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特開2023-174176熱可塑性樹脂組成物、成形体及び繊維強化複合材料
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  • 特開-熱可塑性樹脂組成物、成形体及び繊維強化複合材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174176
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、成形体及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20231130BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20231130BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20231130BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L71/10
C08L25/04
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086881
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椋代 純
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敬裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀樹
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AD05
4F072AD42
4F072AD44
4F072AD53
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH23
4F072AK02
4F072AK15
4F072AL02
4F072AL16
4J002AC083
4J002BB003
4J002BB023
4J002BB033
4J002BB113
4J002BB123
4J002BB153
4J002BB203
4J002BC023
4J002BH013
4J002CH063
4J002CH073
4J002CH08X
4J002CL00W
4J002CL01W
4J002CL03W
4J002GJ01
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】せん断及びはく離に対する強い接着力を有する熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の質量比[フェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(B)]が80/20~20/80の範囲内であるとともに、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、相溶化剤(C)を1~10質量部の範囲内で含有する熱可塑性樹脂組成物。該熱可塑性樹脂組成物を用いて、厚みが1.6mmであるJIS G3302規格の亜鉛メッキ鋼板どうしを接着したとき、(1)JIS K6850に基づいて測定される引張せん断接着強度が15MPa以上であること、(2)JIS Z3137に準拠し、接着面積を625mmとしたときに測定される引張十字剥離荷重が1900N/(25×25mm)以上であること、を満たす。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、相溶化剤(C)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の質量比[フェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(B)]が80/20~20/80の範囲内であるとともに、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、相溶化剤(C)を1~10質量部の範囲内で含有し、
該熱可塑性樹脂組成物を用いて、厚みが1.6mmであるJIS G3302規格の亜鉛メッキ鋼板どうしを接着したとき、以下の接着パラメーター(1)及び(2);
(1)JIS K6850に基づいて測定される引張せん断接着強度が15MPa以上であること、
(2)JIS Z3137に準拠し、接着面積を625mmとしたときに測定される引張十字剥離荷重が1900N/(25×25mm)以上であること、
を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
相溶化剤(C)が、フェノキシ樹脂(A)又はポリアミド樹脂(B)と反応性のある官能基を有するポリマーである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
相溶化剤(C)が、ポリオレフィン骨格、スチレン骨格又は芳香族ポリエーテル骨格を有するポリマーである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
相溶化剤(C)が、無水マレイン酸で変性されたポリスチレンである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
フェノキシ樹脂(A)が、ビスフェノールA骨格またはビスフェノールF骨格のいずれか片方、もしくはその両方を有するものである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド樹脂(B)が、全脂肪族ポリアミド樹脂(B-1)もしくは半脂肪族ポリアミド樹脂(B-2)である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の固化物を有する成形体。
【請求項8】
強化繊維とマトリックス樹脂とを有する繊維強化複合材料であって、
前記マトリックス樹脂が、請求項1から6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の固化物を含むことを特徴とする繊維強化複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノキシ樹脂およびポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂はフェノキシ樹脂として知られており、耐衝撃性、密着性等が優れることから、電子分野では、絶縁フィルムや接着フィルム等の広範囲の用途で使用されている。また、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂の改質樹脂として、機械的特性、炭素繊維との密着性の改良に用いられてきた。これらの用途はエポキシ樹脂を始めとする熱硬化性樹脂の改質剤として主に用いられているが、熱硬化性樹脂はより短時間での加工性や使用後のリサイクル性などが課題として挙げられている。
