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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017526
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】ラケット用ストリング
(51)【国際特許分類】
   A63B 51/02 20150101AFI20230131BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20230131BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A63B51/02
D01F1/10
D01F6/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121856
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504094660
【氏名又は名称】株式会社ゴーセン
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 智一
(72)【発明者】
【氏名】畑中 智貴
(72)【発明者】
【氏名】海江田 佳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦稔
(72)【発明者】
【氏名】入澤 寿平
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 駿輝
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035FF01
4L035JJ03
4L035KK02
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】弾性率を制御して、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供する。
【解決手段】熱可塑性合成繊維製フィラメント3,4で構成されるラケット用ストリング2であって、前記フィラメント3,4は、カーボンナノチューブ(CNT)が分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されており、CNTが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーとは非相溶であり、母材の熱可塑性ポリマーが海成分、CNTが分散された熱可塑性ポリマーが島成分であり、フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.0001~0.1質量%である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成繊維製フィラメントで構成されるラケット用ストリングであって、
前記フィラメントは、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されており、
前記カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーとは非相溶であり、母材の熱可塑性ポリマーが海成分、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーが島成分となっており、
前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.0001~0.1質量%であることを特徴とするラケット用ストリング。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、水に分散させた後に12時間以上静置した後にカーボンナノチューブが液中に占める体積の減少率を表す相対充填量減少率が4%以下となるように解砕されている請求項1に記載のラケット用ストリング。
【請求項3】
前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.001~0.01質量%である請求項1又は2に記載のラケット用ストリング。
【請求項4】
前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブを分散混合したマスターバッチの熱可塑性ポリマーは0.1~10質量%、母材の熱可塑性ポリマーは90~99.9質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載のラケット用ストリング。
【請求項5】
前記フィラメントは、海成分がナイロンであり、島成分がポリエチレン又はエチレン共重合体である請求項1~4のいずれか1項に記載のラケット用ストリング。
【請求項6】
前記ストリングはモノフィラメントである請求項1~5のいずれか1項に記載のラケット用ストリング。
【請求項7】
