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特開2023-174021カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム
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  • 特開-カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム 図1
  • 特開-カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174021
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20220101AFI20231130BHJP
   B09B 3/38 20220101ALI20231130BHJP
【FI】
B09B3/00 ZAB
B09B3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086626
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA16
4D004AB03
4D004BA01
4D004BA04
4D004BA06
4D004CA07
4D004CA12
4D004CA15
4D004CA45
(57)【要約】
【課題】カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用性を拡大し、加工効率を向上することができるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム及びカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法を提供する。
【解決手段】複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入手段と、前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵手段と、出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択手段と、複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷手段とを備えるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入手段と、
前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵手段と、
出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択手段と、
複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷手段と
を備えるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項2】
前記貯蔵手段は、前記炭酸カルシウムを、更に、性状に応じて分別して貯蔵する請求項1に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項3】
前記性状が、前記炭酸カルシウムの、結晶構造、粒度、不純物含有量、色調、及び水分量からなる群より選択される1つ以上を含む請求項2に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項4】
前記加工経路を選択した後に、更に、前記炭酸カルシウムの性状を調整する性状調整手段を備える請求項1又は2に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項5】
前記性状調整手段が、前記炭酸カルシウムを分級する分級手段を含む請求項4に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項6】
前記加工経路を選択した後に、更に、前記炭酸カルシウム同士、又は、前記炭酸カルシウムと他の原料とを混合する混合手段を備える請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項7】
前記製品の用途が、窯業原料、肥料、飼料、填料、顔料、歯磨剤、化粧品原料、食品添加物、医薬品原料、又はチョークである請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【請求項8】
複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入工程と、
前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵工程と、
出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択工程と、
複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷工程と
を有するカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム及びカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、工場で排出される排ガスを利用したカーボンリサイクル炭酸カルシウムの製造が進められている。かかる状況下において、リサイクル品を収集し、製品として出荷するまでの物流システムが種々検討されている。
