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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175551
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】刺繍システム
(51)【国際特許分類】
   D05C 11/24 20060101AFI20231205BHJP
   D05B 67/00 20060101ALI20231205BHJP
   B65H 71/00 20060101ALI20231205BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20231205BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20231205BHJP
   D06B 11/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
D05C11/24
D05B67/00
B65H71/00
D06P5/30
D06P5/00 Z
D06B11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088047
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 薫
【テーマコード(参考)】
3B150
3B154
4H157
【Fターム(参考)】
3B150CB04
3B150CE01
3B150CE23
3B150CE27
3B150FB00
3B150FC00
3B150NA53
3B154AB01
3B154BA09
3B154BB12
3B154BB33
3B154BB47
3B154BC07
3B154BC18
3B154DA13
4H157AA02
4H157DA01
4H157DA33
4H157GA06
(57)【要約】
【課題】刺繍により形成する図柄の輪郭部における陰影表現に優れた刺繍システムを提供する。
【解決手段】刺繍システムは、刺繍により布状媒体に形成する図柄の輪郭部に対応する、線状媒体の第1範囲を特定する範囲特定部と、線状媒体を用いた刺繍により図柄を形成するように線状媒体を染めると共に、第1範囲以外の範囲である第2範囲の色と比べて濃い色又は薄い色に第1範囲を染めるように、線状媒体に液体を吐出する液体吐出部と、液体が吐出された線状媒体を用いて、布状媒体に刺繍を行う刺繍部と、を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍により布状媒体に形成する図柄の輪郭部に対応する、線状媒体の第1範囲を特定する範囲特定部と、
前記線状媒体を用いた刺繍により前記図柄を形成するように前記線状媒体を染めると共に、前記第1範囲以外の範囲である第2範囲の色と比べて濃い色又は薄い色に前記第1範囲を染めるように、前記線状媒体に液体を吐出する液体吐出部と、
前記液体が吐出された前記線状媒体を用いて、前記布状媒体に刺繍を行う刺繍部と、
を有する刺繍システム。
【請求項2】
前記液体吐出部は、前記第1範囲の一部である第1部分範囲の色を、前記第2範囲と比べて濃い色に染めて、前記第1範囲のうち、前記第1部分範囲以外の第2部分範囲の色を、前記第2範囲と比べて薄い色に染めるように、前記線状媒体に前記液体を吐出する、
請求項1に記載の刺繍システム。
【請求項3】
前記第2範囲は、前記第1範囲に隣接する範囲である、
請求項1に記載の刺繍システム。
【請求項4】
前記刺繍部は、前記輪郭部を刺繍した後に前記輪郭部以外の範囲を刺繍する、又は前記輪郭部以外の範囲を刺繍した後に前記輪郭部を刺繍する、
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の刺繍システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糸等の線状媒体を用いて布状媒体に刺繍を行う前に、該線状媒体を染色(着色)するインライン型の刺繍システムが提案されている。
【0003】
