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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174881
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ポート部材及びバッグ
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20231201BHJP
【FI】
A61J1/05 315B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179715
(22)【出願日】2023-10-18
(62)【分割の表示】P 2019095946の分割
【原出願日】2019-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019001653
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】鳥屋部 果穂
(72)【発明者】
【氏名】美尾 篤
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA11
4C047AA40
4C047BB12
4C047BB13
4C047BB17
4C047BB22
4C047BB24
4C047BB26
4C047BB29
4C047CC05
4C047DD02
4C047DD03
4C047GG06
(57)【要約】
【課題】針体の抜き差しを行っても栓体の位置ずれを抑制することが可能なポート部材及びこれを備えたバッグを提供する。
【解決手段】バッグに設けられるポート部材10であって、中空の筒体12と、筒体12の中に保持された弾性体からなる栓体11とを有し、栓体11は、バッグの内容物を通過させるための針体を厚さ方向に、栓体11の外表面11aから内面11bまで刺通させることが可能であり、栓体11は、筒体12の内面に接する外周面16に、周方向に幅よりも大きい長さを有する凸状部13を有し、凸状部13と外表面11a及び内面11bとの間には凹状部15が形成されており、筒体12は、少なくとも筒体12の内面が栓体11に面する範囲にわたり一体に成形され、かつ、筒体12の内面が栓体11の外周面16及び凸状部13と密着した成形品からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッグに設けられるポート部材であって、
中空の筒体と、前記筒体の中に保持された弾性体からなる栓体とを有し、
前記栓体は、前記バッグの内容物を通過させるための針体を厚さ方向に、前記栓体の外表面から内面まで刺通させることが可能であり、
前記栓体は、前記筒体の内面に接する外周面に、周方向に幅よりも大きい長さを有する凸状部を有し、
前記栓体は、前記外周面に、前記栓体の厚さ方向に間隔を介して2以上の前記凸状部を有し、隣接する前記凸状部の間に形成される凹状部とは別に、前記凸状部と前記外表面及び前記内面との間には凹状部が形成されており、
前記筒体は、少なくとも前記筒体の内面が前記栓体に面する範囲にわたり一体に成形され、かつ、前記筒体の内面が前記栓体の前記外周面及び前記凸状部と密着した成形品からなることを特徴とするポート部材。
【請求項2】
バッグに設けられるポート部材であって、
中空の筒体と、前記筒体の中に保持された弾性体からなる栓体とを有し、
前記栓体は、前記バッグの内容物を通過させるための針体を厚さ方向に、前記栓体の外表面から内面まで刺通させることが可能であり、
前記栓体は、前記筒体の内面に接する外周面に、周方向に幅よりも大きい長さを有する凸状部を有し、
前記栓体は、前記外周面に、前記凸状部を1本のみ有し、前記凸状部と前記外表面及び前記内面との間には凹状部が形成されており、
前記筒体は、少なくとも前記筒体の内面が前記栓体に面する範囲にわたり一体に成形され、かつ、前記筒体の内面が前記栓体の前記外周面及び前記凸状部と密着した成形品からなることを特徴とするポート部材。
【請求項3】
前記凸状部は、前記周方向に連続していることを特徴とする請求項1又は2に記載のポート部材。
【請求項4】
前記筒体は、前記バッグに接合可能な外面を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポート部材。
【請求項5】
前記栓体の外表面の厚さ方向に凹部を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のポート部材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポート部材を設けてなるバッグ。
【請求項7】
