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特開2023-175464レーザー加工用の積層体、及び切断体の製造方法
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  • 特開-レーザー加工用の積層体、及び切断体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175464
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】レーザー加工用の積層体、及び切断体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231205BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231205BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231205BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231205BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231205BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20231205BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 A
H05B33/02
H05B33/10
B32B7/023
B23K26/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087914
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑 勇輝
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4E168
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA18
2H149AB26
2H149BA02
2H149FB01
2H149FB06
3K107AA01
3K107BB02
3K107CC32
3K107CC45
3K107DD16
3K107EE26
3K107GG14
3K107GG28
4E168AD07
4E168AD18
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA17
4E168JA27
4E168KA17
4F100AK02B
4F100AK04A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100CB05C
4F100GB41
4F100JL13C
4F100JL14A
4F100JN10E
4F100JN13D
4F100JN18A
4F100JN18B
(57)【要約】
【課題】レーザー加工の際に、加工端部から少し離れた位置での熱影響を抑制できるレーザー加工用の積層体、及びこれを用いた切断体の製造方法を提供する。
【解決手段】レーザー加工用の積層体であって、前記積層体のレーザー光の入光面側から、A層、B層及びC層をこの順で備え、前記A層の屈折率RAと前記B層の屈折率RBとの差(RA-RB)が、-0.03以上、0.03以下である、積層体により前記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工用の積層体であって、
前記積層体のレーザー光の入光面側から、A層、B層及びC層をこの順で備え、
前記A層の屈折率RAと前記B層の屈折率RBとの差(RA-RB)が、-0.03以上、0.03以下である、積層体。
【請求項2】
前記レーザー光の波長が、340nm以上370nm以下であるか、または、500nm以上530nm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記レーザー光のパルス幅が、200fs以上20ps以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記レーザー光の波長が、340nm以上370nm以下であるか、または、500nm以上530nm以下であり、
前記レーザー光のパルス幅が、200fs以上20ps以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記B層が、シクロオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記A層が、剥離可能なフィルム層である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体が、前記B層の前記A層が設けられた面とは反対側の面側に、粘着層を備える、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項の記載の積層体を、レーザー光で切断して切断体を得る、切断体の製造方法であって、
前記積層体の前記A層側からレーザー光を入光して、前記積層体を切断する工程を含む、切断体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工用の積層体、及びこれを用いた切断体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、樹脂フィルムを含む積層体の外形加工を行う方法の一つとして、レーザー加工が知られている(特許文献1)。また、レーザー加工を用いて積層体を切断した場合、切断時に積層体に発生した熱により、切断された積層体の端部(以下、「加工端部」ともいう。)に欠陥が発生することが知られている。このような欠陥としては、具体的には、積層体の構成層の変色や変形や特性の低下、積層体材料の分解や変質による気泡等が挙げられる。レーザー加工時に発生する熱による積層体への影響や、その熱により生じた欠陥は、熱影響とも呼ばれる。
