(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173717
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】リチウム含有スラグ、並びに有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20231130BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20231130BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086163
(22)【出願日】2022-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】永倉 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA15
4K001DA05
4K001HA01
4K001KA06
4K001KA13
5H031HH03
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】Li及びAlを含む廃リチウムイオン電池等の原料を熔融して得られるLi含有スラグにおいて、フラックス添加量を抑えつつスラグ融点を所定温度以下に効果的にコントロールでき、また、スラグ量を抑えてLiを効果的に濃縮させたスラグを提供する。
【解決手段】本発明は、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融して得られるLi含有スラグであって、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、Alを30質量%以下、Mnを6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融して得られるLi含有スラグであって、
質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、
Alを30質量%以下、
Mnを6質量%以上、
Liを3質量%以上20質量%以下、
Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する、
Li含有スラグ。
【請求項2】
質量比でSi/Li<0.35の関係を有する、
請求項1に記載のLi含有スラグ。
【請求項3】
リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、
前記原料から、Alにより構成される外装缶を取り除く処理を含む前処理工程と、
前記前処理工程を経て得られた原料を熔融して、Li含有スラグと、有価金属を含むメタルとを得る熔融工程と、を有し、
前記熔融工程で得られる前記Li含有スラグが、
質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、
Alを30質量%以下、
Mnを6質量%以上、
Liを3質量%以上20質量%以下、
Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する、
有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記熔融工程では、熔体中の酸素分圧が10-14atm以上10-11atm以下となるように制御する、
請求項3に記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有スラグ、並びに有価金属の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に、負極材と、正極材と、セパレータと、電解液とを封入した構造を有している。
【0003】
例えばリチウムイオン電池においては、外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属により構成される。また、負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)により構成される。また、正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)により構成される。また、セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等から構成される。また、電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含んで構成される。
【0004】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池もある。このような、使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する)を資源として再利用することが求められている。
【0005】
再利用の手法としては、廃リチウムイオン電池を高温炉で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理することで、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)に代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属はこれを極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制し合金として回収する。
【0006】
