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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023174893
(43)【公開日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ヘビーシンプル架線の監視システム
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/28 20060101AFI20231201BHJP
   B60M 1/13 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
B60M1/28 R
B60M1/13 H
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179976
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2020148133の分割
【原出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】安部 英則
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(57)【要約】
【課題】トロリ線とちょう架線の状態を常時監視することのできるヘビーシンプル架線の監視システムを提供する。
【解決手段】架線監視システム100は、ヘビーシンプル架線1の光ファイバ入りちょう架線10及び光ファイバ入りトロリ線20の状態を監視するシステムであり、光ファイバ検知線122を内部に収容する光ファイバ入りちょう架線10と、光ファイバ検知線22を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線20と、光ファイバ検知線122及び光ファイバ検知線22に光学的に接続され、光ファイバ検知線122及び光ファイバ検知線22の長手方向の温度分布を測定する光ファイバ温度分布測定装置と、を備える
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空管の内部に光ファイバ検知線が収容された光ファイバ収容管、及び前記光ファイバ収容管の周囲を囲むように撚り合わされた複数本の素線からなるちょう架線本体を備えた、光ファイバ入りちょう架線と、
第2の光ファイバ検知線を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線とを有し、
前記光ファイバ入りちょう架線により、ハンガーを介して前記光ファイバ入りトロリ線を支持してなるヘビーシンプル架線と、
前記光ファイバ入りちょう架線に含まれる前記光ファイバ検知線及び前記光ファイバ入りトロリ線に含まれる第2の光ファイバ検知線に光学的に接続され、前記光ファイバ検知線及び前記第2の光ファイバ検知線の長手方向の温度分布を測定する光ファイバ温度分布測定装置と、
を備えた、ヘビーシンプル架線の監視システム。
【請求項2】
前記光ファイバ検知線と前記第2の光ファイバ検知線の少なくとも一方の任意の点における温度が90℃以上となった場合に、前記ヘビーシンプル架線が高温状態にあると判定する、
請求項1に記載のヘビーシンプル架線の監視システム。
【請求項3】
前記光ファイバ検知線と前記第2の光ファイバ検知線の両方の任意の点における温度が0℃以下となった場合に、前記ヘビーシンプル架線が低温状態にあると判定する、
請求項1に記載のヘビーシンプル架線の監視システム。
【請求項4】
前記光ファイバ検知線と前記第2の光ファイバ検知線の両方の任意の点における温度が連続して3分間以上100℃以上となった場合に、前記ヘビーシンプル架線が局部加熱状態にあると判定する、
請求項1に記載のヘビーシンプル架線の監視システム。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ入りちょう架線、ヘビーシンプル架線、及びヘビーシンプル架線