【0003】
積層体の加工端部における熱影響を小さくする方法としては、例えば、ピコ秒レーザー等の短波長のパルスレーザーを用い、アブレーション加工により、積層体を切断する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5791018号公報
【特許文献2】特開2021-98206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、積層体への熱影響をより小さくするためのレーザー加工方法について検討を行ったところ、アブレーション加工を用いた場合は、積層体の加工端部から少し離れた位置に局所的に熱影響が生じてしまう場合があることを知見した。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされた発明であり、レーザー加工の際に、加工端部から少し離れた位置の熱影響を抑制できる積層体、及びこれを用いた切断体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行ったところ、積層体のレーザー入光面側に位置する2つの層の屈折率差を小さくすることにより、積層体の加工端部から少し離れた位置における熱影響を抑制しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の構成を含む。
【0008】
〔1〕 レーザー加工用の積層体であって、前記積層体のレーザー光の入光面側から、A層、B層及びC層をこの順で備え、前記A層の屈折率RAと前記B層の屈折率RBとの差(RA-RB)が、-0.03以上、0.03以下である、積層体。
〔2〕 前記レーザー光の波長が、340nm以上370nm以下であるか、または、500nm以上530nm以下である、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕 前記レーザー光のパルス幅が、200fs以上20ps以下である、〔1〕に記載の積層体。
〔4〕 前記レーザー光の波長が、340nm以上370nm以下であるか、または、500nm以上530nm以下であり、前記レーザー光のパルス幅が、200fs以上20ps以下である、〔1〕に記載の積層体。
〔5〕 前記B層が、シクロオレフィン樹脂を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の積層体。
〔6〕 前記A層が、剥離可能なフィルム層である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の積層体。
〔7〕 前記積層体が、前記B層の前記A層が設けられた面とは反対側の面側に、粘着層を備える、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の積層体。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれか1項の記載の積層体を、レーザー光で切断して切断体を得る、切断体の製造方法であって、前記積層体の前記A層側からレーザー光を入光して、前記積層体を切断する工程を含む、切断体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工端部から少し離れた位置の熱影響を抑制できる積層体、及びこれを用いた切断体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るレーザー加工用の積層体を模式的に示す断面図である。
図2図2は、従来のレーザー加工用の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、積層体Xにおける熱影響の幅方向の発生位置を模式的に示す平面図である。
図4図4は、積層体Xの熱影響の深さ方向の発生位置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、下記に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、「基材」及び「層」は、別に断らない限り、剛直な部材であってもよく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材であってもよい。
【0013】
以下の説明において、「長尺状」のフィルム(フィルム層)及び積層体とは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルム及び積層体をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルム及び積層体をいう。フィルム及び積層体の長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
〔1.レーザー加工用の積層体〕
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザー加工用の積層体を模式的に示す断面図である。図1に示す積層体10は、レーザー加工用の積層体である。積層体10は、そのレーザー光の入光面側から、A層11、B層12及びC層13をこの順で備える。
【0015】
ここで、レーザー加工用の積層体においては、通常、積層体の2つの表面のうち、いずれか一方の表面をレーザー光の入光面として用いる。図1に示す積層体10においては、表面S1及び表面S2の内、表面S1をレーザー光の入光面として用いる例を示している。この場合、積層体10は、積層体10の一方の表面S1を基準としたとき、A層11、B層12及びC層13がこの順で積層された構造を有する。本実施形態においては、好ましくは、A層11が積層体10の最表面に配置される。
【0016】
積層体10において、A層11及びB層12は直接接するように設けられてもよく、図示はしないが、A層及びB層は、他の層(例えば粘着層)を介して間接的に設けられてもよい。本明細書において、ある層及び別の層が「直接接している」とは、ある層と別の層との間に他の層を介さずに、ある層と別の層とが接していることをいう。