刺繍システムにおいては、刺繍の立体感を得るために、インクジェット染色装置を用いて、各色指定数のインクジェット液滴を上糸に打ち込んで染色した後、刺繍針の針先に上糸を送出し、刺繍パターン情報に応じて自動刺繍する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、刺繍により形成する図柄において輪郭部の陰影を表現できないため、刺繍の立体感が得られない場合がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、刺繍により形成する図柄の輪郭部における陰影表現に優れた刺繍システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで上記課題を解決するため、刺繍システムは、刺繍により布状媒体に形成する図柄の輪郭部に対応する、線状媒体の第1範囲を特定する範囲特定部と、線状媒体を用いた刺繍により図柄を形成するように線状媒体を染めると共に、第1範囲以外の範囲である第2範囲の色と比べて濃い色又は薄い色に第1範囲を染めるように、線状媒体に液体を吐出する液体吐出部と、液体が吐出された線状媒体を用いて、布状媒体に刺繍を行う刺繍部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
刺繍により形成する図柄の輪郭部における陰影表現に優れた刺繍システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る刺繍システムの側面概略図である。
図2図2は、実施形態に係る染色部の下面概略図である。
図3図3は、実施形態における刺繍装置の概略ブロック図である。
図4図4は、布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図である。
図5図5は、実施形態に係る刺繍システムの概略ブロック図である。
図6図6は、実施形態に係る演算機構の機能ブロック図である。
図7図7は、実施形態に係る入力部により入力される画像データの一例を示した図である。
図8図8は、実施形態に係る刺繍システムによって、図柄の立体感を出すための染色の説明を示した図である。
図9図9は、図柄の輪郭部を示した図である。
図10図10は、実施形態に係る刺繍システムの全体的な処理を示したフローチャートである。
図11図11は、変形例に係る刺繍データによって示される、布に対する上糸の上面側の縫い目の拡大例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の刺繍システムを実施するための刺繍システムの実施形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
<全体構成>
まず、実施形態の刺繍システム100について説明する。図1は、実施形態に係る刺繍システム100の側面概略図である。本実施形態に係る刺繍システム100では、上糸糸巻31から巻きだされた上糸Nに搬送方向において変化する色を付与する染色装置3が、刺繍装置1の前段に設けられている。
【0011】
本実施形態では、上糸糸巻31は、搬送方向上流側の染色装置3内に設けられている。
【0012】
本実施形態に係る染色装置3は、上糸Nが巻回された上糸糸巻31と、染色部32と、定着部33と、後処理部34とを主に備えている。
【0013】
染色装置3において、上糸糸巻31から引き出された上糸Nは、ローラ351,352で案内され、染色部32を通って、刺繍装置1まで連続して這い回されている。
【0014】
染色部32は、上糸糸巻31から引き出されて搬送される上糸Nに所要の色の液体を吐出して付与する複数のヘッド321(321K~321Y)と、各ヘッド321のメンテナンスを行う複数の個別の維持ユニット322(322K~322Y)とを備えている。
【0015】
複数のヘッド321(321K、321C、321M、321Y)は、互いに異なる色を吐出する吐出ヘッドであり、上糸糸巻31から引き出されて搬送される上糸Nに所要の色の液体(染色液体)を吐出して、上糸Nに所定の色を付与する。例えば、ヘッド321Kは、ブラック(K)の液滴(インク)を吐出する。ヘッド321Cは、シアン(C)の液滴を吐出する。ヘッド321Mは、マゼンタ(M)の液滴を吐出する。ヘッド321Yは、イエロー(Y)の液滴を吐出する。