の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新幹線の架線(架空電車線)系は、メンテナンスフリー化、速度向上などの目的で、ヘビーコンパウンド架線からヘビーシンプル架線への移行が進められている。ヘビーシンプル架線では、ヘビーコンパウンド架線で用いられていた補助ちょう架線を用いないため、トロリ線とちょう架線に掛かる張力が高く、強度負担が大きい。そのため、安全性を確保するため、警報線としての光ファイバが溝内に収容されたトロリ線(例えば、特許文献1参照)などを用いてトロリ線の状態を常時監視することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2738127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヘビーコンパウンド架線をヘビーシンプル架線に変更すると、トロリ線だけでなく、ちょう架線も同様に強度負担が増す。ヘビーシンプル架線のちょう架線の公称断面積は200mm(断面積が200sq)であり、ヘビーコンパウンド架線のちょう架線の公称断面積である150mmよりも大きいが、それでも架線張力の高さから強度が不足する可能性がある。そして、その場合であっても、質量の増加や施工性の低下などの理由から、ちょう架線の公称断面積を200mmよりも大きくすることは好ましくない。そのため、架線の安全性を確保するため、トロリ線と同様にちょう架線の状態を常時監視することが好ましい。
【0005】
したがって、本発明の目的は、トロリ線とちょう架線の状態を常時監視することのできるヘビーシンプル架線の監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
【0007】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、中空管の内部に光ファイバ検知線が収容された光ファイバ収容管、及び前記光ファイバ収容管の周囲を囲むように撚り合わされた複数本の素線からなるちょう架線本体を備えた、光ファイバ入りちょう架線と、
第2の光ファイバ検知線を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線とを有し、
前記光ファイバ入りちょう架線により、ハンガーを介して前記光ファイバ入りトロリ線を支持してなるヘビーシンプル架線と、
前記光ファイバ入りちょう架線に含まれる前記光ファイバ検知線及び前記光ファイバ入りトロリ線に含まれる第2の光ファイバ検知線に光学的に接続され、前記光ファイバ検知線及び前記第2の光ファイバ検知線の長手方向の温度分布を測定する光ファイバ温度分布測定装置と、を備えた、ヘビーシンプル架線の監視システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トロリ線とちょう架線の状態を常時監視することのできるヘビーシンプル架線の監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るヘビーシンプル架線の模式図である。
図2図2(a)は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ入りちょう架線の一例の径方向の断面図である。図2(b)は、光ファイバ入りちょう架線に含まれる光ファイバ収容管の一例の径方向の断面図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線の径方向の断面図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る架線監視システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
図1は、本発明の実施の形態に係るヘビーシンプル架線1の模式図である。ヘビーシンプル架線1は、鉄道車両に電力を供給するための光ファイバ入りトロリ線20と、ハンガー30により光ファイバ入りトロリ線20を吊り下げて支持する光ファイバ入りちょう架線10とを備える。
【0012】
(光ファイバ入りちょう架線の構成)
図2(a)は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ入りちょう架線10の一例の径方向の断面図である。図2(b)は、光ファイバ入りちょう架線10に含まれる光ファイバ収容管12の一例の径方向の断面図である。
【0013】
光ファイバ入りちょう架線10は、中空管121の内部(中空部)123に光ファイバ検知線122が収容された光ファイバ収容管12と、光ファイバ収容管12の周囲を囲むように撚り合わされた複数本の素線111からなるちょう架線本体11とを備える。
【0014】
