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  • 特開-石英ガラスヤーンパッケージ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174011
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】石英ガラスヤーンパッケージ
(51)【国際特許分類】
   B65H 55/00 20060101AFI20231130BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20231130BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20231130BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20231130BHJP
   C03B 37/12 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B65H55/00
D03D15/267
D02G3/16
D02G3/26
C03B37/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086611
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【テーマコード(参考)】
3F115
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
3F115AA06
3F115BA04
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA21
4L036RA15
4L036UA23
4L048AA03
4L048AB07
4L048AB12
4L048BA01
4L048CA00
4L048DA24
4L048DA43
(57)【要約】
【課題】石英ガラスヤーンの毛羽の発生及び整経工程での糸切れを低減した石英ガラスヤーンパッケージを提供すること。
【解決手段】巻取部を有するボビンと、該巻取部に巻き取られたSiO2含有量が95質量%以上の石英ガラスヤーンとを具備し、前記ボビンが、帯電防止加工ボビンであり、前記石英ガラスヤーンが、前記ボビンの巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分と、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分とを交互に有し、前記巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分の巻きピッチaが、0.1~0.3mmであり、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分の巻きピッチbが、0.2~0.6mmである石英ガラスヤーンパッケージ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取部を有するボビンと、該巻取部に巻き取られたSiO2含有量が95質量%以上の石英ガラスヤーンとを具備し、
前記ボビンが、帯電防止加工ボビンであり、
前記石英ガラスヤーンが、前記ボビンの巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分と、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分とを交互に有し、前記巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分の巻きピッチaが、0.1~0.3mmであり、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分の巻きピッチbが、0.2~0.6mmである石英ガラスヤーンパッケージ。
【請求項2】
前記石英ガラスヤーンが、石英ガラスストランドを撚り数0.1~5.0回/25mmで撚ったものである請求項1記載の石英ガラスヤーンパッケージ。
【請求項3】
前記石英ガラスストランドが、平均直径3~5μmの石英ガラスフィラメント30~200本を集束したものである請求項2記載の石英ガラスヤーンパッケージ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の石英ガラスヤーンパッケージを用いて製織された石英ガラスクロス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスヤーンパッケージに関し、さらに詳述すると、製織性に優れた石英ガラスヤーンパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスクロスを製織する際には、ガラスヤーンに綾を掛けてボビンに巻き取ったガラスヤーンパッケージを用いるのが一般的である。ガラスヤーンパッケージの巻き形状としては、一般的に、ボビンの巻取部下部から巻取部上方の任意の高さまでが円筒形状であり、残りの高さの部分を円錐台形状としたものが知られている。
【0003】
ところで、ガラスヤーンパッケージには、毛羽が発生しやすいという問題点がある。ガラスヤーンパッケージの毛羽の発生原因の1つに、ガラス繊維の帯電性が挙げられており、特に、電気伝導性の低い石英ガラス繊維の場合、ボビン巻き量の増加及び石英ガラス繊維の細径化に伴い、顕著である。
毛羽立ちを防止するために、特許文献1では、帯電防止剤が添加された石英ガラス用集束剤が提案されているが、巻き量については言及されておらず、巻き量増加の際の帯電防止対策が課題となっている。
