(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174369
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】圧力分布計測システム、圧力分布計測方法、圧力分布計測プログラム、及び差動増幅計測の測定回路
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20231130BHJP
G01L 1/16 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
G01L5/00 101Z
G01L1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087189
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宇史
(72)【発明者】
【氏名】横山 諒伍
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB08
(57)【要約】
【課題】圧電体に対して電圧の測定箇所が複数配置されているマトリックスセンサであって、かつ複数の測定箇所において電極が共通化されているマトリックスセンサを用いる場合に、複数の測定箇所において観測された電気信号から実際の圧力分布を推定する。
【解決手段】圧力分布計測装置は、マトリックスセンサの測定箇所の識別番号i,jの各々についての、複数の測定箇所において観測された測定信号y
iと、測定信号y
iに対する真の信号x
iと、測定信号y
jに対する真の信号x
jと、測定信号y
iと前記真の信号x
i,x
jとの誤差を表す変数t
iとの間の制約式を満たしつつ、誤差を表す変数t
iの総和が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定信号y
iの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号x
iの各々を計算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
第1方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の上部に配置される複数の上部電極と、
第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の下部に配置される複数の下部電極と、
を含むマトリックスセンサと、
圧力分布計測装置と、
を備える圧力分布計測システムであって、
前記圧力分布計測装置は、
複数の上部電極と複数の下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、上部電極から出力された信号と下部電極から出力された信号の差分を表す測定信号の各々を取得し、
対象となる測定箇所の各々について、
対象となる測定箇所において測定された前記測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の上部電極が配置されている測定箇所において測定された前記測定信号との間の差の総和である第1の値を計算し、
対象となる測定箇所において測定された前記測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の下部電極が配置されている測定箇所において測定された前記測定信号との間の差の総和である第2の値を計算し、
第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合には、測定箇所を加圧点として判定し、
第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が2つ以上である場合には、
測定箇所の識別番号i,jの各々についての、複数の測定箇所において観測された測定信号y
iと、測定信号y
iに対する真の信号x
iと、測定信号y
jに対する真の信号x
jと、測定信号y
iと前記真の信号x
i,x
jとの誤差を表す変数t
iとの間の以下の制約式(1A)を満たしつつ、前記誤差を表す変数t
iの総和を表す式(2A)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定信号y
iの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号x
iの各々を計算する、
圧力分布計測システム。
【数1】
(1A)
(2A)
【請求項2】
第1圧電体と、
第2圧電体と、
第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の上部に配置される複数の第1上部電極と、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の下部に配置される複数の第1下部電極と、
第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の上部に配置される複数の第2上部電極と、
第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の下部に配置される複数の第2下部電極と、
第1圧電体における複数の第1下部電極と第2圧電体における複数の第2上部電極との間に配置される絶縁層と、
を含むマトリックスセンサと、
圧力分布計測装置と、
を備える圧力分布計測システムであって、
圧力分布計測装置は、
複数の第1上部電極と複数の第2下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、第1上部電極から出力された第1測定信号と第2下部電極から出力された第2測定信号とを取得し、
対象となる測定箇所の各々について、
測定箇所の識別番号i,jの各々についての、第1測定信号y
iと、複数の測定箇所に対する重みw
ijと、第2測定信号y
jと、第1測定信号y
iを第2測定信号x
jと重みw
ijとの重み付け和によって表す際の誤差を表す変数t
iに関する以下の制約式(1B)を満たしつつ、前記誤差を表す変数t
iの総和を表す式(2B)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号x
iを計算する、
圧力分布計測システム。
【数2】
(1B)
(2B)
【請求項3】
