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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174258
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】蒸気復水の回収方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/52 20060101AFI20231130BHJP
   F22B 37/38 20060101ALI20231130BHJP
   F22D 11/00 20060101ALI20231130BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20231130BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20231130BHJP
【FI】
F22B37/52 Z
F22B37/38 B
F22D11/00 H
C02F5/00 610F
C02F5/00 610G
C02F5/00 620D
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
C02F5/10 620E
C02F5/10 620F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087007
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 瑞之
(57)【要約】
【課題】蒸気復水(ドレン)を適切に回収することができる蒸気復水の回収方法を提供する。
【解決手段】ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に基づいて蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。ドレンの濁度とドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、濁度測定値と該近似式より該ドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に基づいて該蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に基づいて蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。
【請求項2】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度とドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式より該ドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に基づいて該蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。
【請求項3】
前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩である請求項1の蒸気復水の回収方法。
【請求項4】
前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩であり、濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度に対するスケール防止剤の添加量を0.5~10倍量とする請求項2の蒸気復水の回収方法。
【請求項5】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に基づいてドレン回収の可否を判断する蒸気復水の回収方法。
【請求項6】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度が所定値aよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、濁度が所定範囲a~b(ただし、b>a)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【請求項7】
前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する請求項6の蒸気復水の回収方法。
【請求項8】
前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備給水の原水を貯める原水槽を備えており、
前記濁度が前記bよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する請求項6の蒸気復水の回収方法。
【請求項9】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度と、ドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式よりドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に応じてドレン回収可否を判断する蒸気復水の回収方法。
【請求項10】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度と、ドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式よりドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度が所定値cよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、金属濃度が所定範囲c~d(ただし、d>c)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【請求項11】
