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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174533
(43)【公開日】2023-12-07
(54)【発明の名称】位置検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/14 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
G01D5/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067642
(22)【出願日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022087005
(32)【優先日】2022-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄太
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA25
2F077JJ06
2F077QQ15
2F077TT21
2F077VV33
2F077WW04
(57)【要約】
【課題】大型化を抑制しながらも検出精度を高めることが可能な位置検出装置を提供する。
【解決手段】軸方向に進退移動するシャフト13の位置を検出する位置検出装置としてのストロークセンサ1は、シャフト13に固定されたターゲット2と、交流磁界を発生させる励磁コイル31と、励磁コイル31に交流電流を供給する電源部4と、シャフト13の軸方向に沿って延在して配置され、励磁コイル31が発生させる交流磁界の磁束が鎖交する検出コイル32,33とを備える。励磁コイル31は、検出コイル32,33を囲むように配置されている。検出コイル32,33は、シャフト13が軸方向に沿って一定の速度で移動したときに誘起される電圧のピーク値が正弦波状に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状の曲線部301a,302a,303a,304aを有して形成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置であって、
前記シャフトに固定された検出体と、
交流磁界を発生させる励磁コイルと、
前記励磁コイルに交流電流を供給する電源部と、
前記シャフトの軸方向に沿って延在して配置され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイルと、を備え、
前記励磁コイルは、前記検出コイルを囲むように配置され、
前記検出コイルは、前記シャフトが軸方向に沿って一定の速度で移動したときに当該検出コイルに誘起される電圧のピーク値が正弦波状に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状の曲線部を有して形成されている、
位置検出装置。
【請求項2】
前記検出コイルは、前記励磁コイルに近い位置ほど正弦波曲線に対する歪み量が大きくなっている、
請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記検出コイルに誘起される電圧のピーク値が、前記シャフトが軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に1周期分以下の範囲で変化する、
請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記検出コイルは、前記シャフトの軸方向に対して平行な対称軸線に対して対称な一対の前記曲線部を有している、
請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項5】
二つの前記検出コイルを備え、前記シャフトが軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に当該複数の前記検出コイルのそれぞれに誘起される電圧の位相が互いに異なっている、
請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項6】
前記励磁コイルは、前記シャフトの軸方向に延在する一対の長辺部、及び前記一対の長辺部の間の一対の短辺部を有する長方形状であり、
二つの前記検出コイルのうち一方の前記検出コイルは、前記励磁コイルの長辺方向の両端部付近及び中央部付近において前記励磁コイルの短辺方向の幅が極大値となり、
前記励磁コイルの前記両端部付近における前記一方の前記検出コイルの幅の極大値が、前記励磁コイルの前記中央部付近における前記一方の前記検出コイルの幅の極大値よりも小さい、
請求項5に記載の位置検出装置。
【請求項7】
二つの前記検出コイルのうち他方の前記検出コイルは、前記励磁コイルの前記両端部付近及び前記中央部付近において、前記励磁コイルの短辺方向の幅が極小値となる、
請求項6に記載の位置検出装置。
【請求項8】
前記励磁コイル及び二つの前記検出コイルが1枚の基板に形成されている、
請求項5乃至7の何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項9】
前記シャフトが車両のステアリング装置のラックシャフトである、
請求項1に記載の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置が、例えば車両のステアリング装置におけるラックシャフトの位置の検出のために用いられている。
【0003】
特許文献1に記載の検出ユニットは、電動パワーステアリング装置のラックシャフトの軸方向の位置を検出するものであり、直流電源と、永久磁石と、永久磁石とラックシャフトとの間に配置された第1乃至第4の磁気抵抗素子からなる素子群と、ラックシャフトの位置を演算する演算部とを備えている。素子群は、第1及び第2の磁気抵抗素が直列接続された直列回路と、第3及び第4の磁気抵抗素が直列接続された直列回路とが並列に接続され、ブリッジ回路を構成している。演算部には、第1の磁気抵抗素子と第2の磁気抵抗素子との間に接続された第1端子の電位、及び第3の磁気抵抗素子と第4の磁気抵抗素子との間に接続された第2端子の電位が入力される。ラックシャフトにおける素子群との対向面には、ラックシャフトの軸方向に対して傾斜した方向に延びる複数の溝が形成されている。
