(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175275
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】磁気軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20231205BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087642
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】掛巣 佑
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】茨田 敏光
【テーマコード(参考)】
3H131
3J102
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131CA13
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA18
3J102CA03
3J102CA08
3J102CA19
3J102CA32
3J102DA02
3J102DA09
3J102DA16
3J102DA18
3J102DA31
3J102DB01
3J102DB05
3J102DB12
3J102DB19
3J102GA06
(57)【要約】
【課題】小さな磁気引力で回転体の傾きを修正でき、かつ回転体を安定して支持することができる磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】磁気軸受装置は、非磁性材料から構成された非磁性リング1と、非磁性リング1の周方向に沿って配列された少なくとも3つのアキシャル磁極5を備えている。各アキシャル磁極5は、円弧状のコイル10と、コイル10を収容するコイルハウジング12を備えており、少なくとも3つのアキシャル磁極5は、非磁性リング1に固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を非接触で支持するための磁気軸受装置であって、
非磁性材料から構成された非磁性リングと、
前記非磁性リングの周方向に沿って配列された少なくとも3つのアキシャル磁極を備え、
各アキシャル磁極は、円弧状のコイルと、前記コイルを収容するコイルハウジングを備えており、
前記少なくとも3つのアキシャル磁極は、前記非磁性リングに固定されている、磁気軸受装置。
【請求項2】
前記コイルハウジングは、前記コイルが巻かれた円弧状の外壁と、前記外壁の内側に配置された円弧状の内壁と、前記外壁の上端および前記内壁の上端に接続された基台プレートを有しており、
前記コイルハウジングは、前記非磁性リングに固定されている、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項3】
前記コイルハウジングは、前記内壁から径方向内側に突出するフランジを有しており、前記フランジは前記非磁性リングに締結具により固定されている、請求項2に記載の磁気軸受装置。
【請求項4】
前記コイルに接続された電線は、前記フランジに沿って配置されている、請求項3に記載の磁気軸受装置。
【請求項5】
前記非磁性リングは、その内周に少なくとも1つの切り欠きを有しており、前記電線は前記切り欠きを通って延びている、請求項4に記載の磁気軸受装置。
【請求項6】
前記コイルハウジングは、前記コイルが巻かれた円弧状の内壁と、前記内壁の外側に配置された円弧状の外壁と、前記外壁の上端および前記内壁の上端に接続された基台プレートを有しており、
前記コイルハウジングは、前記非磁性リングに固定されている、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項7】
前記コイルハウジングは、前記外壁から径方向外側に突出するフランジを有しており、前記フランジは前記非磁性リングに締結具により固定されている、請求項6に記載の磁気軸受装置。
【請求項8】
前記コイルに接続された電線は、前記フランジに沿って配置されている、請求項7に記載の磁気軸受装置。
【請求項9】
前記非磁性リングは、その外周に少なくとも1つの切り欠きを有しており、前記電線は前記切り欠きを通って延びている、請求項8に記載の磁気軸受装置。
【請求項10】
前記非磁性リングと各アキシャル磁極との相対位置を固定する複数の位置決めピンをさらに備えている、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項11】
前記少なくとも3つのアキシャル磁極の前記コイルを覆うモールド材をさらに備えている、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項12】
前記コイルハウジングの上面は、放熱部材に面接触可能な平坦面である、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を非接触で支持することができる磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受装置は、電磁コイルにより発生した磁力で回転体を浮上させる装置である。磁気軸受装置は、回転体に機械的に接触せずに回転体を支持することができるので、回転体の摩耗や摩擦熱を引き起こすことがない。したがって、磁気軸受装置は、ターボ分子ポンプのタービン翼などの高速で回転する回転体を支持する用途に適している。