【0017】
積層体10においては、A層の屈折率RAと前記B層の屈折率RBとの差(RA-RB)が所定の範囲内である。
【0018】
図2は、従来のレーザー加工用の積層体の一例を模式的に示す断面図である。図2に示す積層体100は、その表面S1及びS2の内、表面S1をレーザー光Lの入光面として用い、表面S1側から、a層111、b層112、及びc層113をこの順に備える。このような積層体100を、例えば、レーザー光Lを用いて切断すると、通常、加工端部E及びその近傍の領域(図2中、点線で囲まれた領域)に熱影響H1が生じ、例えば、積層体100の構成層の変色や変形等の欠陥が生じる。積層体100の加工端部Eにおける熱影響H1は、例えば、レーザー加工の方法としてアブレーション加工を採用することにより、小さくすることができる。
しかしながら、本発明者は、研究を進める中で、例えばアブレーション加工を用いた場合に、加工端部E及びその近傍から少し離れた位置において、例えば、b層112やc層113に局所的に熱影響H2が生じる場合があることを知見した。具体的には、積層体100に、例えば、熱影響H2による変色H21や気泡H22といった欠陥が生じる場合があることを知見した。
【0019】
本発明は、前記知見に基づきなされた発明であり、積層体のレーザー入光面側に位置する2つの層の屈折率差を小さくすることにより、積層体の加工端部から少し離れた位置における熱影響を抑制しうることを見出した発明である。
【0020】
本発明によれば、A層の屈折率RAと前記B層の屈折率RBとの差(RA-RB)が所定の範囲内であることにより、レーザー加工により積層体を切断した際に、加工端部よりも少し離れた位置における熱影響を抑制することができる。
【0021】
前記の効果が生じる仕組みについて、本発明者は、下記の通りと推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記に示す仕組みに限定されるものではない。
積層体のA層側からレーザー光を入光させた場合、A層及びB層の屈折率差が大きいと、レーザー光が加工端部となりうる部分だけではなく、A層及びB層間において反射したレーザー光の一部が加工端部となりうる部分よりも中央側に照射される。その結果、加工端部から少し離れた位置に熱影響が生じる。
これに対し、本発明においては、A層及びB層の屈折率差を小さくすることができるため、A層及びB層間におけるレーザー光の反射を抑え、加工端部となりうる部分よりも中央側にレーザー光が照射されることを抑制して、加工端部から離れた位置における熱影響を抑制することができる。
【0022】
〔1.1.A層の屈折率及びB層の屈折率の関係性〕
本実施形態に係る積層体は、A層の屈折率RAとB層の屈折率RBとの差(RA-RB)が-0.03以上0.03以下である。すなわち、屈折率RA及び屈折率RBは下記式(1)を満たす。
-0.03≦RA-RB≦0.03 (1)
【0023】
RA-RBの値は、通常、-0.03以上、好ましくは-0.02以上、より好ましくは-0.01以上である。また、RA-RBの値は、通常、0.03以下、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下である。また、RA-RBの値は、小さいほど好ましく、理想的には0である。RA-RBの値を前記範囲とすることにより、積層体をレーザー加工した際の加工端部から離れた位置での熱影響を効果的に抑制することができるからである。
【0024】
A層の屈折率RA及びB層の屈折率RBは、エリプソメータを用いて測定しうる。測定波長は、レーザー光の波長と略同一の波長としうる。ここで、「レーザー光の波長と略同一の波長」とは、積層体のレーザー加工時に使用されるレーザー光の波長と同一の波長だけでなく、前記レーザー光の波長に対し±5nm程度の誤差を有する波長も含むこととする。
【0025】
〔1.2.レーザー光〕
本実施形態に係る積層体の加工時に用いられるレーザー光の波長は、積層体の用途等に応じて適宜選択されうるが、好ましくは、340nm以上370nm以下、または、500nm以上530nm以下でありえる。
また、本実施形態に係る積層体に用いられるレーザー光のパルス幅は、積層体の用途等に応じて適宜選択されうるが、好ましくは、200fs以上20ps以下でありえる。
また、中でもレーザー光としては、前記の波長の範囲及びパルス幅の範囲の両方を満たすことが好ましい。より好ましいレーザー光としては、例えば、波長が340nm以上370nm以下であり、かつパルス幅が200fs以上500fs以下である。また、より好ましいレーザー光としては、波長が500nm以上530nm以下であり、かつパルス幅が200fs以上20ps以下である。特に好ましいレーザー光は、波長が340nm以上370nm以下であり、かつパルス幅が200fs以上500fs以下である。前記レーザー光を用いることにより、アブレーション加工を好適に行うことができる。また、アブレーション加工を好適に行うことができるため、積層体をレーザー加工により切断した際に、加工端部における熱影響を小さくできる。
【0026】
前記レーザー光は、例えば、グリーン光を用いた超短パルスレーザー、UV光を用いた長短パルスレーザーを用いて照射しうる。
【0027】
〔1.3.積層体の各構成〕
本実施形態に係る積層体は、レーザー光の入光面側から、少なくともA層、B層及びC層がこの順に積層された層構造を備える。本実施形態に係る積層体は、通常、3層以上の積層構造を備える。積層体が4層以上の積層構造を備える場合、4層目以上の層は、通常、積層体におけるレーザー光の入光面とは反対側の面側に配置される。
【0028】
本実施形態に係る積層体は、少なくとも構成層の一つが樹脂フィルム層を含むことが好ましい。積層体に含まれる樹脂フィルム層は、長尺状であってもよく、枚葉状であってもよいが、前者がより好ましい。所望の切断体を量産しうる積層体とすることができるからである。
【0029】
〔1.3.1.A層〕
