の有機EL素子の一例として、発光層に含まれる発光材料が、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の1つであるν-DABNAである有機EL素子を用いた。しかし、発光材料と、第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含む発光層を有する有機EL素子では、発光材料が熱活性化遅延材料ではなく、蛍光りん光発光材料および/または蛍光材料である場合にも、非特許文献2および非特許文献4に記載されているように、励起錯体から発光材料へ効率よくエネルギー移動できる(非特許文献2・非特許文献4)。
【0112】
したがって、式(1)で示される化合物である第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体による効果も、発光層に含まれる発光材料が、ν-DABNAである場合にのみ得られる効果ではない。すなわち、ν-DABNAに代えて、ν-DABNAではない他の熱活性化遅延蛍光(TADF)材料、りん光発光材料、蛍光材料から選ばれるいずれの発光材料を含む場合においても、式(1)で示される化合物である第1有機化合物と第2有機化合物とが形成する励起錯体によって、効率よくエネルギー移動させる効果が十分に得られることは明らかである。
【0113】
よって、上述した実施例における結果は、式(1)で示される化合物である第1有機化合物と、第1有機化合物と励起錯体を形成する第2有機化合物とを含む発光層に含まれるを発光材料が、りん光発光材料および/または蛍光材料である有機EL素子においても適用可能であることを示すものである。
1…基板、2…陽極、3…正孔注入層、4…正孔輸送層、5…発光層、6…電子輸送層膜、7…電子注入層、8…陰極、10…有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)。