【0003】
フェノキシ樹脂は熱可塑性を有する樹脂であり、温度によって溶融・固化するため、短時間加工が可能であり、様々な異種材料との密着性が良好である。また、優れた強度と剛性を有する材料であるが、エンジニアリングプラスチック等と比較した場合、耐熱性が劣るために、用途拡大に難がある材料であった。
【0004】
フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂を溶融ブレンドして使用する方法として、ポリアミド樹脂の制振性を向上させることを目的にした樹脂組成物の提案(特許文献1参照)、ポリアミド樹脂の加工性の低下を抑制しつつ耐熱性および吸水性を改善する樹脂組成物の提案(特許文献2参照)、機械特性および耐水性などの物理化学的特性に優れた樹脂組成物の提案(特許文献3参照)およびポリアミド樹脂の特性を保持しつつ、その成形性を改良した樹脂組成物の提案(特許文献4参照)が挙げられる。また、特許文献5では、成形品の耐熱性および機械特性の向上、特に高温環境下での剛性に大きく優れたフェノキシ樹脂組成物を、特許文献6ではフェノキシ樹脂とポリアミド樹脂のブレンドによるせん断接着性に着目した金属・繊維強化プラスチック複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-11654号公報
【特許文献2】特許第4852262号公報
【特許文献3】特開平3-237160号公報
【特許文献4】特開昭63-202655号公報
【特許文献5】WO2020/137972号
【特許文献6】WO2020/137946号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行特許文献において、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂のブレンドは、制震性や引張強度などの機械物性の向上についての検討が主であり、金属等との接着力についてはせん断接着強度しか考慮されていなかった。しかし、建材や車載用途などといったより高い機械強度を要求される分野においては、せん断および剥離の両方に対して強い接着力を有する材料が強く求められている。
【0007】
本発明は、せん断及びはく離に対する強い接着力を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、フェノキシ樹脂とポリアミド樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂組成物について更なる検討を行ったところ、所定量の相溶化剤を配合することによって、せん断及びはく離の両方に対して高い接着力を有する熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、相溶化剤(C)を含有するものであって、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の質量比[フェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(B)]が80/20~20/80の範囲内であるとともに、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、相溶化剤(C)を1~10質量部の範囲内で含有する。
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これを用いて、厚みが1.6mmであるJIS G3302規格の亜鉛メッキ鋼板どうしを接着したとき、以下の接着パラメーター(1)及び(2);
(1)JIS K6850に基づいて測定される引張せん断接着強度が15MPa以上であること、
(2)JIS Z3137に準拠し、接着面積を625mmとしたときに測定される引張十字剥離荷重が1900N/(25×25mm)以上であること、
を満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、相溶化剤(C)が、フェノキシ樹脂(A)又はポリアミド樹脂(B)と反応性のある官能基を有するポリマーであってもよく、あるいは、ポリオレフィン骨格、スチレン骨格又は芳香族ポリエーテル骨格を有するポリマーであってもよい。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、相溶化剤(C)が、無水マレイン酸で変性されたポリスチレンである請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物であってもよい。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)が、ビスフェノールA骨格またはビスフェノールF骨格のいずれか片方、もしくはその両方を有するものであってもよい。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(B)が、全脂肪族ポリアミド樹脂(B-1)もしくは半脂肪族ポリアミド樹脂(B-2)であってもよい。
【0014】
本発明の成形体は、上記熱可塑性樹脂組成物の固化物を有するものである。
【0015】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とを有する繊維強化複合材料であって、前記マトリックス樹脂が、上記熱可塑性樹脂組成物の固化物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の固化物は、せん断及びはく離に対して強い接着力を有しており、また、ポリアミド樹脂に起因する優れた耐熱性、機械特性を併せ持っているため、例えば、自動車、鉄道車両および航空機等における構造部材などの用途で好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1のSEM-EDX画像(窒素原子マッピング)である。
図2】比較例1のSEM-EDX画像(窒素原子マッピング)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)を必須成分とする熱可塑性樹脂組成物である。
【0019】
<フェノキシ樹脂(A)>