【0004】
上記のように構成された検出ユニットにおいて、ラックシャフトに噛み合うピニオンギヤシャフトの回転によってラックシャフトが軸方向に移動して第1乃至第4の磁気抵抗素子と複数の溝との相対位置が変化すると、第1乃至第4の磁気抵抗素子の電気抵抗のバランスが変化して、第1端子及び第2端子の電位が変化する。演算部は、この電位の変化に基づいてラックシャフトの位置を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2021/210125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された検出ユニットでは、例えば車両の走行に伴う振動等によってラックシャフトが車両前後方向に動いたり中心軸線回りに回動したりすると、第1乃至第4の磁気抵抗素子と複数の溝との相対位置が変化し、ラックシャフトの検出位置に誤差が発生してしまう。
【0007】
本発明者らは、当初、検出精度の高い位置検出装置を開発すべく、一対の正弦曲線状の導体線を組み合わせた形状の検出コイルと、この検出コイルを囲むように形成された長方形状の励磁コイルとを有するプリント基板をシャフトに対向させて配置し、シャフトよりも透磁率が高い検出体をシャフトに取り付けると共に、励磁コイルによって交流磁界を発生させ、検出コイルに誘起される電圧の大きさによってシャフトの位置を検出する位置検出装置を発案した。しかし、この位置検出装置では、励磁コイルの内側における磁束密度の不均一性に起因する検出誤差があり、この検出誤差を小さくしてさらに検出精度を高めるためには、例えば励磁コイルと共に基板を大型化し、励磁コイルを検出コイルに対して十分に大きくする必要があった。
【0008】
そこで、本発明は、大型化を抑制しながらも検出精度を高めることが可能な位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、軸方向に進退移動するシャフトの位置を検出する位置検出装置であって、前記シャフトに固定された検出体と、交流磁界を発生させる励磁コイルと、前記励磁コイルに交流電流を供給する電源部と、前記シャフトの軸方向に沿って延在して配置され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイルと、を備え、前記励磁コイルは、前記検出コイルを囲むように配置され、前記検出コイルは、前記シャフトが軸方向に沿って一定の速度で移動したときに当該検出コイルに誘起される電圧のピーク値が正弦波状に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状の曲線部を有して形成されている、位置検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る位置検出装置によれば、励磁コイルの大型化を抑制しながらも検出精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る位置検出装置としてのストロークセンサを備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置が搭載された車両の模式図である。
図2図1のA-A線におけるラックシャフト、ハウジング、ターゲット、及び基板の断面図である。
図3】ラックシャフト、ハウジングの本体、ターゲット、及び基板を示す斜視図である。
図4】(a)は、基板の第1乃至第4の金属層に形成された配線パターンを表面側から透視して見た全体図である。(b)は、(a)の部分拡大図である。
図5】(a)~(d)は、表面側から見た第1乃至第4の金属層をそれぞれ示す平面図である。
図6】(a)は、基板における励磁コイルの内側の磁束密度の分布を示すグラフである。(b)は、基板の中心軸線に沿った長手方向の磁束密度の分布を示すグラフである。(c)は、基板の長手方向中央部における短手方向の磁束密度の分布を示すグラフである。
図7】本実施の形態に係る正弦波形状検出コイル及び余弦波形状検出コイルの形状を、基板の長手方向と短手方向の縮尺を変えて模式的に示す模式図である。
図8】比較例として示す正規正弦波形状検出コイル及び正規余弦波形状検出コイルの形状を示す模式図である。
図9】(a)は、図7のa部拡大図であり、(b)は、図8のb部拡大図である。
図10】電源部から励磁コイルに供給される供給電圧と、正弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧及び余弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧との関係を示すグラフである。
図11】正弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧のピーク値であるピーク電圧と、ターゲットの位置との関係を模式的に示す説明図である。
図12】余弦波形状検出コイルに誘起される誘起電圧のピーク値であるピーク電圧と、ターゲットの位置との関係を模式的に示す説明図である。
図13】ターゲットの位置検出精度を評価した結果を示すグラフである。
図14】ターゲットの位置の検出誤差を評価した結果を示すグラフである。
図15】変形例に係る正弦波形状検出コイル及び余弦波形状検出コイルの形状を示す模式図である。
図16】変形例に係る正弦波形状検出コイル及び余弦波形状検出コイルの形状を示す模式図である。
図17】変形例に係るターゲットの構成例を、シャフト、基板、及びハウジングと共に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る位置検出装置としてのストロークセンサ1を備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置10が搭載された車両の模式図である。
