(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174816
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】酸化物半導体膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/365 20060101AFI20231201BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20231201BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L21/368 Z
C23C16/40
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178122
(22)【出願日】2023-10-16
(62)【分割の表示】P 2019114320の分割
【原出願日】2019-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4K030AA02
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4K030LA12
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(57)【要約】
【課題】
酸化物半導体膜の電気抵抗率のバラつきを低減するために、成膜後にも電気抵抗を調整可能な酸化物半導体膜を提供することを目的とする。
【解決手段】
ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜であって、ドーパント元素と、金属として少なくともガリウムを含み、膜厚が1μm以上であり、熱処理されることで電気抵抗率が上昇するものである酸化物半導体膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の製造方法であって、
少なくともドーパント元素を含有し酸化剤が混合された第一の水溶液と、金属として少なくともガリウムを含有する第二の水溶液をそれぞれ作製し、
作製した前記第一の水溶液と、作製した前記第二の水溶液を混合して第三の水溶液を作製し、
前記第三の水溶液を霧化又は液滴化して生成されるミストを、キャリアガスを用いて基板まで搬送し、前記基板上で前記ミストを熱反応させて前記酸化物半導体膜を成膜することを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤を過酸化水素とすることを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項3】
ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の製造方法であって、
少なくとも酸が混合されイオン化したドーパント元素を含有する第一の水溶液と、金属として少なくともガリウムを含有する第二の水溶液をそれぞれ作製し、
作製した前記第一の水溶液と、作製した前記第二の水溶液を混合して第三の水溶液を作製し、
前記第三の水溶液を霧化又は液滴化して生成されるミストを、キャリアガスを用いて基板まで搬送し、前記基板上で前記ミストを熱反応させて前記酸化物半導体膜を成膜することを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項4】
前記熱反応により1μm以上の膜厚を有する前記酸化物半導体膜を成膜することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項5】
前記ドーパント元素として、スズ(Sn)を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項6】
前記基板として、成膜面の面積が100mm2以上のものを用いることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の酸化物半導体膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜、酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法及び酸化物半導体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の作製が可能となってきた。α-Ga2O3は、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失及び高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0003】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【0004】
特許文献6には、ミストCVD法により作製される酸化ガリウムが300nm程度の厚さで形成された場合、加熱工程を行った場合に導電性薄膜の高抵抗化の問題が生じること、結晶性酸化物薄膜を厚さ1μm以上にまで形成すると、加熱工程を行った場合の、導電性薄膜の高抵抗化を抑制することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-257337号公報
【特許文献2】特開2005-307238号公報
【特許文献3】特開2012-46772号公報
【特許文献4】特許第5397794号公報
【特許文献5】特開2014-63973号公報
【特許文献6】特開2015-199648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