フェノキシ樹脂(A)とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、あるいは2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる熱可塑性樹脂であり、溶液中あるいは無溶媒下に従来公知の方法で得ることができる。平均分子量は、重量平均分子量(Mw)として、例えば10,000~200,000の範囲内であることがよいが、好ましくは20,000~100,000の範囲内であり、より好ましくは30,000~80,000の範囲内である。Mwが低すぎると成形体の強度が劣り、高すぎると作業性や加工性に劣るものとなり易い。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてJIS K7252-3に基づいてTHF(テトラヒドロフラン)を溶離液として測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値である。
【0020】
フェノキシ樹脂(A)の水酸基当量(g/eq)は、例えば50~1,000の範囲内であるが、好ましくは100~750の範囲内であり、特に好ましくは200~500の範囲内である。水酸基当量が低すぎると水酸基が増えることで吸水率が上がるため、機械物性が低下する懸念がある。水酸基当量が高すぎると水酸基が少ないので、接着力の低下を招く。ここで、本明細書でいう水酸基当量は2級水酸基当量を意味する。なお、フェノキシ樹脂(A)の高分子鎖末端官能基については、エポキシ基もしくは水酸基のいずれか又はその両方を有していても構わない。
【0021】
フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、例えば65℃以上のものが適するが、好ましくは70~200℃の範囲内であり、より好ましくは80~200℃の範囲内である。ガラス転移温度が65℃よりも低いと成形性は良くなるが、耐熱性低下の恐れがある。また、200℃を超えるようであると成形加工の際の樹脂の流動性が低くなり、より高温での加工が必要となるため好ましくない。なお、フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20~280℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値より求められる数値である。
【0022】
フェノキシ樹脂(A)としては、上記の物性を満たしたものであれば特に限定されないが、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトート(登録商標)YP-50、YP-50S、YP-55U;)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートFX-316)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製YP-70)、あるいは特殊フェノキシ樹脂(例えば、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製フェノトートYPB-43C、FX293、FX280S)等が挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。また、フェノキシ樹脂(A)と類似した熱可塑性樹脂である熱可塑性エポキシ樹脂も使用することができるが、一般的にフェノキシ樹脂と呼称されるポリヒドロキシポリエーテル樹脂を使用することが本発明では好ましく、ビスフェノールA骨格またはビスフェノールF型骨格のいずれか、もしくはその両方を含むフェノキシ樹脂であることがより好ましく、ビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型フェノキシ樹脂が最も好ましい。
【0023】
<ポリアミド樹脂(B)>
ポリアミド樹脂(B)は、アミド結合の繰り返しにより主鎖が構成される熱可塑性樹脂であり、ラクタムの開環重合もしくはラクタム同士の共縮合重合、ジアミンとジカルボン酸との脱水縮合等により得られる。ラクタムとしては、ε‐カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等が挙げられる。また、前記ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環族ジアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどである。また、前記ジカルボン酸としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などである。
【0024】
ポリアミド樹脂(B)は、主鎖が脂肪族骨格からなるナイロンとも呼称される全脂肪族ポリアミド樹脂[(B-1)、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610など]、主鎖に脂肪族骨格と芳香族骨格が含まれる半脂肪族ポリアミド樹脂又は半芳香族ポリアミド樹脂(本発明において「半脂肪族ポリアミド樹脂」と総称する)[(B-2)、例えば、ナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMXD6など]、及び主鎖が芳香族骨格のみで構成されるアラミドとも呼称される全芳香族ポリアミド樹脂[例えば、ケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)(以上、東レ・デュポン株式会社製)、トワロン(登録商標)、コーネックス(登録商標)(以上、帝人株式会社製)]がある。ポリアミド樹脂(B)は樹脂組成物の用途によって適宜選択してもよいが、本発明においては、これら各種のポリアミド樹脂のうち、全脂肪族ポリアミド樹脂(B-1)及び/又は半脂肪族ポリアミド樹脂(B-2)が好ましく使用される。
【0025】
ポリアミド樹脂(B)は、融点が160℃以上で、200℃以上の温度における溶融粘度が4,000Pa・s以下であるものが良い。好ましくは融点が200℃以上であり、200~350℃における溶融粘度が4,000Pa・s以下、最も好ましくは200~350℃に溶融粘度が1,000Pa・s以下であるものを用いることがよい。全脂肪族ポリアミド樹脂(B-1)および半脂肪族ポリアミド樹脂(B-2)は、溶融粘度が比較的低く、マトリックス樹脂の溶融粘度を低く抑えることができるため好ましいものであり、ナイロン6やナイロン12、ナイロンMXD6は250~350℃における溶融粘度が1,000Pa・s以下であるために最も好ましく用いられる。
【0026】