【0004】
また、特許文献2~4には、ボビンにガラスヤーンを巻き取る際の巻きピッチや巻き形状によって、糸出し性や製織時の毛羽立ちが改善されたガラスヤーンパッケージが提案されている。
特許文献2では、巻き直径に対する巻きピッチを巻きピッチ比とし、この巻きピッチ比を調整することで製織性を向上させているが、平均フィラメント径が3~5μmの細径のガラスヤーンについては言及されていない。
また、特許文献3,4では、平均フィラメント径が3~5μmの細径のガラスヤーンパッケージの円筒形状部の高さや直径、円錐台形状部の高さを調整することで、毛羽や糸切れ、巻き崩れは低減しているが、石英ガラスについては言及されておらず、硬くて脆く、帯電性の高い石英ガラスヤーンの毛羽抑制と製織性の向上は課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-1926号公報
【特許文献2】特開2003-54837号公報
【特許文献3】国際公開第2018/198492号
【特許文献4】特開2021-42046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、プリント配線基板用ガラスクロスの極薄化が進行しており、それに伴い、原糸であるガラスヤーンも細径化及び細番手化する必要がある。
しかし、細径化及び細番手化した石英ガラスヤーンは、石英ガラスに顕著な帯電性及び脆弱性により毛羽が発生し、石英ガラスクロスの経糸を準備する整経工程において糸切れが多く、安定した製織ができないといった問題点がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、石英ガラスヤーンの毛羽の発生及び整経工程での糸切れを低減した石英ガラスヤーンパッケージ及び前記石英ガラスヤーンパッケージを用いて製織した石英ガラスクロスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、SiO2含有量が95質量%以上である石英ガラスヤーンを帯電防止加工ボビンに巻き取る際の巻きピッチを適切な値に設定した石英ガラスヤーンパッケージが、帯電による毛羽を抑制でき、整経工程での糸切れを低減させ、石英ガラスクロスの品質を低下させないことを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、
1. 巻取部を有するボビンと、該巻取部に巻き取られたSiO2含有量が95質量%以上の石英ガラスヤーンとを具備し、
前記ボビンが、帯電防止加工ボビンであり、
前記石英ガラスヤーンが、前記ボビンの巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分と、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分とを交互に有し、前記巻取部の下部から上部へ巻き取られた部分の巻きピッチaが、0.1~0.3mmであり、前記巻取部の上部から下部へ巻き取られた部分の巻きピッチbが、0.2~0.6mmである石英ガラスヤーンパッケージ、
2. 前記石英ガラスヤーンが、石英ガラスストランドを撚り数0.1~5.0回/25mmで撚ったものである1記載の石英ガラスヤーンパッケージ、
3. 前記石英ガラスストランドが、平均直径3~5μmの石英ガラスフィラメント30~200本を集束したものである2記載の石英ガラスヤーンパッケージ、
4. 1~3のいずれかに記載の石英ガラスヤーンパッケージを用いて製織された石英ガラスクロス
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の石英ガラスヤーンパッケージは、毛羽の発生及びガラスクロス製織時の糸切れを低減できる。そのため、本発明の石英ガラスヤーンパッケージを用いれば、小型電子機器用の伝送損失の少ない石英ガラスクロスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の石英ガラスヤーンパッケージの一実施形態を示し、(A)は、概略正面図であり、(B)は、巻きピッチを示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[石英ガラスヤーンパッケージ]
本発明の石英ガラスヤーンパッケージは、巻取部を有するボビンと、該巻取部に巻き取られたSiO2含有量が95質量%以上の石英ガラスヤーンとを具備し、前記ボビンが、帯電防止加工されたものであり、前記石英ガラスヤーンが、所定の巻きピッチで、前記巻取部の下部から上部へと上部から下部へと交互に繰り返し巻き取られたものである。
【0013】
なお、本明細書では、石英ガラスインゴットを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスストランドに撚りをかけたものを石英ガラスヤーン、石英ガラスヤーンをボビンに綾掛けして巻き取ったものを石英ガラスヤーンパッケージと定義する。
また、ボビンの巻取部下部から上部へ又は上部から下部へヤーンを巻き取ることで一つの糸層が形成されるが、本発明では、ボビン巻取部の同一層に巻かれた隣接する石英ガラスヤーン間の距離を巻きピッチとする。
【0014】
(1)ボビン
本発明で用いられるボビンは、石英ガラスヤーンを巻き取る巻取部(胴部)を有するものであれば、形状、材質等は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
本発明で用いられるボビンの巻取部の形状としては、例えば、円柱形、円筒形、円錐形、円錐台形等が挙げられる。
