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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174023
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ほつれ防止ガラスクロス
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20231130BHJP
   C03C 25/285 20180101ALI20231130BHJP
   C03C 25/6226 20180101ALI20231130BHJP
   C03C 25/1095 20180101ALI20231130BHJP
   C03C 13/00 20060101ALI20231130BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231130BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20231130BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20231130BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
D06M15/263
C03C25/285
C03C25/6226
C03C25/1095
C03C13/00
D03D1/00 A
D03D15/267
D06M10/00 K
H05K1/03 610T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086629
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【テーマコード(参考)】
4G060
4G062
4L031
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4G060BA02
4G060BB02
4G060BC08
4G060CB09
4G060CB33
4G060CB38
4G062AA05
4G062BB02
4G062DA08
4G062DB01
4G062DB02
4G062DC01
4G062DC02
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
4G062EB02
4G062EC01
4G062ED01
4G062ED02
4G062EE01
4G062EE02
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4G062FA10
4G062FB01
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4G062FD01
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4G062FF01
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4G062FH01
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4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
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4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
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4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM15
4G062MM27
4G062NN26
4L031AA26
4L031AB01
4L031AB21
4L031CB09
4L033AA09
4L033AB01
4L033AB03
4L033CA18
4L048AA03
4L048AB07
4L048CA00
4L048DA43
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】ほつれ防止処理部が一定の幅で、直線性が高く、かつ生産性に優れたほつれ防止ガラスクロスを提供すること。
【解決手段】幅方向両端部にほつれ防止処理部を有するほつれ防止ガラスクロスであって、前記幅方向両端部が、経糸に沿って切断された切断端部であり、前記ほつれ防止処理部が、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー100質量部及び光重合開始剤0.25~0.75質量部を含むほつれ防止用樹脂組成物の硬化物を含み、両縁部からそれぞれ経糸に沿って一定の幅を有するものであるほつれ防止ガラスクロス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両端部にほつれ防止処理部を有するほつれ防止ガラスクロスであって、
前記幅方向両端部が、経糸に沿って切断された切断端部であり、
前記ほつれ防止処理部が、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー100質量部及び光重合開始剤0.25~0.75質量部を含むほつれ防止用樹脂組成物の硬化物を含み、両縁部からそれぞれ経糸に沿って一定の幅を有するものであるほつれ防止ガラスクロス。
【請求項2】
前記ほつれ防止処理部の幅が、両縁部からそれぞれ5mm以下であって、幅のバラツキが、±0.5mm以下である請求項1記載のほつれ防止ガラスクロス。
【請求項3】
ガラスクロスを構成するガラスヤーンのSiO2含有量が、95質量%以上である請求項1又は2記載のほつれ防止ガラスクロス。
【請求項4】
経糸及び緯糸としてガラスヤーンを用いて原料ガラスクロスを製織する製織工程、