例えば、特許文献1では、Al2O3、SiO2、CaO、及びMnOを含み、3%<Li2O<20%、1%<MnO<7%、38%<Al2O3<65%、CaO<55%、及びSiO2<45%、の重量組成であることを特徴とするLi2O担持冶金スラグについての技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のLi2O担持冶金スラグでは、Al2O3を38%超の含有率で含んでおり、スラグ融点を高めてしまうだけでなく、スラグ量を増加させてしまう。そのため、廃リチウムイオン電池等の原料から有価金属を製造するプロセスにおいて、このようなLi2O担持冶金スラグが生成すると、スラグ融点を低下させるためにフラックス添加量を多くする必要性が生じる。また、フラックス添加量が増えることによって、スラグ生成量(スラグ量)が増加してしまうため、スラグ中のLi含有率が低減し、十分にLiを濃縮させたスラグが得られない。また、Li2O担持冶金スラグ中のMnOが7質量%未満であり、原料中のMnはスラグに含まれない場合にはメタルに分配され、不純物となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、Li及びAlを含む廃リチウムイオン電池等の原料を熔融して得られるLi含有スラグにおいて、フラックス添加量を抑えつつスラグ融点を所定温度以下に効果的にコントロールでき、また、スラグ量を抑えてLiを効果的に濃縮させたスラグ、並びにそのスラグを生成させることを含む有価金属の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融して得られるLi含有スラグであって、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、Alを30質量%以下、Mnを6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する、Li含有スラグである。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、質量比でSi/Li<0.35の関係を有する、Li含有スラグである。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を製造する方法であって、前記原料から、Alにより構成される外装缶を取り除く処理を含む前処理工程と、前記前処理工程を経て得られた原料を熔融して、Li含有スラグと、有価金属を含むメタルとを得る熔融工程と、を有し、前記熔融工程で得られる前記Li含有スラグが、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、Alを30質量%以下、Mnを6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する、有価金属の製造方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記熔融工程では、熔体中の酸素分圧が10-14atm以上10-11atm以下となるように制御する、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フラックス添加量を抑えつつスラグ融点を所定温度以下に効果的にコントロールでき、また、スラグ量を抑えてLiを効果的に濃縮させたスラグ、並びにそのスラグを生成させることを含む有価金属の製造方法を提供することができる。
【0016】
また、このようなLi含有スラグを生成させる熔融処理により、原料中のMnが効果的にスラグに分配され、有価金属を含むメタルの純度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0018】
≪1.リチウム含有スラグ≫
本実施の形態に係るリチウム(Li)含有スラグ(以下、単に「スラグ」ともいう)は、Li及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融処理して得られるものである。なお、廃リチウムイオン電池を含む原料とは、使用済みのリチウムイオン電池(廃電池)のみならず、その廃電池の構成部品も含む概念である。
【0019】
Li含有スラグは、Liを分離抽出して回収するための原料に用いられる。したがって、Li含有スラグは、Liが効果的に濃縮されて、その含有割合が大きいものであることが好ましい。
【0020】
具体的に、本実施の形態に係るLi含有スラグは、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係の組成を有し、Alを30質量%以下、マンガン(Mn)を6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する、ことを特徴とする。
【0021】
Li含有スラグは、Alを含む。Li含有スラグに含まれるAlは、原料の廃リチウムイオン電池を構成する外装缶や、正極活物質を保持する集電体等に由来する。Li含有スラグでは、そのAlの含有割合が30質量%以下である。また、Alの含有割合は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
このように、Alの含有割合が30質量%以下であることにより、スラグ融点が抑えられ、熔融処理においてAlに対して所定の割合で添加するフラックスの量を抑えることができる。そして、フラックス添加量が抑えられることにより、結果として、スラグ量(スラグ生成量)を抑えることができ、スラグに含有されるLiの濃度を高めることができる。すなわち、スラグ中にLiを効果的に濃縮することができる。
【0023】
Li含有スラグにおいては、Liの含有割合が3質量%以上である。また、Liの含有割合は、4質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。Liの含有割合が3質量%以上のスラグでは、Liが有効に濃縮されており、スラグの融点を下げることができるとともに、そのスラグからのLi回収のコストを低減できる。なお、Liの含有割合の上限値としては、特に限定されないが、20質量%以下であることにより、熔融処理において使用する炉の炉壁耐火物の損傷を防ぐことができる。
