(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175318
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】電池用カーボンブラック分散組成物、正極用合材ペースト、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231205BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231205BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231205BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087706
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒月 恵一
(72)【発明者】
【氏名】新延 信吾
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050EA10
5H050EA25
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】カーボンブラックの分散性を高め、かつ分散直後の分散性を維持し続け、多くの労力や時間を費やすことなく貯蔵安定性に優れたN-メチル-2-ピロリドンを分散媒とする電池用カーボンブラック分散組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラック、分散剤及びN-メチル-2-ピロリドンを含む電池用カーボンブラック分散組成物において、更に、ヒンダードフェノール化合物をカーボンブラック100質量部に対して0.0001~5質量部含む電池用カーボンブラック分散組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、分散剤及びN-メチル-2-ピロリドンを含む電池用カーボンブラック分散組成物において、更に、ヒンダードフェノール化合物をカーボンブラック100質量部に対して0.0001~5質量部含む電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量が、5~20質量%である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックのBET比表面積が、30~1500m2/gである請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項4】
前記分散剤の添加量が、カーボンブラック100質量部に対して1~20質量部である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項5】
前記分散剤が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項6】
前記ヒンダードフェノール化合物が、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸][オキサリルビス(アザンジイル)]ビス(エタン-2,1-ジイル)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、4-[[4,6-ビス(n-オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電池用カーボンブラック分散組成物、正極活物質及びバインダーを含む正極用合材ペースト。
【請求項8】
集電体と、該集電体上に形成された請求項7に記載の正極用合材ペーストの塗工乾燥膜である正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極、負極、電解質及びセパレーターを備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用カーボンブラック分散組成物、正極用合材ペースト、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いことが特長であり、携帯電話、ノート型パソコンといったモバイル端末の急速な普及が要因となって市場が拡大し、それに伴って性能も飛躍的に向上している。近年では、持続可能社会実現に向けた動きとして自動車の電動化、電力貯蔵システムの効率化が進められており、今後もリチウムイオン二次電池の市場拡大が見込まれる。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極は、主に正極活物質、導電助剤、バインダー、集電体を備えている。リチウムイオン二次電池の容量は主に活物質量で決まることから、電池の高容量化のためには導電助剤をはじめとする活物質以外の材料は極力減らすことが好ましく、より少ない添加量で高い導電性を付与できるように導電助剤は高比表面積化、高ストラクチャ化が進んでいる。しかしながら、高比表面積化、高ストラクチャ化によって導電助剤の凝集性が高まるため、均一な分散を実現することが困難となり、結果として電極内導電パスの不均一化による内部抵抗の上昇や、負荷偏在による電池の短寿命化を引き起こすおそれがあった。
【0004】
そこで、近年では、導電助剤の凝集を防ぎ、均一に分散した電極を作製する方法として、高分子分散剤を使用して導電助剤を有機溶媒等の分散媒にあらかじめ均一に分散させて導電助剤分散液を作製し、得られた導電助剤分散液に正極活物質及びバインダーを混合して正極合材スラリーを作製する手法が一般的に用いられるようになった。
【0005】
