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特開2023-174204ハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174204
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/73 20060101AFI20231130BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231130BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20231130BHJP
【FI】
C09K11/73
C09K11/08 A
H01L33/50
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022086934
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】宮井 龍太
(72)【発明者】
【氏名】國本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】西俣 和哉
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF01
4H001XA08
4H001XA15
4H001XA17
4H001XA20
4H001XA38
4H001XB21
4H001YA63
5F142BA24
5F142CA02
5F142CG03
5F142CG04
5F142CG05
5F142CG14
5F142CG43
5F142DA12
5F142DA23
5F142DA48
5F142DA53
5F142DA73
(57)【要約】
【課題】アルカリ土類金属を含むハロリン酸塩蛍光体を用いる発光装置について、発光装置の経時的な光束の低下をより抑制することができるハロリン酸塩蛍光体を提供する。
【解決手段】少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を含むハロリン酸塩蛍光体である。前記ハロリン酸塩蛍光体は10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を含むハロリン酸塩蛍光体であり、
前記ハロリン酸塩蛍光体を10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下であるハロリン酸塩蛍光体。
【請求項2】
前記ハロリン酸塩蛍光体は、ユウロピウムを含むリン酸塩を更に含み、X線回折スペクトルにおける前記ハロリン酸塩蛍光体の主回折強度を100とする場合、2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値が68以上78以下である請求項1に記載のハロリン酸塩蛍光体。
【請求項3】
前記ハロリン酸塩は、リンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であり、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であり、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であり、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下である組成を有する請求項1に記載のハロリン酸塩蛍光体。
【請求項4】
前記ハロリン酸塩は、下記式(1)で表される組成を有する請求項1に記載のハロリン酸塩蛍光体。
(Ca1-x-ySrEu(POCl (1)
(式(1)中、0≦x≦0.21、0.009<y≦0.21、9≦z≦11、1.9≦w≦2.1、Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種に置換されていてもよい。)
【請求項5】
少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を準備することと、
前記ハロリン酸塩を酸処理することと、
前記酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与することと、
を含むハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記酸処理することは、液媒体中で前記ハロリン酸塩と酸性化合物とを接触させることを含む請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記酸処理することは、前記ハロリン酸塩と酸性化合物とを接触させた後、前記酸性化合物の少なくとも一部を除去することを更に含む請求項6に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記酸処理することにおいて、前記酸性化合物は、塩化水素、硝酸、酢酸、リン酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項6または7に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記剪断力を付与することは、湿式分散処理することを含む請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記剪断力を付与することは、湿式分散処理後に、分級処理することを更に含む請求項9に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記第1処理物に剪断力を付与して得られる第2処理物を、水を含む液媒体と接触させることを更に含む請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記液媒体と接触させることは、70℃以上100℃以下の温度で行われる請求項11に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記剪断力を付与することにおいて、前記第1処理物は、ハロリン酸塩とユウロピウムを含むリン酸塩とを含む請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記ハロリン酸塩蛍光体は、10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下である請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記ハロリン酸塩を準備することにおいて、前記ハロリン酸塩は、リンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であり、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であり、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であり、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下である組成を有する請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記ハロリン酸塩を準備することにおいて、前記ハロリン酸塩は、下記式(1)で表される組成を有する請求項5に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
(Ca1-x-ySrEu(POCl (1)
(式(1)中、0≦x≦0.21、0.009<y≦0.21、9≦z≦11.2、1.9≦w≦2.1、Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種に置換されていてもよい。)
【請求項17】