【0024】
また、Li含有スラグにおいては、AlとLiとの質量比であるAl/Liの値が5未満(Al/Li<5)である。また、Al/Li<4であることが好ましく、Al/Li<3であることがより好ましい。このように、Al/Li<5の関係を満たすことで、スラグに生成するAl2O3の量を低減できることに加えて、熔融処理でのフラックス添加量も抑えることができ、その結果、スラグ中のLi濃度を効果的に高めることができる。
【0025】
Li含有スラグにおいては、Siを0質量%以上、7質量%以下の割合で含有する。また、Si含有割合は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。Si含有割合が7質量%以下であることにより、スラグ中のLi含有割合を高めることができる。
【0026】
また、Li含有スラグにおいては、SiとLiとの質量比であるSi/Liの値が0.7未満(Si/Li<0.7)である。このように、Si/Li<0.7の関係を満たすスラグが得られるように熔融処理を行うことで、スラグ中のLi含有割合を効果的に高めることができる。すなわち、熔融処理では、例えばスラグ中に生成するAl2O3によるスラグ融点の上昇をフラックスの添加によって抑えるが、スラグ融点を低下させる効果が比較的少ない二酸化ケイ素(SiO2)の使用やSiの混入をできるだけ避けることで、効率的にスラグ中のLi含有割合を高めることができる。
【0027】
なお、フラックスとしては、後述するが、スラグ融点を低下させる効果の大きい酸化カルシウム(CaO)等を使用することが好ましい。
【0028】
さらに、Li含有スラグにおいては、質量比でSi/Li<0.35であることがより好ましい。Si/Li<0.35の関係を満たすことで、スラグからLiを分離抽出する際のLi抽出率(浸出率)を向上させることができる。例えば、Li含有スラグに含まれるLiを、鉱酸等を使用して液中に抽出(浸出)するにあたり、SiOがLiの周りに存在すると、そのLi抽出率が急激に低下する。そのため、Li含有スラグにおいては、好ましくはSi/Liが0.35未満であることで、Liを効果的にかつ効率的に分離抽出することができる。
【0029】
Li含有スラグにおいては、Mnを6質量%以上の割合で含有する。また、Mnの含有割合は、8質量%以上であることが好ましく、9.5質量%以上であることがより好ましい。Li含有スラグにおけるMnの含有割合が少なくとも6質量%以上であることは、原料に含まれるMnの過半の割合がスラグに分配されていることを意味する。すなわち、熔融処理においてLi含有スラグと共に生成するメタルへのMnの分配を最低限とすることができるスラグである。
【0030】
なお、Li含有スラグにおけるMn含有割合が6質量%以上であるとき、スラグ生成量が同等の場合であっても、メタル中のMn含有割合は2質量%以下とすることができ、メタル中の有価金属の純度を高めることができる。
【0031】
詳しくは後述するが、廃リチウムイオン電池を含む原料に対する熔融処理において、熔体中の酸素分圧を制御することで、Li含有スラグ中のMnの含有割合を6質量%以上とすることができる。具体的には、熔体の酸素分圧を10-14atm以上10-11atm以下の範囲に制御することにより、原料に含まれるMnの過半の割合をスラグに分配させ、同じタイミングで得られるメタルへのMnの分配を抑えることができる。
【0032】
≪2.有価金属の製造方法≫
本実施の形態に係る有価金属の製造方法は、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する廃リチウムイオン電池を含む原料から、有価金属(例えばCu、Ni、Co)を分離回収する方法である。したがって、この方法は、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0033】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、廃リチウムイオン電池を含む原料からAlにより構成される外装缶を取り除く処理を含む前処理工程と、前処理工程を経て得られた原料を熔融して、Li含有スラグと、有価金属を含むメタルとを得る熔融工程と、を有する。
【0034】
そして、この方法では、熔融工程で得られるLi含有スラグが、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、Alを30質量%以下、Mnを6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有するものであることを特徴としている。
【0035】
原料は、上述したように、廃リチウムイオン電池を含むものである。廃リチウムイオン電池は、使用済みの廃電池そのもののみならず、その廃電池の構成部品も含む概念である。また、その原料に含まれる有価金属は、当該製造方法の対象となるものであって、特に限定されないが、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0036】
[廃電池前処理工程]
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔融処理してLi含有スラグと有価金属により構成されるメタルとの還元物を得るにあたり、その熔融処理に供する被熔融物(被熔融原料、炉装入物)を準備する工程である。特に、廃電池前処理工程S1では、Alにより構成される外装缶を取り除く処理を含む。
【0037】
廃リチウムイオン電池は、一般的に、Alにより構成される外装缶の内部に、電解液や正極/負極の活物質が含まれて構成され、密閉系である。そのため、そのままの状態で処理を進めると、例えば外装缶の内部の電解液等によって爆発が生じる等の恐れがあり危険である。また、上述のように、外装缶は主にAlにより構成されているため、そのままの状態で熔融処理を施すと、スラグ中にAlが分配されAl含有量が増加する。