ポリアミド樹脂(B)は、その重量平均分子量(Mw)が10,000以上であることが望ましく、より望ましくは25,000以上である。Mwが10,000以上のポリアミド樹脂(B)を使用することによって、成形体の良好な機械強度が担保される。なお、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてJIS K7252-3に基づいてHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を溶離液として測定し、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を標準物質として換算した値である。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、上記フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の質量比(A)/(B)は80/20~20/80の範囲内である。好ましくは、60/40~20/80の範囲内であり、より好ましくは60/40~40/60の範囲内である。質量比(A)/(B)が80/20を超えてフェノキシ樹脂(A)の割合が高くなると、ポリアミド樹脂(B)の特徴である耐熱性が低下する。また、質量比(A)/(B)が20/80を未満となりポリアミド樹脂(B)の割合が高くなると、フェノキシ樹脂(A)の特徴である高い接着性が失われる。
【0028】
<相溶化剤(C)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、更に相溶化剤(C)を含有する。相溶化剤(C)とは、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の相溶性を向上させ、フェノキシ樹脂(A)の高い接着性を維持しつつ、ポリアミド樹脂(B)の優れた機械物性を最大限に引き出すものである。この時、相溶化剤(C)はフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の界面に存在し、両者をより微分散させ、安定に存在させる働きをする。
【0029】
相溶化剤(C)は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の相溶性を向上させ、混合しやすいものであればその種類は特に限定するものではなく、例えば、低分子化合物、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよいが、ポリマーであることが好ましい。なお、相溶化剤(C)となるポリマーには、非反応型と反応型が存在し、そのどちらも使用することができるが、少量の添加で効果が大きい、反応型がより好ましい。
また、相溶化剤(C)としては、以下の(1)、(2)の化学構造的特徴;
a)フェノキシ樹脂(A)および/またはポリアミド樹脂(B)の主骨格に類似した構造を有するもの、
b)フェノキシ樹脂(A)および/またはポリアミド樹脂と反応性のある官能基を有するもの、
のいずれか片方又は両方を持つものが好ましい。
【0030】
上記a)の「フェノキシ樹脂(A)および/またはポリアミド樹脂(B)の主骨格に類似した構造」としては、ポリオレフィン骨格、スチレン骨格、芳香族ポリエーテル骨格などが例示される。ここで、ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体や、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体などの共重合体、さらにはグラフト重合体が挙げられるが、これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの単独重合体が好ましい。また、芳香族ポリエーテル骨格としては、ポリフェニレンエーテルなどが例示される。
【0031】
また、上記b)の「フェノキシ樹脂(A)および/またはポリアミド樹脂(B)と反応性のある官能基」としては、例えば、エポキシ基[-CO(2つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる三員環構造)]、カルボキシル基(-COOH)、酸無水物基(-CO-O-OC-)、イソシアネート基(-NCO)、オキサゾリン基(-CNO)などが挙げられるが、これらの中でも酸無水物基が好ましく、酸価として50~300mgKOH/g程度のものであることがより好ましい。
【0032】
市販されている相溶化剤(C)としては、例えば、三井化学株式会社製アドマー(登録商標)およびタフマー(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製モディック(登録商標)、三洋化成工業株式会社製ユーメックス(登録商標)、東洋紡製ハードレン(登録商標)、住友化学株式会社製ボンドファースト(登録商標)、旭化成株式会社製タフテック(登録商標)、KRATON社製クレイトン(登録商標)、株式会社日本触媒製エポクロス(登録商標)、アルケマ株式会社製OREVAC(登録商標;オレバック)、ポリスコープ(POLYSCOPE)社製XIRAN(登録商標;ザイラン)およびXIBOND(登録商標;ザイボンド)、ポリプラ・エボニック株式会社製Plexiglas(登録商標)などが挙げられる。
上記市販品の中で、ポリオレフィン骨格を有するものとして、例えば、アドマー(登録商標)、タフマー(登録商標)、モディック(登録商標)、OREVAC(登録商標)、ユーメックス(登録商標)などが好ましく使用される。
また、スチレン骨格を有するものとして、例えば、タフテック(登録商標)、クレイトン(登録商標)、エポクロス(登録商標)、XIRAN(登録商標)、XIBOND(登録商標)などが好ましく使用される。
また、酸無水物基を有するものとして、例えば、アドマー(登録商標)、タフマー(登録商標)、モディック(登録商標)、OREVAC(登録商標)、ユーメックス(登録商標)、XIRAN(登録商標)、XIBOND(登録商標)などが好ましく使用される。
さらに、上記a)、b)の両方の化学構造的特徴を有するものとして、スチレン無水マレイン酸共重合体であるXIRAN(登録商標)やXIBOND(登録商標)160、無水マレイン酸変性ポリオレフィンであるユーメックス(登録商標)1010、ハードレン(登録商標)H-1000Pなどが特に好ましく使用される。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、相溶化剤(C)の含有量は、フェノキシ樹脂(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、1~10質量部の範囲内であり、2~7質量部の範囲内であることが好ましい。相溶化剤(C)の含有量が1重量部未満では、各成分の相溶が不十分となって、固形状態での微細構造(モルフォロジー)が一様な構造に近い状態とならず、せん断及びはく離に対して強い接着力が得られない。一方、相溶化剤(C)の含有量が10重量部を超えても効果の向上が得られないばかりか、引張強度など機械物性の低下を招くため好ましくない。
【0034】
<任意成分>