前記下部電極は接地されている、
請求項1に記載の圧力分布計測システム。
【請求項4】
前記第1下部電極及び前記第2上部電極は接地されている、
請求項2に記載の圧力分布計測システム。
【請求項5】
前記圧電体は、有機圧電体である、
請求項1に記載の圧力分布計測システム。
【請求項6】
前記第1圧電体及び前記第2圧電体は、有機圧電体である、
請求項2に記載の圧力分布計測システム。
【請求項7】
前記圧力分布計測システムは、歯の咬合力分布計測に用いられる、
請求項5又は請求項6に記載の圧力分布計測システム。
【請求項8】
請求項1に記載の圧力分布計測システムにおいて利用される差動増幅計測の測定回路であって、
前記マトリックスセンサにおける、上部電極と下部電極との間の差分を表す測定信号を出力する、
差動増幅計測の測定回路。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1又は請求項2に記載の圧力分布計測装置として機能させるための圧力分布計測プログラム。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載の圧力分布計測装置が実行する各処理をコンピュータが実行する圧力分布計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力分布計測システム、圧力分布計測方法、圧力分布計測プログラム、及び差動増幅計測の測定回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電センサ内で位置検出と荷重検出ができる圧電センサが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この圧電センサは、圧電層が上部電極と下部電極に挟まれた圧電センサであって、上部電極が、一の方向に延在する第1パターン電極を複数備え、下部電極が、一の方向と交差する他の方向に延在する第2パターン電極を複数備える圧電センサとなるように構成し、発生電荷量から荷重を計測し、電荷発生した電極から位置を特定する。
【0003】
また、クロストークを確実に防止できる音響波集束体および音響インクジェット記録装置が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2には、音響波集束体において、固定基板の音響フレネルレンズと反対側の絶縁性部材の表面には、縦方向に直列で繋がれた複数の駆動電極と、横方向に直列で繋がれた複数の対向電極とが交差する部位に圧電体が挟持される構成とする旨が開示されている。
【0004】
また、高分子圧電体の上部および下部にそれぞれ電極を設け、高分子圧電体が応力を受けることにより発生した電極間の圧電気を計測し、咬合力を測定する咬合圧測定装置が知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0005】
また、体動変化を計測する第二センサ部からの体動信号及び/又は皮膚間の押圧変化を計測する第三センサ部からの圧力信号に基づいて、生体情動を観測信号として計測する第一センサ部からの観測信号に含まれる体動ノイズを減算した誤差信号を算出するノイズ低減処理部を備える生体情報処理装置が知られている(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-235133号公報
【特許文献2】特開2002-210950号公報
【特許文献3】特開昭57-168635号公報
【特許文献4】特開2020-10803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
面状の圧電体に対して複数の電極を配置し、その圧電体のどの位置に力が発生しているのかを検知する圧力分布計測システムについて考える。この場合、面状の圧電体において発生した電圧を測定する複数の測定箇所と複数の電極との接続方法として、
図20に示されるような2つのパターンが存在する。
【0008】
図20に示される円は1つの測定箇所を表し、線は電気信号が伝搬する電極を表す。
図20の左側に示される図は、1つの測定箇所に対して1つの電極を接続させるパターンである(以下、単にアイランド方式と称する)。
図20の右側に示される図は、複数の測定箇所において電極を共有するパターンである(以下、単にマトリックス方式と称する)。
【0009】
図20のアイランド方式の配線パターンでは、面状の圧電体における1つの測定箇所において圧電体の上部と下部とに電極を接続する必要がある。このため、測定箇所がn×m個である場合には、2(n×m)の配線数が必要になる。
【0010】
一方、
図20のマトリックス方式の配線パターンでは、例えば、圧電体の縦方向の配線が圧電体の上面の複数の測定箇所において共有される形で配置され、圧電体の横方向の配線が圧電体の下面の複数の測定箇所において共有される形で配置される。
図20に示される例では、縦方向の配線ch_y0,ch_y1,ch_y2,ch_y3が圧電体の上面の複数の測定箇所において共有される形で配置され、横方向の配線ch_x0,ch_x1,ch_x2,ch_x3が圧電体の下面の複数の測定箇所において共有される形で配置される。このため、
図20のマトリックス方式の配線パターンでは、測定箇所がn×m個であっても、n+mの配線数で済む。アイランド方式よりもマトリックス方式の方が電極の配線が簡素化されるため、その応用先は広くなるものと想定される。
【0011】
しかし、アイランド方式を採用した場合、例えば、
図21に示される位置に圧力「Press」が発生すると、その位置の測定箇所において電圧が検知されるのみならず、電極ch_x0及び電極ch_y1を共有している他の測定箇所においても電圧が検知される。このように、複数の測定箇所において電極が共通化されていることにより、圧力が発生した箇所以外の測定箇所においても電気信号が発生することは「クロストーク」とも称される。
【0012】
このため、
図20に示されるマトリックス方式が採用されたマトリックスセンサにおいては、上述したようなクロストークが発生するため圧力が発生した位置を精度良く検知することができない、という課題が存在する。