光ファイバ入りちょう架線10は、その内部に含まれる光ファイバ検知線122の温度を測定することによって、その状態を常時監視することができる。このため、ちょう架線本体11と光ファイバ収容管12の公称断面積を従来のヘビーシンプル架線のちょう架線と同じ200mmとしても、ちょう架線の伸びや損傷による事故などを未然に防ぎやすくなる。ここで、ちょう架線本体11と光ファイバ収容管12の公称断面積は、素線111の径方向の断面積に素線111の本数を乗じて、そこに中空管121の径方向の断面積を加えたもの(計算断面積)の近似値であり、例えば、計算断面積が192~209mmの場合に公称断面積が200mmとなる。
【0015】
ちょう架線本体11を構成する素線111は、通常、図2(a)の例に示されるように、同心撚りで多層に撚り合わされる。この場合、ちょう架線10は、中心の1本の光ファイバ収容管12と、その光ファイバ収容管12の周囲に複数本の素線111を同心円状に撚り合わせてなる多層構造のちょう架線本体11を有する。素線111の撚り方向は、右撚り、左撚りのいずれでもよい。また、ちょう架線本体11は、右撚りの層と左撚りの層とを交互に多段配置させた異方向撚りで構成されていることが好ましい。
【0016】
ちょう架線本体11を構成する素線111は、例えば、銅や銅合金からなり、“JIS C 3101 電気用硬銅線”の規格を満たす引張強さ(素線強度)などの特性を有する。例えば、直径が2.6mmのときは引張強さが434MPa以上、直径が2.7mmのときは引張強さが433MPa以上、直径が2.8mmのときは引張強さが432MPa以上、直径が3.2mmのときは引張強さが427MPa以上、直径が3.5mmのときは引張強さが424MPa以上、直径が3.7mmのときは引張強さが422MPa以上、である。
【0017】
また、ちょう架線本体11を構成する素線111の本数は、ちょう架線本体11と光ファイバ収容管12の公称断面積が200mmになるように、素線111と中空管121の径方向の断面積に応じて設定される。例えば、素線111の直径が3.2~3.7mm、中空管121の外径と厚さがそれぞれ3.2~3.7mmと1.0~1.1mmの場合は、図2(a)の例に示されるように、18本の素線111を用いる(素線111と中空管121の合計本数を19本とする)ことにより、ちょう架線本体11と光ファイバ収容管12の公称断面積が200mmになる。
【0018】
また、例えば、素線111の直径が2.6mm以上2.8mm以下、中空管121の外径が2.6mm以上2.8mm以下の場合は、36本の素線111を用いる(素線111と中空管121の合計本数を37本とする)ことにより、ちょう架線本体11と光ファイバ収容管12の公称断面積が200mmになる。
【0019】
素線111は、所定の径の荒引線を引抜加工で伸線することにより形成されるため、直径が小さいほど強度が向上する。例えば、素線111の直径を3.7mmから2.6mmに変更することにより、強度を約3%以上向上させることができる。このため、直径が3.2~3.7mm(引張強さが422MPa以上)の素線111を18本用いる場合よりも、直径が2.6~2.8mm(引張強さが432MPa以上)の素線111を36本用いる場合の方が、ちょう架線本体11の引張荷重(引張試験において試料が耐えうる最大の荷重)が大きくなる。
【0020】
以下の表1に、光ファイバ入りちょう架線10の構成と特性の例(例1~3)を示す。表1に示される光ファイバ入りちょう架線10の構成及び特性は、いずれも“JIS C 3105 硬銅より線”の規格を満たす。表1における「素線径」は素線111及び光ファイバ収容管12の直径であり、「素線数」は素線111の本数に光ファイバ収容管12の本数である1を加えた数であり、「引張荷重」、「外径」、「電気抵抗」、「質量」はそれぞれ光ファイバ入りちょう架線10の引張荷重、外径、電気抵抗、質量である。
【0021】
【表1】
【0022】
ファイバ収容管12の中空管121は、例えば、銅や銅合金からなる。また、中空管121の内部123に収容される光ファイバ検知線122としては、例えば、通常のシングルモードの光ファイバを用いることができる。光ファイバ検知線122の直径は、例えば、0.9~1.1mmである。
【0023】
光ファイバ収容管12における光ファイバ検知線122の充填率は、50%以上、70%以下であることが好ましい。ここで、光ファイバ収容管12における光ファイバ検知線122の充填率は、中空管121の内部123の径方向の断面積に対する光ファイバ検知線122の径方向の断面積の比の値に等しい。
【0024】
光ファイバ検知線122の充填率を70%以下とすることにより、光ファイバ収容管12の局部曲げが生じた箇所での光ファイバ検知線122の曲がり度合いを抑え、光ファイバ検知線122の伝送損失を抑えることができる。
