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特開2023-175387偏光フィルムの製造装置及び製造方法
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  • 特開-偏光フィルムの製造装置及び製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175387
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231205BHJP
   C01D 3/12 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G02B5/30
C01D3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087808
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】八幡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智康
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB11
2H149AB26
2H149BA02
2H149BA13
2H149BB01
2H149BB07
2H149FA03W
(57)【要約】
【課題】揮発した二色性色素を再利用することができる偏光フィルムの製造装置を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための製造装置であって、該製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される処理液を収容する1以上の処理槽を含み、該1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含み、該製造装置は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集するための捕集部をさらに含む製造装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための製造装置であって、
前記製造装置は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される処理液を収容する1以上の処理槽を含み、
前記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含み、
前記製造装置は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集するための捕集部をさらに含む、製造装置。
【請求項2】
前記捕集部は、空気中に浮遊する二色性色素を吸着又は吸収する吸着・吸収部と、前記吸着・吸収部へ向かう気流を生じさせる気流発生部とを含む、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記吸着・吸収部は、活性炭を含む吸着シートである、請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記二色性色素がヨウ素である、請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する方法であって、
前記方法は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、処理液を収容する1以上の処理槽に浸漬する工程を含み、
前記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含み、
前記方法は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集する工程をさらに含む、方法。
【請求項6】
空気中に浮遊する二色性色素は、これを吸着又は吸収する吸着・吸収部と、前記吸着・吸収部へ向かう気流を生じさせる気流発生部とを含む捕集部を用いて捕集される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記吸着・吸収部は、活性炭を含む吸着シートである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記二色性色素がヨウ素である、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとして、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料のような二色性色素を吸着配向させたものが従来知られている。該偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する染色処理、架橋剤で処理する架橋処理、及びフィルム乾燥処理を順次施すとともに、製造工程の間に一軸延伸処理を施すことによって製造することができる〔例えば、特開2001-141926号公報(特許文献1)〕。
【0003】
二色性色素、例えばヨウ素は、Iの状態では昇華して空気中に浮遊する。特開2018-021983号公報(特許文献2)には、溶液中(例えば染色液)に含まれるヨウ素を回収し、再利用することは記載されているが、空気中に浮遊しているヨウ素を回収することは何ら開示も示唆もなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-141926号公報
【特許文献2】特開2018-021983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、揮発した二色性色素を再利用することができる偏光フィルムの製造装置及び偏光フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造装置及び製造方法を提供する。
【0007】