【0013】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、圧電体に対して電圧の測定箇所が複数配置されているマトリックスセンサであって、かつ複数の測定箇所において電極が共通化されているマトリックスセンサを用いる場合に、複数の測定箇所において観測された電気信号から実際の圧力分布を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の第一態様は、圧電体と、第1方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の上部に配置される複数の上部電極と、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の下部に配置される複数の下部電極と、を含むマトリックスセンサと、圧力分布計測装置と、を備える圧力分布計測システムであって、前記圧力分布計測装置は、複数の上部電極と複数の下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、上部電極から出力された信号と下部電極から出力された信号の差分を表す測定信号の各々を取得し、対象となる測定箇所の各々について、対象となる測定箇所において測定された前記測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の上部電極が配置されている測定箇所において測定された前記測定信号との間の差の総和である第1の値を計算し、対象となる測定箇所において測定された前記測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の下部電極が配置されている測定箇所において測定された前記測定信号との間の差の総和である第2の値を計算し、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合には、測定箇所を加圧点として判定し、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が2つ以上である場合には、測定箇所の識別番号i,jの各々についての、複数の測定箇所において観測された測定信号yiと、測定信号yiに対する真の信号xiと、測定信号yjに対する真の信号xjと、測定信号yiと前記真の信号xi,xjとの誤差を表す変数tiとの間の以下の制約式(1A)を満たしつつ、前記誤差を表す変数tiの総和を表す式(2A)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定信号yiの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号xiの各々を計算する、圧力分布計測システムである。
【0015】
【0016】
本開示の第二態様は、第1圧電体と、第2圧電体と、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の上部に配置される複数の第1上部電極と、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の下部に配置される複数の第1下部電極と、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の上部に配置される複数の第2上部電極と、第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の下部に配置される複数の第2下部電極と、第1圧電体における複数の第1下部電極と第2圧電体における複数の第2上部電極との間に配置される絶縁層と、を含むマトリックスセンサと、圧力分布計測装置と、を備える圧力分布計測システムであって、圧力分布計測装置は、複数の第1上部電極と複数の第2下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、第1上部電極から出力された第1測定信号と第2下部電極から出力された第2測定信号とを取得し、対象となる測定箇所の各々について、測定箇所の識別番号i,jの各々についての、第1測定信号yiと、複数の測定箇所に対する重みwijと、第2測定信号yjと、第1測定信号yiを第2測定信号xjと重みwijとの重み付け和によって表す際の誤差を表す変数tiに関する以下の制約式(1B)を満たしつつ、前記誤差を表す変数tiの総和を表す式(2B)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号xiを計算する、圧力分布計測システムである。
【0017】
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、圧電体に対して電圧の測定箇所が複数配置されているマトリックスセンサであって、かつ複数の測定箇所において電極が共通化されているマトリックスセンサを用いる場合に、複数の測定箇所において観測された電気信号から実際の圧力分布を推定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る圧力分布計測システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態のマトリックスセンサを説明するための図である。
【
図3】シングルエンド計測の測定回路の具体的な模式図である。
【
図4】差動増幅計測の測定回路の具体的な模式図である。
【
図5】実験用のマトリックスセンサの模式図である。
【
図6】シングルエンド計測の測定回路を利用した際の測定信号の図である。
【
図7】差動増幅計測の測定回路を利用した際の測定信号の図である。
【
図8】差動増幅計測の原理を説明するための図である。
【
図9】圧電体に対して2つの加圧点がある場合の模式図である。
【
図10】各測定箇所における測定信号の一覧を示す図である。
【
図11】実施形態に係る圧力分布計測装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図12】実施形態に係る圧力分布計測処理ルーチンの一例である。
【
図13】第2実施形態に係る圧力分布計測システムの概略構成を示す図である。
【
図14】第2実施形態のマトリックスセンサの模式図である。
【
図15】第2実施形態のマトリックスセンサの模式図である。
【
図16】第2実施形態のマトリックスセンサを用いた場合の測定信号を説明するための図である。
【
図17】第2実施形態に係る圧力分布計測処理ルーチンの一例である。
【
図18】実施例において製造した圧力分布計測システムである。
【
図20】マトリックスセンサの方式を説明するための図である。
【
図21】マトリックスセンサの方式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0021】