【0038】
そこで、廃電池前処理工程S1では、少なくとも、Alにより構成される外装缶を取り除く処理を行う。外装缶を取り除く処理を行うことで、外装缶の内部の電解液も除去でき安全性を高めた処理を行うことができ、また、Cu、Ni、Co等の有価金属の回収生産性を高めることができる。また、外装缶に由来するAlの混入を避けることができることから、スラグ中のAl含有割合を低減することができる。言い換えると、廃電池前処理工程S1での外装缶を取り除く処理により、熔融処理により得られるスラグ(Li含有スラグ)のAl含有割合を調整することができる。
【0039】
このように、外装缶に含まれるAlを分離することで、熔融工程S3に装入されるAlの割合を大幅に削減することができる。これにより、Alが含まれることでその含有量に比例して添加するフラックの使用量を大幅に抑えることができる。そしてその結果、熔融工程S3を経て得られるスラグ量を大幅に圧縮でき、スラグ中に含まれるLiの濃度を引き上げることができる。
【0040】
外装缶を取り除く具体的な方法としては、特に限定されない。外装缶を含む廃リチウムイオン電池を放電させたのち、200℃~300℃の温度で焙焼することで電解液を除去して電池内容物(焙焼物)を得る。そして、得られた電池内容物に対して粉砕処理を施して篩分けすることで、Alを含む篩上と、熔融対象となる炉装入物とに分離する。Alは、軽度の粉砕であっても容易に粉砕物となって効率的に分離できる。
【0041】
なお、粉砕処理は、次工程以降の乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることも目的の一つであり、反応効率を高めることで、Cu、Ni、Co等の有価金属の回収率を高めることができる。粉砕方法としては、特に限定されず、カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて、電池の内容物(焙焼物)を粉砕することができる。
【0042】
[予備加熱工程]
廃電池前処理工程S1を経た廃リチウムイオン電池の粉砕物に対して、必要に応じて予備加熱工程S2を設け、所定の温度に加熱して酸化焙焼の処理を行うことができる。このように、予備加熱工程S2において酸化焙焼の処理を行うことで、電池内容物に含まれる不純物を揮発させ、又は熱分解させて除去することができる。
【0043】
予備加熱工程S2では、例えば700℃以上の温度(予備加熱温度)で加熱して酸化焙焼することが好ましい。予備加熱温度を700℃以上とすることで、電池に含まれる不純物の除去効率を高めることができる。一方で、予備加熱温度の上限値としては、900℃以下とすることが好ましく、これにより、熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0044】
酸化焙焼の処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、電池内容物に含まれる不純物のうちの炭素(C)を効率的に酸化除去することができる。また、Alを酸化することができる。特に、Cを酸化除去することで、その後の熔融工程S3にて局所的に発生する有価金属の熔融微粒子が、Cによる物理的な障害なく凝集することが可能となり、熔融物として得られる合金を一体化させ回収し易くすることができる。なお、一般的に、廃リチウムイオン電池を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により、Al>Li>C>Mn>P(リン)>Fe(鉄)>Co>Ni>Cu、の順に酸化され易い。
【0045】
酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。また、酸化剤の導入量は、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
【0046】
[熔融工程]
熔融工程(還元熔融工程)S3では、廃リチウムイオン電池の粉砕物(被熔融物、炉装入物)を、フラックスと共に熔融(還元熔融)して、有価金属を含む熔融メタルと、Liを含むスラグ(Li含有スラグ)と、からなる還元物を得る。これにより、Al等の不純物元素は酸化物としてスラグに含まれるようになり、Pもフラックスに取り込まれてスラグに含まれるようになる。一方で、酸化物を形成し難いCu等の有価金属は熔融し、熔融物から一体化した合金として回収できる。
【0047】
ここで、本実施の形態に係る方法では、熔融工程S3での処理により得られるLi含有スラグが、以下の組成を有することを特徴としている。すなわち、Li含有スラグは、質量比で、Al/Li<5、かつケイ素(Si)/Li<0.7の関係を有し、Alを30質量%以下、Mnを6質量%以上、Liを3質量%以上20質量%以下、Siを0質量%以上7質量%以下、の割合で含有する。
【0048】
このようなLi含有スラグが得られる熔融処理では、フラックス添加量を抑えながらスラグ融点を所定温度以下に適切にコントロールすることができる。また、フラックス添加量を抑えることができることから、スラグ生成量を抑えることができ、これによりLiを効果的に濃縮させたスラグが得られる。
【0049】
熔融処理により得られたLi含有スラグは、Liを分離抽出するための原料として用いることができる。したがって、熔融処理を経て生成するスラグ量は少ないことが好ましく、これにより、Li含有割合が増え、Liが濃縮されたスラグとなる。
【0050】
なお、上述した組成のLi含有スラグについては、上述したとおりであるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0051】
