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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174393
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231130BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231130BHJP
   B24B 37/30 20120101ALI20231130BHJP
【FI】
H01L21/304 622A
B24B37/00 H
B24B37/30 Z
H01L21/304 621D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087232
(22)【出願日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】平澤 学
(72)【発明者】
【氏名】岡部 和樹
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158BA09
3C158CB00
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA23
3C158EB01
3C158EB29
3C158ED02
3C158ED10
3C158ED24
3C158ED26
5F057AA03
5F057BA11
5F057BB03
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA16
5F057EA25
5F057EA26
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】シリコンウェーハ表面の取り代を十分に確保しつつ、研磨後のシリコンウェーハにおいて、表面や端面の微小欠陥およびDIC欠陥を低減することができるシリコンウェーハの研磨方法を提供する。
【解決手段】初段研磨工程、中間研磨工程、仕上げ研磨工程を含む少なくとも3つ以上の研磨工程を有し、前記初段研磨工程において、少なくとも、前記研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下してシリコンウェーハの研磨を行う第1の研磨ステップ(S1-1)と、その後、研磨布に遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を滴下して、シリコンウェーハの粗研磨を行う第2の研磨ステップ(S1-2)と、その後、研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下して当該シリコンウェーハの研磨を行う第3の研磨ステップ(S1-3)と、を実施する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨定盤に貼り付けられた研磨布に対し研磨ヘッドで保持されたシリコンウェーハを押し当て、アルカリベースの研磨剤を当該研磨布に滴下して、シリコンウェーハを摺動させることにより研磨を行うシリコンウェーハの研磨方法であって、
初段研磨工程、中間研磨工程、仕上げ研磨工程を含む少なくとも3つ以上の研磨工程を有し、
前記初段研磨工程において、少なくとも、
前記研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下してシリコンウェーハの研磨を行う第1の研磨ステップと、
その後、研磨布に遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を滴下して、シリコンウェーハの粗研磨を行う第2の研磨ステップと、
その後、研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下して当該シリコンウェーハの研磨を行う第3の研磨ステップと、
を実施し、
その後、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を使用して前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程を実施する、
ことを特徴とするシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項2】
前記初段研磨工程における研磨時間は、前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程の研磨時間よりも短く、
かつ、第1~第3の研磨ステップの研磨時間を「前記第2の研磨ステップの研磨時間>前記第3の研磨ステップの研磨時間>前記第1の研磨ステップの研磨時間」とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項3】