【0016】
なお、色の順番は一例であり、この説明とは異なる順番に配置されてもよい。また、本例では4色のヘッド321K~321Yが設けられる例を示しているが、本実施形態では、連続する上糸に対して搬送方向で変化する複数の色で染色すればよいため、少なくとも2色以上の複数の色に対応したヘッドを設ければ、ヘッドの個数はいくつであってもよい。なお、図示はしていないが、染色部32は、染色後の上糸をコーティングするための無色の液滴を吐出する吐出ヘッドを、最下流に含んでいてもよく、あるいは、染色前の上糸をコーティングするための無色の液滴を吐出する吐出ヘッドを、最上流に含んでいてもよい。
【0017】
また、維持ユニット322K~322Yは、各色のヘッド321K~321Yの下側に設けられており、維持回復動作として、不使用時のヘッドをキャッピングしたり、ヘッド321からの液滴の空吐出受けとなったり、空吐出受けをヘッドに近づけた状態でノズルの吸引循環動作を行ったり、ノズルのワイピング動作を行ったりする。
【0018】
なお、図1に示す染色装置3における染色部32は、ヘッド321からインクを吐出することで上糸Nを染色する液体吐出方式の構成例を示しているが、染色部32は、ローラ等で上糸Nを挟み込むことでインクを付与する塗布方式の染色部であってもよい。
【0019】
定着部33は、染色部32から吐出されたインクの、上糸Nに対する定着処理(乾燥処理)を行う。定着部33は、例えば赤外線照射手段、温風吹き付け手段などの加熱手段を備え、上糸Nを加熱して乾燥する。
【0020】
後処理部34は、例えば、上糸Nを清掃する清掃手段、上糸Nの表面に潤滑剤を付与する潤滑剤付与手段などを含む。
【0021】
なお、本実施形態に係る染色装置3では、少なくとも、上糸Nに色付きの液体を付与する染色部32が設けられていればよく、定着部33、後処理部34は、設けられていなくてもよい。
【0022】
さらに、染色装置3には、染色を制御する演算機構37も設けられている。演算機構37は、刺繍システム100の主制御部であって、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の情報処理装置(コンピュータ)で構成される。
【0023】
演算機構37は、刺繍装置1側の演算機構と電気的に接続されており、図柄が表された画像データに基づいて、図柄を刺繍するための刺繍データを生成し、刺繍装置1に刺繍データを送信すると共に、刺繍データに基づいて、上糸Nに対する色及び染色長さ情報を含む染色データを生成して、染色部32に出力する。そして、染色部32によって染色データに対応した色及び染色長さで上糸Nを染色させる。
【0024】
図1に示す刺繍装置1は、針11と、下糸回転体12と、ステージ13と、ステッチセンサ15と、使用量検知機構の上糸検知部16と、刺繍ボディ19を有している。
【0025】
針11は、針先先端の針穴に上糸Nが通されており、布Cに対して上下方向に移動駆動可能である。
【0026】
下糸回転体12は、下糸Bが巻回された下糸供給手段である下糸ボビン121と、フック122を有しており、下糸ボビン121及びフック122は、針11の移動に連動して回転する。図示はしていないが、下糸回転体12には、下糸ボビン121を収容する円筒状の中釜や、有底円筒上の外釜、フック122と一体化した円筒体のケースなども設けられている。なお、下糸ボビン121は、回転方向が縦方向の垂直回転方式(垂直全回転釜方式、垂直半回転釜方式)を用いることが考えられるが、回転方向が横方向の水平回転方式(水平釜方式)であってもよい。
【0027】
ステージ13は、布Cを保持する台であり、針11が通る穴130が形成されている。ステージ13は、布送りのために、X軸方向、Y軸方向に移動可能である。
【0028】
以降において、染色部32から、刺繍装置1までの糸の搬送方向をX軸方向、刺繍システム100の奥行き方向(糸の幅方向)をY軸方向、高さ方向(上下方向)をZ軸方向と呼ぶ。
【0029】
ステッチセンサ15は、針11の上下運動を検知するセンサであって、例えば針11を保持する針棒に設けられ、針11が何回昇降したか、即ち何針分進んだかに相当する、ステッチ数を検知する。
