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特開2023-173904木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法
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  • 特開-木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173904
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20231130BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20231130BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
E04B1/24 F
E04H9/02 321Z
E04B2/56 643A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086453
(22)【出願日】2022-05-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】599157332
【氏名又は名称】株式会社堀江建築工学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】五十田 博
(72)【発明者】
【氏名】眞田 靖士
(72)【発明者】
【氏名】太田 勤
(72)【発明者】
【氏名】迫田 丈志
(72)【発明者】
【氏名】高畑 真二
(72)【発明者】
【氏名】酒匂 紘子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 紀恵
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
【Fターム(参考)】
2E002FA04
2E002FB07
2E002MA12
2E139AA01
2E139AC26
2E139BA30
2E139BD22
(57)【要約】
【課題】木質壁部材をRCフレーム構造内に設置した場合に、水平耐力や変形性能を適切に評価・計算できる、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリートの上下の梁22a、22b、及び、鉄筋コンクリートの左右の柱21a、21bによって構成されるRCフレーム2と、RCフレーム2の内側に設置される木質壁(CLT壁3)と、を備える、RC架構1の耐震設計方法であって、RC架構1の水平耐力が、RCフレーム2の内側で木質壁(CLT壁3)が回転変形する際に、上下の梁22a、22bが回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて、木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODとして計算されることを特徴としている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートの上下の梁、及び、鉄筋コンクリートの左右の柱によって構成されるRCフレームと、前記RCフレームの内側に設置される木質壁と、を備える、RC架構の耐震設計方法であって、
前記RC架構の水平耐力が、前記RCフレームの内側で前記木質壁が回転変形する際に、前記上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて、前記木質壁の復元力PWOODとして計算されることを特徴とする、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
【請求項2】
前記木質壁1枚当りの復元力PWOODが、次式(A)によって計算されることを特徴とする、請求項1に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
WOOD=1/6・EWOOD・L/H・t・R ・・・(A)
WOOD:木質壁1枚当りの復元力
WOOD:木質壁のヤング係数
L:木質壁の横の長さ
H:木質壁の縦の長さ
t:木質壁1枚の厚み
R:木質壁の変形角
【請求項3】
前記RCフレームの前記柱の軸力負担が、前記RCフレームの内側で前記木質壁が回転変形する際に、前記上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて計算される、前記木質壁が負担する軸力によって低減されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
【請求項4】