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)がほぼ均一な微細構造をなし、引張せん断接着強度及び引張十字剥離強度が両立される限りにおいて、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)、相溶化剤(C)以外に任意成分を含んでいても良い。好ましい任意成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリーテルポリエステルなどのポリエステル、ポリウレタン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。このとき、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分の総質量に占めるフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)の合計の質量割合は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが望ましい。フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)の合計の質量割合が70%未満となると所望の特性が発現しにくくなってしまう。
【0035】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、更に、目的に応じて、難燃剤、難燃助剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、架橋剤、着色防止剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、帯電防止剤などの任意成分を含んでも良い。この場合も、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分の総質量に占めるフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)の合計の質量割合は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが望ましい。フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)の合計の質量割合が70%未満となると所望の特性が発現しにくくなってしまう。
また、任意成分を配合する場合でも、熱可塑性樹脂組成物の総質量に占めるフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)の合計の質量割合は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが望ましい。
【0036】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、塊状、粉状、粒状、ペースト状、板状などの固形状態で使用してもよいし、加熱溶融させた液状態で使用してもよい。
【0037】
<製造方法>
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、及び、相溶化剤(C)などと共に、必要に応じて任意成分を混合することによって調製できる。
混合する方法に特に制限はなく、一般公知の方法を用いることが出来るが、ニーダーやバンバリーミキサー、押出機などを用いて各成分を溶融混練する方法などが好ましい方法として挙げられる。特に、2軸押出機により溶融混錬する方法が各成分を均一に混合できることから最も好ましい。
【0038】
このようにして得られた本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の種類と配合比によって、固形状態での微細構造(モルフォロジー)が、海島構造、サラミ構造、共連続構造のいずれかをとり得るが、各成分が相溶した一様な構造に近い状態なることが好ましい。この「一様な構造に近い状態」とは、固形状態での微細構造が微細な島状ドメインが大量かつ密に分散した海島構造、または、緻密な共連続構造をとることを意味する。その結果としてポリアミド樹脂(B)の高い物性とフェノキシ樹脂(A)の高い接着力を両立することが可能となる。一般的には、固形状態での微細構造を一様な構造に近い状態とするためには非常に狭い範囲での樹脂配合が必要となるが、本発明においては必須成分であるフェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)に対して、さらに相溶化剤(C)を添加することによって、広い配合比でフェノキシ樹脂(A)および/またはポリアミド樹脂(B)が微細に分散し、一様な構造に近い状態、すなわち共連続構造もしくは共連続構造に近い海島構造をとることを可能としている。
【0039】
<成形体>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法でペレット化することや、また、通常公知の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができる。つまり、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、加熱溶融後固化させたりすることによって、固化物として、各種成形体に加工し利用することができる。成形体としては、例えば、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などのほか、金属部材と複合化した複合成形体などが含まれる。ここで、フィルムとしては、未延伸、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルムとして、繊維としては、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維として利用することができる。また、複合化する相手の金属部材の材質としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの純金属やステンレス、ジュラルミン、真鍮、チタン合金、マグネシウム合金などの合金類が好ましい。これらの金属部材の表面を亜鉛めっきなどの表面処理をしたものでもよい。
【0040】
<繊維強化複合材料>
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、固化物の状態で、強化繊維とマトリックス樹脂とを有する繊維強化複合材料におけるマトリックス樹脂としても好ましく適用できる。
【0041】
<接着力>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種素材、特に金属材料に対して高い接着力を有している。金属材料とは、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの純金属やステンレス、ジュラルミン、真鍮、チタン合金、マグネシウム合金などの合金類のような金属材料、およびこれらの表面を亜鉛めっきなどの表面処理したものが挙げられる。