[1] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための製造装置であって、
前記製造装置は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される処理液を収容する1以上の処理槽を含み、
前記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含み、
前記製造装置は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集するための捕集部をさらに含む、製造装置。
【0008】
[2] 前記捕集部は、空気中に浮遊する二色性色素を吸着又は吸収する吸着・吸収部と、前記吸着・吸収部へ向かう気流を生じさせる気流発生部とを含む、[1]に記載の製造装置。
【0009】
[3] 前記吸着・吸収部は、活性炭を含む吸着シートである、[1]又は[2]に記載の製造装置。
【0010】
[4] 前記二色性色素がヨウ素である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造装置。
【0011】
[5] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する方法であって、
前記方法は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、処理液を収容する1以上の処理槽に浸漬する工程を含み、
前記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含み、
前記方法は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集する工程をさらに含む、方法。
【0012】
[6] 空気中に浮遊する二色性色素は、これを吸着又は吸収する吸着・吸収部と、前記吸着・吸収部へ向かう気流を生じさせる気流発生部とを含む捕集部を用いて捕集される、[5]に記載の方法。
【0013】
[7] 前記吸着・吸収部は、活性炭を含む吸着シートである、[5]又は[6]に記載の方法。
【0014】
[8] 前記二色性色素がヨウ素である、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
揮発した二色性色素を再利用することができる偏光フィルムの製造装置及び偏光フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る偏光フィルム製造装置の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系樹脂フィルム」ともいう。)から偏光フィルムを製造するための製造装置及び製造方法(以下、それぞれ、単に「製造装置」、「製造方法」ともいう。)に関する。偏光フィルムは、PVA系樹脂フィルムに対し、所定の処理液を収容する処理槽への浸漬処理(湿式処理)、乾燥処理等を含む一連の処理を施して製造される。偏光フィルムは、延伸されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向しているものである。
【0018】
製造装置は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集するための捕集部を備える。製造方法は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集する工程を備える。該捕集部及び該捕集する工程を備えることにより、空気中に浮遊する二色性色素を回収することができるため、二色性色素の再利用を図ることができる。
【0019】
製造装置は、PVA系樹脂フィルムが浸漬される処理液を収容する1以上の処理槽を含み、該1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を少なくとも含む。製造装置の一例を図1に示す。図1に示される製造装置は、原料フィルムである長尺のPVA系樹脂フィルム10から連続的に長尺の偏光フィルム25を製造するための装置である。図1において、フィルムに付されている矢印は、フィルムの搬送方向を示す。図1に示される製造装置を用いた偏光フィルム25の製造においては、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11から連続的に巻き出しつつ、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19に順次浸漬し、最後に乾燥炉20に通すことにより乾燥処理を行って偏光フィルム25を得る。長尺物として製造される偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってもよい。
【0020】
製造装置は、PVA系樹脂フィルムが浸漬される処理槽及び乾燥炉を通るように構築されたPVA系樹脂フィルムの搬送経路を有している。この搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させることにより一連の処理が施されて偏光フィルムが得られる。
【0021】
図1に示されるように上記搬送経路は、走行中のフィルム(PVA系樹脂フィルム10及び偏光フィルム25)を支持・案内する複数のロールによって構築される。複数のロールは、フィルムの片面を支持するフリーロールであるガイドロール、及び/又は、1対のロール(通常は駆動ロール)からなり、フィルムを両面から挟み込む又は挟み込んで押圧するニップロールを含むことができる。図1に示される例において偏光フィルム製造装置は、ガイドロール1a~1l及びニップロール2a~2fを含んでいる。搬送経路を規定する複数のロールは、駆動ロールの1種であるサクションロール(吸引ロール)を含むこともできる。通常、これらのロールはいずれも搬送経路内のフィルムの一方又は両方の表面(主面)に接して該フィルムを支持する。これらのロールは、各処理槽及び乾燥炉の前後や処理槽及び乾燥炉内等の適宜の位置に配置することができる。
【0022】