【0003】
図10は、従来の磁気軸受装置の一例を示す模式図である。
図10に示すように、通常、磁気軸受装置は、回転体500の軸心に沿って配列された上ラジアル磁極501A,501Bおよび下ラジアル磁極502A,502Bを備えている。上ラジアル磁極501A,501Bおよび下ラジアル磁極502A,502Bは、回転体500のラジアル荷重を支持するのみならず、回転体500の傾きを調整する機能も有する。すなわち、
図11に示すように、回転体500が傾いたとき、上ラジアル磁極501A,501Bおよび下ラジアル磁極502A,502Bは異なる磁気引力を発生させることで、回転体500の傾きを修正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転体500が扁平形状を有している場合は、回転体500の傾きを修正するために大きな磁気引力が必要となる。すなわち、回転体500の重心Oと磁気引力の作用点との距離Lが短いため、必要なモーメント力を発生させるための磁気引力が大きくなる。結果として、ラジアル磁極501A,501B,502A,502Bに必要な電力が増大してしまう。
【0006】
さらに、回転体500が高速で回転すると、回転体500の全体はその径方向外側に膨張する。結果として、回転体500とラジアル磁極501A,501B,502A,502Bとの磁気ギャップが増加し、磁気引力の低下および制御の不安定を引き起こす。
【0007】
また、図示しないが、従来のアキシャル磁極は、断面がコの字のリング形状の磁性材からなる磁極コアにコイルが所定の巻き数で巻回され、巻き線に電流を流すことで回転体に別途配置された磁極ターゲットと磁極コア間に力を発生させる。しかし、回転体が傾いたときは、アキシャル磁極とのギャップが近いところと遠いところが生じ、近いところは力が大きく、遠いところは力が弱くなるため、ロータがより傾こうとする。重量が大きい縦置き型のロータでは、アキシャル磁気引力が大きくなるため、ロータが傾いたときのより傾こうとする力はさらに強くなり、ラジアル傾き制御への干渉が起きる。
【0008】
そこで、本発明は、小さな磁気引力で回転体の傾きを修正でき、かつ回転体を安定して支持することができる磁気軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、回転体を非接触で支持するための磁気軸受装置であって、非磁性材料から構成された非磁性リングと、前記非磁性リングの周方向に沿って配列された少なくとも3つのアキシャル磁極を備え、各アキシャル磁極は、円弧状のコイルと、前記コイルを収容するコイルハウジングを備えており、前記少なくとも3つのアキシャル磁極は、前記非磁性リングに固定されている、磁気軸受装置が提供される。
【0010】
一態様では、前記コイルハウジングは、前記コイルが巻かれた円弧状の外壁と、前記外壁の内側に配置された円弧状の内壁と、前記外壁の上端および前記内壁の上端に接続された基台プレートを有しており、前記コイルハウジングは、前記非磁性リングに固定されている。
一態様では、前記コイルハウジングは、前記内壁から径方向内側に突出するフランジを有しており、前記フランジは前記非磁性リングに締結具により固定されている。
一態様では、前記コイルに接続された電線は、前記フランジに沿って配置されている。
一態様では、前記非磁性リングは、その内周に少なくとも1つの切り欠きを有しており、前記電線は前記切り欠きを通って延びている。
【0011】
一態様では、前記コイルハウジングは、前記コイルが巻かれた円弧状の内壁と、前記内壁の外側に配置された円弧状の外壁と、前記外壁の上端および前記内壁の上端に接続された基台プレートを有しており、前記コイルハウジングは、前記非磁性リングに固定されている。
一態様では、前記コイルハウジングは、前記外壁から径方向外側に突出するフランジを有しており、前記フランジは前記非磁性リングに締結具により固定されている。
一態様では、前記コイルに接続された電線は、前記フランジに沿って配置されている。
一態様では、前記非磁性リングは、その外周に少なくとも1つの切り欠きを有しており、前記電線は前記切り欠きを通って延びている。
【0012】
一態様では、前記磁気軸受装置は、前記非磁性リングと各アキシャル磁極との相対位置を固定する複数の位置決めピンをさらに備えている。
一態様では、前記磁気軸受装置は、前記少なくとも3つのアキシャル磁極の前記コイルを覆うモールド材をさらに備えている。
一態様では、前記コイルハウジングの上面は、放熱部材に面接触可能な平坦面である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各アキシャル磁極により発生した磁気引力の作用点は、回転体の重心から離すことができるので、磁気軸受装置は、小さな磁気引力で回転体の傾きを修正することができる。また、高速回転する回転体がその径方向外側に膨張したときでも、アキシャル磁極と回転体との磁気ギャップは変化しない。したがって、磁気軸受装置は、回転体の姿勢を安定して制御することができる。
【0014】