請求項1から4のいずれか1項に記載のハロリン酸塩蛍光体を含む波長変換部材と、400nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子と蛍光体とを組み合わせた発光装置が、例えば照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で利用されている。特許文献1には、アルカリ土類金属を含むハロリン酸塩蛍光体(アルカリ土類金属ハロゲン蛍光体)を用いた発光装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-30042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、アルカリ土類金属を含むハロリン酸塩蛍光体を用いる発光装置について、発光装置の経時的な光束の低下をより抑制することができるハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一態様は、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を含むハロリン酸塩蛍光体である。前記ハロリン酸塩蛍光体は、10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下である。
【0006】
第二態様は、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を準備することと、前記ハロリン酸塩を酸処理することと、前記酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与することと、を含むハロリン酸塩蛍光体の製造方法である。
【0007】
第三態様は、前記第一態様のハロリン酸塩蛍光体を含む波長変換部材と、400nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、アルカリ土類金属を含むハロリン酸塩蛍光体を用いる発光装置について、発光装置の経時的な光束の低下をより抑制することができるハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ハロリン酸塩蛍光体の製造方法の工程順序の一例を示すフローチャートである。
図2】発光装置の一例を示す概略断面図である。
図3】発光装置の別の一例を示す概略断面図である。
図4】実施例1に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置の発光スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。発光素子及び蛍光体の半値幅は、発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、ハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置を例示するものであって、本発明は、以下に示すハロリン酸塩蛍光体、その製造方法及び発光装置に限定されない。
【0011】
ハロリン酸塩蛍光体
ハロリン酸塩蛍光体は、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を含む。ハロリン酸塩蛍光体は、ハロリン酸塩蛍光体を10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下である。
【0012】
ハロリン酸塩蛍光体を純水と接触させるときの塩素イオンの溶出量が低くなるように構成することで、ハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置における経時的な光束の低下をより抑制することができる。これは例えば、以下のように考えることができる。ハロリン酸塩蛍光体に水へ溶出可能な状態で含まれている塩素イオンの含有量が少ないことで、そのようなハロリン酸塩蛍光体を有する発光装置において、ハロリン酸塩蛍光体を含む波長変換部材に含まれる樹脂、その他の部材が塩素イオンの影響を受けて劣化することが抑制される。これにより、発光装置の経時的な光束の低下を抑制することができると考えられる。
【0013】
ハロリン酸塩蛍光体を10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量は、例えば7ppm以下であってよく、好ましくは6ppm以下、5ppm以下、4ppm以下、3ppm以下、又は2ppm以下であってよい。溶出量の下限は、例えば0.1ppm以上、0.5ppm以上、又は1ppm以上であってよい。
【0014】
ハロリン酸塩蛍光体は、例えば少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属元素と、少なくとも塩素を含むハロゲン元素と、を含むハロリン酸塩で構成され、ユウロピウムで賦活されてよい。
【0015】
ハロリン酸塩が含むアルカリ土類金属は、2価のアルカリ土類金属イオンであってよい。ハロリン酸塩が含むアルカリ土類金属は、少なくともカルシウム(Ca)を含む。アルカリ土類金属は、カルシウムのみを含んでいてもよく、カルシウムに加えて、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びマグネシウム(Mg)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくともカルシウムとストロンチウムとを含んでいてよい。ハロリン酸塩を構成するアルカリ土類金属におけるカルシウムの含有量は、アルカリ土類金属の総モル数に対するカルシウムのモル数の比として、例えば0.4以上であってよく、好ましくは0.6以上、又は0.8以上であってよい。またハロリン酸塩を構成するアルカリ土類金属におけるカルシウム及びストロンチウムの含有量は、アルカリ土類金属の総モル数に対するカルシウム及びストロンチウムの総モル数の比として、例えば0.6以上であってよく、好ましくは0.7以上、又は0.8以上であってよい。
【0016】
ハロリン酸塩が含むハロゲンは、1価のハロゲンイオンであってよい。ハロリン酸塩が含むハロゲンは、少なくとも塩素(Cl)を含む。ハロゲンは、塩素のみを含んでいてもよく、塩素に加えて、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、塩素に加えて、フッ素及び臭素からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。ハロリン酸塩を構成するハロゲン原子における塩素原子の含有量は、ハロゲン原子の総モル数に対する塩素原子のモル数の比として、例えば0.3以上であってよく、好ましくは0.6以上、又は0.9以上であってよい。また、ハロリン酸塩を構成するリン原子は、オルトリン酸イオン(PO 3-)等の形態であってよく、少なくともオルトリン酸イオンの形態であってよい。
【0017】
ハロリン酸塩は、その組成にユウロピウムを含む。ハロリン酸塩が含むユウロピウムは、2価のユウロピウムイオンであってよい。ユウロピウムはハロリン酸塩蛍光体における賦活剤であってよい。ハロリン酸塩が含むユウロピウムはその一部が、イットリウム(Y)やランタン(La)からなる群から選択される少なくとも1種の希土類元素に置換されていてもよい。ハロリン酸がユウロピウム以外の希土類元素を含む場合、ユウロピウムの含有量は、ユウロピウムとユウロピウム以外の希土類元素の総モル数に対するユウロピウムのモル数の比として、例えば0.8以上であってよく、好ましくは0.9以上、又は0.95以上であってよい。
【0018】
ハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であってよく、好ましくは6以上、又は7以上であってよく、また好ましくは10以下、9以下、又は8.5以下であってよい。ハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であってよく、好ましくは0.2以上、0.5以上、又は0.8以上であってよく、また好ましくは2以下、1以下、又は0.9以下であってよい。ハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であってよく、好ましくは0.1以上、0.3以上、又は0.6以上であってよく、また好ましくは2以下、1.5以下、1以下、又は0.9以下であってよい。ハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下であってよく、好ましくは1.93以上、又は1.96以上であってよく、また好ましくは2.07以下、2.04以下、又は2以下であってよい。
【0019】
一態様において、ハロリン酸塩は下記式(1)で表される組成を有していてよい。
(Ca1-x-ySrEu(POCl (1)
【0020】