上述の導電助剤分散液には、導電助剤が均一かつ良好な分散状態であること、それに加えて、分散液製造後から電極合材スラリーを作製するまでの貯蔵期間中に導電助剤の分散状態、分散液粘度が変化せず安定であることが求められる。
【0006】
これは、導電助剤が分散不良で凝集した場合、分散液の粘度が上昇するため、これを用いて製造する正極合材スラリーの塗工性が悪くなり、平滑な合材の塗膜が得られず、結果的に、前述の電極内導電パスの不均一化と合わせて性能面の悪化につながるためである。
【0007】
また、分散貯蔵安定性に関しては、導電助剤の分散状態の経時変化が反映され、貯蔵による分散状態の変化が大きいと正極製造における品質のバラつきが増大する。
【0008】
一般に、前記導電助剤にはカーボンブラックが用いられ、導電助剤としてカーボンブラックを用いた分散液の分散性、貯蔵安定性を向上させる手法としては、例えば更なる添加剤としてカルボン酸などの酸性化合物を加えた、分散液が知られている(特開2016-046188号公報(特許文献1))。
【0009】
また、導電助剤分散液に追加の添加剤を使用しない手法としては、分散液の粘度特性を特定の範囲で管理することで分散性、貯蔵安定性を向上させた分散液が知られている(特開2020-021632号公報(特許文献2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-046188号公報
【特許文献2】特開2020-021632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、酸性化合物がカーボンブラックの分散性に対して作用するメカニズムについては説明されていないが、カーボンブラック粒子表面でのpH環境を制御することによってカーボンブラックの分散性を高めていると推測される。しかしながら、酸性化合物は、電極合材の組成物に対して化学的変性の要因として作用する懸念があるため、カーボンブラック分散液への添加は望ましくなかった。
また、特許文献2に記載の方法では、目標の粘度特性を有する分散液になるまで分散処理を継続することが求められるため、労力と時間を多く必要とする場合が多く、近年の電池市場からの生産コスト削減・生産量増大の要求を満たすことは困難となりうる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、カーボンブラックの分散性を高め、かつ分散直後の分散性を維持し続け、多くの労力や時間を費やすことなく貯蔵安定性に優れたN-メチル-2-ピロリドンを分散媒とする電池用カーボンブラック分散組成物、該電池用カーボンブラック分散組成物を用いた正極用合材ペースト、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、調査したところ、N-メチル-2-ピロリドンの保管期間中及び分散液貯蔵期間中に微量に生成するラジカル種が、カーボンブラックの分散性低下に大きく関与していることを見出した。また、このラジカル種の影響を排除するために、ラジカル捕捉剤として機能するヒンダードフェノール化合物を特定範囲の濃度で添加することが分散液におけるカーボンブラックの分散性及び長期保存安定性の向上に効果的であることを見出し、この知見を基に鋭意検討を行い、本発明の完成に至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の電池用カーボンブラック分散組成物、正極用合材ペースト、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供する。
1.
カーボンブラック、分散剤及びN-メチル-2-ピロリドンを含む電池用カーボンブラック分散組成物において、更に、ヒンダードフェノール化合物をカーボンブラック100質量部に対して0.0001~5質量部含む電池用カーボンブラック分散組成物。
2.
前記カーボンブラックの含有量が、5~20質量%である1に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
3.
前記カーボンブラックのBET比表面積が、30~1500m2/gである1又は2に記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
4.
前記分散剤の添加量が、カーボンブラック100質量部に対して1~20質量部である1~3のいずれかに記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
5.
前記分散剤が、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種である1~5のいずれかに記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
6.
前記ヒンダードフェノール化合物が、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸][オキサリルビス(アザンジイル)]ビス(エタン-2,1-ジイル)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、4-[[4,6-ビス(n-オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、及び1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンから選ばれる少なくとも1種である1~5のいずれかに記載の電池用カーボンブラック分散組成物。
7.
1~6のいずれかに記載の電池用カーボンブラック分散組成物、正極活物質及びバインダーを含む正極用合材ペースト。
8.
集電体と、該集電体上に形成された7に記載の正極用合材ペーストの塗工乾燥膜である正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極。
9.