複数のアキシャル磁極は、単一の非磁性リングに固定されており、これらアキシャル磁極の相対位置は固定されている。したがって、回転体の大きな荷重がアキシャル磁極に加わったときでも、アキシャル磁極の位置を安定させることができる。結果として、アキシャル磁極は、回転体の姿勢を正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】磁気軸受装置の一実施形態を上から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示す磁気軸受装置を下から見た斜視図である。
【
図4】コイルの配線の一実施形態を示す斜視図である。
【
図5】上記磁気軸受装置と、磁気軸受装置によって支持される回転体を含む回転機械の一実施形態を示す模式図である。
【
図6】磁気軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。
【
図7】磁気軸受装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図8】
図7のコイルハウジングをその上から見た上面図である。
【
図9】磁気軸受装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図10】従来の磁気軸受装置の一例を示す模式図である。
【
図11】従来の磁気軸受装置が回転体の傾きを修正する様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、磁気軸受装置の一実施形態を上から見た斜視図であり、
図2は、
図1に示す磁気軸受装置を下から見た斜視図である。磁気軸受装置は、非磁性材料から構成された非磁性リング1と、非磁性リング1の周方向に沿って配列された4つのアキシャル磁極5を備えている。非磁性リング1を構成する非磁性材料の例としては、オーステナイト系ステンレス鋼、樹脂系の非磁性材料(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、繊維強化プラスチック)などが挙げられる。
【0017】
各アキシャル磁極5は、複数の締結具である複数のねじ7によって非磁性リング1に着脱可能に固定されている。これら4つのアキシャル磁極5の相対位置は、単一の非磁性リング1によって固定される。各アキシャル磁極5は、円弧状のコイル10と、コイル10を収容するコイルハウジング12を備えている。コイルハウジング12は、上記複数のねじ7により非磁性リング1に固定されている。これらねじ7を外すと、アキシャル磁極5の全体を非磁性リング1から外すことができる。
【0018】
本実施形態では、4つのアキシャル磁極5が設けられているが、アキシャル磁極5の数は本実施形態に限られない。磁気軸受装置に支持される回転体(後述する)の傾きを修正する観点から、少なくとも3つのアキシャル磁極5が設けられる。したがって、他の実施形態では、非磁性リング1の周方向に沿って配列された3つのアキシャル磁極5、あるいは5つまたはそれよりも多いアキシャル磁極5が設けられてもよい。
【0019】
各コイルハウジング12は、コイル10が巻かれた円弧状の外壁15と、外壁15の内側に配置された円弧状の内壁16と、外壁15の上端および内壁16の上端に接続された基台プレート17を有している。コイルハウジング12は、非磁性リング1に固定されている。より具体的には、コイルハウジング12は、内壁16から径方向内側に突出するフランジ20を有しており、フランジ20は、非磁性リング1に沿った円弧状の形状を有している。フランジ20は、ねじ7が貫通する通孔(図示せず)を有しており、非磁性リング1は、ねじ7が螺合されるねじ穴(図示せず)を有している。ねじ7が非磁性リング1のねじ穴に螺合されることで、フランジ20は非磁性リング1に固定される。
【0020】
外壁15、内壁16、および基台プレート17は、鉄などの金属から構成されている。本実施形態では、外壁15、内壁16、および基台プレート17は、一体構造物である。一実施形態では、外壁15、内壁16、および基台プレート17は別々の構造体であってもよい。コイル10は外壁15の全周に巻かれており、外壁15はコイル10の鉄心として機能する。内壁16は、外壁15およびコイル10の内側に沿って延びている。外壁15と内壁16との間の径方向隙間は一定であり、外壁15および内壁16の両方は、コイル10の湾曲形状に沿って湾曲している。コイル10は、基台プレート17に接触しており、コイル10に発生した熱は基台プレート17に伝わり、基台プレート17から熱を放出することでコイル10を冷却することができる。
【0021】
4つのアキシャル磁極5は、非磁性リング1の周方向に沿って等間隔で配列されている。アキシャル磁極5は、隙間を空けて配列されている。すなわち、隣り合う2つのアキシャル磁極5は互いに離れており、アキシャル磁極5同士での磁気干渉が起きにくいようになっている。4つのアキシャル磁極5は非磁性リング1に固定されているが、非磁性リング1は、非磁性材料から構成されているので、アキシャル磁極5同士での磁気干渉は起きにくい。
【0022】
図3は、
図1のA-A線断面図である。コイルハウジング12は、上述したように、コイル10が巻かれた外壁15と、外壁15の径方向内側に配置された内壁16と、外壁15の上端および内壁16の上端に接続された基台プレート17を有している。外壁15と内壁16は並列に配列されており、非磁性リング1の軸心CLと平行に基台プレート17から下方に突出している。外壁15の下端と、内壁16の下端は、下方に露出している。コイル10に電流が流れると、外壁15と内壁16を通る磁力が発生する。後述する回転体はこの磁力(磁気引力)により上方に引き寄せられる。