前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する請求項10の蒸気復水の回収方法。
【請求項12】
前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備に供給される原水を貯める原水槽を備えており、
前記金属濃度が前記dよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する請求項10の蒸気復水の回収方法。
【請求項13】
前記水質改善装置は、金属酸化物又は金属イオンを除去する装置である請求項6又は10の蒸気復水の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等の蒸気発生設備において蒸気復水(ドレン)を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気による熱エネルギーは工業的に最も多く使用されているエネルギー源である。蒸気の全熱量のうち有効に利用されているのは約80%の蒸発潜熱分で、残りの顕熱量はドレンとして廃棄されていることが多い。ドレンを回収してボイラ給水に有効利用すればボイラの燃料削減、CO削減、節水に貢献できる。
【0003】
しかし、ドレン水質が悪く回収されていないケースは少なくない。例えば、蒸気配管や熱交換器の腐食によってドレン水中に鉄や銅、亜鉛などの金属イオンや金属酸化物が多く含まれると、これらがボイラ内に持ち込まれて、ボイラ下部に堆積し、二次腐食を引き起こしたり、蒸発管にスケールとして付着して伝熱障害等を引き起こすことが知られている。このためにドレン回収を断念せざるを得ない場合があった。
【0004】
特許文献1には、ドレンの水質および水温を一定時間毎に測定し、ドレンの回収可否を判定するというボイラ装置の復水供給方法及び給水装置が開示されている。特許文献1では、ドレンの水質または水温が基準を満たさないと判定された場合はドレンは廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-343807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、水質および水温の基準を外れたドレンは回収されないので、ドレン回収による節水、熱の回収およびボイラのブロー水の削減が不十分である。
【0007】
また、特許文献1では、ドレンの鉄イオン濃度や銅イオン濃度を測定するが、現場で金属濃度を連続的に測定できるような安価な装置がない。そのため、鉄イオン濃度や銅イオン濃度の測定を行うには、現場から復水試料を持ち帰り、分析所でそれぞれの金属イオンを分析する必要がある。そのため、特許文献1では、ドレンの水質変動に迅速に対応したドレン回収を行うことができない。
【0008】
本発明は、蒸気復水(ドレン)を適切に回収することができる蒸気復水の回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に基づいて蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。
【0011】
[2] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度とドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式より該ドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に基づいて該蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法。
【0012】
[3] 前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩である[1]の蒸気復水の回収方法。
【0013】
[4] 前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩であり、濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度に対するスケール防止剤の添加量を0.5~10倍量とする[2]の蒸気復水の回収方法。
【0014】
[5] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に基づいてドレン回収の可否を判断する蒸気復水の回収方法。
【0015】
[6] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度が所定値aよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、濁度が所定範囲a~b(ただし、b>a)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【0016】
[7] 前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する[6]の蒸気復水の回収方法。
【0017】
[8] 前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備給水の原水を貯める原水槽を備えており、
前記濁度が前記bよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する[6]の蒸気復水の回収方法。