前記木質壁1枚当りの軸力NWOODが、次式(B)によって計算されることを特徴とする、請求項3に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
WOOD=1/4・EWOOD・L/H・t・R ・・・(B)
WOOD:木質壁1枚当りの軸力
WOOD:木質壁のヤング係数
L:木質壁の横の長さ
H:木質壁の縦の長さ
t:木質壁1枚の厚み
R:木質壁の変形角
【請求項5】
前記RCフレームの前記柱の軸力ΣNRCが、次式(C)によって計算されることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
ΣNRC=ΣN-ΣNWOOD ・・・(C)
ΣNRC:木質壁に隣接するRC柱の軸力
ΣN:すべてのRC柱が支持する軸力の総和
ΣNWOOD:すべての木質壁の軸力
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RCフレームと木質壁を備えるRC架構の新しい耐震設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造(RC)フレーム構造では、地震時の保有水平耐力が柱のせん断力の総和となるため、水平耐力を増大するためには、一般にRC壁部材が増設されていた。一方、このようにRC壁部材が増設されたRCフレーム構造は、変形性能が低下してしまう、という課題があった(RC壁の増設について特許文献1参照)。
【0003】
そこで、出願人らは、RCフレーム構造内に木質壁を設置することで、RCフレーム構造の高い変形性能を維持したまま、水平耐力を増大する新構法を提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-198050号公報
【特許文献2】特開2021-059901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、木質壁部材をRCフレーム構造の内側に設置した場合に、発現される水平耐力や変形性能を適切に評価・計算できる手法が確立されていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、木質壁部材をRCフレームの内側に設置した場合に、地震時の水平耐力や変形性能を適切に評価・計算できる、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法は、鉄筋コンクリートの上下の梁、及び、鉄筋コンクリートの左右の柱によって構成されるRCフレームと、前記RCフレームの内側に設置される木質壁と、を備える、RC架構の耐震設計方法であって、前記RC架構の水平耐力が、前記RCフレームの内側で前記木質壁が回転変形する際に、前記上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて、前記木質壁の復元力PWOODとして計算されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法は、RCフレームと、木質壁と、を備える、RC架構の耐震設計方法であって、RC架構の水平耐力が、RCフレームの内側で木質壁が回転変形する際に、上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて木質壁の復元力PWOODとして計算されることを特徴とする。この手法により、木質壁部材をRCフレームの内側に設置したRC架構の地震時の水平耐力や変形性能を適切に評価・計算できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のRC架構の構成を説明する正面図である。
図2】実施例1のRC架構の耐震設計方法の概念を説明する概念図である。
図3】実施例2の実験に用いたRC架構を示す写真である。
図4】実施例2の実験の結果を示すグラフであり、各試験体の水平荷重-1階層間変形角関係を示している。(a)はCLT壁がない柱梁架構の試験体であり、(b)はCLT壁を有する試験体である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例0011】
(全体構造について)
まず、図1を用いて、本発明のRC架構1の全体構造について説明する。本実施例のRC架構1は、図1に示すように、鉄筋コンクリート造のフレームであるRCフレーム2と、このRCフレーム2の内側に設置される木質壁としてのCLT壁3と、から構成される。ここにおいて、本実施例のRC架構1において、木質壁としてのCLT壁3は、既設のRCフレーム2に対して耐震改修(補強)する際に、又は、RCフレーム2を新設する際に、RCフレーム2の内部に構築される。なお、建物規模としては、限定されるものではない。
【0012】