巻取部の長さ(高さ)及び太さ(胴径)も特に限定されず、石英ガラスヤーンパッケージに用いられる従来公知の範囲から適宜選定することができる。
また、巻取部には、その側面に、長さ(高さ)方向に沿って所定の間隔をおいて、断面台形状の凸部(節部)が環状に複数形成されていてもよい。
【0015】
本発明で用いられるボビンは、鍔部を有していても、有していなくてもよい。鍔部を有している場合、巻取部の両端部に有していてもよいし、下端部のみに有していてもよいが、製織性の点から、下端部のみに有していることが好ましい。
鍔部の形状は特に限定されず、従来公知の形状から適宜選択することができ、例えば、円盤状、円錐台形状、円盤状と円錐台形状を組み合せた形状等が挙げられる。
なお、本発明で用いられるボビンの向きは、巻き取り時、製織時等の条件に応じて、縦置き、横置き等することができ、使用用途により適宜選択することができる。
【0016】
本発明で用いられるボビンの材質は特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、6ナイロン(PA6)樹脂、66ナイロン(PA66)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂等が挙げられる。
ボビンの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。
【0017】
本発明で用いられるボビンは、帯電加工されたものであるが、少なくともその巻取部が帯電防止加工されていることが好ましい。鍔部を有する場合、鍔部は帯電防止加工されていても、されていなくてもよいが、毛羽防止の点から、帯電防止加工されていることが好ましい。
ボビンの帯電防止加工方法は特に限定されないが、例えば、ボビン表面に帯電防止剤をスプレーで塗布する方法、成型前の樹脂組成物に帯電防止剤を添加する方法等、公知の帯電防止加工方法を用いることができる。帯電防止剤の種類も特に限定されず、例えば、界面活性剤タイプ、アイオノマー系のもの等が挙げられる。
帯電防止加工がされていないボビンで巻き取った石英ガラスヤーンパッケージでは、巻き量の増加に伴い帯電量も増加するため、石英ガラスヤーンパッケージ表面に毛羽が多数発生し、製織時に糸切れが発生してしまう。
【0018】
(2)石英ガラスヤーン
(2-1)ガラス組成
本発明で用いられる石英ガラスヤーンのSiO2含有量は、95質量%以上であるが、95.0~100.0質量%が好ましく、98.0~100.0質量%がより好ましく、99.0~100.0質量%がさらに好ましい。なお、SiO2以外の成分としては、Al23、CaO、MgO、B23、Na2O等が挙げられる。
【0019】
(2-2)フィラメント
石英ガラスフィラメントは、石英ガラスヤーンを構成するもので、石英ガラスインゴットを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維である。
本発明で用いられる石英ガラスフィラメントの平均径は、2~6μmが好ましく、3~5μmがより好ましい。
【0020】
(2-3)ストランド
石英ガラスストランドは、石英ガラスフィラメントを集束したものである。
本発明では、上記石英ガラスフィラメントを30~200本束ねてストランドにすることが好ましく、35~100本がより好ましい。
【0021】
(2-4)石英ガラスヤーン
石英ガラスヤーンは、石英ガラスストランドに撚りをかけたものである。
本発明において、石英ガラスヤーンの撚り数は、0.1~5.0回/25mmが好ましく、0.2~4.0回/25mmがより好ましく、0.5~1.0回/25mmがさらに好ましい。撚り数が0.1回/25mm未満の場合は、撚り数が少なく、集束性が損なわれ、糸切れや毛羽が発生しやすくなる場合がある。また、5.0回/25mmを超える場合は、飛走性が損なわれ、製織性が損なわれる場合がある。
【0022】
次に、図面を参照しつつ、本発明の石英ガラスヤーンパッケージの一実施形態を説明する。
図1(A)には、本発明の一実施形態に係る石英ガラスヤーンパッケージ100が示されており、この石英ガラスヤーンパッケージ100は、ボビン1と、このボビン1に巻き取られた石英ガラスヤーン2とを具備している。本実施形態では、ボビン1は、巻取部11と、円盤状の鍔部12とを有している。また、石英ガラスヤーン2は、ボビン1の巻取部11の下部から上部へ巻きピッチaで、上部から下部へ巻きピッチbで交互に繰り返して巻き取られており、その結果、石英ガラスヤーンは2、ボビン1の巻取部11の下部から上部へ巻き取られた部分21と、上部から下部へ巻き取られた部分22とを交互に有している。
図1(B)は、ボビン1の巻取部11の下部から上部へ巻きピッチaで巻き取られた石英ガラスヤーン21と、上部から下部へ巻きピッチbで巻き取られた石英ガラスヤーン22の巻きピッチを示す部分拡大図である。
【0023】
本発明の石英ガラスヤーンパッケージにおいては、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaは、0.1~0.3mmであるが、0.1~0.2mmが好ましい。また、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbは、0.2~0.6mmであるが、0.2~0.5mmが好ましい。巻きピッチa,bが上記範囲より狭い場合は、糸出し性が損なわれ、整経時に糸切れや毛羽が発生しやすい。また、上記範囲より広い場合は、石英ガラスヤーンがボビンから滑り落ちるため、均一なテンションを保つことができない。
ボビンに巻き取られた石英ガラスヤーンの巻き形状は特に限定されず、従来公知の形状から適宜選択すればよく、例えば、円筒形(円柱形)、円錐形、円錐台形、紡錘形、円筒形(円柱形)と円錐台形を組み合せた形状等が挙げられる。
