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特開2023-175067セメントクリンカ、及びセメントクリンカの強度発現性推定方法
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  • 特開-セメントクリンカ、及びセメントクリンカの強度発現性推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175067
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】セメントクリンカ、及びセメントクリンカの強度発現性推定方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20231205BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C04B7/02
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087307
(22)【出願日】2022-05-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月20日 「第76回セメント技術大会講演要旨」 一般社団法人セメント協会において公開 令和4年5月18日 「第76回セメント技術大会」において公開
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】松島 正明
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友香
(72)【発明者】
【氏名】須山 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山下 牧生
(57)【要約】
【課題】高い強度発現性を有しつつ、多量の水溶性リチウムを含み得るセメントクリンカを提供する。
【解決手段】このセメントクリンカは、水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有している。セメントクリンカに対する水溶性リチウムの含有量は、2mg/kg以上300mg/kg以下とされている。セメントクリンカに対する水溶性三酸化硫黄量は、0.03質量%以上0.15質量%以下とされている。セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量は、1.1質量%以上1.6質量%以下とされている。全三酸化硫黄量(質量%)に対する、水溶性三酸化硫黄量(質量%)の比は、0.020以上0.120以下とされている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有するセメントクリンカであって、
前記セメントクリンカに対する前記水溶性リチウムの含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下であり、
前記セメントクリンカに対する前記水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下であることを特徴とするセメントクリンカ。
【請求項2】
前記セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量が1.1質量%以上1.6質量%以下であり、
前記全三酸化硫黄量(質量%)に対する、前記水溶性三酸化硫黄量(質量%)の比が0.020以上0.120以下であることを特徴とする請求項1に記載のセメントクリンカ。
【請求項3】
水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有するセメントクリンカの強度発現性を推定する方法であって、
前記セメントクリンカに対する前記水溶性リチウムの含有量を取得する工程と、
前記セメントクリンカに対する前記水溶性三酸化硫黄量を取得する工程と、
前記水溶性リチウムの含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下の第1の範囲にあるかを判断する工程と、
前記水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下の第2の範囲にあるかを判断する工程と、
前記水溶性リチウムの含有量が前記第1の範囲にあり、かつ、前記水溶性三酸化硫黄量が前記第2の範囲にある場合には、前記セメントクリンカの強度発現性が高いと推定し、前記水溶性リチウムの含有量が前記第1の範囲にないか、あるいは、前記水溶性三酸化硫黄量が前記第2の範囲にない場合には、前記セメントクリンカの強度発現性が低いと推定する工程とを備えることを特徴とするセメントクリンカの強度発現性推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ、及びセメントクリンカの強度発現性推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国においては、カーボンニュートラルを実現するために、今後、ガソリン自動車の使用台数が減少し、ハイブリッド自動車及び電気自動車の使用台数が増加すると予想される。これにより、ハイブリッド自動車及び電気自動車の駆動源として使用されたリチウムイオン電池の廃棄量が増加すると考えられる。