前記内容物が医療用薬剤である請求項6に記載のバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポート部材及びこれを備えたバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用輸液容器等のバッグには、内容物を衛生的に取り出すため、針を刺すためのゴム栓体を有するポートが設けられている。特許文献1、2には、針抜け防止のため、底面を多角形、花形、又は星形とする柱状の栓体を有する医療用キャップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-4873号公報
【特許文献2】特開平11-19177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
栓体に針を刺したときに栓体が針の外周面に密着し、栓体から針を抜いたときに針を刺した跡の穴が復元力により閉じるようにするため、栓体の材料には弾性力に優れたゴムまたは熱可塑性エラストマーが使用されている。しかし、栓体に対する針の抜き差しを行った場合、栓体が針に密着し、ポートに対して栓体の位置がずれる場合がある。針の抜き差しによって栓体の位置ずれが発生すると、栓体が緩んでポートから脱落するおそれがあり、内容物がバッグ内に保持できなくなる問題を生じる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、針体の抜き差しを行っても栓体の位置ずれを抑制することが可能なポート部材及びこれを備えたバッグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、バッグに設けられるポート部材であって、中空の筒体と、前記筒体の中に保持された弾性体からなる栓体とを有し、前記栓体は、前記バッグの内容物を通過させるための針体を厚さ方向に刺通させることが可能であり、前記栓体は、前記筒体の内面に接する外周面に、周方向に幅よりも大きい長さを有する凸状部を有し、前記筒体は、少なくとも前記筒体の内面が前記栓体に面する範囲にわたり一体に成形され、かつ、前記筒体の内面が前記栓体の前記外周面及び前記凸状部と密着した成形品からなることを特徴とするポート部材を提供する。
【0007】
前記栓体は、前記外周面に、前記栓体の厚さ方向に間隔を介して2以上の前記凸状部を有してもよい。
前記凸状部は、前記周方向に連続していてもよい。
前記筒体は、前記バッグに接合可能な外面を有してもよい。
前記栓体の外表面の厚さ方向に凹部を有してもよい。
また、本発明は、前記ポート部材を有するバッグを提供する。
前記内容物が医療用薬剤であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、栓体の凸状部と筒体の内面とが強固に結合するため、針体の抜き差しを行っても栓体の位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ポート部材の一例を示す断面図である。
図2】栓体の一例を示す斜視図である。
図3】ポート部材を有するバッグの一例を示す正面図である。
図4】栓体の外表面に凹部を有するポート部材の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。図1に、ポート部材の一例を示す。図2に、ポート部材に用いられる栓体の一例を示す。図3に、ポート部材を有するバッグの一例を示す。これらの図面は模式図であり、各部の形状、寸法、縮尺、細部の詳細等は、実際と異なる場合がある。
【0011】
本実施形態のポート部材10は、図3に示すように、バッグ20に設けられて、バッグ20の内容物(図示せず)を外部に取り出すために用いることができる。バッグ20の内容物としては、輸液等の注射剤、生理食塩水、薬液、蒸留水等の注射用水が挙げられる。バッグ20の内容物を直接静脈等の人体内に投与できるように、あらかじめ成分の組成、浸透圧、pH等が調整され、かつ滅菌された溶液であることが好ましい。
【0012】
図1に示すように、ポート部材10は、中空の筒体12と、筒体12の中に保持された弾性体からなる栓体11とを有する。弾性体としては、熱可塑性エラストマー、ゲル状樹脂、ゴム等の少なくとも1種を含む高弾性樹脂が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー等の1種又は2種以上が挙げられる。ゲル状樹脂としては、アクリル系ゲル状樹脂、シリコーン系ゲル状樹脂、ポリウレタン系ゲル状樹脂、ポリ塩化ビニル系ゲル状樹脂、ポリオレフィン系ゲル状樹脂等の1種又は2種以上が挙げられる。ゴムとしては、アクリルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0013】
栓体11は、バッグ20の内容物を通過させるための針体(図示せず)を、栓体11の厚さ方向に刺通させることが可能となるよう、粘性、弾性等について、適度な物性を有する。針体は、内容物を通過させるように中空の管状で、先端に鋭利な針先を有する。針体の材料としては、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属、ポリカーボネート(PC)、ポリグリコール酸(PGA)等のプラスチックが挙げられる。栓体11は、バッグ20の内容物の用途に適した、いずれかの針体を刺通させることが可能であればよい。栓体11に針体を刺通させる場合は、針体が栓体11の外表面11aから内面11bまで貫通する。栓体11の内面11bは、内容液と接し得る接液面である。
