(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023173937
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ケーブルにかかる応力を解析する解析方法、解析装置および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20231130BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231130BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/10 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086506
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】391008401
【氏名又は名称】株式会社三ツ星
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉敷 哲生
(72)【発明者】
【氏名】金 清武
(72)【発明者】
【氏名】李 興盛
(72)【発明者】
【氏名】向山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】礒嶋 良人
(72)【発明者】
【氏名】香下 裕亮
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA21
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146EA08
(57)【要約】
【課題】解析コストを低減しつつ、ケーブルにかかる応力を正確に解析する。
【解決手段】複数の金属の素線21を備えるケーブル2にかかる応力を解析する解析方法であって、ケーブル2のCADデータD1を取得する取得ステップST1と、CADデータD1を有限要素法によりモデル化するモデル化ステップST2と、前記モデル化されたデータD2の解析条件を設定する条件設定ステップST3と、前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析ステップST4と、を備え、モデル化ステップST3では、CADデータD1を、ケーブル2の長さ方向に沿って複数の部位に分割し、前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析方法であって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得ステップと、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定ステップと、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析ステップと、
を備え、
前記モデル化ステップでは、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析方法。
【請求項2】
前記ケーブルの端部を含む第1部位をビーム要素でモデル化し、前記ケーブルの前記第1部位を除く第2部位をソリッド要素でモデル化する、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記ケーブルは、複数の素線を撚り合わせてなる複数のストランドを備え、前記複数のストランドをさらに撚り合わせてなる複合ケーブルである、請求項1または2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記複数のストランドは、
前記ケーブルの中心部に位置する1または複数の中心ストランドと、
前記中心ストランドを取り囲む1または複数の円環状に配置されたストランドからなる1または複数層の環状ストランド群とを備え、
前記モデル化ステップでは、
前記中心ストランド、および、前記環状ストランド群の各々から1のストランドを選択し、選択されたストランドでは、各素線を均質材としてモデル化する、請求項3に記載の解析方法。
【請求項5】
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析装置であって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得部と、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化部と、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定部と、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析部と、
を備え、
前記モデル化部は、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析装置。
【請求項6】
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析プログラムであって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得ステップと、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定ステップと、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記モデル化ステップでは、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルにかかる応力を解析する解析方法、解析装置および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばロボットアーム用の導電ケーブルは、複数の銅の素線を撚り合わせてなる複数のストランドを備え、さらに複数のストランドを撚り合わせて作製されている。そのようなケーブルは、ロボットアームの稼働に追従し、引張・曲げ・ねじりなどの複雑な荷重を繰り返し受け、最終的に断線に至る。ケーブルの断線はロボットアームの寿命に大きく影響するため、実用前にケーブルの断線メカニズムの把握と寿命評価を行う必要がある。
【0003】
しかしながら、ケーブルの寿命評価に関しては統一された評価試験法はなく、さらに、断線は内部の素線単位で発生するため、メーカー独自の耐久試験による外観観察や巨視的な荷重の変化だけでは、どの素線がどのような荷重を受けて破断に至るのか、把握することができないという問題がある。
【0004】
この問題に対しては、有限要素法に基づく数値シミュレーション手法が提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。特許文献1には、電線束の屈曲寿命を予測する方法に関する発明が開示されており、全電線(素線)を1本のビーム要素でモデル化し、電線中央の屈曲率を計算し、あらかじめ取得した屈曲寿命と屈曲率との関係により屈曲寿命を予測している。これに対し、非特許文献1では、ケーブルを構成するストランドまたは素線をソリッド要素でモデル化し、素線に対し疲労試験を行うことによりS-N線図を取得し、複合荷重下(圧縮、引張、曲げ、ねじりの組み合せ)での応力を解析している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】倉敷哲生、神鳥遼人、「数値解析および疲労試験を援用したロボットアーム用複合ケーブルの断線寿命評価」、生産と技術、2020年、第72巻、第2号、p. 81―84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、全ての素線をビーム要素でモデル化しているので、素線同士の接触状態を加味した正確な解析はできない。また、非特許文献1では、全ての素線をソリッド要素でモデル化しているので、撚りピッチや素線本数、ストランド本数などを設定してケーブルの全体構造を解析するためには、解析コストが膨大になるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、解析コストを低減しつつ、ケーブルにかかる応力を正確に解析することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析方法であって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得ステップと、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定ステップと、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析ステップと、
を備え、
前記モデル化ステップでは、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し 、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析方法。
項2.