【0018】
[9] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度と、ドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式よりドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に応じてドレン回収可否を判断する蒸気復水の回収方法。
【0019】
[10] ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度と、ドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式よりドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度が所定値cよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、金属濃度が所定範囲c~d(ただし、d>c)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【0020】
[11] 前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する[10]の蒸気復水の回収方法。
【0021】
[12] 前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備に供給される原水を貯める原水槽を備えており、
前記金属濃度が前記dよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する[10]の蒸気復水の回収方法。
【0022】
[13] 前記水質改善装置は、金属酸化物又は金属イオンを除去する装置である[6]又は[10]の蒸気復水の回収方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ドレン中に含まれる金属濃度と濁度との間に正の相関があることを見出した。濁度を連続監視しながら、濁度の値に応じてドレンを回収したり、スケール防止剤を添加することにより、ボイラ内に持込まれる金属のスケール化を効果的に抑制することができる。また、スケールがボイラの伝熱面に付着することによるエネルギーロスを防止すると共に、ドレンの水と熱回収によるエネルギーコストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ボイラ設備のフロー図である。
図2】実施例の結果を示すグラフである。
図3】実施例の結果を示すグラフである。
図4】実施例の結果を示すグラフである。
図5】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述の通り、ドレン中に含まれる金属濃度(金属酸化物及び金属イオンの全ての形態を含む)と濁度との間に正の相関がある。例えば、後述の実施例の通り、ドレンの濁度と、鉄、銅、亜鉛の各濃度との間に正の相関関係がある。特に、ドレン中に多く含まれる鉄濃度と濁度との間には強い相関関係がある。また、鉄、銅及び亜鉛の合計濃度と濁度との間にも強い相関関係がある。具体的には、濃度Yと濁度Xとの間には、Y=α・X(α:定数)の関係がある。
【0026】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、本発明の一態様では、ドレンを回収するボイラ等の蒸気発生設備において、ドレンの濁度を測定し、濁度に応じて蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する、あるいはドレンの水質改善を行う、ドレン回収の可否を判断する等の対応を行う。
【0027】
ドレンの濁度測定値に基づいて対応する場合には、例えば、ドレンの濁度が50以下ならドレン回収を実施し、濁度50超、例えば51以上なら廃棄または水質を改善し回収する。
【0028】
本発明の別の一態様では、ドレンの濁度と金属濃度の正の相関の近似式(相関式)よりドレン中の金属濃度を求め、その金属濃度に応じてスケール防止剤を添加する、あるいはドレンの水質改善を行う、ドレン回収の可否を判断する等の対応を行う。
【0029】
本発明において、濁度の測定装置は、ドレン中の濁度を判定することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、JIS K0101:2017に規定されている透過光濁度、散乱光濁度、積分球濁度の試験等を採用することができる。
【0030】
本発明において、水質改善する場合は、ドレン回収ラインに水質改善装置を設けるか、あるいは原水槽へ戻し水質改善処理してもよい。水質改善のための装置としては、金属酸化物や金属イオンを除去する装置が好適に用いられる。この装置としては、例えば、イオン交換樹脂や中空糸膜、RO膜、濾材、糸巻きフィルター、金属フィルターのいずれか、または組み合わせたものが用いられる。
【0031】
本発明で用いられるスケール防止剤としては、ポリメタクリル酸及び/又はその塩、ポリアクリル酸及び/又はその塩、ポリマレイン酸及び/又はその塩、ポリイタコン酸及び/又はその塩、又はこれらホモポリマーを構成するモノマー成分の少なくとも2種を共重合してなるコポリマーやタポリマー等が挙げられる。
【0032】