α-Ga2O3のような酸化物半導体膜を半導体装置として利用するためには、電気抵抗の制御が重要である。しかしながら、ミストCVD法で厚膜を得ようとすると、スループットとの兼ね合いから細かい制御が難しく、得られる膜の電気抵抗率に少なからずバラつきが生じていた。この結果、得られる半導体装置の特性にバラつきが生じる一因となっていた。
【0007】
また、特許文献6の実施例に開示されている方法は原料溶液中へのスズの混合量が多いため、スズが結晶格子間に取り込まれるなどして、得られた膜の結晶性が悪くなってしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜後にも電気抵抗率を調整可能な酸化物半導体膜及び該酸化物半導体膜の製造方法を提供することを目的とする。また、成膜後に電気抵抗率を所望の値に調整可能な酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜であって、ドーパント元素と、金属として少なくともガリウムを含み、膜厚が1μm以上であり、熱処理されることで電気抵抗率が上昇するものである酸化物半導体膜を提供する。
【0010】
このような酸化物半導体膜によれば、簡便に、また、確実に電気抵抗率の調整が可能なものとなる。
【0011】
このとき、前記熱処理の温度は350℃以上とすることができる。
【0012】
これにより、得られた膜の電気抵抗率を、より確実に上昇させることができるものとなる。
【0013】
このとき、前記ドーパント元素として、スズ(Sn)を含むものとすることができる。
【0014】
これにより、得られた膜の電気抵抗率を、より確実に上昇させることができるものとなる。
【0015】
このとき、前記酸化物半導体膜の面積が100mm2以上のものであることができる。
【0016】
これにより、簡便、確実に電気抵抗の調整が可能な大面積の酸化物半導体膜となる。
【0017】
このとき、上記酸化物半導体膜を含む半導体装置を提供することができる。
【0018】
本発明は、さらに、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法であって、1μm以上の膜厚を有し、ドーパント元素と、金属として少なくともガリウムを含む前記酸化物半導体膜に対し熱処理を行うことで、電気抵抗率を上昇させて所望の値とする酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法を提供する。
【0019】
このような酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法によれば、成膜後であっても電気抵抗率の調整が可能であるため、所望の電気抵抗率よりも低く製造された場合でも、熱処理により抵抗を上昇させ所望の範囲内に調整することが可能となり、歩留まりを向上することができる。また、その後のプロセスで受ける熱履歴による電気抵抗率の変動を抑制することもできる。
【0020】
このとき、前記熱処理の温度を350℃以上とすることができる。
【0021】
このような温度範囲で熱処理を行えば、比較的短時間でより確実に酸化物半導体膜の電気抵抗率を上昇させることができる。
【0022】
このとき、前記ドーパント元素として、スズ(Sn)を含むものとすることができる。
【0023】
これにより、酸化物半導体膜の電気抵抗率をより確実に上昇させることができる。
【0024】
このとき、前記酸化物半導体膜の面積が100mm2以上のものを用いることができる。
【0025】
これにより、大面積の酸化物半導体膜の電気抵抗率を、簡便、確実に調整することができる。
【0026】
本発明は、また、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の製造方法であって、少なくともドーパント元素を含有する第一の水溶液と、金属として少なくともガリウムを含有する第二の水溶液をそれぞれ作製し、作製した前記第一の水溶液と、作製した前記第二の水溶液を混合して第三の水溶液を作製し、前記第三の水溶液を霧化又は液滴化して生成されるミストを、キャリアガスを用いて基板まで搬送し、前記基板上で前記ミストを熱反応させて前記酸化物半導体膜を成膜する酸化物半導体膜の製造方法を提供する。
【0027】
このような酸化物半導体膜の製造方法によれば、溶液中のドーパント量の細かい制御が可能となり、得られる酸化物半導体膜の特性の再現性が高くなる。また、膜質の良好な酸化物半導体膜を得ることができる。さらに、膜厚1μm以上の酸化物半導体膜を成膜したときに、熱処理されることで電気抵抗率が上昇する酸化物半導体膜を得ることができる。
【0028】
このとき、熱反応により1μm以上の膜厚を有する酸化物半導体膜を成膜することができる。
【0029】
これにより、熱処理したときに電気抵抗率を上昇させることが可能な、膜質の良好な酸化物半導体膜を得ることができる。
【0030】
このとき、ドーパント元素として、スズ(Sn)を用いることができる。
【0031】
これにより、熱処理したときにより確実に電気抵抗率を上昇させることができる酸化物半導体膜を得ることができる。
【0032】
このとき、基板として成膜面の面積が100mm2以上のものを用いることができる。
【0033】