なお、本発明のヤーンパッケージの向きは、製織時等の条件に応じて、縦置き、横置き等することができ、使用用途により適宜選択することができる。
【0024】
[石英ガラスヤーンパッケージの製造方法]
本発明の石英ガラスヤーンパッケージは、例えば、下記工程を含む方法により製造することができる。なお、石英ガラスヤーンとしては、SiO2量が上記範囲である市販品を用いることもできる。
(1)石英ガラスインゴットを所望の形状に成型した後、加熱延伸して石英ガラスフィラメントを形成するフィラメント形成工程
(2)得られたフィラメントを所定本数束ねて石英ガラスストランドを形成する集束工程
(3)得られたストランドに撚りをかけて石英ガラスヤーンを形成しながらボビンに巻き取る巻取工程
【0025】
(1)フィラメント形成工程
フィラメント形成工程は、原料となる石英ガラスインゴットを所望の形状に成型し、必要によりアニール処理した後、加熱延伸して石英ガラスフィラメントを形成する工程である。
本発明で用いられる石英ガラスフィラメントの原料インゴットの製造方法としては、水晶を原料とした電気溶融法、火炎溶融法;四酸化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法;アルキルシリケートを原料としたゾルゲル法等が挙げられるが、SiO2含有量が95質量%以上であればこれらの製造方法に限定されるものではない。これらの中でも、水晶を原料とした電気溶融法;四酸化ケイ素を原料としたプラズマ合成法、スート法、又はアルキルシリケートを原料としたゾルゲル法が不純物としてOH基を含みにくいとされているため、好ましい。
【0026】
本発明で用いられる石英ガラスフィラメントの製造方法は特に制限されず、公知の紡糸方法を用いることができ、例えば、電気溶融、酸水素火炎による原料石英インゴット又は石英ガラスロッドの延伸法等が挙げられるが、石英ガラスフィラメントの平均径が上述した範囲であればこれらの製造方法に限定されるものではない。例えば、Qガラスを用いたシリカガラスフィラメントを製造する場合、シリカガラスのインゴット原料から電気炉延伸した150~350μmのシリカガラスの糸を、上述したフィラメントの平均径となるように酸水素バーナーにより紡糸する方法等が挙げられる。
また、石英ガラスインゴット又は石英ガラスロッドの直径と、延伸される石英ガラスインゴット又は石英ガラスロッドの送り速度と、石英ガラスフィラメントの線引き速度の制御を行うことにより、所望のフィラメント径が得られる。
【0027】
(2)集束工程
集束工程は、得られたフィラメントを所定本数束ねて石英ガラスストランドを形成する工程である。
本発明で用いられる石英ガラスストランドの形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。この場合、石英ガラスフィラメントを束ねる際に、集束剤を塗布することが好ましい。
本発明で用いられる集束剤としては、石英ガラスフィラメントに用いられるものであれば特に限定されず、例えば、澱粉を主原料とした組成物が挙げられ、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤、帯電防止剤等を配合することができる。澱粉としては、例えば、コーン、馬鈴薯、米、小麦、タピオカ、さつまいも等を原料とするものが挙げられる。
【0028】
また、本発明で用いられる石英ガラスストランドは、複数のフィラメントをサイズ剤により集束して調製することもできる。このサイズ剤は、通常、ガラスフィラメントの収束性や、ガラスヤーン製織時の保護や飛走性を向上させる目的で使用されるものであり、本発明では、被膜形成剤成分として、でんぷん系又はポリビニルアルコール(PVA)系のものを含むサイズ剤が好ましい。
【0029】
(3)巻取工程
巻取工程は、得られた石英ガラスストランドを撚糸機を用いて撚糸して石英ガラスヤーンを形成しながらボビンに巻き取る工程である。
ここで、本発明で用いられる撚糸機は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。具体例としては、例えば、複数本の回転可能なスピンドルが、列をなして直立して取り付けられており、各スピンドル上には着脱可能なボビンが嵌着され、さらに、各スピンドルの上方には、紡糸工程で得られたケーキを装着するクリールがスピンドルと同数設けられているものが挙げられる。
スピンドルの周囲には、トラベラーが係合されたリングレールが設置されており、撚糸機を稼働させると、スピンドルが一定の速度で回転し、これに伴ってリングレールも一定の速度で上下に反復移動し、ボビンへの石英ガラスヤーンの巻き付け位置が変化することで、石英ガラスヤーンが、ボビン巻取部の下部から上部へと上部から下部へと交互に所定の巻きピッチで巻き取られて、石英ガラスヤーンパッケージが得られる。なお、巻きピッチは、スピンドル回転速度とリングレール速度に依存する。
【0030】
[石英ガラスクロス]
本発明の石英ガラスクロスは、上記石英ガラスヤーンパッケージを用いて製造される。
本発明の石英ガラスクロスの織組織、織密度等は特に限定されないが、織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられる。また、織密度としては、例えば、10~130本/25mmが好ましい。
【0031】
[石英ガラスクロスの製造方法]
本発明の石英ガラスクロスの製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができるが、例えば、下記工程を含む方法により製造することができる。