A層は、積層体におけるA層、B層及びC層のうち、最も、レーザーの入光面側に設けられる層である。積層体において、好ましくは、A層の表面がレーザーの入光面となるように設けられる。この場合、通常、A層は積層体の最表面に配置される。
【0030】
A層としては、その屈折率RAとB層の屈折率RBとの差(RA-RB)が所定の範囲をとりうる層であれば制限はなく、積層体の用途に応じて適宜選択しうるが、剥離可能なフィルム層であることが好ましい。「剥離可能なフィルム層」とは、そのフィルム層に設けられたB層を剥離可能であることをいう。レーザー加工により積層体を切断した場合、その積層体の入光面に位置する層、または入光面側に近い層は、レーザー光によるダメージを受けやすい傾向にある。そのため、A層として、剥離可能なフィルム層をレーザー光のプロテクトフィルム(保護フィルム層)として設けることで、切断された積層体のA層よりも下層に位置する各層へのダメージを抑制しうるからである。
【0031】
剥離可能なフィルム層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂で形成された樹脂フィルムを用いる。また、後述するB層に用いられる樹脂フィルムも用いうる。本実施形態においては、B層がシクロオレフィン脂を含むことが好ましいことから、剥離可能なフィルム層としては、ポリエチレン樹脂またはシクロオレフィン樹脂で形成された樹脂フィルムであることが好ましい。屈折率RAとB層の屈折率RBとの差(RA-RB)を所定の範囲に調整しやすいからである。ここで、シクロオレフィン樹脂とは、後述するシクロオレフィン重合体を含む樹脂をいう。
【0032】
剥離可能なフィルム層の表面には、B層の剥離を容易にするため、離型処理が施されていてもよい。離型処理としては、例えば、剥離可能なフィルム層の表面に離型剤の層を形成する処理が挙げられる。離型剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系離型剤、フッ化アルキルなどのフッ素系離型剤、長鎖アルキル系離型剤などが用いられる。その中でも、離型性及び加工性が良好である理由で、シリコーン系離型剤が好ましい。
【0033】
剥離可能なフィルム層としては、市販の保護フィルムを使用することもできる。市販品としては、例えば、東レフィルム加工製の「トレテック7332」を挙げることができる。
【0034】
A層としては、例えば、剥離可能なフィルム層の代わりに、粘着性及び剥離性を有さない通常の樹脂フィルム層及び粘着層の多層体も用いうる。このような樹脂フィルム層に用いられる樹脂フィルムとしては、粘着性及び剥離性を有さない点以外は、剥離可能なフィルム層に用いうる樹脂フィルムと同様としうる。また、粘着剤としては、後述する粘着剤を用いうる。また、粘着層の厚みは、例えば、1μm以上20μm以下としうる。
【0035】
A層の厚みに制限はなく、積層体の用途に応じて適宜選択し得るが、例えば、10μm以上、好ましくは20μm以上であり、例えば、300μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。A層の厚みが厚すぎる場合、レーザー加工による積層体の切断に時間がかかりすぎる可能性があるからであり、A層の厚みが薄すぎる場合は、A層を下層の保護層として用いる場合に十分な保護効果が得られない可能性があるからである。
【0036】
〔1.3.2.B層〕
B層は、A層の一方の面側に設けられる層であり、A層のレーザー加工面側と反対側の面に設けられる層である。B層としては、その屈折率RAとB層の屈折率RBとの差(RA-RB)が所定の範囲をとりうる層であれば制限はなく、積層体の用途に応じて適宜選択しうる。本実施形態に係る積層体においては、A層として剥離可能なフィルム層を用いることが好ましいことから、B層としてはA層の剥離後に積層体の構成層を支持する基材層として機能を有しうることが好ましい。
【0037】
基材層として機能しうるB層は、熱可塑性樹脂を含む樹脂フィルム層であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、通常、熱可塑性の重合体を含む。熱可塑性樹脂に含まれる重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
重合体としては、好ましくは、脂環式構造含有重合体、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、及びポリカーボネートが挙げられる。中でも、透明性、寸法安定性、位相差発現性、及び低温での延伸性等の特性に優れることから、脂環式構造含有重合体が好ましい。脂環式構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂を、以下「脂環式構造含有樹脂」ということがある。よって、熱可塑性樹脂は、脂環式構造含有樹脂であることが好ましい。
【0039】
脂環式構造含有重合体は、重合体の構造単位が脂環式構造を有する重合体である。脂環式構造含有重合体は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖及び側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2以上の任意の比率の混合物でありえる。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0040】
脂環式構造の例としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、及び不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0041】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲であると、脂環式構造含有樹脂の機械強度、耐熱性及び成形性が高度にバランスされる。
【0042】
脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、積層体の用途等に応じて適宜選択しうる。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは55重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、脂環式構造含有樹脂の透明性及び耐熱性が良好となる。
【0043】
脂環式構造含有重合体の中でも、シクロオレフィン重合体が好ましい。言い換えると、本実施形態においては、B層がシクロオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0044】
シクロオレフィン重合体とは、シクロオレフィン単量体を重合して得られる構造を有する重合体である。また、シクロオレフィン単量体は、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物である。重合性の炭素-炭素二重結合の例としては、開環重合等の重合が可能な炭素-炭素二重結合が挙げられる。また、シクロオレフィン単量体の環構造の例としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらを組み合わせた多環等が挙げられる。中でも、得られる重合体の誘電特性及び耐熱性等の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィン単量体が好ましい。
【0045】
前記のシクロオレフィン重合体の中でも好ましいものとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、成形性が良好なため、特に好適である。
【0046】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。更に、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0047】
脂環式構造含有樹脂は、脂環式構造含有重合体に加えて、脂環式構造含有重合体以外の任意の重合体を含みうる。脂環式構造含有重合体以外の任意の重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
脂環式構造含有樹脂における脂環式構造含有重合体の割合は、理想的には100重量%であり、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。
【0049】
熱可塑性樹脂は、重合体以外に、更に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、顔料、染料等の着色剤;蛍光増白剤;分散剤;可塑剤;熱安定剤;光安定剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等の添加剤が挙げられる。
【0050】
B層に用いうる樹脂フィルム層は、延伸処理が施されていてもよい。延伸処理が施された樹脂フィルム層は、通常、層内の重合体分子が配向し、光学異方性を有することができる。よって、レターデーション等の光学特性を所望の範囲に調整することができる。
【0051】
B層の厚みに制限はなく、積層体の用途に応じて適宜選択し得るが、例えば、10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上であり、例えば、200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下である。B層の厚みが厚すぎる場合、レーザー加工による積層体の切断に時間がかかりすぎる可能性があるからであり、B層の厚みが薄すぎる場合は、積層体の基材層としての強度が不十分となる可能性があるからである。
【0052】
〔1.3.3.C層〕
C層は、B層のA層が設けられた面とは反対側の面側に設けられる層である。C層は、単層であってもよく、2層以上の多層体であってもよい。
【0053】
ここで、本実施形態に係る積層体は、B層のA層が設けられた面とは反対側の面側に、粘着層を備えることが好ましい。本発明者は、従来の積層体において、加工端部から離れた位置の熱影響(欠陥)が粘着層において特に生じやすいことを知見した。本実施形態に係る積層体は、加工端部から離れた位置における熱影響を抑制できることから、熱影響が生じやすい粘着層における欠陥を効果的に抑制しうる。また、B層に近い層ほど、熱影響が生じやすい傾向にあることから、本実施形態においては、C層が、粘着層を含むことが好ましく、B層と直接接する粘着層を有することがより好ましい。
【0054】
(粘着層)
粘着層は、その屈折率RCと、B層の屈折率RBとの差(RC-RB)が小さいことが好ましい。前記差(RC-RB)は、例えば-0.05以上、好ましくは-0.04以上、より好ましくは-0.03以上であり、例えば、0.05以下、好ましくは0.04以下、より好ましくは0.03以下である。粘着層の屈折率RCは、上述したRA及びRBの測定方法と同様としうる。また、粘着層の屈折率RCは、例えば、粘着層の材料を用いて測定用の粘着層を作製して測定しうる。測定用の粘着層の作製方法は、例えば、後述の実施例にて説明する方法を用いうる。
【0055】
粘着層の材料として用いうる粘着剤の例としては、ゴム系粘着剤;アクリル系粘着剤;ポリエステル系粘着剤;ポリウレタン系粘着剤;シリコーン系粘着剤などが挙げられる。中でも、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0056】
アクリル系粘着剤の例としては、アクリル重合体を含む組成物が挙げられる。アクリル重合体とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどの、アクリル単量体単位を含む重合体を意味する。
このようなアクリル重合体の例として、芳香環含有モノマー単位、水酸基含有モノマー単位、及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマー単位を含む、共重合体が挙げられる。
【0057】