式(1)中、x、y、z及びwは、例えば0≦x≦0.21、0.009<y≦0.21、9≦z≦11、1.9≦w≦2.1であってよい。xは、好ましくは0.02≦x≦0.2、又は0.05≦x≦0.1であってよい。yは、好ましくは0.01≦y≦0.2、又は0.03≦y≦0.15であってよい。zは、好ましくは9.4≦z≦10.4、又は9.6≦z≦10.1であってよい。wは、好ましくは1.93≦w≦2.07、又は1.96≦w≦2.04であってよい。Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0021】
一態様において、ハロリン酸塩は下記式(1a)で表される理論組成を有していてもよい。
(Ca,Sr)10(POCl:Eu (1a)
【0022】
ハロリン酸塩蛍光体は、ハロリン酸塩に加えて、ユウロピウムを含むリン酸塩を更に含んでいてもよい。ユウロピウムを含むリン酸塩としては、例えばリン酸ユウロピウム(例えば、EuPO)等が挙げられる。
【0023】
ハロリン酸塩蛍光体が、ユウロピウムを含むリン酸塩を更に含む場合、ユウロピウムを含むリン酸塩の含有量は、例えば、X線回折スペクトルにおいて、ユウロピウムを含むリン酸塩に対応する2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値で評価することができる。具体的にユウロピウムを含むリン酸塩の含有量は、ハロリン酸塩蛍光体のX線回折スペクトルにおいて、ハロリン酸塩蛍光体の主回折強度を100とする場合に、2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値が68以上78以下となるような含有量であってよい。当該積分値は、好ましくは69以上、70以上、又は72以上であってよく、また好ましくは77以下、76以下、又は75以下であってよい。ここで、ハロリン酸塩蛍光体の主回折ピークは、X線回折スペクトルにおいて2θが30°以上33°以下の範囲に存在していてよい。また、回折強度の積分値は、X線回折スペクトルの分解能に対応した回折強度の総和であってよい。
【0024】
ハロリン酸塩蛍光体は、発光スペクトルにおいて440nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有していてよい。ハロリン酸塩蛍光体の発光ピーク波長は、好ましくは445nm以上、又は450nm以上であってよく、また好ましくは475nm以下、又は470nm以下であってよい。ハロリン酸塩蛍光体は、発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が20nm以上80nm以下であってよく、好ましくは30nm以上、又は60nm以下であってよい。発光スペクトルは、励起波長420nmにおいて室温(例えば25℃)で測定される。
【0025】
ハロリン酸塩蛍光体の発光色は、CIE1931表色系の色度図における色度座標(x,y)におけるxの値が、例えば0.11以上0.18以下であってよく、好ましくは0.12以上、又は0.16以下であってよい。また、色度座標におけるyの値が、例えば0.04以上0.14以下であってよく、好ましくは0.05以上、又は0.12以下であってよい。色度座標は、励起波長420nmにおいて室温(例えば25℃)で測定される。
【0026】
ハロリン酸塩蛍光体の波長420nmにおける反射率は、例えば2%以上30%以下であってよく、好ましくは3%以上、又は10%以上であってよく、また好ましくは20%以下、又は14%以下であってよい。反射率は分光光度計を用いて測定される。反射率の基準としては、例えばリン酸水素カルシウム(CaHPO)を用いる。すなわち、ハロリン酸塩蛍光体の反射率は、リン酸水素カルシウムを基準試料とした相対反射率として求められる。
【0027】
ハロリン酸塩蛍光体の平均粒径は、例えば3μm以上50μm以下であってよく、好ましくは5μm以上、8μm以上、又は10μm以上であってよく、また好ましくは30μm以下、20μm以下、又は15μm以下であってよい。ハロリン酸塩蛍光体の平均粒径は、フィッシャーサブシーブサイザーズ(FSSS)法により測定される。FSSS法は、空気透過法の一種であり、空気の流通抵抗を利用して粒子の比表面積を測定し、粒子の粒径を求める方法である。
【0028】
ハロリン酸塩蛍光体の製造方法
図1は、ハロリン酸塩蛍光体の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。ハロリン酸塩蛍光体の製造方法は、ハロリン酸塩を準備すること(S101)と、ハロリン酸塩を酸処理して第1処理物を得ること(S102)と、酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与して第2処理物を得ること(S103)と、を含んでいてよい。準備されるハロリン酸塩は、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンとを含んでいてよい。また、ハロリン酸塩蛍光体の製造方法は、第2処理物を、水を含む液媒体と接触させること(S104)をさらに含んでいてもよい。
【0029】
ハロリン酸塩蛍光体の製造方法は、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩(以下、第1のハロリン酸塩ともいう)を準備する準備工程と、第1のハロリン酸塩を酸処理して第1処理物を得る酸処理工程と、酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与して第2処理物を得る分散工程と、を含んでいてよい。
【0030】
特定の組成を有するハロリン酸塩を酸処理した後、剪断力を付与することで、発光装置を構成する場合に経時的な光束の低下を抑制することができるハロリン酸塩蛍光体を製造することができる。これは例えば以下のように考えることができる。酸処理によってハロリン酸の表面に存在する不純物(例えば、ハロリン酸ユウロピウム等)が除去され、ハロリン酸の表面に副生成物(例えば、リン酸ユウロピウム等)、残留酸成分等が付着する。このハロリン酸塩に対して剪断力を付与することで、副生成物、残留酸成分等の少なくとも一部が除去される。これにより、不純物、副生成物、残留酸成分等に由来すると考えられる塩素イオンの溶出量を低減することができるためと考えることができる。
【0031】
準備工程では、特定の組成を有する第1のハロリン酸塩を準備する。第1のハロリン酸塩は、購入して準備してもよく、所望の組成を有する第1のハロリン酸塩を製造して準備してもよい。第1のハロリン酸塩の製造方法については後述する。第1のハロリン酸塩は、アルカリ土類金属とユウロピウムとハロゲンとリン酸イオンとを含んでいてよい。第1のハロリン酸塩が含むアルカリ土類金属、ユウロピウム、ハロゲン及びリン酸イオンの詳細については、ハロリン酸塩蛍光体におけるアルカリ土類金属、ユウロピウム、ハロゲン及びリン酸イオンと同様である。第1のハロリン酸塩は、ユウロピウムで賦活されるハロリン酸塩を含む蛍光体を含んでいてよい。
【0032】
第1のハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であってよく、好ましくは6以上、又は7以上であってよく、また好ましくは10以下、9以下、又は8.5以下であってよい。第1のハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であってよく、好ましくは0.2以上、0.5以上、又は0.8以上であってよく、また好ましくは2以下、1以下、又は0.9以下であってよい。第1のハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であってよく、好ましくは0.1以上、0.3以上、又は0.6以上であってよく、また好ましくは2以下、1.5以下、1以下、又は0.9以下であってよい。第1のハロリン酸塩の組成は、例えばリンのモル数を6とする場合に、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下であってよく、好ましくは1.93以上、又は1.96以上であってよく、また好ましくは2.07以下、2.04以下、又は2以下であってよい。
【0033】
一態様において、第1のハロリン酸塩は下記式(2)で表される組成を有していてよい。
(Ca1-p-qSrEu(POCl (2)
【0034】