また、金属材料は、例えばブラスト処理やケミカルエッチングといった物理的または化学的な表面粗化処理や、各種カップリング剤やトリアジンチオールなどの薬品処理をさらに組合わせて行ったものであってもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の接着力は、金属材料同士を接着させた際の引張せん断接着強度および引張十字剥離荷重によって測定できる。なお、本発明において、接着力を測定する際の金属材料はJIS G3302規格の亜鉛メッキ鋼板(SGCC)を使用したものである。
【0043】
<引張せん断接着強度>
本発明において、引張せん断強度とは、JIS K6850(接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)により測定できる。本測定値は、接着面に対してせん断方向にかかる荷重に対する接着力の強さを表している。
<引張十字剥離荷重>
本発明において、引張十字剥離荷重とは、 JIS Z3137(抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手の十字引張試験に対する試験片寸法及び試験方法)を参考に、接着面積625mm(25×25mm)の試験片より測定したものである。本測定値は、接着面に対して垂直方向にかかる荷重に対する接着力の強さを表している。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、金属材料(SGCC)同士を接着させた際の引張せん断接着強度が15MPa以上、好ましくは20MPa以上であり、かつ、引張十字剥離荷重が1900N/(25×25mm)以上、好ましくは2000N/(25×25mm)以上である。引張せん断接着強度が15MPa未満の場合、せん断方向にかかる荷重に対する接着力に劣り、引張十字剥離荷重が1900N/(25×25mm)未満の場合は垂直方向にかかる荷重に対する接着力に劣る。両特性を両立することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物はポリアミド樹脂(B)の高い物性とフェノキシ樹脂(A)の高い接着力を両立することができる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような組成及び特性等を有するものであることから、一般的な樹脂部品の材料としてだけでなく、エンジンカバーなどの耐熱性を要する用途に向けた自動車や産業機器のための成形部品、樹脂材料と金属材料のような異種材料の接着部材、さらには、繊維強化プラスチック(FRP)材料のマトリックス樹脂等にも使用することができる。
【実施例0046】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種物性の試験及び測定方法は以下の通りである。
【0047】
<機械物性>
(引張降伏強さ、引張破壊強さ、引張弾性率、引張破壊呼び歪み)
JIS K 7161(プラスチック-引張特性の求め方)に準拠して測定した。なお、測定は25℃環境下にて行い、試験速度は50mm/minにて実施した。
【0048】
<接着力>
(引張せん断接着強度)
JIS K6850(接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)を参考に測定した。なお、測定は25℃環境下にて行い、評価した試験片は厚み1.6mm×幅25mm×長さ100mmの亜鉛メッキ鋼板(SGCC)を使用し、厚み1.6mmの当て板を使用した。
(引張十字剥離荷重)
JIS Z3137(抵抗スポット及びプロジェクション 溶接継手の十字引張試験に対する 試験片寸法及び試験方法)を参考に、接着面積625mm(25×25mm)の試験片より測定した。なお、評価した試験片は厚み1.6mm×幅25mm×長さ100mmの亜鉛メッキ鋼板(SGCC)を使用し、測定は25℃の環境下にて行い、引張速度は2mm/minにて実施した。
【0049】
<SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)画像>
表1に示す比較例1および実施例1の配合組成についてラボプラストミルを用いて溶融混錬した。得られた団子状の混錬物はダイヤモンドワイヤーソーを用いてカッティングし、エポキシ樹脂中に封入・硬化したのちに研磨及び琢磨することで走査型電子顕微鏡観察用試料を作成した。この試料について、エネルギー分散型X線分光法を用いてナイロンのN原子を利用してマッピングすることでモルフォロジーの観察を行った。
SEM:日本電子製JSM-7900F
加速電圧 5kV、照射電流12μA
EDX;オックスフォード製Astec
検出器 プライマリ:Uitim MAX170
セカンダリ:Extreme(2本使用)
加速電圧 5kV
【0050】
[フェノキシ樹脂(A)]
・フェノトートYP-50S(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq、250℃における溶融粘度=90Pa・s)
[ポリアミド樹脂(B)]
・ポリアミド樹脂(1):ダイアミドL1940ナチュラル(商品名、ダイセル・エボニック社製、全脂肪族ポリアミド樹脂、ナイロン12、融点=178℃、250℃における溶融粘度=1280Pa・s)
・ポリアミド樹脂(2):アミランCM1017(商品名、東レ株式会社製、全脂肪族ポリアミド樹脂、ナイロン6(ポリアミド6)、融点=225℃、250℃における溶融粘度=125Pa・s)
・ポリアミド樹脂(3):レニー6002(商品名、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、半脂肪族ポリアミド樹脂、ナイロンMXD6(ポリアミドMXD6)、融点=243℃、250℃における溶融粘度=300Pa・s)
[相溶化剤(C)]
・XIBOND160(商品名、スチレン無水マレイン酸共重合体、POLYSCOPE社製)
【0051】
[比較例1]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(1)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(1)で40/60の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:240℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:220℃、金型温度:60℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:220℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて240℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25mm×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて240℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0052】