得られた原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ一定の塗布幅で、経糸に沿って、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー100質量部及び光重合開始剤0.25~0.75質量部を含み、溶剤を含まないほつれ防止用樹脂組成物を塗布する塗布工程、
塗布した樹脂組成物に紫外線を照射して樹脂組成物を硬化させ、樹脂処理部を形成する紫外線照射工程、
前記樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断して原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去する切断工程、
を含み、原料ガラスクロスに塗布した樹脂組成物を乾燥する乾燥工程を含まないほつれ防止ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほつれ防止ガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、5G等の高速通信化に伴い、ミリ波等の高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。また、スマートフォン等の情報端末においては、配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。
【0003】
5G等の高速通信向けプリント配線板等の有機樹脂基板の低誘電正接化として、樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体やガラスクロスを用いる方法が一般的である。例えば、Dガラス、NEガラス、Lガラス等の低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテル等の熱可塑性樹脂、更には、低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。
しかし、Dガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されているが、誘電正接は、いずれのガラスにおいても10GHz以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、通信にミリ波等の高周波を使用した場合、伝送損失が大きく、正確な情報を送れなくなる。
なお、信号の伝送損失は、Edward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。
【0004】
更なる低誘電ガラスクロスとして、一般的に、SiO2含有量が95質量%以上含まれる石英ガラスクロスは、誘電特性が非常に優れていることが知られている。例えば、特許文献1では、誘電正接が10GHzで0.0020以下のシリカガラスクロスが報告されており、このようなガラスクロスを今後の5G等の高速通信向け基板やアンテナ基板に用いることで伝送損失を小さくすることができる。
【0005】
一方で、ガラスクロスは、エアージェット織機等の無杼織機で製織されるが、無杼織機において、ガラスクロス内に緯入れされた緯糸は、緯入れ毎にガラスクロスの織幅に応じて切断されるため、ガラスクロスの端部(耳部)では、織組織の不具合を防止するために耳糸でほつれ止め(房耳処理)されている。
このような房耳を有するガラスクロスは、プリプレグ作製のために低誘電樹脂等のワニスに含浸させる工程で使用した場合、房耳部で樹脂玉等が発生し、ローラー部で樹脂玉が製品に落下し、品質が大きく損なわれる。
【0006】
また、ガラスクロスを切断して任意の寸法に加工する際に、ほつれ防止処理を施さずに切断すると、切断部から経糸が容易にほつれてしまい、このようなガラスクロスをワニスに含浸した場合、ほつれた経糸がロールに巻き付く等の問題が生じる。
【0007】
そこで、特許文献2~4では、ほつれを防止するために、エポキシ樹脂、エステル樹脂、ポリエーテル高分子等を用いたほつれ防止処理剤が提案されている。
しかし、いずれもほつれ防止処理剤を加熱により乾燥する工程が必要であり、このようなほつれ防止処理は、乾燥硬化に時間を要してしまい、生産性が劣るという問題点がある。
また、特許文献5では、樹脂溶液を塗布したガラスクロスの耳部に紫外線を照射して樹脂を硬化させるほつれ防止方法が提案されているが、紫外線硬化性樹脂を水や有機溶媒で希釈しているため、水分を除去する乾燥工程が必要であり、生産性が劣るという問題点がある。
【0008】
ガラスクロスをプリプレグの製造に用いる場合、ほつれ防止処理部は、プリプレグ形成後、プリント配線板に加工する際に切断され、使用されない。そのため、ほつれ防止処理部は、直線性が高く、ほつれ防止性が許す限り、狭い一定の幅にする必要がある。
しかし、特許文献2,3,5,6には、ほつれ防止処理部の幅について記載されているが、直線性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-063320号公報
【特許文献2】特開平8-13343号公報
【特許文献3】特開2001-81671号公報
【特許文献4】特許第6604893号公報
【特許文献5】特開2001-181982号公報
【特許文献6】特開平8-260340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ほつれ防止処理部が一定の幅で、直線性が高く、かつ生産性に優れたほつれ防止ガラスクロスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、原料ガラスクロスの幅方向両端部にそれぞれ所定の塗布幅で塗布した無溶剤型のほつれ防止用樹脂組成物を紫外線硬化させ、硬化した樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断し、原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去してほつれ防止処理部を形成したほつれ防止ガラスクロスが、ほつれ防止処理部が一定の幅で、直線性が高く、加工性及び生産性に優れたものであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、