【0003】
ところで、セメント製造工場においては、地方自治体などから受け入れた廃棄物をセメントクリンカの製造原料として使用する場合がある。また、使用されたリチウムイオン電池の処理量(つまり、リサイクル取扱量)の増大に伴って、その処理残渣の量が多くなることが予想される。このため、セメントクリンカの製造原料においては、リチウムイオン電池由来のリチウム量および水溶性リチウム比率が高くなる可能性がある。これにより、製造されるセメントクリンカ中のリチウム量および水溶性リチウム含有量も高くなる可能性が生ずる。
【0004】
現在までに、セメントクリンカ中のリチウム含有量と、このセメントクリンカをセメント組成物としたときの強度発現性との関係については種々の研究がなされてきた。一般的には、クリンカ中のリチウムの量が過剰に多くなると強度発現が阻害される恐れがあるとされている。例えば、下記特許文献1には、セメントクリンカ中のリチウム含有量が10~100ppmである場合に、このセメントクリンカ中のニッケル含有量を20~200ppmとし、リチウム含有量に対するニッケル含有量の比を1以上とすれば、セメントクリンカをセメント組成物としたときの強度発現性が高くなることが記載されている。しかし、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量と、このセメントクリンカをセメント組成物としたときの強度発現性との関係については未だ十分な研究がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-160168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者は、この関係について研究を行ったところ、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量については100ppmを超えていても、セメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量が所定の範囲にあると、セメントクリンカをセメント組成物としたときの強度発現性を高めることができるとの知見を得た。
【0007】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、高い強度発現性を有しつつ、多量の水溶性リチウムを含み得るセメントクリンカを提供することを目的とする。また、本発明は、水溶性リチウムを含むセメントクリンカの強度発現性を推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセメントクリンカは、水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有している。前記セメントクリンカに対する前記水溶性リチウムの含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下とされており、前記セメントクリンカに対する前記水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下とされている。なお、〔mg/kg〕は、〔ppm〕と等価であるとされている。
【0009】
前記セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量は、例えば、1.1質量%以上1.6質量%以下とされている。また、前記全三酸化硫黄量(質量%)に対する、前記水溶性三酸化硫黄量(質量%)の比は、例えば、0.020以上0.120以下とされている。
【0010】
本発明に係るセメントクリンカの強度発現性推定方法は、水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有するセメントクリンカの強度発現性を推定するものである。具体的には、この方法は、前記セメントクリンカに対する前記水溶性リチウムの含有量を取得する工程と、前記セメントクリンカに対する前記水溶性三酸化硫黄量を取得する工程と、前記水溶性リチウムの含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下の第1の範囲にあるかを判断する工程と、前記水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下の第2の範囲にあるかを判断する工程と、前記水溶性リチウムの含有量が前記第1の範囲にあり、かつ、前記水溶性三酸化硫黄量が前記第2の範囲にある場合には、前記セメントクリンカの強度発現性が高いと推定し、前記水溶性リチウムの含有量が前記第1の範囲にないか、あるいは、前記水溶性三酸化硫黄量が前記第2の範囲にない場合には、前記セメントクリンカの強度発現性が低いと推定する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い強度発現性を有しつつ、多量の水溶性リチウムを含み得るセメントクリンカを提供することができる。