前記ストリングは芯糸と、前記芯糸を被覆する皮糸と、前記芯糸から皮糸の外側までを被覆する被覆樹脂層を含み、カーボンナノチューブは芯糸及び皮糸から選ばれる少なくとも一方に添加されている請求項1~6のいずれか1項に記載のラケット用ストリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬式テニス、ソフトテニス、スカッシュ、バドミントン等に用いられるラケット用合成ストリング(ガットともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テニス、バドミントン、スカッシュなどのラケット用合成ストリングとして、芯になるモノフィラメントやマルチフィラメントの外側を細いモノフィラメントで巻き付けるストリングや編組(製紐)したストリングが提案されている。特許文献1には、芯のモノフィラメントの外側に細いフィラメントを配置し、その表面にナイロン及びカーボンナノチューブの複合材料をコーティングすることが提案されている。特許文献2には、樹脂コーティング層として、合成樹脂と、この合成樹脂に含有された、グラフェンシート筒が同心円筒状に筒中心部まで積層している中実同軸多層構造型の極細炭素繊維を混合してコーティングすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010-510400号公報
【特許文献2】特開2007-181553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のカーボンナノチューブを含む樹脂コーティング層を形成したラケット用ストリングは、表面特性を変えることはできるが、弾性率を制御するには問題があり、この改善が求められていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、弾性率を制御して、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のラケット用ストリングは、熱可塑性合成繊維製フィラメントで構成されるラケット用ストリングであって、前記フィラメントは、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されており、前記カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーとは非相溶であり、母材の熱可塑性ポリマーが海成分、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーが島成分であり、前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.0001~0.1質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のラケット用ストリングは、熱可塑性合成繊維製フィラメントで構成され、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されており、前記カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーとは非相溶であり、母材の熱可塑性ポリマーが海成分、カーボンナノチューブが分散された熱可塑性ポリマーが島成分であり、前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.0001~0.1質量%であることより、弾性率を制御して、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供できる。また、前記フィラメントを100質量%としたとき、カーボンナノチューブは0.0001~0.1質量%であることにより、微量添加で弾性率の制御と、打球感と打球飛び性をバランスさせることができる。これは、カーボンナノチューブが微量であるため絡まず、繊維軸方向に配向しやすいからと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明の一実施形態のモノフィラメント単独のラケット用ストリングの断面図である。
図2図2は本発明の別の実施形態の芯糸の表面に皮糸を配置したラケット用ストリングの断面図である。
図3図3はモノフィラメントタイプの動的粘弾性のグラフである。
図4図4はマルチフィラメントタイプの動的粘弾性のグラフである。
図5図5はモノフィラメントタイプの引張応力歪曲線である。
図6図6はマルチフィラメントタイプの引張応力歪曲線である。
図7図7は本発明の実施例のモノフィラメントタイプの試打評価結果を示すグラフである。
図8図8は本発明の実施例のマルチフィラメントタイプの試打評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、熱可塑性合成繊維製フィラメントで構成されるラケット用ストリングである。熱可塑性合成繊維製フィラメントは、カーボンナノチューブ(CNTともいう)が分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されており、CNTが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーとは非相溶であり、母材の熱可塑性ポリマーが海成分、CNTが分散された熱可塑性ポリマーが島成分の海島構造となっている。母材の熱可塑性ポリマーは、ナイロン、ポリエステル等の合繊繊維を使用できるが、この中でもナイロンが好ましく、さらに好ましくはナイロン6(PA6ともいう)である。ナイロン6は強伸度、結節強度、耐久性、表面の樹脂コーティング層との接着性などが良好である。