[実施例1]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(1)と相溶化剤(C)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(1)/相溶化剤(C)で40/60/5の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:240℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:220℃、金型温度:60℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:220℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて240℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25mm×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて240℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(2)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(2)で50/50の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:230℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:260℃、金型温度:80℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:220℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて240℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて240℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(2)と相溶化剤(C)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(2)/相溶化剤(C)で50/50/5の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:230℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:260℃、金型温度:80℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:220℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて240℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25mm×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて240℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(3)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(3)で50/50の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:260℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:260℃、金型温度:75℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:260℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて260℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25mm×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて260℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(3)と相溶化剤(C)(商品名:XIBOND 160、POLYSCOPE社製)をフェノキシ樹脂(A)/ポリアミド樹脂(3)/相溶化剤(C)で50/50/5の質量割合でドライブレンドした後、スクリュー径26mmの同方向回転の二軸押出機(設定温度:260℃)で溶融混練を行うことで熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(設定温度:260℃、金型温度:75℃)にてダンベル試験片を成形し、本試験片にて機械物性試験を行った。
次に、接着試験片の作成を行った。まず得られたペレットを自動プレス機にて厚み0.05~0.1mmのフィルムを作成した(成形条件:260℃、8MPaで5分プレスを行い、加圧状態のまま60℃まで冷却した)。このフィルムを幅25mm×長さ12.5mmにカットし、これをSGCCの先端に乗せ、その上にもう一枚のSGCCを重ねて260℃でプレスすることで接着試験片を作成した。また、このフィルムを幅25mm×長さ25mmにカットし、SGCCの中央に合計の厚さが0.3mm以上となるようにフィルムを積層し、もう一枚のSGCCを十字になるように重ねて260℃でプレスすることで十字剥離試験片を作成した。測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、フェノキシ樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)と相溶化剤(C)を配合することで、引張せん断強度と引張十字剥離荷重が共に高い熱可塑性樹脂組成物となった。特に、相溶化剤(C)を加えることで、他の物性を損なうことなく特に樹脂の伸びが向上(引張破壊呼び歪みが増加)することが確認された。また、実施例1で得られた熱可塑性樹脂組成物は、固形状態での電子顕微鏡観察において、共連続構造もしくは共連続構造に近い極微細な海島構造が確認された(図1)。それに対し、比較例1で得られた熱可塑性樹脂組成物は、粗大な海島構造が確認され(図2)、モルフォロジーに明瞭な相違が見られた。
以上のことから、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一般的な樹脂部品の材料としてだけでなく、特に樹脂材料と金属材料のような異種材料の接着部材、さらには、繊維強化プラスチック(FRP)材料のマトリックス樹脂等にも使用することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。


図1
図2