前記第1の研磨ステップの研磨時間を、シリコンウェーハ全体に研磨剤が広がるまでの時間とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項4】
前記第2の研磨ステップの研磨時間を、シリコンウェーハの取り代を確保可能な時間とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項5】
前記初段研磨工程における研磨時間を、前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程の研磨時間の90%以上100%未満の時間範囲とする、
ことを特徴とする請求項2に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項6】
前記第1の研磨ステップで使用される研磨剤に含まれる水溶性高分子の平均分子量を5000以上50000以下とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの研磨は、通常、研磨布や研磨剤の種類を変えながら複数段階で行われる(多段研磨)。
このシリコンウェーハの研磨方法としては、化学的研磨作用と機械的研磨作用とを複合化させた化学的機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)が一般的であり、アルカリベースの水溶液の中に微小なシリカ粒子を分散させた研磨剤(スラリー)を用いることによって、優れた平滑性および鏡面が得られる。
特に、シリコンウェーハ製造の研磨工程では、表面に欠陥がなく、平滑性の高いシリコンウェーハが求められており、スラリーや研磨布等の研磨消耗資材の組み合わせや研磨条件の最適化が進められている。
なお、一般的に行われる多段研磨では、最初に行われる研磨を一次研磨、一次研磨後に行われる研磨を二次研磨、そして、二次研磨後に行われる研磨を仕上げ研磨と呼ぶことがある。
【0003】
たとえば、特許文献1には、上記のような多段研磨の一例として、シリコンウェーハに対して一次研磨、二次研磨、仕上げ研磨を順に施す研磨工程が開示されている。
具体的には、前記一次研磨は、「砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤が用いられている」ことが実施例(段落0053)に記載されている。
この一次研磨によって、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の除去と前加工工程で生じたダメージの修正が行われる。
また、二次研磨がアルカリベースの研磨剤による研磨と、その後に行うリンス研磨からなることが記載されている(段落0032)。
【0004】
また、特許文献2には、多段研磨の一例として、一次研磨工程と中間研磨工程と仕上げ研磨工程とをこの順に含む多段研磨プロセスが開示されている。
特許文献2の多段研磨は、一次研磨工程において水溶性ポリマーAと砥粒とを含む研磨スラリーAでシリコンウェーハが研磨され、その後、中間研磨工程において水溶性ポリマーBと砥粒とを含む研磨スラリーBでシリコンウェーハが研磨され、さらに、仕上げ研磨工程において水溶性ポリマーCと砥粒とを含む研磨スラリーCでシリコンウェーハが研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-21719号公報
【特許文献2】特開2015-185672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の研磨方法においては、多段研磨の初段(一次研磨)において、砥粒を含有した、かつ水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を使用して、研磨が行われる。
しかしながら、シリコンウェーハ表面に、例えば、ダスト等の異物が付着している状態で、砥粒を含有した、かつ水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤で研磨すると、面荒れ(ヘイズムラ)やDIC(Differential Interference Contrast)欠陥等が生じる他、ベベル面粗度(ベベルの面の粗さ)が悪化する不具合が生じる虞がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の研磨方法の一次研磨工程では、水溶性ポリマーと砥粒とを含む研磨スラリーでシリコンウェーハを研磨するため、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の除去と前加工工程で生じたダメージの修正が十分に行われない虞があり、またシリコンウェーハの取り代を十分に確保できない虞がある。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、多段研磨の初段(一次研磨)の研磨方法を検討した。