(11)本発明の石英ガラスヤーンパッケージを用いて石英ガラスクロスを製造する製織工程
(12)必要により、石英ガラスクロスの石英ガラスヤーンを開繊する開繊工程
(13)必要により、石英ガラスストランドを製造する際に用いたサイズ剤を除去する脱サイズ工程
(14)必要により、石英ガラスクロスを表面処理剤で処理する表面処理工程
【0032】
(11)製織工程
製織工程は、本発明の石英ガラスヤーンパッケージを用いて石英ガラスクロスを製造する工程である。
製織方法は特に制限されず、従来公知の方法から適宜選択して行うことができ、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるもの等が挙げられる。
【0033】
(12)開繊工程
開繊工程は、必要により、石英ガラスクロスの石英ガラスヤーンを開繊する工程である。
製織工程で得られた石英ガラスクロスはそのまま使用することもできるが、必要に応じて、石英ガラスクロスをプリプレグ等に用いたときの樹脂溶液等の含侵性及び表面平滑性を向上させるため、開繊処理することができる。開繊処理方法は特に限定されないが、例えば、超音波、高圧水、拡散スプレー、気液混合ミスト等を用いる方法が挙げられる。
【0034】
(13)脱サイズ工程
脱サイズ工程は、必要により、石英ガラスストランドを製造する際に用いたサイズ剤を除去する工程である。
脱サイズ処理方法としては特に限定されないが、例えば、加熱、水洗、エッチング等が挙げられる。
【0035】
(14)表面処理工程
表面処理工程は、必要により、石英ガラスクロスを表面処理剤で処理する工程である。
本発明の石英ガラスクロスをプリプレグ等に用いる場合、樹脂組成物の含浸性や樹脂組成物と石英ガラスクロスとの界面の接着性を発現させるために、必要に応じて、石英ガラスクロスをシランカップリング剤等の表面処理剤で処理することができる。
【0036】
表面処理剤としては特に限定されないが、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基等の官能基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。シランカップリング剤の具体例としては、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、p-スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。特に、処理表面が安定で、有機樹脂と化学的に結合可能な官能基を有する不飽和基含有官能基が好ましく、例えば、ビニル系や(メタ)アクリル系、スチリル系のシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0037】
シランカップリング剤は、表面処理するガラスクロスや、プリプレグに用いる際の樹脂に応じて選択すればよく、単独で用いても2種以上のシランカップリング剤を併せて用いてもよい。例えば、従来使用されているエポキシ樹脂用のシランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤、カチオン系シランカップリング剤等が挙げられる。
表面処理剤の量は、特に限定されないが、石英ガラスクロス100質量部に対して0.05~1.0質量部が好ましい。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[1]石英ガラスヤーンパッケージの作製
[実施例1]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5の比率(体積比)の混合火炎で延伸を行い、コーン由来の澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.2mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.5mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0040】
[実施例2]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーン由来の澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.1mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.3mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0041】
[実施例3]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスインゴット38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.3mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.2mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0042】
[実施例4]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.3mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.6mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0043】