【0013】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ストロークセンサ1と、転舵輪11(左右の前輪)に連結されたタイロッド12と、タイロッド12に連結されたラックシャフト13と、ラックシャフト13を収容する筒状のハウジング14と、ラックシャフト13のラック歯131に噛み合わされたピニオンギヤ151を有するウォーム減速機構15と、ウォーム減速機構15を介してラックシャフト13に軸方向の移動力を付与する電動モータ16と、運転者が操舵操作するステアリングホイール17と、ステアリングホイール17の操舵角を検出する操舵角センサ18と、操舵角センサ18によって検出された操舵角に基づいて電動モータ16を制御する操舵制御装置19とを備えている。
【0014】
図1では、ハウジング14を仮想線で示している。ラックシャフト13は、例えば炭素鋼等の鋼材からなり、ハウジング14の両端部に取り付けられた一対のラックブッシュ132に支持されている。ウォーム減速機構15は、ウォームホイール152及びウォームギヤ153を有し、ウォームホイール152にピニオンギヤ151が固定されている。ウォームギヤ153は、電動モータ16のモータシャフト161に固定されている。
【0015】
電動モータ16は、操舵制御装置19から供給されるモータ電流によってトルクを発生し、ウォームギヤ153を介してウォームホイール152及びピニオンギヤ151を回転させる。ピニオンギヤ151が回転すると、ラックシャフト13がその軸方向に進退移動し、左右の転舵輪11が転舵される。ラックシャフト13は、操舵角がゼロである場合の中立位置から所定の範囲で車幅方向の右側及び左側に移動可能である。図1では、ラックシャフト13が軸方向に移動可能な範囲Rを両矢印で示している。
【0016】
(ストロークセンサ1の構成)
ストロークセンサ1は、ラックシャフト13に取り付けられたターゲット2と、ターゲット2に対向して配置された基板3と、電源部4及び演算部5とを備えている。基板3は、ラックシャフト13と平行にハウジング14内に固定されている。ストロークセンサ1は、ハウジング14に対するラックシャフト13の位置をターゲット2の位置によって検出し、検出した位置の情報を操舵制御装置19に出力する。操舵制御装置19は、ストロークセンサ1によって検出されたラックシャフト13の位置が操舵角センサ18によって検出されたステアリングホイール17の操舵角に応じた位置となるように、電動モータ16を制御する。
【0017】
図2は、図1のA-A線におけるラックシャフト13、ハウジング14、ターゲット2、及び基板3の断面図である。図3は、ラックシャフト13、ハウジング14の本体141、ターゲット2、及び基板3を示す斜視図である。
【0018】
ラックシャフト13は、断面円形状の鋼材からなる棒状体である。ハウジング14は、金属製の本体141と、樹脂製の蓋体142とを有し、蓋体142が本体141に例えば接着によって固定されている。本体141は、ラックシャフト13を収容する収容空間140が形成された断面U字状であり、収容空間140が鉛直方向の上方に向かって開放されている。ラックシャフト13の直径Dは、例えば25mmである。
【0019】
ラックシャフト13の外周面13aと収容空間140の内面140aとの間には、例えば1mm以上の隙間が形成されている。蓋体142は、平板状に形成され、収容空間140を鉛直方向の上方を覆っている。本体141は、非磁性体であり、例えばダイキャスト形成されたアルミニウム合金からなる。なお、蓋体142の材料としては、必ずしも樹脂に限らないが、非磁性かつ非導電性のものを用いることが望ましい。
【0020】
ターゲット2は、本発明の検出体の一態様であり、ラックシャフト13の位置を検出するための目標物である。ターゲット2は、ラックシャフト13よりも透磁率が高い材料、又はラックシャフト13よりも導電率が高い材料からなる。ラックシャフト13よりも透磁率が高い材料をターゲット2に用いる場合、その材料としては、例えばフェライト等の磁性体を用いることができる。また、ラックシャフト13よりも導電率が高い材料をターゲット2に用いる場合、その材料としては、例えばアルミニウムや銅を主成分とする金属を用いることができる。
【0021】
なお、本実施の形態では、ターゲット2がラックシャフト13の外周面13aから基板3に向かって突出するように設けられているので、ラックシャフト13と透磁率が等しい材料、もしくはラックシャフト13と導電率が等しい材料をターゲット2の材料として用いても、後述する作用及び効果を得ることができる。ただし、位置の検出精度を高めるためには、ラックシャフト13の材料よりも透磁率が高い高透磁率材料、もしくはラックシャフト13の材料よりも導電率が等しい高導電率材料を、ターゲット2の材料として用いることが望ましい。
【0022】
ターゲット2は、ラックシャフト13の上部に例えば接着や溶接等の固定手段によって固定されている。基板3に対向するターゲット2の対向面2aは、平面状に形成されている。ターゲット2の対向面2aは、エアギャップGを介して基板3の表(おもて)面3aと平行に向かい合っている。基板3の裏面3bは、接着剤300によって蓋体142に固定されている。基板3側から見た対向面2aの形状は、ラックシャフト13の軸方向が長辺方向となる長方形状である。
【0023】
エアギャップGの幅Wは、例えば1mmである。対向面2aに対して垂直な方向のターゲット2の最小厚みTは、例えば5mmである。なお、本実施の形態では、ラックシャフト13が断面円形状に形成されているが、ラックシャフト13の断面形状は円形に限らず、例えば一部が直線状に形成されたD字状、あるいは多角形状であってもよい。
【0024】
基板3は、第1乃至第4の金属層301~304の間にFR4(ガラス繊維にエポキシ樹脂をしみ込ませて熱硬化処理を施したもの)等の誘電体からなる平板状の基材30が配置された4層基板である。それぞれの基材30の厚みは、例えば0.3mmである。第1乃至第4の金属層301~304の厚みは、それぞれ例えば18μmである。基板3は、ラックシャフト13の軸方向が長手方向となる平坦な長方形状である。基板3の短手方向の幅Wは、ラックシャフト13の直径Dよりも短く、例えば20mmである。基板3の短手方向に平行な方向におけるターゲット2の幅Wは、基板3の短手方向の幅Wと同等もしくは基板3の短手方向の幅Wよりも広い。