1. 幅方向両端部にほつれ防止処理部を有するほつれ防止ガラスクロスであって、
前記幅方向両端部が、経糸に沿って切断された切断端部であり、
前記ほつれ防止処理部が、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー100質量部及び光重合開始剤0.25~0.75質量部を含むほつれ防止用樹脂組成物の硬化物を含み、両縁部からそれぞれ経糸に沿って一定の幅を有するものであるほつれ防止ガラスクロス、
2. 前記ほつれ防止処理部の幅が、両縁部からそれぞれ5mm以下であって、幅のバラツキが、±0.5mm以下である1記載のほつれ防止ガラスクロス、
3. ガラスクロスを構成するガラスヤーンのSiO2含有量が、95質量%以上である1又は2記載のほつれ防止ガラスクロス、
4. 経糸及び緯糸としてガラスヤーンを用いて原料ガラスクロスを製織する製織工程、
得られた原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ一定の塗布幅で、経糸に沿って、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー100質量部及び光重合開始剤0.25~0.75質量部を含み、溶剤を含まないほつれ防止用樹脂組成物を塗布する塗布工程、
塗布した樹脂組成物に紫外線を照射して樹脂組成物を硬化させ、樹脂処理部を形成する紫外線照射工程、
前記樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断して原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去する切断工程、
を含み、原料ガラスクロスに塗布した樹脂組成物を乾燥する乾燥工程を含まないほつれ防止ガラスクロスの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ほつれ防止処理部が一定の幅で、直線性が高く、加工性及び生産性に優れたほつれ防止ガラスクロスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のほつれ防止ガラスクロスは、原料ガラスクロスの幅方向両端部にそれぞれ所定の塗布幅で塗布した無溶剤型のほつれ防止用樹脂組成物を紫外線硬化させ、硬化した樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断し、原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去してほつれ防止処理部を形成したほつれ防止ガラスクロスである。
なお、本明細書では、ガラスを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維をガラスフィラメント、ガラスフィラメントを束ねたものをガラスストランド、ガラスストランドに撚りをかけたものをガラスヤーンと定義する。
【0015】
[原料ガラスクロス]
(1)ガラス組成
本発明で用いられる原料ガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントからなるガラスヤーンを経糸及び緯糸として製織されたものである。
本発明で用いられるガラスフィラメントには、誘電特性の点から、SiO2含有量が95質量%以上の石英ガラスを用いることが好ましく、SiO2含有量99.9質量%以上がより好ましい。このような石英ガラスとしては、合成石英ガラス及び溶融石英ガラスのいずれでもよい。SiO2以外の成分としては、Al23、CaO、MgO、B23、Na2O等が挙げられる。
なお、プリント配線板等の積層板に使用されるガラスクロスには、通常、SiO2含有量が上記範囲より低いEガラス(無アルカリガラス)が使用される。
【0016】
(2)フィラメント
ガラスフィラメントは、ガラスを引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維である。
本発明のガラスヤーンを構成するフィラメントの平均径は特に限定されないが、例えば、3~20μmが好ましく、3.5~14μmがより好ましい。
【0017】
(3)ストランド
ストランドは、ガラスフィラメントを束ねたものである。
本発明では、上記フィラメントを30~400本束ねてストランドにすることが好ましく、35~300本がより好ましい。
【0018】
(4)ガラスヤーン
ガラスヤーンは、ガラスストランドに撚りをかけたものである。
本発明のガラスヤーンの撚り数としては、例えば、4~200回転/mが好ましく、5~100回転/mがより好ましく、10~50回転/mがさらに好ましい。
【0019】
(5)織組織、織密度
本発明で用いられる原料ガラスクロスの織組織、織密度等は特に限定されないが、織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられる。また、織密度としては、例えば、10~130本/25mmが好ましい。
【0020】
[原料ガラスクロスの製造方法]
本発明の原料ガラスクロスの製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造することができるが、例えば、下記工程を含む方法により製造することができる。
(1)経糸及び緯糸としてガラスヤーンを用いて原料ガラスクロスを製織する製織工程
(2)必要により、原料ガラスクロスのガラスヤーンを開繊する開繊工程
(3)必要により、ガラスストランドの集束にサイズ剤を用いた場合、サイズ剤を除去する脱サイズ工程
(4)必要により、原料ガラスクロスを表面処理剤で処理する表面処理工程
【0021】
(1)製織工程
製織工程は、ガラスヤーンを製織して原料ガラスクロスを得る工程である。
製織方法は特に制限されず、従来公知の織機から適宜選択して行うことができ、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるもの等が挙げられる。
【0022】
(2)開繊工程