RCフレーム2は、鉄筋コンクリートの柱21a、21bと、鉄筋コンクリートの梁22a、22bと、他の要素(例えば、基礎など)と、から構成される、いわゆるラーメン構造である。
【0013】
そして、本実施例のRCフレーム2の内側には、木質壁としてのCLT壁3が設置される。RCフレーム2の柱21a、21b及び梁22a、22b(又は基礎)と、CLT壁3の左右の端面及び上下の端面は、例えば、コンクリートと木質壁の付着力や、アンカー(鉄筋)や、ドリフトピン、ガセットプレート、アンカーボルト等を用いて接合される。ただし、接合手法は、これらの態様に限定されるものではなく、CLT壁3を固定できればどのような形態であってもよい。
【0014】
(木質壁の構成)
木質壁は、CLTやLVLなど、厚みを持った木材を素材とする板材である。CLTは、いわゆる直交集成板(CLT、Cross Laminated Timber)であり、ひき板(ラミナ)の繊維方向を、交互に直交するようにして積層・接着した木質構造用材料である。LVLは、いわゆる単層積層材(LVL、Laminated Veneer Lumber)であり、丸太を切削して単板にし、繊維方向に平行に積層・接着した木質構造用材料である。直交集成板や単層積層材は、厚みのある大きな板であり、建築の構造材の他、土木用材、家具などに使用される。以下の実施例では、木質壁の素材としてCLTを用いた場合を例として説明するが、LVLを用いた木質壁にも本発明を適用できる。
【0015】
このうちCLT壁3の材料特性としては、弾性係数がコンクリートの約1/5であり、圧縮強度がコンクリートと同程度である(又は、少し小さい)ことが知られている。したがって、このような材料特性の特徴に基づいて、後述するようにCLT壁3の圧縮力(軸力)を適切に評価することで、CLT壁3を耐震設計方法に取り入れることができる。
【0016】
なお、CLT壁3は、施工性を考慮して複数のパネルユニットを互いに連結して構成することも可能である。もちろん、CLT壁3は、パネルユニットに分割されることなく、1枚の大きな板として構成することも可能である。ただし、パネルユニット間の連結は、ずれ止め程度の接続になる場合(=パネル間の応力伝達機構は考慮せず、ユニットが並んでいるだけの状態)もある。
【0017】
ここにおいて、本実施例のCLT壁3の厚さとしては、限定されるものではないが、例えば、210mm以下とし、それより厚い場合には板厚方向に2枚重ね以上として利用することができる。
【0018】
そして、本実施例のCLT壁3の縦横比(縦:横の比、又は、垂直辺:水平辺の比)は、例えば、実施例2の実験で検証済の2:1とすることが好ましい。この比率よりも細長い形状(m:1でmが2以上;アスペクト比が2.0以上)であれば、同様の効果が得られるものと考えられるが、細長いほど軸力負担は小さくなると予想される(図2のNWOODが小さくなる)。この比率よりも太短い形状(m:1でmが2より小さい;アスペクト比が2.0より小さい)の場合の効果についても同様のモデルを用いて評価することできる。
【0019】
(耐震設計方法について)
次に、本実施例のRC架構1の耐震設計方法について説明する。以下では、はじめに水平耐力(傾斜復元力)について説明し、次に隣接する柱の軸力負担について説明する。なお、以下の耐震設計方法の前提として、本実施例で想定する破壊形式は、柱、梁ともに曲げ破壊型(変形性能に優れる一般の構造設計で計画される破壊形式)とする。
【0020】
(水平耐力について)
本実施例の耐震設計方法によれば、RC架構1の水平耐力が、木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODとして計算される。すなわち、以下に説明するように、本実施例では、木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODが、従来のような壁部材の自重による傾斜復元力と異なり、木質壁部材(CLT壁3)の変形角Rに伴って増大することが特徴である。この変形角Rに伴う復元力は、自重による傾斜復元力と比べてはるかに大きくなる。
【0021】
具体的には、木質壁(CLT壁3)1枚当りの復元力PWOODは、次式(A)によって計算されることになる。
WOOD=1/6・EWOOD・L/H・t・R ・・・(A)
WOOD:木質壁(CLT壁)1枚当りの復元力
WOOD:木質壁(CLT壁)のヤング係数
L:木質壁(CLT壁)の横の長さ
H:木質壁(CLT壁)の縦の長さ
t:木質壁(CLT壁)1枚の厚み
R:木質壁(CLT壁)の変形角
【0022】
以下、式(A)の導出過程について説明する。
RCフレーム2は、地震力を受けて水平変形するが、この際に、木質壁(CLT壁3)は回転変形を生じると考えられる(図2参照)。そして、木質壁(CLT壁3)が回転変形しようとする際に、変形がRCフレーム2の梁22a、22bによって拘束されることで、木質壁(CLT壁3)に軸力が導入される(図2のNWOOD)。