また、前記ホモポリマーを構成するモノマー成分(アクリル酸(AA)、マレイン酸(MA)等)の少なくとも1種と3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム(HAPS)又は2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS)とのコポリマー(AA-HAPS、AA-AMPS等)、ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスフィン酸及び/又はその塩、セルロースの骨格を構成するグルコピラノースモノマーのヒドロキシ基の一部にカルボキシメチル基を結合させたカルボキシメチルセルロース(CMC)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(以下、HEDPと略称する。)等を用いることもできる。
【0033】
上記のスケール防止剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
これらの中では、当該ボイラ類の水側缶内の鉄スケール防止効果の観点から、ポリアクリル酸及び/又はその塩、ポリメタクリル酸及び/又はその塩などのポリ(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、ポリメタクリル酸及び/又はその塩がより好ましい。ポリアクリル酸及び/又はその塩の重量平均分子量は、例えば0.1万~10万であってよく、0.1万~4万が好ましく、0.1万~2万がより好ましい。ポリメタクリル酸及び/又はその塩の重量平均分子量は、例えば0.1万~10万であってよく、0.1万~5万が好ましく、0.5万~5万がより好ましく、0.5万~2万が特に好ましい。
【0035】
本発明の一態様では、前記スケール防止剤の添加量を、上記相関関係の近似式より求めた金属濃度に基づいて定める。例えば、予め適用する現場で濁度及び鉄、銅、亜鉛の金属濃度(金属酸化物及び金属イオンの全ての形態を含む)を分析し近似式を求め、該近似式からドレン水中の金属濃度を求める。そして、スケール防止剤の添加量を、求めた金属濃度(鉄、銅、亜鉛の金属濃度の合計値)の規定倍量、例えば0.1~20倍量であってよく、好ましくは0.5~10倍量、より好ましくは1~10倍量、さらに好ましくは3~10倍量、特に好ましくは5~10倍量とする。
【0036】
なお、濁度と金属濃度との関係をモニタリングして、近似式を更新するのが好ましい。
【0037】
前記スケール防止をより効果的に実施するには、ドレンの濁度に応じた回収制御を行うことが好ましい。例えば、工場の休み期間明けのボイラの立ち上がり時のドレン配管から溶出した金属による汚れが酷い場合を想定する。この場合、濁度に閾値を設けてドレンの回収可否を設定する。ドレンの濁度が50以下なら前記のドレン回収を実施し、濁度が51以上なら廃棄または水質を改善してから回収する。水質を改善する場合は、水質改善装置へ通して処理するか、あるいは原水槽へ戻し処理してもよい。
【0038】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、スケール防止剤以外に、アルカリ剤や脱酸素剤、防食剤、復水処理剤等の従来のボイラのスケール防止剤や防食剤に用いられている添加剤成分を、必要に応じて添加含有させてもよい。例えば、脱酸素剤や復水処理剤を添加することにより、蒸気発生設備における蒸気およびドレン配管での防食効果が高まり、ドレン水中の金属濃度を抑制することができる。
【0039】
本発明では、ドレンの濁度、水温、流量、ボイラ補給水及び/又は給水の水温、流量を連続測定し、web上でモニタリングしてもよい。また、これらの各情報からドレンの回収率と、燃料削減効果およびCO削減効果、節水効果を試算し、各工場から収集されたデータを工場の規模や、業種別で任意に比較できるよう、web上でベンチマーク表示してもよい。
【0040】
本発明が適用されるボイラ設備の一例を図1に示す。
【0041】
ボイラ給水の原水は、原水槽1、除鉄装置2及び軟化器3を経て軟水となり、給水タンク4に導入される。給水タンク4内の水は、脱気器5から給水配管6を介してボイラ7に給水される。給水配管6には、スケール防止剤の薬注装置19が設けられている。
【0042】
ボイラ7で生じた蒸気は、蒸気ヘッダー8を経て蒸気使用設備9に供給される。蒸気使用設備9で生じたドレンは、配管10に流出する。配管10は、切替弁11を介して配管12,13,14に分岐している。配管12は給水タンク4に連なっている。配管13は水質改善装置15に連なっており、水質改善装置15からの水は給水タンク4に導入される。配管14は原水槽1に連なっている。
【0043】
配管10には、温度計21、流量計22、濁度計23が設けられている。これらの検出信号は、制御装置24に入力される。制御装置24は、濁度や、近似式から求められる金属濃度に基づいて切替弁11と、スケール防止剤の薬注装置19とを制御する。
【0044】
制御装置24による切替弁11や薬注装置19の制御内容は前述の通りである。
【0045】
例えば、ドレンの濁度が所定値a以下であれば、ドレンを給水タンク4に送水し、a以上b(a<b)以下の場合は、ドレンを水質回収装置15に送水し、b超の場合は原水槽1に送水する。また、濁度に応じて、薬注装置19からの薬注量(例えば薬注ポンプ回転数)を制御する。
【0046】
同様に、ドレンの濁度から求めた金属濃度が所定値c以下であれば、ドレンを給水タンク4に送水し、c以上d(c<d)以下の場合は、ドレンを水質回収装置15に送水し、d超の場合は原水槽1に送水する。また、濁度から求めた金属濃度に応じて、薬注装置19からの薬注量を制御する。
【実施例0047】
[実験例1]
軟水給水で低圧の小型貫流ボイラを使用している工場で、ドレン水を連続的に採水し、鉄濃度と濁度の分析を行い、相関性があるかを検証した。
<実験条件>
軟水給水:Mアルカリ度30mg as CaCO/L
ボイラ圧力:0.6MPa
蒸気ドレン流量:5L/min
蒸気配管及びドレン配管の材質:鋼材が使用され、銅や亜鉛材質は使用していない。
蒸気使用設備の材質:鋼材のみ