例えば、特許文献1は、各所の石炭焚き火力発電所で発生した石炭灰を受け入れ、各種用途に向けて配送可能な石炭灰処理および物流の効率化を目的として、石炭焚き火力発電所で発生した石炭灰の受入設備と、複数の貯蔵設備と、石炭灰を分級する分級機と、石炭灰同士または石炭灰と他の原料とを混合する混合機と、複数の用途別に石炭灰または石炭灰と他の原料との混合物を出荷するための出荷設備とを備えた石炭灰処理・物流複合システムを開示されている。
【0003】
また、特許文献2は、各所の石炭焚き火力発電所で発生した石炭灰を受け入れ、各種用途に向けて配送可能な石炭灰処理および物流の効率化を目的として、石炭焚き火力発電所で発生した石炭灰を受け入れて複数の貯蔵設備のいずれかに振り分けて貯蔵し、
前記複数の貯蔵設備の一の貯蔵設備から石炭灰を抽出してそのまま製品として出荷するか、または、前記複数の貯蔵設備から抽出した石炭灰同士または石炭灰と他の原料とを混合して得られた物を製品として出荷するか、または、前記複数の貯蔵設備の一の貯蔵設備から抽出した石炭灰を分級して得られた物を製品として出荷するか、または、前記複数の貯蔵設備から抽出した石炭灰を分級し、さらに分級した石炭灰同士または分級した石炭灰と他の原料とを混合して得られた物を製品として出荷することを特徴とする石炭灰処理・物流方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-59148号公報
【特許文献2】特開2005-313165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシステムでは、各所で製造した石炭灰を各所で加工し、製品として出荷するために、加工効率が低かった。
本発明は、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用性を拡大し、加工効率を向上することができるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム及びカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の<1>~<8>を提供する。
<1> 複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入手段と、
前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵手段と、
出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択手段と、
複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷手段と
を備えるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【0007】
<2> 前記貯蔵手段は、前記炭酸カルシウムを、更に、性状に応じて分別して貯蔵する<1>に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
<3> 前記性状が、前記炭酸カルシウムの、結晶構造、粒度、不純物含有量、色調、及び水分量からなる群より選択される1つ以上を含む<2>に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【0008】
<4> 前記加工経路を選択した後に、更に、前記炭酸カルシウムの性状を調整する性状調整手段を備える<1>または<2>に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
<5> 前記性状調整手段が、前記炭酸カルシウムを分級する分級手段を含む<4>に記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
<6> 前記加工経路を選択した後に、更に、前記炭酸カルシウム同士、又は、前記炭酸カルシウムと他の原料とを混合する混合手段を備える<1>~<5>のいずれか1つに記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
<7> 前記製品の用途が、窯業原料、肥料、飼料、填料、顔料、歯磨剤、化粧品原料、食品添加物、医薬品原料、又はチョークである<1>~<6>のいずれか1つに記載のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム。
【0009】
<8> 複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入工程と、
前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを性状に応じて分別して貯蔵する複数の貯蔵工程と、
出荷する製品の用途に応じて、前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択工程と、
複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷工程と
を有するカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用性を拡大し、加工効率を向上することができるカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム及びカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムの一例を示すフロー図である。