【0023】
そうすると、図2に示すように、木質壁(CLT壁3)に生じるモーメントのつり合いから、次式(1)が成立する。
WOOD・H=NWOOD・(2/3L) ・・・(1)
ここにおいて、
WOOD:木質壁(CLT壁3)1枚当りの傾斜復元力
WOOD:木質壁(CLT壁3)1枚当りの軸力
H:木質壁(CLT壁3)の縦の長さ
L:木質壁(CLT壁3)の横の長さ
【0024】
このうち、木質壁(CLT壁3)1枚当りの軸力NWOODは、応力度が三角形分布すると仮定すれば、次式(2)のように表現することができる。
WOOD=1/2・(1/2L)・t・σ(R) ・・・(2)
ここにおいて、
t:壁の厚さ
σ(R):壁端応力度
【0025】
壁高さに沿う圧縮変形は他端の0まで線形分布と仮定すれば、壁端応力度σ(R)は、フックの法則から、以下のように表現することができる。
σ(R)=EWOOD・ε(R)=EWOOD・(δ(v)/(H/2))
=EWOOD・((L/2)・R)/(H/2)
=EWOOD・(L/H)・R ・・・(3)
ここにおいて、
WOOD:木質壁(CLT壁3)のヤング係数
ε(R):壁端ひずみ度
δ(v):壁端圧縮変形(=ε(R)・H/2)
【0026】
そして、式(1)に式(2)、(3)を代入すると、次式(A)が得られる。
WOOD=1/6・EWOOD・L/H・t・R ・・・(A)
このように、木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODは、一般的な壁部材の自重による傾斜復元力と異なり、壁部材の変形角Rに伴って増大する点、また、自重による傾斜復元力よりもはるかに大きい傾斜復元力を得られる点を特徴としている。
【0027】
この他、RC架構1の水平耐力としては、従来と同様に、柱21a、21bのせん断力S(の総和)も考慮することができる。
【0028】
(RC柱の軸力負担について)
さらに、本実施例の設計方法によれば、木質壁(CLT壁3)を内蔵するRCフレーム2の柱21a、21bの軸力負担が、木質壁(CLT壁3)が負担する軸力によって低減される。
【0029】
具体的には、木質壁(CLT壁3)1枚当りの負担する軸力NWOODは、次式(B)によって計算されることになる。
WOOD=1/4・EWOOD・L/H・t・R ・・・(B)
WOOD:木質壁(CLT壁3)1枚当りの軸力
WOOD:木質壁(CLT壁3)のヤング係数
L:木質壁(CLT壁3)の横の長さ
H:木質壁(CLT壁3)の縦の長さ
t:木質壁(CLT壁3)1枚の厚み
R:木質壁(CLT壁3)の変形角
【0030】
以下、式(B)の導出過程について説明する。
式(A)の項で前述したように、木質壁(CLT壁3)1枚当りの軸力NWOODは、応力度が三角形分布すると仮定すれば、次式(2)のように表現することができる。
WOOD=1/2・(1/2L)・t・σ(R) ・・・(2)
ここにおいて、
t:壁の厚さ
σ(R):壁端応力度
【0031】
さらに、前述したように、壁高さに沿う圧縮変形は他端の0まで線形分布と仮定すれば、壁端応力度σ(R)は、フックの法則から、以下のように表現することができる。
σ(R)=EWOOD・ε(R)=EWOOD・(δ(v)/(H/2))
=EWOOD・((L/2)・R)/(H/2)
=EWOOD・(L/H)・R ・・・(3)
ここにおいて、
WOOD:木質壁(CLT壁3)のヤング係数
ε(R):壁端ひずみ度
δ(v):壁端圧縮変形(=ε(R)・H/2)
【0032】
そして、式(2)に式(3)を代入すると、次式(B)が得られる。
WOOD=1/4・EWOOD・L/H・t・R ・・・(B)
この軸力NWOODは、RCフレーム2が負担する長期軸力Nの一部とみなすことができる。そうすると、地震時にRCフレーム2が負担する軸力は、次式(C)のように、CLT壁3の存在によって低減される。
【0033】
すなわち、木質壁(CLT壁3)に隣接する柱21a、21bの軸力ΣNRCは、次式(C)によって計算することができる。
ΣNRC=ΣN-ΣNWOOD ・・・(C)
ΣNRC:CLT壁に隣接するRC柱の軸力
ΣN:すべてのRC柱が支持する軸力の総和
ΣNWOOD:すべての木質壁(CLT壁3)軸力
【0034】
このように、RCフレーム2の柱21a、21bの軸力負担を低減できれば、柱21a、21bの高い変形性能を維持することができる。すなわち、一般に、RCフレーム2の水平変形能力は、柱21a、21bの軸力が大きいほど低下する傾向にあるため、木質壁(CLT壁3)が軸力を負担することによって、RCフレーム2の水平変形能力が向上する効果が得られるのである。
【0035】
(効果)
次に、本実施例のRC架構1の耐震設計方法の奏する効果を列挙して説明する。