(第1実施形態の圧力分布計測システム10)
図1は、第1実施形態に係る圧力分布計測システム10の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の圧力分布計測システム10は、マトリックスセンサ12と、測定回路14と、圧力分布計測装置16とを備えている。
【0022】
第1実施形態の圧力分布計測システム10は、マトリックスセンサ12として単層マトリックスセンサを利用する。以下、具体的に説明する。
【0023】
図2に、第1実施形態のマトリックスセンサ12を説明するための図を示す。なお、
図2には、マトリックスセンサ12の一部分のみが図示されている。
図2に示されるように、マトリックスセンサ12は、圧電体18と、複数の上部電極20A,20B,20Cと、複数の下部電極22A,22Bとを備えている。なお、以下では特定の電極を指し示す以外は、単に「上部電極20」「下部電極22」と称する。
【0024】
圧電体18は、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の有機圧電体である。圧電体18に対して力が加わると、その力に応じた電荷が圧電体18の表面に発生し、力が加わった箇所において電圧が生じる。
【0025】
図2に示されるように、複数の上部電極20A,20B,20Cは、第1方向へ延びるように配置され、かつ圧電体18の上部に配置される。また、
図2に示されるように、複数の下部電極22A,22Bは、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ圧電体18の下部に配置される。
【0026】
複数の上部電極20A,20B,20Cと複数の下部電極22A,22Bとが交差する位置に相当する電圧の測定箇所S0,0,S0,1,S1,0,S1,1,S2,0,S2,1各々が、1つのセンサ素子として機能する。なお、以下では、複数の上部電極20A,20B,20Cと複数の下部電極22A,22Bとが交差する位置に相当する箇所を単に「測定箇所」と称する。
【0027】
図2に示されるようなマトリックスセンサ12では、上部電極20及び下部電極22が共通化されており、圧電体18が1つであるためクロストークが発生する。
【0028】
そこで、第1実施形態の圧力分布計測システム10は、
図2に示されるような単層のマトリックスセンサ12において測定された測定信号の各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号を計算する。これにより、クロストークが発生するマトリックスセンサを用いる場合であっても、クロストークが除去された実際の圧力分布を推定することができる。
【0029】
測定回路14は、上部電極20から出力された信号と下部電極22から出力された信号との間の差分を表す測定信号を出力する。
【0030】
図3に、シングルエンド計測の測定回路14Aの具体的な模式図を示す。
【0031】
図3に示されているように、シングルエンド計測の測定回路14は、マルチプレクサ26と、チャージアンプ回路28と、Twin-T回路30と、アナログデジタル変換器であるA/Dコンバーター32とを備えている。
【0032】
マルチプレクサ26は、複数の下部電極22A,22Bから出力された信号を切り替えて検知する。具体的には、マルチプレクサ26は、出力端子ch_y0,ch_y1,ch_y2を切り替えるようにスイッチング動作をする。
【0033】
チャージアンプ回路28は、抵抗R、キャパシタC、及びオペアンプOPを備えている。チャージアンプ回路28は、電荷応答を電圧応答に変換する。
【0034】
Twin-T回路30は、特定の周波数の信号を取り除くノッチ・フィルター回路の一種である。
【0035】
A/Dコンバーター32は、アナログ信号である入力信号をデジタル信号へと変換する。A/Dコンバーター32から出力されたデジタル信号は、圧力分布計測装置16へ入力される。
【0036】
なお、測定回路14は、
図3に示されるようなシングルエンド計測型のみならず、差動増幅計測型の方式が採用されてもよい。
図4に、差動増幅計測の測定回路14の具体的な模式図を示す。
図4に示されるように、差動増幅計測の測定回路14Bは、複数の上部電極20A,20B,20Cから出力された信号を受け付けるチャージアンプ回路28Aと共に、複数の下部電極22A,22Bから出力された信号を受け付けるチャージアンプ回路28Bを更に備えている。更に、
図4に示されるように、差動増幅計測の測定回路14Bは、上部電極20から出力された信号と下部電極22から出力された信号の差分を増幅させる差動増幅回路28Cを更に備えている。
【0037】
ここで、シングルエンド計測の測定回路14Aと、差動増幅計測の測定回路14Bとの差異について説明する。
【0038】
図5に示される実験用のマトリックスセンサの模式図において、図示される測定箇所に圧力「Press」が発生した場合を考える。この場合、
図5に示されているように、ch_y0の下部電極から出力された信号は、接地(
図5では「Grand」)されるか又は差動増幅回路へ入力される(
図5では「Differential」)。
【0039】
図5のch_y0の下部電極から出力された信号が接地(
図5では「Grand」)されることは、シングルエンド計測の測定回路14Aを利用することに相当する。一方、
図5のch_y0の下部電極から出力された信号が差動増幅回路へ入力される(
図5では「Differential」)ことは、差動増幅計測の測定回路14Bを利用することに相当する。
【0040】
図6は、シングルエンド計測の測定回路14Aを利用した際のch_x0の測定信号と、ch_x1の測定信号との図である。
図6の縦軸は電荷量を表し、横軸は時刻を表す。
図6に示されているように、加圧点であるch_x0において測定信号が検知されているとともに、加圧点ではないch_x1においても測定信号が検知されている。加圧点ではないch_x1において検知されている測定信号は、圧電体18のたわみ等によって検知されているものと推定される。
【0041】
図7は、差動増幅計測の測定回路14Bを利用した際のch_x0の測定信号と、ch_x1の測定信号との図である。差動増幅計測の測定回路14Bを利用した際の測定信号は、上部電極20から出力された信号と下部電極22から出力された信号との間の差分を増幅させることにより得られた信号である。このため、