なお、駆動ロールとは、それに接触するフィルムに対してフィルム搬送のための駆動力を与えることができるロールをいい、モーター等のロール駆動源が直接又は間接的に接続されたロール等であることができる。フリーロールとは、単に走行するフィルムを支持する役割を担い、フィルム搬送のための駆動力を与えることができないロールをいう。
【0023】
偏光フィルムは、以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。
【0024】
PVA系樹脂フィルムの搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させながら、処理液を収容する1以上の処理槽に浸漬させる湿式処理工程S101、及び
上記搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させながら、湿式処理後のPVA系樹脂フィルムを乾燥させる乾燥処理工程S102。
【0025】
本発明に係る製造方法において上記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽を含む。
【0026】
得られる偏光フィルム25は、延伸処理(通常は一軸延伸処理)されたものである。このために製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の延伸手段(湿式延伸手段)を含むことができ、また、製造方法は、PVA系樹脂フィルム10の延伸処理工程(湿式延伸処理工程)を含むことができる。
【0027】
(1)PVA系樹脂フィルム
原料フィルムであるPVA系樹脂フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)で構成されるフィルムである。PVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。
【0028】
PVA系樹脂のケン化度は、80.0~100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0~100.0モル%の範囲であり、より好ましくは94.0~100.0モル%の範囲であり、さらに好ましくは98.0~100.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、得られる偏光フィルム25の耐水性及び耐湿熱性が低下し得る。
【0029】
ケン化度とは、PVA系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:-OCOCH)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。
【0030】
PVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは100~10000であり、より好ましくは1500~8000であり、さらに好ましくは2000~5000である。PVA系樹脂の平均重合度もJIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。平均重合度が100未満では、好ましい偏光性能を有する偏光フィルム25を得ることが困難であり、10000を超えると溶媒への溶解性が悪化し、PVA系樹脂フィルム10の形成(製膜)が困難となり得る。
【0031】
PVA系樹脂フィルム10の一例は、上記ポリビニルアルコール系樹脂を製膜してなる未延伸フィルムである。製膜方法は、特に限定されるものではなく、溶融押出法、溶剤キャスト法のような公知の方法を採用することができる。PVA系樹脂フィルム10の他の一例は、上記未延伸フィルムを延伸してなる延伸フィルムである。この延伸は通常、一軸延伸、好ましくは縦一軸延伸である。縦延伸とは、フィルムの機械流れ方向(MD)、すなわちフィルムの長手方向への延伸をいう。この延伸は、好ましくは乾式延伸である。乾式延伸とは空中で行う延伸をいい、通常は縦一軸延伸となる。乾式延伸としては、表面が加熱された熱ロールと、この熱ロールとは周速の異なるガイドロール(又は熱ロールであってもよい。)との間にフィルムを通し、熱ロールを利用した加熱下に縦延伸を行う熱ロール延伸;距離を置いて設置された2つのニップロール間にある加熱手段(オーブン等)を通過させながら、これら2つのニップロール間の周速差によって縦延伸を行うロール間延伸;テンター延伸;圧縮延伸等を挙げることができる。延伸温度(熱ロールの表面温度や、オーブン内温度等)は、例えば80~150℃であり、好ましくは100~135℃である。
【0032】
上記延伸の延伸倍率は、後述する湿式処理工程S101において湿式延伸を実施するか否か、及び当該湿式延伸での延伸倍率にもよるが、通常は1.1~8倍であり、好ましくは2.5~5倍である。
【0033】
PVA系樹脂フィルム10は、可塑剤等の添加剤を含有することができる。可塑剤の好ましい例は多価アルコールであり、その具体例は、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール等を含む。PVA系樹脂フィルム10は、1種又は2種以上の可塑剤を含有することができる。可塑剤の含有量は、PVA系樹脂フィルム10を構成するPVA系樹脂100質量部に対して、通常5~20質量部であり、好ましくは7~15質量部である。
【0034】
原料フィルムであるPVA系樹脂フィルム10の厚みは、PVA系樹脂フィルム10が延伸処理されたものであるか否かにもよるが、通常10~150μmであり、得られる偏光フィルム25の薄膜化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは65μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは35μm以下である。
【0035】
(2)湿式処理