式(2)中、p、q、r及びsは、例えば0≦p≦0.21、0.009<q≦0.21、9≦r≦11、1.9≦s≦2.1であってよい。pは、好ましくは0.02≦p≦0.2、又は0.05≦p≦0.1であってよい。qは、好ましくは0.01≦q≦0.2、又は0.03≦q≦0.15であってよい。rは、好ましくは9.4≦r≦10.4、又は9.6≦r≦10.1であってよい。sは、好ましくは1.93≦s≦2.07、又は1.96≦s≦2.04であってよい。Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0035】
一態様において、第1のハロリン酸塩は下記式(2a)で表される理論組成を有していてもよい。
(Ca,Sr)10(POCl:Eu (2a)
【0036】
酸処理工程では、準備した第1のハロリン酸塩を酸処理して第1処理物を得る。第1のハロリン酸塩の酸処理は、例えば液媒体中で第1のハロリン酸塩と酸性化合物とを接触させることで行うことができる。第1のハロリン酸塩と酸性化合物との接触では、必要に応じて撹拌してもよい。第1のハロリン酸塩と酸性化合物の接触温度は、例えば5℃以上80℃以下であってよく、好ましくは15℃以上、又は35℃以下であってよい。接触時間は、例えば1分以上120分以下であってよく、好ましくは5分以上、又は30分以下であってよい。接触の雰囲気は、例えば大気雰囲気であってよい。
【0037】
液媒体は少なくとも水を含んでいればよく、水に加えて必要に応じて水溶性有機溶剤を更に含んでいてもよい。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤、アセトニトリル等のニトリル溶剤等を挙げることができる。液媒体における水の含有率は、例えば20体積%以上、又は50体積%以上であってよい。液媒体の使用量は、第1のハロリン酸塩の質量に対して、例えば2倍質量以上10倍質量以下であってよく、好ましくは3倍質量以上、又は6倍質量以下であってよい。
【0038】
酸性化合物としては、塩化水素、硝酸、リン酸、硫酸等の無機酸、酢酸等の有機酸を挙げることができる。酸性化合物は、好ましくは塩化水素、硝酸、酢酸、リン酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくとも塩化水素を含んでいてよい。液媒体中における酸性化合物の濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%以下であってよく、好ましくは1質量%以上、又は10質量%以下であってよい。
【0039】
酸処理工程では、第1のハロリン酸塩と酸性化合物の接触後、必要に応じて第1ハロリン酸塩に付着した酸性化合物の少なくとも一部を除去する洗浄処理を行ってもよい。洗浄処理は、例えば酸性化合物と接触させた第1のハロリン酸塩と水を含む液媒体とを接触させることで行うことができる。水を含む液媒体の詳細は上述の通りである。洗浄処理における温度は、例えば5℃以上90℃以下であってよく、好ましくは15℃以上、又は35℃以下であってよい。また洗浄処理における液媒体の使用量は、第1のハロリン酸塩に対する質量比として、例えば50倍質量以上1000倍質量以下であってよく、好ましくは100倍質量以上、又は500倍質量以下であってよい。
【0040】
酸処理工程で得られる第1処理物は、酸処理された第1のハロリン酸塩(以下、第2のハロリン酸塩ともいう)と、その表面に配置されるユウロピウムを含むリン酸塩と、を含んでいてよい。第2のハロリン酸塩は、酸処理によって第1のハロリン酸塩から生成するものであり、例えば第1のハロリン酸塩からユウロピウムを含むハロリン酸塩を構成する成分等が除去されて生成する。第2のハロリン酸塩は、実質的に第1のハロリン酸塩と同様の組成を有していてよく、ユウロピウムで賦活されるハロリン酸塩を含む蛍光体であってよい。
【0041】
第1処理物を構成するユウロピウムを含むリン酸塩は、第1及び第2のハロリン酸塩とは異なる組成を有する。ユウロピウムを含むリン酸塩としては、例えばリン酸ユウロピウム(例えば、EuPO)等が挙げられる。ユウロピウムを含むリン酸塩は、第2のハロリン酸塩の表面に、ファンデルワールス力等により物理的に付着していてよい。第1処理物では、第2のハロリン酸塩の表面に塩素を含む残留酸成分が更に付着していてもよい。塩素を含む化合物としては、例えば塩化水素(HCl)等が挙げられる。
【0042】
分散工程では、第1のハロリン酸塩を酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与して第2処理物を得る。第1処理物に剪断力を付与することで、例えば第2のハロリン酸塩の表面に配置されるユウロピウムを含むリン酸塩の少なくとも一部を、第2のハロリン酸塩の表面から剥離することができる。また第2のハロリン酸塩の表面に付着する塩素を含む化合物の少なくとも一部を除去することができる。
【0043】
第1処理物に対する剪断力の付与は、例えば第1処理物を分散処理することで実施することができる。分散処理は、例えばボールミル、ビーズミル、ジェットミル等で実施することができる。また、分散処理は、乾式分散処理及び湿式分散処理のいずれであってもよく、少なくとも湿式分散処理を含んでいてよい。
【0044】
例えば分散処理をボールミル又はビーズミルで行う場合、樹脂メディアを用いることができる。樹脂メディアの材質としては、例えばウレタン樹脂、ナイロン樹脂等を挙げることができる。樹脂メディアを用いることで、第2のハロリン酸塩の粒子を粉砕することを抑制しつつ、表面に付着した不純物を効果的に分離することができる。樹脂メディアの大きさは、例えばφ1mm以上5mm以下とすることができる。またボールミル又はビーズミルに用いる胴体(シェル)の材質としては、例えばウレタン樹脂、ナイロン樹脂等を挙げることができる。分散処理における樹脂メディアの使用量は、第1処理物に対する質量比として、例えば0.5以上3以下であってよく、好ましくは1以上、又は2以下であってよい。分散処理の時間としては、例えば2時間以上48時間以下であってよく、好ましくは10時間以上、又は20時間以下であってよい。
【0045】
分散処理を湿式分散処理で行う場合、液媒体は少なくとも水を含んでいればよく、水に加えて必要に応じて水溶性有機溶剤を更に含んでいてもよい。液媒体における水の含有率は、例えば20体積%以上、又は95体積%以上であってよい。湿式分散処理における液媒体の使用量は、第1処理物に対する質量比として、例えば1以上5以下であってよく、好ましくは2以上、又は3以下であってよい。
【0046】
分散工程は、第1処理物を分散処理した後に、得られる分散処理物に分級処理を行ってもよい。分級処理を行うことで、分散処理により分離した副生成物、残留酸成分等の少なくとも一部を除去することができる。分級処理は、例えば分散処理された第1処理物を純水中で撹拌し、ハロリン酸塩が沈降した後、上澄み液を排出することで行うことができる。分級処理は1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。
【0047】
ハロリン酸塩蛍光体の製造方法は、分散工程で得られる第2処理物を、水を含む液媒体と接触させて第3処理物を得る洗浄工程を更に含んでいてもよい。第2処理物と水を含む液媒体とを接触させることで、発光装置を構成する場合に経時的な光束の低下をより効果的に抑制することができるハロリン酸塩蛍光体を製造することができる。洗浄工程は、例えば第2処理物と水を含む液媒体とを接触させることと、第2処理物と液媒体の混合物から液媒体の少なくとも一部を除去することと、を含んでいてよい。
【0048】
第2処理物と水を含む液媒体との接触は、第2処理物と液媒体とを混合することで行うことができる。第2処理物と液媒体との接触では、必要に応じて撹拌を行ってもよい。洗浄工程で用いる液媒体は少なくとも水を含んでいればよく、水に加えて必要に応じて水溶性有機溶剤を更に含んでいてもよい。液媒体における水の含有率は、例えば20体積%以上、又は50体積%以上であってよく、純水であってもよい。洗浄工程で第2処理物と接触させる液媒体の使用量は、第2処理物に対する質量比として、例えば2以上20以下であってよく、好ましくは5以上、又は10以下であってよい。第2処理物と液媒体の接触温度は、例えば10℃以上110℃以下であってよく、好ましくは70℃以上100℃以下であってよく、より好ましくは75℃以上、又は80℃以上であってよく、又好ましくは95℃以下、又は90℃以下であってよい。接触時間は、例えば0.5時間以上48時間以下であってよく、好ましくは1時間以上、又は5時間以下であってよい。接触の雰囲気は、例えば大気雰囲気であってよい。
【0049】