8に記載のリチウムイオン二次電池用正極、負極、電解質及びセパレーターを備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カーボンブラックの分散性及び貯蔵安定性が優れた電池用カーボンブラック分散組成物を提供することが可能になる。また、当該電池用カーボンブラック分散組成物を用いることにより、リチウムイオン二次電池製造における不良率の低減と生産コスト低減が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[電池用カーボンブラック分散組成物]
以下、本発明に係る電池用カーボンブラック分散組成物について説明する。
本発明に係る電池用カーボンブラック分散組成物は、カーボンブラック、分散剤及びN-メチル-2-ピロリドンを含む電池用カーボンブラック分散組成物において、更に、ヒンダードフェノール化合物をカーボンブラック100質量部に対して0.0001~5質量部含むことを特徴とするものである。
【0017】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、当該電池用カーボンブラック分散組成物で形成される電極(具体的には、後述するリチウムイオン二次電池における正極)の電気導電性を高めるための導電助剤として添加されるものであり、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。中でも導電性の観点から、アセチレンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。
【0018】
電極に使用されるカーボンブラックは少ない添加量で良好な導電性を発揮させるために高比表面積化が進んでいる。電極用途として好適に使用し得るカーボンブラックのBET比表面積(BET法により測定される比表面積)は30~1500m2/gであることが好ましく、40~1200m2/gであることがより好ましく、60~1000m2/gであることが特に好ましい。
【0019】
カーボンブラックの含有量は、調製する分散組成物の流動性と操作性の観点から、5~20質量%が好ましく、6~18質量%であることがより好ましい(即ち、当該電池用カーボンブラック分散組成物の全量(好ましくは、カーボンブラック、分散剤、N-メチル-2-ピロリドン及びヒンダードフェノール化合物の合計)100質量部に対して好ましくは5~20質量部であり、より好ましくは6~18質量部である)。
【0020】
なお、カーボンブラックと合わせてその他の炭素材料、例えばカーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛等を導電助剤として併用配合してもよい。併用配合する場合の、その他の炭素材料の添加量は、当該電池用カーボンブラック分散組成物の全量(好ましくは、カーボンブラック、分散剤、N-メチル-2-ピロリドン及びヒンダードフェノール化合物の合計)100質量部に対して好ましくは5~20質量部、より好ましくは6~18質量部である。
【0021】
(分散剤)
本発明に使用される分散剤は、カーボンブラックの分散性を向上させるものであれば特に限定されるものではないが、例えばメチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びポリビニルピロリドン(PVP)から選ばれる少なくとも1種である。このうち、少量の添加量で良好な分散性を発揮する観点から、メチルセルロース、ポリビニルアルコールが好ましく、メチルセルロースがより好ましい。
【0022】
メチルセルロースにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.60~2.10、より好ましくは1.70~2.00である。なお、メチルセルロースにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、第十八改正日本薬局方のメチルセルロースの置換度分析方法により測定できる値を換算することで求めることができる(以下、実施例において同じ)。
メチルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、分散性と安定性の観点から、好ましくは2.0~100.0mPa・s、より好ましくは3.0~50.0mPa・sである。メチルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度はJIS K2283-1993に規定されるウベローデ粘度計において、20℃における2質量%水溶液の測定粘度値を用いることができる(以下、実施例において同じ)。
【0023】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、特に制限されないが、好ましくは1.60~2.10、より好ましくは1.70~2.00であり、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~0.30、より好ましくは0.13~0.27である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースにおけるメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、第十八改正日本薬局方のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析方法により測定できる値を換算することで求めることができる。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液の20℃における粘度は、分散性と安定性の観点から、好ましくは2.0~100.0mPa・s、より好ましくは3.0~50.0mPa・sである。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの2質量%水溶液の20℃における粘度はJIS K2283-1993に規定されるウベローデ粘度計において、20℃における2質量%水溶液の測定粘度値を用いることができる。