図7の上側の図に示されているように、ch_x1においても正の測定信号が検知されている。
図7の下側の図は、ch_x0の測定信号とch_x1の測定信号との比(Signal Ratio)である。
図7の下側の図に示されているように、ch_x0の測定信号とch_x1の測定信号とを比較すると、おおむね1:2の比率になっていることが分かる。
【0042】
図8に、この原理を説明するための図を示す。
図8に示されているように、矢印の箇所に加圧がなされると、その測定箇所に対応する圧電体18の上面に+Qの電荷が発生し、圧電体18の下面に-Qの電荷が発生する。また、この+Qの電荷は上部電極であるch_x0から出力される信号となり、-Qの電荷は下部電極であるch_y0から出力される信号となる。
【0043】
ここで、加圧点に相当する測定箇所S0,0においては、圧電体18の上面に+Qの電荷が発生し、圧電体18の下面に-Qの電荷が発生する。このため、上部電極であるch_x0から出力される信号と下部電極であるch_y0から出力される信号との間の差分を表す測定信号は、2Qの電荷に相当する。
【0044】
一方で、例えば、その他の測定箇所S1,0においては、上部電極であるch_x1から出力される信号(電荷0)と下部電極であるch_y0から出力される信号(電荷-Q)との間の差分を表す測定信号はQの電荷に相当する。
【0045】
また、例えば、測定箇所S0,1においては、上部電極であるch_x1から出力される信号(電荷+Q)と下部電極であるch_y0から出力される信号(電荷0)との間の差分を表す測定信号はQの電荷に相当する。
【0046】
このため、加圧点の測定箇所における測定信号と、加圧点以外の測定箇所における測定信号との比は原理的にも2:1であるということがいえる。
【0047】
次に、圧電体18に対して2つの加圧点がある場合について説明する。
図9に、圧電体18に対して2つの加圧点F1,F2がある場合の模式図を示す。
図10に、
図9の2つの加圧点F1,F2がある場合の、各測定箇所における測定信号の一覧を示す。
【0048】
図10の最上段のグラフが測定箇所S
0,0における測定信号を表し、2段目のグラフが測定箇所S
0,1における測定信号を表し、3段目のグラフが測定箇所S
0,2における測定信号を表し、4段目のグラフが測定箇所S
0,3における測定信号を表す。
【0049】
図10に示されているように、加圧点に相当する測定箇所S
0,0,S
0,3においては、他の測定箇所S
0,1,S
0,2よりも高い測定信号が得られていることがわかる。
【0050】
加圧点に相当する測定箇所において測定される測定信号と、加圧点以外の測定箇所において測定される測定信号との関係を考慮すると、以下の式(A)が成立する。
【0051】
【0052】
なお、上記式(A)におけるyiは測定箇所iにおいて観測された測定信号を表し、xiは、測定箇所iにおける真の信号を表し、xjは測定箇所jにおける真の信号を表す。
【0053】
上記式(A)は、測定箇所iにおいて観測された測定信号yiは、その測定箇所iにおける真の信号xiと、その測定箇所iとは異なる複数の測定箇所jにおける真の信号xjに対して1/2を乗じた値の総和との和に相当する。これは、上述したように、加圧点の測定箇所における測定信号と、加圧点以外の測定箇所における測定信号との比は2:1になるということから導かれる。
【0054】
具体的には、測定箇所iにおいて実際に測定された測定信号をyi、クロストークが除かれた真の信号xiとした場合、各測定箇所の測定信号yは、その測定箇所の真の信号xとその他の信号によるクロストークの合成波であると考えられる。
【0055】
また、上述したように、差動増幅計測の測定回路14Bを用いることより、加圧点の測定箇所における測定信号と加圧点以外の測定箇所における測定信号との比は2:1になるという点が利用可能であり、上記式(A)を利用することができる。このため、単層のマトリックスセンサ12において発生する電圧を測定する際に用いる計測方法は、差動増幅計測が有効であると考えられる。そのため、第1実施形態では、測定回路14として差動増幅計測の測定回路14Bを用いる場合を例に説明する。
【0056】
上述したように、加圧されていない測定箇所からは、加圧されている測定箇所の約半分の大きさの測定信号がクロストークとして出力される。また、
図10にも示されているように、クロストークに相当する測定信号は測定箇所間で類似している。
【0057】
そこで、本実施形態では、測定箇所において測定された測定信号同士の類似度に基づいて、加圧点に相当する測定箇所における真の信号を抽出する。
【0058】
具体的には、まず、対象となる測定箇所を設定する。
【0059】
次に、対象となる測定箇所において測定された測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の上部電極が配置されている測定箇所において測定された測定信号との間の差の総和である第1の値を計算する。なお、測定信号間の差を計算する際には、測定信号の各時刻の値を利用するようにしてもよいし、代表値を利用するようにしてもよい。
【0060】
例えば、
図9に示されている例では、まず、対象となる測定箇所S
0,0で測定された測定信号と、対象となる測定箇所S
0,0と共通の上部電極(ch_x0)が配置されている測定箇所S
0,1,S
0,2,S
0,3において測定された測定信号との間の差を計算する。具体的には、測定箇所S
0,0で測定された測定信号と、測定箇所S
0,1で測定された測定信号との間の差を計算する。次に、測定箇所S
0,0で測定された測定信号と、測定箇所S
0,2で測定された測定信号との間の差を計算する。次に、測定箇所S
0,0で測定された測定信号と、測定箇所S
0,3で測定された測定信号との間の差を計算する。そして、それらの差の総和である第1の値を計算する。
【0061】
次に、対象となる測定箇所において測定された測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の下部電極が配置されている測定箇所において測定された測定信号との間の差の総和である第2の値を計算する。
【0062】
例えば、
図9に示されている例では、まず、対象となる測定箇所S
0,0で測定された測定信号と、対象となる測定箇所S
0,0と共通の下部電極(ch_y0)が配置されている測定箇所S
1,0,S
2,0において測定された測定信号との間の差を計算する。
【0063】