図2】本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムにおけるカーボンリサイクル炭酸カルシウムのCO排出原単位と、天然炭酸カルシウムのCO排出原単位の概要を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<1.カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システム>>
本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムは、複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入手段と、前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵手段と、出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択手段と、複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷手段とを備える。
本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムは、更に、性状調整手段、混合手段等を含んでいてもよい。
以下、本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムを「本実施形態のシステム」と略記することがある。
【0013】
既述のように、従来の物流システムでは、各所で製造されたリサイクル品を各所で加工し、製品を得ていた。各工場の排ガスを利用してカーボンリサイクル炭酸カルシウムを製造する場合、各拠点で製造できる量は限られている。また、同じ炭酸カルシウムでも、用途ごとに求められる性状(粒度、色調など)は様々であり、用途に応じて都度製造方法を変えることには多大な負荷を要した。そのため、加工効率に優れなかった。
【0014】
それに対し、本実施形態のシステムでは、複数の工場で製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを一手に受け入れ、受け入れ場と同一拠点で加工し、製造から出荷までをまとめて管理することができるため、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用性を拡大し、加工効率を向上することができる。
【0015】
また、近年、CO排出原単位の管理が求められているが、従来の物流システムでは考慮されていなかった。本実施形態のシステムでは、炭酸カルシウムを所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵し、製品加工を行うため、顧客が所望する性状だけでなくCO排出原単位に応じた製品を製造することができ、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用性を更に拡大することができる。
【0016】
以下、本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムの最良の形態について説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をよりよく理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0017】
<受入手段>
受入手段は、複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる手段である。
複数の工場で製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを1拠点に受け入れることで、受け入れ後の貯蔵、加工、製造等の管理をまとめて行うことができる。
【0018】
〔輸送手段1〕
本実施形態のシステムでは、複数の工場から受入手段まで、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを輸送する輸送手段1を有していてもよい。
輸送手段1の種類は特に制限されず、バルク船による海送であってもよいし、バルク車による陸送であってもよい。
陸送の場合は、受入手段が積込手段を有することが好ましい。積込手段を有することで、受入効率を向上することができる。
海送の場合は、受入手段は、海岸に専用埠頭を有することが好ましい。専用埠頭を有することで、受入効率を向上することができる。
【0019】
(カーボンリサイクル炭酸カルシウム)
カーボンリサイクル炭酸カルシウムは、工場で排出される排ガスから回収したCOを用いて製造される。
以下、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを「再生炭酸カルシウム」と称することがある。また、鉱山にて採掘して得られる炭酸カルシウムを「天然炭酸カルシウム」又は「天然石灰石」と称することがある。
炭酸カルシウムの製造方法には、主として、ダイレクトカーボネーション方式(直接反応方式)とインダイレクトカーボネーション方式(間接反応方式)がある。
ダイレクトカーボネーション方式では、原料中のカルシウム源と排ガス中のCOを直接反応させて炭酸カルシウムを生成する。この方式は、比較的簡易なプロセスであるが、生成物と反応残渣が混在することにより不純物を含有した白色度の低い生成物となりやすい。
インダイレクトカーボネーション方式では、例えば、原料から抽出したカルシウム源と排ガスから分離回収したCOとを反応させて炭酸カルシウムを生成する。この方式では生成物と反応残渣が混在することはなく、純度の高い生成物を得ることができるが、プロセスが複雑でコストもかかりやすい。
【0020】
このように製造方法の違いにより異なる性状の炭酸カルシウムが製造される。工場の規模、コスト等によっても導入可能な方式は異なるため、各工場で製造する炭酸カルシウムの性状を全て制御することは難しい。