【0025】
図4(a)は、基板3の第1乃至第4の金属層301~304に形成された配線パターンを表面3a側から透視して見た全体図である。図4(b)は、図4(a)の部分拡大図である。図5(a)~(d)は、表面3a側から見た第1乃至第4の金属層301~304をそれぞれ示す平面図である。なお、図4(a)及び(b)ならびに図5(a)~(d)に示す配線パターンは一例に過ぎず、本発明の効果を得られるように基板3が形成されている限り、様々な形態の配線パターンを採用することが可能である。
【0026】
図4(a)及び(b)ならびに図5(a)~(d)では、第1の金属層301の配線パターンを実線で、第2の金属層302の配線パターンを破線で、第3の金属層303の配線パターンを一点鎖線で、第4の金属層304の配線パターンを二点鎖線で、それぞれ示している。また、図4(a)では、基板3を短手方向に二等分して長手方向に延びる中心軸線Cをグレーの直線で示すと共に、ストロークセンサ1がラックシャフト13の絶対位置を検出可能な範囲のうち、一方側の端部及び他方側の端部にラックシャフト13が位置したときのターゲット2の位置を点線で示している。なお、図2に示すように、基板3とターゲット2とはラックシャフト13の直径方向に重なるが、図4(a)では、ターゲット2の位置を基板3に対してその短手方向にずらして示している。
【0027】
基板3の長手方向一端部には、図4(b)に二点鎖線で示すコネクタ7のコネクタピンがそれぞれ挿通される第1乃至第6のスルーホール341~346を有するコネクタ部340が設けられている。第1乃至第6のスルーホール341~346は、基板3の短手方向に沿って直線状に並んでいる。コネクタ7には、電源部4及び演算部5との接続のためのケーブル8のコネクタ81(図1参照)が接続される。また、基板3には、配線パターンを層間接続するための第1乃至第3のバイア351~353が形成されている。
【0028】
第1の金属層301には、第1の曲線部301aと、第1の曲線部301aの一端部を第2のスルーホール342に接続する第1のコネクタ接続部301bと、後述する第2の曲線部302a及び第4の曲線部304aのそれぞれの端部同士を接続する端部接続部301cとが形成されている。第2の金属層302には、第2の曲線部302aと、第2の曲線部302aの一端部を第4のスルーホール344に接続する第2のコネクタ接続部302bとが形成されている。第3の金属層303には、第3の曲線部303aと、第3の曲線部303aの一端部を第3のスルーホール343に接続する第3のコネクタ接続部303bとが形成されている。第4の金属層304には、第4の曲線部304aと、第4の曲線部304aの一端部を第5のスルーホール345に接続する第4のコネクタ接続部304bとが形成されている。
【0029】
第1の曲線部301aと第3の曲線部303aとは、それぞれの他端部同士が第1のバイア351によって接続されている。端部接続部301cは、一方の端部が第2の曲線部302aの他端部と第2のバイア352によって接続され、他方の端部が第4の曲線部304aの他端部と第3のバイア353によって接続されている。
【0030】
第1乃至第4の曲線部301a,302a,303a,304aは、略正弦波状に湾曲している。第1の曲線部301aと第3の曲線部303a、及び第2の曲線部302aと第4の曲線部304aは、基板3の中心軸線Cを対称軸線とし、この対称軸線に対して対称な形状である。
【0031】
基板3は、交流磁界を発生させる励磁コイル31と、励磁コイル31が発生する磁界の磁束が鎖交する二つの検出コイル32,33とを備えている。励磁コイル31には、電源部4から正弦波状の交流電流が供給される。二つの検出コイル32,33のうち、一方の検出コイル32は、第1の曲線部301a及び第3の曲線部303aによって形成され、他方の検出コイル33は、第2の曲線部302a、第4の曲線部304a、及び端部接続部301cによって形成されている。
【0032】
励磁コイル31は、ラックシャフト13の軸方向に延在する一対の長辺部311,312、及び一対の長辺部311,312の間の一対の短辺部313,314を有する長方形状であり、検出コイル32,33を囲むように配置されている。本実施の形態では、長辺部311,312及び短辺部313,314が、第1の金属層301に配線パターンとして形成されている。一対の短辺部313,314のうち、コネクタ部340側の短辺部313は、第1乃至第4のコネクタ接続部301b,302b,303b,304bを挟む二つの直線部313a,313bからなり、二つの直線部313a,313bのそれぞれの端部が第1の金属層301に形成されたコネクタ接続部301d,301eによって第1のスルーホール341及び第6のスルーホール346に接続されている。
【0033】
なお、励磁コイル31は、第1の金属層301に限らず、第2乃至第4の金属層302~304に何れかに形成されていてもよく、複数層にわたって形成されていてもよい。また、基板3とは別体に励磁コイルが形成されていてもよい。
【0034】
検出コイル32,33には、励磁コイル31によって発生する磁界の磁束が鎖交することにより誘起電圧が発生する。ターゲット2がラックシャフト13よりも透磁率が高い材料からなる場合、ターゲット2に磁束が集中して流れ、基板3においてターゲット2と向かい合う部分の磁束密度が他の部分よりも高くなる。また、ターゲット2がラックシャフト13よりも導電率が高い材料からなる場合、交流磁界によってターゲット2に発生する渦電流により検出コイル32,33に鎖交する磁束の密度が低くなり、基板3においてターゲット2と向かい合う部分の磁束密度が他の部分よりも低くなる。このため、検出コイル32,33に誘起される電圧の大きさが、基板3に対するターゲット2の位置に応じて変化する。なお、ターゲット2の材料としてラックシャフト13よりも透磁率が高いものを用いる場合、電気抵抗が高く渦電流が発生しにくい磁性材料を用いることが望ましい。
【0035】