【0024】
ポリビニルアルコールのけん化度は、N-メチル-2-ピロリドンに対する溶解性の観点から、好ましくは78.0モル%以上、より好ましくは85.0~99.5モル%である。ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726に記載のけん化度測定方法に従い測定することができる。
ポリビニルアルコールの20℃における4質量%水溶液の粘度は、分散性と安定性の観点から、好ましくは2.0~100.0mPa・s、より好ましくは3.0~50.0mPa・sである。ポリビニルアルコールにおける20℃における4質量%水溶液の粘度は、JIS K6726に記載の測定方法に従い測定することができる。
【0025】
ポリビニルピロリドンのK値は、特に制限されないが、好ましくは10~120、より好ましくは15~100である。ポリビニルピロリドンのK値は、第十八改正日本薬局方の「ポビドン」の項に記載のK値測定法によって測定することができる。
【0026】
分散剤の添加量は、カーボンブラックの分散性と当該電池用カーボンブラック分散組成物で形成される電極の電気特性の観点から、当該電池用カーボンブラック分散組成物中のカーボンブラック100質量部に対して1~20質量部が好ましく、5~13質量部がより好ましい。また、分散剤の含有量は、カーボンブラックの分散性と当該電池用カーボンブラック分散組成物で形成される電極の電気特性の観点から、0.05~4質量%が好ましく、0.25~2質量%がより好ましい(即ち、前記電池用カーボンブラック分散組成物の全量(好ましくは、カーボンブラック、分散剤、N-メチル-2-ピロリドン及びヒンダードフェノール化合物の合計)100質量部に対して好ましくは0.05~4質量部であり、より好ましくは0.25~2質量部である)。
【0027】
(N-メチル-2-ピロリドン)
N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」ともいう。)は、リチウムイオン電池の正極製造に使用される有機溶媒であり、本発明の電池用カーボンブラック分散組成物においてもカーボンブラックの分散媒として添加するものである。
NMPの含有量については特に制限はないが、電池用カーボンブラック分散組成物の操作性の観点から80~95質量%が好ましく、85~93質量%がより好ましい(即ち、前記電池用カーボンブラック分散組成物の全量(好ましくは、カーボンブラック、分散剤、N-メチル-2-ピロリドン及びヒンダードフェノール化合物の合計)100質量部に対して好ましくは80~95質量部であり、より好ましくは85~93質量部である)。
なお、各成分(該電池用カーボン分散液や正極合材用ペーストの成分)の親和性向上の観点から、その他の溶媒を1種類以上併用して使用してもよく、N-メチル-2-ピロリドン以外の溶媒としては、例えば、水、N-エチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、4-アセチルモルフォリン等が挙げられる。本発明では、溶媒としてNMP単独で用いることが好ましい。
【0028】
(ヒンダードフェノール化合物)
本発明は、上記成分を含む電池用カーボンブラック分散組成物にラジカル捕捉剤であるヒンダードフェノール化合物を含有することを特徴とする。ヒンダードフェノール化合物を添加することにより、保存期間中に生成して分散組成物の安定性に悪影響を与えるラジカル種を除去できる。
【0029】
ヒンダードフェノール化合物としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸][オキサリルビス(アザンジイル)]ビス(エタン-2,1-ジイル)、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、4-[[4,6-ビス(n-オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが挙げられる。中でも電池の性能に悪影響を及ぼさない観点から、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が特に好ましい。
【0030】
ヒンダードフェノール化合物の添加量は、カーボンブラック100質量部に対して0.0001~5質量部であり、0.001~1質量部が好ましく、0.01~0.3質量部がより好ましい。0.0001質量部未満の場合、添加量が少なく、組成物の安定性に悪影響を与えるラジカル種を十分に除去できず、期待する効果が得られない。一方、5質量部を超えた場合、逆に保管中に組成物の粘度が低下し、その結果、後の工程で製造する正極用合材ペーストの粘度がバラつき、集電体へのペースト塗工時に液だれ、塗膜不安定化による合材層の不均一化が発生する。
また、ヒンダードフェノール化合物の含有量は、上記と同様の理由より、0.000001~1質量%が好ましく、0.00001~0.2質量%がより好ましく、0.0001~0.07質量%が更に好ましい(即ち、前記電池用カーボンブラック分散組成物の全量(好ましくは、カーボンブラック、分散剤、N-メチル-2-ピロリドン及びヒンダードフェノール化合物の合計)100質量部に対して好ましくは0.000001~1質量部であり、より好ましくは0.00001~0.2質量部であり、更に好ましくは0.0001~0.07質量部である)。