CO由来の炭酸カルシウムを様々な用途(製紙、セメント混合材など)に利用するためには、それらの用途にあった性状スペックに調整し、出荷する必要がある。また、顧客の要望に応じたCO排出原単位で製品を出荷することが求められている。
そのため、本実施形態に係るシステムのように、各工場で製造された炭酸カルシウムを1ヶ所に受け入れ、CO排出原単位ごとに分別して貯蔵し、出荷する製品の用途に応じて炭酸カルシウムを管理することで、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの利用の幅を広げることができ、加工効率も向上することができ、更には、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを利用したカーボンニュートラル製品の普及が期待できる。
【0021】
<貯蔵手段>
貯蔵手段は、複数備えられ、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する手段である。
「カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別」としては、例えば、鉱山にて採掘して得られた天然炭酸カルシウム(天然石灰石)と、カーボンリサイクル炭酸カルシウムとを混合し、全炭酸カルシウム中のカーボンリサイクル炭酸カルシウムの割合を調製することで、所定のCO排出原単位の炭酸カルシウムを得ることが挙げられる。また、カーボンリサイクル炭酸カルシウムのCO排出原単位は、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを製造する工場の製造条件等により、異なるものであり、CO排出原単位の異なる2種以上のカーボンリサイクル炭酸カルシウムを混合して所定のCO排出原単位の炭酸カルシウムを得てもよい。
【0022】
なお、本発明において、カーボンリサイクル炭酸カルシウム(再生炭酸カルシウム)のCO排出原単位は、図2の左側に示すフロー図の破線枠の過程で吸収及び排出されるCO量に基づいて算出される。天然炭酸カルシウムは、図2の右側に示すフロー図の破線枠の過程で排出されるCO量に基づいて算出される。
一般に、再生炭酸カルシウムのCO排出原単位は、再生炭酸カルシウムの製造のみに着目すれば、鉱山で採掘される天然炭酸カルシウムのCO排出原単位(例えば、17.3kg_CO/t_天然炭酸カルシウム)に比べて大きく、1トン(t)の再生炭酸カルシウム当たりCO量として、569kg_CO/t_再生炭酸カルシウムほどのCO量が排出されるという報告がある。しかしながら、再生炭酸カルシウムを1トン生成するときに回収するCO量(例えば、440kg_CO/t_再生炭酸カルシウム)を差し引くことにより、CO利用から製造までを考慮した再生炭酸カルシウム製造のCO量は129kg_CO/t_再生炭酸カルシウムと算出される。
以下に、より具体的な例を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1において、1トン(t)のCO当たりの電気透析で用いられる電力量は、東京大学修士論文、2010年、阿部、82ページを参照した。
既述のように、東京電力社の2020年実績に基づく再生炭酸カルシウムを1トン生成するときのCO排出量と吸収量を含めた全体のCO排出量は129kg_CO/t_再生炭酸カルシウムと算出される。一方、関西電力社の2020年実績に基づく再生炭酸カルシウムを1トン生成するときのCO排出量と吸収量を含めた全体のCO排出量は11kg_CO/t_再生炭酸カルシウムと算出され、既述の天然炭酸カルシウムのCO排出量よりも小さくなる。更には、CO排出量の少ないバイオマス発電により再生炭酸カルシウムを1トン生成する場合には、全体のCO排出量を-337kg_CO/t_再生炭酸カルシウムとすることができる。
【0025】
(性状)
貯蔵手段においては、炭酸カルシウム(所定のCO排出原単位に分別された炭酸カルシウム)を、更に、性状に応じて分別して貯蔵することが好ましい。貯蔵時に性状に応じて分別して貯蔵することで、貯蔵後の加工、製造、出荷等の管理が容易になる。
炭酸カルシウムの性状は、例えば、炭酸カルシウムの、結晶構造、粒度、不純物含有量、色調、及び水分量からなる群より選択される1つ以上を含む。また、各性状の中で、更に細分化してもよい。すなわち、例えば、結晶構造、粒度、及び不純物含有量の3種類に分別してもよいし、結晶構造をA、B、Cの3ランクに分類し、粒度をA、B、Cの3ランクに分類して、「結晶構造がAランクで、粒度がAランク」、「結晶構造がAランクで、粒度がBランク」、・・・のように、より細かに分別してもよい。
【0026】
炭酸カルシウムの性状の確認方法は特に制限されない。
例えば、粒度(粒径)は、粒子径分布測定装置で測定することができ、白色度は色彩色差計で測定することができる。また、不純物の含有量は、エネルギー分散型蛍光X線(ED-XRF)分光装置により測定することができる。
【0027】
<選択手段>
選択手段は、出荷する製品の用途に応じて、炭酸カルシウムの加工経路を選択する手段である。
製品の用途は多岐にわたる。例えば、窯業原料、肥料、飼料、填料(ゴム、プラスチック、接着剤、シーラント、紙、塗料、インキ)、顔料、歯磨剤、化粧品原料、食品添加物、医薬品原料、チョーク等が挙げられる。