本実施の形態では、ラックシャフト13の軸方向におけるターゲット2の長さが、基板3の長手方向における検出コイル32,33の長さの半分よりも短く形成されている。検出コイル32,33には、電源部4から励磁コイル31に供給される交流電流の周期と同じ周期の電圧が誘起され、この誘起電圧のピーク値がターゲット2の位置に応じて変化する。なお、ここで電圧のピーク値とは、励磁コイル31に供給される交流電流の1周期分の期間内における電圧の絶対値の極大値をいう。
【0036】
ラックシャフト13が軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に検出コイル32,33のそれぞれに誘起される電圧の位相は、互いに異なっている。本実施の形態では、検出コイル32,33に誘起される電圧の位相が90°異なる。以下、二つの検出コイル32,33のうち、一方の検出コイル32を正弦波形状検出コイル32といい、他方の検出コイル33を余弦波形状検出コイル33という。
【0037】
ターゲット2の磁束が鎖交することによって正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧のピーク値は、ラックシャフト13が軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に、1周期分以下の範囲で変化する。これにより、ストロークセンサ1は、ラックシャフト13が軸方向に移動可能な範囲Rの全体にわたって、ラックシャフト13の絶対位置を検出可能である。
【0038】
図4(a)に示すように、励磁コイル31の一対の短辺部313,314のそれぞれと正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33との間には、一対の短辺部313,314を流れる電流によって発生する磁束によって正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧を抑制する第1及び第2の緩衝領域E,Eが設けられている。図4(a)に示す例では、基板3の長手方向における第1の緩衝領域Eの長さLと第2の緩衝領域Eの長さLとが同じであるが、LとLが異なっていてもよい。
【0039】
ところで、電源部4から供給される交流電流によって発生する励磁コイル31の内側の磁束密度は均一ではなく、部位によってばらつきがある。この磁束密度の不均一性は、ラックシャフト13の位置の検出誤差の要因となる。以下、励磁コイル31の内側の磁束密度について説明し、磁束密度の不均一性に起因する検出誤差を低減するための正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33のそれぞれの形状、及びこの形状による検出誤差の低減効果について説明する。
【0040】
図6(a)は、基板3における励磁コイル31の内側の磁束密度の分布を示すグラフである。図6(b)は、基板3の中心軸線Cに沿った長手方向の磁束密度の分布を示すグラフである。図6(c)は、基板3の長手方向中央部における短手方向の磁束密度の分布を示すグラフである。図6(a)~(c)では、磁束密度を縦軸にデシベル(dB)で示している。また、図6(a)~(c)ならびに後述する図7及び図8では、図4(a)に示す点Oを原点とし、基板3の長手方向の位置をX(mm)で示し、基板3の短手方向の位置をY(mm)で示している。Xの最大値(励磁コイル31の長辺部311,312の長さ)は、250mmであり、Yの最大値(励磁コイル31の短辺部313,314の長さ)は、18mmである。点Oは、励磁コイル31における長辺部312と短辺部313との交点である。
【0041】
図6(a)~(c)に示すように、励磁コイル31の内側では、長辺部311,312及び短辺部313,314の近傍で磁束密度が高く、励磁コイル31の中心部ほど磁束密度が低くなっている。
【0042】
図7は、本実施の形態に係る正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の形状を、基板3の長手方向と短手方向の縮尺を変えて模式的に示す模式図である。正弦波形状検出コイル32を構成する第1の曲線部301a及び第3の曲線部303aは、ラックシャフト13が軸方向に沿って一定の速度で移動したときに正弦波形状検出コイル32に誘起される電圧のピーク値が正弦波状に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状を有している。また、余弦波形状検出コイル33を構成する第2の曲線部302a及び第4の曲線部304aは、ラックシャフト13が軸方向に沿って一定の速度で移動したときに余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧のピーク値が、正弦波形状検出コイル32に誘起される電圧とは位相が90°異なる正弦波状(余弦波状)に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状を有している。
【0043】
図8は、比較例として示す正規正弦波形状検出コイル36及び正規余弦波形状検出コイル37の形状を示す模式図である。正規正弦波形状検出コイル36は、歪みのない正弦波形状の一対の曲線部361,362によって構成されている。正規余弦波形状検出コイル37は、正規正弦波形状検出コイル36の一対の曲線部361,362とは90°位相が異なる歪みのない正弦波形状の一対の曲線部371,372によって構成されている。図7及び図8において、L,Lは、10mmである。
【0044】
図7では、正規正弦波形状検出コイル36の曲線部361,362の形状、及び正規余弦波形状検出コイル37の曲線部371,372の形状を、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に重ねてグレーの曲線で示している。基板3の短手方向における正弦波形状検出コイル32の形状と正規正弦波形状検出コイル36の形状との寸法差ΔYは、正弦波形状検出コイル32の正弦波曲線に対する歪み量である。基板3の短手方向における余弦波形状検出コイル33の形状と正規余弦波形状検出コイル37の形状との寸法差ΔYは、余弦波形状検出コイル33の正弦波曲線に対する歪み量である。正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の歪み量は、基板3の長手方向及び短手方向の両方向において、励磁コイル31に近い位置ほど大きくなっている。