芳香環含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ベンジルオキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸クレゾール、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸ノニルフェノール、及び(メタ)アクリル酸ビフェニルオキシエチルエステルが挙げられる。
【0058】
水酸基含有モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等の、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性モノマー;ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の、オキシアルキレン変性モノマー;2-アクリロイロキシエチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等の、1級水酸基含有モノマー;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の、2級水酸基含有モノマー;2,2-ジメチル-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の3級水酸基含有モノマーが挙げられる。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アクリル重合体は、さらに他の任意の単量体単位を含みうる。他の任意の単量体単位の例としては、スチレン単位;スチレン誘導体単位;ビニルエステル単位(例、酢酸ビニル)が挙げられる。
【0060】
また、ゴム系粘着剤の例としては、ゴムを含む組成物が挙げられる。ゴム系粘着剤に含まれうるゴムの例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブテン、イソブチレン・イソプレンゴムなどの、オレフィン系ゴム;及び、スチレンとオレフィンとの共重合体などの、スチレン系ゴムが挙げられる。ポリエステル系粘着剤の例としては、ジカルボン酸などのポリカルボン酸及びジオールなどのポリオールを原料とするポリエステルを含む組成物が挙げられる。ポリウレタン系粘着剤の例としては、ポリオール及びポリイソシアネートを原料とするポリウレタンを含む組成物が挙げられる。シリコーン系粘着剤の例としては、主骨格が結合エネルギーの高いSi-O結合からなるシロキサンを有する化合物を含む粘着剤が挙げられ、具体例としては、オルガノポリシロキサンを含有するシリコーン粘着剤、及び、アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンとアルケニル基を有しないジオルガノポリシロキサンとの混合物を含むシリコーン粘着剤が挙げられる。粘着剤としては、例えば、特開2021-93335号公報に記載の粘着剤を用いることができる。
【0061】
粘着層の厚みとしては、積層体の用途に応じて適宜選択しうるが、例えば、3μm以上50μm以下である。
【0062】
(他の層)
C層は、上述した粘着層のみを含む単層でありえるが、上述した粘着層と他の層との多層体でもありえる。他の層は、単層であってもよく、2層以上の多層体であってもよい。他の層としては、例えば、機能層やデバイス層を挙げることができる。
機能層としては、例えば、導電性フィルム層、反射防止フィルム層等の機能性フィルム層を挙げることができる。また、機能層としては、例えば、位相差フィルム層、直線偏光フィルム層、円偏光フィルム等の光学機能フィルム層を挙げることができる。また、デバイス層としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)層を挙げることができるが、これに限定されない。
【0063】
他の層が機能層やデバイス層である場合、前記他の層は、C層の全面に設けられていてもよく、C層の一部に設けられていてもよい。
【0064】
また、他の層としては、前記A層に用いうる剥離可能なフィルム層もありえる。
【0065】
〔1.3.4.任意の構成〕
本実施形態に係る積層体は、任意の構成として、C層のB層が設けられた面とは反対側の面側にD層を備えうる。D層は、通常、C層が他の層を含む場合、C層に含まれる他の層とは別の機能を有する他の層でありえる。本実施形態に係る積層体は、D層のC層が設けられた面とは反対側の面側に、さらにE層、F層等として他の層を備えうる。
【0066】
〔1.4.積層体についてのその他の事項〕
本実施形態に係る積層体は、少なくともA層、B層及びC層の3層以上の層構造を有する。積層体の構成層の数は、特に制限されず、積層体の種類及び構成層の数に応じて適宜選択されうるが、通常、3層以上でありえ、15層以下でありえる。構成層が多層体を含む場合は、厳密に、多層体に含まれる層の数と、多層体以外の積層体の構成層の数とを区別することが難しい場合があることから、多層体に含まれる層の数を、積層体の構成層の数として数えることとする。
【0067】
本実施形態に係る積層体は、長尺状であることが好ましい。
【0068】
本実施形態に係る積層体は、レーザー加工により切断した際に、加工端部から少し離れた位置における熱影響を抑制できる。積層体が抑制しうる熱影響の位置については積層体の層構成及び大きさ、レーザー加工による切断形状等に応じて変化するものではあるが、例えば、加工端部から幅方向に50μm以上500μm離れた位置における熱影響を抑制しうる。また、積層体が抑制しうる熱影響(欠陥)としては、例えば、構成層の変形、変色、気泡の発生、特性の低下等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る積層体の総厚みに制限はなく、積層体の構成に応じて適宜調整されうるが、例えば、100μm以上、好ましくは200μm以上、例えば、800μm以下、好ましくは500μm以下である。
【0070】
〔1.5.積層体の製造方法〕