そして、多段研磨の初段(一次研磨)を、少なくとも第1~3の研磨ステップを行うこととし、第1の研磨ステップでは、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用い、第2の研磨ステップでは、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を用い、第3の研磨ステップでは、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いることにより、面荒れ(ヘイズムラ)やDIC(Differential Interference Contrast)欠陥を抑制でき、ベベル面粗度(ベベルの面の粗さ)の悪化を抑制できることを知見した。
更に、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いる第1、第3の研磨ステップに挟まれる、第2の研磨ステップでは、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤が用いられるため、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の除去と前加工工程で生じたダメージの修正がおこなうことができ、またシリコンウェーハの取り代を確保されることを知見した。
そして、本発明者らは、これら知見に基づいて、本発明を想到したものである。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、シリコンウェーハ表面の取り代を十分に確保しつつ、研磨後のシリコンウェーハにおいて、表面や端面の微小欠陥およびDIC欠陥を低減することができるシリコンウェーハの研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法は、研磨定盤に貼り付けられた研磨布に対し研磨ヘッドで保持されたシリコンウェーハを押し当て、アルカリベースの研磨剤を当該研磨布に滴下して、シリコンウェーハを摺動させることにより研磨を行うシリコンウェーハの研磨方法であって、初段研磨工程、中間研磨工程、仕上げ研磨工程を含む少なくとも3つ以上の研磨工程を有し、前記初段研磨工程において、少なくとも、前記研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下してシリコンウェーハの研磨を行う第1の研磨ステップと、その後、研磨布に遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を滴下して、シリコンウェーハの粗研磨を行う第2の研磨ステップと、その後、研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下して当該シリコンウェーハの研磨を行う第3の研磨ステップと、を実施し、その後、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を使用して前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程を実施する、 ことを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、水溶性高分子を含む研磨剤を使用した、前記第1の研磨ステップを実施することにより、シリコンウェーハの表面と端面を水溶性高分子で十分に保護し、研磨するため、シリコンウェーハの表面に付着したダストを効果的に除去することができる。
シリコンウェーハの表面と端面が水溶性高分子で保護されることにより、その後に使用する、砥粒を含み、かつ水溶性高分子を含まない研磨剤を使用した第2の研磨ステップにおいて、シリコンウェーハの表面や端面の粗度が大きくなることを抑制できる。
【0012】
また、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いる第1、第3の研磨ステップに挟まれる、第2の研磨ステップでは、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤が用いられるため、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の除去と前加工工程で生じたダメージの修正を行うことができ、またシリコンウェーハの取り代を十分確保することができる。
そして、このような初段研磨工程が行われることにより、研磨後のシリコンウェーハにおいて、表面や端面の微小欠陥およびDIC欠陥を低減することができる。