【0045】
図7に示すように、正弦波形状検出コイル32は、励磁コイル31の長辺方向の両端部付近及び中央部付近においてコイル幅が極小値となる。余弦波形状検出コイル33は、励磁コイル31の長辺方向の両端部付近及び中央部付近においてコイル幅が極大値となる。ここで、正弦波形状検出コイル32のコイル幅は、励磁コイル31の短辺方向における第1の曲線部301aと第3の曲線部303aとの間の距離であり、余弦波形状検出コイル33のコイル幅は、励磁コイル31の短辺方向における第2の曲線部302aと第4の曲線部304aとの間の距離である。
【0046】
また、図7に示すように、励磁コイル31の長辺方向の両端部付近における余弦波形状検出コイル33のコイル幅の極大値W331,W332は、励磁コイル31の長辺方向の中央部付近における余弦波形状検出コイル33のコイル幅の極大値W333よりも小さい。これは、励磁コイル31の長辺方向の両端部付近では余弦波形状検出コイル33が励磁コイル31の短辺部313,314に近いためである。余弦波形状検出コイル33におけるコイル幅の極大値W333は、例えば10mmである。
【0047】
次に、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の形状の設定方法について、図9(a)及び(b)を参照して説明する。図9(a)は、図7のa部における第4の曲線部304aの周辺を拡大して示す拡大図であり、図9(b)は、図8のb部における曲線部372の周辺を拡大して示す拡大図である。また、図9(a)では、励磁コイル31に流れる電流によって発生する磁束密度を色の濃淡で表しており、色が濃い部分ほど磁束密度が高いことを示している。図9(b)では、磁束密度が均一である場合を示している。励磁コイル31の中心部における磁束密度は、図9(a)と図9(b)で同じであるものとする。つまり、図9(a)では、励磁コイル31の中心部から励磁コイル31の長辺部311に近づくほど磁束密度が高くなり、図9(b)では、励磁コイル31の中心部から励磁コイル31の長辺部311までの磁束密度が一定である場合を示している。
【0048】
本例では、励磁コイル31の短手方向における微小区間ΔXを想定し、この微小区間ΔXにおける中心軸線Cから第4の曲線部304aまでの磁束密度の積分値が、励磁コイル31の内側の磁束密度が均一である場合の中心軸線Cから曲線部372までの積分値と同じとなるように、当該微小区間ΔXにおける第4の曲線部304aの位置を決定する。この演算処理を励磁コイル31の長辺方向の各微小期間について行い、第4の曲線部304aの形状を定める。また、同様の演算処理を第1乃至第3の曲線部301a,302a,303aについても行い、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の形状を設定する。
【0049】
つまり、正規正弦波形状検出コイル36の曲線部361,362のそれぞれの形状をxの関数であるy(x),y(x)とし、正弦波形状検出コイル32の第1及び第3の曲線部301a,303aのそれぞれの形状をxの関数であるz(x),z(x)とし、磁束密度が均一であるとした場合の磁束密度をBs、磁束密度が不均一な実際の励磁コイル31の内側の磁束密度をB(Bは励磁コイル31の短手方向の位置(y)によって変わる)としたとき、下記式[1]によって求められるDsの値が十分に小さくなるz(x),z(x)を探索して正弦波形状検出コイル32の形状を定める。
【数1】
【0050】
また、正規余弦波形状検出コイル37の曲線部371,372のそれぞれの形状をxの関数であるy(x),y(x)とし、余弦波形状検出コイル33の第2及び第4の曲線部302a,304aのそれぞれの形状をxの関数であるz(x),z(x)としたとき、下記式[2]によって求められるDcの値が十分に小さくなるz(x),z(x)を探索して余弦波形状検出コイル33の形状を定める。
【数2】
【0051】
なお、Ds,Dc=0とした算術演算により、式[1]及び[2]からz(x),z(x),z(x),z(x)を導き出してもよい。また、第1の曲線部301aと第3の曲線部303aは対称な形状であるので、第1の曲線部301a又は第3の曲線部303aの何れかについて形状を設定すれば、その形状を反転して他方の形状を設定することができる。同様に、第2の曲線部302a又は第4の曲線部304aの何れかについて形状を設定すれば、その形状を反転して他方の形状を設定することができる。
【0052】
(ストロークセンサ1の動作)
次に、基板3に対するターゲット2の位置を検出するためのストロークセンサ1の動作及び効果について、図10乃至図14を参照して説明する。なお、以下の説明において、ターゲット2の位置とは、基板3の長手方向におけるターゲット2の中央部の位置をいう。
【0053】
図10は、基板3の長手方向におけるX=50mmの位置付近にターゲット2がある場合において、電源部4から励磁コイル31に供給される供給電圧Vと、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧V及び余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧Vとの関係を示すグラフである。図10のグラフの横軸は時間軸であり、左右の縦軸に供給電圧V及び誘起電圧V,Vを示している。
【0054】
図10に示す例では、励磁コイル31に供給される供給電圧Vと、正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧V,Vとが同相であるが、基板3の長手方向におけるターゲット2の位置がX=125mmよりも図7の右側になると、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧Vが励磁コイル31に供給される供給電圧Vと逆相となる。また、余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧Vは、第2の曲線部302aと第4の曲線部304aとがクロスする位置をターゲット2が通過するたびに同相と逆相とが切り替わる。励磁コイル31には、例えば1MHzから1GHz程度の高周波の交流電圧が供給電圧Vとして供給される。