上述した積層体の製造方法としては、特に制限されず、例えば、A層、B層、C層及び必要に応じて設けられるD層を構成するそれぞれのフィルム材料を準備し、A層、B層、C層及びD層がこの順で積層されるように貼合する方法、並びに、積層体の構成層の材料を含む組成物を調製し、塗工により構成層を形成する方法が挙げられる。
【0071】
〔2.切断体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る切断体の製造方法は、上述した積層体を、レーザー光で切断して切断体を得る、切断体の製造方法であって、積層体のA層側からレーザー光を入光して、積層体を切断する工程を含む。
【0072】
本発明によれば、上述した積層体を用いることにより、熱影響による欠陥が抑制された切断体を製造することができる。
【0073】
本実施形態に係る切断体の製造方法は、積層体のA層側からレーザー光を入光して積層体と切断する工程を含む。レーザー光としては、〔1.2.レーザー光〕の項目で記載したものを用いることが好ましい。
【0074】
レーザー加工のレーザー光以外の条件(例えば、レーザー光の出力、走査スピード、スキャン回数、及び周波数)については制限されず、積層体の層構成及び厚み、並びに切断体の大きさ等に応じて適宜選択しうる。例えば、レーザー光の出力が小さいほど、熱影響を小さくできる反面、積層体の厚みが厚い場合、スキャン回数が多くなる傾向にある。また、走査スピードが速いほど、熱影響を小さくできる反面、積層体の厚みが厚い場合、スキャン回数が多くなる傾向にある。また、周波数については、切断体に求められる仕上がり(品質)に応じて調整する必要がある。したがって、レーザー加工の条件については、通常、上述した事項を加味して適宜決定されうる。
【実施例0075】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧(23℃±2℃、1気圧)大気中にて行った。
【0076】
[評価方法]
(屈折率RA、屈折率RB、及び屈折率RCの測定及び屈折率差RA-RBの算出)
各実施例及び各比較例において、A層として用いられるフィルム、及びB層として用いられるフィルムの屈折率を、エリプソメータ(AXOMETRICS社製の「AxoScan」)を用いて測定した。測定位置は、フィルムの幅方向に平行な線上においてフィルム幅の10分の1の間隔で9点の測定点を決め、それらの平均を求めた。測定波長は、355nmとした。
また、測定した屈折率RA及び屈折率RBの値から、屈折率差RA-RBを算出した。
【0077】
また、実施例及び比較例において用いられたアクリル系粘着剤をガラス基板に塗工し、乾燥させて、厚み10μmの評価用の粘着層を作製し、前記の測定方法と同様にして、屈折率RCを求めた。
【0078】
(熱影響の評価)
各実施例及び各実施例で得られた積層体を、下記のレーザー加工条件により切断して、評価用の積層体Xを作製した。下記レーザー加工条件は、アブレーション加工の条件である。
【0079】
(レーザー加工条件)
レーザー発振器(片岡製作所製の「KLY-PSAV15β」)、波長:355nm、出力:10W、走査スピード:1000mm/sec、スキャン回数:10回、周波数:800kHz、パルス幅:10ps、レーザーの入光面:積層体のA層の表面
【0080】
作製した積層体Xの熱影響の有無は、デジタルマイクロスコープ(Keyence製の「VHX7000)を用いてサンプルを観察することにより行った。観察領域は、積層体Xの加工端部から幅方向に500μm中心側までの領域とした。積層体Xの加工端部から独立して離れた位置において、積層体Xの構成層の変色及び発泡の両方の欠陥が生じていない場合を、熱影響が「無し」と評価し、積層体Xの構成層の変色及び発泡の少なくとも一方の欠陥が生じている場合を熱影響が「有り」と評価した。
【0081】
熱影響の幅方向の発生位置は、図3に示すように、積層体X200の幅方向において、加工端部Eから最も離れた位置に発生した欠陥H22aについて、その欠陥H22aの中心部から加工端部までの幅方向の距離Wを測定することにより求めた。
熱影響の深さ方向の発生位置は、ミクロトーム(大和光機工業製の「RV-240」)を用いて、積層体X200の欠陥断面を作製し、図4に示すように、積層体X200のA層211及びB層212の界面(AB界面)から、前記の欠陥H22aの中心部までの距離Dを測定した。加工端部Eから最も離れた位置に複数の欠陥が発生している場合は、複数の欠陥のうち、最も深さの深いものの位置を、熱影響の深さ方向の発生位置とした。
【0082】
図3は、積層体Xにおける熱影響の幅方向の発生位置を模式的に示す平面図であり、図4は、積層体Xの熱影響の深さ方向の発生位置を模式的に示す断面図である。図4は、図3のX-X線断面図に相当する。図4においては、積層体X200が、A層211、B層212、C層213(粘着層213a、OLED213b、粘着層213c)、及びD層214がこの順に積層された層構造を有することを示している。また、積層体X200の表面S1及びS2のうち、表面S1がレーザー光の入光面に該当する。図示はしないが、実施例2及び比較例2の積層体Xは、A層及びB層の間に粘着層を備える構成である。
【0083】
[製造例1:C層(粘着層付きOLED)の製造]
有機エレクトロルミネッセンス照明デバイス(有機EL照明デバイス)(コニカ社製の「SymfosOLED-010K」)の視認側表面に備えられた拡散フィルムを取り除いた。拡散フィルムを取り除いた当該デバイス(OLED)の両面に、アクリル系粘着剤(綜研化学製の「SKダイン」)を用いて、それぞれ厚み20μmの粘着層(屈折率:1.49)を設けた。以上の手順により、粘着層、OLED及び粘着層を備えたC層を得た。C層の厚みは110μmであった。
【0084】
[製造例2:D層(偏光板)の製造]
(基材フィルムAの製造)
未延伸フィルム(日本ゼオン製の「ゼオノアフィルムZF12-023」)を準備し、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率2.0で延伸し、基材フィルムAを得た(縦一軸延伸)。基材フィルムAの厚みは13μm、面内方向の位相差は2nmであった。
【0085】