これにより、簡便、確実に電気抵抗率の調整が可能であり、膜質の良い大面積の酸化物半導体膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明の酸化物半導体膜によれば、成膜後に簡便かつ確実に電気抵抗率の調整が可能なものとなり、電気抵抗率のバラツキを小さくすることが可能となる。また、本発明の酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法によれば、成膜後であっても電気抵抗率の調整が可能であるため、所望の電気抵抗率よりも低く製造された場合でも、熱処理により抵抗を上昇させ所望の範囲内に調整することが可能となり、バラツキの低減、歩留まりの向上や、その後のプロセスで受ける熱履歴による電気抵抗率の変動を抑制することが可能となる。さらに、本発明の酸化物半導体膜の製造方法によれば、熱処理されることで電気抵抗率が上昇する膜厚1μm以上の酸化物半導体膜を製造することができるとともに、得られる膜の特性の再現性を高くでき、さらに、膜質の良好な酸化物半導体膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法に用いる成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】成膜装置におけるミスト化部の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
上述のように、酸化物半導体膜の電気抵抗率のバラつきを低減するために、成膜後にも電気抵抗率を調整可能な酸化物半導体膜、該酸化物半導体膜の製造方法及び酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法が求められていた。
【0038】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜であって、ドーパント元素と、金属として少なくともガリウムを含み、膜厚が1μm以上であり、熱処理されることで電気抵抗率が上昇するものである酸化物半導体膜により、簡便かつ確実に電気抵抗率の調整が可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0039】
本発明者は、また、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法であって、1μm以上の膜厚を有し、ドーパント元素と、金属として少なくともガリウムを含む前記酸化物半導体膜に対し熱処理を行うことで、電気抵抗率を上昇させて所望の値とする酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法により、成膜後であっても電気抵抗率の調整が可能であるため、所望の電気抵抗率よりも低く製造された場合でも、熱処理により抵抗を上昇させ、所望の範囲内に調整することが可能となり、歩留まりを向上することや、その後のプロセスで受ける熱履歴による電気抵抗率の変動を抑制することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0040】
本発明者は、さらに、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜の製造方法であって、少なくともドーパント元素を含有する第一の水溶液と、金属として少なくともガリウムを含有する第二の水溶液をそれぞれ作製し、作製した前記第一の水溶液と、作製した前記第二の水溶液を混合して第三の水溶液を作製し、前記第三の水溶液を霧化又は液滴化して生成されるミストを、キャリアガスを用いて基板まで搬送し、前記基板上で前記ミストを熱反応させて1μm以上の膜厚を有する前記酸化物半導体膜を成膜する酸化物半導体膜の製造方法により、熱処理されることで電気抵抗率が上昇する膜厚1μm以上の酸化物半導体膜を製造することができるとともに、得られる膜の特性の再現性を高くでき、さらに、膜質の良好な酸化物半導体膜を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0041】
以下、図面を参照して説明する。
【0042】
(酸化物半導体膜)
本発明に係る酸化物半導体膜は、ガリウムを主成分とする酸化物半導体膜であって、当該膜の膜厚は1μm以上であり、熱処理されることで電気抵抗率が上昇するものである。一般に酸化物半導体膜は金属と酸素から構成されるが、本発明に係る酸化物半導体膜においては、金属としてガリウムを主成分としていればよい。なお、本発明において「ガリウムを主成分とする」とは、金属成分のうち50~100%がガリウムであることを意味する。ガリウム以外の金属成分としては、例えば、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含んでもよい。
【0043】
酸化物半導体膜中には、電気抵抗率調整のためのドーパント元素が含まれている。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。前記ドーパントは特に限定されないが、特にスズ(Sn)を用いると、より確実に得られた膜の電気抵抗率を上昇させることができるものとなる点で好ましい。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよく、約1×1017/cm3以下の低濃度としても、約1×1020/cm3以上の高濃度としてもよい。
【0044】
酸化物半導体膜は、単結晶でも多結晶でもよい。その結晶構造は特に限定されず、βガリア構造であってもよいし、コランダム構造であってもよいし、複数の結晶構造が混在していてもかまわない。また、アモルファスでもかまわない。
【0045】
本発明に係る酸化物半導体膜においては、酸化物半導体膜の膜厚は1μm以上であるが、上限値は特に限定されない。例えば、100μm以下であってよく、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは20μm以下とすることができる。また、酸化物半導体膜は基板を有しない自立膜であってもよく、基板との積層体でも構わない。積層体の場合、基板と酸化物半導体膜の間に別の層が介在しても構わない。別の層とは、基板ならびに最表層の酸化物半導体膜と組成が異なる層であり、例えば、酸化物半導体膜、絶縁膜、金属膜等、いずれでも構わない。