前記ケーブルの端部を含む第1部位をビーム要素でモデル化し、前記ケーブルの前記第1部位を除く第2部位をソリッド要素でモデル化する、項1に記載の解析方法。
項3.
前記ケーブルは、複数の素線を撚り合わせてなる複数のストランドを備え、前記複数のストランドをさらに撚り合わせてなる複合ケーブルである、項1または2に記載の解析方法。
項4.
前記複数のストランドは、
前記ケーブルの中心部に位置する1または複数の中心ストランドと、
前記中心ストランドを取り囲む1または複数の円環状に配置されたストランドからなる1または複数層の環状ストランド群とを備え、
前記モデル化ステップでは、
前記中心ストランド、および、前記環状ストランド群の各々から1のストランドを選択し、選択されたストランドでは、各素線を均質材としてモデル化する、項3に記載の解析方法。
項5.
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析装置であって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得部と、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化部と、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定部と、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析部と、
を備え、
前記モデル化部は、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析装置。
項6.
複数の金属の素線を備えるケーブルにかかる応力を解析する解析プログラムであって、
前記ケーブルの構造データを取得する取得ステップと、
前記構造データを有限要素法によりモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化されたデータの解析条件を設定する条件設定ステップと、
前記解析条件に基づいて前記応力を解析する応力解析ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記モデル化ステップでは、
前記構造データを、前記ケーブルの長さ方向に沿って複数の部位に分割し、
前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する、解析プログラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、解析コストを低減しつつ、ケーブルにかかる応力を正確に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ロボットの斜視図、およびロボットに用いられる複合ケーブルの部分拡大図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】上記実施形態に係る解析方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】(a)は、ソリッド要素でモデル化されたケーブルであり、(b)は、ビーム要素でモデル化されたケーブルである。
【
図6】(a)は、モデル化されたケーブルの一例であり、(b)は、解析条件の一例である。
【
図10】(a)は、実施例1においてモデル化されたケーブルであり、(b)は、実施例1における解析条件である。
【
図11】実施例1におけるケーブルに対するねじり動作を示すグラフである。
【
図12】実施例1において、-19度ねじった時点におけるケーブルにかかる最大主応力の分布である。
【
図13】実施例1において、+19度ねじった時点におけるケーブルにかかる最大主応力の分布である。
【
図14】(a)は、ストランド内の特定の2つの評価点の説明図であり、(b)は、各評価点における最大主応力の履歴を示すグラフである。
【
図15】実施例1で得られた、ねじりの繰り返し数が10
4における疲労限度線図である。
【
図16】実施例1の断線予測結果を示すものであり、(a)は、中心部のストランド内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、(b)は、(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【
図17】実施例1の断線予測結果を示すものであり、(a)は、外側のストランド内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、(b)は、(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【
図18】(a)は、実施例2においてモデル化されたケーブル(12×20モデル)であり、(b)は、実施例1における解析条件である。
【
図19】(a)は、実施例2においてモデル化されたケーブル(7×34モデル)であり、(b)は、実施例1における解析条件である。
【
図20】実施例2において、-19度ねじった時点におけるケーブル(12×20モデル)にかかる最大主応力の分布である。
【
図21】実施例2において、-19度ねじった時点におけるケーブル(7×34モデル)にかかる最大主応力の分布である。
【
図22】実施例2において、+19度ねじった時点におけるケーブル(12×20モデル)にかかる最大主応力の分布である。