採水タイミング:ボイラ運転停止後2日間後にボイラを立ち上げ、給水タンクへ延び
るドレン回収配管からドレン水が出始めた時から、2分置きにドレ
ン水を採水した。
鉄濃度:ドレン水中の鉄酸化物及び鉄イオンの全てを含む鉄濃度を分析した。採水し
たドレン水中には酸化鉄および鉄イオンが含まれるため、採水したドレン水
に塩酸を加え加熱し、必要に応じて希釈し、前処理した後、フレーム原子吸
光法で分析した。
濁度:透過光式の濁度計を用いて分析した。
ドレン水の検体数:60検体
【0048】
<結果・考察>
濁度と鉄濃度(酸化鉄及び鉄イオンを含む全ての鉄濃度。以下、同様)との関係を図2に示す。
【0049】
図2の通り、濁度0.1~501、鉄濃度0.01~135mg/Lの範囲において、濁度と鉄濃度に正の相関性があることが確認された。
近似値Y(鉄濃度)=0.2469X(濁度)、相関係数R=0.9592
【0050】
また、濁度及び鉄濃度の経時変化を図3に示す。図3から、ボイラ立ち上げ直後は、ドレン水中の濁度及び鉄濃度が急上昇し、時間の経過とともに徐々に低下することが確認された。この結果より、ボイラの稼働とドレン回収のタイミングによっては鉄の汚れが多い時間帯もあるため、ボイラ内へのスケール防止の観点で対策が必要となることが分かった。
【0051】
[実験例2]
軟水給水で低圧の小型貫流ボイラを使用している別の各工場で、ドレンを複数回採水し、各金属濃度と濁度の分析を行い、相関性があるかを検証した。
<実験条件>
軟水給水:Mアルカリ度10~60mg as CaCO/L
ボイラ圧力:0.7MPa
蒸気ドレン流量:100L/min
蒸気配管及びドレン配管の材質:鋼材がメインに使用され、一部に亜鉛材質を使用
蒸気使用設備の材質:鋼材及び銅材質
採水タイミング:1工場につき1時間置きに5回の採水を行った。
金属濃度:ドレン水中の各金属酸化物及び各金属イオンの全てを含む金属濃度を分析
した。採水したドレン水に塩酸を加え加熱し、必要に応じて希釈し、前処
理した後、フレーム原子吸光法で分析した。
濁度:透過光式の濁度計を用いて分析した。
工場数:14工場
ドレン水の検体数:70検体
【0052】
<結果・考察>
結果を図4,5及び表1に示す。図4および表1より、金属単体で見ると濁度と鉄の相関性が最も高く、次に濁度と銅との相関性がよく、濁度と亜鉛との相関性が最も低かった。
【0053】
また、図4,5及び表1より、濁度は、それぞれの金属単体の濃度との相関性よりも、合計の金属濃度との相関性の方が高いことが分かった。
【0054】
【表1】
【0055】
[比較例1~13、実施例1~17]
<概要>
軟水給水で低圧の小型貫流ボイラを備えた図1の構成のボイラ設備(ただし、ボイラは2台並列に設置されている。)を用いて、スケール防止剤を添加しない場合(比較例1)、スケール防止剤を常に一定量薬注した場合(比較例2~13)、及びドレン水の濁度を連続測定し、その値に応じてスケール防止剤を薬注制御した場合(実施例1~17)のスケール防止効果を判定した。
【0056】
ドレン水中の鉄、銅、亜鉛濃度の値は、実機を模擬してドレン回収直後に急上昇し、1時間後に通常濃度まで下がるように水質を調整した。
【0057】
スケール防止の効果の判定には、スラッジリカバリーバランス(SRB)を用いた。SRBとはボイラの給水中の金属がボイラのブロー水中にどれだけ排出されたかを示す指標であり、数値が高いほどスケール防止の観点で良いと判断される。表2の平均SRB%は、5回の採水の値をそれぞれ下記SRB%の式から求め、それらの平均値を算出した。
【0058】
<実験条件>
軟水給水:Mアルカリ度30mg as CaCO/L、シリカ15mg/L、硬度1mg as CaCO/L未満
ボイラ圧力:0.6MPa
ボイラ給水量:250L/h-ボイラ1台
ドレン回収率:99%
ボイラ濃縮倍数:10倍
蒸気使用設備の材質:ステンレス材質を使用し、ドレン水を汚さないようにした。
採水タイミング:金属濃度測定のため、ドレン回収後から15分置きに5回、給水及
びボイラ水の採水を行った。
金属濃度:ドレン水中の各金属酸化物及び各金属イオンの全てを含む金属濃度を分析
した。採水したドレン水に塩酸を加え加熱し、必要に応じて希釈し、前処
理した後、フレーム原子吸光法で分析した。
濁度:透過光式の濁度計を用いてドレン水の濁度を連続測定した。
各金属濃度の調整:鉄濃度の調整は酸化鉄および塩化鉄を用いた。銅濃度の調整は、
酸化銅および塩化銅を用いた。亜鉛濃度の調整は、塩化亜鉛を用
いた。
ドレン水の鉄濃度:0.05~15mg/Lの範囲で調整した。15mg/Lから薬
注をスタートし、5分間毎に1.25mg/L低下するように調
整した。
ドレン水の銅濃度:0.01~2.0mg/Lの範囲で調整した。2.0mg/Lか
ら薬注をスタートし、5分間毎に0.17mg/L低下するよう
に調整した。
ドレン水の亜鉛濃度:0.01~1.0mg/Lの範囲で調整した。1.0mg/L
から薬注をスタートし、5分間毎に0.08mg/L低下する
ように調整した。
スケール防止剤:表2に示すものを用いた。
スケール防止剤の添加量:比較例では濁度に関係なく各スケール防止剤を5mg/L
一定量で連続注入した。一方、実施例では連続測定した濁
度の値から[実施例2]の近似式(y=0.3375x、
yは金属濃度、xは濁度)より求めた金属濃度の0.5~
10倍量を表のとおり添加した。
SRB%:SRB%={ボイラ金属濃度/(給水金属濃度×濃縮倍数)}×100
ボイラ水のpH調整剤:NaOHおよびKOHにてボイラ水のpHが11.5となる
ように調整した。
【0059】
<結果・考察>
結果を表2に示す。表2から、濁度の値から求めた金属濃度に応じてスケール防止剤を添加した場合に、高い金属スケール防止効果が得られることが認められた。特に、スケール防止剤として重量平均分子量が0.5万~5万のポリメタクリル酸ナトリウムを用い、かつその添加量が金属濃度の0.5~10倍量の場合に、優れた金属スケール防止効果があることが認められた。