【0046】
(熱処理)
本発明に係る酸化物半導体膜は、熱処理されることで電気抵抗率が上昇するものである。このとき、熱処理の条件は特に限定されない。熱処理の温度は、350℃以上とすることが好ましい。このような温度範囲であれば、数分~数十分程度の短時間で電気抵抗率を上昇させることができる。熱処理温度の上限は特に限定されないが、後工程の半導体装置製造工程における最高温度以下とすることが好ましい。例えば、1100℃以下とすることができるが、温度が高くなるほど熱処理に要する合計時間が長くなるため、1000℃以下とすることが好ましく、700℃以下とすることがより好ましい。
【0047】
熱処理の雰囲気も特に限定されず、どのような雰囲気でも酸化物半導体膜の電気抵抗率を上昇させることができる。例えば、空気(大気)雰囲気での熱処理とすれば、ホットプレートなどを用いて極めて容易に熱処理が行える点で、好ましい。また、雰囲気を不活性ガスとすれば、膜質の変化の恐れがない点で好ましい。
【0048】
熱処理時間も特に限定されないが、1分以上の熱処理時間とすることが好ましく、5分以上であれば確実に電気抵抗率を上昇させることができるため、より好ましい。上限は特に限定されない。例えば、60分以下とすることができる。
【0049】
電気抵抗率を上昇させるための熱処理は、ホットプレート、オーブンのような簡易的な加熱装置を用いることができるが、半導体基板の熱処理を行う熱処理装置(例えば、RTA装置等)を使用できることは言うまでもない。
【0050】
熱処理により電気抵抗率が上昇する現象は、定性的には以下のように理解される。電気伝導に寄与する電子は、スズ(Sn)などのドーパント原子がガリウム原子の格子位置を置換することで発生する。この状態は、ドーパント原子と酸素原子との結合が化学量論比に従っておらず、比較的不安定な状態と考えられる。これを熱処理すると、ドーパント原子と酸素原子が化学量論比に従って結合するようになり、結果として伝導電子は酸素原子近傍に束縛されることになり、電気抵抗率が上昇すると考えられる。
【0051】
なお、酸化物半導体膜の電気抵抗率は、シート抵抗と膜厚の積で得られる。シート抵抗は、四探針抵抗率測定器などで測定することができる。また、膜厚はエリプソメータや干渉式の膜厚計による光学的な測定の他、触針式段差計や膜断面を電子顕微鏡等で観察し直接測定することも可能である。
【0052】
(成膜装置)
次に、本発明に係る酸化物半導体膜の製造について述べる。まず、本発明に係る酸化物半導体膜を製造可能な成膜装置について説明する。
図1に、本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法に使用可能な成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基板110上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。
【0053】
なお、ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0054】
(原料溶液)
原料溶液104aは、金属源として少なくともガリウムと、電気抵抗率調整のためのドーパント元素を含む、ミスト化が可能な材料である。原料溶液104aの詳細については、後述の原料溶液の作製方法において説明する。
【0055】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、原料溶液104aを調整し、原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液104aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0056】
このようなミスト化部120の一例を
図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0057】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0058】
(成膜部)
成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基板110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基板110が設置されており、該基板110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、
図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基板110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられてもよい。
【0059】
また、基板110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基板110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
【0060】
(基板)
基板110は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基板110の材料も、特に限定されず、公知の基板を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。基板110の厚さは特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。また基板110の面積は100mm2以上が好ましく、より好ましくは口径が2インチ(50mm)以上である。