また、熔融処理においては、原料が熔融して生成する熔体中の酸素分圧を10-14atm以上10-11atm以下の範囲に制御する。熔体中の酸素分圧は、熔融処理における還元度の指標となり、酸素分圧が上述した範囲となるように還元度を制御することで、有価金属、特にCoの回収率を高く維持しながら、不純物となるMnのメタルへの分配を抑えることができる。言い換えると、原料中のMnを効率的にスラグへ分配させながら、メタル中のMnを低減でき、その結果、Cu、Ni、Co等の有価金属を効率的にメタルに分配させ、回収することが可能になる。
【0052】
熔体中の酸素分圧に基づく還元度の制御は、熔体中の酸素分圧を連続的に測定して監視することで行う。例えば、酸素分圧が10-11atmを超えていれば、還元剤を添加することで還元度を高めるように制御する。また、酸素分圧が10-14atm未満であれば、酸化剤を添加することで還元度を低下させるように制御する。
【0053】
酸素分圧を測定する方法は、熔体中の酸素分圧を直接測定できる方法であれば特に限定されない。例えば、酸素センサー(酸素プローブ)を備えた酸素分析計を用い、その酸素センサーの先端が熔体に浸かるようにセンサーを差し込んで測定する方法が挙げられる。なお、酸素センサーとしては、ジルコニア固体電解式酸素センサー(酸素プローブ)等の公知のセンサーを用いればよい。
【0054】
熔体中の酸素分圧を増減させる方法、言い換えると、熔体中の酸素分圧を指標にした還元度の制御の方法は、公知の方法で行えばよい。例えば、上述したように、加熱熔融の処理に供される原料やそれが熔解した熔体に還元剤や酸化剤を導入する方法が挙げられる。還元剤としては、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素等を用いることができる。加熱熔融の処理に供される原料のうち炭素品位の高い成分を還元剤として用いることもできる。また、酸化剤としては、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料等を用いることができる。加熱熔融の処理に供される原料のうち炭素品位の低い成分を酸化剤として用いることもできる。
【0055】
また、還元剤や酸化剤の導入方法についても、公知の方法で行えばよい。例えば、還元剤や酸化剤が固体状物質である場合には、これを原料や熔体に投入して導入すればよい。還元剤や酸化剤がガス状物質である場合には、熔融炉に設けられたランス等の導入口からこれを吹き込んで導入すればよい。また、還元剤や酸化剤の導入タイミングについても、特に限定されず、例えば、加熱熔融の処理に供される原料を熔融炉内に投入する際に還元剤や酸化剤も併せて導入してもよく、あるいは原料が熔融して熔体になった段階で還元剤や酸化剤を導入してもよい。
【0056】
好適には、加熱熔融の処理に供される原料と同時に還元剤や酸化剤を熔融炉内に導入し、原料が熔融して熔体になった段階で熔体中の酸素分圧を測定し、その測定結果に基づいて還元剤や酸化剤を追加で導入するか否かを決定する。例えば、酸素分圧の測定値が目標値から外れていた場合には、還元剤や酸化剤を追加で導入すればよく、一方で目標値に近似していた場合には追加導入する必要はない。
【0057】
なお、還元度の指標としてスラグ中のCo品位を使用し、熔融処理の還元度を制御してもよい。この還元度の制御は、スラグをサンプリングしてCo品位を分析し、得られたCo品位が、例えば0.1質量%以下であれば酸化剤を添加し、1質量%を超えていれば還元剤を添加することで行う。このような還元剤の制御によっても、原料中のMnを効率的にスラグに分配させながら、メタル中のMnを低減できる。その結果、Cu、Ni、Co等の有価金属を効率的にメタルに分配させ、回収することが可能になる。
【0058】
熔融処理において添加するフラックスとしては、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものであることが好ましい。その中でも、安価で常温において安定である点で、カルシウム化合物を含むことがより好ましい。具体的に、カルシウム化合物としては、例えば、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを用いることができる。
【0059】
熔融処理における加熱温度(熔融温度)としては、特に限定されないが、1300℃以上とすることが好ましく、1350℃以上とすることがより好ましい。1300℃以上の温度で熔融処理を行うことにより、Cu、Ni、Co等の有価金属が効率的に熔融し、流動性が十分に高められた状態で合金が形成される。そのため、後述するスラグ分離工程S4における有価金属と不純物成分との分離効率を向上させることができる。なお、加熱温度が1300℃未満であると、有価金属と不純物との分離効率が不十分となる可能性がある。また、熔融処理における加熱温度の上限値としては、1600℃以下とすることが好ましい。加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費され、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗も激しくなり、生産性が低下する可能性がある。
【0060】
また、熔融処理における加熱に際して、加熱温度に達した段階では熔融物の流動性が低く、熔け残りがあるため、例えば30分以上に亘って加熱温度を保持する必要がある。なお、最終的には、坩堝内を観察し、鉄製の検尺棒で完全に熔体になっているか確認することが好ましい。熔融後、流動性が高くなったメタルとスラグとは、坩堝内においてその比重によって、下層にメタル、上層にスラグというように分離される。このあと、冷却、粉砕処理を行う。
【0061】