【0025】
また、光ファイバ検知線122の充填率を50%以上とすることにより、列車振動により中空管121の内部123を光ファイバ検知線122が移動することを抑制できる。なお、光ファイバ検知線122の充填率が50%に満たない場合は、中空管121の内部123にジェリーなどの充填剤を充填することにより、列車振動により中空管121の内部123を光ファイバ検知線122が移動することを抑制できる。
【0026】
中空管121の厚さは、中空管121の周囲に素線111を撚り合わせる際の撚り荷重に耐えられる強度を有するように設定される。例えば、ちょう架線本体11が18本の素線111からなり、素線111が、3.2~3.7mmの直径を有する場合、中空管121が1.0mm以上の厚さを有する銅管又は銅合金管であれば、中空管121が周囲に素線111を撚り合わせる際の撚り荷重に耐えられる。
【0027】
中空管121の外径は、中空管121を撚線の中心線とするため、素線111の直径と等しいことが好ましい。
【0028】
以下の表2に、光ファイバ収容管12の構成と特性の3つの例(例1~3)と光ファイバ検知線122の伝送損失が大きい例である比較例を示す。表2における「外径」、「内径」、「厚さ」はそれぞれ中空管121の外径、内径、厚さであり、「光ファイバ径」は光ファイバ検知線122の直径であり、「充填率」は光ファイバ検知線122の充填率であり、「ジェリー」は中空管121の内部123に充填される充填剤としてのジェリーの有無であり、「伝送損失」は素線111が直径3.7mmの18本の銅線である場合の光ファイバ検知線122の伝送損失である。
【0029】
【表2】
【0030】
表2の例1~3においては、中空管121の厚さが1.0mm以上であり、光ファイバ検知線122の充填率が70%以下であるために、光ファイバ検知線122の伝送損失が0.5dB/km以下と低く抑えられている。一方で、比較例においては、中空管121の厚さが1.0mmに満たないために光ファイバ検知線122の伝送損失が大きくなっている。
【0031】
(光ファイバ入りトロリ線の構成)
図3は、本発明の実施の形態に係る光ファイバ入りトロリ線20の径方向の断面図である。光ファイバ入りトロリ線20は、トロリ線本体21と、トロリ線本体21の内部に長手方向に沿って設けられた孔214に収容された光ファイバ検知線22を有する。光ファイバ入りトロリ線20は、その内部に含まれる光ファイバ検知線22の温度を測定することによって、その状態を常時監視することができる。
【0032】
トロリ線本体21は、例えば、JRS(日本国有鉄道規格)、JISE2101、EN50149に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面211、下部の大弧面212、両側部の小弧面211と大弧面212の間のV字状のイヤー溝213とを有する。トロリ線本体21は、銅合金、例えば、Cu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金を主成分とする。トロリ線本体21の公称断面積は、例えば、150mm、又は170mmである。
【0033】
孔214は、トロリ線本体21の上下方向の中間点よりも下側(大弧面212側)に設けられていることが好ましい。これは、パンタグラフと接触するトロリ線本体21の底部の温度変化を検知し易くして、トロリ線本体21の底部の氷や霜の付着を予測し易くするためである。
【0034】
図3に示される例では、2つの孔214がトロリ線本体21に含まれている。この場合、2つの孔214に収容される光ファイバ検知線22は、光ファイバ入りトロリ線20の光ファイバ温度分布測定装置40と反対側の端部で光接続され、光学的に連続した1本の光ファイバとなって折り返されて、光ファイバ入りトロリ線20を往復して貫通する。
【0035】
光ファイバ検知線22が孔214を1つだけ有する、すなわち、光ファイバ検知線22が光ファイバ入りトロリ線20を一方向にだけ貫通する構成であっても、光ファイバ検知線22の温度を測定して光ファイバ入りトロリ線20の状態を監視することは可能であるが、往復して貫通する構成には、次のような利点がある。まず、光ファイバ入りトロリ線20上の各位置において、温度の測定値が2つ得られるため、温度測定の精度を向上させることができる。また、トロリ線本体21の摩耗などにより光ファイバ検知線22の一部が断線した場合でも、温度測定を続行することができるため、光ファイバ検知線22の修復や交換までの間に温度が測定できない時間帯が生じることがない。