開繊工程は、必要により、原料ガラスクロスのガラスヤーンを開繊する工程である。
製織工程で得られた原料ガラスクロスはそのまま使用することもできるが、必要に応じて、本発明のほつれ防止ガラスクロスをプリプレグ等に用いたときの樹脂溶液等の含浸性及び表面平滑性を向上させるため、開繊処理することができる。開繊処理方法は特に限定されないが、例えば、超音波、高圧水、拡散スプレー、気液混合ミスト等を用いる方法が挙げられる。
【0023】
(3)脱サイズ工程
脱サイズ工程は、必要により、ガラスストランドを製造する際に用いたサイズ剤を除去する工程である。
脱サイズ処理方法としては特に限定されないが、例えば、加熱、水洗、エッチング等が挙げられる。
【0024】
(4)表面処理工程
表面処理工程は、必要により、原料ガラスクロスを表面処理剤で処理する工程である。
製織工程で得られた原料ガラスクロスはそのまま使用することもできるが、必要に応じて、本発明のほつれ防止ガラスクロスをプリプレグ等に用いたときの樹脂溶液等の含浸性や低誘電樹脂とほつれ防止ガラスクロスとの界面の接着性を発現させるために、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理することができる。
【0025】
表面処理剤としては特に限定されないが、処理表面が安定で、有機樹脂と化学的に結合可能な官能基を有する不飽和基含有官能基を有するものが好ましく、例えば、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基等の官能基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
シランカップリング剤の具体例としては、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン;p-スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
これらは、表面処理する原料ガラスクロスや、プリプレグに用いる際の樹脂に応じて選択すればよく、単独で用いても2種以上を組み併せて用いてもよい。
表面処理剤の量は、特に限定されないが、原料ガラスクロス100質量部に対して0.05~1.0質量部が好ましい。
【0026】
[ほつれ防止ガラスクロス]
(1)原料ガラスクロス
原料ガラスクロスとしては、上述したものを使用することができる。
【0027】
(2)ほつれ防止用樹脂組成物(ほつれ防止処理剤)
本発明で用いられるほつれ防止用樹脂組成物は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーならびに光重合開始剤を含有する。石英ガラスヤーンを用いた石英ガラスクロスは脆く、加熱しない紫外線硬化型のほつれ防止用樹脂組成物(ほつれ防止剤)が好ましい。
【0028】
(2-1)(メタ)アクリレートモノマー
1分子中に2個以上、好ましくは2~8個、より好ましくは2~6個の(メタ)アクリロイル基及び環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基、及び脂肪族環式骨格、芳香環骨格又はヘテロ環構造を含み、エーテル結合、エステル結合を含んでいてもよい(メタ)アクリレートモノマーが挙げられ、その具体例としては、例えば、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも耐溶剤性の効果が大きい点で、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
(2-2)光重合開始剤
本発明で使用される光重合開始剤は、紫外線や電子線等の照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるものであれば特に限定されず、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系の化合物等の汎用の光重合開始剤が使用できる。光重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。
【0030】
光重合開始剤の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンジルケタール系化合物;1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアセトフェノン系化合物;2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノアセトフェノン系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系化合物などが挙げられ、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの中でも、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系化合物、及び内部硬化性に優れるアシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。これらは市販品として入手可能であり、例えば、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物では、Omnirad819等が、フォスフィンオキサイド系化合物では、Omnirad TPOH等(いずれも商品名:iGMResins社製)が挙げられる。
【0031】
光重合開始剤の配合量は、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、0.25~0.75質量部であるが、0.3~0.65質量部が好ましく、0.3~0.5質量部がより好ましい。0.76質量部を超えると、光重合開始剤が残留し、ほつれ防止処理剤が黄変し、0.24質量部未満では硬化不良となる。
【0032】
(2-3)その他の成分
本発明で用いられるほつれ防止用樹脂組成物(ほつれ防止処理剤)には、光硬化性を阻害しない範囲で、必要に応じて、さらに、ウレタン(メタ)アクリレート等のオリゴマー、帯電防止剤等を配合することもできる。
【0033】