具体的には、測定箇所S0,0で測定された測定信号と、測定箇所S1,0で測定された測定信号との間の差を計算する。次に、測定箇所S0,0で測定された測定信号と、測定箇所S2,0で測定された測定信号との間の差を計算する。そして、それらの差の総和である第2の値を計算する。
【0064】
マトリックスセンサ12の全ての測定箇所を、対象となる測定箇所として設定することを繰り返して上記の処理を繰り返す。
【0065】
そして、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合には、測定箇所を加圧点として判定する。第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合、その測定箇所で得られた測定信号は、その周辺で得られたどの測定信号よりも大きいということになり、その測定箇所にのみ加圧がなされていると推定することができる。
【0066】
一方、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が2つ以上である場合には、線形計画法による最適化処理を実行することにより、クロストークを除いた真の信号を推定する。
【0067】
具体的には、測定箇所の識別番号i,jの各々についての、複数の測定箇所において観測された測定信号yiと、測定信号yiに対する真の信号xiと、測定信号yjに対する真の信号xjと、測定信号yiと真の信号xi,xjとの誤差を表す変数tiとの間の以下の制約式(1A)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2A)が最小化されるように線形計画法を解く。これにより、測定信号yiの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号xiの各々を計算する。
【0068】
【0069】
圧力分布計測装置16は、上述したような処理を実行することにより、マトリックスセンサ12において発生したクロストークを除去し、マトリックスセンサ12において発生した実際の圧力分布を推定する。なお、複数の測定箇所における真の信号が、実際の圧力分布に相当する。
【0070】
図11は、圧力分布計測装置16を構成するコンピュータのハードウェア構成を示すブロック図である。
図11に示されるように、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、ストレージ84、入力部85、表示部86及び通信インタフェース(I/F)87を有する。各構成は、バス89を介して相互に通信可能に接続されている。
【0071】
CPU81は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU81は、ROM82又はストレージ84からプログラムを読み出し、RAM83を作業領域としてプログラムを実行する。CPU81は、ROM82又はストレージ84に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM82又はストレージ84には、入力装置より入力された情報を処理する各種プログラムが格納されている。
【0072】
ROM82は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM83は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ84は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0073】
入力部85は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0074】
表示部86は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部86は、タッチパネル方式を採用して、入力部85として機能しても良い。
【0075】
通信I/F87は、入力装置等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0076】
次に、第1実施形態の圧力分布計測システム10の作用について説明する。
【0077】
マトリックスセンサ12に対して加圧がなされると、測定回路14の差動増幅回路28Cが、複数の上部電極20A,20B,20Cと複数の下部電極22A,22Bとが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、上部電極20から出力された信号と下部電極22から出力された信号の差分を表す測定信号を出力する。そして、圧力分布計測装置16が測定信号を受け付けると、
図12に示す圧力分布計測処理ルーチンを実行する。
【0078】
具体的には、圧力分布計測装置16のCPU81がROM82又はストレージ84からプログラムを読み出して、RAM83に展開して実行することにより、圧力分布計測処理が行なわれる。
【0079】
ステップS50において、圧力分布計測装置16のCPU81は、複数の測定箇所の各々における測定信号の各々を取得する。
【0080】
ステップS52において、圧力分布計測装置16のCPU81は、対象となる測定箇所の各々について第1の値を計算する。
【0081】
ステップS54において、圧力分布計測装置16のCPU81は、対象となる測定箇所の各々について第2の値を計算する。
【0082】
ステップS56において、圧力分布計測装置16のCPU81は、ステップS52で計算された第1の値が正であって、かつステップS54において計算された第2の値が正である測定箇所が2つ以上であるか否かを判定する。第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が2つ以上である場合には、ステップS58へ移行する。第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合には、ステップS59へ移行する。
【0083】
ステップS58において、圧力分布計測装置16のCPU81は、上記制約式(1A)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2A)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定信号yiの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号xiの各々を計算する。なお、この計算処理は、各時刻の測定信号に対して実行される。