【0036】
(架線監視システムの構成)
図4は、本発明の実施の形態に係る架線監視システム100の構成を示す模式図である。架線監視システム100は、ヘビーシンプル架線1の光ファイバ入りちょう架線10及び光ファイバ入りトロリ線20の状態を監視するシステムであり、光ファイバ検知線122を内部に収容する光ファイバ入りちょう架線10と、光ファイバ検知線22を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線20と、光ファイバ検知線122及び光ファイバ検知線22に光学的に接続され、光ファイバ検知線122及び光ファイバ検知線22の長手方向の温度分布を測定する光ファイバ温度分布測定装置と、を備える。なお、図4では、ヘビーシンプル架線1の光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22以外の構成の図示を省略している。
【0037】
架線監視システム100において、光ファイバ入りちょう架線10に含まれる光ファイバ検知線122は、その端部において、光貫通がいし52と光スイッチ51とを介して光ファイバ温度分布測定装置40に光学的に接続される。また、光ファイバ入りトロリ線20に含まれる光ファイバ検知線22は、その端部において、光貫通がいし53と光スイッチ51とを介して光ファイバ温度分布測定装置40に光学的に接続される。
【0038】
架線監視システム100の光ファイバ温度分布測定装置40及び光スイッチ51は、例えば、変電所内に設置される。
【0039】
一般に、架線には、低温期においてトロリ線への着氷霜によりトロリ線やパンタグラフが損傷したり、高温期やダイヤ乱れ時においてトロリ線やちょう架線の温度が上昇して伸びが生じ、張力調整装置により調整しきれないほどトロリ線やちょう架線の張力が低下して列車の運行に支障をきたしたりといった問題が生じ得る。架線監視システム100を用いてトロリ線とちょう架線の温度を測定することにより、トロリ線への着氷霜や、トロリ線やちょう架線の張力の低下などの予兆を検知し、対応することができる。
【0040】
また、光ファイバ検知線122、22と光ファイバ温度分布測定装置40による温度測定は、光を利用して実施されるため、電気的な影響を受けず、列車の走行中などのき電時間帯であっても実施することができる。このため、光ファイバ入りちょう架線10及び光ファイバ入りトロリ線20の状態を常時監視することができる。
【0041】
光ファイバ温度分布測定装置40は、光ファイバ検知線122、22にパルス光を送り、光ファイバ検知線122、22内で生じる後方散乱光を利用して光ファイバ検知線122、22の温度分布を測定する。光スイッチ51により光ファイバ温度分布測定装置40の接続先を光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22の間で切り替えることにより、1台の光ファイバ温度分布測定装置40で光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22の両方の温度分布を測定することができる。光ファイバ温度分布測定装置40の構成及び動作の具体例については後述する。
【0042】
光ファイバ温度分布測定装置40と光スイッチ51は、光ファイバ54を介して光学的に接続されている。また、光スイッチ51と光貫通がいし52は、光ファイバ55を介して光学的に接続され、光スイッチ51と光貫通がいし53は、光ファイバ56を介して光学的に接続されている。
【0043】
光貫通がいし52は、架線された光ファイバ入りちょう架線10のちょう架線本体11や中空管121などから、光ファイバ検知線122を、電気的に切り離した状態で地上に引き下ろし、光スイッチ51から延びる光ファイバ55に接続するための器具である。また、光貫通がいし53は、架線された光ファイバ入りトロリ線20のトロリ線本体21などから、光ファイバ検知線22を、電気的に切り離した状態で地上に引き下ろし、光スイッチ51から延びる光ファイバ56に接続するための器具である。
【0044】
図3に示されるように、2つの孔214がトロリ線本体21に含まれ、光ファイバ検知線22が光ファイバ入りトロリ線20を往復して貫通する場合には、図4に示されるように、光ファイバ検知線22の往路側と復路側の両方の端部が光スイッチ51に光学的に接続されていることが好ましい。これによって、光ファイバ検知線22の一部が断線した場合に、光ファイバ温度分布測定装置40から発せられるパルス光を光ファイバ検知線22の往路側と復路側の断線していない方から進入させるように光スイッチ51を切り換えることにより、光ファイバ入りトロリ線20の全体の温度測定を続行することができる。