尚、中間研磨工程、仕上げ研磨工程では、特許文献2で示されているような、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いることができる。
【0013】
ここで、前記初段研磨工程における研磨時間は、前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程の研磨時間よりも短く、かつ、第1~第3の研磨ステップの研磨時間を「前記第2の研磨ステップの研磨時間>前記第3の研磨ステップの研磨時間>前記第1の研磨ステップの研磨時間」とする、ことが望ましい。
このように初段研磨の研磨時間を制御することにより、生産性を低下させることなく、粗研磨によるシリコンウェーハの取り代の低下を抑制することができる。
【0014】
前記第1の研磨ステップの研磨時間を、シリコンウェーハ全体に研磨剤が広がるまでの時間とすることが好ましく、前記第2の研磨ステップの研磨時間を、シリコンウェーハの取り代を確保可能な時間とすることが好ましい。
【0015】
第1の研磨ステップの研磨時間をシリコンウェーハ全体に研磨剤が広がるまでの時間として、短時間としているため、第2の研磨ステップおける粗研磨の時間を十分に確保することができる。
また、前記第2の研磨ステップの研磨時間を、シリコンウェーハの取り代を十分に確保可能な時間としているため、シリコンウェーハの取り代の低下を抑制することができ、中間研磨、仕上げ研磨後の表面粗さを効果的に改善することができる。
【0016】
また、前記初段研磨工程における研磨時間を、前記中間研磨工程および前記仕上げ研磨工程の研磨時間の90%以上100%未満の時間範囲とすることが好ましい。
このように、初段研磨の研磨時間を中間研磨や仕上げ研磨の研磨時間よりも短くすることにより、生産性の低下を抑制することができる。
【0017】
また、シリコンウェーハの表面と端面を十分に保護するためには、前記第1の研磨ステップで使用される研磨剤に含まれる水溶性高分子の平均分子量を5000以上50000以下とすることが望ましい。
平均分子量が5000以上の水溶性高分子を用いることにより、シリコンウェーハの表面と端面を水溶性高分子で保護することができる。一方、平均分子量が50000を超える水溶性高分子にあっては、その後の中間研磨や仕上げ研磨を阻害するため好ましくない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリコンウェーハ表面の取り代を十分に確保しつつ、研磨後のシリコンウェーハにおいて、表面や端面の微小欠陥およびDIC欠陥を低減することができるシリコンウェーハの研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法のイメージを示す図である。
図3図3は、実施例1の研磨による欠陥数及びLPDと、比較例の研磨による欠陥数及びLPDとの比較結果を示す図である。
図4図4は、シリコンウェーハの研磨を行う片面研磨装置の概略図である。
図5図5は、片面研磨装置を複数備えた多段研磨装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法の実施形態を、図1図2に基づいて説明する。尚、図1は、本実施形態におけるシリコンウェーハの研磨方法を示すフローチャートであり、図2は、本実施形態におけるシリコンウェーハの研磨方法のイメージを示す図である。また、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本願の明細書および図面において、同様に説明することが可能な要素については、同一の符号を付すことにより重複説明を省略する場合がある。
【0021】
まず、本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法に用いられる研磨装置は、一般的に用いられている研磨装置を用いることができ、例えば、片面研磨装置、あるいは片面研磨装置を複数備える、多段研磨装置のいずれも用いることができる。以下、本実施形態で用いられる装置構成について簡単に説明する。
【0022】
<装置構成>
図4は、シリコンウェーハの研磨を行う片面研磨装置の概略図であり、図5は、片面研磨装置を複数備えた多段研磨装置の概略構成を示す模式図である。
図4において、片面研磨装置100は、リテーナリング2およびメンブレン3をシリコンウェーハ保持具として有する研磨ヘッド1と、研磨定盤4と、研磨定盤4に貼り付けられた研磨布5とを備える。