これにより、セメントクリンカの製造原料としての、リチウムイオン電池の廃棄物の再利用を促進することができる。また、本発明によれば、水溶性リチウムを含むセメントクリンカの強度発現性を推定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、セメントクリンカの強度発現性推定方法の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の一実施形態に係るセメントクリンカの組成について説明する。このセメントクリンカは、水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有している。このセメントクリンカの質量(kg)に対する、このセメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量(mg)は2mg/kg以上300mg/kg以下とされている。このセメントクリンカの質量に対する、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量は0.03質量%以上0.15質量%以下とされている。
【0014】
このセメントクリンカの他の化学組成は、例えば以下のようになっている。
二酸化ケイ素量:21.60質量%以上22.00質量%以下
酸化アルミニウム量:5.30質量%以上5.60質量%以下
酸化第二鉄量:3.00質量%以上3.30質量%以下
酸化カルシウム量:65.00質量%以上66.50質量%以下
酸化マグネシウム量:1.00質量%以上1.25質量%以下
全三酸化硫黄量:1.10質量%以上1.60質量%以下
酸化ナトリウム量:0.20質量%以上0.35質量%以下
酸化カリウム量:0.40質量%以上0.60質量%以下
二酸化チタン量:0.20質量%以上0.35質量%以下
五酸化二リン量:0.05質量%以上0.10質量%以下
酸化マンガン量:0.03質量%以上0.07質量%以下
全三酸化硫黄量(質量%)に対する水溶性三酸化硫黄量(質量%)の比:0.020以上0.120以下
【0015】
このセメントクリンカの鉱物組成は、例えば以下のようになっている。本明細書において、セメントクリンカの鉱物組成とは、セメントクリンカの化学組成からボーグ式により算出されるものをいう。
エーライト量:55.0質量%以上60.0質量%以下
ビーライト量:18.5質量%以上21.0質量%以下
アルミネート相量:8.5質量%以上9.7質量%以下
フェライト相量:9.0質量%以上10.0質量%以下
【0016】
次に、以下の試験例1~6に基づいて、本実施形態のセメントクリンカの強度発現性を説明するための試験について説明する。この試験の目的は、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量及び水溶性三酸化硫黄量と、このセメントクリンカの強度発現性との関係を明らかにすることである。
【0017】
本明細書において、セメントクリンカの強度発現性とは、セメントクリンカに石膏を添加し、ブレーン比表面積2500cm2/g以上になるよう微粉砕してセメント組成物を調製し、このセメント組成物に骨材と水を加えて混練することにより得られるセメント硬化体の圧縮強さをいい、例えば、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定したモルタルの圧縮強さをいう。ここでのセメント硬化体としては、例えば、材齢5日以上(より具体的には、材齢7日以上28日以下)のモルタル又はコンクリートが挙げられる。
【0018】
試験例1~6に係る試験方法の手順は次の通りである。まず、試験例1~6において、炭酸カルシウムを主成分とする原料精粉と、炭酸カルシウム試薬と、二酸化けい素試薬と、酸化アルミニウム試薬と、酸化第二鉄試薬と、無水石膏試薬とを混合し、試験例2~6においてはさらに硝酸リチウム試薬を混合することにより、セメントクリンカの製造原料を作製した。なお、この原料精粉には、微量のリチウムが含まれている。以下の説明において、試験例1~6におけるセメントクリンカの製造原料を単に「クリンカ原料」という。下記の表1は、試験例1~6ごとに、クリンカ原料中のリチウム量(質量%)と、クリンカ原料中の三酸化硫黄量(質量%)とを示している。
【0019】
【表1】
【0020】
具体的には、表1における「リチウム量(質量%)」とは、セメントクリンカの質量に対する、クリンカ原料中のリチウムの質量の百分率を意味している。表1における「三酸化硫黄量(質量%)」とは、セメントクリンカの質量に対する、クリンカ原料中の全三酸化硫黄の質量の百分率を意味している。ただし、これらセメントクリンカの質量とは、実際に製造したセメントクリンカの質量(測定値)ではなく、クリンカ原料に含まれる炭酸カルシウムが全て脱炭酸すると仮定した場合に得られるセメントクリンカの質量(計算値)である。また、ここでのリチウムの質量とは、クリンカ原料に含まれる硝酸リチウムが全て酸化すると仮定した場合に得られる酸化リチウムの質量(計算値)である。
【0021】
下記の表2は、試験例1~6において製造するセメントクリンカに共通のモジュラス目標値を示している。
【0022】
【表2】
【0023】