【0023】
磁気軸受装置は、非磁性リング1とアキシャル磁極5との相対位置を固定する複数の位置決めピン26をさらに備えている。
図3では1つの位置決めピン26のみが描かれているが、各アキシャル磁極5について複数の位置決めピン26が設けられている。コイルハウジング12は、フランジ20の下面に形成された第1穴28を有しており、非磁性リング1は、その上面に形成された第2穴29を有している。位置決めピン26は、第1穴28および第2穴29の両方に挿入されている。
【0024】
位置決めピン26は、複数のアキシャル磁極5と非磁性リング1の相対位置を固定し、これにより複数のアキシャル磁極5の相対位置も固定される。
図1に示す締結具としてのねじ7によって複数のアキシャル磁極5は非磁性リング1に固定されているが、位置決めピン26はねじ7よりもより精密に複数のアキシャル磁極5の相対位置を固定することができる。したがって、アキシャル磁極5は、後述する回転体の姿勢を正確に制御することができる。
【0025】
図4は、コイル10の配線の一実施形態を示す斜視図である。
図4に示すように、コイル10に接続された電線32は、コイルハウジング12のフランジ20の上面に沿って配置されている。より具体的には、電線32は、フランジ20上のスペース内に配置されている。本実施形態によれば、電線32のための専用のスペースを設ける必要がなく、磁気軸受装置の構成を簡素化できる。非磁性リング1は、その内周に少なくとも1つの切り欠き33を有しており、コイル10に接続された電線32は切り欠き33を通って延びている。
図4では、1つの切り欠き33が設けられているが、複数の切り欠き33が設けられてもよい。
【0026】
図5は、
図1乃至
図4を参照して説明した磁気軸受装置と、磁気軸受装置によって支持される回転体100を含む回転機械の一実施形態を示す模式図である。4つのアキシャル磁極5は、回転体100の軸心RAの周りに配列されており、回転体100の軸方向の変位および回転体100の傾きを調整する。4つのアキシャル磁極5は、回転体100の上方に位置しており、回転体100を磁気引力により引き上げるように動作する。アキシャル磁極5は、回転体100の下方には設けられていない。回転体100は、その自重により下方に変位する。磁気軸受装置は、回転体100の下方に配置されたアキシャル磁極は有していないので、磁気軸受装置の全体をコンパクトにできる。
【0027】
回転体100の具体例は、特に限定されないが、例えば、ターボ分子ポンプのタービン翼が挙げられる。
図5に示す実施形態の回転体100は、その軸方向の寸法よりも大きな直径を有する扁平型ロータである。
【0028】
アキシャル磁極5および非磁性リング1は、取り付けカバー40とステータ42の段部43との間に挟まれることで、ステータ42に固定されている。すなわち、取り付けカバー40は、図示しないねじにより、ステータ42の上面に固定されており、アキシャル磁極5に固定されている非磁性リング1は、取り付けカバー40によりステータ42の段部43に押し付けられている。ただし、アキシャル磁極5および非磁性リング1のステータ42への取り付けは、本実施形態には限定されない。
【0029】
取り付けカバー40は、鉄またはアルミニウムなどの金属から構成されており、各アキシャル磁極5のコイルハウジング12に面接触している。より具体的には、コイルハウジング12の上面(すなわち基台プレート17の上面)は平坦面であり、この平坦面は放熱部材としても機能する取り付けカバー40に面接触している。コイル10に発生した熱はコイルハウジング12を経由して取り付けカバー40に伝わり、取り付けカバー40から熱を放出することでコイル10を冷却することができる。取り付けカバー40とフランジ20との間には、コイル10に接続された電線32が配置されたスペースSが形成されている。
【0030】
磁気軸受装置は、回転体100の軸方向の変位を検出する複数のアキシャル変位センサ47と、回転体100の軸方向の変位に基づいてアキシャル磁極5に指令を与え、アキシャル磁極5に回転体100の軸方向の位置および回転体100の傾きを調整させる磁極制御部50をさらに備えている。複数のアキシャル変位センサ47は、ステータ42に固定されている。
【0031】
磁極制御部50は、回転体100の位置および傾きを制御するためのプログラムが格納された記憶装置50aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する演算装置50bを備えている。磁極制御部50は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置50aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。演算装置50bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、磁極制御部50の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0032】