【0055】
図11は、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧Vのピーク値であるピーク電圧Vsと、ターゲット2の位置との関係を模式的に示す説明図である。図12は、余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧Vのピーク値であるピーク電圧Vcと、ターゲット2の位置との関係を模式的に示す説明図である。図11及び図12に示すピーク電圧Vs,Vcのグラフでは、横軸にターゲット2の位置を示している。
【0056】
ストロークセンサ1は、基板3の長手方向における正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の長さLから同方向のターゲット2の長さLを減算した軸方向範囲Rで、ターゲット2の絶対位置を検出可能である。図11及び図12に示すグラフでは、ターゲット2が軸方向範囲Rの一方の端部(コネクタ部340側の端部)にあるときの横軸座標をPとし、ターゲット2が軸方向範囲Rの他方の端部にあるときの横軸座標をPとして、各位置におけるピーク電圧Vs,Vcを示している。
【0057】
また、図11及び図12に示すグラフにおいて、正弦波形状検出コイル32のピーク電圧Vsは、正弦波形状検出コイル32に誘起される誘起電圧Vが励磁コイル31に供給される電圧Vと同相であるときを正値とし、逆相であるときを負値とする。同様に、余弦波形状検出コイル33のピーク電圧Vcは、余弦波形状検出コイル33に誘起される誘起電圧Vが励磁コイル31に供給される電圧Vと同相であるときを正値とし、逆相であるときを負値とする。
【0058】
ここで、ωxを式[3]のように定義すると、ピーク電圧Vs,Vcは、図7に示すグラフにおけるターゲット2の横軸座標の座標値をXpとして、式[4]及び[5]によってそれぞれ求められる。なお、式[4]及び[5]におけるAは、所定の定数である。
【数3】
【数4】
【数5】
式[4]及び[5]より、図11及び図12に示すグラフにおけるターゲット2の座標値Xpは、式[6]によって求められる。つまり、演算部5は、ピーク電圧Vs,Vcに基づいて、ターゲット2の位置を演算によって求めることができる。
【数6】
【0059】
図13及び図14は、図7に示す形状の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33を用いた場合と、図8に示す形状の正規正弦波形状検出コイル36及び正規余弦波形状検出コイル37を用いた場合について、電磁界シミュレーションを用いてターゲット2の位置検出精度を評価した結果を示すグラフである。図13及び図14のグラフでは、横軸がターゲット2の実際の位置を示している。図13のグラフの縦軸は、上記の演算結果に基づくターゲット2の位置を示している。また、図14のグラフの縦軸は、ターゲット2の位置を検出可能な軸方向範囲Rの全長に対するターゲット2の位置の検出誤差の割合を示している。
【0060】
図13及び図14に示すように、図7に示す本実施の形態の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33を用いた場合には、比較例に係る図8に示す形状の正規正弦波形状検出コイル36及び正規余弦波形状検出コイル37を用いた場合に比較して、高い精度でターゲット2の位置を検出できている。本実施の形態の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33を用いた場合の図14に示すグラフにおけるプラス方向の検出誤差の割合の最大値は0.05%であり、マイナス方向の検出誤差の割合の最大値は-0.10%である。すなわち、本実施の形態では、検出誤差の大きさが0.10%以下に抑えられている。
【0061】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るストロークセンサ1では、ラックシャフト13の位置を高精度に検出することが可能である。また、本実施の形態に係るストロークセンサ1では、励磁コイル31の内側における磁束密度の不均一性による影響を抑えるように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状の第1乃至第4の曲線部301a,302a,303a,304aを有する正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33を用いることで、励磁コイル31の大型化を抑制しながらも検出精度を高めることが可能である。
【0062】
(正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の変形例)
図15及び図16は、第1の緩衝領域Eの長さLと第2の緩衝領域Eの長さLを変えた場合の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の形状の例を示している。図15は、L,Lを3mmとした場合の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の最適形状を示している。図16は、L,Lを1mmとした場合の正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の最適形状を示している。これらの変形例によっても、上記と同様の効果が得られる。
【0063】
(ターゲット2の変形例)
図17は、変形例に係るターゲット2Aの構成例を、シャフト13、基板3、及びハウジング14と共に示す分解斜視図である。上記の実施の形態では、シャフト13の外周面13aから基板3側に向かって突出するようにターゲット2を配置し、励磁コイル31の交流磁界によってターゲット2に発生する渦電流によりターゲット2に向かい合う部分の検出コイル32,33に鎖交する磁束の密度が低くなるようにストロークセンサ1を構成した場合について説明した。図17に示す変形例では、シャフト13の軸方向におけるターゲット2Aの長さが正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33よりも長く、ターゲット2Aに凹部20が形成されている。凹部20は、ターゲット2Aにおける基板3との対向面2aから基板3に対して垂直な方向に窪んで形成されている。