【0030】
消費量検知機構の上糸検知部16は、上糸糸巻31から巻き出されて染色装置3を介して通ってきた上糸Nの実際の消費量を検出するために、上糸Nの搬送速度又は搬送タイミングを検出する手段である。
【0031】
刺繍ボディ19は、図示しない刺繍ヘッドと、図示しない下部ボディとを有している。刺繍ヘッドには、図示しない演算機構が設けられており、上糸Nが通る針11の動き(運針)、及びステージ13の移動を制御することで、上糸Nと、上糸Nの送りに応じて送られる下糸Bを用いて、布Cに刺繍を行う。下部ボディは、刺繍ヘッドと連接され、ステージと下糸回転体を駆動する駆動部が設けられている。
【0032】
染色装置3において、上糸糸巻31から引き出された上糸Nは、ローラ351,352で案内され、刺繍ヘッドまで連続して這い回されている。
【0033】
図2は、実施形態の染色部32の下面概略図である。図2に示されるように、液体毎のヘッド321は、液滴を吐出する複数のノズル331を配列したノズル列332が形成されたノズル面333を有する。液体毎のヘッド321では、ノズル列332におけるノズル331の配列方向が上糸Nの搬送方向になるように配置される。
【0034】
なお、図2ではノズル面333にノズル列332が1つだけ記載されているが、ノズル面333にノズル列332が複数配置されていてもよい。また、ヘッド321は糸搬送方向(X軸方向)に対して垂直方向(Y軸方向)に動かすことで、ノズル面333のキャッピングや異なるノズル列332での着色動作が可能となる。
【0035】
なお、本実施形態では、刺繍システム100である一例について説明しているが、これに限るものではなく、糸などの線状媒体を使用する装置、例えば織機、ミシン等の装置にも適用することができる。
【0036】
また、「糸」とは、ガラス繊維糸、ウール糸、綿糸、合成糸、金属糸、ウール、綿、ポリマー、金属の混合糸、ヤーン、フィラメント、又は液体を付与可能な線状部材(連続基材)であり、組紐、平紐なども含む。
【0037】
また、本実施形態においては、液体によって染色可能な線状媒体として、上記の線状部材に加えて、ロープ、ケーブル、コード等の、液体を付与可能な帯状部材(連続基材)も含まれるが、いずれの線状媒体も、幅が狭く、搬送方向に連続している媒体である。
【0038】
<刺繍装置>
図3は、実施形態における刺繍装置1の概略ブロック図である。図3に示されるように、刺繍装置1は、駆動制御に係る部分として、刺繍データ編集機構140と、演算機構150と、駆動ドライバ160と、駆動モータ17と、針上下駆動部181と、下糸回転駆動部182と、X軸駆動部183と、Y軸駆動部184と、を有している。このうち、少なくとも、駆動ドライバ160と、駆動モータ17と、針上下駆動部181は、針11の上側の刺繍ヘッド191内に内蔵されている。また、刺繍データ編集機構140と、演算機構150も刺繍ヘッド191内に内蔵されていてもよい。一方、ステージ13を移動する駆動部183,184と、下糸回転駆動部182は、下部ボディ192に設けられている。
【0039】
刺繍データ編集機構140は、演算機構37から、刺繍データ(初期刺繍データ)を取得する。刺繍データの生成については後述する。さらに、刺繍データ編集機構140は、初期刺繍データ、又は演算機構150の制御により必要に応じて初期刺繍データから差し替えた修正刺繍データを、出力用の刺繍データとして、駆動ドライバ160に出力する。
【0040】
刺繍データとは、「針を移動する座標のデータと、その座標で実施する事項を組み合わせたデータ」である。その座標で実施する事項は、具体的には、
(1)針を布に刺して下糸とからめ、再び布の表に針を戻して、その後次に針を刺すべき位置に移動すること、
(2)刺繍を終了、中断する(他の針に切り替えること・刺繍が連続しない離れた場所へ移動するために糸を切断することを含む)こと、
(3)イニシャライズ位置(位置合わせ位置)に移動すること、
等が含まれる。また、刺繍データのファイルとしては「.dst」、「.pes」等の形式が一般に知られている。初期刺繍データは、最初に設定するデータであって、糸消費量に応じた編集前の刺繍データである。
【0041】