【0014】
栓体11は、図1及び図2に示すように、筒体12の内面12aに接する外周面16に、栓体11の周方向に凸状部13を有する。凸状部13は、栓体11の厚さ方向に幅を、栓体11の周方向に長さを、栓体11の径方向に高さを有する。凸状部13は、幅よりも長さが大きい形状である。凸状部13は、栓体11の周方向に連続してもよく、例えば1/4周以上、半周以上、又は全周にわたってもよい。凸状部13の長さ方向に交差する断面の形状は、特に限定されないが、矩形状、台形状、三角形状、半円状等が挙げられる。本実施形態では、栓体11の外周面16には、栓体11の厚さ方向に間隔を介して2以上の凸状部13を有する。隣接する凸状部13の間には凹状部14が、凸状部13と外表面11a又は内面11bとの間には凹状部15が形成されている。凸状部13の本数は限定されず、1又は3以上でもよい。図2に示す例では、凸状部13及び凹状部14,15は、外周面16の全周にわたり形成されている。
【0015】
筒体12は、少なくとも筒体12の内面12aが栓体11に面する範囲にわたり一体に成形され、かつ、筒体12の内面12aが栓体11の外周面16と密着した成形品からなる。すなわち、筒体12の内面12aが、栓体11の外周面16に対して、凸状部13及び凹状部14,15による凹凸に追従するように密着し、同一の成形材料から連続して形成されている。これにより、柱状の栓体を筒状の筒体に保持させる場合や、筒体が2以上の部材を組み合わせて栓体を保持する場合と比べて、栓体11と筒体12との密着性が向上し、針体の抜き差し(刺通と抜去)に対する抵抗力を高めることができる。
【0016】
筒体12の内面12aは、栓体11の凸状部13の周囲を覆うだけではなく、凹状部14,15の周囲とも密着することが好ましい。特に、筒体12の内面12aが凸状部13を厚さ方向の両側から挟み込むことや、凸状部13間の凹状部14に食い込むこと等、筒体12の内面12aが栓体11の外周面16に対して入り組んでいることが好ましい。栓体11と筒体12との結合方法としては、それぞれを成形後に嵌め合わせてもよく、栓体11の周囲に溶融樹脂を射出して筒体12をインサート成形してもよく、栓体11と筒体12とを溶着等で接着してもよい。
【0017】
栓体11の外周面16は、凸状部13及び凹状部14,15による凹凸を持ち、さらに図4に示すように、栓体11の外表面11aの厚さ方向に凹部17を持たせてもよい。凹部17においては、針体が栓体11を通過する部位の肉厚が小さくなり、ゴムの弾性変形に対する抵抗力が緩和されるため、針体の抜き差し時における、筒体12からの栓体11の脱離性を低下させることができる。
【0018】
筒体12の少なくとも内面12aを構成する材料としては、特に限定されないが、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。筒体12を構成する樹脂にエラストマー等の成分を添加してもよい。筒体12の内面12aが栓体11に面しない範囲においては、2以上の部材を組み合わせて筒体12を構成してもよく、あるいは、筒体12が内面12a又は外面12bに凹凸等の構造を含んでもよい。筒体12は、少なくともバッグ20に面する範囲において、バッグ20を構成する材料に接合可能であることが好ましい。例えば、筒体12の外面12bを、バッグ20を構成するシート部材21の内面と接合してもよい。
【0019】
図3に、本実施形態のポート部材10を有するバッグ20の一例を示す。バッグ20は、例えば、点滴静注用の製剤として注射用の薬剤を予め希釈調製し、プラスチックなどからなる可撓性を有する容器に充填したソフトバッグ製剤を構成してもよい。当該ソフトバッグ製剤は、使用時の利便性や迅速性に加え、ガラス製の瓶やアンプルと比べて、破損の危険性が軽減されることや廃棄性に優れることから有用である。
【0020】
バッグ20の内容物は、医薬品等の医療用薬剤であってもよい。医療用薬剤としては、少なくとも薬剤の有効成分を水に溶解して構成した水溶液が挙げられる。水溶液には、電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白、アミノ酸類等から任意に選択される一種または二種以上を任意の濃度で添加してもよい。なお、電解質類を溶解した水溶液を電解質液、糖類を溶解した水溶液を糖液と称することもある。電解質類としては、例えば、塩化ナトリウム等が挙げられる。これらの任意の成分は、単独でまたは組み合わせて任意の濃度で用いることができる。本実施形態において、好ましい薬液としては、例えば、塩化ナトリウム等を任意の濃度で水(例えば、注射用蒸留水等)に溶解したものである。これらの物質の含有量としては、塩化ナトリウムであれば、例えば、生理食塩水と同等、すなわち、0.9%(W/V)等が好ましい。
【0021】