【0045】
架線監視システム100は、異なる複数のヘビーシンプル架線1、例えば、異なる線路に用いられる複数のヘビーシンプル架線1の温度を測定することもできる。この場合、各々のヘビーシンプル架線1に含まれる光ファイバ検知線122、22が、それぞれ光スイッチ51に光学的に接続される。そして、光スイッチ51により、光ファイバ温度分布測定装置40と接続される複数の光ファイバ検知線122、22を切り替えることにより、温度測定対象とするヘビーシンプル架線1を切り替えることができる。
【0046】
また、図4には、光ファイバ温度分布測定装置40の基本構成と動作の一例がブロック図で示されている。光ファイバ温度分布測定装置40において、光源41が光分波器42の入射端に接続され、光分波器42の入出射端には光ファイバ54が接続され、光分波器42の一方の出射端には光電変換器(以下O/E変換器という)43aが接続され、光分波器42の他方の出射端にはO/E変換器43bが接続されている。
【0047】
O/E変換器43aの出力端子にはアンプ44a及びA/D変換器45aを介して演算制御部46が接続され、O/E変換器43bの出力端子にはアンプ44b及びA/D変換器45bを介して演算制御部46が接続されている。また、演算制御部46は、パルス発生部47を介して光源41に接続されている。
【0048】
光源41としては、例えば、レーザダイオードが用いられ、パルス発生部47を介して入力される演算制御部46からのタイミング信号に対応したパルス光を出射する。光分波器42は、その入射端から光源41から出射されたパルス光を取り込み、その入出射端から光スイッチ51及び光貫通がいし52、53を介して光ファイバ検知線122、22にパルス光を出射する。また、光分波器42は、光ファイバ検知線122、22内を伝播するパルス光の後方ラマン散乱光をその入出射端から取り込み、ストークス光とアンチストークス光に波長分離する。
【0049】
O/E変換器43a、43bとしては、例えば、フォトダイオードが用いられ、O/E変換器43aには光分波器42の一方の出射端から出射されたストークス光が入射し、O/E変換器43bには光分波器42の他方の出射端から出射されたアンチストークス光が入射し、それぞれ入射光に対応する電気信号を出力する。
【0050】
アンプ44aとアンプ44bは、それぞれO/E変換器43aとO/E変換器43bから出力された電気信号を増幅する。A/D変換器45aとA/D変換器45bは、それぞれアンプ44aとアンプ44bから出力された信号をディジタル信号に変換する。
【0051】
演算制御部46は、A/D変換器45a、45bから出力されたディジタル信号に基づいて後方散乱光の2成分、すなわち、ストークス光とアンチストークス光の強度比から温度を演算し、その時系列に基づいて光ファイバ検知線122、22の長さ方向に沿った温度分布を表示手段(図示せず)に表示する。なお、演算制御部46にはあらかじめ、強度比と温度の関係がテーブルや式の形で記憶されている。また、地理上の位置ごとの光ファイバ検知線122、22の温度を取得するため、光ファイバ検知線122、22上の位置と地理上の位置との関係がテーブルや式の形で演算制御部46に記憶されていてもよい。
また、演算制御部46は、光源41にタイミング信号を送り、光源41から出射される光パルスのタイミングを制御する。
【0052】
次に、温度分布測定の原理を説明する。ストークス光およびアンチストークス光の信号強度を光源41における発光タイミングを基準にした時間の関数として表すと、光ファイバ検知線122、22中の光速が既知であるので、光源41を基準にして光ファイバ検知線122、22に沿った距離の関数に置き換えることができる。すなわち、光ファイバ検知線122、22の位置と発生したストークス光及びアンチストークス光の強度の関係を得ることができる。一方、アンチストークス光強度Iとストークス光強度Iはいずれも光ファイバ検知線122、22の温度に依存し、さらに、両光の強度比I/Iも光ファイバ検知線122、22の温度に依存する。したがって、光ファイバ検知線122、22の位置と強度比I/Iの関係から、光ファイバ検知線122、22の温度分布を知ることができる。
【0053】
(架線監視システムの動作例)