演算機構150は、初期刺繍データに基づいて上糸の想定消費量を算出するとともに、ステッチセンサ15等で検出した何針進んだかの進行状況と、糸消費量検知機構6で検出した実際の上糸Nの消費量を参照して、必要に応じてずれを補正する刺繍条件を設定して、刺繍データ編集機構140に出力する。
【0042】
駆動ドライバ160は、刺繍データに基づいて駆動モータ17を駆動制御する。
【0043】
針上下駆動部181は、所謂天秤と呼ばれ、駆動モータ17に連結する上軸の回転運動を上下運動に変換することで、上糸Nが通された針11の上下の移動を駆動する。
【0044】
下糸回転駆動部182は、上記上軸と、ベルト・カム・クランクを介して連結した下軸の回転運動によって、針11の上下運動と連動して、下糸回転体12を回転させる。
【0045】
X軸駆動部183と、Y軸駆動部184は、ステージ移動駆動部(布送り部)であって、下軸の回転運動によって、針11の上下運動及び下糸回転体12の回転と連動して、布Cが載置されたステージ13のX方向、Y方向の移動を駆動する。この際、布Cを送る方法として、ステージ13の全体を移動させてもよいし、あるいは、ステージ13に形成された穴130に設けられた送り歯を移動させてもよい。
【0046】
針上下駆動部181と、下糸回転駆動部182と、X軸駆動部183と、Y軸駆動部184は、1つの駆動モータ17によって連動して駆動される駆動機構18となる。そのため、駆動モータ17の回転により、針11の上下運動、下糸回転体12の回転運動、ステージ13上の布CのXY移動が発生する。例えば、針11の1回の上下運動は、下糸回転体12の、1又は整数回の回転運動と連動している。
【0047】
(上糸と下糸の張力)
図4は、布に対する上糸と下糸の上面側と下面側の縫い目の例を示す模式図である。図4において(a)は上面図であり、(b)は下面図である。
【0048】
刺繍装置1において、針11が降下して針11が布Cを貫通するとき、上糸Nも針11と共に布Cの裏側に引き込まれる。その後、針11が上昇して布Cから抜かれて布Cの表側に戻るときには、布Cとの間の摩擦力により、上糸Nは布Cの裏側にループを作って残る。このとき、下糸回転体12の回転によってループ状の上糸Nに、フック122が引っかかり、上糸Nのループの中に下糸Bが通る。さらに、針11が布Cの上方に上昇する際に、上糸Nと下糸Bとが交わった位置を、布Cまで引き上げることで、布C上に縫い目が形成される。
【0049】
このように形成した縫い目の一例を、図4に示す。図4は、上から下へ面を埋めるように模様縫い(サテンステッチ)で刺繍した縫い目の拡大図である。なお、裏面の図4(b)では糸の関係をわかりやすく説明するため、点線で囲んだ上糸Nと下糸Bとの引っ掛かり部分を緩く示しているが、実際は、引っ掛かり部分は上糸Nと下糸Bは接触して互いに引き合っている。
【0050】
<制御ブロック>
図5は、実施形態の刺繍システム100の概略ブロック図である。刺繍システム100は、図1に係る構成に加えて、ヘッドドライバ39を有している。
【0051】
ヘッドドライバ39は、演算機構37から出力された染色データを基に、設定された染色長さで糸を染色するように、ヘッド321K、321C、321M、321Yを駆動して、ノズルからインク滴を吐出させる。
【0052】
なお、刺繍装置1には、刺繍データに基づいて刺繍動作を実行するための刺繍側演算機構が設けられている。
【0053】
(演算機構)
ここで、演算機構37の詳細について、図6を用いて説明する。図6は、実施形態に係る演算機構37の機能ブロック図である。
【0054】
演算機構37は、入力部41と、刺繍データ生成部42と、範囲特定部43と、染色データ生成部44と、を有する。
【0055】
入力部41は、例えば外部機器との通信部であって、刺繍の図柄を表した画像データを入力処理する。なお、入力部41は、操作パネル等であってもよく、操作パネルの場合は、操作者の操作によって、刺繍の図柄を表した画像データが入力される。本実施形態に係る画像データは、布上の刺繍模様の図柄となる刺繍デザインデータである。
【0056】
図7は、実施形態に係る入力部41により入力される画像データの一例を示した図である。図7に示される例では、図柄901を表した画像データを入力した例とする。本実施形態に係る演算機構37は、例えば、図柄902で表されたボタンの立体感を出すように染色を行う。