【0061】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aを有し、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガス(以下、「主キャリアガス」という)の流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bや、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
【0062】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。
【0063】
なお、本明細書においては、キャリアガスの流量Qは、キャリアガスの総流量を指す。上記の例では、キャリアガス源102aから送り出される主キャリアガスの流量と、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量の総量を、キャリアガスの流量Qとする。
【0064】
キャリアガスの流量Qは成膜室や基板の大きさによって適宜決められるが、通例1~20L/minであり、好ましくは2~10L/minである。
【0065】
次に、本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法を説明する。
【0066】
(原料溶液の作製方法)
本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法では、少なくともドーパント元素を含有する第一の水溶液と、少なくともガリウムを含有する第二の水溶液とを、それぞれ別々に作製しておき、作製した前記第一の水溶と、作製した前記第二の水溶液とを混合して第三の水溶液を作製することに特徴を有する。
【0067】
第一の水溶液には、少なくともドーパント元素を含有する。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。前記ドーパントは特に限定されないが、スズ(Sn)であることが好ましい。また、前記ドーパント元素はイオン化していることが好ましい。従って、第一の水溶液に酸を混合してドーパント元素の溶解を促進させてもよい。前記酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などのハロゲン化水素、次亜塩素酸、亜塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸等のハロゲンオキソ酸、蟻酸等のカルボン酸、硝酸、等が挙げられる。なお、溶解の促進には、加熱したり超音波を与えるのも有効である。溶質濃度は0.01~10%が好ましい。溶質が二価のスズ(Sn(II))の場合は、過酸化水素を混合することで酸化反応を行い、四価のスズ(Sn(IV))に変化させることができる。さらに、過酸化水素の量を調整することで、Sn(II)とSn(IV)の量を制御することができる。
【0068】
第二の水溶液には、少なくともガリウムを含んでいれば特に限定されない。すなわち、ガリウムの他、例えば、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、イリジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含んでもよい。金属を錯体又は塩の形態で、水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。溶質濃度は0.01~1mol/Lとすることが好ましい。
【0069】
そして、ドーパント元素が所望の濃度となるように、第二の水溶液に、別に作製しておいた第一の水溶液を混合し、第三の水溶液を得る。このようにして得られた第三の水溶液が原料溶液104aである。ガリウムの量に比べドーパントの使用量は極僅かであるため、このようにして原料溶液の作製を行うと、精密な濃度調整が容易で確実となる。すなわち、熱処理により電気抵抗率が上昇する酸化物半導体膜を製造でき、さらに、得られる膜の電気抵抗率の精度や、得られる膜の特性の再現性、膜質が向上する。また、溶液に過酸化水素などの酸化剤を混合すると、ヨウ化水素、臭化水素等の還元性の物質は酸化されてしまい、溶質が分散しなくなるといった問題が生じるが、本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法では、前記のように、第一の水溶液の段階で過酸化水素を混合し反応させておくことができ、こういった問題は発生しない。このため、原料溶液の安定性が向上し、成膜時の原料供給トラブルの抑制、得られる膜の品質の安定化等、生産性、歩留まりを向上することもできる。
【0070】
(成膜方法)
まず、上記のようにして作製した原料溶液104aを、ミスト化部120のミスト発生源104内に収容し、基板110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。
【0071】
次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節し、キャリアガス流量Qを制御する。
【0072】
ミストを発生させる工程では、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。次に、ミストをキャリアガスにより搬送する工程では、ミストがキャリアガスによってミスト化部120から搬送部109を経て成膜部140へ搬送され、成膜室107内に導入される。成膜を行う工程で、成膜室107内に導入されたミストは、成膜室107内でホットプレート108の熱により熱処理され熱反応して、基板110上に成膜される。