以下に、架線監視システム100の動作例について説明する。第1の例では、架線監視システム100が光ファイバ入りちょう架線10に収容された光ファイバ検知線122と光ファイバ入りトロリ線20に収容された光ファイバ検知線22の温度分布の監視を続ける中で、光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22の少なくとも一方の任意の点における温度が90℃以上(以下、第1の条件と呼ぶ)となった場合に、ヘビーシンプル架線1が高温状態にあると判定する。
【0054】
上記の第1の条件を満たすのは、典型的には、気温が高く、かつ列車が過密状態にあり、そのためにヘビーシンプル架線1が高温状態にある場合である。このため、第1の条件が満たされたことにより、ヘビーシンプル架線1が高温状態にあると架線監視システム100が判定した場合には、その判定に基づき、列車の間引き運転を行うなどの対策を実施することができる。
【0055】
第2の例では、架線監視システム100が光ファイバ入りちょう架線10に収容された光ファイバ検知線122と光ファイバ入りトロリ線20に収容された光ファイバ検知線22の温度分布の監視を続ける中で、光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22の両方の任意の点における温度が0℃以下(以下、第2の条件と呼ぶ)となった場合に、ヘビーシンプル架線1が低温状態にあると判定する。
【0056】
上記の第2の条件を満たすのは、典型的には、気温が低い、湿度が高い、風速が低い、などの条件下で光ファイバ入りちょう架線10や光ファイバ入りトロリ線20に霜が付着し、そのためにヘビーシンプル架線1が低温状態にある場合である。このため、第2の条件が満たされたことにより、ヘビーシンプル架線1が低温状態にあると架線監視システム100が判定した場合には、その判定に基づき、霜取り車を運行させるなどの対策を実施することができる。
【0057】
第3の例では、架線監視システム100が光ファイバ入りちょう架線10に収容された光ファイバ検知線122と光ファイバ入りトロリ線20に収容された光ファイバ検知線22の温度分布の監視を続ける中で、光ファイバ検知線122と光ファイバ検知線22の両方の任意の点における温度が連続して3分間以上100℃以上(以下、第3の条件と呼ぶ)となった場合に、ヘビーシンプル架線1が局部加熱状態にあると判定する。
【0058】
上記の第3の条件を満たすのは、例えば、故障などによって列車がエアセクションで停車することにより、2つの架線がパンタグラフで短絡し、そのためにヘビーシンプル架線1が局部加熱状態にある場合である。このため、第3の条件が満たされたことにより、ヘビーシンプル架線1が局部加熱状態にあると架線監視システム100が判定した場合には、その判定に基づき、ヘビーシンプル架線1への通電を遮断するなどの対策を実施することができる。
【0059】
上記第1~3の条件が満たされた場合などにおける、架線監視システム100によるヘビーシンプル架線1の状態の判定は、具体的には、例えば、光ファイバ温度分布測定装置40に接続された架線状態判定装置60が、光ファイバ温度分布測定装置40により取得された光ファイバ検知線122、22の温度分布のデータに基づいて行う。架線状態判定装置60には、例えば、PC(Personal Computer)を用いることができ、例えば、図4に示されるように、光ファイバ温度分布測定装置40の演算制御部46から光ファイバ検知線122、22の温度分布のデータを受信して判定を行う。また、この判定の結果は、例えば、架線状態判定装置60に含まれるモニターなどの表示手段に表示される。
【0060】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、光ファイバ入りちょう架線10と光ファイバ入りトロリ線20に含まれる光ファイバ検知線122、22の温度を測定することにより、光ファイバ入りちょう架線10と光ファイバ入りトロリ線20の状態を常時監視することができる。これにより、トロリ線への着氷霜やトロリ線やちょう架線の張力の低下などの予兆を精度よく検知することができ、トロリ線の状態のみを監視するよりも、架線に生じる問題をより確実に回避することができる。そのため、本発明の実施の形態に係る光ファイバ入りちょう架線、ヘビーシンプル架線、及びヘビーシンプル架線の監視システムは、例えば、新幹線のヘビーシンプル架線に好適に用いることができる。
【0061】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0062】