【0057】
図8は、実施形態に係る刺繍システム100によって、図柄902の立体感を出すための染色の説明を示した図である。図8(a)においては、図柄902に設定された画像データの色に従って、領域902A及び領域902Bについて糸の色を異ならせている。当該色の違いは、ヘッド321K、321C、321M、321Yを制御することで実現している。
【0058】
演算機構37は、さらに、図8(b)に示されるように、輪郭部912A、912Bを、他の領域(領域902A及び領域902B)と比べて異なる色で染色する。
【0059】
具体的には、演算機構37は、輪郭部912Bを、領域902Aと比べて濃い色で染色する。さらに、演算機構37は、輪郭部912Aを、領域902Aと比べて淡い色で染色する。これにより、図柄902について立体感が出るような染色を行うことができる。次に、当該立体感を出すための構成について説明する。
【0060】
刺繍データ生成部42は、画像データを処理して、刺繍装置1で使用される刺繍データを生成する。刺繍データ生成部42は、画像データのうち、輪郭部以外の領域(以下、平面部と称する)を刺繍した後、輪郭部を刺繍するような刺繍データを生成する。なお、本実施形態では、輪郭部以外の領域(平面部)を刺繍した後、輪郭部を刺繍する例について説明するが、当該手法に制限するものではなく、輪郭部を刺繍した後に、輪郭部以外の領域(平面部)を刺繍してもよい。
【0061】
図9は、図柄902の輪郭部を示した図である。例えば、刺繍データ生成部42は、図柄902のうち、輪郭部1001以外の領域(平面部)を刺繍した後、輪郭部1001を刺繍するような刺繍データを生成する。
【0062】
範囲特定部43は、刺繍データに基づいて、画像データで示された図柄を糸による刺繍で形成する際に、刺繍により布(布状媒体の一例)に形成する図柄の輪郭部に対応する、糸の範囲(第1範囲)を特定する。これにより、範囲特定部43は、図9に示される図柄902のうち、輪郭部1001を刺繍するための用いられる糸の範囲を特定する。
【0063】
染色データ生成部44は、図柄を表すように染色するための、上糸Nの染色データを生成する。生成された染色データは、染色装置3で使用される。染色データ生成部44は、画像データで表された図柄を糸(線状媒体)による刺繍で形成するように、糸を染める染色データを生成する際、範囲特定部43で特定された範囲を、他の範囲と色を異ならせる。
【0064】
本実施形態に係る染色データ生成部44は、輪郭部に対応する範囲を、平面部の範囲と比べて、淡い色又は濃い色で染色するような染色データを生成する。さらには、輪郭部に対応する領域において、淡い色の領域と、濃い色の領域とを組み合わせてもよい。
【0065】
つまり、染色データ生成部44は、刺繍の輪郭部に対応する範囲の一部である、図8に示される輪郭部912Aに対応する第1部分範囲の色を、平面部の範囲(第2範囲の一例)と比べて淡い色で染めて、輪郭部に対応する範囲のうち、第1部分範囲以外の(換言すれば、輪郭部912Bに対応する)第2部分範囲を、平面部の範囲(第2範囲の一例)と比べて濃い色で染めるように染色データを生成する。つまり本実施形態においては、刺繍の輪郭部に対応する部分範囲を、平面部の範囲(第2範囲の一例)と比べて、淡い色と濃い色とを組み合わせて染めることで、輪郭部において光が当たっている部分と光が当たっていない部分とを表現することで、いっそう立体感を生じさせることができる。
【0066】
本実施形態に係る染色データ生成部44においては、図柄のうち、輪郭部以外の領域(平面部)と比べて、輪郭部に対応する範囲の色を濃い又は薄い色で染める染色データを生成することで、立体感を出すことができる。
【0067】
そして、染色装置3(液体吐出部の一例)は、染色データに従って、上糸糸巻31から巻き出されて搬送される糸(線状媒体の一例)に染色液体を吐出して、上糸Nに所定の色を付与する。つまり、染色装置3は、上糸Nを用いた刺繍により図柄を形成するように上糸Nを染める。その際に、染色装置3は、平面部の範囲(第2範囲の一例)の色と比べて濃い色又は薄い色で、図柄の輪郭部の範囲(第1範囲)を染めるように、上糸Nに液体を吐出する。