【0060】
また、ドレン回収率の変化や停止期間明けのドレンの回収によりドレン水中の金属濃度が変化し、高濃度の金属がボイラへ給水される場合でも、濁度を連続監視することでドレン中の金属濃度を想定し、その濃度に応じたスケール防止剤を添加することで優れた金属スケール防止効果を発揮し、ドレンを回収することができる。
【0061】
【表2】
【0062】
表2中の記号は次のとおりである。
PAA:ポリアクリル酸ナトリウム
PMA:ポリメタクリル酸ナトリウム
AA-HAPS:アクリル酸-3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム
AA-AMPS:アクリル酸-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム
CMC:カルボキシメチルセルロース
HEDP:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸
【符号の説明】
【0063】
1 原水槽
4 給水タンク
7 ボイラ
11 切替弁
15 水質改善装置
19 薬注装置
21 温度計
22 流量計
23 濁度計
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度とドレン中の鉄、銅及び亜鉛のうち少なくとも1種の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式より該ドレン中の金属濃度を求め、この金属濃度に基づいて該蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法であって、
前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩であり、濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度に対するスケール防止剤の添加量を0.5~10倍量とし、
濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度が所定値cよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、金属濃度が所定範囲c~d(ただし、d>c)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【請求項2】
前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する請求項1の蒸気復水の回収方法。
【請求項3】
前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備に供給される原水を貯める原水槽を備えており、
前記金属濃度が前記dよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する請求項1の蒸気復水の回収方法。
【請求項4】
前記水質改善装置は、金属酸化物又は金属イオンを除去する装置である請求項1~3のいずれかの蒸気復水の回収方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0045
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0045】
例えば、ドレンの濁度が所定値a以下であれば、ドレンを給水タンク4に送水し、a以上b(a<b)以下の場合は、ドレンを水質改善装置15に送水し、b超の場合は原水槽1に送水する。また、濁度に応じて、薬注装置19からの薬注量(例えば薬注ポンプ回転数)を制御する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
同様に、ドレンの濁度から求めた金属濃度が所定値c以下であれば、ドレンを給水タンク4に送水し、c以上d(c<d)以下の場合は、ドレンを水質改善装置15に送水し、d超の場合は原水槽1に送水する。また、濁度から求めた金属濃度に応じて、薬注装置19からの薬注量を制御する。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレンを回収する蒸気発生設備において、ドレンの濁度とドレン中の鉄、銅及び亜鉛の合計の金属濃度との正の相関の近似式を求めておき、
濁度測定値と該近似式より該ドレン中の鉄、銅及び亜鉛の合計の金属濃度を求め、この金属濃度に基づいて該蒸気発生設備への給水にスケール防止剤を添加する蒸気復水の回収方法であって、
前記スケール防止剤が、重量平均分子量0.1万~10万のポリメタクリル酸塩であり、濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度に対するスケール防止剤の添加量を0.5~10倍量とし、
濁度測定値と前記近似式とから求めた金属濃度が所定値cよりも低い場合にドレンをそのまま回収し、金属濃度が所定範囲c~d(ただし、d>c)の場合に、ドレンを水質改善装置で水質改善してから回収する蒸気復水の回収方法。
【請求項2】
前記蒸気発生設備は、原水を軟化処理した軟化水を貯める給水タンクを備えており、前記ドレンを該給水タンクに回収する請求項1の蒸気復水の回収方法。
【請求項3】
前記蒸気発生設備は、蒸気発生設備に供給される原水を貯める原水槽を備えており、
前記金属濃度が前記dよりも高い場合に、ドレンを該原水槽に回収する請求項1の蒸気復水の回収方法。
【請求項4】
前記水質改善装置は、金属酸化物又は金属イオンを除去する装置である請求項1~3のいずれかの蒸気復水の回収方法。