複数のアキシャル変位センサ47およびアキシャル磁極5は、磁極制御部50に電気的に接続されている。回転体100の軸方向の位置および回転体100の傾きは、複数のアキシャル変位センサ47から磁極制御部50に送られる回転体100の軸方向の変位の測定値から決定できる。したがって、磁極制御部50は、回転体100の軸方向の変位の測定値に基づいてアキシャル磁極5に指令を与え、回転体100が目標アキシャル位置および目標傾き(鉛直姿勢を含む)に維持されるようにアキシャル磁極5に指令を与える。
【0033】
本実施形態によれば、複数のアキシャル磁極5により発生した複数の磁気引力により回転体100の姿勢(傾きを含む)を修正(調整)することができる。
図5から分かるように、各アキシャル磁極5により発生した磁気引力の作用点は、回転体100の重心から離すことができるので、磁気軸受装置は、小さな磁気引力で回転体100の傾きを修正することができる。また、高速回転する回転体100がその径方向外側に膨張したときでも、アキシャル磁極5と回転体100との磁気ギャップは変化しない。したがって、磁気軸受装置は、回転体100の姿勢を安定して制御することができる。
【0034】
磁気軸受装置は、回転体100の径方向の変位を検出する複数のラジアル変位センサ60と、回転体100のラジアル荷重を支持する複数のラジアル磁極62をさらに備えている。複数のラジアル変位センサ60および複数のラジアル磁極62は、ステータ42に固定されている。複数のラジアル変位センサ60は、磁極制御部50に電気的に接続されている。回転体100の径方向の位置は、複数のラジアル変位センサ60から磁極制御部50に送られる回転体100の径方向の変位の測定値から決定できる。したがって、磁極制御部50は、回転体100の径方向の変位の測定値に基づいてラジアル磁極62に指令を与え、回転体100が目標ラジアル位置に維持されるようにラジアル磁極62に指令を与える。
【0035】
複数のアキシャル磁極5は、回転体100の軸心RAの周りに配列されているので、磁極制御部50は、複数のアキシャル磁極5に指令を与えて、回転体100のアキシャル方向の位置のみならず、回転体100のラジアル方向の位置も調整するように構成することもできる。このような場合は、ラジアル変位センサ60およびラジアル磁極62を省略してもよい。
【0036】
図6は、磁気軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1乃至
図5を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図6に示すように、磁気軸受装置は、各アキシャル磁極5のコイル10を覆うモールド材70を備えている。モールド材70の具体例としては、エポキシ樹脂などが挙げられる。モールド材70は、コイル10の固定、コイル10の絶縁保護、腐食ガスやラジカルからのコイル10の保護、コイル10からの抜熱という機能を有する。
【0037】
モールド材70は、4つのアキシャル磁極5のコイル10を覆うのみならず、アキシャル磁極5間の隙間も満たしている。モールド材70は、非磁性リング1によって相対位置が固定された4つのアキシャル磁極5の機械的強度を高めることができる。
【0038】
図7は、磁気軸受装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1乃至
図5を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図7に示すように、コイルハウジング12は、コイル10が巻かれた円弧状の内壁16と、内壁16の外側に配置された円弧状の外壁15と、外壁15の上端および内壁16の上端に接続された基台プレート17を有している。コイルハウジング12は、非磁性リング1に固定されている。
【0039】
ステータ42は、内部空間を有する中空形状を有しており、回転体100はステータ42の内部空間内に配置されている。すなわち、ステータ42は、回転体100を囲むように配置されている。コイルハウジング12は、外壁15から径方向外側に突出するフランジ20を有している。フランジ20は、非磁性リング1にねじ(図示せず)などの締結具により固定されている。さらに、非磁性リング1は、ねじ(図示せず)などの締結具により、ステータ42に固定されている。したがって、非磁性リング1に固定されたアキシャル磁極5は、ステータ42に固定される。
【0040】
図8は、
図7のコイルハウジング12をその上から見た上面図である。
図8に示すように、コイル10に接続された電線32は、フランジ20の上面に沿って配置されている。非磁性リング1は、その外周に少なくとも1つの切り欠き33を有しており、コイル10に接続された電線32は切り欠き33を通って延びている。
図8では、1つの切り欠き33が設けられているが、複数の切り欠き33が設けられてもよい。
【0041】
図9に示すように、
図6に示すモールド材70は、
図7に示す実施形態にも適用可能である。
【0042】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0043】
1 非磁性リング
5 アキシャル磁極
7 ねじ
10 コイル
12 コイルハウジング
15 外壁
16 内壁
17 基台プレート
20 フランジ
26 位置決めピン
28 第1穴
29 第2穴
32 電線
33 切り欠き
40 取り付けカバー
42 ステータ
43 段部
47 アキシャル変位センサ
50 磁極制御部
60 ラジアル変位センサ
62 ラジアル磁極
70 モールド材
100 回転体