第2処理物と液媒体の混合物からの液媒体の除去は、混合物を固液分離すること行うことができる。固液分離の方法としては、ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法が挙げられる。ハロリン酸塩蛍光体の製造方法における洗浄工程は、1回のみであってもよいし、複数回繰り返してもよい。
【0050】
洗浄工程で得られる第3処理物には、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、例えば洗浄工程後の第3処理物を90℃以上110℃以下の温度環境下、10時間以上24時間以下の時間で行うことができる。
【0051】
洗浄工程で得られる第3処理物は、所望のハロリン酸塩蛍光体を含んでいてよい。得られるハロリン酸塩蛍光体は、10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下であってよい。
【0052】
ハロリン酸塩蛍光体の製造方法は、準備工程において所望の第1のハロリン酸塩を製造することを含んでいてよい。第1のハロリン酸塩の製造方法の詳細については、例えば特開2009-30042号公報、特開2020-84107号公報等の記載を参照することができる。
【0053】
第1のハロリン酸塩の製造方法は、例えば第1のハロリン酸塩の組成を構成する各元素を所望の組成で含む原料混合物を準備することと、準備した原料混合物を熱処理することと、を含んでいてよい。原料混合物は、第1のハロリン酸塩の組成を構成する各元素を含む化合物を混合することで調製することができる。原料混合物を構成する化合物としては、少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属を含む化合物、ユウロピウムを含む化合物、リンを含む化合物、及び少なくとも塩素を含むハロゲンを含む化合物を挙げることができる。化合物としては、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、リン酸水素塩、リン酸塩、塩化物等のハロゲン化物等が挙げられる。化合物は、水和物の形態であってもよい。空気中での安定性がよく、加熱により容易に分解し、目的とする組成以外の元素が残留しにくく、残留不純物元素による発光強度の低下を抑制しやすいため、アルカリ土類金属を含む化合物、及びユウロピウムを含む化合物は、酸化物、炭酸塩等であってもよく、ハロゲン化物、リン酸塩等であってもよい。
【0054】
原料混合物は、リンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であり、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であり、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であり、ハロゲンのモル数が2.0以上4.5以下であるように各化合物を秤量して混合することで調製することができる。混合方法としては、混合機を用いて湿式又は乾式で混合する方法を挙げることができる。混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いることもできる。原料混合物は、粉砕することによって比表面積を大きくすることができる。また、原料は、粒子の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器等の湿式分離機、サイクロン、エアセパレータ等の乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0055】
原料混合物は、フラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料化合物間の反応がより促進され、さらには固相反応がより均一に進行するために粒径が大きい熱処理物を得ることができる。例えば、熱処理が1000℃以上1300℃以下の温度範囲であり、この範囲の温度でフラックスとしてハロゲン化物等を用いた場合には、ハロゲン化物の液相の生成温度とほぼ同じであるため、原料間の固相反応がより均一に進行すると考えられる。フラックスとして用いるハロゲン化物としては、希土類金属、アルカリ金属の塩化物、フッ化物等を利用できる。フラックスは、フラックスに含まれる陽イオンの元素比率を、所望の熱処理物の組成になるように調節して第1のハロリン酸塩の原料の一部としてフラックスを加えてもよいし、得たい熱処理物の組成になるように各原料化合物を加えた後、さらに添加する形でフラックスを加えてもよい。
【0056】
原料混合物がフラックスを含む場合、フラックスの含有量は、原料混合物中に例えば10質量%以下であってよく、好ましくは5質量%以下であってよい。フラックスの含有量が前記範囲内であると、得られる第1のハロリン酸塩の発光効率の低下を抑制できる傾向がある。
【0057】
原料混合物の熱処理温度は、例えば1000℃以上1300℃以下であってよく、好ましくは1100℃以上、又は1250℃以下であってよい。熱処理温度が前記範囲内であれば、熱処理物の分解を効果的に抑制して所望の第1のハロリン酸塩が得られる傾向がある。熱処理は1次熱処理を行った後に2次熱処理を行ってもよく、更に複数回の熱処理を繰り返してもよい。
【0058】
1回の熱処理時間は、例えば1時間以上30時間以下であってよい。原料混合物の熱処理においては、1回の熱処理において熱処理温度を段階的に変化させて熱処理を行ってもよい。例えば800℃以上1000℃未満の温度で1段階目の熱処理を行い、次いで昇温して1000℃以上1300℃以下の温度で2段階目の熱処理を行ってもよい。
【0059】
原料混合物の熱処理は、非酸化性雰囲気であってよく、好ましくは還元性雰囲気であってよい。具体的には、窒素雰囲気、窒素及び水素の混合雰囲気、アンモニア雰囲気、又はそれらの混合雰囲気(例えば、窒素とアンモニアの混合雰囲気)であってよい。還元性雰囲気で熱処理を行うことで、原料混合物の反応性が向上することから、還元力の高い窒素及び水素の混合雰囲気が好ましい。また、還元性雰囲気は、大気雰囲気中で固体カーボンを用いた雰囲気であってもよい。
【0060】
還元力の高い雰囲気中で得られる熱処理物は、熱処理物に含まれる2価のユウロピウム(Eu2+)の含有割合が増大する傾向があり、発光強度をより高くすることができる。原料混合物に含まれる2価のユウロピウムは酸化されて3価のユウロピウムとなりやすいが、還元力の高い還元雰囲気で原料混合物を熱処理することにより、熱処理物に含まれる3価のユウロピウムが2価のユウロピウムに還元されやすくなる。このため、熱処理焼成物に含まれる2価のユウロピウムの含有割合が増大し、より高い発光強度を有する第1のハロリン酸塩を製造することができる。
【0061】
第1のハロリン酸塩の製造方法では、熱処理物に対して、水洗、粉砕、分散、固液分離、乾燥等の後処理を行ってもよい。固液分離はろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。熱処理物に必要に応じて後処理を行い、粉末状の第1のハロリン酸塩を製造することができる。
【0062】
発光装置
発光装置は、ハロリン酸塩蛍光体を含む波長変換部材と、400nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える。波長変換部材が、10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下であるハロリン酸塩蛍光体を含むことで、発光装置を構成する場合に経時的な光束の低下を抑制することができる。
【0063】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。図2は、発光装置の一例を示す概略断面図である。発光装置100は、凹部を有する成形体40と、光源となる発光素子10と、発光素子10を被覆する波長変換部材50と、を備える。成形体40は、第1のリード20及び第2のリード30と、熱可塑性樹脂又熱硬化性樹脂を含む樹脂物42とが一体的に成形されてなるものである。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は波長変換部材50により被覆されている。波長変換部材50は例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70と樹脂とを含有してなる。波長変換部材50は、波長変換機能だけではなく、発光素子10及び蛍光体70を外部環境から保護するための部材としても機能する。発光装置100は、第1のリード20及び第2のリードを介して、外部からの電力の供給を受けて発光する。