【0073】
熱反応により、厚さ1μm以上の酸化物半導体膜を成膜することができる。このようにすると、熱処理したときに電気抵抗率を上昇させることが可能な、膜質の良好な酸化物半導体膜を得ることができる。熱反応では、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は100~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0074】
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下又は減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0075】
(剥離)
成膜して得られた酸化物半導体膜を自立膜とする場合には、下地として用いた基板110を、酸化物半導体膜から剥離することができる。剥離手段(方法)は特に限定されず、公知の手段であってもよい。剥離手段(方法)としては例えば、機械的衝撃を与えて剥離する手段、熱を加えて熱応力を利用して剥離する手段、超音波等の振動を加えて剥離する手段、エッチングして剥離する手段、レーザーリフトオフなどが挙げられる。前記剥離によって、前記酸化物半導体膜を自立膜として得ることができる。
【0076】
(電気抵抗率の調整方法)
本発明に係る酸化物半導体膜の電気抵抗率調整方法では、作製した1μm以上の膜厚を有する酸化物半導体膜に対し熱処理を行うことで電気抵抗率を上昇させ、所望の値とする。これにより、例えば、所望の電気抵抗率より低い膜が得られた場合であっても、熱処理により電気抵抗率を調整でき、所望の電気抵抗率を有する酸化物半導体膜を得ることができる。また、酸化物半導体膜の電気抵抗率が所望の値よりも低めとなるようにして成膜しておき、熱処理により電気抵抗率を所望の範囲内とすれば、その後の半導体装置製造等のプロセスで受ける熱履歴による電気抵抗率の変動を抑制することもできる。なお、電気抵抗率を上昇させる熱処理は、すでに説明したとおりである。
【0077】
(半導体装置)
本発明に係る酸化物半導体膜は、適宜構造設計を行うことで、半導体装置に利用できる。例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、発光ダイオード(LED)などそれぞれの半導体層を構成することができる。
【0078】
(電極)
半導体装置を構成するために必要となる電極の形成は、一般的な方法を用いることができる。すなわち、蒸着、スパッタ、CVD、めっきなどの他、樹脂等と一緒に接着させる印刷法など、いずれを用いてもかまわない。電極材料としては、Al、Ag、Ti、Pd、Au、Cu、Cr、Fe、W、Ta、Nb、Mn、Mo、Hf、Co、Zr、Sn、Pt、V、Ni、Ir、Zn、In、Ndなどの金属の他、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはポリピロールなどの有機導電性化合物、いずれを用いてもかまわないし、これらの2種以上の合金、混合物でもかまわない。電極の厚さは、1~1000nmが好ましく、より好ましくは、10~500nmとすることができる。
【実施例0079】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0080】
(比較例1)
上述の成膜方法に基づいて、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の成膜を行った。
【0081】
具体的には、まず、第一の水溶液として、塩化スズ1%の水溶液を作製した。塩化スズは水に難溶のためこれに35%塩酸を2%混合し、第一の水溶液とした。第二の水溶液として、臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させた。第二の水溶液0.5Lに対し、第一の水溶液を2.2mL混合し、これを原料溶液104aとした。
【0082】
上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。次に、基板110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置し、ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。
【0083】
続いて、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスとして窒素ガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量を2L/minに、希釈用キャリアガスの流量を5L/minにそれぞれ調節した。すなわち、キャリアガス流量Q=7L/minとした。
【0084】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109aを経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基板110上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は15分とした。
【0085】
得られたα-Ga2O3薄膜の膜厚を、FILMETRICS社の干渉式膜厚計F-50を用い測定したところ、膜厚は0.8μmであった。また、シート抵抗を、ナプソン社製四探針抵抗率測定器RT-3000/RG-80を用いて測定したところ、シート抵抗は11.6MΩとなった。従って、電気抵抗率は928Ωcmと算出された。
【0086】