【0010】
前記フィラメントは、構成する2種のポリマーが相溶化せず分離する組合せで、母材の熱可塑性ポリマーが海成分であり、CNTを分散混合した熱可塑性ポリマーが島成分である。これにより海島構造のフィラメントとなる。例えば、海成分がナイロンであり、島成分がポリエチレン又はエチレン共重合体である。この中でもエチレンとα-オレフィンの共重合体が好ましい。ポリエチレン又はエチレン共重合体はナイロン内で島成分となって延伸され、この中にCNTが配置される。ポリエチレン又はエチレン共重合体は融点が低く、ブレンド時の操作性が良く、疎水性なのでCNTを混合しやすい。ポリエチレン又はエチレン共重合体は、高密度ポリエチレン、低圧法ポリエチレン又はその共重合体が使用できる。これらは繊維用として使用されている。
【0011】
島成分のポリマーにCNTが分散されていると、弾性率を制御でき、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供できる。この打球感と打球飛び性のバランスとは、ナイロン6(PA6)製ストリングとポリエチレンテレフタレート(PET)製ストリングの中間の性質をいう。すなわち、PA6製ストリングは、PET製ストリングに比べて飛びは落ちるが軟らかくボールをコントロールしやすく、PET製ストリングは、飛びは良いが硬いという問題がある。本発明のストリングはPA6製ストリングとPET製ストリングの中間の性質を有する。
【0012】
前記フィラメントは、CNTが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーがブレンドされ溶融紡糸されている。CNTが分散された熱可塑性ポリマーと、母材の熱可塑性ポリマーを分けたのは、CNTの分散性を上げるため、予めマスターバッチによりCNTを熱可塑性ポリマーに混合分散させるためである。
【0013】
前記CNTは、水に分散させた後に12時間以上静置した後にCNTが液中に占める体積の減少率を表す相対充填量減少率が4%以下となるように解砕されているのが好ましい。粉末やフレークなどの状態で入手できるCNTを解砕してから熱可塑性ポリマーに混練すると、CNTの分散性を向上させることができる。CNTを解砕する際にCNTを破砕してしまうと、熱可塑性ポリマー中においてCNTの機能が効果的に発現しない場合があるので、凝集したCNTを破砕することなく解砕することが望ましい。このような処理としては、後述するように、CNT原料を水、t-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドンなどの有機溶剤、又は水と有機溶剤の混合溶媒に溶いたスラリーを、湿式ジェットミルを用いて渦流により高速高剪断処理するのが好適であるが、ボールミルなどを用いた乾式粉砕法で解砕したものでも構わない。
【0014】
前記ストリングを100質量%としたとき、CNTは0.001~0.01質量%配合するのが好ましい。より好ましいCNTの配合量は0.002~0.005質量%である。これにより、弾性率を制御して、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供できる。これはカーボンナノチューブが微量であるため絡まず、繊維軸方向に配向しやすいからと推定される。
前記ストリングを100質量%としたとき、CNTが分散されたマスターバッチの熱可塑性ポリマーは0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.2~9質量%であり、さらに好ましくは0.3~8質量%である。残りは母材ポリマーとする。これにより、弾性率を制御して、打球感と打球飛び性をバランスさせたラケット用ストリングを提供できる。
【0015】
前記ストリングはモノフィラメント単独でもよいし、芯糸と、前記芯糸を被覆する皮糸と、前記芯糸から皮糸の外側までを被覆する被覆樹脂層で形成してもよい。芯糸と皮糸で形成する場合は、CNTは芯糸及び皮糸から選ばれる少なくとも一方に添加されている。芯糸はモノフィラメントでもよいしマルチフィラメントでもよい。耐久性の点からモノフィラメントが好ましい。皮糸は芯糸より細いフィラメントが好ましく、芯糸の外側に複数本配置するのが好ましい。皮糸は芯糸の外側に巻き付けられているのが好ましい。別の手段として、芯糸の外側に皮糸を組み物として被覆することもできるが、巻き付けのほうが製造コストは安い。
【0016】
被覆樹脂層はナイロン6又はナイロン6・12が好ましい。ナイロン6・12はカプロラクタム(炭素数6)とラウリルラクタム(炭素数12)とのアミノ酸同士の共縮合体である。ナイロン6・12は、ナイロン66に比べて約半分の吸水性であるとされている。