【0064】
図3は、発光装置の別の一例を示す概略断面図である。発光装置110では、波長変換部材50が、蛍光体70として第1蛍光体71、第2蛍光体72及び第3蛍光体73の少なくとも3種の蛍光体を含んで構成される。
【0065】
発光素子の発光ピーク波長は、400nm以上460nm以下の範囲にあり、発光効率の観点から、400nm以上440nm以下の範囲にあることが好ましい。この範囲に発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。また発光素子から外部に放射される光を有効に利用することができるため、発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率な発光装置を得ることができる。
【0066】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は例えば、30nm以下とすることができる。発光素子にはLEDなどの半導体発光素子を用いることが好ましい。光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。半導体発光素子としては、例えば、窒化物系半導体(InAlGa1-X-YN、ここでX及びYは、0≦X、0≦Y、X+Y<1を満たす)を用いた青色、緑色等に発光する半導体発光素子を用いることができる。
【0067】
波長変換部材は、例えば、蛍光体と樹脂とを含むことができる。波長変換部材は蛍光体として、発光素子から発せられる光を吸収し、青色に発光する第1蛍光体の少なくとも1種と、緑色に発光する第2蛍光体の少なくとも1種と、赤色に発光する第3蛍光体の少なくとも1種とを含んでいてよい。第1蛍光体から第3蛍光体は、互いに異なる組成を有している。第1蛍光体から第3蛍光体の構成比率を適宜選択することで発光装置の発光効率、発する光の色度座標等の特性を所望の範囲とすることができる。
【0068】
波長変換部材を構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。例えばシリコーン樹脂の屈折率は1.35以上1.55以下であってよく、より好ましくは1.38以上1.43以下の範囲であって良い。シリコーン樹脂の屈折率は、これらの範囲であれば透光性に優れており、波長変換部材を構成する樹脂として好適に用いることができる。ここでシリコーン樹脂の屈折率は硬化後の屈折率であり、JIS K7142:2008に準拠して測定される。波長変換部材は、樹脂及び蛍光体に加えて、光拡散材をさらに含んでいてもよい。光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。光拡散材としては、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等を挙げることができる。
【0069】
波長変換部材は、ハロリン酸塩蛍光体を第1蛍光体として含んでいてよく、第1蛍光体とは発光ピークの波長範囲がそれぞれ異なる第2蛍光体及び第3蛍光体をさらに含んでいてもよい。波長変換部材における第1蛍光体の含有量は、波長変換部材に含まれる樹脂100質量部に対して、例えば2質量部以上250質量部以下であってよく、好ましくは10質量部以上であってよく、また好ましくは200質量部以下、又は180質量部以下であってよい。
【0070】
波長変換部材は、500nm以上600nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する第2蛍光体をさらに含んでいてよい。第2蛍光体は、βサイアロン蛍光体、希土類アルミン酸塩蛍光体、ハロゲンケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体、及び硫化物系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含んでいてよい。波長変換部材は第2蛍光体を1種単独で含んでいてよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0071】
βサイアロン蛍光体は、例えば下記式(IIa)で表される理論組成を有していてよい。
Si6-qAl8-q:Eu (IIa)
【0072】
式(IIa)中、qは、0<q<4.2を満たす数であってよい。
【0073】
希土類アルミン酸塩蛍光体は、下記式(IIb)で表される理論組成を有していてよい。
LnAl5-pGa12:Ce (IIb)
【0074】
式(IIb)中、Lnは、Y、Lu、Gd及びTbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよく、pは、0≦p≦3を満たす数であってよい。
【0075】
ハロゲンケイ酸塩蛍光体は、下記式(IIc)で表される理論組成を有していてよい。
MgSi16Hal:Eu (IIc)
【0076】
式(IIc)中、Mは、Ca、Sr、Ba及びZnからなる選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。Halは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。
【0077】
アルカリ土類金属ケイ酸塩蛍光体は、下記式(IId)で表される理論組成を有していてよい。
SiO:Eu (IId)
【0078】
式(IId)中、Mは、Ba、Sr、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。
【0079】
硫化物系蛍光体は、下記式(IIe)で表される理論組成を有していてよい。
Ga:Eu (IIe)
【0080】
式(IIe)中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。
【0081】
波長変換部材における第2蛍光体の含有量は、波長変換部材に含まれる樹脂100質量部に対して、例えば1質量部以上150質量部以下であってよく、好ましくは2質量部以上であってよく、また好ましくは100質量部以下、又は50質量部以下が好ましい。
【0082】
波長変換部材は、620nm以上670nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する第3蛍光体をさらに含んでいてよい。第三蛍光体は、フッ化物系蛍光体、ゲルマン酸塩蛍光体、窒化物系蛍光体、及び硫化物系蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含んでいてよい。波長変換部材は第3蛍光体を1種単独で含んでいてよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0083】
フッ化物系蛍光体は、下記式(IIIa)又は(IIIb)で表される理論組成を有していてよい。
[M 1-aMn] (IIIa)
【0084】
式(IIIa)中、Aは、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素又はイオンを含んでいてよい。アルカリ金属はLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。Mは、少なくともSi及びGeの少なくとも一方を含み、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含んでいてよい。Mnは4価のMnイオンであってよい。aは、0<a<0.2を満たす数であってよい。bは、[M 1-aMn]イオンの電荷の絶対値であり、1.8≦b≦1.2を満たす数であってよい。cは、5<c<7を満たす数であってよい。
【0085】
[M 1-dMn] (IIIb)
【0086】
式(IIIb)中、Aは、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素又はイオンを含んでいてよい。アルカリ金属はLi、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。Mは、少なくともSi及びAlを含み、第4族元素、第13族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含んでいてよい。Mnは4価のMnイオンであってよい。dは、0<d<0.2を満たす数であってよい。eは、[M 1-dMn]イオンの電荷の絶対値であり、1.8≦e≦1.2を満たす数であってよい。fは、5<f<7を満たす数であってよい。