(偏光子材料フィルムの製造)
原反フィルムとして、未延伸ポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%、厚み20μm)を用いた。平均重合度及びケン化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定された値である。
【0086】
原反フィルムを、縦一軸延伸機を用いて、延伸温度130℃で長手方向に延伸倍率3.0で乾式延伸し、偏光子材料フィルムを得た。偏光子材料フィルムの厚みは12μm、Reは345nm、Nz係数は1.0であった。基材フィルムの延伸方向と偏光子材料フィルムの延伸方向とのなす角は0°であった。偏光子材料フィルムのReは、波長590nmで位相差測定装置(Axometric社製の「Axoscan」)を用いて測定した。また、前記位相差測定装置を用いてRthを測定し、Re及びRthに基づいてNz係数を求めた。
【0087】
(偏光板用の積層体Aの製造)
水100重量部、ポリビニルアルコール系接着剤(日本合成化学社の「Z-200」、)3重量部、及び架橋剤(日本合成化学社製の「SPM-01」)0.3重量部を混合して、接着剤組成物を得た。基材フィルムAの片面にコロナ処理を施して、その上にこの接着剤組成物を塗工し、偏光子材料フィルムの一方の面に貼り合わせた。この状態で、接着剤組成物を70℃において5分加熱乾燥させた。これにより、「偏光子材料フィルム」/「接着層」/「基材フィルムA」の層構造を有する積層体Aを得た。接着剤層の厚みは1μmであった。
【0088】
(偏光板の製造(湿式))
積層体Aを、ガイドロールを介して長手方向に連続搬送しながら、下記の操作を行った。
前記の積層体Aを、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色溶液に浸漬する染色処理と、染色処理後の積層体Aを延伸する第一延伸処理とを行った。次いで、第一延伸処理後の積層体Aを、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む65℃の酸性浴中で延伸する第二延伸処理を行った。第一延伸処理での延伸倍率と第二延伸処理での延伸倍率との積で表されるトータルの延伸倍率が2.0となるように設定した。第一延伸処理及び第二処理における延伸方向は、いずれも、長手方向とした。
第二延伸処理後の積層体Aを乾燥機中で、70℃で5分間乾燥した。乾燥した積層体Aの基材フィルムA側とは反対側に、前記接着剤組成物を塗工し、保護フィルムとしてPETフィルム(東洋紡製の「コスモシャインSRF」)を貼り合わせた。これにより、基材フィルムA(COPフィルム)、接着剤層、偏光子材料フィルム、接着剤層、及び保護フィルム(PETフィルム)がこの順で積層された偏光板(POL)を得た。得られた偏光板の厚みは135μmであった。
【0089】
[実施例1]
A層として厚み30μmのポリエチレン製の保護フィルム(東レフィルム加工製の「トレテック7332」)、B層として厚み50μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン製の「ゼオノアフィルム_ZF16-050」)、C層として製造例1で製造した粘着層付きOLED、及び、D層として製造例2で製造した偏光板を準備し、A層、B層、C層及びD層がこの順に積層されるように、各層を貼り合わせてレーザー加工用の積層体を得た。
C層及びD層は、C層の粘着層とD層の基材フィルムAとが貼り合わされるように配置した。
【0090】
[実施例2]
A層として厚み40μmのシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン製の「ゼオノアフィルム_ZF16-040」)を準備し、A層にアクリル系粘着剤(綜研化学製の「SKダイン」)を厚み10μmとなるように塗工して、B層と貼り合わせた点以外は、実施例1と同様にして、レーザー加工用の積層体を得た。
【0091】
[比較例1]
A層として厚み38μmのポリエチレンテレフタレート製の保護フィルム(サンエー化研製の「NSA33T」)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてレーザー加工用の積層体を得た。
【0092】
[比較例2]
A層として、ポリメチルメタアクリル樹脂(PMMA)(住友化学製の「スミペックス」)を押出法により厚み40μmのシート状に成形した成形体を準備し、A層にアクリル系粘着剤(綜研化学製の「SKダイン」)を厚み10μmとなるように塗工して、B層と貼り合わせた点以外は、実施例1と同様にして、レーザー加工用の積層体を得た。
【0093】
実施例及び比較例におけるレーザー加工用の積層体の層構成、及び熱影響の評価結果を表1に示す。表1中の略語は、以下の意味を示す。
「PE」:ポリエチレン製の保護フィルム(東レフィルム加工製の「トレテック7332」)
「COP」:シクロオレフィンポリマーフィルム(実施例2のA層における「COP」は、日本ゼオン製の「ゼオノアフィルム_ZF16-040」を示し、実施例1~2及び比較例1~2のB層における「COP」は、日本ゼオン製の「ゼオノアフィルム_ZF16-050」を示す。)
「PET」:ポリエチレンテレフタレート製の保護フィルム(サンエー化研製の「NSA33T」)
「PMMA」:ポリメチルメタアクリル樹脂(PMMA)(住友化学製の「スミペックス」)のシート状の成形体
「粘着層」:アクリル系粘着剤(綜研化学製の「SKダイン」)の層
「OLED」:有機EL照明デバイス(コニカ社製の「SymfosOLED-010K」)の視認側表面に備えられた拡散フィルムを取り除いたデバイス。
「POL」:製造例2により製造された偏光板。
【0094】
【表1】
【符号の説明】
【0095】
10、100 レーザー加工用の積層体
11 A層
12 B層
13 C層
111 a層
112 b層
113 c層
200 積層体X
211 A層
212 B層
213 C層
213a、213c 粘着層
213b OLED
214 D層(偏光板)
図1
図2
図3
図4