【0084】
ステップS59において、圧力分布計測装置16のCPU81は、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所を加圧点であると特定するとともに、その加圧点において測定された測定信号を真の信号とする。また、その他の測定箇所の測定信号はゼロであるとする。
【0085】
ステップS60において、圧力分布計測装置16のCPU81は、ステップS58で計算された真の信号又はステップS59で特定された真の信号を結果として出力する。
【0086】
以上のように、本実施形態の圧力分布計測システムは、圧電体と、第1方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の上部に配置される複数の上部電極と、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ圧電体の下部に配置される複数の下部電極と、を含むマトリックスセンサと、圧力分布計測装置と、を備える。圧力分布計測装置は、複数の上部電極と複数の下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、上部電極から出力された信号と下部電極から出力された信号の差分を表す測定信号の各々を取得する。そして、圧力分布計測装置は、対象となる測定箇所の各々について、対象となる測定箇所において測定された測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の上部電極が配置されている測定箇所において測定された測定信号との間の差の総和である第1の値を計算する。圧力分布計測装置は、対象となる測定箇所の各々について、対象となる測定箇所において測定された測定信号と、対象となる測定箇所とは異なる他の測定箇所であって、かつ対象となる測定箇所と共通の下部電極が配置されている測定箇所において測定された測定信号との間の差の総和である第2の値を計算する。圧力分布計測装置は、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が1つである場合には、当該測定箇所を加圧点として判定する。圧力分布計測装置は、第1の値が正であって、かつ第2の値が正である測定箇所が2つ以上である場合には、上記制約式(1A)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2A)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定信号yiの各々からクロストークを除去し、複数の測定箇所における真の信号xiの各々を計算する。これにより、圧電体に対して電圧の測定箇所が複数配置されているマトリックスセンサであって、かつ複数の測定箇所において電極が共通化されているマトリックスセンサを用いる場合に、複数の測定箇所において観測された電気信号から実際の圧力分布を推定することができる。
【0087】
(第2実施形態の圧力分布計測システム210)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態の圧力分布計測システムは、マトリックスセンサが積層マトリックスセンサである点が第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0088】
図13は、第2実施形態に係る圧力分布計測システム210の概略構成を示す図である。
図13に示されるように、本実施形態の圧力分布計測システム210は、マトリックスセンサ212と、測定回路14と、圧力分布計測装置216とを備えている。
【0089】
図14及び
図15に、マトリックスセンサ212の模式図を示す。
図14及び
図15に示されているように、第2実施形態のマトリックスセンサ212は、第1圧電体18Aと、第2圧電体18Bと、複数の第1上部電極20A-1,20B-1,20C-1と、複数の第1下部電極22A-1,22B-1,22C-1と、複数の第2上部電極20A-2,20B-2と、複数の第2下部電極22A-2,22B-2と、絶縁層21とを含んでいる。
【0090】
図14に示されているように、複数の第1上部電極20A-1,20B-1,20C-1は、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体18Aの上部に配置されている。また、複数の第2下部電極22A-2,22B-2は、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体18Aの下部に配置されている。
【0091】
また、複数の第2上部電極20A-2,20B-2は、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体18Bの上部に配置されている。複数の第2下部電極22A-2,22B-2は、第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体18Bの下部に配置されている。
【0092】
絶縁層21は、第1圧電体18Aにおける複数の第1下部電極22A-1,22B-1,22C-1と、第2圧電体18Bにおける複数の第2上部電極20A-2,20B-2との間に配置されている。
【0093】
マトリックスセンサ212は、2つの圧電体である第1圧電体18Aと第2圧電体18Bとが積層されており、かつ第1圧電体18Aと第2圧電体18Bとの間には絶縁層21が配置されている。
図14及び
図15に示されているように、絶縁層21を挟んで第1圧電体18Aと第2圧電体18Bとを積層させることで、クロストークの原因であるの圧電体及び電極の共通化を完全に無くしたものになっているため、マトリックスセンサ12においては、クロストークの発生は無い。
【0094】
図16に、マトリックスセンサ212を用いた場合の測定信号を説明するための図を示す。
図16に示されているように、マトリックスセンサ212ではクロストークが発生しないため、2つの加圧点が存在する場合であっても、ch_x2とch_y0との測定信号から加圧点が推定され、ch_x0とch_y2との測定信号から加圧点が推定される。なお、この場合には、例えば、ch_x2の測定信号とch_y0の測定信号との平均又はch_x2の測定信号とch_y0の測定信号の何れか大きい方が加圧点における圧力値として推定される。