研磨ヘッド1は、シリコンウェーハWを囲うように設けられた環状のリテーナリング2、およびシリコンウェーハWの上面に当接して押圧力を付与するメンブレン3、によって1枚のシリコンウェーハWを保持する。そして、片面研磨装置100においては、研磨定盤4に貼り付けられた研磨布5に対し研磨ヘッド1に保持されたシリコンウェーハWを押し当て、所定のアルカリベースの研磨剤を研磨布5に滴下して、研磨定盤4および研磨ヘッド1を互いに回転して、シリコンウェーハWを摺動させることによって、シリコンウェーハWの研磨が行われる。
そして、この片面研磨装置を用いて、一次研磨工程(初段研磨)を行い、その後、他の片面研磨装置を用いて二次研磨工程(中間研磨)、三次研磨工程(仕上げ研磨)を実施する。
【0023】
また、図5に示す多段研磨装置200は、3つの研磨定盤4(4a、4b、4c)と、研磨定盤4a、4b、4cに対して個別に貼り付けられた研磨布5a、5b、5cと、シリコンウェーハWを保持する研磨ヘッド1と、研磨ヘッド1を移動させるローダー6とを備える。多段研磨装置200は、たとえば、シリコンウェーハWの最終研磨工程を、時計回りに、研磨布5aおよび研磨剤を使用した一次研磨工程(初段研磨)、研磨布5bおよび研磨剤を使用した二次研磨工程(中間研磨)、研磨布5cおよび研磨剤を使用した三次研磨工程(仕上げ研磨)の順に多段で実施する。
この際、多段研磨装置200においては、各研磨工程の目的に応じて用意された研磨布および研磨剤が使用され、ローダー6が研磨工程毎に研磨ヘッド1を移動させることによって、多段研磨を実施する。
【0024】
本実施形態のシリコンウェーハの研磨方法は、上記研磨装置を用いて実施され、少なくとも、図1に示されるように、初段研磨工程(一次研磨工程)S1の後、中間研磨工程(二次研磨工程)S3、仕上げ研磨工程(三次研磨工程)S5を含む研磨工程が実施される。
【0025】
特に、本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法は、図1に示すように、初段研磨工程(一次研磨工程)S1において、少なくとも、前記研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下してシリコンウェーハの研磨を行う第1の研磨ステップS1-1と、その後、同一の当該研磨布に遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を滴下して当該シリコンウェーハの粗研磨を行う第2の研磨ステップS1-2と、その後、再度同一の当該研磨布に水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を滴下して当該シリコンウェーハの研磨を行う第3の研磨ステップS1-3とを備える点に特徴を有する。
尚、中間研磨工程(二次研磨工程)S3、仕上げ研磨工程(三次研磨工程)S5は、従来の水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いた研磨工程が実施される。
【0026】
(初段研磨工程(一次研磨工程)S1)
初段研磨(図3のステップS1)は、前記したように、第1の研磨ステップS1-1、第2の研磨ステップ(粗研磨)S1-2および第3の研磨ステップS1-3で構成される。
尚、第1の研磨ステップS1-1および第3の研磨ステップS1-3では、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有した、アルカリベースの研磨剤を使用してシリコンウェーハの研磨が行われ、第2の研磨(粗研磨)S1-2では、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を使用してシリコンウェーハの研磨が行われる。
【0027】
ここで、アルカリベースの研磨剤としたのは、研磨剤のpHは9より低くなると、コロイダルシリカが凝集しやすくなり、一方pHが12よりも高くなるとコロイダルシリカが溶液中へ溶解しやすくなる。そのため、pH9~12のアルカリベースの研磨剤とするのが好ましい。このpH調整はKOH溶液を添加することによってなされる。
【0028】
また、初段研磨において使用する研磨剤に含まれる水溶性高分子としては、シリコンウェーハの保護や表面粗さの改善等を効率良く行うために、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)が使用される。
具体的には、たとえば、平均分子量が5000以上50000以下のヒドロキシエチルセルロースが用いられる。ヒドロキシエチルセルロース平均分子量が5000未満の場合には、シリコンウェーハWの表面と端面を十分に保護することができないため好ましくない。また、ヒドロキシエチルセルロース平均分子量が50000を超える場合には、その後の研磨を阻害するため好ましくない。
【0029】