【0031】
(その他の成分)
本発明の電池用カーボンブラック分散組成物は、本発明の目的の範囲内で、あるいはその分散性や電極化した際の性能を阻害しない範囲内でその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤が挙げられる。
【0032】
本発明の電池用カーボンブラック分散組成物の製造方法は、上記各成分が均一に混合されカーボンブラックが分散可能であれば特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、分散剤、ヒンダードフェノール化合物、NMP等を分散装置を用いて分散処理を施す分散工程によって調製される。この際、粉体原料であるカーボンブラック、分散剤、ヒンダードフェノール化合物を事前に混合してからこの混合物をNMP中に分散させてもよいし、分散剤をあらかじめNMP等の溶媒に溶解させてからカーボンブラック及びヒンダードフェノール化合物と混ぜ合わせてもよい。
【0033】
使用する分散装置としてはホモジナイザー、ホモディスパー、プラネタリミキサー、ペイントコンディショナー、ビーズミル、薄膜旋回型高速ミキサーが挙げられる。
【0034】
上述の分散工程では、カーボンブラックの分散性をより高める観点から、複数の分散装置を使用して分散工程を段階的に行ってもよい。例として、ホモディスパーやプラネタリミキサーで粉体原料(カーボンブラック、分散剤、ヒンダードフェノール化合物)と分散媒(NMP)を均一に混ぜ合わせた後、ビーズミルや薄膜旋回型高速ミキサーでカーボンブラックを微粒子として分散させる方法が挙げられる。
【0035】
[正極用合材ペースト]
本発明の正極用合材ペーストは、上述した本発明の電池用カーボンブラック分散組成物、正極活物質及びバインダーを含むものであり、リチウムイオン二次電池用正極の製造に使用することができる。
【0036】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極として用いられる材料であれば特に制限はないが、リチウム元素を含む遷移金属酸化物、あるいは該遷移金属酸化物に含まれる遷移金属元素の一部が異種元素に置換された遷移金属等を用いることができる。具体的にはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系(NCM)活物質、NCA系活物質がこれに該当する。また、上述の酸化物系活物質とは異なり、リン酸イオン(PO4
3-)やケイ酸イオン(SiO4
4-)といった多価アニオンを導入することによって、遷移金属のイオン性を高めたポリアニオン系の正極活物質も使用可能であり、具体的にはリン酸鉄リチウム、ケイ酸鉄リチウムなどが挙げられる。
【0037】
正極活物質の含有量は、35~80質量%であり、40~70質量%であることが好ましい(正極用合材ペースト100質量部に対して35~80質量部であり、40~70質量部であることが好ましい)。正極活物質の含有量が35質量%未満では電池として組上げた際のエネルギー密度が乏しくなり、80質量%超では正極用合材ペーストが固くなり、集電体へのペースト塗工工程が困難となるおそれがある。
【0038】
バインダーとしては、形成される正極合材層の耐久性の観点からフッ素系高分子材料が好まれ、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレンが挙げられる。また、正極用合材ペーストの結着性と塗工性の観点から、バインダーとして使用する高分子材料の重量平均分子量は200,000~1,200,000が好ましく、600,000~1,000,000が更に好ましい。
なお、バインダーとして使用する高分子材料の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーなどの公知の方法により測定することができる。
【0039】
バインダーの含有量は、0.3~10質量%であり、0.5~6質量%であることが好ましい(即ち、正極用合材ペースト100質量部に対して0.3~10質量部であり、0.5~6質量部であることが好ましい)。バインダーの含有量が0.3質量%未満では正極合材層の強度が不足し、合材層の剥離や割れが発生するおそれがある。また、10質量%超では電極内部の電気抵抗が増大してしまうおそれがある。
【0040】
本発明の正極用合材ペーストは、上述した本発明の電池用カーボンブラック分散組成物、正極活物質、バインダーを混合して調製でき、上述の電池用カーボンブラック分散組成物の製造方法で示した分散装置を混合装置として、用いることができる。
【0041】
正極用合材ペーストの製造の際には、粘度調整の観点から溶媒を追加してもよい。溶媒としては、上述した本発明の電池用カーボンブラック分散組成物で示した溶媒(NMP等)を用いることができる。
このときの正極用合材ペーストに含まれる溶媒(NMP)の量(即ち、電池用カーボンブラック分散組成物に含まれるNMP量と、追加されるNMP量の合計)は、10~70質量%であり、20~60質量%であることが好ましい。
【0042】
また、混合する際の材料投入手順等は特に限定されるものではなく、全ての材料を同時に加えて混合してもよく、あるいはバインダー、正極活物質及び溶媒を混合した後に電池用カーボンブラック分散組成物を加えて更に混合する等、混合工程を段階的にしてもよい。なお、バインダーについては、未溶解による継子等の異物が正極用合材ペーストに混入することを防ぐ観点から、使用する溶媒にあらかじめ溶解させ、溶液を調製してから添加することが推奨される。
【0043】