【0017】
本発明の一実施形態の熱可塑性合成繊維製フィラメントを製造する方法について説明する。
(1)CNTの解砕
CNT材料を水、有機溶剤、又は水と有機溶剤の混合溶媒に溶いたスラリーを、湿式ジェットミルを用いて渦流により高速高剪断処理し、解砕し、凍結乾燥等の乾燥処理をする。
(2)マスターバッチ法による熱可塑性ポリマーへのCNTの混合分散
前記解砕し乾燥したCNTを熱可塑性ポリマーに溶融混錬し、分散させ、押し出し、冷却し、ペレットにするか又は粉砕する。あるいは解砕したCNTの乾燥処理を行わずに、熱可塑性ポリマーに溶融混練し、溶媒を揮発等で除去しながら分散、押出、冷却してペレットにするかまたは粉砕しても良い。
(3)マスターバッチ法ポリマーと母材ポリマーの混合と溶融紡糸
前記マスターバッチ法ポリマーのペレットと母材ポリマーのペレットを混合し、押し出し機で溶融押し出しし、紡糸し、延伸してフィラメントを製造する。
【0018】
本発明の一実施形態のラケット用ストリングを製造する方法について説明する。
1 モノフィラメントの場合
モノフィラメントをそのまま使用する。
2 芯糸と皮糸の場合
(1)芯糸の表面に皮糸を被覆する工程
まず、直径0.40~1.00mmのナイロン6等のモノフィラメントを芯糸とし、直径0.10~0.20mmの皮糸を芯糸の表面に、例えばS撚りに巻き付けて被覆する。皮糸はナイロン6等のフィラメントを8~40本、好ましくは10~20本芯糸の表面に配置させる。このとき、芯糸と皮糸はナイロンフェノール樹脂等で接着するのが好ましい。
(2)芯糸と皮糸の表面に被覆樹脂をコーティングする工程
芯糸と皮糸の表面にナイロン6・12を溶融コーティングする。ナイロン6・12は200~250℃で溶融し、この溶融液をノズルから押し出して芯糸と皮糸の表面に供給し、リングで絞ることにより、所定量付着させる。その後冷却する。被覆樹脂の好ましい付着量は1.20~1.35g/mであり、さらに好ましくは 1.28~1.32g/mである。
【0019】
次に図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態のモノフィラメント単独のラケット用ストリング1の断面図である。このラケット用ストリング1を「モノフィラメントタイプ」ともいう。
図2は本発明の別の実施形態の芯糸の表面に皮糸を配置したラケット用ストリングの断面図である。このラケット用ストリング2は、合成繊維フィラメント製芯糸3と、芯糸3を被覆する合成繊維フィラメント製皮糸4と、芯糸3の表面から皮糸4の外側までの被覆樹脂層5で構成されている。このラケット用ストリング3を「マルチフィラメントタイプ」ともいう。
【実施例0020】
以下実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、評価は下記の方法で行った。
【0021】
<強伸度特性>
ストリングの引張強力及び破断伸度はJIS L1013に準じ引張試験機(島津製作所、オートグラフAGS-100NX)にて測定した。直径はマイクロメーターを用いて測定した。測定数はN=5の平均値を示した。
<剛性及び反発率>
ストリング1本を50ポンドの張力で引張り両端をクランプで固定した(つかみ間隔30cm)。振り子式のハンマーを用いて、ストリングの中央部にストリングに対して直角、水平方向に衝突するように一定位置から振り下ろし、衝突後のストリングの動き(変位量)と応力を1/1000秒間隔で測定し、以下の方法で剛性(ポンド/インチ)と反発率(%)を求めた。
剛性(ポンド/インチ)=最大応力P(ポンド)/最大変位量L(水平方向、インチ)
反発率(%)=(S2/S1)×100
但し、S1:応力―ひずみ(変位量)曲線(往復)における衝突から最大変位までの部分(往部)の面積。S2:応力―ひずみ曲線の最大変位位置からゼロ変位まで(復部)の面積。
剛性値の数値が高いほど、ラケットに張った状態で打感が硬いことを示し、数値が低いほど柔らかい(ソフト感)ことを示す。
反発率は数値が高いほど、衝突におけるエネルギーロスが少なく反発性が大きいことを示す。反発率、剛性率については、参考文献;Rod Cross"Laboratory testing of tennis string" Sports Engineering(2000) 3,219-230)に詳しく説明されている。
<ホールド感、最大変位>
ホールド感:ストリング1本を50ポンドの張力で引張り、両端をクランプで固定する(つかみ間隔30cm)。振り子式のハンマーを用いて、ストリングの中央部にストリングに対して直角、水平方向に衝突するように一定位置から振り、ハンマーとストリングの接触する時間(秒)を計測する。この接触時間をもってホールド感とした。
最大変位:ストリング1本を50ポンドの張力で引張り、両端をクランプで固定する(つかみ間隔30cm)。振り子式のハンマーを用いて、ストリングの中央部にストリングに対して直角、水平方向に衝突するように一定位置から振り、ハンマー衝突時、ストリングがどのくらい歪んだか(動いたか)を計測する。この歪み(単位mm)をもって最大変位とした。
【0022】