【0068】
具体的には、染色装置3は、輪郭部の範囲の一部である第1部分範囲(例えば、図8の輪郭部912Aに対応する上糸Nの範囲)の色を、平面部の範囲(第2範囲の一例)と比べて濃い色に染めて、輪郭部の範囲のうち、第1部分範囲以外の第2部分範囲(例えば、図8の輪郭部912Bに対応する上糸Nの範囲)の色を、平面部の範囲(第2範囲の一例)と比べて薄い色に染めるように、上糸Nに液体を吐出する。
【0069】
次に、刺繍システム100の全体的な処理について説明する。図10は、本実施形態に係る刺繍システム100の全体的な処理を示したフローチャートである。
【0070】
まず、入力部41が、画像データを入力処理する(S1101)。
【0071】
刺繍データ生成部42は、画像データを処理して、刺繍データを生成する(S1102)。本実施形態に係る刺繍データ生成部42は、画像データのうち、輪郭部以外の平面部を刺繍した後、輪郭部を刺繍するような刺繍データを生成する。
【0072】
範囲特定部43は、刺繍データに基づいて、画像データで示された図柄を刺繍で形成する際に、図柄の輪郭部に対応する、糸の範囲を特定する(S1103)。
【0073】
染色データ生成部44は、図柄の輪郭部に対応する範囲を、他の範囲と色を異ならせた上で、図柄を表すように染色する染色データを生成する(S1104)。
【0074】
刺繍システム100は、染色データに基づいて上糸Nの染色を開始し、染色された上糸N及び下糸Bを用いて刺繍データに基づいて刺繍動作を開始する(S1105)。これに伴い、刺繍に応じて上糸Nの搬送も開始される。
【0075】
そして、染色装置3は、染色データを用いて、平面部(輪郭部以外の領域)に対応する上糸Nを染色すると共に、刺繍装置1が、刺繍データを用いて、染色した後の上糸Nで平面部(輪郭部以外の領域)を刺繍する(S1106)。
【0076】
その後、染色装置3は、染色データを用いて、輪郭部に対応する上糸Nを染色すると共に、刺繍装置1が、刺繍データを用いて、染色した後の上糸Nで輪郭部を刺繍する(S1107)。
【0077】
そして、染色装置3は、染色データの終了と共に染色動作を終了し、刺繍装置1が、刺繍データの終了と共に刺繍動作を終了する(S1108)。
【0078】
図10に示される処理手順は、一例として示したものであって当該処理手順に制限するものではない。例えば、刺繍システム100は、輪郭部を刺繍した後に、平面部を刺繍するように、染色データ及び刺繍データを生成してもよい。この場合、S1105で示した処理と、S1106で示した処理と、が入れ替わる。また、本実施形態は当該手順以外の手順を用いて輪郭部及び平面部の刺繍を行ってもよい。
【0079】
本実施形態に係る刺繍システム100は、上述した処理を行うことで、立体感が生じている刺繍を行うことができる。
【0080】
本実施形態に係る刺繍システム100においては、上述した構成を備えることで、輪郭部の染色で、立体感が生じさせることができる。このため、従来、刺繍で立体感を出すために行われている、スティッチ密度を高くする刺繍、及び糸の上に糸を重ねる刺繍を抑制できる。つまり、本実施形態に係る刺繍システム100においては、作成時間の増加を抑制すると共に、布地への歪みを抑制できる。
【0081】
本実施形態に係る刺繍システム100においては、濃淡差が出るように染色することで、輪郭部と平面部と色味を変えて、立体感を出すことができる。つまり、本実施形態に係る刺繍システム100においては、刺繍により形成する図柄の輪郭部において、優れた陰影表現を実現することができる。
【0082】
本実施形態に係る刺繍システム100においては、上述した構成を備えることで、輪郭部と平面部と分けて、染色及び刺繍を行う例について説明した。当該処理を行うことで、効率的に輪郭部と平面部との領域の刺繍をすることができるので、刺繍ずれを予防できる。
【0083】
(変形例)
上述した実施形態は、輪郭部と、平面部(輪郭部以外の領域)と、を分けて刺繍するための刺繍データを用いる例について説明した。しかしながら、上述した実施形態は、輪郭部と平面部とを分けて刺繍する手法に制限するものではない。本変形例では、輪郭部と、平面部と、をまとめて刺繍する例について説明する。