具体的に加工経路の選択においては、例えば、まず上記用途に応じて必要とされる炭酸カルシウムの製品性状データが入力され、この製品性状データに対して、貯蔵手段における各タンク内の炭酸カルシウムの原料性状データが参酌され、製品性状データを達成するためのタンクの選択、及び選択された各タンク内の炭酸カルシウムを混合する配合組成が決定される。このとき、配合組成の決定において、同一CO排出原単位のタンクグループの炭酸カルシウムを使用してもよいし、異なるCO排出原単位のタンクグループの炭酸カルシウムを使用してもよい。すなわち、加工経路の選択においては、用途に応じた性状とともに、併せて必要とされるCO排出原単位に合わせる加工経路の選択を行ってもよい。
【0028】
〔性状調整手段〕
本実施形態のシステムは、選択手段で加工経路を選択した後に、更に、炭酸カルシウム(所定のCO排出原単位に調整された炭酸カルシウム)の性状を調整する性状調整手段を備えることが好ましい。
本実施形態のシステムでは、貯蔵の段階で性状に応じて分別して貯蔵されることが好ましいが、貯蔵された炭酸カルシウムの性状を更に用途に応じた特性に調整することで各種製品の製造が容易になる。
例えば、性状調整手段は、炭酸カルシウムを分級する分級手段を含むことが好ましい。分級は、炭酸カルシウムを粉砕したり、篩分けして粒度のバリエーションを増やすことのみならず、結晶構造、不純物含有量、色調、水分量等について、含有量の大小、色の濃淡等の観点からランク分けすることを意味する。
【0029】
〔混合手段〕
本実施形態のシステムは、選択手段で加工経路を選択した後に、更に、炭酸カルシウム同士、又は、炭酸カルシウムと他の原料とを混合する混合手段を備えることが好ましい。
混合手段は、分級手段を経過した炭酸カルシウムに対して実施してもよいし、分級していない炭酸カルシウムに対して実施してもよい。
【0030】
(他の原料)
本実施形態のシステムにおいて、他の原料とは、炭酸カルシウム以外の原料を意味する。例えば、生石灰、消石灰、セメント、セメント系固化材、凝集剤等が挙げられる。種々の原料を混合することで、炭酸カルシウムの利用の幅が広くなり、加工効率も向上することができる。
【0031】
<出荷手段>
出荷手段は、複数の用途別に、製品を出荷する手段である。
製品中の再生炭酸カルシウム量が多いほど、環境負担軽減の貢献度が高い製品となり得るが、一般に、再生炭酸カルシウムは、天然炭酸カルシウムよりも高価であるため、再生炭酸カルシウム量が多いほどコスト負担が大きくなりやすい。本実施形態のシステムでは、種々のCO排出原単位で、かつ、種々の性状の炭酸カルシウムを含む製品を製造することができるため、CO排出原単位、製品の品質、及びコストのバランスを調整し易く、容易に顧客の要望に応えることができる。
【0032】
本実施形態のシステムは、更に、出荷手段から、製品を製品の利用手段まで輸送する輸送手段2を有していることが好ましい。輸送手段2の種類は特に制限されず、バルク船による海送であってもよいし、バルク車による陸送であってもよい。
【0033】
以下、本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムの具体的な形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態のカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合システムの一例を示すフロー図であり、本実施形態のシステムは図1に示されるフローに限定されるものではない。
【0034】
図1に示すフローでは、工場A、B、及びCの3工場にて、排ガスから回収したCOを用いてカーボンリサイクル炭酸カルシウム(再生炭酸カルシウム)が製造されている。例えば、表1に示した例のように、工場Aで製造されたカーボンリサイクル炭酸カルシウムCO排出原単位(吸収量と排出量を含む全体のCO量)は、天然炭酸カルシウムのCO排出原単位よりも大きく、工場Bで製造されたカーボンリサイクル炭酸カルシウムCO排出原単位は、天然炭酸カルシウムのCO排出原単位よりも小さく、工場Cではバイオマス発電が用いられ、カーボンリサイクル炭酸カルシウムCO排出原単位は、天然炭酸カルシウムのCO排出原単位よりも格段に小さいものとすることができる。
【0035】
本実施形態のシステムでは、工場A、B、及びCからカーボンリサイクル炭酸カルシウムが1ヶ所の物流センターに受け入れられる(受入手段)。このとき、工場Aで製造された再生炭酸カルシウムはバルク船に積載して物流センターへ海送し、工場B、Cで製造された再生炭酸カルシウムはバルク車に積載して物流センターへ陸送することができる。
【0036】
各々の再生炭酸カルシウムは、物流センターでの受け入れ時に、天然炭酸カルシウムと再生炭酸カルシウムを、天然炭酸カルシウム若しくはCO排出原単位の異なる他の再生炭酸カルシウムと混合して、あるいは、混合せずに、所定のCO排出原単位となるように調整して、CO排出原単位ごとに複数の貯蔵手段(例えば、6基以上のタンク)に貯蔵する。
【0037】
更に、所定のCO排出原単位に調整した炭酸カルシウムの性状を確認して、例えば、粒径(粒度)、白色度、及び不純物が測定される。粒径は、例えば、粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラック社製)にて測定する。白色度は、例えば、色彩色差計(CR-400/410、コニカミノルタ社製)にて測定する。不純物は、例えば、ED-XRF(Epsilon3、Malvern Panalytical社製)にて測定する。
物流センターには、CO排出原単位を調整した炭酸カルシウムそれぞれについて、更に性状の特徴毎に、大小に分けた複数のタンク(例えば、6基以上のタンク)を用意し、各性状に合わせてそれらのタンクに振り分けられる。