(実施例1)
<CNTの解砕>
(1)Nanocyl社製の多層CNTNC7000(平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm)20gを、蒸留水2000mLに加え、スターラーを用いて400rpmにて一晩スラリーを攪拌した。
(2)湿式ジェットミル装置(株式会社常光製、商品名:NAGS100)を用いて、スラリーを処理圧力100MPaで3回の渦流により高速高剪断処理することで、多層CNTの解砕処理を行った。得られたCNTスラリーを24時間静置して、静置前からのCNTの相対充填量減少率を測定したところ、1%であった。
(3)上記解砕CNTスラリー1000mLを凍結乾燥装置(株式会社プリス製LS-6フリーズドライヤー)を用いて500mLずつ2回に分けて乾燥し、解砕CNT粉末6.7gを得た。
<マスターバッチ法による熱可塑性ポリマーへのCNTの混合分散>
(4)乾式混練
上記解砕CNT粉末3.0gとエチレンとα-オレフィンの共重合体樹脂ペレット(日本ポリエチレン社製、商品名"カーネルKC580S")600gを密閉容器中で振り交ぜて混合したものを、二軸押出機(株式会社テクノベル製KZW15TW-45MG-NH(-700)にて温度150℃で混練し、CNT/エチレン共重合体0.5phrマスターバッチを得た。
<マスターバッチ法ポリマーと母材ポリマーの混合と溶融紡糸>
上記(4)で得たCNT/エチレン共重合体0.5phrマスターバッチ515gとナイロン樹脂ペレット(DSM社製1020J)51.5kgを、二軸押出機にて温度240℃で混練し、CNT/エチレン共重合体/ナイロン6=0.005/1/99の比からなる紡糸用ポリマー組成物を得た。
<ラケット用ストリングの製造>
上記紡糸用ポリマー組成物を用い、溶融紡糸装置にて240℃で押出し、延伸倍率4倍、延伸後収縮率4%で紡糸してストリングを得た。モノフィラメントタイプは繊維径1.25mm、マルチフィラメントタイプの芯糸用は繊維径0.88mm、皮糸用は繊維径0.22mmになるよう押出機からの吐出量を調整した。マルチフィラメントタイプストリングの作製は、芯糸にフェノール系接着剤を付着させた後に皮糸15本を巻き付け乾燥し、その後ナイロン66樹脂をコーティングしてストリングを得た。
<ストリングの物性測定>
引張強伸度はJIS L1013に従い島津製作所製オートグラフAGS-Xを用いて測定した。動的粘弾性は、NETZSCH社GABOMETERを用い、ストリングに付与する荷重を想定して25kgfの初期荷重を加えた状態で測定した。周波数10Hzとして、-50℃~50℃の温度分散測定を実施した。実打時の接触時間は、2msec~4msecというデータがあり、周波数で250~500Hzに相当する。実打条件が20℃と仮定して、Δ10℃が周波数比1桁分に相当するため、粘弾性計測条件10Hzの実打周波数の周波数比2桁分の差を考慮し、0℃のデータに着目した。また、タッチショット等のハーフスイングのショットを想定し、10℃のデータも抽出した。ハーフスイングショットは食いつきがよく、フルスイングショットでは適度に反発性が必要であり、tanδ(10℃)/tanδ(0℃)の差が大きいほうが好ましく、1.14倍以上が好ましい。さらに、くいつき感のことを考慮し、10℃におけるtanδの値が0.04以上であることが好ましい。
図3にモノフィラメントタイプの動的粘弾性のグラフを示し、図4にマルチフィラメントタイプの動的粘弾性のグラフを示す。
また、図5にモノフィラメントタイプの引張応力歪曲線を示し、図6にマルチフィラメントタイプの引張応力歪曲線を示す。
下記の表1にストリングの物性をまとめて示す。
【0023】
【表1】
【0024】
<ラケットにストリングを張設して評価>
得られたストリングを重量、バランスを揃えた硬式テニス用ラケットに張設し、プロテニスプレーヤー1名を含む合計10名の成人男子による試打評価を行い、各項目の評価を採点方式で行った。インドア、ハードコートで評価を実施した。評価に際しては、対照標準品を3.0点として1~5点の範囲で相対評価した。10名の評価点の平均値をもって各項目の評価点とした。
下記の表2及び図7に試打評価結果(モノフィラメントタイプ)を示し、表3及び図8に試打評価結果(マルチフィラメントタイプ)を示す。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
以上の結果から、本実施例のラケット用ストリングは、モノフィラメントタイプもマルチフィラメントタイプも弾性率を制御して、打球感、打球飛び性及びその他の性質をバランスさせたラケット用ストリングであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のラケット用ストリングは、硬式テニス、ソフトテニス、バドミントン、スカッシュなどに適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1,2 ラケット用ストリング
3 芯糸
4 皮糸
5 被覆樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8