【0087】
ゲルマン酸塩蛍光体は、下記式(IIIc)で表される理論組成を有していてよい。
(i-j)MgO・(j/2)Sc・kMgF・mCaF・(1-n)GeO・(n/2)M :uMn (IIIc)
【0088】
式(IIIc)中、Mは、Al、Ga及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。i、j、k、m、n及びvは、2≦i≦4、0<k<1.5、0<u<0.05、0≦j<0.5、0≦m<1.5、及び0<n<0.5を満たす数であってよい。
【0089】
窒化物系蛍光体は、下記式(IIId)、式(IIIe)又は式(IIIf)で表される理論組成を有する蛍光体からなる群から選ばれる少なくとも1種の蛍光体を含んでいてよい。
(Ca1-b-cSrEu)AlSiN (IIId)
Al3-gSi (IIIe)
(Ca1-s-t-vSrBaEuSi (IIIf)
【0090】
式(IIId)中、b及びcは、0≦b≦1.0、0<c<1.0、及びb+c<1.0を満たす数であってよい。式(IIIe)中、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。Mは、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてよい。d、e、f、g及びhは、それぞれ0.80≦d≦1.05、0.80≦e≦1.05、0.001<f≦0.1、0≦g≦0.5、3.0≦h≦5.0を満たす数であってよい。式(IIIf)中、s、t及びvは、それぞれ0≦s≦1.0、0≦t≦1.0、0<v<1.0、及びs+t+v≦1.0を満たす数であってよい。
【0091】
硫化物系蛍光体は、下記式(IIIg)で表される組成を有していてよい。
(Ca1-uSr)S:Eu (IIIg)
【0092】
式(IIIg)中、uは、0≦u≦1.0を満たす数であってよい。
【0093】
波長変換部材における第3蛍光体の含有量は、波長変換部材に含まれる樹脂100質量部に対して、例えば1質量部以上150質量部以下であってよく、好ましくは2質量部以上であってよく、また好ましくは100質量部以下、又は50質量部以下が好ましい。
【0094】
波長変換部材中の蛍光体の総含有量は、例えば、樹脂100質量部に対して5質量部以上300質量部以下であってよく、好ましくは10質量部以上、又は15質量部以上であっちょく、また好ましくは250質量部以下、230質量部以下、又は200質量部以下であってよい。波長変換部材中の蛍光体の総含有量が、上記範囲内であると、発光装置における発光効率の低下をより効果的に抑制することができる。
【0095】
本発明は、以下の態様を包含してよい。
[1] 少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を含むハロリン酸塩蛍光体であり、前記ハロリン酸塩蛍光体を10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下であるハロリン酸塩蛍光体。
【0096】
[2] 前記ハロリン酸塩蛍光体は、ユウロピウムを含むリン酸塩を更に含み、X線回折スペクトルにおける前記ハロリン酸塩蛍光体の主回折強度を100とする場合、2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値が68以上78以下である[1]に記載のハロリン酸塩蛍光体。
【0097】
[3] 前記ハロリン酸塩は、リンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であり、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であり、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であり、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下である組成を有する[1]又は[2]に記載のハロリン酸塩蛍光体。
【0098】
[4] 前記ハロリン酸塩は、下記式(1)で表される組成を有する[1]から[3]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体 。
(Ca1-x-ySrEu(POCl (1)
(式(1)中、0≦x≦0.21、0.009<y≦0.21、9≦z≦11、1.9≦w≦2.1、Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種に置換されていてもよい。)
【0099】
[5] 少なくともカルシウムを含むアルカリ土類金属と、ユウロピウムと、少なくとも塩素を含むハロゲンと、を含むハロリン酸塩を準備することと、前記ハロリン酸塩を酸処理することと、前記酸処理して得られる第1処理物に剪断力を付与することと、を含むハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0100】
[6] 前記酸処理することは、液媒体中で前記ハロリン酸塩と酸性化合物とを接触させることを含む[5]に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0101】
[7] 前記酸処理することは、前記ハロリン酸塩と酸性化合物とを接触させた後、前記酸性化合物の少なくとも一部を除去することを更に含む[6]に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0102】
[8] 前記酸処理することにおいて、前記酸性化合物は、塩化水素、硝酸、酢酸、リン酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む[6]または[7]に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0103】
[9] 前記剪断力を付与することは、湿式分散処理することを含む[5]から[8]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0104】
[10] 前記剪断力を付与することは、湿式分散処理後に、分級処理することを更に含む[9]に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0105】
[11] 前記第1処理物に剪断力を付与して得られる第2処理物を、水を含む液媒体と接触させることを更に含む[5]から[10]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0106】
[12] 前記液媒体と接触させることは、70℃以上100℃以下の温度で行われる[11]に記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0107】
[13] 前記剪断力を付与することにおいて、前記第1処理物は、ハロリン酸塩とユウロピウムを含むリン酸塩とを含む[5]から[12]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0108】
[14] 前記ハロリン酸塩蛍光体は、10倍質量の純水と85℃で5時間接触させた後の塩素イオンの溶出量が7ppm以下である[5]から[13]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0109】
[15] 前記ハロリン酸塩を準備することにおいて、前記ハロリン酸塩は、リンのモル数を6とする場合に、カルシウムのモル数が5.7以上10.1以下であり、ストロンチウムのモル数が0以上2.1以下であり、ユウロピウムのモル数が0.09以上2.1以下であり、ハロゲンのモル数が1.9以上2.1以下である組成を有する[5]から[14]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
【0110】
[16] 前記ハロリン酸塩を準備することにおいて、前記ハロリン酸塩は、下記式(1)で表される組成を有する[5]から[15]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体の製造方法。
(Ca1-x-ySrEu(POCl (1)