なお、熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【0062】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S4では、熔融工程S3において得られる還元物からスラグを分離して有価金属を含むメタルを回収する。これにより、製造対象のメタルが得られる。還元物であるメタルとスラグとは、上述したように、坩堝内においてその比重の違いにより分離しているため、スラグを分離して効率的に熔融メタルを回収することができる。
【0063】
また、上述したように、還元物から分離したスラグは、効果的にLiを濃縮させたLi含有スラグであり、還元物から分離して回収することで、Liを分離抽出するための原料として用いることができる。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(1)有価金属の回収
[実施例1~4]
廃リチウムイオン電池を原料に用いて有価金属を回収した。回収は、以下の工程にしたがって行った。
【0066】
<廃電池前処理工程(準備工程)>
廃リチウムイオン電池として、18650型円筒型電池、車載用の使用済み角形電池、及び電池製造工程で回収した不良品を準備した。これらの廃電池を塩水中に浸漬し放電させた後、水分を除去し、大気中260℃で焙焼して電解液を除去し、電池内容物を得た。
【0067】
<粉砕工程(準備工程)>
得られた電池内容物を、粉砕機(グッドカッター,株式会社氏家製作所製)を用いて粉砕した。次に、渦電流を利用したアルミニウム選別機により選別した後、粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けし、篩上としてアルミニウムを分離し、篩下を装入物とした。
【0068】
<酸化焙焼工程>
得られた粉砕物(装入物)を酸化焙焼して酸化焙焼物を得た。酸化焙焼は、ロータリーキルンを用いて、大気中900℃で180分間の条件で行った。
【0069】
<還元熔融工程>
得られた酸化焙焼物に、下記表1に記載のスラグ組成となるように、還元剤として黒鉛を、有価金属(Cu、Ni、Co)の合計モル数の0.6倍のモル数、すなわち有価金属の還元に必要のモル数の1.2倍を添加した。さらに、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を、スラグのAl/Ca比が0.99~2.67になるように添加して混合し、得られた混合物をアルミナ(Al2O3)製坩堝に装入した。
【0070】
その後、坩堝に装入した混合物を加熱して還元熔融処理を施すことによって有価金属を合金化し、合金と、スラグ(Li含有スラグ)とを含む還元物を得た。還元熔融処理は、抵抗加熱により1450℃の温度、60分間の時間の条件で行った。還元熔融処理においては、酸素プローブ(OXT-O,川惣電機工業株式会社製)を先端に備えた酸素分析計を用いて、熔体中の酸素分圧を測定した。また、還元熔融処理においては、熔体中の酸素分圧が10-14atm~10-11atmの範囲となるように制御した。なお、酸素分圧の制御は、黒鉛の添加、あるいはランスを使用しての空気の吹込みにより行った。
【0071】
<スラグ分離工程>
得られた還元物からスラグ(Li含有スラグ)を分離して、合金を回収し、これを回収合金とした。
【0072】
[比較例1、2]
比較例1では、熔体中の酸素分圧が10-14atm未満となるように還元度を制御したことを除き、実施例と同様にして処理を行った。その結果、得られたLi含有スラグ中のMn品位は6質量%未満となった。
【0073】
比較例2では、Alの分離を行わなかったことを除き、実施例と同様にして処理を行った。その結果、得られたLi含有スラグのAl/Liの比が5以上となり、また、Mn品位が6質量%未満となった。また、原料中のAl品位は20質量%となった。
【0074】
(2)評価
<スラグの成分分析>
還元物から分離したLi含有スラグの成分分析を、次のようにして行った。すなわち、得られたスラグを冷却後に粉砕し、化学分析を行った。
【0075】
(3)結果
下記表1及び表2に、実施例1~4、比較例1、2のそれぞれの処理により得られたLi含有スラグの組成を示す。また、下記表3に、フラックス添加量やスラグ生成量等の処理条件と、メタル中のMn品位、スラグ中のCo品位の結果を示す。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
上記表に示すように、比較例2ではフラックス添加量/原料が0.39であったのに対して、実施例1~3ではフラックス添加量/原料が0.08、実施例4ではフラックス添加量/原料が0.16であった。また、その比較例2ではスラグ生成量/原料が0.95であったことに対して、実施例1~3ではスラグ生成量/原料が0.46~0.54、実施例4ではスラグ生成量/原料が0.55であった。
【0080】
すなわち、実施例1~4での組成のLi含有スラグが得られるように処理することで、フラックス添加量を抑えることができ、これによりスラグ生成量を効果的に抑えることができることがわかる。そしてその結果、Li含有スラグ中のLiは効果的に濃縮され、実施例1~4では6質量%以上のLiをスラグ中に含むことができた。
【0081】
また、実施例1~4で得られたLi含有スラグ中のMn含有割合は6質量%以上であり、原料に含まれるMnの過半の割合が効率的にスラグ中に分配された。このように、スラグ生成量を増やすことなく、酸素分圧が10-14atm以上10-11atm以下の範囲となるように還元度を制御することで、同じタイミングで得られるメタルへのMnの分配を最低限とすることができた。具体的には、メタル中のMn品位を2質量%以下にすることができた。
【0082】
なお、上述したように、熔体中の酸素分圧を上記の範囲外、すなわち10-14atm未満となるように制御した比較例1では、得られたLi含有スラグ中のMn品位は6質量%未満となり、メタル中のMn品位が2.90質量%となり、実施例に比べて多くの割合がメタルに分配されてしまった。