薬剤は、pH調節剤を含有してもよい。pH調節剤としては、一般に注射剤のpH調節剤として用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。また、有効成分を含有する水溶液の液性、すなわちpHは、前記のpH調節剤を用いることで任意に調節することができる。薬剤の調製に用いられるその他の添加剤としては、一般に注射剤の添加剤として用いられているようなものであれば特に制限無く用いることができる。本実施形態において、好ましいその他の添加剤としては、例えば、薬事日報社2000年刊「医薬品添加物辞典」(日本医薬品添加剤協会編集)等に記載されているような医薬品添加剤等が挙げられる。これらの添加剤は、所望によって、塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価のアルカリ金属塩等)として添加してもよく、また、水和物として添加してもよい。これらの添加剤は、一般に注射剤に通常用いられる割合で配合される。また、薬事日報社2000年刊「医薬品添加物辞典」(日本医薬品添加剤協会編集)等にも記載されている様に、これらの添加剤は使用目的に応じて、例えば、安定化剤、界面活性剤、緩衝剤、可溶化剤、抗酸化剤、消泡剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、無痛化剤、溶解剤、溶解補助剤等として使い分けることが可能である。これらの添加剤は、所望によって、2以上の成分を組み合わせて薬剤に添加することができる。
【0022】
前記のpH調節剤やその他の添加剤を、本実施形態の内容物である医薬品に用いる場合は、水溶液の調製における添加や混合の操作は通常の製剤学的手法に従って行うことができる。例えば、有効成分とpH調節剤のみを含有する水溶液を調製する場合は、有効成分とpH調節剤をそれぞれ秤量し、混合したあとで水に溶解してもよいし、有効成分を含有する水溶液に、秤量したpH調節剤を溶解してもよい。また、pH調節剤を含有する水溶液に、秤量した有効成分を溶解してもよい。pH調節剤を含有する水溶液と有効成分を含有する水溶液を各々調製しておいて、有効成分の濃度が前記の濃度になるように、これらの水溶液を混合して調製することも可能である。また、その他の添加剤を含む場合も同様に調製することが可能である。
【0023】
本実施形態のバッグ20は、少なくともベース樹脂層と最内層をこの順に含むシート部材21を用いて、最内層を内面として重ね合せて周縁をシールし、さらにポート部材10又はその筒体12とともに、袋状に成形することにより製造できる。シート部材21から構成される袋本体23の周縁のシール部22は、2枚のシート部材21を接合する場合にはシート部材21の全周に形成される。1枚のシート部材21を折り重ねて袋本体23の一辺に折り線を形成するときは、折り線に沿ったシール部22を省略してもよい。
シート部材21の厚さは、特に限定されないが、70~400μmが好ましく、容器として必要とされる強度や柔軟性の観点からは、150~300μmがより好ましい。また、シール部22の幅は、特に限定されないが、2~20mmであり、好ましくは、3~7mmである。
【0024】
シート部材21において、シーラント層である最内層の厚みは、10~100μm、より好ましくは20~80μmである。最内層の厚みが10μm未満では、シール性が十分でなかったり、ポート部材10との溶着強度が十分でないことがある。また、ポート部材10を溶着する時に最内層が加熱・加圧により薄くなり、ピンホールによる液漏れの原因となることがある。最内層の厚みは100μmを超えてもよいが、厚くなると容器の柔軟性が劣ることがある。また、コスト的にも好ましくない。
【0025】
シート部材21を構成する各材料の積層方法は、通常の容器の製造方法として公知の方法を採用することができる。例えば、多層インフレーション成形、多層Tダイキャスト成形などの共押出成形、あるいは溶融樹脂を直接積層する押出ラミネートや接着剤を用いるドライラミネートなどのラミネート法により積層することができる。シート部材21は、上述した最内層、ベース樹脂層に加えて、任意に接着層、中間層、印刷層、蒸着層、コーティング層などを含んでもよい。
【0026】
シート部材21を構成するベース樹脂層には、PP系樹脂やPE系樹脂が主に用いられる。PP系樹脂は、プロピレンのホモポリマーのほか、エチレン、1-ブテン等のα-オレフィンを少量(好ましくは10重量%以下)共重合したコポリマーや、例えば特開2001-226435号公報に開示されるプロピレンとα-オレフィンとを多段重合により製造される共重合体等により構成される。また、これらホモポリマーや共重合体と他のポリオレフィンや樹脂とのコンパウンドを用いてもよい。中でも、シート部材21の柔軟性を向上させるものとして、医療用容器用として汎用されている曲げ弾性率が400~600MPaの比較的柔軟なグレードのものを用いるのが好適である。また別の観点からはベース樹脂層を構成する樹脂のメルトフローレート(230℃、21.2N)値を1~4(g/10分)とするのが好適である。本実施形態で好適に使用できるベース樹脂層を構成する樹脂の具体例を例示すると、三菱ケミカル株式会社製の「ゼラス(登録商標)」(登録商標)を挙げることができる。特に、融解ピーク温度が160~170℃のPP系樹脂を用いることが好ましい。