次に、試験例1~6それぞれにおいて、作製したクリンカ原料を、電気炉によって、1000℃で90分間仮焼してから1450℃で60分間本焼成した。続いて、試験例1~6それぞれにおいて、電気炉から取り出した焼成物を空冷することによりセメントクリンカを取得した。さらに、試験例1~6それぞれにおいて、取得したセメントクリンカの一部を採取し、採取したセメントクリンカの主な化学組成を測定した。下記の表3は、試験例1~6ごとに、採取したセメントクリンカの主な化学組成(質量%)を示している。
【0024】
【表3】
【0025】
さらに、試験例1~6それぞれにおいて、取得したセメントクリンカの一部を採取し、「JCAS I-04:2004 セメントの水溶性成分の分析方法」の「4.2試料溶液の調製方法」に準拠して、採取したセメントクリンカから試料溶液を調製した。さらに、この試料溶液を用いて、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量(mg/kg-Cli)をICP-MSにより測定し、セメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量(質量%)をイオンクロマトグラフィーにより測定した。下記の表4は、試験例1~6ごとに、セメントクリンカの質量(kg)に対するセメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量(mg/kg)と、セメントクリンカの質量に対するセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量(質量%)とを示している。
【0026】
【表4】
【0027】
試験例1~6それぞれにおいて、セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量(質量%)に対する、セメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量(質量%)の比を算出した。この比は、表3に示す「SO3」の値に対する、表4に示す「水溶性三酸化硫黄量(質量%)」の比である。下記の表5は、試験例1~6ごとに、この比を示している。
【0028】
【表5】
【0029】
試験例1~6それぞれにおいて、表3に示す化学組成に基づき、セメントクリンカの鉱物組成をボーグ式により算出した。下記の表6は、試験例1~6ごとに、セメントクリンカの鉱物組成(質量%)を示している。
【0030】
【表6】
【0031】
さらに、試験例1~6それぞれにおいて、取得したセメントクリンカと純薬の二水石膏とを混合し、これにより得られた混合物を粉砕することによってセメントを試製した。混合については、セメント中の全三酸化硫黄量が2.60質量%となるように行った。
【0032】
試験例1~6それぞれにおいて、試製したセメントの一部を採取し、採取したセメントの比表面積を「JIS R 5201:2015」に規定される比表面積試験により測定した。下記の表7は、試験例1~6ごとに、セメントの比表面積(cm2/g)を示している。
【0033】
【表7】
【0034】
試験例1~6それぞれにおいて、試製したセメントを用いて、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に基づいてモルタルを製造し、このモルタルの材齢3日、7日及び28日の圧縮強さを測定した。下記の表8は、試験例1~6ごとに、モルタルの圧縮強さ(N/mm2)を示している。
【0035】
【表8】
【0036】
表8に示すように、試験例1~4においては、試験例5及び6に比較して、材齢7日のモルタルの圧縮強さが高くなっており、かつ、材齢28日のモルタルの圧縮強さが高くなっている。つまり、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下の範囲(試験例1~4の範囲)にあり、かつ、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下の範囲(試験例1~4の範囲)にあれば、このセメントクリンカの強度発現性が高くなる。
【0037】
この原理は次のように説明できる。セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量が2mg/kg以上であり、かつ、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上であると、このセメントクリンカを含むセメントの練り混ぜ時には、このセメントクリンカから水溶性リチウムが徐々に液相中に溶出し続ける。これにより、液相中のpHが高アルカリ領域に維持される。それゆえ、このセメントクリンカから液相中への水溶性三酸化硫黄の溶出が促進され、さらには、液相中に溶出した水溶性三酸化硫黄と、液相中のカルシウムイオンとの水和反応も促進される。よって、液相中においてエトリンガイト及びモノサルフェートなどの水和物が連続的に生成されるため、モルタル又はコンクリートの圧縮強さが高くなる。
【0038】