(式(1)中、0≦x≦0.21、0.009<y≦0.21、9≦z≦11.2 、1.9≦w≦2.1、Clの一部は、F及びBrからなる群から選択される少なくとも1種に置換されていてもよい。)
【0111】
[17] [1]から[4]のいずれかに記載のハロリン酸塩蛍光体を含む波長変換部材と、400nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置。
【実施例0112】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
製造例
原料としてCaCO、SrCO、Eu、(NHHPO、NHClを用いた。これら原料の仕込み量として、リン(P)のモル比を6として、各元素のモル比がCa:Sr:Eu:P:Cl=8.1:1:0.9:6:3.5になるように秤量した後、これらの原料をボールミル混合した。この混合した原料を、還元雰囲気中において1000℃以上1200℃以下の温度で2時間から5時間熱処理することにより、熱処理物を得た。熱処理物を湿式分散、分級処理を行うことで、カルシウム、ストロンチウム、ユウロピウム及び塩素を含む第1のハロリン酸塩Aを得た。
【0114】
実施例1
製造例1で得られた第1のハロリン酸塩Aの1000gを、1質量%の塩酸4000gに投入し、10分間撹拌した。撹拌後、固液分離してから純水を用いて洗浄して、酸処理後の第1処理物A1を得た。
【0115】
第1処理物A1の800gに対して、φ3mmの樹脂ビーズ800g及び純水1600gを加えて、ビーズミルにより18時間の湿式分散処理を行った。その後、沈降分級により分級処理して、第2処理物A2として実施例1のハロリン酸塩蛍光体を得た。
【0116】
実施例2
実施例1で得られた第2処理物A2の500gを、85℃の純水5000gに投入し、2時間の撹拌後、溶液を排出する洗浄処理を計2回行って、実施例2のハロリン酸塩蛍光体を得た。
【0117】
比較例1
製造例で得られた第1のハロリン酸塩Aを比較例1のハロリン酸塩蛍光体とした。
【0118】
比較例2
実施例1で得られた酸処理後の第1処理物A1を比較例2のハロリン酸塩蛍光体とした。
【0119】
比較例3
製造例で得られた第1のハロリン酸塩Aの50gを、85℃の純水500gに投入し、2時間の撹拌後、溶液を排出する洗浄処理を計2回行って、比較例3のハロリン酸塩蛍光体を得た。
【0120】
平均粒径の測定
上記で得られたハロリン酸塩蛍光体について、フィッシャーサブシーブサイザーズ(FSSS)法により平均粒径を測定した。結果を表1に示す。
【0121】
光学特性の測定
上記で得られたハロリン酸塩蛍光体について光学特性を測定した。光学特性は、分光蛍光光度計(製品名:F-4500、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、励起光として波長420nmの光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における発光特性として測定した。結果を表1に示す。なお、発光強度は、比較例1のハロリン酸塩蛍光体の発光強度を100%とする相対発光強度として示す。また、反射率は、リン酸水素カルシウム(CaHPO)を基準(100%)として測定した。
【0122】
組成分析
上記で得られたハロリン酸塩蛍光体について、組成分析を行った。ハロリン酸塩蛍光体のCa、Sr、Eu及びPの各元素は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)(製品名:Optima8300、株式会社池田理化製)を用いて各元素のモル比を測定した。また、ハロリン酸塩蛍光体のCl元素については、電位差滴定装置(製品名:AT-5000、京都電子工業株式会社製)を用いてCl元素のモル比を測定した。蛍光体の組成において、Pのモル比6を基準として、各元素の組成比を算出した。結果を表1に示す。
【0123】
X線回折(XRD)の測定
上記で得られたハロリン酸塩蛍光体について、X線回折パターンの測定を行った。X線回折装置(装置名:Ultima IV、株式会社リガク製)にてCuKα線を用いて測定した。
【0124】
測定されたXRDパターンにおいて、ハロリン酸塩蛍光体の主回折ピーク(2θ=30°以上33°以下)の強度を100として、リン酸ユウロピウムの主回折ピークに相当する、2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値(XRD積分値)を算出した。結果を表1に示す。
【0125】
溶出試験
上記で得られたハロリン酸塩蛍光体について、10倍質量の85℃純水中で5時間保管した後、上澄み溶液の溶出元素として塩素イオン(ppm)を分析した。分析方法は上記組成分析と同じ装置を用いた。結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1より実施例1および2のハロリン酸塩蛍光体は、比較例1から3のハロリン酸塩蛍光体に比べて溶出塩素イオンが低減されたことが分かる。これらから、酸溶液と接触させる工程と、高温の水溶液と接触させる工程により、塩素イオンの溶出が抑制されたと考えられる。比較例2のハロリン酸塩蛍光体は、他の実施例及び比較例のハロリン酸塩蛍光体に比べて発光強度が低くなっている。その理由について、以下のように考えることができる。2θが29°以上30°以下の範囲における回折強度の積分値によると、比較例2のハロリン酸塩蛍光体は、ハロリン酸塩が酸溶液と接触した際に生成した副生成物(リン酸ユウロピウム)のハロリン酸塩蛍光体の表面に付着している量が他の実施例および比較例のハロリン酸塩蛍光体より大きい。この副生成物(リン酸ユウロピウム)の一部がハロリン酸塩蛍光体の発光を阻害することで、比較例2のハロリン酸塩蛍光体は、発光強度が低くなったと考えられる。
【0128】
発光装置の製造例
蛍光体として上記実施例1および2、比較例1から3で得られたハロリン酸塩蛍光体のみを用い、発光素子として発光ピーク波長が417nmの窒化物系半導体発光素子を用いた。ハロリン酸塩蛍光体の発光ピークの発光強度が、発光素子の強度に対して4倍になるように、シリコーン樹脂に対するハロリン酸塩蛍光体の含有量を調整して波長変換部材を形成し、製造例1および2の発光装置、並びに比較製造例1から3の発光装置をそれぞれ製造した。ハロリン酸塩蛍光体のシリコーン樹脂に対する含有量(質量%)を表2に示す。また、製造例1の発光装置の発光スペクトルを図4に示す。図4には、発光素子の発光ピーク波長における発光強度を100%とした相対発光強度を縦軸とした発光スペクトルを示す。
【0129】
得られた発光装置について、色度座標(x,y)におけるxの値およびyの値と、積分球を用いて全光束を測定した。比較例1のハロリン酸塩蛍光体を用いた比較製造例1の発光装置の光束を100%とする相対光束を求めた。結果を表2に示す。
【0130】
耐久性評価
得られた発光装置について、85℃の環境試験機内にて電流150mAでの連続点灯試験と、85℃85%RHの環境試験機内にて保管試験とを行い、500時間経過させて、それぞれ耐久性試験を行った。耐久性試験前の発光装置の初期光束を100%とし、耐久性試験後の発光装置の光束維持率(%)をそれぞれ算出した。結果を表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
表2より、実施例1と2で得られた塩素イオンの溶出が抑制されたハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置では、塩素イオンの溶出が十分に抑制されていない比較例1から3にかかるハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置に比べて、光束維持率(%)が高くなっており、発光装置の経時的な光束低下が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示のハロリン酸塩蛍光体は、発光装置に用いた場合に、優れた耐久性を有する。特に発光ダイオードを励起光源とする発光特性に極めて優れた照明用光源、LEDディスプレイ、液晶用バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ、各種インジケータ、小型ストロボ等に利用できる。
【符号の説明】
【0134】
10:発光素子、20:第1のリード、30:第2のリード、40:成形体、50:波長変換部材、60:ワイヤ、70:蛍光体、71:第1蛍光体、72:第2蛍光体、73:第3蛍光体、100、110:発光装置
図1
図2
図3
図4