【0064】
凹部20は、基板3の短手方向に沿ってターゲット2Aの両側面2b,2cの間を横断するように形成されている。凹部20の底面20aは、対向面2aと平行な平面であり、凹部20の両端面20b,20cが底面20aを挟んでラックシャフト13の軸方向に沿って向かい合っている。対向面2aに対して垂直な方向における凹部20の深さは、例えば5mmである。ターゲット2Aは、上記の実施の形態におけるターゲット2と同様、ラックシャフト13よりも透磁率が高い材料、又はラックシャフト13よりも導電率が高い材料からなる。
【0065】
ラックシャフト13が軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間、常に凹部20の底面20aが基板3の表面3aに向かい合い、凹部20が形成された部分以外では、ターゲット2Aの対向面2aが基板3の表面3aに向かい合う。正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33の長さLに対するラックシャフト13の軸方向における凹部20の長さの割合をuとしたとき、演算部5は、(1-u)Lの長さの範囲でラックシャフト13の位置を求めることができる。ラックシャフト13の軸方向における検出ターゲット2の長さは、2(1-u)L以上である。
【0066】
この変形例に係るターゲット2Aを用いた場合でも正弦波形状検出コイル32及び余弦波形状検出コイル33に誘起される電圧の大きさが、基板3に対するターゲット2の位置に応じて変化し、上記の実施の形態と同様に、ターゲット2の位置を演算によって求めることができる。
【0067】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0068】
[1]軸方向に進退移動するシャフト(13)の位置を検出する位置検出装置(1)であって、前記シャフト(13)に固定された検出体(ターゲット2,2A)と、交流磁界を発生させる励磁コイル(31)と、前記励磁コイル(31)に交流電流を供給する電源部(4)と、前記シャフト(13)の軸方向に沿って延在して配置され、前記交流磁界の磁束が鎖交する検出コイル(32,33)と、を備え、前記励磁コイル(31)は、前記検出コイル(32,33)を囲むように配置され、前記検出コイル(32,33)は、前記シャフト(13)が軸方向に沿って一定の速度で移動したときに当該検出コイル(32,33)に誘起される電圧のピーク値が正弦波状に変化するように、正弦波曲線に対して歪んだ歪み形状の曲線部を有して形成されている、位置検出装置(1)。
【0069】
[2]前記検出コイル(32,33)は、前記励磁コイル(31)に近い位置ほど正弦波曲線に対する歪み量が大きくなっている、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0070】
[3]前記検出コイル(32,33)に誘起される電圧のピーク値が、前記シャフト(13)が軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に1周期分以下の範囲で変化する、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0071】
[4]前記検出コイル(32,33)は、前記シャフト(13)の軸方向に対して平行な対称軸線に対して対称な一対の前記曲線部(301a,302a,303a,304a)を有している、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0072】
[5]二つの前記検出コイル(32,33)を備え、前記シャフト(13)が軸方向の一方の移動端から他方の移動端まで移動する間に当該複数の前記検出コイル(32,33)のそれぞれに誘起される電圧の位相が互いに異なっている、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0073】
[6]前記励磁コイル(31)は、前記シャフト(13)の軸方向に延在する一対の長辺部(311,312)、及び前記一対の長辺部(311,312)の間の一対の短辺部(313,314)を有する長方形状であり、二つの前記検出コイル(32,33)のうち一方の前記検出コイル(33)は、前記励磁コイル(31)の長辺方向の両端部付近及び中央部付近において前記励磁コイル(31)の短辺方向の幅が極大値となり、前記励磁コイル(31)の前記両端部付近における前記一方の前記検出コイル(33)の幅の極大値(W331,W332)が、前記励磁コイル(31)の前記中央部付近における前記一方の前記検出コイル(33)の幅の極大値(W333)よりも小さい、上記[5]に記載の位置検出装置(1)。
【0074】
[7]二つの前記検出コイル(32,33)のうち他方の前記検出コイル(32)は、前記励磁コイル(31)の前記両端部付近及び前記中央部付近において、前記励磁コイル(31)の短辺方向の幅が極小値となる、上記[6]に記載の位置検出装置(1)。
【0075】
[8]前記励磁コイル(31)及び二つの前記検出コイル(32,33)が1枚の基板(3)に形成されている、上記[5]乃至[7]の何れかに記載の位置検出装置(1)。
【0076】
[9]前記シャフト(13)が車両のステアリング装置(10)のラックシャフト(13)である、上記[1]に記載の位置検出装置(1)。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0078】
1…ストロークセンサ(位置検出装置) 2,2A…ターゲット
3…基板 301a…第1の曲線部
302a…第2の曲線部 303a…第3の曲線部
304a…第4の曲線部 4…電源部
13…ラックシャフト(シャフト) 31…励磁コイル
311,312…長辺部 313,314…短辺部
32…正弦波形状検出コイル 33…余弦波形状検出コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17