なお、初段研磨で使用する水溶性高分子は、これに限定されるものではなく、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体や、N-ビニル鎖状アミドのようなN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等であってもよい。
【0030】
また、初段研磨において使用する研磨剤に含まれる遊離砥粒は、コロイダルシリカを使用する。具体的には、たとえば、平均粒径が30nm以上150nm以下のコロイダルシリカを用いることができる。
なお、初段研磨において使用する研磨剤に含まれる遊離砥粒の含有量、砥粒の粒径は、第1の研磨ステップ~第3の研磨ステップの目的に応じて、変更するのが好ましい。また、研磨剤に含まれる遊離砥粒は、これに限定されるものではなく、フュームドシリカやアルミナ粒子、酸化クロム粒子等であってもよい。
【0031】
また、初段研磨で使用する研磨布は、特に限定するものではないが、シリコンウェーハの保護およびシリコンウェーハWの取り代等の観点から適宜決定可能(硬質性、軟質性等)である。研磨布としては、一般的な不織布タイプ、ポリウレタンタイプ、スウェードタイプ等を特に制限なく使用することができる。
【0032】
また、初段研磨実施時のシリコンウェーハへの荷重(研磨荷重)に関しては、所望の品質に応じてその都度決定可能とする。なお、シリコンウェーハWへの荷重は、主に研磨ヘッドの加圧によるものであるが、この際の圧力は、3kPa以上20kPa以下の範囲であることが好ましい。このような圧力であると、十分な取り代を得ながら、平坦度品質も良く、欠陥導入も最小限に抑えることができる。
【0033】
(第1の研磨ステップS1-1)
第1の研磨ステップS1-1では、研磨布に対し研磨ヘッドに保持されたシリコンウェーハを押し当て、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を研磨布に滴下して、研磨定盤と研磨ヘッドとを互いに回転しシリコンウェーハWを摺動させる。
【0034】
また、第1の研磨ステップS1-1では、研磨時間(第1の時間ともいう)、たとえば、1秒以上15秒以下の時間範囲で研磨を行う。
第1の研磨ステップS1-1は、シリコンウェーハWの表面を研磨することよりも、ヒドロキシエチルセルロースがシリコンウェーハW全体に広がる(いきわたる)ことを目的としており、粗研磨の時間を十分に確保するためにも、比較的短時間とすることが望ましい。たとえば、初段研磨に割り当てられた研磨時間の1~15%程度とする。
【0035】
第1の研磨ステップS1-1を実施することにより、初段研磨の開始直後に水溶性高分子を含有した研磨剤を使用してシリコンウェーハの表面および端面を十分に保護することができるため、シリコンウェーハに付着したダストを効果的に除去することができる。これにより、ダストによるヘイズやDIC欠陥を抑制することができる。
【0036】
なお、第1の研磨ステップS1-1において使用する研磨剤は、シリコンウェーハの表面および端面の保護という観点から、他の研磨に比べて遊離砥粒を少なくすることが望ましい。
【0037】
(第2の研磨ステップS1-2)
第2の研磨ステップ(粗研磨)S1-2では、引き続き第1の研磨ステップS1-1と同じ研磨布に対し、研磨ヘッドに保持されたシリコンウェーハを押し当て、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を研磨布に滴下して、研磨定盤と研磨ヘッドとを互いに回転しシリコンウェーハWを摺動させる。
具体的には、たとえば、平均粒径が30nm以上150nm以下のコロイダルシリカを含有し、ヒドロキシエチルセルロースを含有しないアルカリベースの研磨剤を、研磨定盤に貼り付けられた研磨布に滴下して第2の研磨ステップ(粗研磨)を行う。
【0038】
コロイダルシリカの平均粒径が30nm未満の場合には、シリコンウェーハW表面の取り代が十分に確保できない可能性があるため好ましくない。
また、コロイダルシリカの平均粒径は、効率良く粗研磨を行えるように、第1の研磨ステップで用いられる砥粒よりも粒径が大きい方が好ましい。あるいはまた砥粒の含有量が第1の研磨ステップで用いられる研磨剤よりも大きい方が好ましい。
【0039】
この第2の研磨ステップ(粗研磨)S1-2においては、シリコンウェーハWの表面を効率的に研磨し、シリコンウェーハWの取り代を十分に確保し、平坦度品質を確保するため、第2の時間にわたりヒドロキシエチルセルロースを含有しない研磨剤を用いて粗研磨が行われる。
第2の研磨ステップの研磨時間(第2の時間ともいう)は、前述した第1の時間や後述する第3の研磨ステップの研磨時間(第3の時間ともいう)よりも長くすることが好ましく、たとえば、初段研磨に割り当てられた研磨時間の50~90%程度とする。
【0040】
(第3の研磨ステップS1-3)