(1)上述してきたように、本発明のRC架構の耐震設計方法は、RCフレーム2と、木質壁としてのCLT壁3と、を備える、RC架構1の耐震設計方法であって、RC架構1の水平耐力が、RCフレーム2の内側でCLT壁3が回転変形する際に、上下の梁22a、22bが回転変形を拘束することで生じる軸力NWOODに基づいて木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODとして計算されることを特徴とする。この手法により、木質壁(CLT壁3)をRCフレーム2の内側に設置したRC架構の地震時の水平耐力を適切に評価・計算できる。
【0036】
そして、この木質壁(CLT壁3)の復元力PWOODは、一般的な壁部材の自重による傾斜復元力と異なり、木質壁(CLT壁3)の変形角Rに伴って増大する点、また、自重による傾斜復元力よりもはるかに大きい復元力PWOODを得られる点を特徴としている。
【0037】
(2)また、RC架構1の耐震設計方法は、木質壁(CLT壁3)の1枚当りの復元力PWOODが、新しく提案する次式(A)によって計算されることを特徴とする。
WOOD=1/6・EWOOD・L/H・t・R ・・・(A)
WOOD:木質壁(CLT壁3)1枚当りの傾斜復元力
WOOD:木質壁(CLT壁3)のヤング係数
L:木質壁(CLT壁3)の横の長さ
H:木質壁(CLT壁3)の縦の長さ
t:木質壁(CLT壁3)1枚の厚み
R:木質壁(CLT壁3)の変形角
このように、式(A)によって復元力PWOODを表現できれば、復元力PWOODを簡便な計算式によって計算できるうえ、各構成要素(L、H、t、R)による影響を評価できるようになる。
【0038】
(3)あるいは、RC架構1の耐震設計方法は、RCフレーム2の柱21a、21bの軸力負担が、RCフレーム2の内側で木質壁(CLT壁3)が回転変形する際に、上下の梁22a、22bが回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて計算される、木質壁(CLT壁3)が負担する軸力によって低減されることを特徴とする。このような手法であれば、木質壁(CLT壁3)をRCフレーム2の内側に設置した場合に、地震時の変形性能を適切に評価・計算できる。
【0039】
(4)また、RC架構1の耐震設計方法は、木質壁(CLT壁3)の1枚当りの軸力NWOODが、新しく提案する次式(B)によって計算されることを特徴とする。
WOOD=1/4・EWOOD・L/H・t・R ・・・(B)
WOOD:木質壁(CLT壁3)1枚当りの軸力
WOOD:木質壁(CLT壁3)のヤング係数
L:木質壁(CLT壁3)の横の長さ
H:木質壁(CLT壁3)の縦の長さ
t:木質壁(CLT壁3)1枚の厚み
R:木質壁(CLT壁3)の変形角
このように、式(B)によって木質壁(CLT壁3)の1枚当りの軸力NWOODを表現できれば、木質壁(CLT壁3)の1枚当りの軸力NWOODを簡便な計算式によって計算できるうえ、各構成要素(L、H、t、R)による影響を評価できるようになる。
【0040】
(5)さらに、RC架構の耐震設計方法は、RCフレーム2の柱21a、21bの軸力(の総和)ΣNRCが、次式(C)によって計算されることを特徴とする。
ΣNRC=ΣN-ΣNWOOD ・・・(C)
ΣNRC:木質壁(CLT壁3)に隣接するRC柱の軸力
ΣN:すべてのRC柱が支持する軸力の総和
ΣNWOOD:すべての木質壁(CLT壁3)の軸力
このように、式(C)によって木質壁(CLT壁3)に隣接する柱21a、21bの軸力ΣNRCを表現できれば、木質壁(CLT壁3)に隣接する柱21a、21bの軸力ΣNRCを簡便な計算式によって計算できるうえ、各構成要素(L、H、t、R)による影響を評価できるようになる。
【0041】
加えて、このようにRCフレーム2の柱21a、21bの軸力負担を低減できれば、柱21a、21bの高い変形性能を維持することができる。すなわち、一般に、RCフレーム2の水平変形能力は、柱の軸力が大きいほど低下する傾向にあるため、木質壁(CLT壁3)の軸力負担によって、RCフレーム2の水平変形能力が向上する効果が得られるのである。
【実施例0042】
次に、図3図4を用いて、実施例1で説明した評価手法(耐震設計方法)を検証するために実施した実験について説明する。
【0043】
(実験条件)
実験条件は、図3に示すように、以下の通りである。
・RCフレームの内側に木質壁としてのCLT壁を設けた架構とする。
・CLT壁の有無を変動因子とする約40%スケールの試験体で、静的繰り返し載荷実験を行った。BFはCLT壁が無いRCフレームのみの試験体である。WFはCLT壁を有する試験体であり、RCフレームに2枚のCLT壁を設けた。