製造装置は、PVA系樹脂フィルム10が浸漬される処理液を収容する1以上の処理槽を含む。当該ゾーンにおいて、上記の湿式処理工程S101が実施される。上記1以上の処理槽は、二色性色素を含有する染色処理液を収容する染色処理槽15を含み、通常はさらに、膨潤処理槽13、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19を含む。これらの処理槽は通常、搬送経路の上流側から順に、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17、洗浄処理槽19の順で配置される(図1参照)。なお図1には、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示しているが、必要に応じてそれぞれ2槽以上設けてもよい。
【0036】
膨潤処理槽13に収容される処理液は、例えば水(純水等)であることができる他、アルコール類のような水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。また、この処理液(膨潤浴)は、ホウ酸、塩化物、無機酸、無機塩等を含有することもできる。膨潤浴にPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって膨潤処理を行う。膨潤処理は、PVA系樹脂フィルム10の異物除去、可塑剤除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化等の目的で必要に応じて実施される処理である。膨潤処理中に、PVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。その場合の延伸倍率は、通常1.2~3倍、好ましくは1.3~2.5倍である。膨潤浴の温度は、通常10~70℃、好ましくは15~50℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(膨潤浴中での滞留時間)は、通常10~600秒、好ましくは20~300秒である。
【0037】
染色処理槽15に収容される処理液は、二色性色素を含有する染色処理液である。この染色処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって染色処理を行う。これにより、PVA系樹脂フィルム10に二色性色素が吸着される。二色性色素は、ヨウ素又は二色性有機染料であることができ、好ましくはヨウ素である。二色性色素は、1種のみを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0038】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、上記染色処理液には、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。染色処理液におけるヨウ素の含有量は通常、水100質量部あたり0.003~1質量部である。染色処理液におけるヨウ化カリウム等のヨウ化物の含有量は通常、水100質量部あたり0.1~20質量部である。染色処理液の温度は、通常10~45℃であり、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(染色処理液中での滞留時間)は、通常20~600秒、好ましくは30~300秒である。
【0039】
二色性色素の染色性を高めるために、染色処理に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理(通常は一軸延伸処理)が施されていることが好ましい。染色処理前の延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の延伸処理に加えて、染色処理を行いながら延伸処理を施してもよい。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常1.6~4.5倍であり、好ましくは1.8~4倍である。
【0040】
架橋処理槽17に収容される処理液は、架橋剤を含有する架橋処理液である。この架橋処理液に染色処理後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって架橋処理を行う。これにより、架橋によるPVA系樹脂フィルム10の耐水化や色相調整(補色処理)等がなされる。架橋処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
【0041】
架橋剤としては、ホウ酸、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を挙げることができ、ホウ酸が好ましく用いられる。2種以上の架橋剤を併用することもできる。架橋処理液における架橋剤の含有量は通常、水100質量部あたり0.1~15質量部であり、好ましくは1~12質量部である。二色性色素がヨウ素である場合、架橋処理液は、架橋剤に加えてヨウ化物を含有することが好ましい。架橋処理液におけるヨウ化物の含有量は通常、水100質量部あたり0.1~20質量部であり、好ましくは5~15質量部である。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、架橋処理液は、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を含有していてもよい。架橋処理液の温度は、通常50~85℃であり、好ましくは50~70℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(架橋処理液中での滞留時間)は、通常10~600秒、好ましくは20~300秒である。
【0042】
洗浄処理槽19に収容される処理液は、例えば水(純水等)であることができる他、アルコール類のような水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。この処理液(洗浄浴)に架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって洗浄処理を行う。洗浄処理は、PVA系樹脂フィルム10に付着した余分な架橋剤や二色性色素等の薬剤を除去する目的で必要に応じて実施される処理である。洗浄浴の温度は、例えば2~40℃である。洗浄処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