得られたα-Ga2O3薄膜を、350℃で10分間、空気雰囲気下で熱処理した。この後、シート抵抗を測定し電気抵抗率を算出したところ、4680Ωcmとなり、電気抵抗率が約5倍になっていることが確認できた。
【0087】
(実施例1)
成膜時間を30分としたこと以外は、比較例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は1.7μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、1.6Ωcm、8.1Ωcmとなり、この場合も約5倍の電気抵抗率の上昇が確認された。
【0088】
(実施例2)
熱処理温度・時間を400℃・5分としたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、1.8Ωcm、8.8Ωcmとなった。
【0089】
(実施例3)
熱処理温度・時間を500℃・2分としたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、1.7Ωcm、8.3Ωcmとなった。
【0090】
(実施例4)
第一の水溶液として、酸化ゲルマニウム5%の水溶液を作製した。酸化ゲルマニウムの溶解促進のためこれに48%臭化水素を10%混合し、第一の水溶液とした。第二の水溶液として、臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させた。第二の水溶液0.5Lに対し、第一の水溶液を5.0mL混合し、これを原料溶液104aとした。以降は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は1.7μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率はそれぞれ9.7Ωcm、52Ωcmとなった。
【0091】
(実施例5)
成膜時間を60分としたこと以外は、実施例4と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は3.3μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、0.065Ωcm、0.31Ωcmとなった。
【0092】
(実施例6)
第一の水溶液として、臭化スズ10%の水溶液を作製した。これに48%臭化水素を10%混合し、第一の水溶液とした。第二の水溶液として、臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させた。第二の水溶液0.5Lに対し、第一の水溶液を10.0mL混合し、これを原料溶液104aとした。以降は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は1.7μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、0.052Ωcm、0.34Ωcmとなった。
【0093】
(実施例7)
成膜時間を60分としたこと以外は、実施例6と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は3.4μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率は、それぞれ、0.074Ωcm、0.49Ωcmとなった。
【0094】
(実施例8)
第一の水溶液として、塩化スズ1%の水溶液を作製した。これに48%臭化水素を10%および過酸化水素をスズと等モルとなるよう混合し、第一の水溶液とした。第二の水溶液として、ヨウ化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに57%ヨウ化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させた。第二の水溶液0.5Lに対し、第一の水溶液を2.2mL混合し、これを原料溶液104aとした。以降は実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。この結果、膜厚は3.2μmとなった。熱処理前後の電気抵抗率はそれぞれ2.1Ωcm、9.9Ωcmとなった。
【0095】
(比較例2)
ドーパントを含有する水溶液と、ガリウムを含有する水溶液とを別々に作製せず、初めから混合した溶液とした。原料溶液104aとして、ヨウ化ガリウム0.1mol/Lの水溶液に48%臭化水素を10%、および、塩化スズをガリウムとの原子数比が実施例8と同じになるよう混合した。さらに、過酸化水素をスズと等モルとなるよう混合したところ、溶液は無色から褐色へ変化してしまい、沈殿物も確認された。この溶液を用い、実施例8と同様の成膜処理を行ったが、成膜されなかった。
【0096】
実施例1-8及び比較例1,2の結果を、表1に示す。
【0097】
【0098】
表1に示すとおり、膜厚を0.8μmとした比較例1では、特許文献6にも記載されているように、熱処理により膜の電気抵抗率が高くなった。一方、実施例1-8では、特許文献6において熱処理により電気抵抗率が低下するとされる膜厚が1μm以上の膜の場合でも、熱処理を行うことにより電気抵抗率を高くすることができた。
【0099】
比較例2では、ドーパントを含有する水溶液と、ガリウムを含有する水溶液とを別々に作製しなかったため、過酸化水素の混合により原料溶液の分散性が低下し、成膜そのものができない結果となった。ドーパントを含有する水溶液と、ガリウムを含有する水溶液とを別々に作製した実施例8では、原料溶液の分散性が維持されていた。本発明に係る酸化物半導体膜の製造方法によれば、過酸化水素の使用も可能となる。
【0100】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。