本発明の正極用合材ペーストは、リチウムイオン二次電池用正極の製造に好適である。具体的には、集電体上に任意の厚みで前記正極用合材ペーストを塗工して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥させ、得られた塗工乾燥膜を正極合材層としてリチウムイオン二次電池用正極を製造することができる。
【0044】
ここで、集電体としては、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル等の金属や合金のフィルム箔が用いられ、正極における電位安定性の観点から、アルミニウムが特に好ましい。集電体には、界面抵抗を下げる観点からカーボンコーティング等の表面処理が施されていてもよい。
【0045】
正極用合材ペーストの塗工に用いる装置としては、特に制限はないが、ナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーターが挙げられる。また、電極の電気抵抗、正極合材層の結着性向上のために、集電体に塗工した正極用合材ペースト又は正極用合材ペーストの塗工乾燥膜をロールプレス機等で圧延処理を施してもよい。
【0046】
正極用合材ペーストの塗工厚みは、50~1000μmが好ましく、100~500μmがより好ましい。
【0047】
塗工後の正極用合材ペーストの塗膜を乾燥炉により乾燥する。このときの乾燥温度及び時間は、好ましくは50~180℃で0.5~1200分、より好ましくは60~140℃で1~600分である。
【0048】
これにより、集電体と、本発明の正極用合材ペーストの塗工乾燥膜である正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極が得られる。このときの正極合材層の厚さは、10~800μmであることが好ましく、30~400μmであることがより好ましい。
【0049】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した本発明の正極合材層を含むリチウムイオン二次電池用正極、負極、電解質及びセパレーターを備えるものであり、該リチウムイオン二次電池用正極と、負極との間でセパレーターを挟んだ密閉状態で電解質が含浸された構造を有する。
【0050】
ここで、リチウムイオン二次電池の負極は、負極集電体の片面又は両面に負極合材層を有している。
【0051】
負極集電体は、リチウムイオン二次電池用正極における集電体と同様に金属や合金のフィルム箔が用いられるが、負極における電位安定性の観点から銅箔、ニッケル箔が好ましい。
【0052】
負極合材層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を1種又は2種以上含んでおり、必要に応じて負極用バインダー、負極用導電助剤、負極用分散剤を含んでもよい。
【0053】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いられる材料であれば特に制限はないが、具体的にはカーボン系負極材である天然黒鉛及び人造黒鉛、酸化物系負極材であるチタン酸リチウム、Si系負極材であるナノシリコン、シリコン合金、一酸化ケイ素などが挙げられる。
【0054】
負極用バインダーとしては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエン等が挙げられる。
【0055】
負極用導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0056】
負極用分散剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタンのいずれか1種以上を用いることができる。
【0057】
セパレーターは、リチウムイオン二次電池用正極、負極を電子的に絶縁し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、電解質を含浸することによってリチウムイオンを通過させるものである。このセパレーターは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有してもよい。合成樹脂としては例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられ、セラミックとしてはアルミナ等が挙げられる。
【0058】
電解質は、正極負極間のイオン伝導を媒介する組成物である。電解質は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネートを混合した非水系溶媒に六フッ化リン酸リチウム等のリチウム塩を溶解させて調製される。また、電解質には安定性向上、安全性向上、抵抗低減を目的に添加剤を加えてもよい。
【0059】
以上のように、本発明の電池用カーボンブラック分散組成物は、カーボンブラックの分散性及び貯蔵安定性が優れており、該電池用カーボンブラック分散組成物を用いることにより、リチウムイオン二次電池の製造における不良率の低減及び生産コストの低減が可能となる。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、BET比表面積は、BET法による測定値である。
【0061】
[供試材]
実施例、比較例で使用した電池用カーボンブラック分散組成物用の材料を以下に示す。
<カーボンブラック>
・アセチレンブラック:DENKA BLACK Li-435(以下、「Li-435」という)、デンカ(株)製、BET比表面積 136m2/g
・アセチレンブラック:DENKA BLACK Li-100(以下、「Li-100」という)、デンカ(株)製、BET比表面積 68m2/g
・ケッチェンブラック:カーボンECP(以下、「ECP」という)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、BET比表面積782m2/g