第3の研磨ステップS1-3では、引き続き第2の研磨ステップS1-2と同じ研磨布に対し研磨ヘッドに保持されたシリコンウェーハを押し当て、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を研磨布に滴下して、研磨定盤と研磨ヘッドとを互いに回転しシリコンウェーハを摺動させる。
【0041】
具体的には、たとえば、平均分子量が5000以上50000以下のヒドロキシエチルセルロースを含有し、平均粒径が30nm以上150nm以下のコロイダルシリカを含有する、アルカリベースの研磨剤を、研磨定盤に貼り付けられた研磨布に滴下して研磨を行う。
第3の研磨ステップS1-3においては、ヒドロキシエチルセルロースを含有しない研磨剤を用いた第2の研磨(粗研磨)ステップS1-2後のシリコンウェーハのダメージを軽減するために、再度ヒドロキシエチルセルロースを含有する研磨剤を用いて、第3の時間にわたり研磨を実施する。
したがって、第3の研磨ステップにおいて使用する研磨剤は、シリコンウェーハのダメージを軽減するという観点から、第2の研磨ステップで用いられる研磨剤よりも遊離砥粒を少なくする、または、粒径の小さい砥粒を用いるのが好ましい。
【0042】
また、第3の時間は、シリコンウェーハWのダメージを軽減することを目的としており、ヒドロキシエチルセルロースがシリコンウェーハW全体に広がる(いきわたる)ことを目的とする第1の時間よりも長いことが望ましい。
一方で、研磨レートを十分に確保する観点から第2の時間よりも短いことが望ましい。
したがって、各研磨ステップの研磨時間は、「第2の時間>第3の時間>第1の時間」とすることが望ましく、たとえば、初段研磨に割り当てられた研磨時間の5~35%程度とするのが好ましい。
【0043】
その後、第3の研磨が終了した段階で、例えば、多段研磨装置のローダーにより研磨ヘッドを、他の研磨定盤(研磨布)に載せ替えられ、二次研磨工程(中間研磨工程)へ移行する(図3のステップS2、S3)。
【0044】
なお、本実施形態の初段研磨において、研磨定盤の回転数は、「第1の研磨ステップ実施時の回転数>第22研磨ステップ実施時の回転数>第3の研磨ステップ実施時の回転数」とすることが好ましい。
第1の研磨ステップの実施時は、素早くシリコンウェーハ全体を水溶性高分子で覆い(研磨剤をできるだけ早くシリコンウェーハW全体に広げる)、シリコンウェーハの表面および端面を保護するために、初段研磨の中で最も早い回転数とすることが望ましい。
また、表面欠陥の発生を抑制する観点から、第2の研磨ステップ、第3の研磨ステップの順に、研磨定盤の回転数を徐々に落としていくことが好ましい。
【0045】
また、初段研磨の研磨時間は、生産性の観点から、後述する中間研磨や仕上げ研磨の研磨時間よりも短く、かつ可能な限り中間研磨や仕上げ研磨の研磨時間との差が小さいほど良く、たとえば、中間研磨や仕上げ研磨における研磨時間の90%以上100%未満の時間範囲とすることが望ましく、中間研磨や仕上げ研磨における研磨時間の95%以上100%未満の時間範囲とすることがさらに望ましい。
尚、中間研磨や仕上げ研磨における研磨時間は、所望の品質に応じて適宜決定可能である。
【0046】
(二次研磨工程(中間研磨))
二次研磨工程(中間研磨)は、従来から行われている研磨工程を用いることができる。具体的には、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有した研磨剤を使用してシリコンウェーハWの研磨が行われる。
この中間研磨においては、シリコンウェーハ表面の粗さをより低減させるため、研磨の途中で研磨剤に含ませるコロイダルシリカの粒径を小さくしている。
即ち、図2に示すように、コロイダルシリカの粒径を変えて、中間研磨(1)および中間研磨(2)の研磨が行われる。中間研磨の前半のコロイダルシリカの粒径は、中間研磨の後半のコロイダルシリカの粒径よりも大きく設定されている。
【0047】
その後、二次研磨工程(中間研磨)が終了した段階で、例えば、多段研磨装置のローダーにより研磨ヘッドを、他の研磨定盤(研磨布)に載せ替えられ、三次研磨工程(仕上げ研磨工程)へ移行する(図1のステップS4、S5)。
【0048】
(三次研磨工程(仕上げ研磨))
仕上げ研磨では、従来から行われている研磨工程を用いることができる。具体的には、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有した研磨剤を使用してシリコンウェーハWの研磨を行う。尚、仕上げ研磨にて使用する研磨剤は、中間研磨の後半に使用したものと同じもの(コロイダルシリカの粒径が小さいもの)を使用する。また、仕上げ研磨では、たとえば、スウェードタイプのような軟質性の研磨布が使用されることが望ましい。
【0049】