【0095】
しかし、応力分布の推定に際して、より精度良く応力分布を推定したいという場合もある。
【0096】
そこで、第2実施形態では、線形計画法を利用してより精度良く応力分布を推定する。具体的には、第1上部電極20-1から出力された第1測定信号と、第2下部電極22-2から出力された第2測定信号とに関して、測定箇所の識別番号i,jの各々について、第1測定信号yiを第2測定信号xjと重みwijとの重み付け和によって表す際の誤差を表す変数tiの総和を最小化するように、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号xiを計算する。
【0097】
より詳細には、第2実施形態の圧力分布計測装置216は、測定箇所の識別番号i,jの各々についての、誤差を表す変数tiに関する以下の制約式(1B)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2B)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号xiを計算する。
【0098】
【0099】
第1上部電極20-1から出力される第1測定信号と、第2下部電極22-2から出力された第2測定信号の加重平均によって表されると考えられるため、電極の交差点である測定箇所に対応する重みwijを予め適切に設定した上で、上記の線形計画法を解くことにより、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号xiが精度良く計算される。
【0100】
次に、第2実施形態の圧力分布計測システム210の作用について説明する。
【0101】
マトリックスセンサ212に対して加圧がなされると、測定回路14が、第1上部電極20-1から出力された第1測定信号と第2下部電極22-2から出力された第2測定信号を出力する。そして、圧力分布計測装置216が測定信号を受け付けると、
図17に示す圧力分布計測処理ルーチンを実行する。
【0102】
具体的には、圧力分布計測装置216のCPU81がROM82又はストレージ84からプログラムを読み出して、RAM83に展開して実行することにより、圧力分布計測処理が行なわれる。
【0103】
ステップS70において、圧力分布計測装置216のCPU81は、複数の第1測定信号と複数の第2測定信号とを取得する。
【0104】
ステップS72において、圧力分布計測装置216のCPU81は、複数の第1測定信号と複数の第2測定信号との各々について、第1測定信号と第2測定信号との間の比が1:1となるように補正する。
【0105】
ステップS74において、圧力分布計測装置216のCPU81は、上記制約式(1B)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2B)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、複数の測定箇所における真の信号xiの各々を計算する。なお、この計算処理は、各時刻の測定信号に対して実行される。
【0106】
ステップS76において、圧力分布計測装置216のCPU81は、ステップS74で計算された真の信号を結果として出力する。
【0107】
以上のように、第2実施形態の圧力分布計測システムは、第1圧電体と、第2圧電体と、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の上部に配置される複数の第1上部電極と、第1方向へ延びるように配置され、かつ第1圧電体の下部に配置される複数の第1下部電極と、第1方向と交差する第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の上部に配置される複数の第2上部電極と、第2方向へ延びるように配置され、かつ第2圧電体の下部に配置される複数の第2下部電極と、第1圧電体における複数の第1下部電極と第2圧電体における複数の第2上部電極との間に配置される絶縁層と、を含むマトリックスセンサと、圧力分布計測装置と、を備える。圧力分布計測装置は、複数の第1上部電極と複数の第2下部電極とが交差する位置に相当する測定箇所の各々における、第1上部電極から出力された第1測定信号と第2下部電極から出力された第2測定信号とを取得する。圧力分布計測装置は、対象となる測定箇所の各々について、測定箇所の識別番号i,jの各々についての、第1測定信号yiと、複数の測定箇所に対する重みwijと、第2測定信号yjと、第1測定信号yiを第2測定信号xjと重みwijとの重み付け和によって表す際の誤差を表す変数tiに関する以下の制約式(1B)を満たしつつ、誤差を表す変数tiの総和を表す式(2B)が最小化されるように線形計画法を解くことにより、測定箇所の識別番号i,jの各々についての真の信号xiを計算する。これにより、圧電体に対して電圧の測定箇所が複数配置されているマトリックスセンサであって、かつ複数の測定箇所において電極が共通化されているマトリックスセンサを用いる場合に、複数の測定箇所において観測された電気信号から実際の圧力分布を推定することができる。
【実施例0108】
次に、本実施形態に係る圧力分布計測システムの実施例について説明する。本実施例では、第1実施形態と同様の圧力分布計測システムを製造し、その圧力分布計測システムを歯の咬合力分布計測に用いた。
【0109】
図18に、実際に製造した圧力分布計測システムを示す。
図18に示されているように、圧力分布計測システムは、上部電極20と下部電力22と圧電体18(PVDF)とによって構成されている。また、
図18に示されているように、圧力分布計測システムは、ラミネートフィルムで封止されている。また、
図19に、咬合力分布の推定結果を示す。
図19の各グラフの「Measurement channel」は上部電極に対応するチャネルを表し、「Switching channel」は下部電極に対応するチャネルを表す。
図19に示されている上段の結果は最適化前(クロストーク除去前)の咬合力分布であり、
図19に示されている下段の結果は最適化後(クロストーク除去後)の咬合力分布である。
図19に示されているように、最適化前の咬合力分布はクロストークが生じている一方で、最適化後の咬合力分布はクロストークが除去されており、咬合力分布が精度良く推定されていることがわかる。
【0110】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。