【0027】
また、シート部材21のベース樹脂層に用いられるポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレン(線状低密度ポリエチレン)が好ましく用いられる。上記ポリエチレンは、密度が0.880~0.920g/cmの範囲であることが好ましい。α-オレフィンは炭素数が12個以下のものであり、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、及びオクテン-1等を挙げることができる。上記線状低密度ポリエチレンとしては、メタロセン触媒によって製造されるものが好ましい。メタロセン触媒で重合された線状低密度ポリエチレンは構造の不均一性が小さいため透明性などに優れている。また、分子量分布が均一なため、上記線状低密度ポリエチレンを加熱したとき、上記ポリエチレンはブリード物が少なく白濁のおそれが少ない。
【0028】
シート部材21のベース樹脂層または中間層に用いられるポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて製造される。メタロセン触媒を用いて製造されるシンジオタクチックポリプロピレンは、柔軟性や透明性に優れていることから、好ましい。上記ポリプロピレンは、融解ピーク温度が110℃以上、さらには、120℃以上であることが望ましく、上記温度特性を有するポリプロピレンは、上記中間層に用いたとき、バッグ20に耐熱性が付与される。
【0029】
シート部材21の最内層を構成する材料の組成としては、環状オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、スチレン系樹脂、シラン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を含有することにより、バッグ20の低温での耐衝撃性や高圧蒸気滅菌処理直後の透明性維持、柔軟性の向上など、輸液バッグ形状等の容器として所望される性能の向上を図ることが可能である。
シート部材21の最内層を構成する材料には、容器外観の向上や品質の安定化、その他必要とされる性能を付与するために、安全衛生性を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤等の各種添加剤等を含有してもよい。
【0030】
本実施形態のバッグ20は、薬液を充填した後に、好ましくは60℃以上の温度で熱処理、または100℃を上回る温度、より好ましくは121℃の温度で高圧蒸気滅菌処理される。この温度で、特に、最内層を構成するポリマーの分子運動、すなわちミクロブラウン運動が起こらないように分子構造を設計し、ガラス転移温度を決定することが非常に重要である。少なくとも容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度より、同等以上のガラス転移温度を有することが必要である。この滅菌処理温度未満のガラス転移温度である場合には、熱処理や高圧蒸気滅菌処理中に前記ミクロブラウン運動が起こり、分子鎖が回転運動を行うため、使用した容器中への収容薬液成分の収着や拡散を防止することが出来なくなり、有効成分の含有量の低下を起こす。このような現象を防止する最適なポリマーのガラス転移温度としては、少なくとも、容器の熱処理または高圧蒸気滅菌処理の温度と同等以上であることが必要であり、前記ポリマーのガラス転移温度は、70℃以上、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは、130℃以上であることが効果的である。
【0031】
袋本体23に対するポート部材10の溶着方法は、例えば、シート部材21のシーラント層である最内層同士を重ね合わせて、その間にポート部材10を挿入してヒートシールで溶着することができる。ポート部材10は、シール部22で溶着してもよいが、シール部22以外の箇所でシート部材21に溶着することも可能である。
本実施形態に用いるポート部材10の筒体12は、例えば円筒形状のような筒形状をなし、基端部は袋本体23の開口部に挿通された状態で、接着またはヒートシールにより両側のシート部材21と隙間無く接合されている。筒体12の寸法は、本発明では限定されないが、一例を挙げれば、凸部を除く外径が4~20mm、肉厚が0.5~3mm、長さが20~50mm程度であると、輸液セットとの接続部として好適である。また、ポート部材10の形状は、袋本体23との接合強度を高めるために、シート部材21との接合部が舟型等の形状をなしていても良い。
【0032】
また、ポート部材10は内容物の収容後、外部への漏出の防止や系外からの塵埃や細菌類の侵入を防止し、内容物の品質を維持するための封止体(図示略)を取り付け、密封される。封止体としては、ゴムやエラストマーを材料として成形された弾性体などが主に用いられる。また、外部からの力の作用により、封止体の脱落を防止するため、必要に応じてキャップの取り付けやシール材などを配置し、封止体を固定する処置もまた一般的に行われる。