【
図23】実施例2において、+19度ねじった時点におけるケーブル(7×34モデル)にかかる最大主応力の分布である。
【
図24】実施例2の断線予測結果を示すものであり、(a)は、ケーブル(12×20モデル)の中心ストランド内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、(b)は、(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【
図25】実施例2の断線予測結果を示すものであり、(a)は、ケーブル(7×34モデル)の中心ストランド内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、(b)は、(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は下記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0013】
(ケーブルの構造)
まず、解析対象となるケーブルの構造について説明する。本実施形態では、ロボットアーム用複合ケーブルを解析対象としている。
【0014】
図1は、ロボット1の斜視図、およびロボット1に用いられる複合ケーブル(以下、ケーブル)2の部分拡大図である。ケーブル2は、ロボット1の手首の回転・曲げ・旋回、上腕および下腕の曲げなどの動作により、複合的な応力を受ける。ケーブル2は、複数の銅の素線21を撚り合わせてなる複数のストランド22を備え、複数のストランド22をさらに撚り合わせた構造を有している。本実施形態では、素線21は右方向に撚り合されており(S撚り)、ストランド22は左方向に撚り合されている(Z撚り)。
【0015】
(解析装置)
図2は、本実施形態に係る解析装置3の概略構成を示すブロック図である。解析装置3は、汎用のコンピュータで構成することができ、ハードウェアとして、CPUやGPUなどのプロセッサ(図示省略)、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置30を備えている。補助記憶装置30には、解析プログラムP1などの解析装置3を動作させるための各種プログラムや、CADデータD1などの各種データが格納されている。
【0016】
解析装置3は、機能ブロックとして、取得部31と、モデル化部32と、条件設定部33と、応力解析部34と、断線予測部35とを備えている。これらの機能ブロックは、解析装置3のプロセッサによってソフトウェア的に実現することができる。この場合、補助記憶装置30に記憶されている解析プログラムP1を、プロセッサが主記憶装置に読み出して実行することにより、前記各部を実現することができる。解析プログラムP1は、インターネット等の通信ネットワークを介して解析装置3にダウンロードしてもよいし、解析プログラムP1を記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して解析装置3にインストールしてもよい。
【0017】
(解析方法の処理手順)
図3は、本実施形態に係る解析方法の処理手順を示すフローチャートである。解析方法の各ステップST1~ST5は、解析装置3の取得部31、モデル化部32、条件設定部33、応力解析部34および断線予測部35によってそれぞれ実行される。
【0018】
ステップST1(取得ステップ)では、取得部31が、CADデータD1を補助記憶装置30から読み出すことにより、CADデータD1を取得する。CADデータD1は、ケーブル2の3次元構造を示す構造データであり、あらかじめ所定のソフトウェアを用いて作成されたものである。
【0019】
ステップST2(モデル化ステップ)では、モデル化部32が、CADデータD1を有限要素法によりモデル化する。具体的には、モデル化部32は、CADデータD1をビーム要素およびソリッド要素の両方でモデル化する。ここで、ビーム要素およびソリッド要素について説明する。
【0020】
図4(a)は、ソリッド要素でモデル化されたケーブル2を示している。この例では、ケーブル2は、ソリッド6面体要素の集合体(均質材)としてモデル化されている。ソリッド要素でモデル化すると、要素内部の応力・ひずみの評価が可能となるが、要素数の増加に伴い、解析コストが増大する。
【0021】
図4(b)は、ビーム要素でモデル化されたケーブル2を示している。この例では、ケーブル2は、断面形状を有する一本の梁(仮想単線)としてモデル化されている。ビーム要素でモデル化すると、断面中心の変形の評価が可能となり、ソリッド要素に比べると解析コストを低減することができるが、断面内部の応力評価はできない。
【0022】
そこで、本実施形態では、ケーブル2をビーム要素およびソリッド要素の両方を用いてモデル化する。ビーム要素の導入により要素数を低減して、ケーブル2の全体の変形挙動を評価することができる。また、ソリッド要素の導入により、ケーブル2の局所的な応力分布の評価が可能となる。これにより、解析コストを低減しつつ、ケーブル2にかかる応力を正確に解析することができる。
【0023】
具体的には、モデル化部32は、CADデータD1を、ケーブル2の長さ方向に沿って複数の部位に分割し、前記複数の部位の一部をビーム要素でモデル化し、前記複数の部位の残部をソリッド要素でモデル化する。
【0024】