[ほつれ防止ガラスクロスの製造方法]
本発明のほつれ防止ガラスクロスの製造方法としては、例えば、下記工程を含む方法が挙げられる。
(11)上述した原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ一定の塗布幅で経糸に沿って前記樹脂組成物(ほつれ防止処理剤)を塗布する塗布工程
(12)塗布した樹脂組成物に紫外線を照射して樹脂組成物を硬化させ、樹脂処理部を形成する紫外線照射工程
(13)前記樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断して原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去する切断工程
【0034】
(11)塗布工程
塗布工程は、原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ一定の塗布幅で経糸に沿ってほつれ防止用樹脂組成物を塗布する工程である。
樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができ、例えば、ローラーコート、ダイコート、スプレーコート、カーテンコート等が挙げられる。塗布幅のバラツキを小さくする点から、塗布方法としては、ローラーコート、ダイコートが好ましい。
塗布幅としては、例えば、原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。塗布幅のバラツキは、±1.0mmが好ましく、±0.5mmがより好ましく、±0.3mmがさらに好ましい。
【0035】
(12)紫外線照射工程
紫外線照射工程は、塗布した樹脂組成物に紫外線を照射して樹脂組成物を硬化させ、樹脂処理部を形成する工程である。
紫外線照射方法は特に限定されないが、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(紫外線LED)等により照射する方法が挙げられる。エネルギー効率が高く、長寿命である点から、紫外線LEDが好ましい。
紫外線硬化時の積算光量は、500mJ/cm2以上が好ましい。500mJ/cm2未満の場合、タックなどの硬化不良が発生する場合がある。
【0036】
(13)切断工程
切断工程は、上記樹脂処理部の所定の位置でそれぞれ経糸に沿って切断して原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ前記樹脂処理部の所定位置までの部分を除去する工程である。
樹脂処理部を切断する方法としては、特に限定されないが、例えば、レザー刃、回転レザー刃、スコアー刃、シェアー刃、円形刃等のスリット刃を用いて切断する方法が挙げられる。スリット刃の材質としては特に限定されないが、例えば、炭素鋼、ハイス鋼、超硬合金、超微粒子超硬が挙げられる。スリット刃は、表面処理されていても、表面処理されていなくてもよい。表面処理されているものを用いる場合、その表面処理方法としては特に限定されないが、例えば、鏡面処理、フッ素コーティング、シリコーンコーティング等による表面処理方法が挙げられる。
【0037】
切断する位置は、得られるほつれ防止処理部が一定の幅となり、また、原料クロスの端部の織組織に不具合がある場合は、その不具合のある部分を除去することができれば特に限定されず、例えば、原料ガラスクロスの幅方向両縁部からそれぞれ好ましくは15mm以下、より好ましくは12.5mm以下、さらに好ましくは10mm以下の位置であって、樹脂処理部の塗布幅と、切断後のほつれ防止処理部の幅に応じて決定することができる。また、切断する位置は、作業効率や仕上がりの安定性の点から、樹脂処理部の幅中心部が好ましいが、特に限定されない。これにより、切断後のガラスクロスの両縁部(切断部)からそれぞれ経糸に沿って好ましくは幅10mm以下、より好ましくは7.5mm以下、さらに好ましくは5mm以下のほつれ防止処理部を形成することができる。
本発明のほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部は、一定の幅で、蛇行がなく、直線性が高い。また、ほつれ防止処理用樹脂組成物に水や有機溶媒を用いないため、樹脂組成物の乾燥工程を必要とせず、加工性及び生産性に優れる。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[1]ほつれ防止ガラスクロスの製造
[実施例1]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして2官能アクリレートのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート100質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)0.5質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、SiO2含有量が99.9質量%以上で、平均フィラメント径5.3μmの石英ガラスフィラメントを200本束ねた、撚り数24回転/mの石英ガラスヤーンを用いて製織した織密度53×54/25mmの石英ガラスクロスに、ローラーコートによって幅方向両縁部からそれぞれ10mmの塗布幅で塗布して、365nmの紫外線LEDを用いて積算光量500mJ/cm2で硬化させた。
ハイス鋼SKH51、刃先角度5°の円形刃を用い、ほつれ防止処理部の幅中心部5mm(縁部から5mm)の位置でガラスクロスの経糸に沿って切断して両端部を除去し、ほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0040】
[実施例2]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして2官能アクリレートのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート60質量部、6官能芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーとしてEBECRYL220(商品名:ダイセル・オルネクス(株)製)40質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)0.5質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、紫外線硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0041】