【0062】
<分散剤>
・メチルセルロース-1(以下、「MC-1」という):信越化学工業(株)製、2質量%水溶液粘度(20℃)・・・4mPa・s、メトキシ基置換度(DS)・・・1.8
・メチルセルロース-2(以下、「MC-2」という):信越化学工業(株)製、2質量%水溶液粘度(20℃)・・・15mPa・s、メトキシ基置換度(DS)・・・1.8
【0063】
【0064】
<電池用カーボンブラック分散組成物の調製>
[実施例1]
以下の手順により、電池用カーボンブラック分散組成物を調製した。
カーボンブラックとしてアセチレンブラック(「Li-435」)1.3gと、分散剤としてメチルセルロース-1(MC-1)0.12g(カーボンブラック100質量部に対して9質量部)、ヒンダードフェノール(1a)を0.0008g(カーボンブラック100質量部に対して0.06質量部)を粉体混合し、これに対してN-メチル-2-ピロリドン(NMP)14.8gを加えて、脱泡混練機((株)シンキー製「ARV-310」)回転数2000rpmの条件で5分間予備混練し、得られた分散液を更に薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス(株)製「フィルミックス 30-L型」)で回転数10000rpmの条件で30秒間攪拌することにより、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0065】
[実施例2]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の添加量を0.00024gに変更し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0066】
[実施例3]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)をヒンダードフェノール(2a)に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)を添加せず、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0068】
[比較例2]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の代わりにフェノール(1c)を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0069】
[比較例3]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の代わりにリン系酸化防止剤(1d)を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0070】
[比較例4]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の代わりに硫黄系酸化防止剤(1e)を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0071】
[比較例5]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の添加量を0.00000013g(カーボンブラック100質量部に対して0.00001質量部)に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0072】
[比較例6]
実施例1において、ヒンダードフェノール(1a)の添加量を0.078g(カーボンブラック100質量部に対して6質量部)に変更し、それ以外は実施例1と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0073】
[実施例4]
カーボンブラックとしてケッチェンブラック(「ECP」)1.3gと、分散剤としてメチルセルロース-2(MC-2)0.13g(カーボンブラック100質量部に対して10質量部)、ヒンダードフェノール(1a)を0.00186g(カーボンブラック100質量部に対して0.14質量部)を粉体混合し、これに対してNMP17.1gを加えて、脱泡混練機((株)シンキー製「ARV-310」)回転数2000rpmの条件で5分間予備混練し、得られた分散液を更に薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス(株)製「フィルミックス 30-L型」)で回転数10000rpmの条件で30秒間攪拌することにより、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0074】
[比較例7]
実施例4において、ヒンダードフェノール(1a)を添加せず、それ以外は実施例4と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0075】
[実施例5]
カーボンブラックとしてケッチェンブラック(「ECP」)1.3gと、分散剤としてメチルセルロース-1(MC-1)0.17g(カーボンブラック100質量部に対して13質量部)、ヒンダードフェノール(1a)を0.0039g(カーボンブラック100質量部に対して0.3質量部)を粉体混合し、これに対してNMP20.2gを加えて、脱泡混練機((株)シンキー製「ARV-310」)回転数2000rpmの条件で5分間予備混練し、得られた分散液を更に薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス(株)製「フィルミックス 30-L型」)で回転数10000rpmの条件で30秒間攪拌することにより、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0076】