【0043】
洗浄処理は、架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10に対して洗浄液をシャワーとして噴霧する処理であってもよく、上記の洗浄浴への浸漬と洗浄液の噴霧とを組み合わせてもよい。図1には、PVA系樹脂フィルム10を洗浄処理槽19中の水に浸漬して洗浄処理を施す場合の例を示している。
【0044】
上述のように、湿式処理工程S101においてPVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸を実施してもよい。湿式延伸は通常、一軸延伸であり、膨潤処理、染色処理、架橋処理、洗浄処理のいずれかの処理を行いながら、又はこれらから選択される2以上の処理中に行うことができる。湿式延伸は、好ましくは、架橋処理工程又はそれより前の1又は2以上の段階で延伸処理される。湿式延伸の延伸倍率は、得られる偏光フィルム25の偏光特性の観点から、好ましくは、偏光フィルム25の最終的な累積延伸倍率(湿式処理に供されるPVA系樹脂フィルム10が延伸処理されたものである場合には、この延伸も含めた累積延伸倍率)が3~8倍となるように調整される。
【0045】
湿式延伸処理工程を実施する場合、製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の湿式延伸手段を含む。湿式延伸手段は、好ましくはロール間延伸を行う延伸手段である。架橋処理中に湿式でロール間延伸を行う場合を例に挙げると、ロール間延伸を行う延伸手段は、架橋処理槽17の前後に配置される2つのニップロール2c,2dである。他の湿式処理中に延伸を行う場合についても同様に、離間して配置された2つのニップロールを湿式延伸手段とすることができる。
【0046】
(3)乾燥処理
湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を引き続き搬送させながら、乾燥炉20に該フィルムを導入することによって乾燥処理を施すことができ、これにより偏光フィルム25が得られる。乾燥炉は、好ましくは炉内温度を制御可能なものである。乾燥炉は、例えば、熱風の供給等により炉内温度を高めることができる熱風オーブンである。
【0047】
乾燥処理は、乾燥炉以外の手段によって行ってもよい。乾燥炉以外の手段による乾燥処理としては、凸曲面を有する1又は2以上の加熱体にPVA系樹脂フィルム10を密着させる処理や、ヒーターを用いて該フィルムを加熱する処理が挙げられる。上記加熱体としては、熱源(例えば、温水等の熱媒や赤外線ヒーター)を内部に備え、表面温度を高めることができるロール(例えば熱ロールを兼ねたガイドロール)が挙げられる。上記ヒーターとしては、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等が挙げられる。
【0048】
乾燥処理の温度(例えば、乾燥炉20の炉内温度、熱ロールの表面温度等)は、通常30~100℃であり、50~90℃であることが好ましい。乾燥時間は特に制限されないが、例えば30~600秒である。
【0049】
偏光フィルム25は、延伸(通常は一軸延伸)されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向されているものである。偏光フィルム25の厚みは、通常2~40μmである。偏光フィルム25を含む偏光板の薄膜化の観点から、偏光フィルム25の厚みは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。
【0050】
得られる偏光フィルム25の視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮して、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。Ty及びPyは、積分球付き吸光光度計を用い、得られた透過率、偏光度に対してJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行うことによって得ることができる。
【0051】
得られた偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってロール形態としてもよいし、巻き取ることなく偏光板作製工程(偏光フィルム25の片面又は両面に保護フィルム等を積層する工程)に供してもよい。
【0052】
(4)二色性色素の捕集
製造装置は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集するための捕集部を備える。製造方法は、空気中に浮遊する二色性色素を捕集する工程を備える。該捕集部及び該捕集する工程を備えることにより、空気中に浮遊する二色性色素を回収することができるため、二色性色素の再利用を図ることができる。捕集部を備える製造装置及び捕集する工程を備える製造方法は、染色処理液に含まれる二色性色素が揮発性を有する場合にとりわけ有利であり、このような二色性色素としてはヨウ素が挙げられる。
【0053】
二色性色素の捕集効率を高める観点から、捕集部は、空気中に浮遊する二色性色素を吸着又は吸収する吸着・吸収部と、該吸着・吸収部へ向かう気流を生じさせる気流発生部とを含むことが好ましい。
【0054】
捕集部の一例を図1に示す。図1に示される捕集部50は、吸着・吸収部としての吸着シート(吸着フィルタ)51と、気流発生部としてのブロア52とを有する。ブロア52により二色性色素を含む空気を引き込み、吸着シート51へ向かう気流を生じさせることにより、空気中の二色性色素を吸着シート51に吸着させることができる。吸着シート51は、ブロア52の下流に配置されてもよい。吸着シート51及びブロア52の下流に設けられる、二色性色素が除去された空気の排出口54は、特に制限されないが、製造装置を収容する室又は建屋の外に配置してもよい。
【0055】