・各試験体とも、柱の圧縮強度に対し軸力比0.15の初期軸力を加え、架構に対する両鉛直ジャッキに依る軸力の合計を維持して水平載荷を行った。水平載荷は、梁中心位置の水平変位δを下スタブ上面から梁中心位置までの高さhで除した変形角R(=δ/h)に基づいて変位制御し、その際に載荷梁の回転は0を維持した。実験はR=(+)10%radまで押切載荷し終了した。
【0044】
(実験結果)
実験結果は、図4(a)、(b)に示すように、以下の通りである。
・RCフレームの内側にCLT壁を設けた架構は、耐力・変形性能とも上昇した。
・CLT壁の有無による最大耐力を比較すると、WFはBFの約2.2倍であり、RCフレームにCLT壁を設けることで、水平耐力が増大することを確認した。
・また、BFでは大変形で柱主筋の座屈が発生した後、耐力低下を確認したが、WFでは柱主筋の座屈後もR=(+)10%radまでほぼ最大耐力を維持した。これは、CLT壁が柱に作用した軸力の一部を負担していたことが一因と考えられる。
・静的繰り返し載荷実験の結果を評価するため、各試験体の解析モデルでの検証も行ったが、変形の増大に伴いCLT壁が柱の軸力を一部負担していることを確認した。
・静的繰り返し載荷実験の結果を評価するため、各試験体の解析モデルでの検証も行った。CLT壁の分割数を変動因子として最大耐力を比較すると、分割数の増加に伴って期待できる剛性や水平耐力が低下する傾向が見受けられ、分割数がRCフレームの構造性能に影響することを確認した。
【0045】
したがって、本実験例の実験結果によれば、実施例1で提案した式(A)~(C)の有効性が検証されたと言える。
【0046】
以上、図面を参照して、本発明の実施例1、2を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例1、2に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 RC架構(RCフレームとCLT壁から構成される)
2 RCフレーム
21a 柱
21b 柱
22a 梁
22b 梁(基礎)
3 CLT壁(木質壁)
WOOD 木質壁1枚当りの傾斜復元力
WOOD 木質壁1枚当りの軸力
WOOD 木質壁のヤング係数
L 木質壁の横の長さ
H 木質壁の縦の長さ
t 木質壁1枚の厚み
R 木質壁の変形角
ΣNRC 木質壁に隣接するRC柱の軸力
ΣN すべてのRC柱が支持する軸力の総和
ΣNWOOD すべての木質壁の軸力
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートの上下の梁、及び、鉄筋コンクリートの左右の柱によって構成されるRCフレームと、前記RCフレームの内側に設置される木質壁と、を備える、RC架構の耐震設計方法であって、
前記RC架構の水平耐力が、前記RCフレームの内側で前記木質壁が回転変形する際に、前記上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて、前記木質壁の復元力PWOODとして計算されることを特徴とする、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
【請求項2】
前記木質壁1枚当りの復元力PWOODが、次式(A)によって計算されることを特徴とする、請求項1に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
WOOD=1/6・EWOOD・L/H・t・R ・・・(A)
WOOD:木質壁1枚当りの復元力
WOOD:木質壁のヤング係数
L:木質壁の横の長さ
H:木質壁の縦の長さ
t:木質壁1枚の厚み
R:木質壁の変形角
【請求項3】
前記RCフレームの前記柱の軸力負担が、前記RCフレームの内側で前記木質壁が回転変形する際に、前記上下の梁が回転変形を拘束することで生じる軸力に基づいて計算される、前記木質壁が負担する軸力によって低減されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
【請求項4】
前記木質壁1枚当りの軸力NWOODが、次式(B)によって計算されることを特徴とする、請求項3に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
WOOD=1/4・EWOOD・L/H・t・R ・・・(B)
WOOD:木質壁1枚当りの軸力
WOOD:木質壁のヤング係数
L:木質壁の横の長さ
H:木質壁の縦の長さ
t:木質壁1枚の厚み
R:木質壁の変形角
【請求項5】
前記RCフレームの前記柱の軸力ΣNRCが、次式(C)によって計算されることを特徴とする、請求項4に記載された、木質壁を備えたRC架構の耐震設計方法。
ΣNRC=ΣN-ΣNWOOD ・・・(C)
ΣNRC:木質壁に隣接するRC柱の軸力
ΣN:すべてのRC柱が支持する軸力の総和
ΣNWOOD:すべての木質壁の軸力