図5は、モデル化されたケーブル2(データD2)の一例である。ケーブル2は、長さ方向に沿って、端部E1,E2を含む2つの第1部位2aと、第1部位2aを除く中央の第2部位2bとに分割されている。モデル化部32は、第1部位2aをビーム要素でモデル化し、第2部位2bをソリッド要素でモデル化する。この例では、第1部位2aでは、各ストランドが仮想単線としてモデル化されており、第2部位2bでは、各素線が均質材としてモデル化されている。
【0025】
なお、ビーム要素でのモデル化では、各素線を仮想単線としてもよいし、複数のストランドの一部についてストランド全体を仮想単線とし、他のストランドについて各素線を仮想単線としてもよい。同様に、ソリッド要素でのモデル化では、各ストランドを均質材としてもよいし、複数のストランドの一部についてストランド全体を均質材とし、他のストランドについて各素線を均質材としてもよい。
【0026】
また、第1部位2aおよび第2部位2bの長さについて、第1部位2a(ビーム要素)に対する第2部位2b(ソリッド要素)の比率を大きくするほど、解析精度は向上するが、解析コストも増大する。よって、第1部位2aおよび第2部位2bの長さは、要求される解析精度および解析コストを勘案して、適宜設定される。
【0027】
ステップST3(設定ステップ)では、条件設定部33がモデル化されたデータD2の解析条件を設定する。解析条件としては、素線のヤング率、ポアソン比、半径、素線間の摩擦係数、ねじり角度等が挙げられる。
【0028】
図6(a)は、モデル化されたケーブル2であり、
図6(b)は、解析条件の一例である。ケーブル2は全長が53mmであり、端部E1から25mmの部分および端部E2から25mmの部分からなる第1部位2aと、中央の長さ3mmの第2部位2bとに分割されている。ケーブル2の端部E1は固定されており、端部E2が初期状態からねじられる角度をねじり角度と定義する。
【0029】
ステップST4(解析ステップ)では、応力解析部34が、設定された解析条件に基づいてケーブル2にかかる応力を解析する。本実施形態では、ケーブル2がビーム要素およびソリッド要素の両方を用いてモデル化されているので、ビーム要素によるケーブル2の全体の変形挙動と、ソリッド要素による1つのストランド内の詳細な挙動を同時に評価することができる。
【0030】
解析結果の一例を
図7~
図9に示す。
図7~
図9はそれぞれ、素線間の接触状況、最大主応力の分布、および最大主せん断応力の分布を示している。
【0031】
ステップST5では、断線予測部35が、解析された応力に基づき、公知の手法によりケーブル2の断線を予測する。予測内容は特に限定されないが、例えば、ケーブル2に対して所定の動作(所定回数のねじり動作など)を行った場合の断線の可能性が挙げられる。
【0032】
(付記事項)
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0033】
例えば、上記実施形態では、ケーブルの構造データがCADデータであったが、ケーブルの構造を示すデータであれば、CADデータに限定されない。
【0034】
また、一般的な複合ケーブルは、ケーブルの中心部に位置する1または複数の中心ストランドと、中心ストランドを取り囲む1または複数の円環状に配置されたストランドからなる1または複数層の環状ストランド群とを備えている。この場合、中心ストランド、および、前記環状ストランド群の各々から1のストランドを選択し、選択されたストランドでは、各素線を均質材としてモデル化してもよい。中心ストランドが複数存在する場合、各中心ストランドにかかる応力は互いに略等しく、1つの環状ストランド群において各ストランドにかかる応力も互いに略等しい。そのため、中心ストランドの1つのストランド、および、各環状ストランド群の1つのストランドにおいて、各素線を均質材としてモデル化して、応力を詳細に解析することで、解析コストを低減しつつ、ストランドの断線を正確に予測することができる。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0036】
[実施例1]
実施例1では、20本の素線を撚り合わせてなる7本のストランドを備えたケーブル2Aにかかる応力を解析した。ケーブル2Aの長さは53mmであった。
図10(a)に示すように、ケーブル2Aを、端部E1から25mmの部分および端部E2から25mmの部分からなる第1部位2aと、中央の長さ3mmの第2部位2bとに分割し、第1部位2aをビーム要素でモデル化し、第2部位2bをソリッド要素にモデル化した。
【0037】
ただし、
図6に示す実施形態とは異なり、本実施例では、第1部位2aでは、7本のストランドS1~S7のうち、2本のストランドS1,S2は各素線を仮想単線にモデル化し、他のストランドS3~S7は全体を仮想単線にモデル化した。第2部位2bでは、ストランドS1,S2は各素線を均質材にモデル化し、ストランドS3~S7は全体を均質材にモデル化した。ストランドS1は、ケーブル2Aの中心部に位置する中心ストランドであり、ストランドS2は、ストランドS1を取り囲む6つのストランドS2~S7(環状ストランド群)から選択された1つのストランドである。
【0038】
続いて、解析条件を
図10(b)のように設定した。なお、±19度のねじり角度は、ケーブル2Aの長さが500mmであった場合に、±180度のねじり角度に相当する。
【0039】
続いて、設定された解析条件に基づいてケーブル2Aにかかる応力を解析した。