[比較例8]
実施例5において、ヒンダードフェノール(1a)を添加せず、それ以外は実施例5と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0077】
[実施例6]
カーボンブラックとしてアセチレンブラック(「Li-100」)3.2gと、分散剤としてメチルセルロース-1(MC-1)0.22g(カーボンブラック100質量部に対して7質量部)、ヒンダードフェノール(1a)を0.0013g(カーボンブラック100質量部に対して0.04質量部)を粉体混合し、これに対してNMP11.85gを加えて、脱泡混練機((株)シンキー製「ARV-310」)回転数2000rpmの条件で5分間予備混練し、その後更にNMPを5.92g加えて脱泡混練機で5分間混合した。得られた分散液を更に薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス(株)製「フィルミックス 30-L型」)で回転数10000rpmの条件で30秒間攪拌することにより、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0078】
[比較例9]
実施例6において、ヒンダードフェノール(1a)を添加せず、それ以外は実施例6と同様にして、電池用カーボンブラック分散組成物を得た。
【0079】
(評価方法)
以上のようにして得られた電池用カーボンブラック分散組成物の分散性評価を回転型レオメーターで評価した。具体的には、回転型レオメーター(サーモフィッシャー・サイエンティフィック(株)製「HAAKE MARS」)を用いて、測定治具にコーンプレートを使用し、設定温度を25℃に設定し、せん断速度 20m/sにおけるせん断粘度を測定した。せん断粘度が低いほどカーボンブラックの分散性が良好であることを意味する。ここでは、初期粘度が250mPa・s以下であればカーボンブラックの分散性が良好であると判定する。
また、貯蔵安定性評価は、電池用カーボンブラック分散組成物を温度35℃にて一週間静置した後のせん断粘度値(一週間保管後粘度)の初期粘度からの粘度変化量から評価した。粘度変化の少ない分散液ほど良好な貯蔵安定性を有することを意味する。ここでは、一週間保管後粘度の初期粘度からの粘度変化量が+200mPa・s以下であれば電池用カーボンブラック分散組成物の貯蔵安定性が良好であると判定する。
以上の結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
実施例1~3に示す通り、ラジカル捕捉剤としてヒンダードフェノール化合物を適量添加した電池用カーボンブラック分散組成物は、ヒンダードフェノール化合物無添加の比較例1に比べて一週間静置後の粘度変化が小さく、貯蔵安定性が向上した。また、実施例4~6及び比較例7~9の結果からも、同様にラジカル捕捉剤としてヒンダードフェノール化合物を適量添加した実施例4~6の電池用カーボンブラック分散組成物の貯蔵安定性が向上した。
更に、ヒンダードフェノール化合物の代わりにラジカル捕捉能を有さない通常のフェノールを添加した比較例2、リン系、硫黄系の酸化防止剤を添加した比較例3、4では組成物の貯蔵安定性は向上しなかった。
また、比較例5及び6より、ラジカル捕捉剤であるヒンダードフェノール化合物の添加量がカーボンブラック100質量部に対して0.0001質量部未満及び5質量部を超える場合には、実施例1に比べて一週間静置後の粘度変化が大きくなることが示された。
【0082】
<正極用合材ペーストの調製>
以下の手順により、上述の実施例1~6で得られた電池用カーボンブラック分散組成物を用いる正極用合材ペーストを作製した。
実施例1の電池用カーボンブラック分散組成物12.5gとポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量:630,000)のNMP溶液(溶液濃度:7質量%)13.3gを攪拌容器に加え、脱泡混練機((株)シンキー製「ARV-310」)回転数2000rpmの条件で3分間混練し、これに対して三元系正極活物質(NCM622)48.0gとN-メチル-2-ピロリドン(NMP)2.65gを加えて、脱泡混練機を使用して回転数2000rpmの条件で3分間混練することで正極用合材ペースト(固形分濃度64質量%)を得た。
実施例2~6の電池用カーボンブラック分散組成物についても上述と同様の手法によって正極用合材ペーストを得た。いずれの正極用合材ペーストも均一に分散しており良好な塗工性を示した。
【0083】
<リチウムイオン二次電池正極の作製>
以下の手順により、上述の正極用合材ペーストを使用したリチウムイオン二次電池の正極を作製した。
アルミ箔(厚さ:20μm、幅:14mm)からなる集電体上に、電極塗工乾燥機(クリーンテクノロジー(株)製「LiB-W140」)を使用して正極用合材ペーストの塗工・乾燥を実施した。塗工・乾燥条件は、塗工厚を180μm、搬送速度を0.2m/min、乾燥炉(炉長:50cm)の炉内温度115~120℃とした。
その後、卓上ロールプレス機(テスター産業(株)製「SA-602」)を使用して上記塗工・乾燥処理で得られた塗工乾燥膜を集電体と共に線圧200kg/cmで圧延加工することによりリチウムイオン二次電池正極を得た。上述するいずれの正極用合材ペーストを使用してもリチウムイオン二次電池正極が正常に作製できた。
【0084】
なお、これまで本発明を上記実施形態をもって説明してきたが、本発明は該実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。