[1]中空管(121)の内部(123)に光ファイバ検知線(122)が収容された光ファイバ収容管(12)と、光ファイバ収容管(12)の周囲を囲むように撚り合わされた複数本の素線(111)からなるちょう架線本体(11)と、を備えた、光ファイバ入りちょう架線(10)。
【0063】
[2]ちょう架線本体(11)が18本の素線(111)からなり、素線(111)が、3.2~3.7mmの直径を有する銅線又は銅合金線であり、中空管(121)が、1mm以上の厚さを有する銅管又は銅合金管であり、光ファイバ収容管(12)とちょう架線本体(11)の公称断面積が200mmである、上記[1]に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)。
【0064】
[3]ちょう架線本体(11)が36本の素線(111)からなり、素線(111)が、2.6~2.8mmの直径と432MPa以上の引張強さを有し、光ファイバ収容管(12)とちょう架線本体(11)の公称断面積が200mmである、上記[1]に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)。
【0065】
[4]光ファイバ収容管(12)における光ファイバ検知線(122)の充填率が50%以上、70%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)。
【0066】
[5]光ファイバ収容管(12)における光ファイバ検知線(122)の充填率が50未満であり、中空管(121)の内部(123)に充填剤が充填された、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)。
【0067】
[6]第2の光ファイバ検知線(22)を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線(20)と、光ファイバ入りトロリ線(20)をハンガー(30)を介して支持する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)と、を備えた、ヘビーシンプル架線(1)。
【0068】
[7]第2の光ファイバ検知線(22)を内部に収容する光ファイバ入りトロリ線(20)と、光ファイバ入りトロリ線(20)をハンガー(30)を介して支持する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の光ファイバ入りちょう架線(10)とを備えたヘビーシンプル架線(1)と、光ファイバ入りちょう架線(10)に含まれる光ファイバ検知線(122)及び光ファイバ入りトロリ線(20)に含まれる第2の光ファイバ検知線(22)に光学的に接続され、光ファイバ検知線(122)及び第2の光ファイバ検知線(22)の長手方向の温度分布を測定する光ファイバ温度分布測定装置(40)と、を備えた、ヘビーシンプル架線の監視システム(100)。
【0069】
[8]光ファイバ検知線(122)と第2の光ファイバ検知線(22)の少なくとも一方の任意の点における温度が90℃以上となった場合に、ヘビーシンプル架線(1)が高温状態にあると判定する、上記[7]に記載のヘビーシンプル架線の監視システム(100)。
【0070】
[9]光ファイバ検知線(122)と第2の光ファイバ検知線(22)の両方の任意の点における温度が0℃以下となった場合に、ヘビーシンプル架線(1)が低温状態にあると判定する、上記[7]又は[8]に記載のヘビーシンプル架線の監視システム(100)。
【0071】
[10]光ファイバ検知線(122)と第2の光ファイバ検知線(22)の両方の任意の点における温度が連続して3分間以上100℃以上となった場合に、ヘビーシンプル架線(1)が局部加熱状態にあると判定する、上記[7]~[9]のいずれか1項に記載のヘビーシンプル架線の監視システム(100)。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0073】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0074】
1 ヘビーシンプル架線
10 光ファイバ入りちょう架線
11 ちょう架線本体
111 素線
12 光ファイバ収容管
121 中空管
122 光ファイバ検知線
123 内部
20 光ファイバ入りトロリ線
21 トロリ線本体
22 光ファイバ検知線
30 ハンガー
40 光ファイバ温度分布測定装置
60 架線状態判定装置
100 架線監視システム

図1
図2
図3
図4