[比較例1]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして2官能アクリレートのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート100質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)1.0質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、紫外線硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0042】
[比較例2]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして2官能アクリレートのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート100質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)0.2質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、紫外線硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0043】
[比較例3]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして1官能アクリレートのアクリル酸-2-エチルヘキシル100質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)0.5質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、紫外線硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0044】
[比較例4]
遮光ビンに、ほつれ防止処理剤の樹脂モノマーとして1官能アクリレートのアクリル酸-2-エチルヘキシル60質量部、6官能芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーとしてEBECRYL220(商品名:ダイセル・オルネクス社製)40質量部、光重合開始剤としてOmnirad819(IGM社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系化合物)0.5質量部を入れ、撹拌脱泡機を用いて均一になるまで5分以上撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、紫外線硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0045】
[比較例5]
ガラスビーカーに水90gを取り、これにビニブラン1008(商品名:日信化学工業(株)製、酢酸ビニル共重合体)10gを加え、完全に混和するまで撹拌し、ほつれ防止処理剤を得た。
得られたほつれ防止処理剤を、実施例1と同様に、石英ガラスクロスに塗布し、加熱硬化させ、切断してほつれ防止処理ガラスクロスを作製した。
【0046】
[比較例6]
SiO2含有量が99.9質量%以上で平均フィラメント径5.3μmの石英ガラスフィラメントを200本束ねた、撚り数24回転/mの石英ガラスヤーンを用いて製織した織密度53×54/25mmの石英ガラスクロスをハイス鋼SKH51、刃先角度5°の円形刃を用いて切断した。
【0047】
[2]特性評価
上記実施例及び比較例で得られたほつれ防止ガラスクロスについて、下記方法に従って評価した。結果を表1に示す。
<幅バラツキ>
ほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部の切断部からの幅をクロスの長さ方向に沿って5cm毎に10点測定し、平均してバラツキを算出した。
<外観>
ほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部の気泡、異物を目視にて確認し、気泡や異物が見られなかった場合を良好とし、見られた場合を×とした。
<切断時ほつれ>
紫外線照射後直後のほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部の切断面を目視で確認し、ほつれや目ズレが見られなかった場合を良好とし、見られた場合を×とした。
<摩擦によるほつれ>
紫外線照射後直後のほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部を1.17MPaで10回擦り、目視で確認し、ほつれや目ズレが見られなかった場合を良好とし、見られた場合を×とした。
<タックフリー>
紫外線照射後直後のほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部のべたつき度合いを、JIS K6249:2003の10.タックフリー試験に準じて、指触により確認し、べたつきがない場合を良好とし、ある場合を×とした。
<耐溶剤性>
紫外線照射後直後のほつれ防止ガラスクロスのほつれ防止処理部にトルエンを10mL滴下し、滴下1分後の反りの発生有無を確認し、反りがない場合を良好とし、ある場合を×とした。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1,2で得られたほつれ防止ガラスクロスは、紫外線照射により樹脂を硬化させるため、硬化する時間が短く、生産性に優れている。また、ほつれ防止処理部の幅バラツキが少なく、プリプレグ製造に用いられるワニスに含まれる有機溶媒に対して優れた耐溶剤性をもつため、加工性に優れている。