吸着シート51は、ヨウ素等の二色性色素に対して吸着能を有するものである限り特に制限されないが、吸着能力が高いことから、活性炭を含む吸着シートであることが好ましい。活性炭を含む吸着シートとしては、例えば、活性炭素繊維の織物、活性炭素繊維の不織布、基材に粒状活性炭を担持させたもの等が挙げられる。吸着効率を高める観点から、活性炭を含む吸着シートの目開きは、好ましくは2~10メッシュ、より好ましくは4~10メッシュ、さらに好ましくは6~10メッシュである。
【0056】
吸着シート(吸着フィルタ)51の厚みは、吸着効率を高める観点から、好ましくは1インチ(2.54cm)以上、より好ましくは2インチ(5.08cm)以上、さらに好ましくは3インチ(7.62cm)以上である。厚みがかかる範囲であり、かつ目開きが上記範囲であることにより、高い吸着効果を得ることが可能となる。吸着シート51を通過させる必要な空気の圧力が過度に高くならないよう、吸着シート51の厚みは、10インチ(25.4cm)以下であることが好ましい。
【0057】
捕集部50は、ドラフトチャンバ(局所排気装置)を構成していてもよい。図1に示される例において捕集部50は、レシーバー式(キャノピー型)のフード53をさらに有しており、フード53の開口(吸引口)から二色性色素を含む空気を吸引し、二色性色素が除去された空気を排出口54より排出する。
【0058】
二色性色素の主な揮発源は、二色性色素を含有する染色処理液を収容している染色処理槽15である。従って、フード53は、染色処理槽15の直上に設けられることが好ましい。製造装置を上からみたとき、フード53の開口(吸引口)のサイズと、染色処理槽15のサイズ(実質的に、染色処理液の表面の面積)とは同じであるか、又は略同じであることが好ましい。フード53の開口のサイズが染色処理槽15のサイズに対して過度に大きいと、圧力損失が過度に大きくなる。また、フード53の開口のサイズが染色処理槽15のサイズに対して過度に小さいと、二色性色素の十分な捕集効率が得られないおそれがある。製造装置が2以上の染色処理槽を備える場合、それぞれの染色処理槽の直上にフード53を設けることが好ましい。
【0059】
架橋処理槽17に収容される架橋処理液は、二色性色素を積極的に添加して調製されるものではないが、染色処理槽15に浸漬されたフィルムが浸漬されるため、偏光フィルムの連続製造に伴って次第に二色性色素を含有するようになる。このように、架橋処理槽17は二色性色素の揮発源になり得るため、染色処理槽15の直上にもフード53を設けることが好ましい(図1参照)。フード53の開口のサイズと架橋処理槽17のサイズとの好ましい関係は、上述のフード53の開口のサイズと染色処理槽15のサイズとの好ましい関係と同様である。製造装置が2以上の架橋処理槽を備える場合、それぞれの架橋処理槽の直上にフード53を設けることが好ましい。
【0060】
吸着シート51に吸着された二色性色素は、吸着シート51を水に浸漬する等の方法によって単離、回収することが可能である。回収された二色性色素は、染色処理液の原料として再利用することができる。
【0061】
捕集部50の他の例としては、図1に示される捕集部50の吸着・吸収部として、吸着シート51の代わりに、気泡塔を用いた捕集部が挙げられる。例えば、ブロア52を用いて、液体が収容された気泡塔の塔底から二色性色素を含む空気を導入するバブリング処理により、該液体に二色性色素を吸収させることができる。二色性色素が除去された空気は、気泡塔の塔頂から導出される。気泡塔の塔頂から導出される空気を、配管等を介して排出口54に誘導してもよい。
【0062】
気泡塔内での液体と空気との接触時間が長い方が二色性色素の捕集効率が高い。この点を考慮し、十分に高い気泡塔を用いることが好ましい。
【0063】
二色性色素を含む空気は、気泡塔の塔底へガス分散器を用いて導入することが好ましい。これにより、該空気と気泡塔内の液体との接触面積を増大させることができるため、二色性色素の捕集効率(吸収効率)を高めることができる。ガス分散器としては、多孔板、ノズル、スパージャー等が挙げられる。これらのガス分散器を用いて小径かつ多数の吐出口から空気を導入することで捕集効率(吸収効率)を高めることができる。
【0064】
気泡塔を用いたバブリング処理において、気泡塔内の液体の液面でミストが生じ得る。ミストが生じると、これに同伴されて二色性色素が排出され得る。これを防止するために、気泡塔の上部にミストセパレータ(デミスター)を設置してもよい。これにより、二色性色素の捕集効率の低下を抑制することができる。
【0065】
気泡塔に充填する液体は、例えば、水又は水溶液である。二色性色素がヨウ素である場合、水溶液はヨウ化カリウム水溶液であることが好ましい。ヨウ化カリウム水溶液を用いることにより、バブリング処理後のヨウ素を吸収したヨウ化カリウム水溶液を、ヨウ素やヨウ化カリウムについての濃度調整を必要に応じて行ったうえで、染色処理液として再利用することができる。気泡塔に充填するヨウ化カリウム水溶液におけるヨウ化カリウムの濃度は、染色処理液におけるヨウ化カリウムの濃度と同じに調整されていてもよいし、これより高濃度であってよいし、これより低濃度であってもよい。
【0066】
本発明によれば、従来は揮発するがままに放置されていた二色性色素を回収し、再利用することができるため、偏光フィルムの生産効率の向上及び生産コストの削減を図ることができるとともに、空気中に浮遊する二色性色素を回収することができるため、空気の清浄度が下がることを抑制できる。
【符号の説明】
【0067】
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j,1k,1l ガイドロール、2a,2b,2c,2d,2e,2f ニップロール、10 ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PVA系樹脂フィルム)、11 巻出ロール、13 膨潤処理槽、15 染色処理槽、17 架橋処理槽、19 洗浄処理槽、20 乾燥炉、25 偏光フィルム、27 巻取ロール、50 捕集部、51 吸着シート、52 ブロア、53 フード、54 排出口。
図1