具体的には、例えば、再生炭酸カルシウムを、CO排出原単位が10、30、50、100、300、及び500kg_CO/t_再生炭酸カルシウムの6種の再生炭酸カルシウムに分別し、CO排出原単位が10kg_CO/t_再生炭酸カルシウムにおいて、6種の粒度に分別して貯蔵し、CO排出原単位が30kg_CO/t_再生炭酸カルシウムにおいて、6種の粒度に分別して貯蔵するといった具合に、各CO排出原単位の炭酸カルシウムごとに性状を分けて貯蔵することが好ましい。
【0038】
図1のフローにおいては、工場A、B、及びCで製造された再生炭酸カルシウムは、所定のCO排出原単位に調整し、各種性状測定結果に基づき、それぞれ、タンクA、B、及びCに投入される(貯蔵手段)。
【0039】
炭酸カルシウムは、出荷する製品の用途に応じて、加工経路が選択される(選択手段)。各タンクの引き出し量(配合量)を計算したり、引き出した炭酸カルシウムを分級(粉砕を含む)、及び/又は混合して、目的とする製品のスペックを満足する様に最適な加工方法、加工条件等が決定される。
【0040】
タンクAに貯蔵された炭酸カルシウムは、そのまま出荷可能という加工経路が選択され、性状調整手段及び混合手段を経ることなく出荷される(出荷手段)。
【0041】
炭酸カルシウムは、タンクBの炭酸カルシウムのように、性状調整手段で分級された後、そのまま製品タンクDに保管されてもよいし(経路a)、分級の後、タンクCの炭酸カルシウムと混合されてもよい(経路b)。また、タンクBの炭酸カルシウムを分級せずに、タンクCの炭酸カルシウムと混合してもよいし(経路c)、図示していないが、分級した炭酸カルシウム同士を混合してもよい。更に、タンクCの炭酸カルシウムのように、混合材を混合することで種々の製品を製造することができる(経路d)。
【0042】
図1では、性状調整手段の後に、混合手段を実施しているが、性状調整手段の前に混合手段を実施してもよいし、性状調整手段を実施し、混合手段を実施してから再度、性状調整手段によって分級を行ってもよい。
混合手段を経て得られた製品は、そのまま製品タンクEに保管してもよいし、混合手段を経て得られた製品が2種の用途に利用可能な場合は、製品タンクEと製品タンクFのように、それぞれの用途に分けて保管してもよい。また、既述のように、混合手段を経た製品について更に分級を行い、用途に応じた複数の製品タンクに製品を保管してもよい。
製品タンクD~Fに保管された製品は、複数の用途別に出荷される(出荷手段)。
【0043】
選択手段以降のフローについて、具体的な製品の用途の観点から説明する。
例えば、タンクBの炭酸カルシウムを製紙向けの原料として利用する場合、製紙の製造には、粒度(粒径)、白色度及び不純物の含有量について指定スペックがあるため、選択手段にて、配合設計、及び加工設計を行い、性状最適化処理を行う。粒度を調整する場合は、例えば、遠心分級型分級機(ターボプレックス500ATP、ホソカワミクロン社製)にて炭酸カルシウムを分級し、製品のスペックの範囲に入る炭酸カルシウムを得ることができる。分級によってでは、タンクBから所望の炭酸カルシウムを得ることができない場合は、タンクCの炭酸カルシウムを混合して粒度調整をすればよい。
【0044】
また、例えば、セメント混合材向けの原料を製造する場合、セメント混合材の製造には、粒度(粒径)、白色度及び不純物の含有量について指定スペックがあるため、選択手段にて、配合設計、及び加工設計を行い、性状最適化処理を行う。
例えば、タンクB及びタンクCからそれぞれ炭酸カルシウムを引き出し、攪拌型混合機(ナウタミキサDBX-5000RWV、ホソカワミクロン社製)にて混合し、必要に応じて遠心分級型分級機(ターボプレックス500ATP、ホソカワミクロン社製)にて分級すればよい。
【0045】
<<2.カーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法>>
本実施形態に係るカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法は、複数の工場で排ガスから回収したCOを用いて製造したカーボンリサイクル炭酸カルシウムを受け入れる受入工程と、前記カーボンリサイクル炭酸カルシウムを含む炭酸カルシウムを、所定のCO排出原単位ごとに分別して貯蔵する複数の貯蔵工程と、出荷する製品の用途に応じて、前記炭酸カルシウムの加工経路を選択する選択工程と、複数の用途別に、前記製品を出荷する出荷工程とを有する。
以下、本実施形態に係るカーボンリサイクル炭酸カルシウム処理・物流複合方法を、本実施形態に係る方法と略記することがある。
【0046】
炭酸カルシウムの性状、及び製品の用途の詳細は、本実施形態に係るシステムの説明にて記載したとおりである。
貯蔵工程においては、炭酸カルシウムを、更に、性状に応じて分別して貯蔵することが好ましい。本実施形態に係る方法は、選択工程の加工経路を選択した後に、更に、炭酸カルシウムの性状を調整する性状調整工程を有することが好ましく、性状調整工程は炭酸カルシウムを分級する分級工程を含むことが好ましい。また、本実施形態に係る方法は、選択工程で加工経路を選択した後に、更に、炭酸カルシウム同士、又は、炭酸カルシウムと他の原料とを混合する混合工程を有することが好ましい。他の原料は、本実施形態に係るシステムの説明にて記載したとおりである。
【0047】
本実施形態に係る方法は、受入工程のカーボンリサイクル炭酸カルシウムの受け入れに先立ち、複数の工場の発送から受入工程での受け入れまで、カーボンリサイクル炭酸カルシウムを輸送する輸送工程1を有していてもよいし、また、出荷工程から、製品を製品の利用手段まで輸送する輸送工程2を有していてもよい。
輸送工程1及び2における輸送の種類は特に制限されず、バルク船による海送であってもよいし、バルク車による陸送であってもよい。特に、輸送工程1を海送により行う場合は、カーボンリサイクル炭酸カルシウムの受け入れを、海岸に設置した専用埠頭にて行うことが好ましい。
図1
図2