[実施例5]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.1mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.2mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0044】
[実施例6]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.1mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.6mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0045】
[実施例7]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.5回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.2mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.5mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0046】
[実施例8]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数1.0回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.2mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.5mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0047】
[比較例1]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.05mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.15mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0048】
[比較例2]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されたボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.4mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが1.0mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0049】
[比較例3]
SiO2含有量が95質量%以上で、直径0.25mmの石英ガラスロッド38本を等ピッチに配置された冶具にセットし、水素2/酸素1/窒素0.5(体積比)の比率の混合火炎で延伸を行い、コーンからなる澱粉系集束剤を塗布し、平均フィラメント径3.6μm×38本の石英ガラスストランドを作製した。
リング撚糸機に帯電防止加工されていないボビンをセットし、得られた石英ガラスストランドを撚り数0.6回/25mm、ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.2mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.5mmとなるように撚糸し、石英ガラスヤーンパッケージを作製した。
【0050】
[2]特性評価
各実施例及び比較例で得られた石英ガラスストランド及び石英ガラスヤーンパッケージについて下記評価を行った。結果を表1に示す。
1.撚糸時の糸切れ
68kmの石英ガラスストランドを撚糸し、糸切れしなかったものを「〇」、途中で糸切れしたものを「×」とした。
2.石英ガラスヤーンパッケージ外観検査
拡大鏡観察により石英ガラスヤーンパッケージ表面の外観を観察し、毛羽の有無を下記基準に従って確認した。
・外観に毛羽が10個以内:〇
・外観に毛羽が11個以上:×
3.製織性評価
石英ガラスヤーンパッケージを用いて石英ガラスクロスを製織したときの製織性を下記基準に従って評価した。
・製織性良好(糸切れ、毛羽立ちあり):〇
・製織性不良(糸切れ、毛羽立ちなし):×
【0051】
【表1】
【0052】
ボビン巻取部の下部から上部への巻きピッチaが0.1~0.3mm、ボビン巻取部の上部から下部への巻きピッチbが0.2~0.6mmとなるように撚糸した実施例1~8では、毛羽等の不良がなく、エアジェットによる製織性も良好であった。
巻きピッチa,bが上記範囲より狭い比較例1では、石英ガラスヤーンの外観不良は見られなかったが、製織時に糸切れや毛羽が発生した。
巻きピッチa,bが上記範囲より広い比較例2では、撚糸時に石英ガラスヤーンに負荷がかかり、毛羽が発生し、製織性も不良であった。
また、ボビンに帯電防止加工されていない比較例3では、撚糸途中で糸切れし、毛羽も多く、製織性も不良であった。
【0053】
このように、本発明によれば、帯電防止加工されたボビンを用い、撚糸工程での巻きピッチを最適化することで、製織性に優れ、効率よく石英ガラスクロスを製造できるという著大な効果を奏する。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含有される。
【符号の説明】
【0054】
1 ボビン
11 巻取部
12 鍔部
2 石英ガラスヤーン
21 巻取部下部から上部へ巻き取られた石英ガラスヤーン
22 巻取部上部から下部へ巻き取られた石英ガラスヤーン
100 石英ガラスヤーンパッケージ
a 巻取部下部から上部への巻きピッチ
b 巻取部上部から下部への巻きピッチ
図1