図11は、ケーブル2Aに対するねじり動作を示している。端部E1を固定した状態で、0~1秒において徐々にケーブル長さの0.01%に相当する引張負荷を与え、その後、端部E2に対し、4秒の周期で±19度の角度でねじり動作を行った。
【0040】
図12は、-19度ねじった時点(2秒)におけるケーブル2Aにかかる最大主応力の分布であり、
図13は、+19度ねじった時点(4秒)におけるケーブル2Aにかかる最大主応力の分布である。このように、素線単位で局所的に詳細な応力を解析することができた。
【0041】
また、
図14(a)に示すストランドS1内の特定の評価点No.1,No.2における最大主応力の履歴を
図14(b)に示す。これにより、ケーブル2Aのねじりによる応力振幅は、中心付近の素線よりも外側の素線のほうが大きいことが分かる。
【0042】
続いて、ケーブル2Aの断線予測を行った。本実施例では、非特許文献1と同様に、日本材料学会の「金属材料疲労信頼性評価基準―S-N曲線回帰法―」に基づく曲線回帰を行うことによりS-N曲線を求め、S-N曲線と銅素線の静的強度を基に、平均応力と応力振幅との関係を示す疲労限度線図(修正Goodman線図)を作成した。
【0043】
ねじりの繰り返し数が10
4における疲労限度線図を
図15に示す。上記の応力解析によりケーブル2Aの各部位ごとに得られる平均応力および応力振幅を疲労限度線図にプロットして、疲労限度線よりも上側(高応力領域)に位置すれば、断線に至ると予測され、疲労限度線よりも下側(低応力領域)に位置すれば、断線に至らないと予測される。
【0044】
図16(a)は、中心部のストランドS1内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、
図16(b)は、
図16(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
図17(a)は、外側のストランドS2内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、
図17(b)は、
図17(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【0045】
これらの結果から、高応力領域にある節点の割合は、ストランドS1がストランドS2よりも大きいため、ストランドS1のほうがストランドS2よりも断線しやすいと予測された。経験則上、中心部のストランドのほうが外側のストランドよりも断線しやすいことが分かっており、本実施例の予測結果は、経験則に合致している。
【0046】
[実施例2]
実施例2では、素線の本数がほぼ同じでストランドの数および配置が異なるケーブルにかかる応力を解析した。具体的には、20本の素線を撚り合わせてなる12本のストランドを備えたケーブル2B(12×20モデル、素線の合計:240本)、および、34本の素線を撚り合わせてなる7本のストランドを備えたケーブル2C(7×34モデル、素線の合計:238本)にかかる応力を解析した。
【0047】
ケーブル2B,2Cの長さは、実施例1の解析対象であるケーブル2Aと同じ53mmであった。ケーブル2B,2Cのモデル化も、ケーブル2Aと同様であり、
図18(a)および
図19(a)に示すように、端部E1,E2から25mmの第1部位2aと、中央の長さ3mmの第2部位2bとに分割し、第1部位2aをビーム要素でモデル化し、第2部位2bをソリッド要素にモデル化した。なお、ケーブル2Bでは、中心部に位置する3つの中心ストランドS1~S3のうち1つのストランドS1のみ、各素線を仮想単線または均質材にモデル化し、ケーブル2Cでは、中心部に位置する中心ストランドS1のみ、各素線を仮想単線または均質材にモデル化した。
【0048】
続いて、ケーブル2B,2Cの解析条件をそれぞれ
図18(b)および
図19(b)のように設定し、設定された解析条件に基づいてケーブル2B,2Cにかかる応力を解析した。ケーブル2B,2Cに対する動作は、
図11に示すケーブル2Aに対する動作と同様であった。
【0049】
図20および
図21はそれぞれ、-19度ねじった時点(2秒)におけるケーブル2B,2Cにかかる最大主応力の分布である。
図22および
図23はそれぞれ、+19度ねじった時点(4秒)におけるケーブル2B,2Cにかかる最大主応力の分布である。
【0050】
続いて、実施例1と同様の手法を用いて、ケーブル2B,2Cの断線予測を行った。
図24(a)は、ケーブル2BのストランドS1内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、
図24(b)は、
図24(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
図25(a)は、ケーブル2CのストランドS1内の160箇所の節点における平均応力および応力振幅をプロットした疲労限度線図であり、
図25(b)は、
図25(a)の疲労限度線図において、高応力領域および低応力領域に位置する節点の数の比率を示すグラフである。
【0051】
これらの結果から、高応力領域にある節点の割合は、ケーブル2Cがケーブル2Bよりも大きいため、ケーブル2Cのほうがケーブル2Bよりも断線しやすいと予測された。実際の複合ケーブルにおいても、7×34モデルのほうが12×20モデルよりも断線しやすいことが経験的に知られており、本実施例の予測結果は、経験則に合致している。