【0084】
本変形例に係る刺繍データ生成部42は、画像データにおける平面部と輪郭部とをまとめて刺繍するような刺繍データを生成する。
【0085】
範囲特定部43は、刺繍データに基づいて、図柄の輪郭部に対応する、糸の範囲(第1範囲)を特定する。
【0086】
図11は、変形例に係る刺繍データによって示される、布Cに対する上糸Nの上面側の縫い目の拡大例を示した図である。図11で示される例では、説明のために、縫い目の間隔を広めに表しているが、実際の刺繍データにおける、縫い目の間隔はより狭く配置されている。
【0087】
範囲特定部43は、図11に示される上糸Nのうち、輪郭部に対応する範囲として、範囲1101A~1101D及び範囲1102A~1102Dを特定する。範囲特定部43は、範囲1101A~1101Dを、範囲1103(第2範囲の一例)と比べて淡い色で染色する範囲として特定し、範囲1102A~1102Dを、範囲1003(第2範囲の一例)と比べて濃い色で染色する範囲として特定する。
【0088】
そして、染色データ生成部44は、範囲特定部43により特定された輪郭部に対応する範囲を、他の範囲と色を異ならせた上で、図柄を表すように染色する染色データを生成する。
【0089】
その後、刺繍システム100は、刺繍に応じて糸の搬送を開始すると共に、染色データに基づいて糸を染色し、染色された糸を用いて刺繍データに基づいて刺繍動作を行う。この際に、刺繍システム100は、刺繍データに基づいて、輪郭部と共に平面部を刺繍する。
【0090】
本変形例では、輪郭部と共に平面部を刺繍する場合であっても、輪郭部を平面部と異なる色での染色することで、立体感を出すことができる。
【0091】
上述した実施形態及び変形例においては、刺繍システム100が、刺繍により形成する図柄の輪郭部において、上糸Nに対する染色で優れた陰影表現を実現することができる。そして、刺繍システム100では、上糸に対する染色で立体感を出すので、スティッチ数の増加又は重ね縫いを抑制できるので、布のひずみを低減して、刺繍の品質向上を実現できる。さらには刺繍時間の低減を実現できる。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0093】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
刺繍により布状媒体に形成する図柄の輪郭部に対応する、線状媒体の第1範囲を特定する範囲特定部と、
前記線状媒体を用いた刺繍により前記図柄を形成するように前記線状媒体を染めると共に、前記第1範囲以外の範囲である第2範囲の色と比べて濃い色又は薄い色に前記第1範囲を染めるように、前記線状媒体に液体を吐出する液体吐出部と、
前記液体が吐出された前記線状媒体を用いて、前記布状媒体に刺繍を行う刺繍部と、
を有する刺繍システム。
<2>
前記液体吐出部は、前記第1範囲の一部である第1部分範囲の色を、前記第2範囲と比べて濃い色に染めて、前記第1範囲のうち、前記第1部分範囲以外の第2部分範囲の色を、前記第2範囲と比べて薄い色に染めるように、前記線状媒体に液体を吐出する、
前記<1>に記載の刺繍システム。
<3>
前記第2範囲は、前記第1範囲に隣接する範囲である、
前記<1>又は<2>に記載の刺繍システム。
<4>
前記刺繍部は、前記輪郭部を刺繍した後に前記輪郭部以外の範囲を刺繍する、又は前記輪郭部以外の範囲を刺繍した後に前記輪郭部を刺繍する、
前記<1>乃至<3>のいずれか一つに記載の刺繍システム。
【符号の説明】
【0094】
100 刺繍システム
3 染色装置
1 刺繍装置
31 上糸糸巻
32 染色部
33 定着部
34 後処理部
37 演算機構
19 刺繍ボディ
321K、321C、321M、321Y ヘッド
322K、322C、322M、322Y 維持ユニット
39 ヘッドドライバ
41 入力部
42 刺繍データ生成部
43 範囲特定部
44 染色データ生成部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特開平06-299458号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11