また、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量が300mg/kg以下であり、かつ、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量が0.15質量%以下であると、過剰量のエトリンガイトの生成を抑制することができる。これにより、エトリンガイトの膨張によるモルタル又はコンクリートの圧縮強さの低下を回避することができる。
【0039】
さらに、試験例4においては、表4に示すように、セメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量が180mg/kg、セメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量が0.14質量%となっており、表8に示すように、材齢28日のモルタルの圧縮強さが60N/mm2を超えている。このため、セメントクリンカの製造原料の一部として多くのリチウムイオン電池の廃棄物を再利用しても、このセメントクリンカ中の水溶性リチウム含有量を180mg/kg程度とし、かつ、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量を0.14質量%程度とすることにより、このセメントクリンカの強度発現性を高めることができる。
【0040】
なお、セメントクリンカの強度発現性を高めるには、セメントクリンカの他の組成についても試験例1~4の範囲にあることが好ましい。例えば、セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量については、表3の「SO3」に示すように、1.1質量%以上1.6質量%以下であると好ましい。セメントクリンカ中の全三酸化硫黄量(質量%)に対する、このセメントクリンカ中の水溶性三酸化硫黄量(質量%)については、表5に示すように、0.020以上0.120以下であると好ましい。
【0041】
次に、本発明の一実施形態に係る、セメントクリンカの強度発現性推定方法について説明する。この方法は、水溶性リチウムと水溶性三酸化硫黄とを含有するセメントクリンカの強度発現性を推定するものである。
【0042】
この推定方法は、図1に示すように、第1取得工程S1aと、第1判断工程S1bと、第2取得工程S2aと、第2判断工程S2bと、推定工程S3とを備える。以下の説明において、本実施形態の方法により強度発現性を推定する対象とするセメントクリンカを「対象クリンカ」という。対象クリンカとしては、例えば、リチウムイオン電池の廃棄物を原料の一部として製造したセメントクリンカが挙げられる。
【0043】
第1取得工程S1aでは、対象クリンカの質量に対する、対象クリンカ中の水溶性リチウム含有量を取得する。取得方法としては、例えば、対象クリンカの一部を浸漬した試料溶液を用いてICP-MSを実施することが挙げられる。
【0044】
第1判断工程S1bでは、この水溶性リチウム含有量が2mg/kg以上300mg/kg以下の第1の範囲にあるかを判断する。この判断は、例えば、作業者又はコンピュータにより行うことができる。
【0045】
第2取得工程S2aでは、対象クリンカの質量に対する、対象クリンカ中の水溶性三酸化硫黄量を取得する。取得方法としては、例えば、対象クリンカの一部を浸漬した試料溶液を用いてイオンクロマトグラフィーを実施することが挙げられる。
【0046】
第2判断工程S2bでは、この水溶性三酸化硫黄量が0.03質量%以上0.15質量%以下の第2の範囲にあるかを判断する。この判断は、例えば、作業者又はコンピュータにより行うことができる。
【0047】
推定工程S3では、対象クリンカの強度発現性を推定する。具体的に、推定工程S3では、第1判断工程S1bにおいて水溶性リチウム含有量が第1の範囲にあり、かつ、第2判断工程S2bにおいて水溶性三酸化硫黄量が第2の範囲にあると判断された場合には、対象クリンカの強度発現性が高いと推定する。また、推定工程S3では、第1判断工程S1bにおいて水溶性リチウム含有量が第1の範囲にないか、あるいは、第2判断工程S2bにおいて水溶性三酸化硫黄量が第2の範囲にないと判断された場合には、対象クリンカの強度発現性が低いと推定する。
【0048】
次に、本実施形態の方法を用いたセメント製造工場の操業方法の一例について説明する。前提として、セメント製造工場においては、リチウムイオン電池の廃棄物(例えば、使用済みリチウムイオン電池そのもの、あるいは、使用済みリチウムイオン電池に種々の処理を施して生じた残渣)を地方自治体や処理施設などから受け入れ、この廃棄物をセメントクリンカの製造原料の一部としてセメントクリンカを製造しているものとする。
【0049】
まず、セメント製造工場において、製造したセメントクリンカの強度発現性を定期的に本実施形態の方法により推定する。本実施形態の方法によりセメントクリンカの強度発現性が高いと推定した場合には、地方自治体や処理施設などからのリチウムイオン電池の廃棄物の受入量(例えば、年間何t程度)を維持する。本実施形態の方法によりセメントクリンカの強度発現性が低いと推定した場合には、地方自治体や処理施設などからのリチウムイオン電池の廃棄物の受入量を制限する。
【0050】
このような操業方法により、製造するセメントクリンカの強度発現性を高く維持しつつ、リチウムイオン電池の廃棄物の、セメント原料への再利用を促進することができる。
図1