【0033】
ポート部材10の筒体12の製造方法としては、射出成形法に代表される、通常の樹脂成形品の製造方法として公知の方法を採用することができる。バッグ20に収容される内容物の相互作用を緩和するため、異なる材質同士をブレンドもしくは多層に配置しても良い。例えば、材質をPEやPPに代表される、環状炭化水素骨格を有さない結晶性ポリオレフィン樹脂を筒体12の主成分とすることが好ましい。また、スチレン系エラストマー等の成分を、加熱処理に対する耐熱性を損なわない範囲で筒体12に添加することもできる。本実施形態のポート部材10は、シート部材21との接合が容易であるために、シールに要する時間を短縮できるため、バッグ20の生産性に優れる。すなわち、本実施形態のバッグ20を低コストで提供することが可能となる。
【0034】
本実施形態のバッグ20は、密封可能な容器であり、内容物の無菌性を保つことができる容器であり、一般的に注射液の充填・収容に用いられる、輸液バッグが特に好ましい。また、これらの形態の容器は、異物、特に不溶性の異物の生成・混入の視認や確認のために、透明性を有し、無着色のものが好ましいが、内容物の耐光性や容器の意匠性、利便性を考慮すれば、内容物の視認を損なわない範囲で着色されたものであってもよい。
【0035】
本実施形態のバッグ20は、有効成分を含有する水溶液を、筒体12が接合された袋本体23に充填し、筒体12に栓体11を装着してポート部材10を構成した後、キャップ等を組付け、または必要に応じて熔閉やアルミキャップ巻締め等で密封形成することで、製造することができる。また、これらの製造工程の任意の過程で、滅菌操作に付すことで、無菌性を保持したバッグ20とすることができる。また、所望に応じて、これらの容器への充填の前に、防塵フィルターを用いた濾過等の操作を行ってもよい。本実施形態のバッグ20の製造にあたり、滅菌操作の際の具体的な滅菌方法としては、例えば、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)法等が挙げられる。
【0036】
以上、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0037】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
<ポート部材の成形>
射出成型法により、外径10(mm)、肉厚1.5(mm)、長さ35(mm)の寸法で、栓体付きの筒体からなるポート部材を成形した。筒体との密着性を向上させるため、栓体の外周面にはすべて厚さ方向に1mmの幅をもった凹状部及び凸状部を全周につけた。栓体に使用した材料及び栓体の形状(外表面における凹部の有無)は表1に示される。栓体の外表面に厚さ方向の凹部を設ける場合の深さは3(mm)、直径は2(mm)とした。外表面に凹部を設けない場合、栓体の厚さは均一である。
【0039】
<突き刺し性の評価>
試験No.1~4の栓体付き筒体からなるポート部材を使用して、プラスチック製の針体を栓体の外表面の方向から厚さ方向に貫通させた場合の突き刺し性の違いについて官能評価を実施し、結果を表1にまとめた。栓体を貫通させるまでにかけた力の大きさを相対的に評価し、貫通に要する力が必要な順に、「×」(刺通が困難)、「△」(やや力が大きいが刺通は可能)、「○」(刺通が容易)、「◎」(刺通が非常に容易)で示した。また、筒体からの脱離性について、針体を栓体に貫通させた時に、筒体から栓体の脱離がない場合は「○」、脱離がある場合は「×」を記載した。
【0040】
<液漏れ性の評価>
試験No.3、4の栓体付き筒体からなるポート部材を使用して、針体を栓体に刺した時の液漏れ性について評価を行った。この筒体がシールされた50ml容量のプラスチックバッグに水50mlを入れ、栓体に輸液セットの針を垂直に貫通させた後、栓体が下になるように、プラスチックバッグを吊り下げ、24時間後に液漏れがないかどうかの確認を行った。液漏れがない場合は「○」、液漏れがある場合は「×」を記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
上記評価結果を表1に示す。栓体の外周面の全周に凹状部及び凸状部をつけ、筒体と密着した状態では、針体を刺した時に脱離することはなく、この構造は筒体に対する栓体の保持に効果的であることが示された。また、栓体の外表面に凹部を設けた場合には、貫通時に加える力を抑えることができた。さらに、いずれの形状であっても、針を栓体に刺した状態で24時間保持後に内容物が漏れ出てくることはなく、使用上問題ないことが確認できた。
【符号の説明】
【0043】
10…ポート部材、11…栓体、11a…栓体の外表面、11b…栓体の内面、12…筒体、12a…筒体の内面、12b…筒体の外面、13…栓体の凸状部、14,15…栓体の凹状部、16…栓体の外周面、17…凹部、20…バッグ、21…シート部材、22…シール部、23…袋本体。
図1
図2
図3
図4