上記のように本発明にかかる特徴ある初段研磨の第1の研磨ステップにおいて、水溶性高分子を含む研磨剤を、たとえば1秒以上15秒以下の時間範囲で使用し、シリコンウェーハの表面と端面を水溶性高分子で十分に保護し、研磨することにより、シリコンウェーハの表面に付着したダストを効果的に除去することができる。
これにより、その後に使用する水溶性高分子を含まない研磨剤を使用した粗研磨において、シリコンウェーハの表面や端面のダストに起因する面荒れやDIC欠陥、およびベベル面粗度の悪化を抑制できる。
【0050】
また、水溶性高分子と遊離砥粒とを含有したアルカリベースの研磨剤を用いる第1、第3の研磨ステップに挟まれる、第2の研磨ステップでは、遊離砥粒を含有し水溶性高分子を含有しないアルカリベースの研磨剤を用いて研磨するため、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜の除去と前加工工程で生じたダメージの修正を行うことができ、またシリコンウェーハの取り代を十分確保することができる。
そして、本実施形態の初段研磨を実施した後に、従来から行われている一般的な手法で中間研磨および仕上げ研磨を実施した場合であっても、中間研磨、仕上げ研磨後の表面粗さを効果的に改善することができる。
【実施例0051】
本発明にかかるシリコンウェーハの研磨方法の実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、直径300mmのシリコンウェーハに対して、図2に示した一次研磨工程(初段研磨)、二次研磨工程、及び、三次研磨工程から成る研磨工程を実施した。
【0053】
実施例1では、研磨定盤4aの回転数を落としながら、100秒にわたり初段研磨(第1の研磨、第2の研磨、第3の研磨)を実施した。各研磨工程での各種条件は表1に示すとおりである。
(第1の研磨)
アルカリベースの研磨剤として、平均分子量が30000のヒドロキシエチルセルロースと平均粒径が35nmのコロイダルシリカとを含有する研磨剤を用い、表1に示す条件で研磨した。そして、研磨後、同一研磨布5a上で、表1に示す条件に従って第2の研磨(粗研磨)を実施した。
【0054】
(第2の研磨)
アルカリベースの研磨剤として、平均粒径が40nmのコロイダルシリカを含有する研磨剤を用い、表1に示す条件で研磨した。そして、研磨後、同一研磨布5a上で、表1に示す条件に従って第3の研磨を実施した。
【0055】
(第3の研磨)
アルカリベースの研磨剤として、平均分子量が30000のヒドロキシエチルセルロースと平均粒径が35nmのコロイダルシリカとを含有する研磨剤を用い、表1に示す条件で研磨した。
【0056】
(二次研磨工程、三次研磨工程)
そして、一次研磨実施後、移動時間10秒で研磨ヘッドを研磨定盤4b(研磨布5b)上へ移動させ、二次研磨工程を実施した。二次研磨工程の研磨条件は、表1に示す通りである。また、二次研磨工程終了後、三次研磨工程を行った。三次研磨工程の研磨条件は、表1に示す通りである。
【0057】
(比較例)
比較例では、直径300mmのシリコンウェーハに対して、一次研磨工程では水溶性高分子を用いることなく、実施例1の第2の研磨と同様の粗研磨とし、表1に示す条件で研磨した。尚、表1に示すように、二次研磨工程、三次研磨工程については実施例1と同様の研磨とした。
【0058】
【表1】
【0059】
そして、実施例1と比較例の三次研磨工程後のシリコンウェーハに対して、レーザ散乱パーティクルカウンター(KLA-Tencor社製SurfScan SP-3)を用いてシリコンウェーハ表面の26nm以上のLPD数および端面欠陥数を測定した。その結果を図3に示す。
図3は、実施例1の研磨による欠陥数と比較例の研磨による欠陥数との比較結果を示す図であり、ここでは、比較例におけるシリコンウェーハ表面の26nm以上のLPD数および端面欠陥数を100%とした場合の、実施例1の欠陥の割合が示されている。
実施例1と比較例を比較した結果、本発明にかかる研磨方法の適用により、シリコンウェーハ表面の26nm以上のLPD数および端面欠陥数がともに改善していることが確認された。より具体的には、実施例1の研磨において、26nm以上のLPD数を約30%低減できたことが確認された。同様に、端面欠陥数を約70%低減できたことが確認された。また、実施例1の研磨において、シリコンウェーハの取り代が十分に確保できることも確認できた。より具体的には、実施例1の一次研磨工程の研磨レートは比較例の一次研磨工程に比べて約5%低下するに留まることを確認できた。
【符号の説明】
【0060】
1 研磨ヘッド
2 リテーナリング
3 メンブレン
4(4a、4b、4c) 研磨定盤
5(5a、5b、5c) 研磨布
100 片面研磨装置
200 多段研磨装置
S1 初段研磨工程(一次研磨工程)S1
S1-1 第1の研磨ステップ
S1-2 第2の研磨ステップ
S1-3 第3の研磨ステップ

図1
図2
図3
図4
図5